中田喜直(なかた よしなお、1923-2000)

 惜しまれつつ世を去った中田氏は、万人に親しまれるメロディー・メーカーだった。合
唱曲作家としては、何よりピアノ科出身らしく、ピアノパートが充実している点が出色。
僕自身も、振り返ってみれば随分と中田作品のピアノパートを触ったことがあり、それは
とても楽しい経験となった。ピアノを弾かない人には音符数が多くて大変に見えるだろう
が、実は演奏効果があがる割には技術的に難しくないから、僕みたいなヘボだって楽しめ
る。ただ合唱人には、ピアノが入るという事実自体が許せないという人も多く、そういう
向きには無縁の作曲家だろう。ただし日本の合唱界では相変わらずピアノ付き合唱曲への
需要は高く、特にお母さんコーラスでその傾向は顕著で、今後も中田作品は歌い継がれる
だろう。
 「小さい秋みつけた」などの編曲物は別にして、本格的合唱曲は難しく書かれている。
時に無調を織り交ぜたりで、和声的に単純というわけでは決してない。いつも気持ちいい
かと思ったら大間違いだ。
 なお同じ声楽関係で、歌曲作家としても重要だから、興味がある向きには探索材料に事
欠かない。
 CDになった一般発売音源が、邦人作曲家としては多い方で、主要作品を聴くことはで
きる。

○海の構図(混声版)/根津弘指揮神戸中央合唱団、ピアノ:森本恵子
 混声合唱曲集「午後の庭園」佐藤陽三指揮松山市民合唱団、ピアノ:広川奈緒美
 都会/前田二生指揮四季の会、ピアノ:堀井和子(VICTOR,VICG-60143)81,89年
 いずれも新しめの録音で、音の状態は邦人合唱CDとしてはまともな方。「海の構図」
 と「都会」は特に演奏機会が多い作品。前者は演奏もとても良いと思う。よく聴くと音
 が怪しい箇所はあるが、曲の雰囲気の表現に長けている。なおビクターの旧シリーズで
 は、「午後の庭園」のかわりに「海の童話」(山本昇指揮高田木曜会合唱団)が収録さ
 れていた。
○海の構図(混声版)/福永陽一郎指揮合唱団京都エコー、ピアノ:三浦洋一
 都会/福永陽一郎指揮日本アカデミー合唱団、ピアノ:三浦洋一
 そよ風のなかの念仏(抜粋)、昇天/栗山文昭指揮合唱団OMP、ピアノ:田中瑤子
 (東芝,CZ28-9076)
 OMPの2曲は録音時期が比較的新しいライブ録音。「昇天」は中田作品中でも特に通
 (つう)向け。「海の構図」と「都会」を聴きたい人が以上2枚のうちどちらかを選ぶ
 なら迷うところで、カップリングの良さから東芝盤が優勢だが、三浦洋一氏のピアノの
 細部には耳をつぶらなければ。
○アビと漁師、午後の庭園/辻正行指揮東京放送合唱団、ピアノ:加納悟朗
 (KING,KICG523/4)72年
 終曲の「酸い甘い五月の風」がコンクールなどで単独で取り上げられることもあった組
 曲「アビと漁師」と、単発曲ではしばしば演奏される「午後の庭園」。一定水準に達し
 た好演。
○美しい訣れの朝、蝶/宍戸悟郎指揮札幌大谷短期大学輪声会、ピアノ:海江田尚子
 女声合唱曲集/北村協一指揮日本女声合唱団、ピアノ:安藤友侯
 (VICTOR,VICG-40198)75,81年
 中田氏の女声合唱曲としては二大名曲となる組曲を収録。いずれも数え切れないほど演
 奏されてきている。僕個人の感想としては、「美しい〜」のような余りにも生々しい歌
 詞を合唱するのは苦手であるが、逆にそれが好まれているのだろう。かつてはコンクー
 ル自由曲に格好の2曲だったが、ここ数年はさすがに演奏頻度が下がっている。「美し
 い〜」は81年、「蝶」は75年と時期が異なる録音。前者では合唱とピアノのピッチ差が
 気になる。女声合唱曲集の10曲はいずれもお馴染みで、そういえば僕も大半を伴奏した
 ことがある。古い演奏スタイルながら、それでも北村氏らしい語り口は悪くない。10曲
 の曲名を記しておく。やっぱり「霧と話した」は落とせない(別に合唱でやることもな
 く、歌曲としてとりあげてもいいのだが)。
 ぶらんこ、忘れなぐさ、青空の小径、夏の思い出、ねむの花、
 ちいさい秋みつけた、秋の日には、別れの歌、おかあさん、霧と話した
○三宅洋一郎指揮日本女声合唱団、ピアノ:三浦洋一(KING,KICG3096)
収録曲:女声合唱組曲「みえないものを」、女声合唱組曲「北の歌」、アダムとイブ、
 ある日、五月の朝のように、秋のうた、春のきた山、美しい季節
 「北の歌」はピアノパートを含め典型的な中田作品で、実演も良く目にしてきた。「み
 えないものを」は無調を織り交ぜる。録音データが不明だが恐らく60年代の録音で、サ
 ウンド状態は決してよくない。ただ、例えば「アダムとイブ」ではピアノともども立体
 的な音響(邦人合唱CDでは珍しい)。演奏により出来不出来の差がある三浦洋一氏の
 ピアノが良い状態にある。以前はこのコンビで「蝶」「美しい訣れの朝」も出ていた。
○福永陽一郎指揮中国短期大学フラウェンコール、ピアノ:三浦洋一(東芝,CZ28-9089)
収録曲:ねむの花、ぶらんこ、夏の思い出、夏河、青空の小径、雪のふるまちを、早春、
忘れなぐさ
 意外なくらいに良い演奏。温かみがあるし、音楽的にしっかりしている。服部公一、大
 中恩の合唱曲をカップリング。
○宍戸悟郎指揮札幌大谷短期大学輪声会、ピアノ:海江田尚子(VICTOR,VICG-60157)89年
収録曲:夕方のおかあさん、夏の思い出、霧と話した、雪の降る街を
 「女声合唱愛唱曲集」に収録。中田章作曲「早春賦」の喜直編曲版も聴ける。有名合唱
 団だから注文をつけておくと、発声や歌への情感の込め方はとてもよいのだから、細部
 の音程への気配りも忘れてほしくなかった。

 女声合唱曲の名曲を網羅するなら、そこまで手が回らなくて未聴だが、前田二生指揮東
京レディース・シンガーズの3組を押さえておかねばならない。盤の紹介のみ。この合唱
団なら信頼がおけそうだ。
○女声合唱曲集(全16曲)、美しい訣れの朝、間所ひさこの詩による四つの女声合唱曲集、
 こころの季節、天の弦(コロムビア,COCG-12066/7)
○小さな果樹園、蝶、早春賦、春の佛、ちいさい秋みつけた、おかあさん、霧と話した、
 別れの歌(コロムビア,COCG-13635)
○童謡歌曲集「ほしとたんぽぽ」より、中田喜直童謡曲集、7つのフランスの子供の歌、
 6つの子供の歌(コロムビア,COCG-14893)

 かつて発売された未聴音源で主な物を挙げておく。
○美しい訣れの朝、蝶/近藤安个、福永陽一郎指揮中国短期大学フラウェンコール
 (東芝,CZ28-9035)
○海の構図、都会、昇天/田中信昭指揮東京アカデミー混声合唱団、ピアノ:三浦洋一、
 喜田容子(KING,KICG-3013)
○組曲「おかあさん」、アダムとイブ、少年少女合唱曲集/
 田中信昭指揮ひばり児童合唱団他(KING.KICG-3008)

 セット物音源としては、Nコン課題曲「心の馬」がある程度。
○浅井敬壹指揮合唱団京都エコー、ピアノ:藤澤篤子
 「セット講座」第18巻に収録。

 目下のところCDが無い曲では、混声合唱のための大きな組曲「ダムサイト幻想」は中
田的語法満載の重要作だ。かつてはLPが出ていた(指揮は山田一雄氏)。田三郎氏の
項などで触れるが、オケ伴奏に編曲されたこともある。またそういえば、「海の構図」は
男声合唱版を聴いた記憶があるが、いくつかある男声合唱曲の音源も目にしない。



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