ケージ(CAGE,John、1912-1992、アメリカ)

 20世紀の音楽に興味を持ったなら、ケージを素通りしてはいけないだろう。一度は、体
験しておかねばなるまい。もちろんピアノ独奏曲の分野におけるケージも、知っておきた
い。ただ、この音楽に感動できると保証できるものではないが。
 とりあえず体験するために、廉価なナクソスの2枚のアルバムから。演奏はボリス・ベ
ルマン。
○Berman(NA,8.554345)98年
 プリペアド・ピアノのための「ソナタとインターリュード」全曲。まあこの作品だけは
 何は無くとも触れておく必要はある。弦に消しゴムを挟んで云々という話だけから、と
 んでもない前衛音楽だろうと想像することはできるが、実は、ピアノ音楽の枠を離れ、
 きれいな打楽器音楽という感触もある。
○Berman(NAXOS,8.554562)99年
収録曲:A Room;And the Earth shall bear again;Daughters of the Lonesome Isle;
 Music for Marcel Duchamp;Mysterious Adventure;Prelude for Meditation;
 Primitive;Root of an Unfocus;The Perilous Night;The Unavailable memory of;
 Tossed as it is Untroubled;Totem Ancestor
 こちらもプリペアド・ピアノのための作品集。中では、「孤島の娘」や「危険な夜」の
 第6曲あたりが印象に残る。

 次はプリペアドされていない、普通のピアノ曲だけのアルバム。
○Gottlieb(ogam,488012-2)2000年
収録曲:ASLSP;Dream;In a Landscape;Metamorphosis;One;Ophelia;Quest;
 Seven Haiku;Suite for Toy Piano;Two Pieces for piano;
 アルバムのタイトルも「ノン・プリペアド・ピアノのための音楽」。こちらは正直言っ
 て、プリペアド・ピアノほどの魅力は感じられなかった。しかし、ケージの何たるかを
 極めたい人は、こういった普通のピアノ音楽も研究しなければなるまい。日本人のため
 に「7つの俳句」もある。当盤の使用ピアノはスタインウェイ。

 忘れてはならないのは、かの有名な「4分33秒」。まあこれをCDで聴くなどというの
は明らかにナンセンスで、実演に触れなければならないのだろうが、僕は未体験。
○Kessel(OEHMS CLASSICS,OC534)2005年
 鳥の鳴き声が極めて美しいが、ヘリコプターの飛行音は耳に優しくない。このトラック
 に録音された時間はちょうど4分33秒。

 落穂拾い。
○Thomas & Grierson(EMI,7243 5 67691 2)72年
 このアルバムは、ピアノ4手のためのストラヴィンスキー「春の祭典」が目玉の筈なの
 だが、今ひとつ。カップリングのケージ作曲「3つのダンス」(2台のプリペアド・ピ
 アノのための)の方が格段に面白いと僕は思う。
○Feinberg(DECCA,436925-2)93年
 プリペアド・ピアノのための「バッカナーレ」。打楽器的響きが刺激に満ちている。

 まあ僕個人としては、価格の安いナクソス盤以上に持っていようとは思わないのだが、
興味がある方は、録音はそれなりに発売されているので、是非聴き比べを!


カゼッラ(CASELLA,Alfred、1883-1947、イタリア)

 かなり昔のことになるが、FMラジオでカゼッラの「6つの練習曲op.70」の一部を聴い
て以来、この作曲家のピアノ音楽のことは気になっていた。ようやく以下の全集3枚組を
聴くに至って、その全貌がわかったのである。
○Barberiis(WARNER FONIT,0927 47043-2)79年
収録曲:Pavane op.1;Variations sur une Chaconne op.3;Toccata op.6;
Sarabande op.10;Notturnino;Berceuse triste op.14;Barcarola op.15;
A la maniere de… op.17,17bis;Nove pezzi op.24;Sonatina op.28;
A notte alta op.30;Deux contrastes;Inezie op.32;Cocktail's dance;
Undici pezzi infantili op.35;Due Canzoni popolari italiane op.47;
Due Ricercari sul nome B-A-C-H op.52;Sinfonia,Arioso e Toccata op.59;
Ricercare sul nome Guido M.Gatti;Studio sulle terze maggiori;Sei studi op.70
 最初の「パヴァーヌ」など、Opus番号が若い作品の抒情に、聴くべきものがある。その
 他では、やはり上記の練習曲、特に偶数曲がかっこいい。

 基本的には上記の3枚組で十分満足しているが、聴き比べたいという人のために、手許
にある音源をあげておく。「2つのコントラスト」は、アムランの御眼鏡にかなったレパ
というわけだが、確かに2曲目の激しさは特に魅力的だし、技巧に余裕があるピアニスト
に弾いてもらいたい。
○Ballerini(NAXOS,8.554009)96年
収録曲:Nove pezzi op.24;Undici pezzi infantili op.35;Sei studi op.70
○Bartoli(TIMPANI,DMHCD6)97年
収録曲:A la maniere de...op.17,17bis;Deux contrastes
○Hamelin(HYPERION,CDA67275)2001年
収録曲:Deux contrastes


カステルヌオーヴォ=テデスコ(CASTELNIOVO-TEDESCO,Mario、1895-1968、イタリア→アメリカ)

 例えばピツェッティ並には気になる作曲家の一人で、ピアノ曲も楽譜に接する限り、と
ても良さげに見える。しかし自分で弾いてもイマイチな感じだし、以下にあげるアルバム
を聴いてみても、どうもピンとこない。そうは言っても、発掘価値はあるような気がして
いるので、参考までに手許の音源と収録曲だけ、あげておきたい。
○Ciccolini(PHOENIX,PH95102)95年
収録曲:Alghe op.12;Alt Wien;I naviganti op.13;Sonata;
○Ciccolini(PHOENIX,PH97308)97年
収録曲:Cantico op.19;Evangelion;Le Stagioni;Piedigrotta;Tre Corali
○Maso(NAXOS,8.555856)2002年
収録曲:Alghe op.12;Cantico op.19;Cipressi op.17;Epigrafe op.25;
 I naviganti op.13;Il raggio verde op.9;La Sirenetta e il pesce turchino op.18;
 Lucertolina;Passatempi op.54;Questo fu il carro della Morte op.2;
 Vitalba e Biancospino op.21


カトワール(CATOIRE,Georgy、1861-1926、ロシア)

 カトワールという名前は、アムランが録音してから初めて知った。フランスっぽい姓だ
が、モスクワ生まれの作曲家であり、例えばスクリャービンの音楽と親和性が高い人は、
アムランによるカトワールだけのアルバムを聴いて損はないだろう。特に作品番号が若い
作品は後期ロマン派風、それもドロドロではなく軽めの印象で、それが長所。
○Hamelin(HYPERION,CDA67090)98年
収録曲:Caprice op.3;Intermezzo op.6-5;Trois morceaux op.2;Prelude op.6-2;
 Scherzo op.6-3;Vision op.8;Cinq morceaux op.10;Quatre morceaux op.12;
 Quatre preludes op.17;Chants du crepuscule op.24;Poeme op.34-2;
 Prelude op.34-3;Valse op.36
 個人的お気に入りは、カプリースop.3、スケルルォop.6-3、ヴィジョンop.8、5つの小
 品op.10、夜想曲op.12-3、前奏曲op.17-3/4あたり。特に「5つの小品op.10」は素晴ら
 しい。演奏については、正にアムランとの相性抜群で、これ以上のアルバムが今後登場
 することは考えにくいほどだ。


シャブリエ(CHABRIER,Emmanuel、1841-1894、フランス)

 シャブリエのピアノ曲は、想像よりも頻繁に演奏されている。フランスのピアノ音楽の
系譜を知る上では、無視できない存在だ。どれをとっても難解とは無縁だから、親しみや
すい。最も愛好されている曲の一つとして、「ブーレ・ファンタスク」があげられるだろ
う。冒頭から元気いっぱい、飛び跳ねるような音楽である。また10曲からなる小品集「絵
画的小品」の終曲「スケルツォ・ヴァルス」も単独で演奏されることがある。2台ピアノ
の作品で、「3つのロマンティックなワルツ」は、この編成の定番レパとなっている。

 まず、全集収集癖がある人に向けたものとしては、フランスのピアニスト、タローによ
る3枚組がある。演奏が優れており、世界初録音も含み、まずは基本アイテムだろう。
○Tharaud, Madzar(ARION,ARN368684)97/98年
収録曲:Air de ballet;Bourree fantasque;Capriccio;Cinq morceaux posthumes;
 Espana;Habanera;Impromptu;Julia;Marche des Cipayes;Petit valse;
 Petits morceaux faciles;Pieces pittoresques;Souvenir de brunhaut;
 Suite de valses;
(以下、4手)Cortege burlesque;Prelude et Marche francaise;Souvenir de Munich
(以下2台ピアノ)Espana;Trois valses romantiques
 シャブリエの最も有名な管弦楽曲「エスパナ」の演奏者によるピアノ独奏版は聴きもの
 で、演奏会でとりあげられても不思議ではない。同様にこの曲をソロで弾いたもので、
 チッコリーニの演奏を聴いたことがあるが、このタローの演奏の方が、音の量が多い。
 使用ピアノはスタインウエイとヤマハCF3を併用。なお、この3枚組、3枚目は4手
 あるいはピアノ2台のための作品を集めているが、実は僕自身は、これだけ聴いていな
 い。なぜかと言えば、余談になるが、3枚目が不良品で全く別のディスクが封入されて
 おり、良品と交換する機会を逸しているからだ。

 その4手あるいは2台ピアノ作品なら、以下のナクソス盤もある。
○Rabol,Dugas(NAXOS,8.553080)94年
収録曲:Trois valses romantiques;Air de ballet;Cortege burlesque;
 Espana;Prelude and marche francaise;Souvenirs de Munich;Suite de valses

 モノラル録音ながら、マルセル・メイエの演奏は、価値あるものだと思う。
○Meyer,Poulenc(EMI,351825 2)55年
収録曲:Air de ballet;Cinq morceaus posthumes;Habanera;Impromptu;
 Joyeuse marche;Pieces pittoresques;Bouree fantasque;Trois valses romantiques
 管弦楽曲「楽しい行進曲」のピアノソロ版が入っているのもポイントになるだろう。1
 曲だけ、「3つのロマンティックなワルツ」だけが2台ピアノ作品で、プーランクとの
 共演である。

 有名な独奏曲2曲、「ブーレ・ファンタスク」と「スケルツォ・ヴァルス」を両方とも
収録したアルバムで、生きのよい新しい録音がある。来日もした女性ピアニスト。
○Cole(DECCA,769 748 021-2)99年

 未聴だが、ヒューイットによるシャブリエ・アルバムは注目される(HYPERION)。


シャミナード(CHAMINADE,Cecile、1857-1944、フランス)

 いわゆる「性格的小品」の宝庫である。ピアノ曲の全貌を掴んでいるわけではないが、
きっと、お気に入りの小品が見つかるだろう。素直に美しく、そしてフランスの香りを漂
わせる作品が並ぶ。彼女のピアノ曲を初めて聴いたのはFM放送で、ラヴァルのLPだっ
た。それ以来、この作曲家の名前は気になっている。
 実演では、アムランが来日公演のアンコールで、「主題と変奏op.89」をチャーミングな
こと極まりなく演奏した(当夜の本プロ、アンコールの中で、シャミナードが一番良かっ
たくらい)。
 そんなわけで、好きな曲は自分で発掘してみてください。

 上述のラヴァル盤はCD化されている。
○Laval(EMI,CDM655632)79年
収録曲:Sonata op.21;Arabesque op.61;Impromptu op.35-5;Automne op.35-2;
 Tarentelle op.35-6;Piece dans le style ancien op.74;Scherzo op.35-1;
 Idyll op.76-3;Chanson bretonne op.76-5;Fileuse op.35-3

 この他、手許にある音源の紹介のみ。リベッタ盤は映像。
○Autrefoir op.87-4/Cherkassky(IVORY CLASSICS,64405-72003)
○Autrefoir op.87-4;Pierrette op.41/Hough(HYPERION,CDA67043)97年
○The Flatterer op.50/Godowsky(MARSTON,52046-2)21年
○Les Sylvains op.60/稲葉(KING,KICC-382)
◎Les Sylvains op.60/Libetta(VAI,VAIDVD4225)2002年
○Le Matin/Nettle & Markham(CARLTON,30366 00142)93年

 僕自身は未聴だが、まとめて聴きたい人のために、HYPERIONのバジェットレーベルであ
るHELIOSから、ピーター・ジェイコブスによる3枚のシャミナード・アルバムがある。


チャップリン(CHAPLIN,Charles Spencer、1889-1977、アメリカ)

 あんまり映画は見ないけど、チャップリンは好きだ。月並みだけど、映画「独裁者」の
最後の6分間は、何度見ても感動してしまう。ひいきでここに項をたてて、クラシックの
ピアニストがコンサートのアンコールに、こういう曲を弾くのも悪くないなと言うのが、
僕の価値観である。
○Berezovsky(THE NEWPORT PIANO FESTIVAL)
 映画「街の灯」のテーマ。このアルバムでベレゾフスキーは、ラヴェルの「ラ・ヴァル
 ス」を急速に弾いている。
○Kessel(OEHMS CLASSICS,OC534)2005年
 映画「モダン・タイムス」から「Smile」。演奏のセンスは悪くない。


チェイシンズ(CHASINS,Abram、1904-1987、アメリカ)

 アンコールピースとしておさえておきたい小曲探索で浮上するのが、ホロヴィッツの友
人でもあったチェイシンズ。彼は百曲を超えるピアノ小曲を作曲したということだが、有
名なのは「Rush Hour in Hong kong op.6」で、この急速でせわしないピースは、なかな
か楽しく、おさえておく価値はある。
○Cherkassky(NIMBUS,NI1748)
○Lin(BIS,BIS-CD-1110)2000年
○Moiseiwitsch(NAXOS,8.110689)27年
 モイセイヴィッチ盤の急速さが良い。当盤にはチェイシンズをもう1曲「Flirtation
 in a Chinese garden」を収録している。チェルカスキー盤は、ゆったりしている印象
 だが、小技が光る。

 上記のモイセイヴィッチ盤収録の2曲に「A Shanghai Tragidy」を加えた3曲をチェル
カスキーがまとめて録音した音源がある。「A Shanghai〜」は、テンポの遅い、チェルカ
スキーのような名手が弾くと味わい深い小品。
○Cherkassky(medici arts,MM013-2)56年

 若くして亡くなったカペルが弾いているチェイシンズ作品「Piano Playtime」は、サテ
ィやパガニーニなど、どこかで聴いた旋律がこだまする、興味深い小品であるが、今日で
は弾かれるのを見たことがない。
○Kapell(RCA,09026-68442-2)52年


チャベス(CHAVEZ,Carlos、1899-1978、メキシコ)

 チャベスという名前だけで反応してしまう、コアなリスナーもいるかもしれない。中南
米の音楽は、気に入るとどこまでも追いかけたくなる。チャベスの場合は、管弦楽曲が一
部の愛好家に聴かれている。演奏会のレパとしては見かけないが、ピアノ独奏曲だけを集
めたアルバムを聴いてみる。
○Chen,Hsuan-Ye(ELAN,CD82406)98年
収録曲:10 Preludes; Piano sonata No.2&6; 7 pieces; 5 Caprichos
 台湾出身の女性ピアニストによる2枚組。まず「10の前奏曲」が、白鍵だけで、どこま
 で音楽できるかを示したかったのか、という風情の白鍵攻撃を見せる。2つあるソナタ
 のうち「第6番」は余りにも古典的過ぎて、これがチャベスかと驚く。全体として、過
 度の土俗性とか爆発とか、そういった要素は見られず、新古典主義的な作風と言える。
 もう少しピアニストたちからかえりみられてよいのではという感想を持つアルバムだ。


ショパン(CHOPIN,Frederic-Francois、1810-1849、ポーランド)

 (工事中)


クレメンティ(CLEMENTI,Muzio、1752-1832、イタリア)

 クレメンティと言えば、やはりピアノ初学者にはソナチネである、ソナタではない。僕
も小学生の頃、クレメンティのソナチネを弾いていたことがある。熟達したピアニストの
ための練習曲としては、有名な「グラドゥス・アド・パルナッスム」(録音あり)がある
が、僕はそこまで到達すらしていない。
 さて音源で聴くクレメンティと言えば、何と言ってもホロヴィッツの諸録音である。こ
れが、どの曲がどの作品番号だったか、どうにも覚えられないのだが、それでも、どの曲
を聴いても音楽は精彩に富む。手許にはホロヴィッツ以外にも、いくつかクレメンティは
あるけれど、やはりホロヴィッツには敵わない。皆さんも彼の演奏を聴いて、自分のお気
に入りのクレメンティを発見してみてください。
○Horowitz(RCA,7753-2-RG)50年
収録曲:Rondo op.47-2
○Horowitz(RCA,09026-62643-2)50年
収録曲:ソナタop.24-2,36-1,34-1
○Horowitz(RCA,7753-2-RG)54年
収録曲:ソナタop.14-3,26-2,34-2
○Horowitz(SONY,SK53466)63年
収録曲:Gradus ad Parnassum〜No.14;Rondo op.50-1
○Horowitz(M&A,CD-666)67年
収録曲:ソナタop.36-3
○Horowitz(SONY,SK53466)72年
収録曲:Rondo op.12-2,op.25-3
○Horowitz(RCA,7753-2-RG)80年
収録曲:ソナタop.33-3


コンフレイ(CONFREY,Zez、1895-1971、アメリカ)

 アンコール曲の懐を広げておくには、こういう曲にも興味を持つといいかもしれない。
有名曲はただ一つ、題名からして可愛いラグタイム「Kitten on the Keys」だが、聴き比
べもできる。
○Feinberg(DECCA,444457-2)94年
○Hamelin(DANACORD,DACOCD349)89年ライヴ
○Petrov(YEDANG,YCC-0130)89年ライヴ
 この中では、アムランが最も曲に対応できているように思う。

 もっとコンフレイをたくさん聴きたいという人のためのアルバムも見かける。各曲のタ
イトルが楽しい。
○Andjaparidze(MARCOPOLO,8.223826)95年
収録曲:African Suite; Amazonia; Blue Tornado; Coaxing the Piano; Dizzy fingers;
 Fourth Dimension; Jay Walk; Kitten on the Keys; Meandering;
 Moods of a New Yorker; Rhythm Venture; Sparkling Waters; Stumbling;
 Three Little Oddities; Wise Cracker Suite

 なお、国内盤(WARNER)で、自作自演のピアノロールが発売されたこともある。僕は未聴
だが、これが素晴らしい内容なのだそうだ。


コープランド(COPLAND,Aaron、1900-1990、アメリカ)

 有名作曲家であってもピアノ曲は今ひとつという例も多い中で、コープランドのピアノ
曲は、知名度はなかなか上がらないながら、わざわざ探索する価値がある。基本は「ピア
ノソナタ」、「幻想曲」、そして「変奏曲」の3つということになるが、小曲にも捨てが
たいものがある。各種のアルバムが発売されているので、20世紀ピアノ音楽の系譜に興味
を持った人は、一度は触れておかれるといいと思う。
 まず、価格の安い全集盤2枚組で全体像を探ってみる。
○Smit(SONY,SM2K66345)78,93年
収録曲:The Cat and the Mouse; Piano Variations; In Evening Air; Passacaglia;
 Piano Sonata; Midday Thoughts; Proclamation; Three Moods; Petit Portrait;
 Sentimental Melody; Piano Fantasy; Four Piano Blues; Midsummer Nocturne;
 The Young Pioneers; Sunday Afternoon Music; Down a Country Lane;
 Night Thoughts(Homage to Ives);
 78年録音分については、若干音質がひしゃげている感じがあって面食らう。現代作品得
 意のピアニストによる演奏は、全集盤としては十分。小品で面白いものとしては、タイ
 トルから騒々しさを想像できる「The Cat and the Mouse」あたり。
○Pasternack(NAXOS,8.559184)2003年
 これは一枚だが、主要作のソナタ、幻想曲、変奏曲を収録しており、演奏が良好。

 ピアノソナタについては、決してわかりやすいものではないが、例えば手許にはカペル
やフライシャーらの音源がある。
○Fleisher(PHILIPS.456775-2)62年
○Kapell(RCA,09026-68442-2)53年
○Lawson(VIRGIN,VBD5 61928 2)89年
○McCabe(CONTINUUM,CCD1028/9)90年

 変奏曲はハフが弾いている。
○Hough(HYPERION,CDA67005)97年

 管弦楽曲「エルサロンメヒコ」をバーンスタインがピアノソロに編曲した版も、それな
りに知られている。チェルカスキーの音源の存在は嬉しい。
○Cherkassky(DECCA,433657-2)89年
○Tocco(PROARTE,VDC1054国内盤)82年

 ピアノ協奏曲が1曲。
○ピアノ:Wild、Copland指揮(VANGUARD,08402971)61年

 2台ピアノ作品も。
○PIANO DUO Genova & Dimitrov(CPO,777039-2)2003年
 前述の「エル・サロン・メヒコ」の2台ピアノ版と、「Danzon Cubano」を収録。


コリリアーノ(CORIGLIANO,John、b1938-、アメリカ)

 コリリアーノのピアノ曲は、有名ピアニストも手を伸ばしている。確かに、20世紀の音
楽に興味があるなら一瞥しておく価値はある。
○Grimaud(DG,471769-2)2003年
 グリモーが来日公演でも弾いていた「Fantasia on an ostinato」。ベートーヴェンの
 交響曲第7番第2楽章がこだまする。地味で、グリモーが興味を持ちそうな感じ。
○Hough(HYPERION,CDA67005)96年
 5つの部分からなる「Etude fantasy」。ハフの超絶技巧を生かせるレパ。そういえば
 来日公演で聴いたことがあるが、演奏効果あり。コンクールの自由曲のような風情。


クープラン(COUPERIN,Francois、1668-1733、フランス)

 ここで取り上げるのは、クラヴサン音楽の分野でよく知られたルイ・クープランではな
く、いわゆる大クープラン、つまりフランソワ・クープランなので混同のなきように。鍵
盤音楽の歴史に興味がある人は、ルイの方も研究が必要だ。
 クープランの音楽をピアノで弾くという行為は、昔からそれなりに行われている。クラ
ヴサン組曲が第27番まであり、選曲の対象となる曲数は多い。タイトルを眺めるだけでも
楽しい。
 特筆すべきなのは、ソコロフが演奏会のアンコールなどでとりあげた演奏。こういうの
をアンコールで弾かれると、嬉しくなる。CDではなく、映像で見ることができる。ソコ
ロフの超絶技巧があってこその名演。
◎Sokolov(NAIVE,DVD)2002年
収録曲:Le Tic-toc-choc;Soeur Monique

 ピアノの名人シフラが、意外とクープランも取り上げている。実は名人たちを惹きつけ
る要素があるのだろう。
○Cziffra(EMI,5 85340 2)
収録曲:La Bandoline; L'Anguille; Le Tic-toc-choc; Les Barricades mysterieuses;
 Les Folles francaises ou les dominos; Les petits Moulins a vent;
 Les moissonneurs; Les papillons

 これまたロシアの名人ペトロフも「シテールの鐘」を弾いている。
○Petrov(OLYMPIA,OCD273)

 音源が少ない女性ピアニスト、ギュレも「La Fleurie ou la Tendre Nanette」を弾い
ている。柔らかい感性が感じられる。
○Guller(NIMBUS,NI5030)75年


カウエル(COWELL,Henry、1897-1965、アメリカ)

 20世紀米国における実験主義の音楽を知る上で、飛ばしてはならない人物。アイヴズと
共に、トーンクラスターを初めて使い始めた。また、いわゆる内部奏法を知るためには必
須科目である。ただし鑑賞するとなると、後述するクラム同様、金属音との闘いを強いら
れるので覚悟が必要。僕も、ものによっては金属音で気持ちが悪くなるので、聴き通すの
が辛くなる曲もあったことを正直に述べておく。

 まずは価格が安いナクソス盤で勉強するという方法がある。
○Sachs(NAXOS,8.559192)90年
収録曲:Deep color;Fabric;Tiger;The fairy answer;
 Irish suite for string piano and small orchestra
 カウエルってどんな人?という問いに答えるために、まず有名な「Tiger」をおさえて
 おきたい。トーンクラスターぶっぱなしでストレス解消という人は自分で弾いてみても
 よいかもしれない(ただし近所からの苦情は不可避)。
○Seltzer(NAXOS,8.559193)84年
収録曲:Elegie;Euphoria;The Banshee;Vestiges;What's this;
 Pieces for piano with strings
 この中では30秒程度で終わる「What's this」がお薦め。タイトルも奇抜だが、ピアノ
 を激しく叩きつける様に圧倒される。

 現代音楽得意のピアニスト、アラン・フェインベルグの2枚のアルバムなど、その他の
手許の音源。
○Feinberg(DECCA,436925-2)93年
収録曲:Aeolian Harp;Exultation;Vestiges
 代表作「エオリアン・ハープ」は金属音を我慢して知っておきたい。
○Feinberg(DECCA,444457-2)94年
収録曲:Woof 1,2
 すぐ終わってしまう普通の曲。
○Kessel(OC,OC534)2005年
収録曲:The Tide of Manaunaun;Aeolian Harp
 2曲ともカウエルの代表作の一つとされているもの。
○Shields(VOX,CD3x3027)75年
収録曲:Advertisement;Aeolian Harp;Exultation;Invention
 この中では「Advertisement」が風変わりで、クラスターを見ると興奮する聴き手には
 薦められる。


クラム(CRUMB,George、b1929-、アメリカ)

 ピアノ曲については、やはり前衛的な音楽に興味をもったなら必ず通らなければならな
い。しかし鑑賞するとなると、前述のカウエルと似て、金属音に耳が耐えられるかという
問題になってくる。金属音も現代音楽も平気というなら、その音楽に限りない美を発見す
ることができるだろう。僕個人としては、金属音に耳がついていかない。
○Gorisek(AUDIOPHILE CLASSICS,APC101.301)96年
収録曲:Makrokosmos 1-4;Five pieces for piano;Gnomic Variations;
 Little suite for Christmas
 クラムのピアノ曲を大量に安く聴くために好適な3枚組。録音状態も悪くない。代表作
 である「マクロコスモス」は第1から第4集を聴くことができる。ショパン「幻想即興
 曲」やバッハ作品の引用があったりする。僕個人は、反復して聴きたいと思わないが、
 中では打楽器が加わる「第2集」が最も美しいと思う。「クリスマスのための小組曲」
 は、各曲のタイトルのかわいさに惹かれて聴くと、かなり違うことになる。


キュイ(CUI,Cezar、1835-1918、ロシア)

 いわゆる「ロシア五人組」と称される作曲家たちの中で目立たない存在のキュイ。以下
のアルバム、実は全く期待せず聴いてみたのだが、そこには意外な驚きがあった。
○Biegel(NAXOS,8.555557)92年
 ごく小さな前奏曲集となる「25の前奏曲op.64」全曲。これが、旋律の美しさ、和声の
 巧みさ、和音の分厚すぎるくらいの分厚さと言った点で、とても気に入ったのだ。技巧
 的には中級程度。例えば、メンデルスゾーンやグリーグの叙情的な小品のような曲には
 目が無いという人は、この曲集も気に入っていただけるだろう。例えば第2、6、7、
 9、15番あたり、メロディーラインが良い。以前にマルコポーロ・レーベルから出てい
 たアルバムのナクソスからの再発売盤。

 この曲集から1曲をアンコールに使った例。こういう使い方も可能なのだ。
○Mejoueva(若林工房,WKLC-7003/04)2005年ライヴ
 第16番をアンコールで演奏している。

 その他にも、キュイのピアノ曲は割りと多くあるのだが、今のところ良い曲には出会え
ていない。


ツェルニー(CZERNY,Carl、1791-1857、オーストリア)

 僕は平凡なピアノ教育しか受けておらず、普通にツェルニーを弾いていた。何とか30番
くらいは弾けるようになり、一応、ピアノを習っている頃は継続して40番、50番あたりま
で到達したのだが、「まずまず弾けたなあ」と感じたのは、せいぜい30番までだった40番
以降は、やっとこさ。しかも、楽譜の指定のテンポで弾けるって、どういうことなんだろ
うと諦めていたほど。
 イタリアの超絶ピアニスト、リベッタがツェルニーの練習曲を録音して発売している。
今のところ未聴だが、完璧に弾けたツェルニーというのも、聴いてみたい。
 さて普通に鑑賞するツェルニーとなると、殆ど無い。有名な録音は、ホロヴィッツによ
る「思い出による変奏曲op.33」くらい。ただ、この録音は一聴の価値がある。他のピア
ニストでは、なかなかこうはいかないだろう。ごく簡単な主題を、どうしてこうもロマン
ティックに弾けるのだろうか、素晴らしい。
○Horowitz(RCA,60451-2-RG)44年

 落穂拾い。
○Katsaris(SONY,SRCR9101国内盤)92年
 モーツァルトがネタになった作品集「Mozartiana」に、「フィガロによる華麗な幻想曲
 op.493」が含まれている。お馴染みの旋律がツェルニーの練習曲化しており、これはこ
 れで面白い。
○Hough(VIRGIN,VC7593042)91年
 「華麗な変奏曲op.14」。まあ、華麗ではあるが、特筆するほどでもない。

 なお、ピアノ連弾曲に良いものがあるらしいのだが、不勉強で未聴である。


シフラ(CZIFFRA,Gyorgy、1921-1994、ハンガリー)

 シフラの芸術は、今後も語り継がれていくのだろうか。ホロヴィッツなら何とか次代に
も認識されるだろうが、僕としては、シフラが忘却の彼方に置かれる事態だけは避けても
らいたいと願っている。演奏家としてはもちろんのこと、編曲ものやオリジナル作品もあ
り、その側面も含めて、時代を超えて聴かれ続けて欲しいのだ。編曲では、ハチャトゥリ
アンの「剣の舞」が最も有名であることは言うまでもない。

 リムスキーーコルサコフ「熊蜂の飛行」によるシフラの「演奏会用練習曲第1番」は、
超絶技巧を要するピアノ音楽に興味がある人なら、一度は触れておくべきだ。まずは自作
自演を聴かねばなるまい。
○Cziffra(HUNGAROTON,HCD32056)54年
○Cziffra(EMI,CZS7 67366 2)57年
 幾つかの形で発売されているが、フンガロトン盤は「ルーマニア・ジプシー幻想曲」、
 EMI盤は「ルーマニア・ジプシー幻想曲」および「ウィリアムテルの主題による即興」
 と、シフラの他の名技を知ることができる曲目が含まれている。

 上記の「演奏会用練習曲第1番」については腕自慢のピアニストが挑戦している。基本
的には自作自演だけ聴いておけばいいのだが、参考までに手許のディスクをあげておく。
○Volodos(SONY,SK62691)96年
○Katsaris(WARNER,WPCS4733国内盤)80年ライヴ
○片山優陽(AUCD-9国内盤)2003年
 ガヴリーロフの代役を務めたこともある片山優陽盤は、奏者が少し手を加えている。

 なお、シフラについて詳しく知りたい人にとって、「国際シフラ友の会日本支部」のサ
イトは必見で、そこから更に、参考になりそうなリンクを辿っていくと良いと思う。


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