信長貴富(のぶなが たかとみ、1971-)
話題の若手作曲家の一人。当初は別に職業をもつ、いわゆる日曜作曲家だったが、現在
は前職を離れて、音楽活動に専念しておられるらしい(季刊「HARMONY2000年」春
号を参照)。朝日作曲賞の常連で、その作品は合唱コンクールの課題曲になり、ついには
出版作もどんどん増えてきている。
出版作で、特によく演奏会のプログラムで見かけるのは、唱歌の無伴奏合唱のための編
曲集「ノスタルジア」。自身が熱心な合唱演奏家で、歌い手が喜ぶツボのようなものを心
得ている強みがあるのだろう。もとはポップスも含めて編曲が多かったようだが、オリジ
ナル作品も出版までされるようになり、混声では「新しい歌」「せんねんまんねん」、男
声では「新しい歌」「うたうべき詩」、その他多くの新しい楽譜が店頭に並んでいる。例
えば「新しい歌」の楽譜をみると、楽譜が「歌って!」と声を上げているように感じられ
る。それくらい、譜面づらに吸引力のようなものがあるのは確かだ。いわゆる「三善アク
セント」を効果的に使用しているのも人気の秘密だろうか。
まず、「ノスタルジア」全16曲を、曲によって混声・女声・男声で歌い分けたものと、
同じく編曲集で「7つの子ども歌」の女声版を収録した推薦盤から。
○無伴奏合唱作品集(GIOVANNI RECORDS,GVCS10401国内盤)2003,4年
清水敬一指揮湘南市民コール、同指揮早稲田大学コール・フリューゲル、柘植洋子指揮
多治見少年少女合唱団が「ノスタルジア」を歌い分け。「7つの子ども歌」も多治見少
年少女が担当。
もう少し「ノスタルジア」を、演奏会の記録CDから。
○清水昭指揮甍(EYEBRIGHT,EBCD-0056)2000年ライヴ
定演の記録CD。「ノスタルジア」(抜粋)の男声版。合唱団の人数が多過ぎるのか、
音が塊となって迫ってくるが、それが欠点と感じられる。
○向井正雄指揮Vocal Ensemble 《EST》(GIOVANNI,GVCS30601国内盤)2005年ライブ
スペイン公演ライブ。「ノスタルジア」から4曲、「村の鍛冶屋」、「みかんの花咲く
丘」、「赤とんぼ」、そして中田喜直「別れの歌」を収録。特に「別れの歌」の演奏は
美しく、団内に優れたソプラノのソリストがいる合唱団なら、是非とりあげてみたくな
る演奏に仕上がっている。
ノスタルジアの第2集は外来の歌を集めており、それを含むアルバム。
○清水昭、野本立人指揮合唱団ひぐらし、ピアノ:斎木ユリ
(NIPPON ACOUSTIC RECORDS,NARC-2036)2007年
混声合唱とピアノのための難曲、「春と修羅」に、「ノスタルジア2」の10曲、および
「ノスタルジア1」から3曲(箱根八里、みかんの花咲く丘、別れのうた)を収録。コ
ンクールにも重宝されそうな「春と修羅」(特に第2部がいい)と、愛唱歌的存在であ
る「ノスタルジア」との組み合わせ。演奏、録音も悪くない。
他の一般発売音源。ジョヴァンニ・レーベルの素晴らしい仕事ぶりが際立つ。
○思い出すために 信長貴富 混声合唱曲集(GIOVANNI,GVCS10604)
収録曲:
無伴奏混声合唱のための 7つの子ども歌(伊東恵司指揮アンサンブルVine)
思い出すために(伊東恵司指揮淀川混声合唱団、ピアノ:細見真理子)
さくら
一番星見つけた
ヴォーカル・アンサンブルのための 島唄・花
(以上、伊東恵司指揮アンサンブルVine)
混声合唱とピアノのための 初心のうた
(上西一郎指揮Choeur Chene、ピアノ:河野有子)
特に合唱団のプログラムで人気を集めている作品を、関西の日本を代表する合唱団がと
りあげた演奏を集めている好盤。ただし演奏水準については、素晴らしいのだが、更に
上を目指してもらいたい。「思い出すために」は、若い人たちにとっての名曲として定
着するだろう。
○岡山大学グリークラブ第49回定期演奏会(GIOVANNNI,GVCS30301)2002年12月21日ライブ
「新しい歌」全曲。大学生に向いていることがよくわかる。
○メロディーは愛/松下耕指揮Brilliant Harmony(プライヴェート盤)2002ライヴ
女声版「新しい歌」から「うたを うたう とき」のみ抜粋。
○本城正博指揮松下中央合唱団、ピアノ:熊谷啓子(GIOVANNI,GVCS30407)2004年ライブ
5曲から成る組曲「いまぼくに」の初演ライブ。第4、5曲あたりは好まれていくこと
だろう。
○北野良徳指揮多治見西高校合唱部、合唱団ますらめ(GIOVANNI,GVCS30605)2006年
演奏団体の委嘱による、無伴奏女声合唱のための「万葉恋歌」。無伴奏の可能性を追求
した力作であり演奏も非常に良好である。
○向井正雄指揮Vocal Ensemble 《EST》(GIOVANNI,GVCS30401国内盤)2003年ライブ
全て編曲ものだが、「一番星見つけた」、「舟唄」、そして中田喜直「別れの歌」。期
待どおり水準の高い演奏。
○飯沼京子指揮東海メールクワィアー、ピアノ:山下勝(GIOVANNI,GVCS10704)2006年
この男声合唱団による委嘱作品だけのアルバムに、男声合唱とピアノのための「くちび
るに歌を」を収録。2006年の大分での全曲ライヴと、2005年愛知での初演時の、指揮者
と作曲者の対談及びアンコールでの終曲からの抜粋を収録。第1曲「白い雲」や、終曲
「くちびるに歌を」は今後も愛唱されていくだろう。
○スピリチュアルズ 信長貴富 混声合唱作品集2(GIOVANNI,GVCS10802)2001,05,07年
組曲 スピリチュアルズ(混声合唱・ヴァイオリン・コントラバス・パーカッション・
ピアノのために)委嘱初演、2007年
もし鳥だったなら(混声合唱とピアノのための)改訂初演、2001年
春のために(混声合唱組曲)2005年
歩くうた(混声合唱曲)初演、2005年
鈴木成夫氏が指揮する4つの大学合唱団の集合体「遊声」のライヴ音源(「もし鳥だっ
たなら」のみ東京大学コーロ・ソーノ合唱団の単独演奏)。楽器編成から演奏機会が多
くなるのは難しいと思われるが、「スピリチュアルズ」が力作で、イベント的合唱団の
レパとして検討に値する。「もし鳥だったなら」に漲る音楽の力(特に第1・2曲)に
も惹かれる。ピアノを山内知子氏が弾いており、例によって良い出来栄え。
○くちびるに歌を 信長貴富 混声合唱作品集3(GIOVANNI,GVCS10901)2007,8年
ねがいごと(平田稔夫指揮札幌北高等学校、ピアノ:井畑荘詞 他)
廃墟から(近藤惠子指揮岡崎混声合唱団、岡崎高校)
くちびるに歌を(伊藤恵二指揮淀川混声合唱団、ピアノ:細見真理子)
3曲とも性格が異なり、「ねがいごと」は広島の原爆を中央の第2曲に配置。「廃墟か
ら」は、戦争をより直接的に題材にしたもの。「くちびるに歌を」はドイツの詩をテー
マにしたロマン的な音楽。「くちびるに歌を」の、技巧的にあまり難しくない範囲で、
美しい旋律を歌わせるあたり、合唱人には堪らない魅力だろう。
○いろとりどりのうた 信長貴富 混声合唱作品集4(GIOVANNI,GVCS10903)
無伴奏混声合唱のための カウボーイ・ポップ(仁階堂孝指揮合唱団LINC(2004))
混声合唱と2台のピアノのための 讃歌(斉田好男指揮混声合唱団はもーるKOBE他)
なみだうた(伊東恵司指揮名古屋大学コール・グランツェ、OB・OG合同合唱団)
いろとりどりのうた(伊東恵司指揮名大コール・グランツェ、OB・OG合同合唱団)
初演音源集。信長作品でも特に人気が高いような気がする「カウボーイ・ポップ」が、
やはり普通の意味ではお薦めレパということになるのだろう。決して易しい曲ではない
が。「讃歌」は、複数の合唱団の合同演奏で、人数が多いことが幸いして、当盤の収録
曲の中では最もうまくいっている感じがする。「いろとりどりのうた」は、平易なよう
でいて、決してそんなことはない。「なみだうた」は美しいアンコールピース。
○饗宴の歌 信長貴富 男声合唱作品集(GIOVANNI,GVCS10902)2007年ライヴ
ラグビイ(男声合唱のための) (初演)
新しい歌(男声合唱とピアノのための) (2台ピアノ版)
初心のうた(男声合唱とピアノのための)
饗宴の歌(男声合唱とパーカッションのための)
演奏は全て山脇卓也指揮合唱団お江戸コラリアーず。2007年の2つのライヴの記録。2
台ピアノ版の「新しい歌」と、「初心のうた」は、単純に楽しめる。一方「ラグビイ」
と「饗宴の歌」は難度が高い。
歌謡曲の編曲物を、ハンガリーのヴォーカルアンサンブルでバンキエーリ・シンガーズ
が、来日公演でレパに入れているだけでなくCDにも入れている。僕は2003年の来日公演
で沖縄の歌謡曲「花」の信長編曲版を聴いてとても感動したが、以下には入っていない。
○ヨーロッパの古いうたと日本のうた/Banchieri Singers(HARMONIA,HASF-1008)2001年
収録曲:川の流れのように;君といつまでも;いい湯だな
とても素直な編曲である。「いい湯だな」とは、意表を突いている。
最初はわかりやすい作品ばかりだが、徐々に実験的な音が増えてきているようで、そう
いった作品の録音も出てきつつある。今後はどんな方向にいくのだろうか。
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