新実徳英(にいみ とくひで、1947-)

 この「快楽派宣言!」邦人編の前書きで述べたが、邦人合唱曲のCDは実は結構な量が
発売されているのに、少ないとよく言われる。その理由の一つに、例えばこの新実作品の
一般発売CDが、曲の量に比べて少ないこともあるかもしれない。つまり録音が無い事を
合唱人が淋しく思う、それくらい、新実氏は多くの合唱曲を書いており、またそれが愛好
されている。そういう作曲家の録音が少ないことが、邦人合唱曲は録音に恵まれないとい
う印象を増幅させているのではないか。新実氏に話を戻すと、三善晃という偉大な人物が
合唱曲を多く書いたおかげで、もう邦人合唱曲で他の作曲家がやれることは無いとまで極
論されることがあるが、そんな条件下で、新実氏は独自性の発揮に成功している。だいた
い合唱曲を書く作曲家は、処女作品で自分が合唱でやりたいことを詰め込み過ぎ、それは
成功しても後が続かないこともあるが、新実氏の場合は2曲の「ことばあそびうた」と、
あの「幼年連祷」の、女声・男声・混声それぞれでの成功後も、新しい路線を開拓してい
る。その結果、作品の傾向が幅広く、色々なタイプの合唱団が、それぞれに合った曲を発
見することができる。今後は、合唱以外の分野でも活躍が期待されるが、もう合唱曲を書
かないとしても(そんな事はきっと無かろうが)、既存の業績だけで合唱への貢献度の高
さは評価されてよい。

 合唱連盟の会報「HARMONY」1999年夏号における新実特集は、彼の作曲姿勢を知ること
ができ、作品目録を知るだけでなく、非常に有益。ライヴァル?といえる西村朗氏が対談
に加わっているのも面白い。そこで作曲者自身が、「白いうた 青いうた」のシリーズを
始めてからは、シリアスで独自の語法を追求する合唱曲か、「しろあお」か、どちらかを
やっていれば良いと考えていたと述べておられる。そこで以下では、余りにも乱暴な分類
であるが、【簡単】と【難解】の2群に合唱曲を大別して、各作品の音源などについてコ
メントすることとしたい。難しい、調性の無い合唱曲を聴くと気持ち悪くなったり、そこ
までいかなくても何も感じないという人は、無理に【難解】群に接する必要は無い。気持
ち悪くなってまで合唱をやることなんかない。でも、少しでも新しい響きのする音楽に興
味がある人は、新実作品は入門としてどんどん接するべきではないかと思う。これらはい
わゆる「前衛」とは一線を画しており、現代音楽としては聴きやすい部類に入ると思われ
るからだ。なお、初演後、演奏機会に恵まれない曲もあるようで、全ての曲を以下に網羅
するわけではない。作品一覧については、上述の「HARMONY」の特集などを参照するとよ
いが、98年の作品までしか記されていないので、その後の新作は別途フォローする必要が
ある。

【簡単】
 簡単、といっても技術的に非常に容易、というわけでもなく、普通の合唱曲っぽい、と
いう意味になる。しかし新実作品は、こちらの方がとりわけ人気がある。簡単なのに、何
かヒトヒネリあったり、歌いやすい割には演奏後の充実感はずっしりだったり、そういう
作品がたくさんあるのだから、たいしたものだ。

■ことばあそびうた1(1976)
 谷川俊太郎の詩の中でも、特に曲を付けたくなる言葉遊びに、なかなか効果的な音が割
り振られている。これは女声合唱団、ないし児童合唱団のための名曲として、数多く演奏
されてきている。一般発売音源だけでも数種あるので、歌唱が大人か子供かで選択すると
よいだろう。
○水谷俊二指揮名古屋少年少女合唱団、ピアノ:高橋寛樹(VICTOR,VICS-61018)99年
○福永陽一郎指揮大磯小学校合唱団、ピアノ:久邇之宜(東芝,CZ28-9086)83年
 以上2枚は児童合唱。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VDR-5090)83年
 こちらは大人の女声。このCD番号は現代発売のものとは違うが、荻久保「季節へのま
 なざし」の、これだけは無くして欲しくない旧音源とのカップリング。

 なお、僕としては、上記の音源に満足しているわけでは全くない。

■ことばあそびうた2(1977)
 こちらは男声合唱の名曲として、コンクールでは効果的な選曲として好まれていて、僕
もその場での名演を幾つか耳にしている。特に終曲「さる」の演奏効果は目覚しいし、男
声合唱団なら一度はチャレンジしてみたい。一般発売の全曲音源は2種。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VDR-5090)83年
○北村協一指揮同志社グリークラブ、ピアノ:久邇之宜(東芝,CZ28-9098)

■半分かけたおつきさま(1979)
 新実の児童合唱曲は、それほど無理しなくても歌えそうな作品が並んでいる。この組曲
が最初の児童向け合唱作品、ということになるようだ。

■おとぎの国から(1979)
 こちらの少年少女合唱とピアノのための合唱曲には一般発売音源がある。
○古橋富士雄指揮東京放送児童合唱団、ピアノ:斎木ユリ(VICTOR,VICS-61018)99年
 収録の演奏自体はどれもよいが、曲の解説が全く無いのが不親切な一枚。

■幼年連祷(1979/80)
 出世作。混声版以外は無い。特に第1曲「花」には感動を覚えた人が多いだろう。これ
も、一度は歌っておいて損はないのでは、と思えるピアノ伴奏付き合唱組曲だ。全5楽章
のうち偶数楽章の演奏が困難なのが、全曲を通すのを辛くしているが、何とか乗り越えた
い。
○関屋晋指揮松原混声合唱団、ピアノ:紅林こずえ(VICTOR,VICG-60144)2000年
 理想的なメンバーでの新録音。この演奏は、発声、発音、音程、その他演奏を構成する
 要素において、とても素晴らしい出来栄えだ(第5曲「喪失」はかなり危ないが)。例
 えば第1曲「花」のサンサシオンの爆発、ここでこれだけの安定感はさすがだし、第5
 曲の中間部も、普通だと走っちゃって音楽にならないのに全く慌てないところも良い。
 しかしここから先は、これは好みの問題かもしれないが、僕はこの演奏から、+αの何
 かを感じ取ることができない。そう感じるのが僕だけならよいのだが。なお紅林氏のピ
 アノで一言。第5曲の間奏で、僕が考えていたのと一オクターブ違う箇所があったのだ
 が、これは作曲者に確かめた結果なのだろうか。
○福永陽一郎指揮法政大学アカデミー合唱団、ピアノ:久邇之宜(東芝,CZ28-9078)
 特に上手い演奏、というわけではないが、それなりの聴後感があるのは、曲そのものの
 力と指揮者の力量かもしれない。

 名曲なので、もう一歩、抜き出た音源が欲しい気がしている。

■ふしぎなせかい(1980)
 児童二部合唱とピアノのための組曲。セット物音源があるようだ。
○宮下静江指揮東京荒川少年少女合唱隊、ピアノ:吉田慶子
 「セットジュニア」第6巻に収録。

■ぼく(1982)
 3群の児童合唱、パーカッション、コントラバス、ピアノによる作品で、演奏時間は25
分弱。題名でピンとくる方も多いだろうが、谷川俊太郎氏の詩によるもので、同じ詩によ
る三善の混声合唱曲は、演奏機会がかなり多い。こちらは東京放送児童合唱団の委嘱作だ
が、楽器編成のせいか、演奏機会に恵まれない。しかし一般発売音源はある。
○古橋富士雄指揮東京放送児童合唱団、ピアノ:斎木ユリ他(VICTOR,VICS-61116)2002年
 この合唱団の創立50周年の演奏会ライブ。3群のうちひとつは小さな子供たちを想定し
 て作曲されているが、この演奏でも最低年齢は小学校2年生。子供の声自体の魅力はあ
 る。300人を超えるメンバーが演奏しているが、ちょっと多すぎた感もなきにしもあら
 ず。

■光の幻想(1982)
 メルヘン風の雰囲気がある合唱曲では特筆しておきたい作品。僕はこれを、まえだ純の
世界を合唱化した作品集という企画で、FM放送で聴いたのだが、その際の日本合唱協会
の演奏には感動した。よく「心に訴える合唱」などというが、この頃の日唱には、聴き手
の心にストレートに響く日本語の歌唱があった。そのエアチェックテープを、僕は大切に
していたのだが、大掃除で間違って廃棄してしまったのだ、悔やまれる。あれこそ決定盤
と呼べる価値があった。かつては松原混声合唱団によるLPが出ていたし、僕は松原混声
の実演を聴いたこともある。ピアノは田中瑤子氏だった。もちろん悪い演奏ではなかった
が、日唱の名演を聴いた耳には、ただ歌っているだけ、音楽の表層を舐めているだけに感
じられた。「セット21世紀」第5巻に抜粋2曲が、東混の演奏で収録されているようだ。

■やさしい魚(1982)
 【簡単】群の中でも、特に愛好されてきた組曲。全5曲とも、技巧的にも演奏効果の点
でも、内容的にも手頃だからだろう。実際に演奏会のステージにかけられた頻度は、合唱
組曲としてはトップクラスであるに違いない。なのにあろうことか、現在は混声版の全曲
音源がない。かつては松原混声のLPがあったのだが。僕は5曲中、第1曲の「感傷的な
うた」を評価している。愛唱曲としては第4曲「鳥が」が有名。なおセット物音源で、合
唱団京都エコーが第1、5曲を録音したものがある。
 手許には男声版全曲盤がある。
○東海メール・クワィアーによる 男声合唱名作品集(GIOVANNI,GVCS10104/6)2000年
 自作自演が多く含まれる3枚組だが、作曲者指揮ではない。この盤では「因陀羅」が聴
 けるのが嬉しい。

■5つのメルヒェン(1984)
 一般発売音源は無いが、ピアノ伴奏がきれいなので、僕は少し気に入っている女声合唱
組曲。

■はらっぱのうた(1984)
 「ふしぎなせかい」などと同様に木島始氏の詩による児童合唱曲。これもセット物音源
があるようだ。
○北村協一指揮TOKYOFM少年合唱団、ピアノ:藤田雅
 「セットジュニア」第6巻に収録。

■花に寄せて(1985)
 「やさしい魚」に続いて、大ヒットした合唱組曲。混声、男声、女声、それぞれのバー
ジョンがある。出版後しばらくは、どの合唱団の定演のプログラムにもこの曲がある、と
いっても過言ではないくらい(さすがに過言だが、そういう印象を受けるくらい)、流行
した。何と言っても題材の星野富弘氏の詩画集が感動的で、それに作曲者が素直な音楽を
つけているのがよいのだろう。といって、演奏が容易というわけでもなく、それなりに骨
が折れる。特に終曲「ばら・きく・なずな −母に捧ぐ−」は、自分が演奏に加わって、
涙を流すなというのが無理な話だ。音楽に、というより詩の内容が泣けるわけだが。CD
が氾濫しているかと言えばこれもその逆、殆どないが、一般発売音源があるだけマシ。
○関屋晋指揮松原混声合唱団、ピアノ:土屋律子(東芝,TOCZ-9291)94年
 アマチュア合唱団に、これ以上何を望もう?という演奏。第2、6曲のようにテンポが
 速い曲は特に安定感があって良い。しかしこれまた「幼年〜」の同合唱団の録音と同じ
 で、何か泣けない演奏だ。こんな立派な演奏に対して文句つけるのもナニだが。

■のはらうた(1987)
 これも二部合唱による、単純な児童合唱組曲。全21曲から成るが、終曲を除いて2分未
満で終わってしまうような、ごく小曲を集めている。一般発売音源がある。
○榊原哲指揮ひばり児童合唱団、ピアノ:鈴木永子(VICTOR,VICS-61018)99年

■虹のうた(1988)
 Nコン中学の部の課題曲であったタイトル曲が明るくリズミカルだったので好評、それ
を中心に女声合唱組曲が編まれた。木島始氏の詩による。全曲はセット物音源のみ。
○古橋富士雄指揮東京放送児童合唱団、ピアノ:斎木ユリ
 「セット講座」第3巻に収録。

■海のディヴェルティメント(1989)
 これもどちらかといえばメルヘン的雰囲気が強い、ピアノ伴奏付き混声合唱組曲。意外
と演奏会やコンクールでとりあげられているから要チェック。
○岡山大学グリークラブ第49回定期演奏会(GIOVANNI,GVCS30301)2002年12月21日ライブ
 信長貴富「新しい歌」をメインとする、定演記録CD。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:中嶋香
 「セット講座」第3巻に収録。

■青春のネガティヴ(1989)
 片岡輝氏の詩による、若い人たちのためのピアノ伴奏付き混声合唱組曲。全5曲から選
んで単独でコンクールにかけられるのをたまに見る。手許に終曲「反語」の音源がある。
○平松剛一指揮平松混声合唱団(FONTEC,FPCD1821)

■西風のうた(1990)
 西南女学院高校の委嘱作品で、セット物音源があるから曲名だけは挙げておく。
○前田二生指揮東京レディース・シンガーズ、ピアノ:東由輝子
 「セット21世紀」第5巻に収録

■こ・き・り・こ(1990)
 富山県合唱連盟の委嘱作品。松原混声合唱団の93年定演で聴いたことがあるが、とても
素晴らしい演奏だった。悪い曲ではないのだが、余り演奏されない。とりあえずこちらに
分類したが、演奏技巧的にはそれほど簡単でもない。

■白いうた 青いうた 〜十代のための二部合唱曲集〜(1991-96)
 気がつけば新実氏の代表的業績になってしまっている曲集。詩人、谷川雁氏との共同作
業による53曲から成る曲集で、100曲を目指したそうだが詩人の死によって中断されてし
まった。普通の声楽曲は先に詩があるが、ここでは旋律から言葉が生まれ、作曲者はそれ
をもとに主旋律に対旋律と楽器パートを付加、という作曲手順。ここには作曲者の、ここ
で【簡単】分野としている音楽のエッセンスが凝縮されている。つまりまず、誰もが親し
みやすく美しい旋律。そして単純な二部合唱なのに、どこかヒネリが利いて演奏者たちを
退屈させることがない。そして作曲者は、このオリジナルの二部合唱をネタに、混声、女
声、男声合唱用に続々と編曲している(それがまた出版に結びつく)。これは合唱祭や、
イベント的合唱団には格好のレパだ。合唱のみならず、独唱用編曲もあり、日本人歌手に
よる録音も複数出ている。僕は未聴だが、最近、バイオリン独奏版のCDも発売された。
まあ人気も頷ける。

 まずオリジナル版による全53曲を聴くことにしよう。
○オリジナル版全曲集1〜3(VICTOR,VICS-61101,61102,61103国内盤、分売)2002年
指揮:栗山文昭・前田美子・榊原哲
うた:宇都宮室内合唱団ジンガメル
   うつのみやレディシンガーズ晶<AKIRA>
   むさし野ジュニア合唱団「風」
   船橋さざんか少年少女合唱団
   矢板市立片岡小学校音楽部
   宇都宮市立鬼怒中学校合唱部
   宇都宮市立横川中学校合唱部
   栃木県立大田原高等学校音楽部合唱班
ピアノ:斎木ユリ・佐竹賀代
 むさし野、船橋の2合唱団が担当する曲を除くと、栃木県の合唱団が世代を超えて協力
 しており、本来この曲集があるべき姿で録音されたものと言える。3枚も買えないよと
 いう方には、「北極星の子守歌」が入っている第2集をお薦めしたい。

 合唱編曲版も、一般発売音源がぼつぼつとあるので、ここでまとめておく。
○北極星の子守歌/山田和樹指揮東京混声合唱団(FONTEC,EFCD4110)2006年
 無伴奏混声合唱のために編曲された曲集。東混の歌唱は安定している。
○南海譜、火の山の子守歌、はたおりむし/栗山文昭指揮合唱団るふらん、
 ピアノ:浅井道子(VICTOR,VICS-61091)2002年
 「栗山文昭の芸術1」というタイトルのアルバム。声質や音程の取り方、バランスなど
 で不満がないわけではないが、まずは安心の推薦盤。録音場所が2箇所に分かれている
 が、微妙な差が感じられるのが興味深い。
○ねむの木震ふ、ぼくは雲雀、南海譜、火の山の子守歌/作曲者指揮フォーラム21少年少
女合唱団、ピアノ:吉田雅博(CAMERATA,28CM-527)95,99,00年ライブ
 いずれも女声合唱とピアノ。「ねむの木〜」のみフルートが入る。また、「南海譜」と
 「火の山の〜」については、共に全8曲のうち4曲づつを抜粋。作曲者は解説で、この
 合唱団に惚れたのは上手いからではなく、その志に、と述べているが、それが確かにあ
 てはまる一枚。
○壁きえた/岩佐義彦指揮東京リーダーターフェル1925(DENON,COCG13356)96年
 無伴奏男声合唱。全8曲。
○あしたうまれる/清水敬一指揮甍(EYEBRIGHT,EBCD-0056)2000年
 無伴奏男声合唱。全8曲。定期演奏会の記録CD。
○火の山の子守歌/前田二生指揮東京レディース・シンガーズ、ピアノ:東由輝子
 これはセット物で、「セット21世紀」第5巻に収録。この演奏家だから注目音源。
○東海メール・クワィアーによる 男声合唱名作品集(GIOVANNI,GVCS10104/6)2000年
 作曲家自作自演シリーズ演奏会から、と銘打った3枚組。われもこう、小さな法螺の2
 曲の小曲の、作曲者指揮音源。
○伊東恵司指揮なにわコラリアーズ(Giovanni,GVCS10203)98〜2001年ライブ
 これも男声合唱用編曲で、就職、ぶどうとかたばみ、壁きえた、北極星の子守歌、南海
 譜、あしたうまれる、卒業の7曲。録音時期が4年間にまたがる。気合は伝わる演奏。

■空に、樹に・・・(1995)
 Nコン課題曲で90年代の大当たりの一つが、「聞こえる」だったのではないだろうか。
それを核にする曲集がこれ。僕自身は「聞こえる」について、巷の人気が理解できるほど
好きではないのだが、今でも頻繁に歌われている事実は間違いないから、これはおさえて
おきたい。といっても全曲の音源はセット物しかない。
○関屋晋指揮松原混声合唱団、ピアノ:藤田晶
 「セット講座」第3巻に収録。

 目下のところ一般発売音源がない、95年以降の新作では、立原道造の詩による「三つの
優しき歌」(1998)が、3曲それぞれ異なる作風で書かれているが、これまでの新実氏の簡
単路線での作曲語法の集大成的なところがあって面白い。
 この後も、新実氏の合唱曲は増え続けており、それらの音源は今後の課題になろうが、
手許には少しだけ。
○本城正博指揮松下中央合唱団、ピアノ:熊谷啓子(GIOVANNI,GVCS30407)2000年ライブ
 混声合唱とピアノのための「音楽のとき−6つのワルツ」(2000年)の初演ライブ。楽し
 く歌い上げられることを主眼にしたワルツ。
○北野良徳指揮多治見西高校合唱部、合唱団ますらめ(GIOVANNI,GVCS30605)2006年
 女声合唱とピアノのための「よかし・よかうた」。新実氏の新しい作品としては、コン
 クールや演奏会で好んでとりあげられているようだ。九州の民謡が素材なので親しみや
 すさもあり、技術的・内容的には下記の【難解】に分類しても差し支えないほど高度な
 点が人気の秘密だろう。
○清水敬一指揮松原混声合唱団(演奏会記録)2007年ライヴ
 無伴奏混声合唱のための「死者の贈り物 −関屋晋の思い出のために−」。委嘱初演時
 のライヴで、同合唱団の第18回演奏会記録。長田弘氏の詩による5曲の組曲は、意外な
 ほど平易。特に第5曲「イツカ、向コウデ」は愛唱されるのではないだろうか。同じ合
 唱団の第19回演奏会でも第4・5曲をアンコールで演奏している。
○栗山文昭指揮女声合唱団青い鳥(NAR,NARC-2055/6)2009年ライヴ
 女声合唱とピアノのための「六つの小唄」。ろくもんめコンサートのライヴ録音。 

 また上記の他、児童合唱のための小曲について、セット物音源が少しあるようなので、
それは最後に存在情報を整理した。


【難解】
 新実氏のすさまじい人気はどちらかといえば【簡単】作品群によるもので、こちらの作
品群は、合唱マニアを自認する人だけのものかもしれない。世界一のレヴェルに達した日
本のアマチュア合唱人を満足させるには、これらの作品も必要なのだ。なお、こうして一
くくりにしてしまったが、演奏技巧的に難しいが内容的には従来の合唱音楽の延長線上に
ある、例えば「祈りの虹」や「海の記憶」あたりと、「をとこ・をんな」以降の、作曲者
の言葉を借りればヘテロフォニー的、或いはアンラサージュ的な音楽とは、全く違う系譜
と理解したい。

■アンラサージュ1(1977)
 現代音楽作家としての新実氏の名声を確立した作品の一つであり、今日の作風の源流と
なっている。バレエ音楽として作曲された管弦楽曲で、ヴォカリーズの混声合唱が入る。
アンラサージュとはフランス語で、「纏わりつく」という意味。この題名のシリーズ作で
第4作が4群32声の無伴奏女声合唱のための作品。手許にコンクール音源がある。
○森正指揮東京フィル、東混(FONTEC,FOCD2513)83年
 合唱は入らないが「創造神の眼 ピアノ協奏曲2」と「ヘテロリズミクス」の2曲の管
 弦楽曲も聴けるので、作曲家を理解するのに好適な一枚。僕には、アンラサージュで登
 場する合唱に比べて、器楽だけの部分が何となく不満が残る。声が一番、色彩感という
 か表現力があるような。「アンラサージュ」は冒頭で一撃喰らわされるので、CDの再
 生にはご注意を。
○辻正行指揮コーロ・ネスポラ(BRAIN,BOCD-9104)90年ライヴ
 「アンラサージュ4」のコンクール音源。

■悼歌(1980)
 谷川俊太郎氏の詩集「タラマイカ偽書残」から選んだ3篇の詩による、ピアノと混声合
唱のための作品。作曲者の言葉によれば、無宗教者のためのミサ曲だという。田中信昭指
揮東混、ピアノは田中瑤子というメンバーで聴いたことがある。その後の合唱曲の系譜に
繋がる点もかなりあるように思うので、マニアなら知っておいて損はないかも。

■マドリガル2(1981)
 新実氏が、アマチュア合唱団のためのハードなレパ(と意識して)を書き始めたのは、
このあたりが最初ではないかと思う。確かにこれは、技巧的に大変に難しいエチュード。
僕は松原混声合唱団の演奏会記録を聴いたことがあるが、この合唱団は、このように技術
的にチャレンジングな作品(それも、豊かな声を要求する作品ならなお)では、信じられ
ないくらい優れた演奏をする。しかしこの曲も、21世紀になった今となっては、特に難解
な作品でもなくなった。演奏機会はそれほど多くない。

■祈り(1982)
 ごくたまに男声合唱団のプログラムに含まれているのを見る。あっという間に終わる。
手許にコンクール音源がある。
○崇徳高校(BRAIN,BOCD-5002)84年

■祈りの虹(1984)
 広島原爆を題材としており、演奏機会は多い方に属する。男声版の楽譜が21世紀に入っ
て出版されたりという過程も、息の長い人気の象徴。混声版には普通の版と、二群の混声
合唱のための版もある。この作品を名曲と定義している合唱人も多いと思われるが、口で
はうまくいえないが、同様の題材による作品たちに比べ、僕には何かが足りないように感
じられる。整然とし過ぎているのかもしれない。なおピアノパートを学生時代に弾いたこ
とがあって、ピアニストにはとても楽しい。メシアンを真似過ぎている気がするが。
○畑中良輔指揮慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団、ピアノ:谷池重袖子
 (VICTOR,VICG-60144)95年ライブ
 男声版。この頃のワグネルは、まだまだ高水準を維持していたことがわかる。生演奏は
 もっとよかったんだろうと想像させる。ピアニストが時折、不思議な解釈をみせる。
○水谷昌平指揮南山大学メールクワイヤー、ピアノ:高橋寛樹(VICTOR,VDR5221)84年
 こちらはビクターの旧シリーズにあった。下の「失われた〜」とカップリング。
○畑中良輔指揮日本合唱協会、ピアノ:生田美子(FONTEC,FOCD3473)2000年ライヴ
 普通の混声版。演奏にやや苦戦の感がある。日本の合唱曲史を振り返る、貴重な企画演
 奏会のライヴ録音。

■失われた時への挽歌(1984)
 新実作品として僕が特に好きなものの一つ。女声合唱の名曲と呼んで差し支えないので
はないだろうか。最近はそれほどでもないが、一時期はコンクールの自由曲としても重宝
されていた。尤も、いつも触れたい類いの作品ではない、疲れるから。音源は、コンクー
ル全国大会で上位入賞した演奏を集めるのが良いと思う。コンクールならではの集中力が
この作品に合っているからだ。一般発売では以下があった。
○水谷昌平指揮フラウエンコーア東海、ピアノ:高橋寛樹(VICTOR,VDR5221)84年

■海の記憶(1985)
 これも僕が特に好きな新実作品の一つ。といっても合唱が、というよりピアノパートに
惚れているだけかもしれないが。何が特に好き、ということを上手く説明できないが、確
かに太古の原初的な生命感を表現するのに成功しているということか。第2曲「五月」と
第4曲「最後の象」のピアノを、大合唱団を相手に思いっきり弾いてみたいという願望を
持ちつづけているが、果たせていない。作曲者の指揮、松原混声合唱団の実演を見たこと
もあるが、凄い演奏だった。合唱団OMPの初演を生で聴きたかったなあ。しかしこの佳
曲、なぜ一般発売音源がないのだろう?

■交響曲第2番(1986)
 「子どもの王国」「宇宙の祭礼」の2つの部分から成る、約35分の交響曲で、混声合唱
が入る。聴けば明らかに新実作品とわかる。もうちょっと短ければよいのに。
○尾高忠明指揮大阪フィル、合唱団京都エコー(CAMERATA,30CM-79-82)86年
 少なくとも合唱団は、十分に立派。

■をとこ・をんな(1988)
 この作品が一つの転機となって、その後の新実氏は、似たような題名の、語法追求群と
名づけてよいような、一連の作品を生み出して今日に至る。女声合唱と三絃、コントラバ
スという変わった編成。初演をラジオで聴いた時には「難しくてよくわかんないなぁ」と
いうのが僕の感想だったが、下の盤を聴いて大いに見直した。
○前田二生指揮東京レディースシンガーズ 、三絃:西潟昭子、コントラバス:永島義男
 (VICTOR,VICG-60146)98年
 邦人合唱CDの中で屈指の名盤ではないかと思う。目下のところ、録音向きの演奏とい
 う点では日本一ではないかと思われるこの合唱団が本領を発揮。【難解】群の作品は常
 にこれくらいのレヴェルの演奏で聴きたいが、なかなかそうはいかない。「魂の樹」と
 「光の樹」とのカップリング。

■子供の十字軍(1988)
 青島広志氏との共作で、青島氏の項を参照のこと。

■常世から(1990)
 混声合唱とピアノ連弾のための作品で「南の島(パイヌスマ)」と「樹の国」の2曲か
ら成る。「をとこ・おんな」が一つの転換点と述べたが、混声ではこれあたりが重要。
○藤井宏樹指揮山梨大学合唱団、ピアノ:服部真由子・中川裕勝
(VICTOR,VICG-60144)98年
 学生合唱団としてこのハイレヴェルは驚異的。作曲者も解説中で賛辞を寄せているが、
 僕の正直な感想としては、本当にこれで満足すべきなのかという感じ。底が浅い。ピア
 ノのサウンドはとてもきれいに録音されていると思う。なお演奏に関係ないネタだが、
 山梨大学合唱団のかわりに、同じ県の女声合唱団Juriの写真が載っている誤りあり。

■因陀羅(1990)
 男声合唱とピアノのための作品で、瞑想・祭礼の二つの部分から成る。
○東海メール・クワィアーによる 男声合唱名作品集(GIOVANNI,GVCS10104/6)2000年
 作曲家自作自演シリーズ演奏会から、と銘打った3枚組で、これも指揮は作曲者自身。
 何しろ演奏が難しい作品だから、これくらい聴きごたえのある演奏でCD化されたのは
 喜ばしい。

■風の囁き(1993)
 この作品までの間にも、同じような題名の作品(実際にはかなり違うのだが、記憶する
のが大変)が幾つか作曲されているが、余り演奏機会を耳にしない。出版譜もある「風の
雅歌」(1993)がそれでも反復演奏されている。女声合唱ではこの「風の囁き」が良い。コ
ンクール音源はあるけれども、これも一般発売音源が欲しいところだ。

■魂の舟 −葬送の音楽−(1995)
 宮沢賢治、谷川雁両氏の詩による、ピアノと混声合唱のための作品。合唱団OMPの初
演記録を録音で聴いたことがある。出版楽譜もあるから、腕に覚えのある合唱団はチャレ
ンジされてはどうだろうか。

■魂の樹(1995)
■光の樹(1997)
 この2曲の無伴奏女声合唱曲は対になることを意図して作曲されている。「をとこ・を
んな」で述べた名演奏があるから、好音源には不自由しない。
○前田二生指揮東京レディースシンガーズ (VICTOR,VICG-60146)97年

 この後しばらくの作品は、不勉強で殆ど耳にしていない。千葉大学が初演した「スピリ
チュアル・フィールド」(1996)が良いという評判を聞く。

■グーラ −青い鳩の宴−(2000)
 新潟の合唱のイヴェント「弥彦」へ向かう車中で感じた音の衝動がきっかけとなった無
伴奏混声合唱曲で、東混委嘱初演作品。グーラとは、パプアニューギニア青い鳩。声のヘ
テロフォニーとそのリズム法に関する試み。僕は東混初演を聴いたが、とてもアマチュア
合唱団の演奏会ネタにはならないのが東混委嘱作の常なのに、もしかしたらこれなら手が
届くかもしれないというものだった。何となくユーモラスな味があるのもいい。作曲者に
よれば、この後にアマチュア合唱団のために書いた作品は「グーラ」より難しくなってし
まったということだし。

■日本が見えない(2002)
■骨のうたう(2002)
 三重県生まれで1945年、23歳でルソン島で戦死した竹内浩三氏の死による2つの無伴奏
合唱曲で、「日本が見えない」は男声で初演は東京六大学合唱連盟、「骨のうたう」は混
声で栗山文昭指揮合唱団響が委嘱・初演。
○清水敬一指揮松原混声合唱団(BRAIN,OSBR22001,2)2005年ライヴ
 「骨のうたう」のみ。「私が歌う理由」というタイトルを付した演奏会で、邦人合唱曲
 の評価が定まった名曲と並べて清水敬一氏がとりあげたことからも、曲の内容の重さが
 わかる。男声の質の高さは、さすが松原混声である。
○清水敬一指揮松原混声合唱団(演奏会記録)2007年ライヴ
 第18回演奏会ライヴ録音。上記と同じ演奏家。

■合唱協奏曲「ビオス」(2007)
 東京合唱団委嘱初演。2群の合唱による無伴奏混声合唱曲。聴き応えのある難曲
○清水敬一、指揮松原混声合唱団(BRAIN,OSBR26007-8)2008年ライヴ
 第19回演奏会ライヴ録音。マルタン、武満徹、若林千春作品をカップリング。

■二つのギリシャ抒情(2008)
 無伴奏女声合唱のために書かれた。
○栗山文昭指揮女声合唱団青い鳥(NAR,NARC-2055/6)2009年ライヴ
 ろくもんめコンサートのライヴ録音。 

 以上の再掲が殆どになるが、セット物音源を整理しておく。
○やわらかいいのち(混声、女声)/田中信昭指揮東混、ピアノ:中嶋香
 西風のうた、火の山の子守歌(全8曲)/前田二生指揮東京レディース・シンガーズ、
 ピアノ:東由輝子
 停電小僧、コンペイトウの星空(混三)/樋本英一指揮東混、ピアノ:石井美紀
 「セット21世紀」第5巻。最初の「やわらかいいのち」は、思春期心身症と呼ばれる少
 年少女たちに、という副題付き。
○海のディヴェルティメント/田中信昭指揮東混、ピアノ:中嶋香
 虹のうた/古橋富士雄指揮東京放送児童合唱団、ピアノ:斎木ユリ
 空に、樹に/関屋晋指揮松原混声合唱団、ピアノ:藤田晶
 「セット講座」第3巻。
○感傷的な唄、やさしい魚(混三)/浅井敬壹指揮合唱団京都エコー、ピアノ:藤澤篤子
 「セット講座」第15巻に収録。
○壁きえた、北極星の子守歌/志水隆指揮杉並児童合唱団、男声合唱団マーシャル555
 一枚の地図/山田靖了指揮一関第一高等合唱合唱部
 「セット講座」第17巻(クラス合唱曲集)に収録。
○スカラカポン/古橋富士雄指揮東京放送児童合唱団、ピアノ:斎木ユリ
 白いうた 青いうたより5曲/榊原哲指揮ひばり児童合唱団、ピアノ:鈴木永子
 ふしぎなせかい/宮下静江指揮東京荒川少年少女合唱隊、ピアノ:吉田慶子
 はらっぱのうた/北村協一指揮TOKYOFM少年合唱団、ピアノ:藤田雅
 「セットジュニア」第6巻。最初の「スカラカポン」は当セットのための委嘱新曲。
○かんからちんのおうま、南からの人々/榊原哲指揮ひばり児童合唱団,ピアノ:鈴木永子
 「セットジュニア」第16巻に収録の小曲。
○ふーむの歌/小川俊彦指揮松山少年少女合唱団、ピアノ:阪本佳子
 「セットジュニア」第18巻に収録の小曲。

 新実氏の項はこれで終わるが、インタビュー記事などによれば、彼はオペラを書きたい
のだそうだ。何でも「カルメン」と「ボエーム」がお好きなのだそうで、まさかとは思う
がその路線を継承し、超通俗的な作品が出来上がってきたりしてなどと想像してしまうの
だが、どうなるんだろう、新実氏のオペラは?



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