サン=サーンス(SAINT-SAENS,Camille、1835-1921、フランス)

 クラシック音楽を真剣に聴き始めていた頃の僕が、多大な影響を受けた著作に吉田秀和
「LP300選」があることは既に述べたが、その中で著者は、サンサーンスの音楽とい
うのは、手際よく気持ちのよい音が並んでいるだけで、それ以上のものがないという趣旨
のことを述べておられる。それは確かにそうだと思うが、ピアノ音楽鑑賞の楽しみとして
は、ただ気持ちよいだけの音の連なりというのも、見逃せないのだ。5曲あるピアノ協奏
曲を筆頭として、演奏技巧的にも、そこそこ難しく、華麗な演奏効果もあるサンサーンス
のピアノ曲は、鑑賞のレパに入れておきたい。指の回りに自信がある人は、例えば「ワル
ツ形式の練習曲op.52-6」など、演奏のレパにしてもいい。

 ピアノ独奏曲の美味しいところを聴きたいなら、今のところベーシックライヴラリーに
指定したいのは、上記のop.52-6が入っているデュシャーブルによる3枚組。ショパン、
リスト、ベルリオーズ=リスト、デュカスの他に、サンサーンスの技巧的作品を弾いてく
れている。このCD、特に高音がうるさいのが欠点だが、これだけポカスカ弾いてくれれ
ば許したい。
○Duchable(EMI,CES5 72356 2)79年
収録曲:6つの練習曲op.52より第6曲; 6つの練習曲op.111;
 アレグロ・アパッショナート; マズルカop.66
 まずはop.52-6とop.111-6、アレグロ・アパッショナートが面白い。なおデュシャーブ
 ルはop.52の全6曲を録音しており、当盤に含まれているのは、その内の第6曲。

 技巧派ピアニストがアンコール用に重宝する「ワルツ形式の練習曲op.52-6」について
は、デュシャーブル盤だけでなく、聴き比べたい。以下は全て稀代のヴィルトゥオーゾた
ちの録音で、それぞれに楽しめる。一枚だけ選ぶならペトロフか。リベッタの、5分45秒
を切った速度も注目。終演後の悲鳴交じりの拍手も当然か。
○Cortot(NAXOS,8.110613)
○Cortot(DANTE,HPC089/90)31年
○Cziffra(FOUNDATION CZIFFRA,1-RCP-9607)81年ライヴ
○Cziffra(EMI,CZS5 73780 2)録音年不詳
○Libetta(MIAMI INTERNATIONAL PIANO FESTIVAL OF DISCOVERY 2000)2000年ライヴ
○Petrov(MELODIYA,MCD122)84年

 上記のうちペトロフ盤には更に2曲のサンサーンスが含まれている。
○Petrov(MELODIYA,MCD122)84年
収録曲:練習曲op.111-6;ピアノ協奏曲第2番(ビゼー編)より第2楽章
 超絶演奏のオンパレード。特に4分を切った前者。

 ピアノが入るサンサーンス作品で最も有名なのは間違いなく「動物の謝肉祭」だろう。
もともとこの曲は2台のピアノが活躍し、ピアノ曲と呼んでもいいくらいなのだが、ここ
でその原曲の音源を探るのは目的ではない。なおこの原曲、僕は嫌いではなく、この1曲
だけでもサンサーンスって凄いなと思う。例えば「水族館」なんか、素晴らしいと思いま
せんか?
 その中でも特に誰でも知っている「白鳥」をゴドフスキーがピアノ独奏に編曲し、技巧
自慢のピアニストの定番レパになっている。ゴドフスキーのトランスクリプションは、ど
れも超の字が付く複雑なものだが、これを入門編とするとよいだろう。下記の音源、これ
またいずれも、こういったピースの表現に長けた人ばかり。変幻自在さではチェルカスキ
ー、主旋律以外への配慮ではカツァリスあたりが、特に面白い。最後のリベッタ盤はDV
D音源。
○Cherkassky(ASV,CDQS6096)
○江口玲(NYS CLASSICS,NYS-80619国内盤)2002年
○Hough(VIRGIN,VC7 90732-2)86年
○Katsaris(PIANO21,21008)88年ライヴ
○Petrov(OLYMPIA,OCD276)88年
○Soerjadi(PHILIPS,454149-2)96年
◎Libetta(VAI,DVD425)2002年ライヴ

 ゴドフスキー以外の「白鳥」では、シロティ編曲版をラフマニノフが弾いているのが目
を引く。
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)24年

 更に「白鳥」の、2台ピアノのための編曲版。
○Duetwo(KING,KICC371国内盤)2001年
 Berkowitz編。アルバムのタイトルは「いいことがありそう!」。
○Nettle & Markham(CARLTON,30366 00142)93年
 演奏者自らによる編曲版。「白鳥」の他「化石」も入っている。演奏・編曲とも悪くな
 いが、たまんねぇーというほどの物でものない。

 話を「動物の謝肉祭」に戻し、全曲をGarbanがピアノ4手用に編曲した版がある。
○Jordans & Doeselaar(CHALLENGE RECORDS,CC72104)2001年
 これはこれで、それなりに楽しめる。特に「ピアニスト」の場面でのヘタクソな弾き崩
 し方は面白い。全体的に音楽性が高い。カップリングはミヨー、ラヴェル、イベール。

 リスト編曲による「死の舞踏」は演奏効果ばっちり。そのため音源も多い。以下の音源
の中で、ハワード盤以外は、ホロヴィッツがリスト編に手を入れた版を使用。まあ、ホロ
ヴィッツ盤だけがあれば、それでいいのだが。新しいところでマルグリス盤は演奏者が手
を入れており、これも一聴の価値あり。
○Blumfield(SONORIS,SCD5151)93年
○Horowitz(RCA,BVCC-5106国内盤)42年
○Howard(HYPERION,CDA66346)89年
○Himy(BNL,112822)91年
○Kuleshov(BIS,BIS-CD-1188)2001年
○Margulis(OEHMS,OC545)2004年

 もう少し独奏曲の落穂拾い。
○岡田博美(CAMERATA,28CM-608)2000年
 左手のための6つの練習曲op.135より第4、5曲。曲としてはいまいちで、演奏も真面
 目過ぎる感触。後者は叙情的な「エレジー」。
○小川典子(BIS,BIS-CD-1045)99年
 オペラ「la princesse jaune黄色の王女」序曲の作曲者自身によるピアノ独奏版。初演
 が失敗に終わったオペラの、この序曲は、解説にもあるように、前半はアラビア風、そ
 して後半は明らかに中国している。初期のジャポニズムらしい、中国との混同。まあそ
 のおかげというべきか、曲としては楽しげな雰囲気がいい。
○Wild(SONY,SK62036)95年
 管弦楽曲「オンファールの糸車」をワイルドが独奏用に編曲。原曲が好きな人なら注目
 してもよいだろう。なおこの音源は、ソニーからIVORY CLASSICSに移行済み。
○Ringeissen(DANACORD,DACOCD419)93年ライヴ
 バガテルop.3-2/4。第2番の急速な楽句がサンサーンスらしい。

 ピアノのための協奏曲は5曲あり、それ以外にもピアノと管弦楽のための作品がいくつ
かある。以前はコラール+プレヴィン盤を持っていたが、21世紀になって決定盤候補が新
たに現れたので、今は手許にそれを置いている。
○ピアノ:Hough、Oramo指揮CBSO(HYPERION,CDA67331/2)2000年
収録曲:ピアノ協奏曲第1〜5番;ウェディングケーキop.76;
 オーヴェルニュ狂詩曲;アレグロアパッショナートop.70;幻想曲アフリカop.89
 英誌「グラモフォン」でもベタボメの2枚組。まあ、ハフとサンサーンスならば聴く前
 から相性の良さは推測できるというもの。ただ、最高の出来かと言えば僕には必ずしも
 そうとは思われない。何となく元気がない気がして。それに技巧的にもこれを「完璧」
 と褒めるわけにもいかない乱れがあるように感じられた。もちろん、悪いわけはない。
 それに協奏曲以外にこの4曲を入れているのは高く評価できる。曲としてチェックして
 おきたいのは第2番の第2、3楽章。それと「第5番」の第3楽章は、ピアノ独奏版も
 有名な、内容空虚と言えばそうだが華麗系ピース。独奏版が弾かれることもあるという
 意味では「アレグロアパッショナート」も良い。専門家に評価が高いのは「第4番」だ
 が、僕は苦手である。ただ演奏本位で言えば、この曲でのハフは見事。

 その他のピアノ協奏曲の音源としては、手許には歴史的演奏のみ。
 「第2番」はモイセイヴィッチ。
○Moiseiwitsch、Cameron指揮PO(APR,APR5529)47年
○同音源(NAXOS,8.110683)

 「第4番」はブライロフスキー、コルトー。
○Brailowsky、Munch指揮BSO(RCA,09026 68165 2)54年
○Cortot、Munch指揮LSO?(PHILIPS,456754-2)35年
○同音源(NAXOS,8.110613)

 なお「第2番」をビゼーがピアノソロに編曲した版がある。
○Petrov(OLYMPIA,OCD276)88年
 何でも奏者自身が大英博物館で発見した編曲ということだ。第2、3楽章をペトロフが
 ソロで弾くなんて、それだけでワクワクさせられるが、これを聴いて悦に入る貴方は、
 僕と同様、既に趣味が曲がっています(笑)。しかし、すごいよねー。


坂本龍一(SAKAMOTO,Ryuichi、b1952-、日本)

 熱心な坂本ファンではない僕も、テレビCMで有名になった「ENERGY FLOW」には脱帽
だ。僕の息子が2歳位の頃、この曲が流れるとテレビに釘付けになっていた。どうみても
映像に惹かれる感じではなく、明らかに音楽に夢中になっていた。大衆的ヒットに繋がっ
たのも当然という気がする。まあ作曲者本人の演奏で聴ければそれでよいのだが、手許に
は別演奏家によるものが2種類。
○加羽沢美濃(DENON,COCQ-83267国内盤)99年
○高橋アキ(EMI,TOCE-55401国内盤)

 テレビや映画で有名になったピアノピースを堂々と普通のピアノアルバムに入れた例。
○稲葉瑠奈(KING,KICC-382)
 「Put your hands up」と「鉄道員」。両者とも、こんな単純な曲で演奏効果があがる
 のかいな?という疑問が湧くが、当盤は意外と悪くない感触がある。

 それ以外にも、岡城千歳が坂本だけの作品集を2枚も出しているのが目をひくところ。
東京芸大作曲家出身の彼が現代音楽を書いていた頃の作品には複数音源がある。
○小川典子(BIS,BIS-CD-854)96年
 「ピアノ組曲」は、坂本も現代音楽してたのねー、というのがわかる。「ぼく自身のた
 めに」も、それほど面白い曲というわけでもないが、このアルバムは、ピアノのサウン
 ドの美しさという長所はある。
○高橋悠治(COLUMBIA,COCO78457国内盤)83年
 「ぼく自身のために」。演奏時間3分27秒で、小川盤よりもかなり短い。


サンカン(SANCAN,Pierre、b1916-、フランス)

 アンコール・ピース漁りをしていると目につくのがサンカンの「オルゴール」。これは
なかなか、アンコールとしては素敵な一品。
○Manildi(ELAN,CD82416)97年
 なお当アルバム「PIANISTS AS COMPOSERS」に含まれるSで始まる作曲家としては、サ
 ペルニコフ(Sapellnikoff,Vassily)の、優しい曲想の「子守歌op.11-3」がある。

 「オルゴール」の演奏としては、確か、ダニエル・ティエンポのライヴ音源があったと
思う。そちらの方が上記盤よりも優れていた記憶がある。


サティ(SATIE,Eric、1866-1925、フランス)

 大衆的人気のある一応クラシックのピアノ曲として、もしかしたら人気ランキングトッ
プかもしれないのが「ジムノペディ第1番」。子供が「猫ふんじゃった」に夢中になるよ
うに、大人には「ジムノペディ」だ。最近流行の「お父さんのためのピアノ」講座だが、
この曲に憧れる人が多いのは頷ける。
 また、有名ピースということでいけば、歌曲「Je te veux」のピアノ独奏編曲版にも触
れておかねばならないだろう。この曲の邦訳、雰囲気としては「あなたが欲しいの」とい
う例に最も惹かれるが、本当にそれが最も相応しいのかどうか、僕のフランス語力では解
析は無理である。
 ところで僕は、サティで何が一番好きだろうと考えてみたが、もしかしたら連弾曲「風
変わりな美女」かもしれない。最近、この曲を使ったテレビCMを見て、選曲者に拍手し
たくなった。あっけらかんとした曲想がいい。頭からっぽで楽しめる。実際に連弾すると
2人の腕が交差するんだよね、是非とも男女で(笑)。独奏曲では「官僚的なソナチネ」
もいいな、月並みだけど。
 ピアノファンであれば、「ジムノペディ」や「グノシェンヌ」以外もチェックしておき
たい。日本というのは本当にいい国で、サティの楽譜も国内版で複数を買い求めることが
できる。全音からは解説も充実した画期的な全集も出ている。それらを見れば、サティ独
特のユニークなタイトルも日本語でイメージが湧くし、自分だけのお気に入りのピースを
探し出すことができるだろう。

 まずは多くの作品をチェックするため、格安のボックスCDを聴く。
○Ciccolini(EMI,7243 5 74534 2)71年
 チッコリーニのサティ集の旧盤で、全5枚。何より安いのが取り柄で、録音が71年とい
 うことで音質も悪くない。連弾曲も一人多重録音で収録している。演奏の出来は、何だ
 か不必要にせかせかしている曲があるのが気になる。「風変わりな美女」など、あまり
 の高速で目が回りそう(しかも奏者の指もこんがらがる寸前)。チッコリーニがデジタ
 ル録音時代に再録音したセットは未聴。

 その他、手許にあるサティで、数曲を集めたアルバム。
○高橋アキ(EMI,TOCE-7083国内盤)88年
収録曲:3つのジムノペディ;6つのグノシェンヌ;ジュトゥヴ;ラグタイムパラード;
 ワルツバレエ;官僚的なソナチネ;世紀ごとの時間と瞬間の時間;風変わりな美女;
 優しく;梨の形をした3つの小品
 結局、こういう選曲のアルバムが一番楽しいかもしれないなと改めて思った。これなら
 「ジムノペディ」「グノシェンヌ」はもちろんのこと、「ジュトゥヴ」もあるし、「官
 僚的なソナチネ」にも手が届いているし、連弾曲(ここでは一人多重録音)も「風変わ
 りな美女」と「梨の形」をちゃんと収めているし。
○Paik(VIRGIN,VBD5 61757 2)90年
収録曲:3つのジムノペディ;4つのオジーヴ より1,2; 6つのグノシェンヌ より4,5;
 あらゆる意味にでっちあげられた数章 より1; ひからびた胎児 より2,3;
 自動記述法 より1,2; 太った木の人形のスケッチとからかい より3
 韓国の至宝、クン=ウー・パイクの意外な仕事。真摯に曲想を付けているところが、さ
 すがである。
○小原孝(APOLLON,APCE-5284国内盤)92年
収録曲:La Diva de l'Empire;グノシェンヌ第1番;ジムノペディ第1番;ジュトゥヴ
 「ジュトゥヴ」は、奏者自身がかなり手を入れた版だから、触れておく。例えば人前で
 この曲を弾こうとするなら、この程度で良いから少しでも即興的なフレーズが入ってい
 れば、聴き手は楽しい。アルバムのタイトルは「僕のゆびから愛のうた」。
○Katsaris(PIANO21,21008)88年ライヴ
収録曲:グノシェンヌ第1番;Air du Grand Prieur(Sonneries de la Rose + Croix)
 特に特徴ある演奏というわけでもないのだが、名古屋でのライヴ録音ということで。
○Nettle & Markham(CARTLON,30366 00142)93年
 「ジムノペディ第1番」をこのデュオが2台ピアノに編曲。後半は管弦楽版を意識して
 音いっぱい。まあしかし、無理に2台にすることもないって感じだな。「風変わりな美
 女」は抜粋で、第1曲と終曲のみ。2台ピアノで弾いているようで、普通の連弾版と少
 し違った聞こえ方。控えめながら楽譜に手を入れている。残念ながら無茶苦茶良いとい
 うわけではない。


佐藤聰明(SATOH,Somei、b1947-、日本)

 日本というよりアメリカの作曲家という方が適当かもしれない。米国では武満徹や黛な
みに知名度が高いといわれることもある。この人の作風について、僕は全貌を掴みきって
いるわけではないが、以下のアルバムで表現されたアジア的感性は、現代音楽の晦渋さと
は無縁である。乱暴な分類をすれば、これだってヒーリングである。
○Tan(NEWALBION,NA008CD)88年
収録曲:A gate into stars; Incarnation2; Litania
 「A gate into stars」が純粋なピアノ独奏曲。「Incarnation2」はsolo piano with
 digital delay、「Litania」はtwo pianos with digital delay(一人多重録音)と表
 記されたテープ音楽。代表作という意味では「Litania」になるかもしれないが、反復
 音の激しい連打は、いささかうるさい。「A gate into stars」の、時間が止まったよ
 うな感覚と静謐さは一聴の価値がある。これはきれい、本当にきれいだ。演奏するマー
 ガレット・レン・タンはシンガポール出身で現代音楽得意のピアニスト。収録曲は他に
 バイオリンソロを伴う「Birds in warped time 2」と、ソプラノソロとパーカッション
 が加わる「The Heavenly Spheres Are Illuminated By Lights」も収録。

 手許の音源をもう少し。
○中村和枝(全音の楽譜付録CD)2000年
 全音の創立70周年記念企画で、バッハをテーマに14人の現代作曲家が新しく書いたピア
 ノ独奏曲「PIANO2000」の楽譜とCDのセット。その中に佐藤の「コラール」という5
 分30分ほどの作品が収録されている。解説によれば、バッハのコラール「Durch Adams
 fall ist ganz verderbtアダムの堕落によりて全ては朽ちぬ」の冒頭2小節余りの旋律
 を用いたということだ。得意の反復連打によるが概して静か、抒情を押し出している。


佐藤敏直(SATOH,Toshinao、1936-2002、日本)

 アマチュア合唱の世界で馴染みが深い人である。しかしその経歴が語られる時、代表作
として言及されるのが、「ピアノ淡彩画帖」という曲集。これは、牧歌的な題名とは裏腹
に、無調の部分が多い音楽になっている。手許に4曲の抜粋盤があるから聴いてみよう。
○松谷翠(CAMERATA,32CM-318国内盤)93年
収録曲:茶畑のある風景、黄と黒の季節、八月の鎮魂、笹の絨毯は北海にすべる
 松谷氏は初演者である。「笹の〜」などは実に激しい音楽だ。


ザウアー(SAUER,Emil von、1862-1942、ドイツ)

 リストの弟子として高名な人物だが、その作品は埋もれたままだったと言われても仕方
ない状況が続いていた。しかし20世紀末に、マルシェフが出した一連のザウアー録音は、
ザウアー作品の再評価を促すのに十分なもの。僕は全てを持っているわけではないが、以
下の2枚は素晴らしいと思う。
○Marshev(DANACORD,DACOCD487)98年
収録曲:演奏会用練習曲第1〜20番
○Marshev(DANACORD,DACOCD488)98年
収録曲:演奏会用練習曲第21〜30番;Boite a musique(Spieluhr);Couplet sans Paroles;
 Echo de Vienne;La delices de Vienne;Le Retour;Scherzo valse
 演奏会用練習曲が素晴らしい。全部が言いようも無く素晴らしい、というほどでもない
 が、幾つかの作品は、華麗なピアニズムに彩られた作品を追っかけている人なら聴いて
 損はない。2枚のうち後者は、ワルツを6曲収録しているが、シュトラウス一家の音楽
 の延長上にある幸福感もいい。特にアルバムを締めくくる「Echo de Vienne」は忘れが
 たい。マルシェフは演奏技巧の点で卓越しているだけでなく、音楽の歌わせ方が巧みな
 点が作品に合っている。ピアノの音もなかなか良い。以下に触れる作曲者の自作自演盤
 もあるが、このように新しい音による好演が聴けるなら、まずはこちらを推薦したい。

 なお手許には、マルシェフのフースム城における珍曲演奏会のライヴ音源もある。
○Marshev(DANACORD,DACOCD519)98年ライヴ
 演奏会用練習曲から第3、6番の2曲を収録。

 さらに新しい録音では、これも見逃せない。
○ピアノ:Hough、Foster指揮CBSO(HYPERION,CDA66790)94年
 ピアノ協奏曲第1番(世界初録音らしい)。ハフの名人芸が全体に冴え渡る。曲として
 は全4楽章のうち、第3楽章の「カヴァティーナ」の美しさにびっくり仰天。このハ長
 調の緩徐楽章、例えばショスタコのピアノ協奏曲第2番がこれほどヒーリング時代にも
 てはやされているなら、是非とも復活させてあげたい。CD店内でかかっていら、「こ
 の曲、何?」という質問が殺到しそうだ(褒めすぎか?)。なおカップリングはシャル
 ヴェンカのピアノ協奏曲第4番。

 ところで嬉しいことに、ザウアーの自作自演盤が残っている。録音年代の関係で、音質
は良いとは言えないが、もしこれらの作品に興味を持ったなら、言うまでもなく見逃せな
い音源。
○Sauer(MARSTON,53002-2) 以下、括弧内の数字が録音年
収録曲:Echo aus Wien(25); Spieluhr(25と28の2音源); 演奏会用ギャロップ(30);
 演奏会用ポルカ(25と28の2音源); 演奏会用練習曲第6番(28と30の2音源);
 演奏会用練習曲第7番(25)
○Sauer(ARBITER,ARBITER114)40年
収録曲:ピアノソナタ第1番より間奏曲; Spieluhr; 演奏会用練習曲第6番
 後者は40年の録音の割りには音がよくないのが残念。


サイ(SAY,Fazil、b1970-、トルコ)

 トルコ出身のピアニストで、既にバッハ、モーツァルトと言った古典的作曲家も含め幅
広いレパを身に付け、独自の解釈で過激に演奏することで、その名を知られるようになっ
た。ジャズやトルコの民俗音楽を取り入れた自作自演が、なかなか面白い。

○Say(AVEX,AVCL-25006国内盤)2000〜03年
収録曲:
 ブラック・アース(ピアノ独奏のための)
 ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(ヴァイオリン独奏:Korcia)
 シルクロード(ピアノと室内管弦楽のための)(+タン指揮グルベンキアン室内管)
 アナトリアの静寂、頑固(以上、ピアノと管弦楽のための2つの作品)
  (+インバル指揮フランス国立管)
 パガニーニ変奏曲(ピアノ独奏のための)
 マンハッタンのダルウィーシュ(+クツィ・エルグネル・クァルテット)
 収録時間は54分弱、6つの自作自演が含まれているわけだが、4分かからない小品、ピ
 アノ独奏のための「パガニーニ独奏曲」だけでも、推薦としよう。これはきっと、楽譜
 が出版されれば(特にアマチュアピアニストなら)、世界のピアニストたちに好まれて
 も不思議ではない。やはり21世紀のクラシック音楽は、従来のクラシックだけの枠にこ
 もらず、ジャズや民俗音楽など、他ジャンルと意味のある融合をしていくことが、生き
 残る条件だ。サイによるこの「変奏曲」は、21世紀のクラシックのあり方として、一つ
 の見事な提示であると思う。冒頭の「ブラック・アース」は、サイの代名詞と言えるほ
 どに、本人が繰り返し演奏しているものだそうだ。ピアノと管弦楽のための2つの作品
 のうち2曲めの「Obstinacy頑固」のトッカータ風の音楽は理屈ぬきで楽しめる。最後
 に収録「マンハッタンのダルウィーシュ」という曲は、民族楽器の笛“ネイ”に、ドラ
 ムとダブルベースが加わるジャズ。僕はジャズを的確に評する腕が皆無なので、これが
 ジャズとしてどうかはよくわからないが、少なくとも退屈させることはない。

 その後、上記のアルバムから、ブラック・アース、アナトリアの静寂、頑固、パガニー
ニ変奏曲の4曲を抜粋し、更に日本でのアンコール音源1曲を加えて一枚千円で再発売に
なった。
○Say(AVEX CLASSICS,AVCL-25136)
 そのアンコールは「トルコ行進曲“ジャズ”」で、モーツァルトの「トルコ行進曲」を
 素材にジャズ風にアレンジしたもので、あっという間に終わる。短すぎる気もするが、
 楽しいことは間違いない。

 というわけで僕としても、彼の自作自演には、今後も注目していきたい。


スカルラッティ(SCARLATTI,Domenico、1685-1757、イタリア)

 これが弾ければ昇天:ソナタ ニ短調K.141

 作品番号表記が複数あり、普通はロンゴとカークパトリックとが、目にする番号。以下
の表記は、全てカークパトリック番号に読み替えたもの。

 チェンバロならスコット・ロスの全集が有名。さてピアノではどうするか。
 今のところ僕は、とりあえずナクソスが開始した全集を集めている。手許には第5集ま
で。
○Andjaparidze(NAXOS,8.553061)94年
 K.8,13,44,184,246,402,421,427,430,434,446,450,487,523,531,533,544
○Lewin(NAXOS,8.553067)95年
 K.3,14,20,27,32,33,39,98,109,141,146,208,209,213,322,436,481,492,517
○Jando(NAXOS,8.555047)99年
 K.10,46,54,69,70,105,119,126,201,203,212,261,444,447,525,537
○Long(NAXOS,8.553846)96年
 K.4,99,107,132,158,175,215,262,403,443,470,474,516,519,532,550
○Frith(NAXOS,8.554792)
 K.26,37,82,113,124,214,227,266,284,404,461,494,507,536,546,548

 さてピアノでスカルラッティと言えばホロヴィッツ。彼の音源はおさえるべし。まずベ
ーシックな一枚から。
○Horowitz(SONY,SK53460)64年
 K.25,33,39,52,54,96,146,162,193,197,201,303,466,474,481,491,525,547
 まずはこの一枚をおさえておくことが基本になるだろう。スカルラッティを素材に現代
 ピアノが何をできるか、なかなかこれ以上の回答は難しい。

 他のホロヴィッツ音源を、古い順に。

○Horowitz(RCA,09026-60986)28年
○同音源(APR,CDAPR7013/4)28年
 K.20カプリッチオの有名なタウジヒ編曲版。ブラヴォー。
○Horowitz(EMI,CHS7 63538 2)35年
○同音源(APR,APR5517)35年
 K.87,125。K.87は晩年の演奏の方が良い。K.125ト長調は急速&反復系。
○Horowitz(ARCHIPEL,ARPCD0057)45年ライヴ
○同音源(STRADIVARIUS,STR-10037)
 K.380。音質は後者の方がよいが、ピッチは前者が良い。
○Horowitz(RCA,09026-60986)46年
 K.46,322,380,455。46が超強烈。急速系の455も凄い。
○Horowitz(RCA,09026-60986)47年
 K.87,531。K.87は少し崩しにかかったり、大きく盛り上げたりしている。
○Horowitz(EMI,CHS7 63538 2)51年
 K.188,322。K.188イ短調は珍しい。時折強烈打鍵。322イ長調は奏者の愛奏曲。
○Horowitz(RCA,60461-2-RG)51年ライヴ
 K.380。カーネギーホールライヴ。
○Horowitz(SONY,S2K53457)62年
 K.322,455,531。かなり落ち着いたスタジオ録音。
○Horowitz(MUSIC & ARTS,CD-666)67年ライヴ
 K.55,101,260,319,466。雑音も多いし、時に音が歪む録音だが、サウンドの美しさは絶
 品で、ライヴの魔力が伝わる。
○Horowitz(SONY,SK53466)67年ライヴ
 K.260,319。演奏は両曲とも絶妙だが、音が妙なのと、会場の咳払いが多い。
○Horowitz(SONY,SK53465)68年ライヴ
 K.55,380。名高い「オン・TV」。安全運転気味。
○Horowitz(RCA,09026 63314 2)81年ライヴ
 K.87,101,127,135,184,466。メトでのライヴ。悪くないが、87と135は後年の録音の方
 が良い。
○Horowitz(DG,F35G20024国内盤)85年
 K.87,135。K.87ロ短調はホロヴィッツの一生の愛奏曲となったわけだが、来日公演の感
 動に、録音では及ばないなあ。K.135ホ長調は、同じ調性のK.531によく似ているから注
 意。それにしても冒頭の分散和音が美しすぎる。
○Horowitz(EXCLUSIVE,EX92T39/40)85年ライヴ
 K.87,135。スカラ座での、日付の違う2種類のライヴ。11月17日の方が少し良い。
○Horowitz(DG,F35G20060国内盤)86年ライヴ
 K.380。モスクワ音楽院ライヴ。
○Horowitz(MOSCOW CONSERVATOIRE,SMCCD0079/80)86年ライヴ
 K.87,292,380。上記DG盤と同日付だが、こちらの方が収録曲2曲多い。特にK.87の収録
 は嬉しい(客席の私語を制する声?がけたたましいが)。来日公演の演奏もこんな感じ
 だった。またK.380では思い切り音が抜けている部分が複数あってどっきりするが、上
 記DG盤は違っている。なるほど、DG盤発売にあたってこんなに修正したのか。モスクワ
 音楽院百周年のアニヴァーサリー・アルバム。


 スカルラッティばかり集めたアルバムは、手許には少ししかない。
○Pletnev(VIRGIN,ZDCB5 45123 2)94年
 K.1,3,8,9,11,17,24,25,27,29,87,96,113,141,146,173,213,214,247,259,268,283,284,
 380,386,387,404,443,519,520,523,
 バジェットプライス2枚組。31曲を収録。細部にわたって色々やっているところはプレ
 トニョフの面目躍如だが、手練手管を尽くしている割には感動薄いかも、という感想。
○Subdin(BIS,BIS-CD-1508)2004年
 K.20,24,27,30,87,197,365,426,427,429K.435,448,455,466,487,492,545,g-minor
 1980年生まれのピアニスト、スブディンによるスカルラッティ集。英誌「GRAMOPHONE」
 で絶賛されており、確かにアルバムを締め括るイ長調K.24など絶品だ。不満が残るトラ
 ックもあるとはいえ、先人たちの名盤に分け入る余地ありと言えるだろう。今後に期待
 が持てる新人ピアニストだ。

 ピアノのCDを集めていると、数曲弾いてみました、という音源はどんどん溜まる。例
えばリサイタルの冒頭、ピアニストが指慣らしついでに2曲程度のスカルラッティを弾く
という使い方が多い。手許の音源も、複数の作曲家の作品を収録したリサイタル盤に、少
しずつスカルラッティが入っている、というものが殆ど。

 その中で特筆すべきもの、というよりは、僕が最も気に入っているピースはどれか。そ
れはニ短調K.141で、この反復音びしばしのトッカータ風小品をアルゲリッチの演奏で、
中学生くらいの頃に一度聴いた時から、これは!と感じた。めっちゃ難しい曲かといえば
そういうわけではないのだが、欠点だらけの僕自身のピアノ演奏技巧の中でも反復音は鬼
門といえる分野であるだけに、こういう曲が思いのまま、アルゲリッチのように弾ければ
幸せだろうなと思う。手許の音源。
○Argerich(EMI,TOCE-55102国内盤)78年ライヴ
○Argerich(ACCORD,ACD020)79年ライヴ
 もちろんどちらもコンサートのアンコール。後者79年盤の方が格段に良いと思う。
○Cassard(MUSICA AETHERIS,MA0222国内盤)2002年
 映画のサントラとして発売されたCDの冒頭に収録。

 では以下、手許の音源をピアニストのアルファベット順に並べてみる。これは、という
点があるものだけコメントを付しておく。
○Barere(APR,CDAPR7013/4)録音年不詳
 K.113。猛烈なスピード、粗い。ドラミッファッミ
○Blumfield(SONORIS,SCD5151)93年
 K.380,474,491
○Brailowsky(PEARL,GEMMCD9132)28年
 K.9,20(Pastorale and Capriccio、Tausig編曲)。このとりあわせ、黄金時代のピアニ
 ストたちには大層好まれ、以下にも幾つか登場する。
○Cziffra(EMI,CDM5 65255 2)56,69年
 K.96,113,159。K.113イ長調での絶妙な指技に注目。K.96だけは69年の録音。
○Demidenko(HYPERION,CDD22024)93年ライヴ
 K.11,377
○Friedman(NAXOS,8.110684)26年
 K.9(Pastorale、Tausig編曲)。
○Gekic(MIAMI INTER)2000年
 K.8,519
○Gould(SONY,SX2K 62588)68年
 K.486
○Gould(PHILIPS,456808-2)68年
 K.9,13,430
 グールドのスカルラッティは極めてまっとう、美しい。
○Grante(DANTE,PSCG9768/70)96年
 K.56,97,98,113
○Hess(PHILIPS,456832-2)57年
 K.11,14。K.11ハ短調の透明感がいい。
○Hess(TRUMPETS OF JERICHO,20.3157)28年
 K.11,159
○Hofmann(PHILIPS,456835-2)23年
○同音源(VAI,VAIA/IPA1047)23年
 K.9,20(Pastorale and Capriccio、Tausig編曲)。さすがホフマン、唸るのみ。
○Kapell(RCA,09026-68442-2)49年と53年の2種類
 K.380。53年のライヴは国内盤単発でも買える(BVCC-37310)が、音の変え方や終止の遊び
 など、聴きどころ多し。
○Kazakevich(RCA,75605 51310 2)
 K.87,96,513
○Kuzmin(RUSSIANDISC,RDCD10026)94年
 K.427,491純粋に指の体操として楽しむ一枚。ハ長調展開部のいじくりまわしに注目。
○Larrocha(PHILIPS,456886-2)79年
 K.6,9,11,13,28。自然なのに凄くいいね。
○Lipatti(EMI,CDH7698002)50年
 K.9,380
○Lipatti(TRUMPETS OF JERICHO,20.3157)47年
 K.9,380
○Lipatti(TRUMPETS OF JERICHO,20.3157)41年
 K.14
○Matthies(DHM,DMR2034-2)90年
 K.54,87,125,132,135,454
○Michelangeli(AURA,AUR226-2)
 K.96(43年),29(52年),9,11,27,159,322(69年)。K.29などの急速走句の冴え、遅い曲の
 透明感。ラヴェルを聴いてるみたい。
○Moiseiwitsch(PEARL,GEMS0142)19と27年の2種類
 K.9,20(Pastorale and Capriccio、Tausig編曲)。1919年のロマンティック過ぎるパス
 トラールに感動。27年は音がとてもよい。
○Perahia(PHILIPS,456922-2)96年
 K.27,212。K.212イ長調の軽やかさが見事。
○Petrov(MELODIYA,MELCD10 00964)63年
 収録順にL.255,116,487,266,483,387,423,497,21,256,490の11曲で、カップリングはハ
 イドンのピアノソナタHob.XVI43。さすがペトロフで、強烈な打鍵と明晰な音楽を楽し
 める。スローテンポのL.432(K.32)がとりわけ優れているように思う。ハイドンは録音
 がより新しいのに音割れしており残念。
○Pletnev(DG,UCCG-1028)2000年
 K.9
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)19年
 K.9(Pastorale、Tausig編曲)
○Solomon(APR,APR2000)47年
 K.17。指技がなかなか。
○Weissenberg(PHILIPS,456988-2)85年
 K.109,107,87,184。

 楽譜のことだが、CD-ROMで見る楽譜、CDSHEETMUSICのシリーズで、ハイドンのピアノソ
ナタと組んで、たった一枚のCD-ROMにスカルラッティのロンゴ番号が付いた全てのソナタ
全545曲を収録したものがある。強弱記号やスラーなどがたくさん付けてあり、今日の風
潮では軽んじられる楽譜であろうが、どうせスカルラッティをピアノで弾くにはイマジネ
ーションが必要なのだから、関係ないとも言える。いずれにせよ全曲を紙で持つ場合の占
有体積、また価格を考えると、これほどお得な商品はない。


シャルヴェンカ(SCHARWENKA,Xaver、1850-1924、ポーランド)

 パデレフスキーと並び称される、ポーランドが生んだピアノ音楽史上の重要人物。何と
なく名前はよく聴くのだが、その作品を聴く機会はそれほど多くない。手許の録音で2つ
のピアノ協奏曲を聴いてみる。
○ピアノ:Wild、Leinsdorf指揮Boston SO(ELAN,CD82266)69年
 第1番変ロ短調op.32。第1楽章は主題が鈍重に感じられるが、第2楽章スケルツォは
 相当にイケる楽章と評価してよい。ワイルドの華麗なピアニズムも素晴らしい。
○ピアノ:Hamelin、Stern指揮BBC Scottish SO(HYPERION,CDA67508)2005年
 新しい録音でアムランがとりあげれくれたのは、望外の喜びである。第2楽章における
 軽やかさこそ、アムランの真骨頂。カップリングはルビンシテインの「第4番」
○ピアノ:Hough、Foster指揮CBSO(HYPERION,CDA66790)94年
 第4番ヘ短調op.82。第1番と比べると曲が良くないが、ここではハフの演奏が素晴ら
 しい。カップリングのザウアーのピアノ協奏曲の方が、僕は鑑賞の楽しみを見出せる。

 ピアノ独奏曲も多数あるようで、かつてはCOLLINSレーベルから複数枚のアルバムが出
ており、それはハイペリオンの廉価版レーベルであるヘリオスに移行している。興味があ
る人は、是非そちらもチェックするとよいだろう。


シュレーザー(SCHLOZER,Paul de、1841-1898、ロシア)

 生涯もあまりわかっていない人のようだが、16分音符の6連譜が休みなく続く「練習曲
変イ長調op.1-2」は、20世紀前半的雰囲気の小品として、おさえておきたい。とりあえず
はハフ盤があれば、もう演奏が見事過ぎるから十分だが、アイリーン・ジョイスがレパに
入れていたというのは興味深い。もちろん、ベヒシュタインのピアノを弾くボレット盤も
忘れがたい。
○Bolet(DECCA,UCCD-8020国内盤)85年
○Hough(VIRGIN,VC7 90732-2)86年
○Joyce(TESTAMENT,SBT1174)33年


シェック(SCHOECK,Othmar、1886-1957、スイス)

 声楽の人、シェックのピアノ曲とはまたマニアっぽい分野だが、フーズム城の珍曲音楽
祭のライヴで少し聴ける。
○Bartschi(DANACORD,DACOCD419)93年ライヴ
 二つの小品op.29(1919)で「慰め」と「トッカータ」。うーん、存在感を主張するには
 イマイチですな・・・と思いきや、トッカータの閉め近くで意外な高揚。もしかしてこ
 の人、もう少し探索の余地があるかも。


シェーンベルク(SCHOENBERG,Arnold、1874-1951、オーストリア)

 ピアノ曲は6つ、即ちop.11,19,23,25,33a,33bしかない。好き嫌いはあろうが、20世紀
のピアノ音楽を俯瞰するなら、これ位は知っておいて損はしないだろう。どの曲も充実し
ているが、作品23と25が優れているように思う。これらが自分で自在に弾けるとよいが、
なかなかそうはいかない。しかし僕のようなアマチュアにも強い味方、作品19がある。ピ
アノ曲に限らず、シェーンベルク入門に最適なピースではないだろうか。
 シェーンベルクのピアノ曲と言えば有名なアルバムがある。
○Pollini(DG,423249-2)74年
 上記の6曲、約50分しか入っていない。この頃のポリーニは凄かった。

 なお、本当は下記のようなカップリングの盤が多数あってもいい。つまり、シェーンベ
ルクの6曲に加え、ベルクのソナタ、ウェーベルンの変奏曲だ。その組み合わせのCD、
意外に見かけないように思う。
○Hill(NAXOS,8.553870)96年
 演奏の方は刺激が少ない。

 シェーンベルクのピアノ絡みの作品と言えば、もう一つ、ピアノ協奏曲という重要作が
ある。しかし僕が苦手で、何度か聴いたが感動せず、CDを持つまでに至っていない。

 この他、珍しい連弾の録音がある。
○Kocsis & Hauser(HARMONIAMUNDI,QUI903121)89年
 「室内交響曲op.9」の作曲者によるピアノ4手版。これはこれで、まずまず楽しめる。
 カップリングはバルトーク「中国の不思議な役人」のピアノ4手版。


シューベルト(SCHUBERT,Franz、1797-1828、オーストリア)

 (工事中)


シュルホフ(SCHULHOFF,Erwin、1894-1942、ボヘミア)

 生涯についても調べれば、いろいろと興味深いことがあるのだろう。僕としては、そう
いう方面には深入りせず、ただジャズに影響を受けたピアノ曲があるということで興味を
持った。ある時、中古CD屋で格安でまとめ買いすることができた。まずは同じピアニス
トによる、シュルホフだけのアルバム3枚。収録曲が一番面白いのは、一枚目。
○Visek(SUPRAPHON,11 1870-2 131)93年
収録曲:5 Etudes de Jazz;Funf Pittoresken;Hot Music(Zehn Synkopierte Etuden)
 Partita fur Klavier;Suite dansante en jazz pour piano;
 アルバムのタイトルは「ジャズにインスパイアされたピアノ曲集」。中では「ホット・
 ミュージック」が、各曲は超短いながら充実。「5つのエチュード」の両端曲もまずま
 ず。わかりやすいジャズ、というわけではなく、あくまで硬派だ。ここで挙げる3枚の
 うちこれについては、音質にゆとりがない。
○Visek(SUPRAPHON,11 2172-2 131)95年
収録曲:ピアノソナタ第1〜3番;ピアノのための組曲第2〜3番
 やはり「ピアノソナタ」と言われると聴く方も身構えてしまうが、僕には「組曲」の方
 が楽しめた。特に第3番の明快さは、一聴の価値があると思う。
○Visek(SUPRAPHON,11 2171-2 131)97年
収録曲:Elf Inventionen; Esquisses de Jazz; Musik fur Klavier op.35; Ostinato;
 Studien(1936);Zehn Klavierstucke op.30
 ここでは「オスティナート」という6曲から成る小品集(子供でも弾ける)が、明るく
 楽しい。あとは、無調大好きな人なら聴き通すことができるだろう。

 他の演奏家によるもの。
○Urban(KOCH,3-1186-2 H1)92年
収録曲:ピアノソナタ第3番;Nine little round dances op.13;
Variations on an original Dorian theme and Fugato op.10
 ここでは25分近くかかる「変奏曲」が注目されるが、傑作と呼べるほどでもないと感じ
 る。「ラウンド・ダンス」は普通。しかしピアノソナタでは、この第3番がこう好まれ
 ているのは、何故なのだろう。

 ロシアのピアニスト、ペトロフがとりあげているのが、僕がシュルホフに興味を持った
きっかけだった。
○Petrov(OLYMPIA,OCD280)91年ライヴ
 ピアノソナタ第3番。演奏の切れ味はさすが。
○Petrov(OLYMPIA,OCD273)
 「5 Etudes de Jazz」中のタンゴ。コンサートのアンコールとして弾かれている。さす
 が、上手い。


シューマン(SCHUMANN,Robert、1810-1856、ドイツ)

 (工事中)


シューリヒト(SCHURICHT,Carl、1880-1967、ドイツ)

 言うまでもなく、かの巨匠指揮者である。「大指揮者のピアノ曲」という珍企画CDが
出たので聴いてみたが、トスカニーニ、アンセルメ、クナッパーツブッシュ、セル、ムラ
ヴィンスキー、フルトヴェングラーといずれ劣らぬ巨匠が並ぶ中、僕が最も感じるものが
あったのは、シューリヒトの「ピアノソナタ ヘ短調 作品1」であった。全3楽章の、
何となくベートーヴェンの「熱情」っぽい、どこもかしこもマジメなソナタだが、20歳頃
の作曲者の、音楽にひたむきに取り組もうとする意気込みが伺えて、微笑ましくもある。
このアルバム、山崎浩太郎氏による各指揮者の短い生涯解説が充実しているのもよい。
○白石光隆(tamayura,KKCC3003)2002年
 しかしいずれの人物も、指揮者として大成してほんとに良かったね、と思えるピアノ曲
 が並んでいる。シューリヒト以外では、セルの「3つの小品 作品6」の第3曲「カプ
 リッチョ」がまずまず。白石氏はレパが広い、今後も頑張って欲しい。


シャリーノ(SCIARRINO,Salvatore、b1947-、イタリア)

 現代音楽嫌悪派には無縁の作曲家かもしれない。しかし、嫌悪するほどでもなく、かつ
ピアニスティックな音楽に興味があるなら、この人の音楽は聴いてみて損はない。手許に
は、1992年の録音時点までで作曲されていた全てのピアノ曲を集めたアルバムがある。
○Damerini(DYNAMIC,CDS82)92年
収録曲:Anamorfosi; De la nuit; Esercizio; Etude de concert;
 Perduto in una citta d'acque;Prelude;Variazione su uno spazio;
 ピアノソナタ第1〜4番
 まず特筆しておきたいのはラヴェルのピアノ曲を引用する2つの作品、「De la nuit」
 と「Anamorfosi」である。前者は「夜のガスパール」、後者は「水の戯れ」を中心に、
 「海原の小舟」、更にはポピュラーソングから「Singing in the rain」を使用する。
 ラヴェルに興味がある人が初めてこれを聴く場合は、かなり衝撃を受けるに違いない。
 4つあるピアノソナタでは、第2〜4番はピアノひっぱたき攻撃の好みが分かれるとし
 て、最低音から最高音までをかけずりまわる第1番が注目。現代音楽に免疫のある人な
 ら、たいていは「きれいだ」と感じるだろうし、演奏技巧に自信がある人は、自分でも
 弾いてみたいと思うだろう。

 アムランが来日公演のアンコールで「Anamorfosi」を美しく弾いてくれたことがある。
録音と、映像が発売されている。
○Hamelin(DANACORD,DACOCD649)2004年ライヴ
 フースム城での珍曲演奏会。
◎Hamelin(HYPERION,DVDA68000)2005年
 ケベックでのリサイタル・ライヴ映像。


スコット(SCOTT,Cyril、1879-1970、イギリス)

 何かの本で、スコットの「Lotus Land蓮の国」がピアノピースとして絶品だという情報
を知った。この曲はピアノ独奏曲としてよりも、クライスラー編によるバイオリン版の方
が有名ではないだろうか。僕自身としては、そんなに素敵な曲かなあという感想である。
手許の音源をあげておくが、アイリーン・ジョイス盤の華麗で高貴な演奏に惹かれる。
○Amato(DANACORD,DACOCD389)91年
○Andsnes(EMI,0946 3 41682 2 9)2005-6年
○Joyce(TESTAMENT,SBT1174)37年
 ここでは「黒人の踊りop.58-5」というハ長調の短い無窮動的小品も収録。
○Lin(BIS,BIS-CD-1110)2000年
○Nettle & Markham(IMP,MCD65)92年
 2台ピアノ版。響きが立体的で、なかなか良い。

 ついでだから手許にあるスコットの小品。後者は、日本が題材ということで注目される
が、「蓮の国」にはかなわないなあ。
○Cherry ripe/Jones(NIMBUS,NI5326)91年
○Soiree japonaise op.67-4/小川典子(BIS,BIS-CD-1045)99年

 手許のCDを整理していたら、同じ姓ながら名前が異なるアメリカ人のスコット(ジェ
ームズ)の小曲が一つあった。混同しないように。スコットという姓の作曲家でCDにな
るような人は他にも複数いるようだ。
○Shields(VOX,CD3X3027)70年代半ば頃
 4分弱の「Ragtime oriole」で、この録音で聴く限り、とりたてて特徴あるラグタイム
 でもない。


スクリャービン(SCRIABIN,Alexander、1872-1915、ロシア)

 これが弾ければ昇天:幻想曲op.28、練習曲op.42-5のそれぞれ第2主題

 楽典の本で「神秘和音」がなんとか・・・といった文章を見てから、スクリャービンと
いう人物に対する興味は無限に沸き起こっていったものだ。そしてその音楽を実際に音で
聴いてみると、そこに潜む魔性に、理由もなく吸い寄せられる。初期のショパン的な作風
から、「神秘和音」を自在に操る作品まで、ピアノという楽器に興味を持ったからには、
スクリャービンに触れないのは勿体無い。

 作品番号付き作品を管弦楽曲を含めて番号順に並べてみる。
ワルツ ヘ短調op.1
3つの小品op.2(練習曲、前奏曲、マズルカ風即興曲)
10のマズルカop.3
アレグロ・アパショナートop.4
2つの夜想曲op.5
ピアノソナタ第1番op.6
2つのマズルカ風即興曲op.7
12の練習曲op.8
2つの左手のための小品op.9(前奏曲、夜想曲)
2つの即興曲op.10
24の前奏曲op.11
2つの即興曲op.12
6つの前奏曲op.13
2つの即興曲op.14
5つの前奏曲op.15
5つの前奏曲op.16
7つの前奏曲op.17
演奏会用アレグロop.18
ピアノソナタ第2番op.19
ピアノ協奏曲op.20
ポロネーズop.21
4つの前奏曲op.22
ピアノソナタ第3番op.23
夢(管弦楽曲)op.24
9つのマズルカop.25
交響曲第1番op.26
2つの前奏曲op.27
幻想曲op.28
交響曲第2番op.29
ピアノソナタ第4番op.30
4つの前奏曲op.31
2つの詩曲op.32
4つの前奏曲op.33
悲劇的詩曲op.34
3つの前奏曲op.35
悪魔的詩曲op.36
4つの前奏曲op.37
ワルツ変イ長調、ヘ短調op.38
4つの前奏曲op.39
2つのマズルカop.40
詩曲op.41
8つの練習曲op.42
交響曲第3番op.43
2つの詩曲op.44
3つの小品op.45(アルバムの綴り、おどけた詩曲、前奏曲)
スケルツォop.46
ワルツop.47
4つの前奏曲op.48
3つの小品op.49(練習曲、前奏曲、夢想)
4つの小品op.51(たよりなさ、前奏曲、翼のある詩曲、やつれの舞曲)
3つの小品op.52(詩曲、なぞ、やつれの前奏曲)
ピアノソナタ第5番op.53
交響曲第4番op.54
4つの小品op.56(前奏曲、皮肉、ニュアンス、練習曲)
2つの小品op.57(あこがれ、舞い上がる愛撫)
アルバムの綴りop.58
2つの小品op.59(詩曲、前奏曲)
交響曲第5番op.60
詩曲・夜想曲op.61
ピアノソナタ第6番op.62
2つの詩曲op.63
ピアノソナタ第7番op.64
3つの練習曲op.65
ピアノソナタ第8番op.66
2つの前奏曲op.67
ピアノソナタ第9番op.68
2つの詩曲op.69
ピアノソナタ第10番op.70
2つの詩曲op.71
炎にむかってop.72
2つの舞曲op.73
5つの前奏曲op.74

 ピアノ独奏曲を同じピアニストの演奏で網羅するアルバムというのが、ありそうで殆ど
無い。僕は以下の2種を聴いたが、とりあえずはスウェーデン出身の女性Lettberg盤を推
しておきたい。この8枚組の欠点は、作品番号のない遺作が全く含まれていないところ。
○Lettberg(CAPRICCIO,49586)2004-2007年
 ピアノソナタと小品、作品番号付きのピアノソロ作品全集8枚組。ボーナスにDVDが
 付いており、ベーゼンドルファーを弾くピアニストに、様々な色彩や映像を重ねる試み
 が収められている。同じDVDに収録されたピアニストへのインタビューによると、彼
 女はソフロニツキーの全録音を聴いて育ったということだ。
○Ponti(VOX,CD5X3606)
○Ponti(VOX,CDX5184)
 前者はピアノソナタを除いた小品集5枚組。後者がピアノソナタ集で、一部の小品がこ
 ちらに含まれているので、全集にするには両方買う必要がある。遺作も網羅しているの
 が特徴。

 後述するが、結局のところ、まずはホロヴィッツの音源をおさえておかないとスクリャ
ービンの演奏史を語ることはできないと思っている。従ってまずはホロヴィッツによる録
音から。曲の選択も結局は、これらに含まれるものが最上のスクリャービンとも言える。
○Horowitz(SONY,S2K93023)65年ライヴ
 世に名高いホロヴィッツのカムバックリサイタルの記録CDに「ピアノソナタ第9番」
 と「詩曲op.32-1」、それにアンコールで弾かれた「練習曲op.2-1」が含まれている。
 ソナタは、細かいことを言えばいろいろあるかもしれないが、やはり今もって、これを
 超える演奏というのものは考えられない。「詩曲」も絶品。両曲とも拍手が早すぎるき
 らいはあるが、これだけの演奏が眼前で展開されれば、拍手を我慢できなかった気持ち
 も理解できる。「練習曲op.2-1」のホロヴィッツ音源は多数あるが、どれもそれほど変
 わらないから、まずはこれを聴くとよい。このプログラム、スクリャービンの没後50年
 を記念してのものだということだが、没後百年になる2015年、ホロヴィッツ以上のスク
 リャービン弾きがこの世に現れるのだろうか。なおここであげたCD番号の盤は、2003
 年に発売された、この歴史的演奏会の無編集盤。
○Horowitz(SONY,S3K53461)66年ライヴ
 65年カーネギーホールにおけるカムバックリサイタルの翌年の同ホールでのライヴで弾
 かれた「ピアノソナタ第10番」。この演奏がまた強烈無比、すごすぎ。もうこの曲を弾
 こうとするピアニストがいなくなってもしかたないくらいだ。それにしても、これも拍
 手が早いな。
○Horowitz(RCA,BVCC-37309国内盤)53年ライヴ
 ピアノソナタ第9番。ホロヴィッツ・ファンなら、たった6分半で終わってしまう、こ
 の53年音源も必聴。練習曲から2曲、op.8-11と42-5も聴けるが、下の盤(6215-2-RG)と
 音源が重複。53年2月25日、カーネギーホールでのライヴを収録したアルバムで、この
 番号の盤は「ヴィンテージ・コレクション」と銘打ったシリーズで発売された国内盤。
○Horowitz(SONY,SK53472)72年
収録曲:練習曲op.8-2,8-8,8-10,8-11,42-3/5,65-3; アルバムの綴りop.45-1,58;
 2つの詩曲op.69; 炎に向かってop.72
 これは何と言っても「炎に向かって」である。ピアノという楽器が持つ可能性の一つの
 極限を示す例だ。また「練習曲変ニ長調op.8-10」の低音炸裂などを聴けばホロヴィッ
 ツに惚れないわけがない。もちろん他の曲も選曲も含めて素晴らしいの一語に尽きる。
 LP時代は「スクリャービン・アルバム」として発売されていたが、このCDでは同じ
 ロシアのメットナーとラフマニノフがカップリングされている。
○Horowitz(RCA,6215-2-RG)
収録曲:ピアノソナタ第3番(56年);ピアノソナタ第5番(76年ライヴ)
 練習曲op.8-11,42-5(53年ライヴ);練習曲op.8-12(82年ライヴ)
 前奏曲op.11より(1,3,9,10,13,14,16),13-6,15-2,16-1,16-4,27-1,48-3,51-2,59-2,
 67-1(以上56年)
 RCAに残された幾つかのアルバムからスクリャービンだけを拾ってまとめた一枚。特
 にライヴ音源は素晴らしく、「ピアノソナタ第5番」は聴き逃せない。53年の曲名表記
 が、手許の盤では間違っている。82年はロンドンでのコンサートライヴ。

 では基本をおさえたところで、例によって網羅的に集めていく。まとめて触れるには、
まずピアノソナタから。作品番号付きが10曲ある。名曲解説全集みたいな書籍を読んでく
ださればよいが、第5番から作風が変わり、第6番からまた一段、神秘の世界へ飛んでい
く。ショパンの延長線上にある第4番までも十分に魅力的で、最も名曲扱いされているの
は第3番だろうが、第4番の、夢見るような第1楽章と急速かつ変幻自在の第2楽章の対
比は、聴き手を思わず虜にするものがある。また、以前は第8番が難しくてわけわからん
と思っていたのだが、全集を通して聴いたりしているうちに、マニアが言うように、実は
最高傑作は8番、なのかもしれないという気もしてきている。
○Hamelin(HYPERION,CDA67131/2)95年
 アムランは例によって、軽やかさにおいて抜群。第1番第3楽章、第2番第1楽章、第
 6〜8番あたりは特に聴き物だと思う。高度な演奏技巧に興味を持つ人なら聴かないわ
 けにはいかない。しかし来日公演でも感じたが、例えば「第5番」などは、すっきりし
 すぎている気がする(ホロヴィッツあたりの衝撃が大きすぎるのかもしれないが)。ソ
 ナタ全曲以外に、初期のソナタ幻想曲嬰ト短調と、幻想曲ロ長調op.28を収録。
○Ogdon(EMI,CZS5 72652 2)71年
 基本的にテンポ速めの演奏が多い。弾き飛ばしの傾向があるが、いくつかの楽章の迫力
 には、ものすごいものがある。第1番の第1楽章、第2番の第2楽章、第3番の第4楽
 章などがいい。特に第3番第4楽章のイケイケドンドンぶりは、この1トラックだけで
 も聴く価値がある。肝心の第4、5番あたりがイマイチなのは非常に残念。謎の作品第
 8番あたりが、とてもいい感じに聞こえる。これでもう少し録音のサウンドに潤いがあ
 れば、スローテンポの曲がより魅力的だっただろう。他に小品として、練習曲op.2-1、
 前奏曲op.48,67,74、2つの小品op.57、アルバムの綴り op.58、2つの詩曲op.63、炎
 に向かってop.72を収録して、バジェットプライス2枚組でお買い得。
○Austbo(BRILLIANT CLASSICS,6137)90年
 2枚組で千円未満で売っていたりするアルバムだが、価格を考えると十分の内容。強烈
 な個性には乏しいが。
○Glemser(NAXOS,8.553158)94年
 第2、5、6、7、9番。
○Glemser(NAXOS,8.555368)97年
 第3、10、変ホ短調(遺作)。
 以上2枚、グレムザーはとりあえずそつなくこなしている。入手しやすいナクソスで集
 めるのも一つの手。前者は「幻想曲op.28」、後者は「Poeme-Nocturne op.61」と「炎
 に向かってop.72」(なかなかの熱演)も収録。

 以下、ソナタを単発で拾っていく。
○Sofronitsky(CLASSOUND,001-023)
 第1(第4楽章のみ)、3、4、5、8、9、10番。スクリャービン演奏の権威、ソフ
 ロニツキーによるピアノソナタがまとめて聴ける貴重な音源。第1、10番以外はライヴ
 で、録音年が明記してあるのは第4番(52年)と第9番(58年)。やはりこれは、これ以外
 は受け付けられなくなるかもしれないほど魅力的な演奏。
○Sofronitsky(PHILIPS,456970-2)
収録曲:第2番よりANDANTE;第4番(60年ライヴ);第3、9番(58年録音)
 上記CLASSOUND盤と重なった音源はない。第9番は同じ58年でも異演。かなり楽譜から
 自由に弾いているが、その説得力の強さは、やはり比較を絶している。特に第3番は最
 高。カップリングの小曲、練習曲op.42-3、前奏曲op.11-16,35-2,37-1、詩曲op.32、炎
 に向かって、2つの舞曲op.73も、いずれも素晴らしい。音源が入手しやすいシリーズ
 にこれらの演奏が入ったのは評価される。
○Gekic(PALEXA,CD-0512)98年ライヴ
 第2番。余裕に欠ける部分もあるがライヴの熱気は評価できる。スクリャービンは作品
 32の2つの詩曲も収録で、2曲目では爆発。何となくCDのサウンドに違和感もあり、
 会場で聴けばもっと良かったのでは。ファツィオーリのピアノを使用。
○Richter(HARMONIAMUNDI,CMX356020.34)72年ライヴ
 第2番と第5番。第2番の第1楽章から、強烈無比な連続打鍵攻撃に耳が参るが、第5
 番では更にエスカレート。ヘッドフォンで聴くと難聴になること間違いなしなので、注
 意すべき。こういう演奏が大好きな人もいるだろう。
○Chen(PROPIANO,PPR224523)98年
 第3番。カップリングのストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」は、ポリーニ路線を好
 む人なら必ず気に入る好演だが、それに比べれば特筆度は劣る。しかし、もしソフロニ
 ツキーやホロヴィッツやオグドンを知らなければ、高く評価される演奏でもある。もう
 一つ、カップリングのスクリャービン「幻想曲」も良いが、真面目に弾きすぎかも。
○Gilels(MELODIYA,74321 40121 2)84年ライヴ
 第3番。硬軟の表情を兼ね備えた、なかなか良い演奏。併録の「5つの前奏曲op.74」
 も聴き逃せない。
○Zarafiants(ALMRECORDS,ALCD-9012国内盤)98年
 第3番。ザラフィアンツの演奏はテンポゆっくりめで細部こだわりというケースが多い
 が、第1、3楽章で良い方に作用していると思う。第3から終楽章への移行部分の美し
 さも出色。旋律歌いぬきって感覚。
○Pletnev(VIRGIN,VC5 45247 2)96年
 第4、10番。例によってプレトニョフは、独特の味付けを山ほどやっている。特に第
 4番は、熱狂的興奮は無いが、一聴の価値あり。10番は、ホロヴィッツ盤に慣れた耳に
 は意外過ぎる解釈に触れることができる。カップリングされた「24の前奏曲op.11」も
 いい演奏だと思う。その他、前奏曲op.49-2と51-2、3つの小品op.45、夢想op.49-3、
 やつれの舞曲 op.51-4及び同タイトルのop.52-3、2つの小品op.57を収録。
○Cherkassky(DECCA,433657-2)82年ライヴ
 第4番。速く弾くだけが能じゃない。指回りが少々覚束なくても何のその。チェルカス
 キー翁の妙技に酔う。
○Gavrilov(PHILIPS,456787-2)84年
 第4番。奏者の息がたっぷり拾われている。とにかく元気が良く、終わりの部分など、
 ピアノが壊れそうな連打攻撃。僕が好きな「練習曲op.42-5」も、さすがに乱暴じゃな
 いだろうか。こういうのを「若気の至り」と言うのだろうが、まあこういうのなら「若
 気の至り」って実に結構なことじゃないかとも思う。これはフィリップスの例の「20
 世紀のグレート・ピアニスト」シリーズ2枚組だが、オリジナルのEMI盤はスクリャー
 ビンだけのアルバムで、「24の前奏曲op.11」とカップリング。
○Gilels(MK,MK417072)57年ライヴ
 第4番。客席の咳払いや椅子を引く雑音などを拾った、音はかなり悪いライヴ録音。迫
 力は相当のものだが、ガブリーロフには一歩劣るか。
○Kuzmin(RUSSIANDISC,RDCD10026)94年
 第4番。暴れん坊クズミン万歳!6分55秒という演奏時間は評価してあげましょう。突
 発的強打、目立つ部分の譜読みミスもクズミン君ならでは。カップリングの練習曲3つ
 は若さ丸出し。
○Trpceski(EMI,CDZ5 75202 2)2001年
 第5番。なんかこう、決め手に欠けるなあ。きれいはきれいなんだけど。
○Hough(ASV,CDAMM157R)
 第9番。悪い演奏ではないが、ホロヴィッツの前では存在価値の主張が難しい。録音デ
 ータ不明だが恐らく85年前後。ハフがハイペリオンと契約する録音で、プロコフィエフ
 のソナタ6番とリャプーノフの練習曲を併録。
○Volodos(SONY,SK60893)98年ライヴ
 第10番。冷静に考えればコントロールの行き届いた驚異的な演奏だが、ホロヴィッツを
 聴いてしまった耳には、美しすぎという印象。小品からop.52-2及び57-2と、余り耳に
 しない前奏曲op.2-2も収録。98年10月21日、カーネギーホールでのライヴ。

 ソナタに続いて他の小曲たちに行くが、まずは珍しい初期作品だけのアルバム。
○Coombs(HYPERION,CDA67149)2000年
収録曲:ソナタ変ホ短調; ソナタ幻想曲嬰ト短調; Mlle Egorovaの主題による変奏曲;
 アレグロアパッショナートop.4; カノン ニ短調;フーガ ホ短調;
 マズルカ ロ短調、ヘ長調; ワルツ ヘ短調op.1; ワルツ嬰ト短調、変ニ長調;
 左手のための2つの小品op.9; 夜想曲変イ長調; 夜想曲op.5-1,2;
 練習曲嬰ニ短調(op.8-12の初期稿);
 これは、いわゆるサロン風小品が好きな人なら聴いて損は無い。必ずや、お気に入りの
 小品が見つかるだろう。ピアノソナタの楽章だけが注目なのではない。僕の場合は「変
 奏曲」が良かった。

 安くて、それなりに良い演奏で、たくさん網羅して聴きたいなら、ナクソスで良い買い
物ができる。以下の4枚から。
○Paley(NAXOS,8.553070)94年
収録曲:練習曲全曲(op.2-1,8,42,49-1,56-4,65)
 全体的にマイルド、ソフトな演奏。op.8-12の終結部に、その特徴が集約されている。
○Zarafiants(NAXOS,8.553997)96年
収録曲:前奏曲op.2-2,9-1,11,13,15,16
○Zarafiants(NAXOS,8.554145)96年
収録曲:前奏曲op.22,27,31,33,35,37,39,45-3,48,49-2,51-2,56-1,59-2,67,74
 以上2枚で前奏曲を網羅。後者は息子の作品も収録。
○Long(NAXOS,8.553600)95年
 マズルカ全集。なんというか、悪くない曲ばかりが集まっているのだが、凄く良い曲も
 ない、という惜しい集合体。

 練習曲を少し詳しく見ていくと、有名な作品と言えばop.2-1、8-12、42-5の3つになる
だろうが、即、ホロヴィッツが自家薬籠中の物としている作品たちということになる。改
めて気づいたのは、変ロ短調op.8-11を 弾く人も意外といるということ。これら4曲を中
心に、抜粋盤は、既に触れた盤以外にも、手許にあるだけでたくさんある。その中から特
に触れておきたい音源だけを以下に。
○Horowitz(RCA,09026-60526-2)50年
 op.2-1のみ。この47年の「展覧会の絵」をメインとしたアルバムには、同じスクリャー
 ビンでは「前奏曲op.11-5,22-1」の56年録音盤と、ピアノソナタの項で触れた第9番の
 53年カーネギーライヴも併録されている。
○Horowitz(SONY,S2K53457)62年
○Horowitz(EXCLUSIVE,EX92T39/40)85年ライヴ
○Horowitz(DG,F35G20060国内盤)86年ライヴ
 以上4枚はいずれもop.2-1,8-12。褒められたことではないが、海賊盤である85年のス
 カラ座ライヴ(それもこの2枚組のうちの1枚目11月17日の方)が素晴らしい。86年の
 モスクワライヴも勿論良いのだが。
○Horowitz(DG,F35G20024国内盤)85年
○Horowitz(SONY,SK53465)68年ライヴ
 以上2枚は練習曲op.8-12のみ。後者は有名な68年テレビコンサート。
○Horowitz(LIVING STAGE,LS4035177)69年ライヴ
 1969年10月26日のボストン・ライヴ。op.2-1,65-2&3,42-3/5,8-10&11の全8曲。特に良
 いのはop.2-1と8-10。
○Lang(TELARC,CD-80582)2001年
 op.2-1,8-2,3,8,10/12,42-3/4,65-3。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のライヴの余
 白に入ったステレオ録音。ホロヴィッツの影響下にありながらも、何とか新味を出そう
 とする努力は買える。
○Richter(PHILIPS,456952-2)52年ライヴ
 op.2-1,8-5&11,42-2/6&8,65-1/3。テープが伸びてしまったような音がするop.2-1に始
 まる。それなりに味わいはあるが、まあまあというところ。
○Kitain(APR,APR7029)38年
 op.2-1。バレル、ホロヴィッツと並び称されたピアニストだが、内声の表現など只者で
 はない。前奏曲op.11-2とマズルカop.25-3もロマンの極み。
○Barere(APR,CDAPR7013/4)録音年不詳
○Barere(APR,APR5623)47年ライヴ
 暴れ馬サイモン・バレルによるop.8-12を2種。後者の、最後から2つ目の和音で嵐の
 ような拍手が沸き起こる音源の方を推薦。
○雁部一浩(ALMRECORDS,ALCD-3023)88年ライヴ
 op.8-12を、ところどころ音を変えて効果をあげている。ロマン派の作品をロマン的に
 弾くことにかけては並ぶ者のない雁部氏の本領発揮。スクリャービンは「アルバムの綴
 りop.45-1」も収録。東京・バリオホールにおける88年9月3日ライヴ。

 続いて前奏曲。これは練習曲と比べると、聴くには少し劣ると思うが、技巧的にそれほ
ど難しくなさそうなピースを探してきてアマチュアが弾くには面白いかもしれない。これ
も抜粋盤では幾つかの音源も持っているから、練習曲と同様に、既述音源を除いて特筆し
ておきたいものだけを。
○Horowitz(RCA,09026-60526-2)56年
 op.11-5と22-1。

 練習曲や前奏曲のようなシリーズにはなっていないが、「幻想曲op.28」も忘れられな
い小品である。最後に再び触れるが、この第2主題の甘ったるさに興味を持てないピアノ
好きって、いるのだろうか。
○Chen(PROPIANO,PPR224523)98年
○Hamelin(HYPERION,CDA67131/2)95年
○Glemser(NAXOS,8.553158)94年
○Richter(PHILIPS,438627-2)録音年不詳ライヴ
○Zarafiants(ALMRECORDS,ALCD-9017国内盤)98年
 手許にある音源の中では、まずはピアノソナタ全集の余白に入っているアムラン盤をベ
 ーシック・ライヴラリーとしてよいだろう。しかしまだ、理想の音源に出会えていない
 曲だ。

 忘れられない小品といえば、ホロヴィッツ音源で既に触れたが「炎に向かってop.72」
が異常だ。結局はホロヴィッツ盤だけがあればいいが、とりあえず手許にあるのは以下。
○Glemser(NAXOS,8.555368)97年
○岡城千歳(PROPIANO,PPR224519)97年
○Richter(PHILIPS,438627-2)録音年不詳ライヴ
○Sofronitsky(PHILIPS,456970-2)59年

 さてこの他の、詩曲だの何だの様々な表題が付けられた小品をできるだけ網羅するには
ということで、僕の手許の音源を整理しておく。これらの中にも、アマチュアピアニスト
が自分の楽しみのためだけに弾くには格好の小品がある。例えば「2つの小品op.57」の
第2曲など、技巧的に簡単な範囲で、スクリャービン独自の音世界を楽しめる。名ピアニ
ストたちも意外と弾いているほどだ。
○即興曲op.7-2/Paik(DANTE,PSCG9768/70)91年
 せっかく韓国の至宝パイクが素晴らしく弾いているのに、何てひどいサウンド。練習曲
 op.8-12の初期稿と、遺作のワルツ変ニ長調も収録。
○ポロネーズop.21/Shukow(DANACORD,DACOCD379)90年
○詩曲op.32/Gekic(PALEXA,CD-0512)98年ライヴ
○悲劇的詩曲op.34/Hamelin(HYPERION,CDA67050)98年
○悪魔的詩曲op.36/Ponti(DANTE,PSCG9768/70)77年ライヴ
 ポンティの爆発ぶりがなかなか好ましい。
○ワルツop.38/Sofronitsky(MELODIYA,74321 25177 2)60年ライヴ
 悲劇的詩曲op.34と練習曲op.8-11も収録。「ピアノソナタ第4番」はピアノソナタの項
 で述べたフィリップス2枚組シリーズと同音源で、これら3つの小曲と同日のライヴ音
 源のようだ。
○3つの小品op.45/岡城(PROPIANO,PPR224519)97年
○夢想op.49-3/Pletnev(VIRGIN,VC5 45247 2)96年
○たよりなさop.51-1/Feinberg(ARBITER,ARBITER118)47年
○やつれの舞曲op.51-4/Pletnev(VIRGIN,VC5 45247 2)96年
○謎op.52-2/Volodos(SONY,SK60893)98年ライヴ
○やつれの舞曲op.52-3/Pletnev(VIRGIN,VC5 45247 2)96年
○2つの小品op.57/Pletnev(VIRGIN,VC5 45247 2)96年
○アルバムの綴りop.58/岡城(PROPIANO,PPR224519)97年
○2つの小品op.59/岡城(PROPIANO,PPR224519)97年
○詩曲・夜想曲op.61/Richter(PHILIPS,438627-2)録音年不詳ライヴ
○2つの詩曲op.71/Hamelin(HYPERION,CDA67050)98年
○2つの舞曲op.73/Richter(PHILIPS,438627-2)録音年不詳ライヴ


 以下は、編曲物を含む、管弦楽絡みのピアノ音楽。
○Prunyi & Falvai(NAXOS,8.555327)95年
 交響曲第3、4番の2台ピアノ版(編曲者はConus)。曲目を見た時には冗談かと思った
 が、聴いてみると想像以上にイケる。第3番は第2楽章が美しい。そして第4番「法悦
 の詩」は、最初からピアノで書かれたかのように、楽器と曲の相性は悪くない。

 交響曲第4番「法悦」の2台ピアノ版は、他にも手許に2枚ある。
○Achatz & Nagai(BIS,BIS-CD-746)95年
○岡城千歳(PROPIANO,PPR224519)97年
 BIS盤はピアノの美しい響きを楽しめ、一人多重録音による岡城盤は情念的な側面を楽
 しめる。岡城盤では多くのピアノ独奏曲が聴ける(前奏曲op.37,39,67,74、練習曲op.
 8-12の初期稿、3つの小品op.45、2つの小品op.57、アルバムの一葉op.58、2つの小
 品op.59、炎に向かって)。

 ピアノ協奏曲は一つだけだが、ショパンの延長線上で、やはりそれなりの価値はある。
以下の2枚はいずれも、ピアノと合唱が入る交響曲第5番も収録している。
○ピアノ:Ashkenazy、Maazel指揮LSO(DECCA,POCL9443国内盤)78年
○ピアノ:Scherbakov、Golovschin指揮Moscow SO(NAXOS,8.550818)96年
 前者はかなり以前から有名な演奏で交響曲第4、5番を収録。後者は交響曲第5番と、
 ピアノ曲の管弦楽版というレア物をカップリング。

 スクリャービンの最後に変り種を一つ。
○Philipp & Pruggmayer-Philipp(BERLINCLASSICS,0032042BC)96年
 基本的にジャズの即興演奏のアルバムだが、その中に、ピアノソナタ第9、10番をネタ
 にしたピアノソロの即興演奏と、ピアノソナタ第3番第2楽章による2台ピアノでの即
 興演奏が含まれている。これは確かに、スクリャービンのピアノ曲好きであれば、一聴
 以上の価値があるとは思うが、即興演奏として、広く薦められるかといえば、そうでも
 ないように感じる。

 ついでに、息子ジュリアン・スクリャービンの「4つの前奏曲」も独特の世界でマニア
に知られている。入手しやすい一枚。
○Zarafiants(NAXOS,8.554145)96年
 前奏曲全集2枚のうちの第2集の余白に収録。

 結局のところ、結論として、ホロヴィッツとソフロニツキー(後者について、僕は全て
の音源を聴き尽くしたわけではないが)があればそれで十分、ということかもしれない。
 作品としては、もちろんピアノソナタ第5番以降の、他の誰も真似できない世界の魅力
は、いくら特筆してもしすぎることはない。ただし僕自身の好みとしては、まだショパン
の影響が残っていたころの、美しすぎるメロディーに心が向く。例えば「幻想曲op.28」
の第2主題、はたまた「練習曲op.42-5」の第2主題といったところ(後者はホロヴィッ
ツの53年盤みたいなのが理想)は、僕のように手が小さい人間にとっては、演奏技巧的に
も難しすぎるものがあって、なかなか、自分の理想のようには弾けない。それらの部分で
聴く者全てが涙を流すような演奏ができれば、僕も本物のピアニストだと自負できると思
うのだけど・・・。


スカルソープ(SCULTHORPE,Peter、b1929-、オーストラリア)

 とりたてて名前をあげるほど有名作曲家では無い。しかし以下のアルバムに聴く彼のピ
アノ独奏曲は、必ずや気に入る人がいるに違いない。音が少なく、技巧的には非常に簡単
で、ペルトの音楽にも似ているし、感触としては僕は例えば加古隆を想起する。アマチュ
アピアニストが楽しみに弾くのに特に好適。収録曲中では「夜の小品集」としてまとめら
れた5曲(雪、月、花、夜、星)が、音楽が甘すぎることもなくお薦めである。お気づき
のように、この曲集のテーマは日本で、「夜」と「星」は正岡子規の詩句に影響されてい
る。他の2曲はアボリジニからテーマをとっている。

○Riu(LINN,CKD111)99年
収録曲:Djilile; Night pieces; Singing Sun(from A Little Book of Hours)
 ペルト、タヴナー、モンポウと、思索的なピアノ曲が並ぶ。ヤナーチェク「霧の中で」
 が最も音の動きが大きい。これらの曲に適合したセンスを感じさせるピアニストだ。


セッションズ(SESSIONS,Roger、1896-1985、アメリカ)

 20世紀アメリカの作曲家としては、しばしば名前を聞くほうだが、僕としては、手堅い
現代音楽を書いたアメリカの作曲家には、あまり興味が無い。もしこの人のピアノ曲を集
めたければKOCHからSalwenという人の演奏で、3つのピアノソナタを含むピアノ作品集が
あるようだ。手許には2つの作品。

○Shields(VOX,CD3X3027)70年代半ば頃
 「日記から」を収録。演奏時間は10分弱。4つの部分があるが、第2曲のアレグロのと
 ころは、ちょっとかっこいいかも。奏者がほんの少し唸っている。1900〜1945年のアメ
 リカのピアノ曲だけの3枚組。たまに音が歪んだり、雑音が入ったりで、音の状態は決
 してよくない。
○Lawson(VIRGIN,VBD5 61928 2)91年
 全3楽章、15分ほどのピアノソナタ第2番。無調に近く、真面目過ぎて、楽しく聴く
 のは困難。第3楽章だけは力感が溢れて、少しいいかも。現代アメリカのピアノソナタ
 だけを集めたバジェット2枚組。全体の選曲・演奏は悪くない。


セヴラック(SEVERAC,Deodat de、1872-1921、フランス)

 スタンダードなレパだけでは気が済まず、周辺を探索するとして、奇を衒うのも気がひ
ける。そしてやっぱりフランス近代は爽やかだから好きだ、という人なら、セヴラックの
ピアノ曲は結構な宝の山かもしれない。僕も学生の頃から、「セルダーニャ」あたりが気
に入っていた。どういうわけか20世紀末からまた興味が集まってきているみたいだ。CD
で聴くなら、チッコリーニがまとめて録音しているのが、曲の網羅のためには好適。これ
は3枚組で、店によっては1枚分の価格で買える。
○Ciccolini(EMI,CES5 72372 2)69,77年
収録曲:CD1:En Languedoc; Cerdana;
CD2:Le Chant de la terre;Baigneuses au soleil;Les Naiades et le faune indiscret;
Le Soldat de plomb; Pipperment-get; Stances a Madame de Pompadour
CD3:En vacances 1,2; Valse romantique; Sous les lauriers roses
 改めて聴いてみると、やはりCD1に入っている2曲が良い。特に「セルダーニャ」は、
 技巧的にも難しすぎず、かといって易しすぎず、演奏効果もそれなりにあがるので、ま
 ずはこのあたりから注目してみてはどうだろう。CD2の収録曲も悪くは無い。CD3では、
 「En vacances休暇にて」のわかりやすい抒情が良く、特に第2巻がお薦めだと思う。
 このCD、演奏は十分に良いと思うが、録音年の割にサウンドが今いち。そのうち、曲
 もこれくらい網羅し、音も良いセヴラック集が出てくるのに期待しよう。

 この他にも、セヴラックの録音は幾つかあるが、決して多くもない。手許にはソロモン
が小曲を弾いた例もあり、ピアノの黄金時代にも無視されていたわけではないようだ。
○Solomon(APR,AOR2000)46年
 「休暇にて」第1集の終曲のみ。

 出版の方も、国内版楽譜も出てきたりで、セヴラックのファンが少しは増えるかも。


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