大中恩(おおなか めぐみ、1924-)

 一度だけ、コールMegの演奏会を聴きに行ったことがある。それは期待通り、聴き手の
心を暖かく包んでくれるものだった。今や数多くの作曲家が曲をつけている、星野富弘氏
の詩画集による「風の旅」の初演が当夜の白眉、心暖まる無伴奏混声合唱曲だった。
 僕には、大中作品の魅力を語ることは無理だ。これはやはり、Megで一緒に歌ったこと
があるような仲間でなければ。なにしろ彼の合唱曲は、どれくらい量があるのか見当もつ
かない。そしてどれをとっても、好きな人には不変の手ごたえがある、凄いことだと、改
めて思う。
 出版楽譜も非常に多い。カワイのように簡単に入手できる出版元だけではなく、プリン
トセンターの緑色の楽譜がまた、結構な種類があった。その後、オンデマンド系の出版社
が古い作品を復刊したりしている。
 僕も中学生の頃から合唱してるわけだから、それなりに歌ったり弾いたり振ったり聴い
たりしてきたのだが、今となっては、自分にとって大切な大中作品は、「島よ」第3曲と
「風のうた」の終曲「冬の風」くらいかもしれない(ただこの2曲は、何度聴いても、何
度演奏しても名曲だと思わせる、数少ない邦人合唱曲だと思っている)。そんなわけで、
以下のCD紹介も愛情が薄いこと、ご容赦いただきたい。
○島よ/中村仁策指揮神戸中央合唱団、ピアノ:中村健(VICTOR,VDR5079)82年
 風のうた/須賀敬一指揮豊中混声合唱団、ピアノ:中村有木子
 風と花粉、ピアノ伴奏による五つのうた/作曲者指揮コールMeg
○わたしの動物園、五つのこどものうた、日曜学校のころ、無伴奏の四つのうた
 遙かなものを/作曲者指揮コールMeg、ピアノ:三浦洋一(VICTOR,VDR5218)67,68,82年
 混声ならば、まずは以上の2枚で有名曲を網羅できる。
○愛の風船/宍戸悟郎指揮札幌大谷短期大学輪声会、ピアノ:海江田尚子
 風花の舞/古橋富士男指揮東京放送児童合唱団シニア、ピアノ:田中瑤子
 (VICTOR,VDR-5219)81,82年
 80年代にビクターが出した「日本の合唱名曲選」からの3枚。少なくとも混声について
 は、有名曲を、かなり良い演奏で網羅できる。作品についてだが、「島よ」はコメント
 不要の名作。神戸中央の演奏は柔らかめだと思う。ピアニストに力強さが無いのが不満
 を覚える。「風のうた」は、作曲者も全曲通してやって欲しいという希望をもっておら
 れるようで、現に全曲とも一定の人気があった。しかしベートーヴェンが神様の僕は、
 「冬の風」に特別の共感を覚える。豊混も美しい演奏といった傾向。「島よ」と同じく
 伊藤海彦氏の詩による無伴奏混声の「風と花粉」も、かつてはよく歌われていた。「ピ
 アノ伴奏による五つのうた」としてまとめられた5曲も非常に人気があるが、とりわけ
 「秋の女よ」には身も心も捧げたという合唱人は多いであろう。ここではコールMegと
 いう絶対のスタンダードが記録されている。「わたしの動物園」や「日曜学校のころ」
 も合唱団の愛唱曲に入っていたりするし、「無伴奏四つのうた」としてまとめられた4
 曲の中の「わたりどり」を歌ったことがない合唱人はモグリと呼ばれても仕方が無い。
 「遙かなものを」も、特に「峠」や「山頂」は僕が高校生くらいの頃はよく歌われてい
 た。「五つのこどものうた」も、自分が高校生の頃はずいぶんとやったものだ。これら
 にMegの録音があるのは嬉しい。女声合唱曲もものすごい量だが、その中でも「愛の風
 船」は人気がある。「風花の舞」も中学生が歌ったりしていたが、大人っぽいムード。

 なおビクター音源は、2001年初頭現在「日本合唱曲全集」に代わっているので番号も上
記とは違う。大中作品集は2枚になって、上記音源からは「風と花粉」「無伴奏の四つの
うた」「遙かなものを」が消えている。

 混声の有名曲には競合盤がある。
○島よ/福永陽一郎指揮日本アカデミー合唱団、ピアノ:三浦洋一(東芝,CZ28-9074)
 佐藤眞「蔵王」「旅」の余白に収録。演奏スタイルとしてはひとむかし前という感じだ
 が、分厚い声を生かした好演。ここで耳にとまるのは三浦洋一氏のピアノで、録音が悪
 くピアノのサウンド自体が酷いのだが、細部が弾けていない(よくぞこれで発売をOK
 したものだと思う)。僕が中学生くらいの頃には最高の伴奏ピアニストとしての名声を
 既に得ていた三浦氏だが、現在の耳からすると技巧的には必ずしも十全ではなく、例え
 ば上記のビクター盤のピアニストの方が遥かに正確に弾いている。ただし三浦氏のピア
 ノは男っぽいところが評価されるであろう。
○風と花粉、ピアノ伴奏による五つのうた、無伴奏の四つのうた/日本アカデミー合唱団
 風のうた/合唱団京都エコー、全て指揮は福永陽一郎、ピアノ:三浦洋一
 (東芝,CZ28-9080)
 聴き比べしたい人のための音源。

 以下、東芝の合唱名曲コレクション・シリーズから少しずつ落穂拾い。

○祝婚歌/福永陽一郎指揮日本アカデミー合唱団、ピアノ:三浦洋一(東芝,CZ28-9075)
 併録は三善「小さな目」「嫁ぐ娘に」と萩原英彦「深き淵より」。
○五つのこどものうた/福永陽一郎指揮日本アカデミー合唱団、ピアノ:三浦洋一
 (東芝,CZ28-9079)70年
 併録は青島広志「マザーグースの歌」、福井文彦「動物園」「空・道・河」。
○愛の風船/福永陽一郎指揮中国短期大学フラウェンコール(東芝,CZ28-9085)
 併録は中田喜直「蝶」「美しい訣れの朝」。
○新しいこどものうた より/福永陽一郎指揮中国短期大学フラウウェンコール
 (東芝,CZ28-9089)
 併録は服部公一「紅花抄」「春のマドリガル」、中田喜直女声合唱曲集。
○ヴェニュス生誕/福永陽一郎指揮東海メールクワィアー、ピアノ:久邇之宜
 (東芝,CZ28-9096)81年
 南弘明、間宮芳生、小倉朗各氏の作品共、貴重な男声合唱作品集。音がマイクに近すぎ
 るのが残念(ちょっと前の合唱CDはこういう録音ばかりなのが惜しい)。

 この他、今は僕の手許にないので演奏についてのコメントができないのだが、キングの
日本合唱名曲シリーズに3枚の大中作品集があったから、データだけ挙げておく。
○島よ、愛の風船、風のうた(KING,KICG3016)
○月と良寛、めぐり逢いは不思議ね、船に乗る日が近づいて(KING,KICG3017)
○風のいざない、愛ゆえに、花八ツ手(抜粋)(KING,KICG3018)
 作曲者指揮コールMeg(「月と良寛」のみ、コール・グレース)、ピアノ:三浦洋一

 今になってみると、キング盤3枚のうち後二者は入手しておくべきであった。やはり、
Meg音源の価値は大きい。女声合唱組曲「めぐり逢い〜」及び「月と良寛」は、僕が中学
生の頃から絶大な人気があって、よく耳にしたのが懐かしい。

 男声合唱作品をいくつか集めたアルバムに触れておく。
○東海メール・クワィアーによる 男声合唱名作品集(GIOVANNI,GVCS10104/6)93年
収録曲:いとおしい日々、春宵感懐、夜会の一隅、金色の矢、走れわが心、組曲「夜の青
 空」、幸福が遠すぎたら
 作曲家自作自演シリーズ演奏会から、と銘打った3枚組で、上記は全て作曲者自身の指
 揮になる。黒木瞳氏の詩による「夜の青空」は初演の音源になる。力作「走れわが心」
 のCD音源が登場したのは歓迎される。
○東海メール・クワィアーによる 男声合唱委嘱作品集1(GIOVANNI,GVCS10704)82,03年
収録曲:愛と悲しみ、四季のスケッチ
 この男声合唱団による委嘱作品だけのアルバムで、前者は76年、後者は81年の作曲。ピ
 アノ付きの「愛と悲しみ」が大中節に満ちている。
○片桐真指揮SINGERSなも(GIOVANNI,GVCD10214/5)2002年ライブ
 第12回定演記録CD。演奏会のオープニングソングとして「うたおう」と、無伴奏男声
 合唱による「五つの男声合唱曲」を収録。
○作曲者指揮OSAKA MEN'S CHORUS(GIOVANNI,GVCS30503)2005年ライヴ
 「島よ」の男声合唱版と、小曲集全12曲(ふるみち、じゃあね、幌馬車、サッちゃん、
 おなかのへるうた、かぜのなかのおかあさん、いぬのおまわりさん、バナナを食べると
 きの歌、すっからかんのかん、うたおう、草原の別れ、こんな夜には)。カップリング
 は男声合唱団の定番であるシーシャンティー集。
○片桐真指揮SINGERSなも(PRIVATE)2008年ライヴ
 第18回定演記録CDに、64年作曲の男声合唱組曲「わが歳月」を収録。

 本格的な合唱作品でなくても、「いぬのおまわりさん」や「おなかのへるうた」など、
童謡の合唱編曲版も魅力的なレパだ。やっぱり大中氏の音楽は、聴くよりも自分で演奏す
ること、ですね。



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