2001年03月30日 クール・クレマン演奏会 アカペラの饗宴
会場:東京・王子、北とぴあ つつじホール
【演奏曲目】
ルネサンスの世俗音楽〜イタリア・イギリス
「スコラーズ・ソングブック」より、イギリス民謡
なつかしい日本のうた
ルネサンスの世俗音楽〜C.ジャヌカン作品集〜
クール・クレマンの最後の演奏曲、ジャヌカン「鳥の歌」を聴き終えた僕は、「こんなアンサンブルの出現を待っていたのだ!」と、心の中で快哉を叫んだ。
現在、J-POPと呼ばれる分野(僕は全く興味は無いけれど)で活躍する歌手たちはほぼ例外なく、歌唱力の点で優れている。宇多田ヒカルあたりは勿論、例えばモー娘がこれほどまでにウケている理由には、10人もいても各人の歌唱力がしっかりしていることもあるだろう。「歌手」として活躍する人だけではない。僕が最近ハマったものとして先日書いた「仮面ライダークウガ」のヒロインとして出演した女優、村田和美は正統派アイドルと分類されているみたいだが、「クウガ」の音楽集CDに、彼女の歌が1曲だけ入っている。これが、歌手顔負け、びっくりするくらいの上手さ、余技の域を遥かに超えている。「クウガ」の直前の時間帯に放送されていた「タイムレンジャー」にタイムピンク役で出演していた勝村美香の歌も然り。今の若い人たちにとっては、まあ普通なのだろうと想像する。それに引き換え、僕が子供の頃にテレビで活躍していたアイドル歌手たちはどうだ。歌が下手なのがウリだったコもいるくらいで、上手い歌手なんて少なかった。周囲に溢れる音楽の質が違う、今の若い人は、僕たちよりも遥かに進んだ耳を持っているに違いない。僕は、そんな環境で育った若い世代に、大きな期待を抱いている(正確に言うと、現在高校生くらいの子供たちに、だけど)。合唱人口は減るに違いないけれど、僕らの世代が逆立ちしても出来なかったような合唱を、たやすく成し遂げるような人材がどんどん出てくるのではないかと。野球界のイチロー、将棋界の羽生のような、先人の業績をこともなげに超えていく破格の才能が、遅ればせながらそろそろ合唱界にも現れるのではないかと。今宵聴いたクール・クレマンは、現状では、そこまで大袈裟に褒め称えられるものではないのだけれど、新しい時代の到来を、確かに実感させてくれた。
クール・クレマンは男女6人(女性4人、男性2人)の、主にルネッサンスのシャンソンやマドリガルを歌うアマチュア・アンサンブル。母体は、埼玉県の蕨高校の合唱部メンバーのようで、埼玉大学合唱団出身者も加えて今に至っている。年齢は全員、ちょうどこの春に大学を卒業する年ということで、僕より一回り以上若い人たち。上述のようにただでさえ音楽的に昔よりも進んだ環境で育った世代であるのに加え、女声の4人は全員が幼少時から(早い人は3歳から)音楽教育を受けていることに注目したい。埼玉県や東京都のヴォーカルアンサンブルコンテストで金賞を受賞して注目を集める。僕が王子まで足を運んだのも、つい先日の東京都のコンテストTVECを聴きに行った知り合いからの口コミ。
少々遅刻したのだが、会場に入って驚いた。立ち見がたくさん!!キャパはそれほど大きくないホールだが、それにしてもこの聴衆の多さは!僕は最後まで座れず、立ち見で鑑賞。それと驚いたのは、TVEC金賞という前評判に反して、演奏が不安定なこと。時折落ちるパートもあるし、テノール歌手は明らかに不調(これは後で知ったのだが、喉の調整不良だったようだ、残念)。しかしそれでも、僕は確かな輝きを演奏から感じ取ることができた。まず声質がルネッサンス物にとても合っている。日本の合唱界は概して頭でっかちで、何だかやたらアカペラだの純正律だの皆が口にするけれど、全く実行が伴わないのだが、クール・クレマンの声は、アマチュアでは僕は初めて聴いたと言っても過言ではないくらい、ルネッサンス世俗物のマトモな演奏を可能にするものだ。そしてハーモニーの純度の高さも素晴らしい。演奏の不安定さは、練習不足もあるだろうが、加えて思わぬ多数の聴衆に接した緊張感や、響きがとても悪くて僕は好きではないこのホールが、聴衆が吸音材になってさらに響きが悪化したことに対するメンバーのとまどい、そんな要素からきていたのだろう。休憩後の第2、3ステージは、どんどん盛り返してきたからだ。しかしそれでも、TVEC金賞って何故?という声が出てもしかたない演奏。が、何といっても白眉は第4ステージの、フランスルネッサンスを代表するクレマン・ジャヌカンのシャンソン集。これが唯一、暗譜ステージだったが、もうダントツに優れた出来栄えだった。最後の「鳥の歌」、この名曲は、CDでロクな音源がない曲としても有名(んなこというのはマニアだけか)だ。作曲者の名をいだいたクレマン・ジャヌカン・アンサンブルの演奏のアクロバット度は大いに賞賛できるが、カウンターテナーのヴィスの声質も含め、かなり癖が強いところが、好みに合わない人も多いだろう。今宵のクール・クレマンの演奏はアンサンブルの精度の高さはもちろんのこと、気品を失わず、コジャレた雰囲気があり、僕にとっては、LP時代のパリ・ポリフォニック・アンサンブル以来の感動となった。アンコールのバンキエリ「動物達の対位法」も同様の素晴らしさ、楽しさ。聴く者を幸せにするアンサンブルがそこにあった。バス歌手に、明らかに芸人魂があって、それがステージを盛り上げる。
褒めてばかりじゃ仕方ないから問題点にも触れる。
これだけ上手いのだから、曲の入りと切りを、メンバーの一人が普通の合唱指揮同様のやり方で指示する、なんて無粋なことはしなくてよいのに。このメンバーなら、簡単に、アイコンタクト等で始めたり終えたりできるだろうにと思う。
コンクールでなくて演奏会、となると、ステージ上での振る舞いにも目がいってしまうが、今宵のぎこちなさは、僕は初々しさを感じ、微笑ましいと思うだけだが、人によっては、厳しい言葉を浴びせるかもしれない。ま、場数を踏めば解消されるだろう。
先に僕は、ルネッサンス物のマトモな演奏が可能な声質を持つアマチュア歌手たち、と書いたが、そうは言っても、「日本的な合唱声」の延長でしかない、という感想も持った。更なる向上を目指すなら、声をささえる呼吸という、声楽の基本中の基本をもっと鍛えることが重要ではないだろうか。ただしこの点について、僕は、アマチュアで活動する人たちに要求していいものか、未だに迷いを感じている。要求しても無理なら、そんなことには拘泥しない方が幸せではないか、と。
というわけで、彼らにとって初めての大規模演奏会という、興味深い場を見ることができた。心配なのは、メンバーたちがこれから就職したりで、関東に散らばって住んでいること。活動の継続自体、困難を伴うだろう。是非とも継続していただき、更にパワーアップして、楽しませてもらいたい。陰ながら応援します!
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