高橋悠治(TAKAHASHI,Yuji、b1938-、日本)

 メッセージ性の強い音楽活動で知られる。合唱ファンとしても気になる作曲家の一人で
あることは間違いない。ピアノ曲も聴いてみたいという人もいるだろう。
 まず、高橋悠治作品だけのアルバムから。
○高橋悠治(DG,C25G00027国内盤)76年
収録曲:毛沢東 詞三首、ローザス2、橋1、メアンデル、
 自作自演アルバム「YUJI PLAYS YUJI」。普通のピアノ曲は「毛沢東 詞三首」で、自
 作の歌曲の編曲。その第2曲は現代音楽としては相当にきれいでわかりやすい。ローザ
 スは調律を変えたピアノで演奏、僕の耳には気持ち悪いだけだが、前衛好きならいいか
 も。橋、メアンデルはピアノ以外の鍵盤楽器による。後者は演奏時間が書いていないが
 12分強。まー、「毛沢東」以外は難しいわ・・・。

 続いて「現代ピアノ音楽の諸相2」というアルバムに含まれる高橋作品2題。
○高橋悠治、志村泉(日本コロムビア,COCO78457国内盤)83年
 「さまよう風の痛み」(自作自演)は韓国の詩人の詩による歌曲の編曲。楽譜は18段の
 スコア2ページで単純な音符が記されているだけ。静的な4分強の音楽。「光州、19
 80年5月」(演奏は志村泉)は、韓国の光州事件をテーマにした高橋の諸作のうちの
 一つで、ピアノ曲では代表作とされている。スライドのための音楽。11分半。

 結局、僕が気持ちよくなったのは「毛沢東 詞三首」の第2曲だけだった。


武満徹(TAKEMITSU,Toru、1930-1996、日本)

 それなりの量のピアノ曲を残してくれたのは、ピアノファンには嬉しいことであった。
何しろ世界の武満だけあって、ピアノ曲を集めた音源は非常に多いが、実は僕としてはそ
れほど好きな作品たちでもないので、特に集めたりはしていない。となれば、できるだけ
一枚のアルバムで曲を網羅したいので、まず第一に聴いておきたいのが収録時間78分強に
及ぶこれ。
○高橋アキ(EMI,TOCE-55237国内盤)2000年
収録曲:2つのレント; ゴールデン・スランバー; ピアノ・ディスタンス;
 こどものためのピアノ小品; フォー・アウェイ; リタニ; ロマンス ;雨の樹 素描;
 雨の樹 素描2; 遮られない休息; 閉じた眼1; 閉じた眼2
 幻の作品とされていた「2つのレント」と、その改訂版にあたる「リタニ」が共に聴け
 るようになって久しいが、前者の方が音楽が厳しくて好きという人も多いだろう。「こ
 どものためのピアノ小品」と「ロマンス」は作曲者の死後に出版。前者は例によって、
 それほど易しくない。後者は「2つのレント」よりも更に古い作品で暗い。最も気楽に
 楽しめるのは、ビートルズをネタにした「ゴールデン・スランバー」。

 作品としては、基本的にいずれも、現代音楽としては破格にきれいだ。僕自身は「雨の
樹 素描」に惹かれるが、自分で弾くには意外に困難。他の曲は、名高いものが揃ってい
るが、常に触れておきたいようなものでもない。
 なにおっ、武満のピアノ曲こそ、史上最高の音楽だ、と仰る方であれば、音源はたくさ
ん。岡田博美、小賀野久美、小川典子、高橋悠治、館野泉、野平一郎、藤井一興(2種)、
ウッドワード、クロスリー、ピーター・ゼルキン(2種)など、どんどんいきましょう。
ウッドワード盤に含まれている「CORONA(1962)& CROSSING(1962)」は、テープも使った、
武満としては特に急進的な作品で、現代音楽が嫌いな人は気持ち悪くなるだけだから止め
た方が良いが、刺激的な音響はそれなりの魅力がある。それから「雨の樹 素描」は非常
にゆっくり弾いていて、そうか、こうすればヘボでも何とかなるか、という感じだ。
○Woodward(ETCETERA,KTC1103)90年

 次に、武満の管弦楽曲でピアノが活躍するものをチェック。
○ピアノ:高橋悠治、小沢征爾指揮トロント響(RCA,BVCC-5048)69年
 初期作品「アステリズム」。これが武満で最高だという人もいる位、初期独特の厳しさ
 のある作品に仕上がっている。難しいから細かいことはよくわからないのだが、僕も実
 は大好きな作品、演奏である。異様な盛り上がりに畏怖を感じる。
○ピアノ:高橋悠治、高関健指揮東京フィル(TOKYO OPERA CITY,TOCCF-10)2006年ライヴ
 上記「アステリズム」の新しいライヴ録音。タワーレコード限定発売で、一枚千円とい
 う嬉しい価格設定。カップリングはピアノに関係ない、「カシオペア」と「ジェモー」
 の2つの管弦楽曲。稀少な音源と言えるだろう。
○ピアノ:廻由美子、沼尻竜典指揮東京都響(FONTEC,FOCD9273)2000年ライヴ
 60年代作曲「弧<アーク>」の77年改訂版を使用した初音源。「アステリズム」を気に
 入ったという人は、この作品も必聴だ。静けさと激しさの交錯に惹かれる。演奏時間が
 30分近くに及ぶという、武満最大規模の作品で、舞台にかけられることは滅多に無さそ
 うだから貴重な音源。カップリングは武満の管弦楽曲2曲で、「クロッシング」と「オ
 リオンとプレアデス」。
○ピアノ:Crossley、Knussen指揮London Sinfonietta(VIRGIN,VC7 91180 2)88年
 ピアノと管弦楽のための「リヴァーラン」(1984)、15分弱。これは難しいこと抜きに、
 きれいだ。よく言われる、最初の数音を聴いただけで武満とわかる、典型的な80年代の
 武満。
○ピアノ:Crossley, Serkin、Knussen指揮London Sinfonietta(DG,453495-2)97年
 2台のピアノと管弦楽のための「Quotation of Dream夢の引用」(1991)、16分強。クロ
 スリーとピーター・ゼルキンの共演というだけでわくわくさせる演奏者選択。曲の方は
 静的な美に傾斜しすぎかも。僕には「リヴァーラン」に比べ退屈。突然ドビュッシーの
 「海」をあからさまに引用するのには、びっくりさせられる。

 合唱ファンとして密かに期待しているのは、混声合唱のための「うた」をネタに、ジャ
ズ・テイストで見事な即興を披露してくれるピアニストがいないかな、ということ(自分
に才能があれば間違いなく自分でやるところだが、僕じゃあ無理だから)。聴いたことが
ある音源としては、谷川賢作氏が「翼」をピアノ独奏で演奏。また、歌謡曲を多くピアノ
独奏に編曲してコンサートでとりあげている小原孝氏が「死んだ男の残したものは」を実
に簡素な編曲で録音している。手許の「うた」独唱演奏では、いくつかのナンバーで寺嶋
陸也氏がピアノを弾いていて、なかなかに見事なできばえ。でも欲張りな僕は、もっと凄
いのが聴いてみたいのだ。
○メゾソプラノ:保多由子、ギター:鈴木大介、ピアノ:寺嶋陸也
 (VICTOR,VICC60254国内盤)2001年

 ごく普通の、真面目な「うた」編曲では、「小さな空」を上柴はじめ氏がピアノ独奏用
に単純な編曲をしており、CDおよびタイアップ楽譜が出ている
○高木早苗(COLUMBIA,COCQ-83473)2000年


タン(TAN,Dun、b1957-、中国)

 武満も認めた中国の才能、タン・ドゥンのピアノ曲とあれば、現代音楽好きなピアノ愛
好家なら注目せざるを得ないだろう。
○Lang(DG,474820-2)2003年ライヴ
◎Lang(DG,00440 073 0989)同コンサートのDVD盤
 中国人ピアニスト、ラン・ランのカーネギー・ホール・ライヴ。タンの作品番号1にあ
 たる「Eight memories in Watercoler」を収録。中国民謡的素材を用いて、現代音楽と
 しては極めてわかりやすいものになっている。特に終曲は、アンコールピースとして今
 後、好まれていく可能性もある。
○Oppens(楽譜の付録CD)99年
 カーネギーホール100年記念の楽譜(BOOSEY & HAWKES)の付属CDに「Dew-Fall-Drops」
 という小品を収録。内部奏法びしばしで、前衛好き以外には薦められない。僕には難し
 かった。同じアルバムに中国人で、最近よく名前をみかけるチェン・イの作品も収録さ
 れている。そちらの方が普通に動的なピアノ曲で親しみやすい。


タネィエフ(TANEYEV,Sergey Ivanovich、1856-1915、ロシア)

 チャイコフスキーに作曲を、ニコライ・ルビンシュタインにピアノを学んだ人物。ピア
ノ曲も幾つかあるようだが、まずはただ1曲「前奏曲とフーガ 嬰ト短調」を知っておき
たい。この7、8分の小品は、ビッグネームをとりあげるほどで、ロシア物のコンクール
演奏曲としても好適だ。作曲家の古典音楽研究の成果がよく出ている。大胆な転調も演奏
効果の発揮に繋がる。
○Rudenko(TRITON,DMCC-26027)98年
 98年チャイコフスキー・コンクールのライヴで、2位に入賞した際の演奏。音の美しさ
 が評価できる。終わる前に拍手が来てしまう。


タンスマン(TANSMAN,Alexandre、1897-1986、ポーランド)

 世界音楽への関心が興味をそそる。室内楽や管弦楽曲のディスクも多いし、器楽曲では
ギター独奏曲、ピアノ曲が多い。手許にあるピアノ音楽音源はほんの少し。もっと探索す
べきだ。

○小川典子(BIS,BIS-CD-1045)99年
 世界各国を描いた「Le tour de monde en miniature」の第3曲「Complainte de Nikko
 日光の哀しみ」。琴をピアノで再現しようと試みている。当アルバム「ジャポニズム」
 は西洋人から見た日本を音楽で描いたピアノ小曲ばかりを集めた、マニアには欠かせな
 い逸品だ。
○Budiardjo(PROPIANO,PPR224529)99年
 上記盤と同じ「Le tour de monde en miniature」より第9、10曲と、「ノヴェレット
 第3番」。メインの収録曲がゴドフスキーの「ジャワ組曲」なので、いずれもジャワか
 らテーマをとっている。まあ、必聴というほどの面白みは無いのだが。インドネシア出
 身のピアニストが日本のカワイのピアノを使用、何ともエイジアンだ。


テイタム(TATUM,Art、1910-1956、アメリカ)

 これが弾ければ昇天:タイガー・ラグ

 もし僕に音楽の才能がもっとあったら、きっとジャズを一生懸命やっていたに違いない
と思う。才能があるということは、即興が自由自在にできるということだが。さて、ここ
でとりあげるジャズ・ピアニスト、アート・テイタムは、とてつもないピアノの巨人であ
る。ホロヴィッツをはじめ同時代のクラシックのピアニストたちも興味を持ったというこ
とだが、それはそうだろう。残された録音を聴けば、もう平伏すしかない音楽に遭遇する
ことになる。極論すれば、クラシックって、何てつまらないんだろうと感じるほどだ。さ
らに加えて、幼少の頃に病気のため片目失明、もう片方も幾度の手術にもかかわらず通常
の25%くらいしかなかったと知ってしまうと、これはもう、驚異なんて薄っぺらい言葉で
は表現できない。
 表面的には、テイタムの演奏の特徴は、超急速の走句と、全く音をはずさない高速跳躍
が第一に印象に残ることだが、何よりも総合的に言って音楽的である。そのことが素晴ら
しいのだ。
 本当は僕も、テイタムの全音源を集めるくらいの努力をするべきなのだが、それとて相
当の労力を要する。僕が持っているのはせいぜいこの程度だが、これだけでも、全てのピ
アニストを超越した偉人であることに異論をさしはさめない。

○Tatum(WEA MUSIC,WMC5-337国内盤)34-40年
 デッカ録音のソロ集(ジャズでは普通のピアノトリオではなく、完全にソロプレイ)。
 最初に聴いたこの一枚で僕はノックアウト。ドヴォルザーク「ユモレスク」や、マスネ
 「エレジー」といったクラシックネタも面白いが、特に凄いのは「タイガー・ラグ」。
 この跳躍攻撃にあなたは耐えられるか・・・という感じ。この国内盤は91年発売という
 ことは、僕がテイタムのソロを知ったのは就職してから、ということ。高校時代に彼を
 知っていれば、ピアノという楽器に対する価値観が全く変わっていただろうに、その後
 の自分の音楽人生も変わっていたかもしれないのに、と残念に思う。
○Tatum(MUSIC & ARTS,CD673-2)35-43年
 この2枚組はスタンダーズのトランスクリプション集で、上記盤と同じネタでも異なっ
 た即興が聴ける。こちらにも「タイガー・ラグ」が入っている。全61トラック、約150
 分間の快楽が詰まっている。

 他にもテイタムの音源は持っているのだが、とりあえず以上でお腹いっぱい。古いモノ
ラル録音が、更にお洒落度を高める。

 さて、こんなに凄かったら、真似する人は必ず出てくる。現代のピアニストによるこん
なアルバム。
○Mayer(ASV,CD WHL2086)94年
 全15曲を集めたアルバム「Art Tatum solos」。その多くはJed Distler氏の採譜による
 もの。最後の「I know that you know」が気合入っている。まあしかし、無理にこれを
 聴く必要もないだろう。

 でも気持ちは痛いほどわかる、超絶技巧ピアノ曲に興味がある人がテイタムのソロプレ
イを聴いたら、このメイヤーのように、必ずや自分で採譜して弾きたくなるだろう。繰り
返すが、テイタムはとてつもない巨人である。史上最高のピアニストの一人だ。


タウジッヒ(TAUSIG,Karol、1841-1871、ポーランド)

 早死にしたリストの弟子。編曲物収集家(だけ)にはビッグネームで、その名前を落と
すことはできない。基本的にはモトネタの作曲家の項で触れることにするが、オリジナル
度が高い曲だけに、ここで言及しておく。

○Hough(VIRGIN,VC7 59304 2)91年
 師リストの「ハンガリー狂詩曲」に明らかに影響を受けている「ハンガリー風ジプシー
 の旋律 Ungarische Zigeunerweisen」で、11分以上かかる。激しい部分はそれなりに
 楽しめるが、ハフが弾いているからであって、曲としての魅力は今ひとつと言わざるを
 得ない。ハフの優れた業績「ピアノアルバム」の2枚目にあたるアルバムを、この曲で
 締めくくる。なおこの曲にはピアノと管弦楽用の編曲版もあるようだ。


タヴナー(TAVENER,John、b1944-、イギリス)

 ピアノ音楽しか興味が無い人ならタヴナーの名前には反応しないだろうが、僕のように
合唱どっぷり人間だと、あのタヴナーがピアノ曲も書いているとなると興味をもたないわ
けがない。というわけで手許の一枚。
○Riu(LINN RECORDS,CKD111)99年
 「YPAKOE」という20分程度のピアノ独奏曲。5つの部分からなり、キリストの死と再生
 を主題とする。なんとこれは、合唱曲でやろうとしていることそのままじゃないか。ご
 想像のとおり、ピアノよりも合唱の方がうまくいくに決まっている。テイスト的には僕
 はキライじゃないが、人前で弾くには勇気がいる。自宅で悦に入るための作品、か。


チャイコフスキー(TCHAKOVSKY,Pyotr、1840-1893、ロシア)

これが弾ければ昇天:プレトニョフ編曲による演奏会組曲「くるみわり人形」

 誰が何と言おうと、まずは「ピアノ協奏曲第1番」だ。僕も知らず知らずのうちに、30
種類ほどの音源を貯めてしまった。しかしこんなにあったって、もう僕の理想の音源は、
たった一つに決まっている。これがあれば、他の約30枚は、まあどうでもいいくらいだ。
○ピアノ:Horowitz、Szell指揮NYPO(PALEXA,CD-0511)53年ライヴ
○同音源(OTAKEN RECORDS,TKC-302)
 最初は、ホロヴィッツ+トスカニーニを聴いていた。もちろんそれでも十分に満足でき
 る。しかしこのセル盤は、まず音質がよりステレオに近いことが利点。それから指揮が
 また、凄いのだ、ジョージ・セルのライヴは!ピアノの方は、豪快な部分が良いのはも
 ちろんのこと、たとえば第1楽章第2主題のようなカンタービレがまた、身体がとろけ
 そうになるくらい良い。なおこの音源、最初に聴いたのはイタリアのMOVIMENTO MUSICA
 というレーベルから出たCDだった。
 その後、日本のOTAKEN RECORDSが、RCAによるオリジナル赤レーベル盤をマスターに用
 いて復刻するという快挙を成し遂げた。こちらは、上記音源にある音飛びがないばかり
 か、パチパチ系のノイズも殆どなく、音の良さは普通の意味で驚異的である。ただ僕自
 身の感想としては、ピアノの音の美しさの点で、少し後退しているようにも感じられた
 が、ショパンやリストの独奏曲とカップリングされたOTAKEN盤も、必聴だ。
 この他、URANIAというレーベルからも発売されているが、これは少しピッチが高くなっ
 てしまっており、絶対音感派には要注意。
 確かにホロヴィッツの演奏芸術の頂点と言える記録だが、この年から65年まで彼は演奏
 会から引退してしまった。

 ホロヴィッツとトスカニーニと組んだ演奏も挙げておく。有名な演奏が2種類あるが、
とりあえず古い方の41年盤。過去に色んな番号の盤で発売されたが、安いナクソス盤を。
○ピアノ:Horowitz、Toscanini指揮NBCSO(NAXOS,8.110671)41年
 安い上、ブラームスのピアノ協奏曲第2番も聴けるというお買い得盤。

 ということで、このサイトのスタイルでいけば他の音源も挙げるべきだけど、この曲に
限っては聴き比べが意味を為さないので、他音源の皆さん、ごめんなさい!え、新しい録
音のが聴きたい、ですって?では一枚だけ。
○ピアノ:Argerich、Kondrashin指揮BRSO(PHILIPS,446673-2)80年ライヴ
 世間的には史上最高の演奏との誉れ高いシャイーと組んだラフマニノフのピアノ協奏曲
 第3番と、一緒に聴けて安く買える、超お得盤だから推薦。

 さてついでに、管弦楽付きのピアノ作品をまとめておく。ピアノ協奏曲は3曲あるが、
第3番は未完に終わっている。この他、小曲もある。それでまず、肝心の「第1番」の良
い演奏はホロヴィッツで十分だから、珍曲を網羅するアルバム。
○ピアノ:Hoteev、Fedoseyev指揮Tchaikovsky RSO Moscow(KOCH,3-6490-2)96〜98年
収録曲:アレグロ ハ短調; ツィゴイネルワイゼン ヘ短調;
 ピアノ協奏曲第1〜3番(オリジナル版); 演奏会用幻想曲 op.56
 何よりも資料的価値を重視する人なら必聴盤だ。協奏曲はオリジナル版を使用し、第1
 番でも一部、聴きなれた版を違うパッセージが登場する。第3番も、よくある第1楽章
 のみの録音ではなく、全3楽章の形態。アレグロとツィゴイネルワイゼンは超珍曲。し
 かも最後に1890年のEDISON-WAX-ROLLが1分30秒ほど入っていて、チャイコフスキーの
 肉声が含まれている。しかし何故、これを諸手を上げて推薦できないか、それはピアニ
 ストが平凡過ぎだから。このレヴェルでCD録音させてくれるのが、不思議。

 もうちょっと良い演奏で網羅したいなら、内容的、価格的にベスト盤はこれだろう。
○ピアノ:Pletnev、Fedoseyev指揮Philharmonia O(VIRGIN,VBD5 61463 2)90年
収録曲:ピアノ協奏曲第1〜3番;演奏会用幻想曲 op.56
 なかなか元気よい、冴えた演奏。フェドセーエフはときおり凄く重い音を出させる。第
 2番はオリジナル版との注釈あり。第3番は第1楽章のみ。

 カップリングの独奏曲が良いから薦めたくなる2枚組がある。
○ピアノ:Graffman、Szell指揮Cleveland O他(SONY,S2K94737)65,69年
 協奏曲は第1番がセル指揮クリーヴランド管、第2・3番がオーマンディ指揮フィラデ
 ルフィア管と豪華。協奏曲よりも、カップリングの「展覧会の絵」と「イスラメイ」を
 是非お薦めしたい。

 ではピアノ独奏曲に行く。これがまた、凄い量で、網羅するにはポストニコヴァの全集
(ERATO)あたりくらいしかない(僕は未聴)。曲として代表的なものといえば、まず「四
季」になるだろう。何ということはない、普通の抒情的小品集だが捨てがたい味があり、
僕のようなアマチュアが自分で弾いて楽しむには好適だと思う(但しプロの演奏を聴いた
からと言って満足するものでもなく、むしろ退屈するだろう)。有名曲としては6月「舟
歌」と11月「トロイカ」があり、特にこの2曲は単独で演奏されるし、アマチュアピアニ
ストには格好のレパだ。終曲にあたる12月「クリスマス」も季節物として重宝される。
 その「四季」も含め。多くの独奏曲を網羅するなら、ロシアのピアニスト、プレトニョ
フの諸音源から行こう。
○Pletnev(CHANT DU MONDE,LDC278952/3)80,82,86年
収録曲:18の小品op.72;3つの小品op.9;四季
 まずは代表作「四季」が聴けるが、例によってプレトニョフの表情付けが入念で、僕が
 子供の頃から培ってきたこの組曲の演奏イメージとは、かなり違う。しかしよくできた
 演奏であることは、これも例によってプレトニョフらしい。「18の小品」は、演奏技巧
 を披瀝する作品を探している人には好適のレパ。但しさすがに、全18曲を続けて聴くと
 飽きてくる。この小品集については、FMで放送された、プレトニョフの来日公演ライ
 ブによる抜粋演奏が激演で忘れられない。そこで抜粋されていた中で、「悲しい歌」と
 終曲の「トレパークの情景」の2曲が、18曲の中では特に良い曲だ。前者は美しい旋律
 (特に悲しげなわけではない)と分散和音による華麗な修飾が特徴。後者は激しい舞曲
 で、内容空虚ともいえるが、プレトニョフほどの技巧があれば凄まじい演奏効果。「3
 つの小品」は、ちょっと印象が薄い。なお当盤について付言すると、「四季」はまとも
 として、他の2曲は音質が良くない。特に「18の小品」はピッチが高めで、絶対音感派
 には耐え難い音源になっている。
○Pletnev(DG,00289 477 5378)2004年ライヴ
 上記盤に含まれる「18の小品 op.72」の再録音で、チューリッヒのトーンハレにおける
 ライヴ録音。上述の来日公演ライヴには及ばないと思うが、全18曲のライヴ音源という
 ことで、それなりの意味はある。僕の好みとしては、もう少し音色の変化が感じられる
 録音であれば、というところ。ショパンの「夜想曲嬰ハ短調遺作」を併録。
○Pletnev(RCA,74321 66975 2)88年
収録曲:12の中程度の小品op.40;カプリッチョop.8;ピアノソナタ ト長調;
 ロマンスop.5;ワルツ風スケルツオop.7;子供のためのアルバムop.39
 まず注目は大作「ピアノソナタ」であるが、これもたまにリヒテルをはじめとして大家
 がとりあげるけれど、僕には密度が薄い作品としか感じられず、とても全曲を聴く気に
 ならない。「子供のためのアルバム」は題名通り、ピアノ初学者の教材にも好適な素直
 な曲想が魅力。例えばドビュッシーの「子供の領分」やシューマンの「子供の情景」ク
 ラスだと技巧的に難し過ぎるが、このチャイコ作品は平易。しかも内容が子供っぽすぎ
 ることもなく、大人の鑑賞にも十分に堪えうる。第16番「フランスの古い歌」などが有
 名。「12の中程度の小品」は、「18の小品」の演奏技巧を少し下げた趣き。意外と有名
 作が含まれているが、僕個人として特に心ひかれる物は無い。「ロマンス」「カプリッ
 チョ」「ワルツ風スケルツォ」は、ロシアのピアノレパートリーに精通しようとする人
 ならチェックしておきたい。特に「ロマンス」はメロディーの美しさで有名。
○Pletnev(VIRGIN,VBD5 61637 2)89,94年
収録曲:6つの小品op.21;眠れる森の美女より;四季
 メインは指揮棒を持ったプレトニョフが振る「交響曲第6番」と「スラブ行進曲」で、
 その余白にピアノ曲を3つを収録したバジェット2枚組。「四季」は94年の再録音。音
 はこちらの方がさらにきれいで、演奏の質も同じようなものだが、何となく86年盤の方
 がいいような気がする。8月と9月を音を切らずに連続して演奏するなど、非常に不思
 議なこだわりがあるが、それにしても細部まで曲想を工夫している。「6つの小品」は
 影が薄い。第4曲「葬送行進曲」で、グレゴリオ聖歌「怒りの日」の旋律が登場するの
 と、終曲「スケルツォ」で華麗な演奏技巧を発揮できるのが少し気になる程度。「眠れ
 る森の美女より」については後述。

 さて、プレトニョフのチャイコフスキー演奏は上述だけでも偉大な業績だと思うが、僕
が最大に評価しているのは、「くるみわり人形」から抜粋して編曲し演奏会用組曲に仕立
てたことだ。彼はこれをチャイコフスキー・コンクールでも演奏したようだが、そりゃこ
ういう編曲をして見事に演奏されちゃったら、聴衆も審査員もぶったまげ間違いなしだ。
僕が一番好きなチャイコフスキー絡みのピアノ曲はこれで決まり、特に終曲の「グラン・
パ・ドゥ・ドゥ」は、バレエでも有名場面だが、あれをピアノ1台でこのようにできると
は誰が、思いつくだろう、正に驚異だ。手許には編曲者による全曲と、82年の「グラン・
パ・ドゥ・ドゥ」だけのライヴ盤がある。
○Pletnev(RCA,74321 25181 2)88年
 組曲全曲とシチェドリンの「アンナ・カレーニナ」抜粋などで、後者も必聴。

 その余勢を買ってプレトニョフは、「眠れる森の美女」からも好みの場面を選んで全11
曲からなる編曲集を仕立てた。これも勿論良い。良いのだが、「くるみわり」の魅力には
叶わないような。
○Pletnev(VIRGIN,VC7 91169-2)89年
 カップリングのムソグルスキー「展覧会の絵」の方が更に興味深い。

 「くるみわり」と「眠れる〜」は、ピアニストたちの間でかなり話題になっていたせい
か、20世紀も終わりになってロシアの出版社から楽譜が出たので、幻の作品ではなくなっ
た。

 そんな、チャイコのピアノソロのCDなんて沢山は買ってられないよ、というなら、こ
れを求めれば美味しいところは網羅。フィリップスの「20世紀のピアニスト」シリーズの
中のワンセット。
○Pletnev(PHILIPS,456931-2)
収録曲:四季;くるみわり人形より演奏会用組曲;ロマンスop.5;ワルツ風スケルツオop.7;
 カプリッチョop.8;眠れる森の美女より;ピアノ協奏曲第2番
 全音源、上述のいくつかの盤から抜粋したもの。「四季」は86年録音音源を使用。ま、
 「四季」と「くるみわり」と「眠れる」が入っているから、この2枚組でokでしょ。
 しかもピアノ協奏曲は、それほど音源を求められない第2番のオリジナル版だし。

 では別のピアニストたちの音源へ。
 まず「四季」の聴き比べだが、種々の音源があるけれど、最初に述べたように、必ずし
もプロの演奏を鑑賞して満足できる曲集でもないので、僕は他に少ししか持っていない。
○Boshnyakovich(DENON,COCO80605国内盤)67,70年
 全曲演奏は67年のステレオ録音。それに加えて1、2、6、10、11月を作曲者のピアノ
 で演奏した70年のモノラル録音を収録。後者は残念ながらピアノの状態も良いとは言え
 ず、録音自体の貧しさもあって、前者の方が聴きごたえがある。なお70年の演奏ではも
 う1曲、「18の小品op.72」の第5曲も収録。
○Wild(IVORY CLASSICS,70903)76年
 ワイルドならもっとうまくできたろうに、と思えてならない演奏。オリジナルテープが
 劣化しているのか、76年録音にしては音もいまいち。
○Mustonen(ONDINE,ODE1082-5)2005年
 SACDハイブリッド盤で、音が良い新しい音源としては優れたものに数えてよいのでは。
 演奏は例によってムストネンらしく、細部まで創意工夫にあふれている。カップリング
 はラフマニノフの「ピアノソナタ第1番」。

 抜粋盤をもう少し。
○Naoumoff(THESIS,THC82018)89年ライヴ
 パリ・シャンゼリゼ劇場でのライヴで、「四季」からは3、4、6、10月の抜粋。そ
 れよりも、「ロメオとジュリエット」のピアノソロ版に注目。

 ピアノの黄金時代には愛されていたのだろう、11月「トロイカ」のモノラル音源。
○Levitzki(APR,CDAPR7013/4)24年
 演奏者自身の「ワルツop.2」と同じトラック内に録音されている。速くてロマン的。
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)20年
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)28年
○Rachmaninoff(PHILIPS,456943-2)28年
 「ラフマニノフ大全集」CD10枚組に2種の音源が含まれる。そのうち28年の方がフィ
 リップスの「20世紀のピアニスト」シリーズに選ばれている。いずれも遅く、特に20年
 の演奏は自由度が高い。

 上で悪口を叩いてしまった「ピアノソナタ ト長調」は以下。この他、音源で注目され
るのは、ハイペリオンから遺作嬰ハ短調と、未完の、それぞれ2曲のピアノソナタとカッ
プリングした一枚がある。
○Cherkassky(IVORY CLASSICS,70904)82年
 随所に見せるチェルカスキーらしいロマンのおかげで、このつまらない曲も少しは映え
 る。こういう音源が一番まともかも。
○Ginsburg(PHILIPS,456802-2)49年
 第1楽章に15分近くかけて悠然と演奏。

 ナクソスがピアノ独奏曲集を出しつつあり、全集まで伸びるかどうか注目される。その
うち手許にある一枚。
○Yablonskaya(NAXOS,8.553330)95年
収録曲:ロマンスop.5;2つの小品op.10;3つの歌曲編曲op.16;6つの小品op.19;
 スラブ行進曲op.31;ドゥムカop.59
 「6つの歌曲op.16」から3曲のピアノ独奏用編曲に加え、「スラブ行進曲」のピアノ
 ソロ版までもやってくれたことは貴重だ。手堅い、まずまずの演奏。

 オリジナルのソロ作品では、上のヤブロンスカヤ盤にも含まれる「ドゥムカop.59」に
触れないわけにいかない。ホロヴィッツがレパに入れたことで有名だと思われるが、確か
に憂愁の旋律と、そこそこの高揚が捨てがたい。
○Horowitz(RCA,60526-2)42年
 ムソルグスキー「展覧会の絵」の47年盤をメインにロシア物を中心にしたアルバム。こ
 こぞという部分での切れ味はさすがの一言。よくみる出版楽譜と違って弱く終わる。
○Hough(HYPERION,CDA67043)97年
 いまいち大人しい。
○Giacometti(COLUMNS CLASSICS,0323)97年
 ごく普通。
○Lang(TELARC,CD-80524)2000年ライヴ
 中国出身の期待の星ラン・ランのデビュー盤。悪くはないが、来日公演の圧倒的印象に
 比べるとこの演奏は平凡。「夜想曲op.19-4」も収録。
○Vogt(EMI,CDC7 54548 2)91年
 メインの「展覧会の絵」に比べると、「ドゥムカ」の出来栄えは良い。透けるような美
 しさの弱音と、豪快さのコントラストを評価。「四季」から6、10、11月も演奏。

 既に述べた作品から、抜粋盤を落穂拾い。
○Gavrilov(PHILIPS,456787-2)77年
○Rudenko(TRI-M CLASSICS,DMCC-26027)98年
 「主題と変奏op.19-6」。作品19の6曲の中ではこれが一番有名。ガブリロフ、ルデン
 コという2人のチャイコフスキーコンクール入賞者が、共にコンクールの中でレパにし
 たが、確かにその手の使い方に好適。でもよほど指が回らないと、演奏効果をあげるの
 は難しい。上記は共に良い音源だが、僕はガブリロフの方により惹かれる。
○Boshnyakovich(DENON,COCO80797国内盤)87年
収録曲:無言歌op.2-3;ロマンスop.5;子守歌op.16-1;夕べの夢op.19-1;夜想曲op.19-4;
 瞑想op.72-5;悲歌op.72-14;Aveu passione(熱い告白)
 意外と種類がない、ピアノ小曲の抜粋集。一見朴訥とした演奏の中に込められたロマン
 の味わい深さは魅力。録音状態も悪くない。選曲では珍しい「熱い告白」に注目。
○Hough(HYPERION,CDA67043)97年
 ユモレスクop.10-2。特筆すべき演奏でもない。カップリングのパブストによる編曲物
 に注目。
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)23年
 「ユモレスクop.10-2」と「ワルツop.40-8」。意外と普通。
○Lhevinne(PHILIPS,456889-2)20年
 「トレパークの情景op.72-18」。まあやっぱり、プレトニョフの演奏があれば十分。
○Mustonen(DECCA,436255-2)91年
 「子供のためのアルバムop.39」。この実力あるピアニストは、いつも自分なりに考え
 て演奏してくるから、このような単純な作品でも面白い。カップリングはムソルグスキ
 ー「展覧会の絵」とバラキレフ「イスラメイ」。
○Feltsman(URTEXT,JBCC064)2002年
 「子供ためのアルバムop.39」と「18の小品op.72」からの第13曲。ムソルグスキー「展
 覧会の絵」に続いて始まる前者が、実に聴きごたえがある。フェルツマンの本領発揮。
○Fiorentino(APR,APR7036)93年ライヴ
 ドイツでのコンサート・ライヴのアンコールで「ワルツop.40-8」を弾いているが、演
 奏者のアレンジが加わっている。

 滅多に演奏されない珍曲ばかりのアルバム。
○Boyev(ETCETERA,KTC1164)93年
収録曲:2つの小品op.1; ハプサルの思い出op.2; ピアノソナタ嬰ハ短調;
 主題と変奏イ短調(1863-4)
 収録曲の中で有名なのは作品2の3曲目「無言歌」くらい。「主題と変奏」が意外なほ
 どに良く、埋もれているのは不思議。また作品1の第1曲「ロシア風スケルツォ」は演
 奏効果が上がるから、指がよく回る人なら要チェック。

 上記盤の「ロシア風スケルツォ」の音源をもう一つ。
○Wild(IVORY CLASSICS,70901)76年
 この曲はもっと演奏されてよいと思うので、貴重な好音源。

 以上のようにオリジナルのソロ作品だけでお腹いっぱいという感じだが、前述のプレト
ニョフでもわかるとおり、ピアノにおけるチャイコフスキーは、編曲作品無しで済ませる
のは勿体ない。
 まずはプレトニョフの「くるみわり人形」全曲を別のピアニストがやってみた例。
○朴久玲(TRITON,DMCC-26021)98年
 アルバムのタイトルは「ロシアのおとぎ話」。選曲意欲は買える。まずはよく弾いてい
 るしセンスも悪くないが、もう一段上の切れがあってもよい。
○Trpceski(EMI,CDZ5 75202 2)2001年
 とてもよく、美しい音で弾いているが、手堅過ぎる感じ。
○Rudenko(TRITON,DICC-26075)2001年
 楽譜の読みには心もとない部分もないではないが、技巧的にはバッチリで、自作自演盤
 の対抗馬登場、というところ。
○広瀬悦子(COLUMBIA,COCQ-83957国内盤)2004年
 抜群の演奏技巧を持つ日本人女性。この録音はそれなりに良いのだが、実演の方が何倍
 も良かった。このピアニストは音色のパレットが広く、それはステージ上でないと発揮
 されない。
○川島基(THOROFON,CTH2541)2006年
 2005年シューベルト国際コンクール優勝を機に録音されたリサイタル盤。これは、日本
 人ピアニストとしては非凡な演奏だ。技術的に十分な水準を確保しているだけでなく、
 音楽的にも過不足無い。

 バレエと言えば、「白鳥の湖」中の可憐な「4羽の白鳥の踊り」をアール・ワイルドが
見事にピアニスティックな編曲をやってのけた。2分弱で終わるが演奏効果は目覚しいの
で、指が回る人はチャレンジするといい。
○Hough(HYPERION,CDA67043)97年
 いまいち大人しい。
○Wild(IVORY CLASSICS,70901)76年
○Wild(PHILIPS,456991-2)81年ライヴ
○Wild(SONY,SK62036)95年
 3種ある自演盤の中で必携なのは81年のトランスクリプションだけのライヴ。

 ワイルド編曲のチャイコフスキーがもう一つ、歌曲から「舞踏会でop.38-3」を。
○Wild(SONY,SK62036)95年
 いかにもワイルドらしい美しい装飾音に彩られた編曲。

 手許にあるチャイコフスキー編曲物で、最も奇怪なアルバムがこれ。
○Oudenaarden(ERASMUS,WVH077)91年
収録曲:Nutcracker Suite; Romeo and Juliet; Waltz(serenade);
 Waltz(Sleeping beauty); Andante cantabile; スラブ行進曲op.31;
 ただあこがれを知る者だけが; 交響曲第5番より第2楽章
 収録曲だけで尋常ならざるものがあるが、冒頭、「ロメオとジュリエット」の甘い第2
 主題が移調して流れると、アルバムのコンセプトにずっこける。名旋律を易しい技巧で
 弾きましょう、というのだ。メインは「くるみ割り人形」の管弦楽組曲を全てピアノソ
 ロで弾いたもの。国内版楽譜でも出ている、あの普通の編曲レヴェルだ。しかし全く聴
 けないシロモノかと言えば決してそんなことはなく、技巧的には拙いながらもそれなり
 に歌心があるピアニストだ。世の中には、よりつまらないアルバムはゴマンとある。

 編曲と言えば常に登場するリストは、エフゲニー・オネーギンの「ポロネーズ」をピア
ノソロに編曲、これはかなり好んで演奏されている方。
○Ginsburg(PHILIPS,456802-2)47年
 録音年の割には良好な音。
○Howard(HYPERION,CDA66371/2)89年
 リストのピアノ独奏曲全集の一枚。

 編曲魔パーシー・グレインジャーは「ピアノ協奏曲第1番」のあの華麗な冒頭(だけ)
をピアノソロにしてしまった。さらに「くるみわり〜」から有名な「花のワルツ」も。ワ
ルツの方はコンサートにも使えそうな華麗な編曲。
○Jones(NIMBUS,NI5232)89年
 協奏曲冒頭と「花のワルツ」。相変わらず譜読みが怪しい部分もあるが、雰囲気は掴ん
 でいる。ジョーンズはグレインジャーで5枚のアルバムを出しているが、この番号の第
 2巻が有名曲の編曲集。
○Bartoli(TIMBRE RECORDS,DMHCD6)97年
 ピアノ協奏曲冒頭。ちょっとタルい演奏。

 管弦楽曲「ロメオとジュリエット」をピアノソロにしちゃった人もいる。
○Naoumoff(THESIS,THC82018)89年ライヴ
 ピアニスト、エミール・ナウモフによる編曲、自演。演奏者の激しすぎるブレスをマイ
 クがよく拾っていることもあって、恐ろしいほどの気合は大いに伝わる。しかし、こん
 なにハアハア言わんでもなあ。

 日本人大好きの交響曲第6番「悲愴」だってピアノソロになってしまう。
○岡城千歳(PROPIANO,PPR224530)99年
 何と「悲愴」全曲のピアノソロによる録音、編曲者はWalter Niemann。ワーグナー編曲
 物もそうだが、岡城氏のピアノは、ピアノで可能な限りのニュアンスを表現しようとす
 る意欲に溢れているところがよい。たださすがに、第3楽章は技術的にかなり苦しい。
 でも、これくらい弾ければ、楽しいだろうなあ。気分はオーケストラ指揮者だ。

 「悲愴」と言えばロシアのフェインベルグが第3楽章をピアノソロ化しており、これは
名人が弾けば演奏効果ばっちり。
○Berman(MASTERS OF ART,AAOC-94062)52年
 たまにヨタヨタしたりもするが、さすがはラザール・ベルマン、勢いは恐るべし。
○Leyetchkiss(CENTAUR,CRC2088)
 さすがにこのピアニストでは苦しい。
○Volodos(SONY,SK62691)96年
 トランスクリプションだけのマニア向けアルバム。9分半かけて大人しすぎる嫌いはあ
 るし、一部リズムのとり方に疑問があるが、手許の音源ではこれが最も整っている。終
 結部は「物凄い」と形容可能。
○Rudenko(TRITON,DICC-26075)2001年
 意外と粗い。この人ならもっと上手くやれるのではなかろうか。

 交響曲と言えばこういうのもある。
○Lamond(FONE,90F06CD)
 交響曲第5番より第2楽章を演奏したピアノロール。編曲者不明。

 歌曲「子守歌op.16-1」をラフマニノフがピアノ独奏用に編曲したもの。手許にも数種
類の音源があるが、せっかくだから編曲者自身のものを聴いておきたい。
○Biret(NAXOS,8.550978)96年
○Bolet(PHILIPS,456724-2)74年ライヴ
○Rachmaninoff(RCA,61265-2)42年
○Rachmaninoff(PHILIPS,456943-2)42年
 さすがロマンティック極まりない演奏。RCA盤は「ラフマニノフ大全集」だから、より
 入手しやすいのはフィリップスの2枚組。
○Shelley(CHANDOS,CDS44041/8)91年

 歌曲をもう一つ。最も有名な「ただあこがれを知る者だけが」。
○Cherkassky(DECCA,433651-2)79年ライヴ
 編曲者はNagelという人で単純だが、ロマンチストとしてこのピアニストの右に出る者
 無しの名演。79年から91年までの演奏会でのアンコール集。

 チャイコフスキー・ネタで華麗なパラフレーズを幾つか残したパブスト(PABST,Pavel、
1854-1897、ドイツ)についても、本来は彼だけの項を設けるところだが、ここで触れてし
まおう。リストやシューマンのピアノ曲の演奏に長け(クララ・シューマンはパブストが
夫の作品の最良の奏者と考えていた)、ラフマニノフが彼の2台ピアノのための「幻想的
絵画op.5」の初演に加わるよう頼んだ、ピアノの名手である。パブストのチャイコフスキ
ー・パラフレーズだけの一枚。
○Marshev(DANACORD,DACOCD450)89年
収録曲:エフゲニーオネーギンによるパラフレーズ; スペードの女王による場面;
 マゼッパによる幻想曲; 子守歌op.16-1; 眠りの森の美女によるパラフレーズ
 これはトランスクリプション・ファン必聴の一枚。バクー出身のオレグ・マルシェフ、
 頑張っている。なお1曲だけ、「オペラ『悪魔』の回想」だけはチャイコフスキーでは
 なく、アントン・ルビンシュタイン作品がネタで、17分以上かかるが密度がいまいちだ
 と思う。このCD、ピアノのサウンドにもっと潤いがあれば、より推薦できるのに。

 それなりに人気があるのは「エフゲニー・オネーギンによるパラフレーズ」。あの華麗
なワルツを中心にしているから当然かもしれない。手許の競合音源。
○Bartoli(TIMBRE RECORDS,DMHCD6)97年
 アルバムのタイトルは「FUGITIVES」で、カゼルラ、グレインジャーを併録。パブスト
 は普通。
○Cherkassky(DECCA,433654-2)91年ライヴ
 カーネギーホールでのライヴ。絶頂期を考えればテクニックは衰えているが、悠然と、
 一つ一つのフレーズに心をこめて弾いているのが、たまらなく良い。
○Cherkassky(NIMBUS,NI1748)87年
 完成度は上よりも高く、サウンドの柔らかさも絶妙。奏者の至芸を味わう7枚組。
○Ginsburg(PHILIPS,456802-2)48年
 フィリップスの「20世紀のピアニスト」シリーズ2枚組。

 以下は「眠りの森の美女によるパラフレーズ」の競合盤。これもあの有名な「ワルツ」
が当然入ってくる。
○Hough(HYPERION,CDA67043)97年
 ハフが少し手を加えている。彼らしい華麗な演奏。
○Wild(SONY,SK62036)95年
 もっと若い頃のワイルドなら良かったのに。

 ピアノ独奏に続いて、2台ピアノもしくは1台4手も見逃せない。
 今は手許に音源が無いが、例えばエコノム編曲の2台ピアノによる「くるみわり人形」
組曲は、編曲者とアルゲリッチによる有名な録音がある。こういう、現代の演奏家による
編曲楽譜は入手が難しいのが通例だが、このエコノム版は、あっさりと出版された(アメ
リカのCPPから)。安い楽譜なので僕も持っている
○Achatz & Nagai(BIS,BIS-CD-627)93年
収録曲:交響曲第5番(Taneyev編); 白鳥の湖より3曲(Debussy編);
 眠れる森の美女より3曲(Rachmaninoff)
 これは推薦盤。ネタの管弦楽曲を忘れて、純粋に2台ピアノの音楽として楽しめる。サ
 ウンドがとてもきれいだ。編曲も、原曲の流れを忠実に守っている。
○Duo Crommelynck(CLAVES,CD50-8805)88年
収録曲:交響曲第6番(連弾版);50のロシア民謡
 連弾の2曲。交響曲の方は極めて真面目にやっていて、音楽を楽しむなら岡城のピアノ
 ソロ盤の方が面白い。「ロシア民謡」の方は30分で50曲という小曲の集合体。聴いても
 それほど良くなく、自分たちで弾いて楽しむべきもの。ごくたまに「ヴォルガの舟歌」
 や、チャイコフスキーの有名曲で使われている旋律(アンダンテ・カンタービレとか)
 が登場すると、嬉しくなる。

 更に変わり種で、本来はここでとりあげるべきではない編成だが、ジャズ・ピアノ・ト
リオになったチャイコフスキー。
○ピアノ:Hersch他(EMI,CDC7 54743 2)92年
 交響曲第4番の第2楽章のメロディーをまずピアノソロ、ついでハーモニカが奏でる。
 もう1曲、「くるみわり」の中の「アラビアの踊り」。旋律はサックス(ありがち)。
 正直言って、特に大きな感動を呼ぶ演奏でもない。このアルバムは他に、スクリャービ
 ン、リムスキー=コルサコフ、ラフマニノフ、リャードフ、グリエール、ムスルグスキ
 ーがネタになっている。

 ここで楽譜について触れておくと、僕はアメリカのKALMUS PIANO SERIESで、随分と安
くチャイコフスキーのソロ作品の楽譜を集めた。手許にある楽譜を楽譜番号順に整理して
おく。
・4053 交響曲第6番(連弾版)
・4058 弦楽セレナーデ(連弾版)、スラブ舞曲、戴冠式行進曲
・4059 主題と変奏、ソナタ遺作、2つの小品op.1、ハプサルの思い出op.2
・4060 op.4、5、7、8、9、10
・4061 op.19、21、16、Voyevoda変奏曲、アレグロ ヘ短調(断片)
・4063 op.40
・4066 op.72、Aveu passionne、ワルツop.40-9初版

 何だか詳しくなりすぎてしまったが、総括しよう。ピアノ協奏曲第1番はホロヴィッツ
+セル、あるいはホロヴィッツ+トスカニーニ。それが入手できなければ一般的なところ
でアルゲリッチ+コンドラシンがあればok。独奏曲ではフィリップスから出ているプレ
トニョフ集2枚組があれば「くるみわり人形」も含めて網羅できて、まずは十分というと
ころ。後は、好みに応じて集めよう。


チェレプニン(TCHEREPNIN,Alezander、1899-1977、ロシア)

 日本では意外なほど知名度がある人だ。中国音楽への興味は人一倍で、そのピアノ音楽
には、もろに影響を受けているものもある。
 持ち前の器用さでロシア方面に活躍するピアニスト、マレー・マクラクランがチェレプ
ニンのピアノ曲だけのアルバムを複数出しており、手許にはその第2巻がある。
○McLachlan(OLYMPIA,OCD682)2000年
収録曲:12の前奏曲op.85; 5つの演奏会用練習曲op.52; トッカータ第2番op.20;
 サニー・デイ(忘れられたバガテル); ピアノソナタ第2番op.94
 この中では「5つの演奏会用練習曲」が、全曲通して、もろに中国だ。これは中国の音
 楽を集めると言った企画があるなら是非ともチェックしておきたい。終曲「CHANT歌」
 は8分以上かかり、中国情緒に浸るのに最適だ。トッカータ第2番はタイトルにしては
 中途半端。12の前奏曲の中の幾つかが力作だ。

 上述の演奏会用練習曲を収録したアルバムをもう一つ。
○Lin(BIS,BIS-CD-1110)2000年
 中国にちなんだ西洋ピアノ音楽だけを集めたアルバムに、「5つの演奏会用練習曲」が
 入っている。

 なおマクラクランはチェレプニンの6つのピアノ協奏曲もまとめて録音しているから、
興味がある人は更に聴き進めることができる。


タールベルク(THALBERG,Sigismond、1812-1871、ドイツ)

 ピアノ演奏史に興味がある人や技巧的ピアノ音楽好きにはビッグネームの一人。20台半
ばでリストとピアノで決闘をし、それ以降、音楽活動から身を引いた(早過ぎ!)という
挿話でも有名。彼の演奏は、あたかも腕が3、4本あるかのようだったという。19世紀に
人気のあった、オペラを中心とした有名クラシック音楽を自宅やサロンで楽しむためにピ
アノ用に自由にアレンジするというジャンルで、多くの作品を残した。
 さて今日のCDで聴くタールベルクなら、まず逃せないピアニストが、フランチェスコ
・ニコローシ。彼はマルコポーロ及び姉妹レーベルにあたるナクソスに、まとめて録音し
てくれている(もともとマルコポーロ発売盤が、ナクソスへ移行発売になりつつある)。
これらがアルバムとしては非常に上質で、演奏も十分過ぎるほど良いし、ピアノのサウン
ドの点でもすぐれている。タールベルクに興味があるなら、このニコローシの演奏をまと
めて聴くべきだろう。手許にあるだけで4枚。この他に、ドニゼッティとヴェルディのオ
ペラをネタにした編曲集もある。
○ピアノ:Nicolosi、Mogrelia指揮Razumovsky Sinfonia(NAXOS,8.553701)95年
収録曲:ピアノ協奏曲; Canzonette Italienne op.36-5; Nocturne op.28;
 Souvenirs de Beethoven; Un soupir, Melodie Variee;
 やはりピアノ協奏曲が興味の的になろうが、悲しいほどに楽想に閃きがない。第3楽章
 のネアカさは、それなりの良さがあるが。他の4曲は独奏曲だが、「ベートーヴェンの
 思い出」は、あの交響曲第7番の第2楽章がメインのネタなのに、あの名曲を使って実
 につまらない音楽に改変してしまった。これに代表されると思うが、要するにタールベ
 ルクが忘れられたのはある意味で当然で、余りに霊感不足なのだ。
○Nicolosi(NAXOS,8.555498)90年
収録曲:Fantaisie sur Beatrice di Tenda;Fantaisie sur La Straniera;
 Grand caprice sur La Sonnambula;Grand fantaisie et variations sur Capuletti;
 Grand fantaisie et variations sur Norma;
○Nicolosi(NAXOS,8.555501)92年
収録曲:Fantasia on Semiramide op.51;Fantasia on La donna de lago op.40bis;
 Fantasia on Il Barbiere di Siviglia op.63;Fantasia on Moise op.33
 上記2枚はそれぞれ、ベルリーニとロッシーニのオペラによる幻想曲集。
○Nicolosi(MARCOPOLO,8.223807)95年
 全24曲、50分強のオリジナル独奏曲集「Les Soirees de Pausilippe op.75」。これな
 らやはり、トランスクリプション物の方がずっと面白い。

 ではニコローシ以外の演奏に幾つか言及。
○Cappelo(DANACORD,DACOCD419)93年ライヴ
○Hamelin(DANACORD,DACOCD429)94年ライヴ
 上記2点はフースム城における珍曲演奏会でのライヴCDで、2年連続でタールベルク
 がとりあげられた。前者はロッシーニのモーゼ、後者はドニゼッティのドンパスクァー
 レによる幻想曲。特にアムランがとりあげたのは注目に値する。
○Katsaris(SONY,SRCR9101国内盤)92年
 モーツァルトをネタにした色とりどり作品を集めたアルバム「モーツァルティアーナ」
 に、「ドンジョバンニ」のセレナードとメヌエットによる幻想曲と、「レクィエム」か
 ら言わずもがなの名曲「涙の日」の編曲を収録。後者は原曲そのまんまの編曲。旋律を
 歌わせるのが上手いカツァリスだからまだ聴ける、という感じ。
○Malan(HANSSLER,CD98.231)2005年
 上述のカツァリスが弾いている「涙の日」。やはりモーツァルトを素材にした編曲を集
 めたアルバム。使用ピアノはブリュートナー。
○Wild(PHILIPS,456991-2)81年ライヴ
 セミラーミデによる大幻想曲。トランスクリプションだけを集めたカーネギーライヴ。
 演奏は素晴らしいが、曲の方は密度が低いと感じられる。加えて、64年録音の「ドン・
 パスクァーレによる幻想曲」も収録。
○Duo Egri & Pertis(HUNGAROTON,HCD31930)99年
 2台ピアノのためのGrande fantaisei sur Les Huguenots de Meyerbeerをプレイエル
 社の珍しい楽器ダブル・グランド・ピアノで演奏。15分ほどかかる曲の密度は例によっ
 て濃いわけではないが、2台ピアノでじゃんじゃかのメリットは出ている。

 なおこの他、楽譜を見たことがある面白そうな作品では、有名なイギリスの旋律「ホー
ム・スウィート・ホーム」による幻想曲がある。これもびらびらと華麗な装飾をするのは
良いのだが、それだけという感じで、ヒネリが足りないと思う。


トムソン(THOMSON,Virgil、1896-1989、アメリカ)

 映画音楽をはじめ、管弦楽曲が好まれているようだが、ピアノ曲も数だけは夥しいとい
うことだ。手許のアメリカ現代音楽集3枚組に収録された2つのピアノ曲も、取り柄がな
いわけではないので、探索すればもっと良いものがあるかも。

○Shields(VOX,CD3X3027)70年代半ば頃
 まず「ピアノソナタ第3番」は、全4楽章が4分30分程度で終わってしまう。白鍵しか
 使わないが、この作曲家はサティと比較されることがあるらしく、なるほどというとこ
 ろ。子供向けの作品ではないが、まあ素直なハ長調で、ごく易しい。「10の練習曲」か
 ら抜粋した2曲では、1曲目のタンゴが、壊れたピアノをイメージした不協和音が面白
 い。2曲目のラグタイムは、ごく普通。


ティーセン(TIESSEN,Heinz、1887-1971、ドイツ)

 さっぱり知らない人だが、以下の音源で興味を持った。マイナーながら効果的なアンコ
ール・ピース収集にいそしむ人なら、おさえておくと面白いかも。
○Erdmann(TRUMPETS OF JERICHO,20.3174-306)
 「3つのピアノ小品op.31」より第2、3番。不思議和声の不思議な曲だ。第3番「エ
 ドゥアルド・エルドマンの手中のつばめ」などは、後半がフォックストロット風でアン
 コールピースに面白いかも。録音年不明だが、他の収録曲から推測して30年代前後。


ティペット(TIPPETT,Michael、1905-1998、イギリス)

 言うまでもなく現代英国を代表する作曲家。ピアノでは、4曲のピアノソナタが重要と
いうことだが未聴。手許には「ピアノ協奏曲」の音源がある。
○ピアノ:Frith、Hurst指揮BBC Scottish SO(NAXOS,8.553591)95年
 3楽章制の協奏曲。全体としては、掴みどころがない。例えば第3楽章などはクラシッ
 ク以外の要素も取り入れているところが楽しめるといえば楽しめるが、ちょっと中途半
 端。カップリングは僕が知る合唱曲以外の数少ないティペット作品では最も好きな「典
 礼舞曲」。


戸島三喜夫(とじま みきお、b1937-、日本)

 その作品について知識がない邦人作曲家だが、手許にある音源で1曲だけ、「冬のロン
ド」というピアノ独奏曲は、それなりに聴きごたえがあるので言及だけしておきたい。
○高橋悠治(DENON,COCO78457国内盤)83年
 社会主義の<冬の時代>を描く演劇のために書かれた約11分のピアノ曲。最初は静的な
 印象だが、後半の高揚が凄くいい。クラスター爆音攻撃が好きなら知っておきたい。


トリンブル(TRIMBLE,Joan、b1915-、アイルランド)

 自分だけの名曲探しを提案するレーベル、マルコポーロが出すアルバムは、何しろコン
セプトがそれだから、大抵は平凡なのだが、たまに「おっ」という発見があると嬉しい。
このトリンブルという人、どんな人だか全然知らないが、微笑ましいくらいにフランス近
代に影響を受けた、調性まる出しの作風で、僕はそれなりに楽しんだ。以下のアルバムに
は、室内楽、歌曲と並んで、2台ピアノのための作品が幾つか収録されており、このジャ
ンルのレパを広げたい人には一聴の価値があると言える。
○Hunt & Holmes(MARCOPOLO,8.225059)97年
収録曲:3 traditional songs; Buttermilk Point; Pastorale(Hommage a Poulenc);
 Puck fair; Sonatina for 2 pianos; The Bard of Lisgoole; The Green Bough;
 The humours of Carrick
 誰もが「プーランクへのオマージュ」というサブタイトルが付いた小曲に目がいくだろ
 う。それもまずまず良いが、民謡風な旋律を持つ作品の方がより魅力的。更に言えば、
 ピアノ曲よりも「ピアノトリオ」がきれいだ。


ツォンタキス(TSONTAKIS,George、b1951-、アメリカ)

 アメリカではそれなりに評価されている人だが、僕はその作品を知らない。しかし、イ
ギリスのピアニスト、ハフが弾いている作品があれば、無視できない。
○Hough(HYPERION,CDA67005)97年
 30分以上かかる「Ghost Variations」(1991)の初録音。題名に含まれるGhostというの
 は、精神的世界を示す。モーツァルトのピアノ協奏曲変ホ長調K.482の第3楽章の主題
 による変奏曲の部分(ここがめちゃくちゃわかりやすい曲調になる)もあるが、全体的
 には変奏曲というより「メタモルフォーゼン(変容)」的性格。時に東洋的だったり、
 ジャジーだったり、ピアノの木の部分を叩いてみたりと一筋縄ではいかないが、現代音
 楽としてはわかりやすい方だし、ハフの演奏の良さが光る。
○Hough(HYPERION,CDA67564)2005,06年
 まず「Man of Sorrows」はピアノと管弦楽による40分弱の大作(ここではライヴ収録)
 で、キリストの受難をテーマにしている。全体にメシアン的な響きが目立ち、悪くは無
 いのだが、独自の個性を感じない。むしろカップリングのピアノ独奏曲「Sarabesque」
 の方がいい。このアルバムは、シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンのピアノ曲も収
 録。


土田英介(TSUCHIDA,Eisuke、b1963-、日本)

 ピアノと女声合唱で演奏される「子守唄・子守唄よ」を知ってしまっては、土田氏のピ
アノ作品を知りたくなって当然であろう。彼のピアノ演奏は素晴らしいそうだし(僕は自
分で確かめたことがない)、友人の小栗克裕氏とピアノデュオリサイタルをやってりとい
う活動もあるそうだ。
○泊真美子(LIVE NOTES,WWCC-7531)2005年ライヴ
 「ピアノのための波動(2001)」と、「ファンタジー(2003)」の2曲。後者はこの演奏が
 初演。ああ、確かに、独特の抒情味があって、いい作曲家、という感想を持つ。現代日
 本のピアノ音楽の追究をテーマにする人は、土田氏の作品に興味を持ってよい。


トゥリーナ(TURINA,Joaquin、1882-1949、スペイン)

 スペインの民族楽派で、しばしばファリャと並んで言及される。以下のCDを聴いてみ
ると、現在の人気の無さが信じられないくらい、充実したピアノ曲がたくさんある。しか
し一方、確かにこれは流行らないかもしれないと思わせる、妙な生真面目さがある。
○Jones(NIMBUS,NI5619/23)95年
収録曲:Cinco danzas gitanas op.55,84; El castillo de Almodovar op.65;
 Sevilla op.2; Tres danzas andaluzas op.8; Mujeres espanolas op.17,73;
 Sanlucar de Barrameda op.24; Album de viaje op.15;
 マーティン・ジョーンズによるスペインピアノ曲集5枚組のうち2枚がトゥリーナ(他
 はファリャ1枚、モンポウ2枚)。特に作品73、24、15あたりに佳曲が含まれていると
 感じる。スペインの情熱、ここにも発見というところ。スペイン好きを自認するなら、
 これらの作品を探索しないのは勿体ない。例によってジョーンズは、曲の雰囲気を掴む
 のに長けている。

 もちろんスペインのピアノの女王、ラローチャもトゥリーナを弾いている。
○Larrocha(DECCA,433929-2)75年
収録曲:Sacromonte op.55-5、Zapateado op.8-3
 この番号の盤は、ラローチャの弾くスペインのピアノ音楽集のうち第4集2枚組。他に
 ファリャ、アルフテル、モンサルバーチェ、スリナッチ、モンポウらを収録。特に「サ
 パテアード」は良曲だが、さすがにこの2曲だけでトゥリーナを代表するのは淋しい。

 1曲だけ、管弦楽付のピアノ曲。
○ピアノ:Joyce、Raybould指揮管弦楽団(DUTTON,CDEA5505)36年
 7分半ほどの「Rhapsodia Sinfonica交響的狂詩曲」。特に言及するほどの作品ではな
 いが、美人ピアニストの誉れ高いアイリーン・ジョイスが美しい音でエレガントに弾い
 ている。当盤の目玉はもちろん、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をジョイスが弾い
 ていることだが、残念ながら映画「逢引き」のサントラとは違うらしい。

 そういえば、トゥリーナのピアノ曲全集と銘打った16枚組というのを店頭で見た。ファ
ンはとことん楽しめる、CD成熟の時代である。


トヴェイト(TVEITT,Geirr、1908-1981、ノルウェー)

 20世紀終わり頃から、何だか急にCD店頭で名前を見るようになってきた、という印象
がある人。グリーグの延長線上の一人と位置づけることができるけれど、生きた時代から
ラフマニノフやバルトーク、プロコフィエフらの影響も指摘できる。
 僕がとてもいいと思ったのは、以下のピアノ協奏曲。
○ピアノ:Gimse、Engeset指揮Royal Scottish National O(NAXOS,8.555077)2000年
 ピアノ協奏曲第1、5番を収録。第1番の冒頭が何だかヒーリングっぽくていい。第5
 番は結構技巧的、運動性いっぱい。これはピアノ協奏曲ハンターなら聴いて損は無い。

 ピアノ独奏曲も、有名ピアニストらも進出しつつある。手許には珍曲専門レーベルのマ
ルコポーロのアルバムがある。丹念に探せば、自分でも弾きたくなる曲があるかも。
○Gimse(MARCOPOLO,8.225056)96年
収録曲:No.38-50 from 50Folk-tunes from Hardanger op.150;
 Folk-tunes from Hardanger No.73; 12 two part Inventions op.2;
 Three part invention op.3-5; Four part invention op.4-3; Meinvarnathur;
 Minuet a Nadia Boulanger; Tull til Tullemor
 ピアノ独奏曲だけのアルバムの第2集。素材は出身地の民謡だったりで親しみやすいと
 いえば親しみやすいが、媚びたところがない禁欲的な作品が並ぶ。インヴェンションと
 いうタイトルの小曲が音楽的に高いように感じられた。ナディア・ブーランジェの名前
 が見える小曲に注目する人もいるだろう。シンプルで叙情的な遅いメヌエット。


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