バッハ(BACH,Johann Sebastian、1685-1750、ドイツ)

 さて、バッハである。合唱絡みの「名曲」もたくさんある。
 それは承知なのだが、僕の日常のバッハ鑑賞ないし演奏は、器楽曲に偏っている。声楽
曲だってとびきりの名曲揃いなのだが、器楽曲ほどではないと潜在的に感じているのだろ
う。それは、演奏の技術的困難さの影響もあると思う。自分で歌ってみるとわかるが、バ
ッハの合唱パートは難しい。声のコントロールの大変さたるや、古今の合唱曲の中でも最
高レヴェルではないだろうか。なかなかピアノで「平均律」を弾くようにはフーガを演奏
できない。
 そんなこともあって、僕はバッハの合唱曲の録音に余り注目していない。しかし最近に
なって、バッハ演奏の水準の向上も著しく、いい録音が増えている。長い人生の楽しみと
して、カンタータなどはゆっくりと集めていきたいと思っている。

 CDでは、2000年の没後250年を目前に控えた1999年以降、再発売を含めて、相当数の
盤が発売されつつある。その中で一つ、テルデックによる「バッハ2000」という全集
は、なかなかの成果と言える。文字通り、バッハの全作品を収めている。20万円を若干超
える国内盤の価格は、簡単に手出しできるものではないが、対訳も付き、割安感はある。
僕は、この全集に含まれる宗教的カンタータが好みではないので、輸入盤のみで入手でき
るバラ売りで、大曲を除く宗教的合唱曲を集めた第7巻(7枚組)を購入した。最初に、
その内容に触れておこう。まず6曲のモテットは、アーノンクール指揮ストックホルム・
バッハ合唱団他の演奏。これは、後述するモテット集のCDたちと比較して、特に言及す
べき出来栄えでもない。当セットの目玉は2~5枚目の、何とCD4枚にわたる膨大なコ
ラール集BWV253-438(キルンベルガー・コラール)で、これを実力は保証済みのベルリン
放送合唱団がオルガン付きで演奏している。曲数を考えると何ともご苦労様な企画。これ
らは合唱団のエチュードには最適だとしばしば言われるが、さすがにこれだけまとめて録
音で聴くとなると、いかに演奏が悪くなくても退屈するというのが正直なところ。7枚組
のうち6枚目は、重要な声楽曲シュメッリ歌曲集のうち、バッハ自身の作曲による曲だけ
を選んだ。独唱はプレガルディエンとメルテンスが分担している。この歌曲集は、声楽を
学ぶ者としては、歌ってみる価値はある。7枚目は再びコラールと、モテットBWV118、ク
オドリベットBWV524、アンナ・マグダレーナのための音楽帳からの声楽曲の抜粋。なお、
歌詞は全て付いている(ドイツ語だけでなく、英仏の各訳付き)。

 さて、いきなり全集物の紹介で話が脇道にいってしまった。本線に戻ろう。
 では少ないながらも手許の録音にコメントしておきたい。なお、今日では、現代楽器に
よるものか、それとも古楽器かは注意しておく必要がある。古楽器は完全に定着して今や
現代楽器による新録音が出てこなくなった位だが、古楽ピッチが生理的にダメという人も
いるので、CD選択の際に確認する方がよい。

<カンタータ集 BWV1-216>
 既に複数のカンタータ全集の録音が存在しているが、現在も2種の全集録音が進行中、
コープマン盤(ERATO)と日本のBCJ盤(BIS)である。前者は既に評価の固まった演奏家で
安心であるが、後者も素晴しい。レヴェルは驚くほど高く、これが日本人によるものであ
ることは誇りに思う。全集完結が待ち遠しい。
 僕の手許には、かつてバッハ演奏のスタンダードだったリヒター指揮盤が2枚、4+56
+82番と、80+147番とがある。いずれも定番とされていたものだった。第147番には何し
ろあの名曲「主よ、人の望みの喜びよ」が含まれているから、一枚くらい持っておいて損
はないし、リヒターによる演奏も音楽の喜びが十分感じられる。
 既に現代楽器によるバッハは逆に骨董品のような感があるが、どうしても現代楽器によ
る新しい録音、という向きに薦められそうな盤があった。
○Antal指揮Hungarian Radio Chorus他(NAXOS,8.554042)
 第147+82番、それに合唱は無関係の第202番を収録。目玉の第147番だが、
 これくらい合唱に量感がある、ゆったりのコラールの方が好きという人も多いだろう。
 最近の古楽系演奏による「主よ、人の望みの~」は、えらく速いから。

 また、アーノンクール他指揮の全集からの抜粋で面白い企画盤があるので触れておく。
○Famous Choruses(TELDEC,4509-92626-2)
 カンタータを全部買うなんてとてもとても、という向きのために、名合唱曲だけを抜粋
 してくれたというありがたーい企画。指揮はアーノンクールもしくはレオンハルトで、
 古楽器使用と少年合唱起用が特徴。合唱の水準は、今日の耳からは不十分になったが、
 とにかく貴重なアンソロジーと言える。

 ドイツのレーベルCPOは、実はバッハ作品ではない、偽作にこだわっている。カンター
タの中でBWV.217-222の6曲が偽作で、それを集めて録音した2枚組がある。
○Helbich指揮Alsfelder Vokalensemble他(CPO,999139-2)91年
 6曲のうち2曲がテレマン、1曲がヨハン・エルンスト・バッハ、他3曲が作者不明と
 なっている。テレマンの声楽曲は楽しいことこの上無いということもあって、当盤も十
 分楽しめる。合唱の水準は普通。古楽器使用。

<モテット集 BWV225-230>
 例によって偽作の議論があって、正確に何曲かは未確定だが、頻繁に演奏・録音される
ドイツ語によるモテットが6曲ある。これらは魅力的なレパートリーで、特に第1番「主
に向かいて新しき歌を歌え」の絢爛とも言える見事な二重合唱は最高。個人的には6曲の
中では退屈するのだが、第3番はバッハ作品の中でも最高傑作の一つという人がいるほど
の名作である。たいてい6曲まとめてCDになっているので、1枚くらいは持っておきた
い。伴奏楽器をどの程度厚くつけるかが、演奏によって異なっている。バッハなら腕に覚
えのある演奏家がこぞって録音するので市場に山ほど出ており、手許にはそのごく一部。
未聴盤にも注目株があって、コープマン、ヘレヴェッヘ、ベルニウスあたりは気になる。
○Jacobs指揮RIAS Kammerchor(HARMONIAMUNDI,HMC901589)95年
 当代最高の合唱団だと思っているリアス室内合唱団がその実力を最大限に発揮。第1番
 (中間部を反復していることも盤選択にあたってはポイント)など、この技巧を見せつ
 けられると有無を言えないし、第3番もソリストを有効に使って飽きさせない。僕にと
 っては決定盤。古楽器使用。全部で26の細かいトラック。ドイツ語の合唱曲はドイツ語
 圏の合唱団に本気を出してほしい、その見本のような一枚。
○Marlow指揮Trinity College,Cambridge(CONIFER,74321-15350-2)88年
 常識的な演奏とちょっと違う、軽やかな声が美しく、癖になる。特にこのソプラノのあ
 り方は他では得られない。伴奏はオルガンのみ。6曲で全22トラック。
○Scholars Baroque Ensemble(NAXOS,8.553823)96年
 指揮者をおかず、基本的に各パート1人で演奏してしまうグループ。第3番も歌手はた
 った5人。しかし、不自然さは感じさせない。やりますねえ。伴奏楽器も3人だけで、
 バイオリン、チェロ、オルガンのみ。自分が演奏に参加する際の参考にも好適かも。
○Gardiner指揮Monteverdi Choir(ERATO,2292-45759-2)80年
 昔はこれを聴いて満足していたが、今日ではちょっと苦しい。古楽器使用。なおこの番
 号は、「IN EXCELSIS」シリーズとして再発売された際のもの。
○Ericson指揮Eric Ericson Chamber Choir(EMI,7 54634 2)92年
 柔らかいが、若干もさもさした感触。悪くはないが、この名演奏家たちも、なかなか現
 代音楽の時のようにはいかない。古楽器使用。解説をポール・ヒリアーが執筆。
○Hilliard Ensemble(ECM,4765776)2003年
 上記のスコラーズ盤と同じく各パート一人で、伴奏は第6番にオルガンを付けるのみ。
 歌手8人のうち、ソプラノ2人は女性歌手を起用。第1、2番あたりの絢爛さを求めら
 れる作品では寂しいが、第3番などは一聴の価値ありで、このアンサンブルの響きの個
 性に合っている。BWV.Anh159も収録。

 この6曲以外で「モテット」とされる曲のCDもある。曲を網羅するために以下を。
○Rilling指揮Gacinger Kantorei Stuttgart他(HANSSLER,98.965)90年
 通常の6曲と、BWV118、BWV Anh.159,160、及び番号のないDer Gerechte kommt umを収
 録した2枚組。リリンクには旧録音もあったが全体にモサモサしていた。この新盤でも
 残念ながらやはりモサモサ。特にソプラノは技巧的につらい。現代楽器、現代ピッチの
 録音が欲しい人や、曲を網羅しないと気がすまない人だけに薦める。一昔前は、第3番
 でこんな傾向の演奏が多かったから、僕は苦手になったのかもしれない。
○Gardiner指揮Monteverdi Choir(ARCHIV,445610-2)89年
 ガーディナーの数多いバッハ録音のハイライト盤で、僕のように決してガーディナーの
 熱心な聴き手でない者には有難い。これにBWV118が入っている。

 なお、バッハの偽作にこだわるCPOに、偽作モテット集があるようだ。

<クリスマス・オラトリオ BWV248>
 日本でもクリスマスが近づくと演奏機会が急に増える、人気の高い6部から成るカンタ
ータ。確かに喜ばしい雰囲気で人気は頷けるが、録音で聴くとなると、やはり長すぎて、
なかなか一気に聴き通すのは辛い。手許に複数の全曲盤がある。
○Jacobs指揮RIAS-Kammerchor(HARMONIAMUNDI,HMC901630/1)97年
 2枚組。古楽器による最新盤。同じコンビによる「モテット集」ほど決定盤度は高くな
 いと思うが(テンポ設定の問題など)、それでも驚きのハイレベル。新しい録音が欲し
 いなら迷わずこれ。
○Gardiner指揮Monteverdi Choir(ARCHIV,POCA2518/9国内盤)87年
 2枚組。古楽器で世評高いもの。溌剌感は大したものだ。なおこの番号の盤は、国内盤
 としては安い廉価盤。
○Richter指揮Munchener Bach-O,Chor(ARCHIV,427236-2)65年
 3枚組。これも定番。現代楽器による録音ならやはりこれに戻ることになる。

<復活祭オラトリオ BWV249>
 世俗カンタータBWV249aを転用した作品。録音は余り多くないが、いいものがある。
○Koopman指揮Amsterdam Baroque O & Cho(ERATO,3984-23416-2)98年
 演奏、録音とも良い。独唱者には不満も残るが、合唱の水準は高い。カップリングニ長
 調の「マニフィカト」。

<ロ短調ミサ曲 BWV232>
 専門家、愛好家を問わず評判が高く、バッハ作品でもこれは特別という人が多い名曲。
僕も初めてリヒター盤を聴いた時、冒頭で金縛りにあった。が、その後はどうも変な曲だ
という印象だった。統一感がないし、全体の出来としては「竜頭蛇尾ミサ」と呼びたいく
らい。後になって、まとめて作曲されたのではなく、寄せ集めミサであることを知った。
今でも、これが特別の名曲であるとは僕は思っていない。
○Richter指揮Munchener Bach-O,Chor(ARCHIV,427155-2)61年
 2枚組。これも定番中の定番。現代楽器演奏ならやはり忘れられない。
○Jacobs指揮RIAS-Kammerchor(DEUTSCHE SCHALLPLATTEN,TKCC-15186国内盤)92年
 古楽器演奏なら、これが最高という意見が強い。来日公演でも聴衆に大ショックを与え
 たということ。確かに美しい演奏。上記のCD番号の国内盤は、2枚組で2千円で、解
 説・対訳付き。超お買い得盤とは、このことだろう。古楽器ブームだから、有名指揮者
 たちが挙って録音している「ロ短調」だが、これさえあれば。
○Max指揮Rheinische Kantorei, Das Kleine Konzert(CAPRICCIO,60033-2)92年
 上記ヤーコプス盤に加えて、ここではひいきの古楽団体の演奏を挙げる。受難曲同様、
 合唱曲としての純粋な美に感動を覚える名演。2枚組。
○Rifkin指揮The Bach Ensemble(NONESUCH,7559-79563-2)81,82年
 今ほど古楽演奏が隆盛ではなかった頃の、声楽パートが合唱も含めて各一人+オリジナ
 ル楽器ということで話題になった演奏。発売当時、僕もFM放送で聴いて「おお!」と
 思ったものだ。つい最近、上記番号で廉価になったのでCDで改めて聴いてみたが、冒
 頭の和音が美しくないことがわかった(一発でハモんなきゃね)。まあしかし、従来の
 演奏では埋もれていた美を随所に発見できるのは確か。器楽部分がヨレヨレなのは、好
 みが分かれそう。

<小ミサ曲等BWV233-242>
 上記のいわゆる「大ミサ」の他にも、グロリアまでしかない小ミサ曲が4つある。いず
れもカンタータ等からの転用となっているので、バッハの魅力はそれなりに味わえる。下
に挙げるコルボ盤には、独立したSanctusを5曲(BWV237-241)と、クリステ・エレイソン
BWV242もまとめて収録しているので、曲を知るだけなら便利。
○Corboz指揮Ensemble Vocal de Lausanne(ERATO,WPCS5689/90国内盤)72,73年
 この番号の盤は国内盤としては安く2枚組で2千円だし、日本語解説もちゃんと付いて
 いる。演奏スタイルが今日となっては古いが、そこそこのレヴェルは確保、お得盤。

<マニフィカト BWV243>
 合唱愛好家にファンが多い。確かに合唱の出番が美味しい。一聴に値する。
○Koopman指揮Amsterdam Baroque O & Cho(ERATO,3984-23416-2)98年
 新しい録音で好演。カップリングは「復活祭オラトリオ」。
 なおこの曲には変ホ長調の原曲BWV243aがあり、その録音も市場に出ている。

<マタイ受難曲 BWV244>
 「人類の宝」とされてきた名曲だが、このCDに関しては、日本人の研究者による名著
がある。礒山氏による「マタイ受難曲」(東京書籍)がそれで、綿密な楽曲分析のみなら
ず、巻末に、原稿執筆時点までに発売されたあらゆる音源を比較している。日本の合唱団
が管弦楽付きで演奏するレパはせいぜい両手ほどしかないのだから、それらについて、こ
れくらいの音源比較があれば幸せなのだが。現実はそういうのはない。裏を返せば、磯山
氏の仕事には最大限の敬意が払われるべきだ。さて、ここでは、定番のリヒター盤とレオ
ンハルト盤及びメンゲルベルク盤以外は、より新しい録音について触れておきたい。
○Richter指揮Munchener Bach-O,Chor(DG,439338-2)58年
 無人島に一枚だけCDを持っていくなら?という問いに、これを挙げる人がいる程、評
 価の高い定番。他のリヒターの諸録音同様、今となっては合唱の演奏レヴェルに不満は
 多いが、演奏全体に漂う気合は一聴の価値がある。
○Mengelberg指揮Royal Concertgebouw(PHILIPS,462871-2)39年
 今となっては信じられない古風な演奏スタイルだが、バッハの懐の深さか、音楽の訴え
 は意外に強い、歴史的名演。これが何と、CD1枚の収録時間が増えた(2枚目は80分
 を超える)おかげで、2枚組に収まってしかも1枚分の価格で発売されたのがこの番号
 の盤。解説はわずかで対訳はもちろん無いが、この価格なら一聴の価値あり。
○Leonhardt指揮Tolzer Knabenchor,Le Petite Bande(DHM,BVCD-1656/8国内盤)89年
 前述の礒山氏が絶賛する、古楽器演奏。国内盤でも廉価で発売されて買い得感が上昇。
 日本語解説が読みたい人は、迷わず当盤を入手すべきだ。
○Max指揮Rheinische Kantorei, Das Kleine Konzert(CAPRICCIO,60046-2)95年
 モンテヴェルディのヴェスプロを聴いて以来ひいきにしているコンビの「マタイ」は最
 高だ。古楽器演奏の中でもテンポが速く2枚におさまってしまっているので、リヒター
 あたりを聴き慣れていると受け付けないかもしれない。しかし僕は、この冒頭合唱を聴
 いて、音楽の美しさに身震いがした。ソリストの一部に不満があるが、僕が「合唱がう
 まい」という観点で一枚だけ「マタイ」を選ぶなら、これにしたい。少年合唱が入らな
 ければ「マタイ」じゃないという人は選んではダメ。なお、上のレオンハルト盤共、福
 音史家を歌うのはプレガルディエン。
○Cleobury指揮King's College,Cambridge(VANGUARD,99070)94年
 演奏時間が160分を少し超えるので3枚組になった古楽器演奏盤。ソリストの中にカー
 クビーが混じっていたりするのが魅力の一つ。
○Harnoncourt指揮Alnold Schoengerg Chor,Wiener Sangerknaben,
 Concentus musicus Wien(TELDEC,8573-81036-2)2000年
 21世紀の最初の年の発売盤としては目玉になったアルバム。しかし、アーノンクールを
 もってしても、「マタイ」で先人を超えるのは難しいのだなと思わせる。冒頭合唱から
 して、きれいではない。古楽系演奏でこの程度だと、速いテンポがただせかせか聞こえ
 るだけという結果になってしまう。CD-ROMを兼ねており、バッハの自筆楽譜を見ながら
 MP3ファイルが聴けるという特典付きで、趣向は面白い(楽譜の細部はさっぱりわから
 ないのだが)。

<ヨハネ受難曲 BWV245>
 これまた文句のつけようのない名曲。ディスク2枚ですっぽり収まるのも嬉しい。冒頭
合唱が、聴き手をたまらなく不安な気分に陥れるが、そこが気に入っている。当然の如く
今日では古楽の腕自慢がこぞって録音、選択の幅は広い。僕が聴いた盤はごく少数。
○Richter指揮Munchener Bach-O,Chor(DG,453007-2)64年
 これまた定番中の定番。今日の耳からすると、特に合唱のレヴェルは低いが、演奏全体
 の表情が醸し出す雰囲気のような物に圧倒される。ことに終曲のコラールの感動は、他
 では得難い。録音年は僕の生年で、当時こういう演奏がなされていたのかと感慨深い。
○鈴木雅明指揮BCJ(KING,KICC168/9国内盤)95年ライブ
 CD屋でかかっていたのを聴いて、その技術水準の高さ、透明度の高い音楽の質に驚い
 た一枚。これが我らが日本人の演奏なのだから、自慢したくなる。古楽器演奏から選択
 するなら是非考慮に入れたい一枚。なお当団体がスタジオで再録した新盤を最近みかけ
 たが、使用した版が違うようだ。
○Max指揮Rheinische Kantorei, Das Kleine Konzert(CAPRICCIO,60023-2)90年
 「ヨハネ」には楽譜の版がいくつかあって、当盤は1749年版の初録音ということ。版は
 ともかく、演奏は同じ団体の「マタイ」同様の素晴しさ。本場ドイツの古楽器演奏とい
 うことで選ぶなら推薦。

 さて、「マタイ」「ヨハネ」以外にも受難曲があって、20世紀になって東京で楽譜が発
見された「マルコ」と、偽作とされている「ルカ」がある。この4つの受難曲をまとめて
安く入手できる8枚組のCDがある(BRILLIANT CLASSICS,99048/51)。これらはテジタル
の新しい録音であるのは確かだが録音データは不明(マタイは94年)だし、解説が全くつ
いていない。演奏者は4曲とも異なるが、ソリストがイギリスの古楽の錚々たる顔触れを
集めているところが凄い。「マルコ」のトレブル・ソロには、一時期日本のCD会社が売
り出そうとしたコナー・バロウズ君の名前も見える。演奏は「マルコ」が掘り出し物。特
に合唱の透明感は出色。僕は、このセットをアメリカからの通販で約2千円で買ったが、
「マルコ」だけで価格以上の価値がある。また偽作の「ルカ」は、ソロと合唱の関係や管
弦楽法など、こりゃバッハじゃないと思わせる。純正バッハじゃないと時間の無駄という
人には薦めないが、気楽に楽しめる受難曲として一聴の価値はある。演奏もソリストは十
分だし、合唱はハーモニーの精度はいまいちだが、音が遠いことが幸いしている。以下に
各曲の指揮者と合唱団名を記しておく。
○マタイ/Goodwin指揮の合唱団と管弦楽団
○ヨハネ/Cleobury指揮Kings College,Cambridge
○ルカ/Rehm指揮Balinger Kantorei
○マルコ/Goodman指揮The Ring Ensemble of Finland

<編曲物>
 バッハの音楽の、「永遠性」というと大袈裟かと思うが、懐の深さを証明するのが、数
々の編曲版の存在ではなかろうか。管弦楽、室内楽、ピアノ曲など、クラシックの範疇で
も様々編曲・演奏されているのはもちろん、ジャズなどポピュラーになっても違和感が少
ない。バッハほど編曲に耐えうる例は他では見い出し難い。当然合唱の分野でも編曲が存
在、この方面で世に出たスウィングルシンガーズは、はずせない。2枚挙げる。
○Bach Hits Back(VIRGIN,VBD5 61472 2)91年
 デジタルの新しい録音で21曲をバッチリ楽しめる。この曲をアカペラコーラスにするか
 という意外な選曲も多数。更に良いことに、この番号の盤は、モーツァルトで遊んでみ
 た「A Cappella Amadeus」との2枚組、しかも価格はミッドプライス1枚分。スウィン
 グルなるグループを一枚だけで体験したいという人にも最適。
○Jazz Sebastien Bach(PHILIPS,EJD-3031国内盤)60年代
 創立時のスウィングルのスタイルが忘れられないという人がたくさんいても当然。そん
 な60年代のバッハ録音を集めた一枚。

 他の編曲ものも見ておく。
○Equilbey指揮Accentus Chamber Choir(NAIVE,V5048)2006年
 コルネリウスが、鍵盤音楽3曲を無伴奏混声合唱用に編曲したもので、フランス組曲第
 1番のサラバンド、イギリス組曲第3番のサラバンド、パルティータ第1番のメヌエッ
 トを原曲に、歌詞を付加したもの。

<バッハ・ファミリー>
 さて、ここでついでに、バッハ・ファミリーについて触れておきたい。周知の通り有名
な音楽家族で、音楽辞典などを見れば「なんとか」バッハという作曲家がそれこそたくさ
んいる。その中でも重要人物となれば、いわゆる古典派へのつなぎ役となったヨハン・ク
リスチャン(1735-1782)とカール・フィリップ・エマニュエル(1714-1788)の2人というこ
とになるのだろう。彼らの合唱曲を録音で入手することもできる。特に後者については、
大バッハの「マタイ」などで取り上げた僕ひいきの合唱指揮者マックスの録音が複数ある
ので、いつか聴いてみたいと思っている。ここでは、ちょっとひねったところで、ファミ
リーの数人の音楽をまとめたものを挙げる。この手の企画も複数見かけるが、下に挙げる
ものは、なかなか楽しめる。
○Marlow指揮Trinity College,Cambridge(CONIFER,75605 51306 2)95年
 バッハ・ファミリーのモテット集。この合唱団の軽やかな響きは魅力的だ。この中では
 ルードビッヒ・バッハの作品に特に魅力を感じた。
○Brown指揮Clare College,Cambridge(COLLUMNS CLASSICS,A555015)95年
 同じくモテット集。こちらも好演。VIDEO-CD付き。


ベック(BACK,Sven-Erik、1919-1994、スウェーデン)

 スウェーデン現代の作曲家には、たとえあまり有名でなくても、演奏者に恵まれている
(具体的には言うまでもなくエリクソンとその後継者たち)ため、CDで聴くとなると一
言触れておきたくなる人がいる。このベックもそう。合唱曲以外の録音も余り無い目立た
ない人だが、一枚強力な録音がある。
○Ericson指揮Swedish Radio Choir他(PHONOSUECIA,PSCD10)68~78年
 モテット15曲を収録。一部は、作曲者指揮によるストックホルム室内合唱団の演奏。
 録音時期は10年以上にわたっている。曲はいずれも無伴奏混声合唱による、真摯な作品
 揃いだが、無調を基調にしている上に聴き手に媚びようとする雰囲気も感じられないの
 で、気楽に楽しむには不向き(聴いていて眠くなるタイプ)。それにしても演奏は実に
 立派。羨ましいことである。歌詞はスウェーデン語が主で、一部英語とドイツ語。

 この他にも、同じレーベルにエリクソンが新録音した盤などがあるが、ベックをまとめ
て聴くためにはこの一枚が最適。


バディングス(BADINGS,Henk、1907-1987、オランダ)

 いくつか器楽曲の録音もあるけれど、とても有名とは言えないバディングスだが、日本
の合唱団のレパには時折挙がっている。有名曲は「ブルターニュの3つの歌」(1946)。混
声合唱曲で両端の曲にはピアノ伴奏が付く。詩はフランス語。音楽はいかにも印象派で、
特に第1曲「La nuit en mer」の和声展開は美しい。第3曲の軽快洒脱な魅力にも惹かれ
る。手許の音源は2つ。
○Shaw指揮Robert Shaw Festival Singers(Telarc, CD-80408) 94年
 CDのタイトルは「APPEAR & INSPIRE」。遅いテンポでじっくり歌っている。音質が良
 いことが魅力。ちょっと重い感触を与える。
○Ericson指揮Stockholm Chamber Choir(EMI, CMS5 65344 2)71年
 エリクソンの3枚組「ヨーロッパの合唱音楽500年」。テンポ設定はショウ盤よりも
 適切だと思うが、全体の印象はショウの方が良いかもしれない。

 いずれにせよ、オランダの出版社から出ている楽譜をみながら聞くと、どちらも決定盤
と呼べる物とは言い難い。また、彼のその他の合唱曲の楽譜も見かけるが、録音には今の
ところ恵まれていない。ただし一枚だけ良い演奏の物が手許にある。
○Gronostay指揮Netherlands Chamber Choir(NM CLASSICS,92065)96年
 アンドリーセンの項でとりあげたオランダの合唱音楽オムニバス盤にバディングスも2
 曲、「Canamus,amici,canamus」と、こちらは日本でもたまに演奏される英語詞による
 「Finnigan's wake」を収録している。合唱団が極上なので、これは貴重な音源だ。


バラーシュ(BALAZS,Arpad、b1937-、ハンガリー)

 日本の合唱団の選曲も80年代以降は無伴奏物に傾斜するようになり、その結果ハンガリ
ーの合唱曲が脚光を浴びている。コダーイ、バールドシュ、コチャール、カライあたりの
流行は目覚ましいものがある。ならば、現在は知名度が低くても、ハンガリーの作曲家な
ら注目したくなるというもの。そんな一枚。
○Sapszon指揮Hungarian Radio and Television chorus他(HUNGAROTON,HCD31187)
 恐らく80年頃のアナログ録音。児童合唱曲と混声合唱曲を収録している。コダーイやバ
 ールドシュに比べると個性を主張するのは難しいかもしれないが、ハンガリー物大好き
 という向きには、何か発見がありそうだ。


バンキエーリ(BANCHIERI,Adriano、1568-1634、イタリア)

 「動物たちの対位法」という愉快なマドリガーレを聴いたり歌ったりしたことがある人
は多いのではなかろうか。高校の頃、初めて実演を見る機会があったが、動物の声真似が
ポイントになるし、寸劇も盛り込めたりで、録音よりも遥かに実演向きの音楽である。
 ではその「動物たちの対位法」のCDから。
○Banchieri Singers(HARMONIA,HASF-1001国内盤)96年
 そのものズバリ、バンキエーリシンガーズのアルバム。といってもイタリアの団体では
 なくハンガリーの超絶少年少女合唱団カンテムスの団員だった男声6人が結成したアン
 サンブル。リーダーはかの有名な合唱指揮者デーネシュ・サボー氏のご長男だとか。当
 盤は、ルネッサンスのマドリガルや、キングズシンガーズのレパ、日本語の「会津磐梯
 山」などを収録。件の曲に関しては、パンチ不足かな。
○King's Singers(EMI,CZS5 73311 2)78年
 この名アンサンブルの結成10周年のライブ録音から。会場の笑いも録音されていて、さ
 ぞかし視覚的にも面白かったのだろう。残念ながら録音の限界で、音だけで腹の底から
 笑える、というものにはなっていない。
○Fromme指揮Collegium Vocale Koln(SONY,MB2K 45622)
 恐らく80年頃のアナログ録音。このケルンのアンサンブル、今となっては演奏の精度の
 低さが気になる。当アルバムは2枚組で、ルネッサンスのマドリガルを49曲たっぷり集
 めている上に安いのが長所だが、解説は全く付いていない。「動物たち」に関しては、
 鳴き真似の部分に限っては楽しい。

 後になって、実は「動物たち~」は「四旬節前の木曜日の正餐前の夕べの集い」という
長ったらしい題名のマドリガル・コメディーと分類されるジャンルの曲集の一部であるこ
とを知った。これは聴いておいて損はない。底抜けに楽しい。そして中には、ごく真面目
なマドリガーレがあって、その気品に満ちた美も忘れ難い。今日の我々が楽しめるのは、
以下にあげる2種の優れた演奏のお陰である。
○Alessandrini指揮Concerto Italiano(OPUS111,OPS30-137)95年
 評判のイタリア人アンサンブル。イタリア語の語り口は、やはりイタリア人の演奏家に
 任せたい。それにしても、仲間とこんなアンサンブルが出来れば人生幸せだろう。カッ
 プリングは同時代のストリッジォによるマドリガル・コメディーだが、意外と真面目。
○Fasolis指揮Radio Svizzera Lugano(NAXOS,8.553785)95年
 上記の盤と異なるのは、こちらは曲によっては一パート数人の合唱団で演奏しているこ
 と。そして楽器も鳴り物を入れたりしている。「動物たちの対位法」の楽しさは無類。
 イタリア北部のルガノの合唱団でイタリア語対応も万全。この合唱団はなかなか上手、
 余り目立たないが注目される。もう1曲、こちらも楽しいの一語に尽きる「音楽のザバ
 イオーネ」をカップリングして超廉価。これはファンには最高の贈り物だ。

 バンキエーリの作品は他にもあるので、今後の録音の広がりにも期待している。ここで
は、もう一枚挙げておこう。
○Ensemble Clement Janequin(HARMONIAMUNDI,HMC901281)90年
 「Barca di Venetia per Padovaヴェネツィアからパドヴァ行きの船」というマドリガ
 ル・コメディー。船に乗り合わせた人々が歌い合うという他愛のない内容。芸達者なこ
 とでは定評あるフランスのアンサンブルの演奏。なお、国内盤を見たことがあるが、対
 訳がひねってあって、イタリア各地の方言の差を表わすために、日本の各地方の方言を
 使っている。なかなかの工夫。当盤のカップリングは同時代のマレンツィオのマドリガ
 ーレを4曲。


バントック(BANTOCK,Granville、1868-1946、イギリス)

 イギリスでは名前を知られているバントックは、エルガー、パリー、スタンフォードら
と世紀の変わり目のこの国の合唱運動において大きな役割を果たした一人だが、今日では
他の3人と比べて忘れられかけている。そんなところに、彼の大規模な合唱曲の録音が出
てきたので、聴いてみた。
○Joly指揮BBC Singers(ALBANY,TROY180)95年
 合唱による交響曲ということで、「Atlanta in Calydon」「Vanity of vanities」の2
 曲を収録。何でも数百人規模の合唱団を演奏に要求した、ということに興味を持って当
 盤を買ってみた。結論から言うと、残念ながら密度の濃い作品とは思えなかった。確か
 にスケールの大きさはわかるが、強烈に耳を惹き付けるとまではいかない。ここでは演
 奏も、この合唱団の欠点で声が豊か過ぎてモワモワしてしまっている。悪いことばかり
 書いてしまったが、無伴奏混声12部合唱で、多数のアマチュアを対象に書かれたという
 事実に興味がある方はいらっしゃると思う。


バーバー(BARBER,Samuel、1910-1981、アメリカ)

 バーバーの音楽で最初に「うわー、かっこいい」と思ったのはラジオで聴いた「ピアノ
ソナタ」だった。急速な第2楽章には20世紀を感じたし、最後のフーガの凄まじさには圧
倒されるばかり。現代物は弾かなかったホロヴィッツが例外的にレパートリーに入れたこ
とからもわかるように、本質的にはロマン主義寄りであることも魅力と言える。
 バーバーが一般に知られているのは、何といっても「弦楽のためのアダージョ」。すっ
かり有名人の葬式用音楽になっているが、感動的なことは間違いない。まずはこの「アダ
ージョ」を無伴奏合唱曲にして歌詞を付けた「アニュス・デイ」を聴かねばなるまい。ヒ
ーリングブームもあって、この曲の録音の増加の勢いは凄い。別に特に集めているわけで
もないのに手許の音源だけでも13種類。市場にはまだまだたくさんある。では演奏時間の
短い順にチェックしてみよう。ポイントはソプラノソロと中盤のクライマックス。
 なおこの曲の楽譜は、輸入版に頼らざるをえなかったが、カワイの「新リーダーシャッ
ツ第1巻」に収録されて簡単に入手できるようになった。
○Edwards指揮London Voices(DECCA, 425216-2)88年(5:32)
 これだけは「アニュスデイ」じゃなく、D. Runswick編曲によるヴォカリーズ。演奏が
 粗いこともあって今一歩。
○Kuhn指揮Prague Philharmonic Choir(Supraphon, SU0011-2 231)95年(5:54)
 神戸中央合唱団に似て、声は豊かだが荒い。カップリングのノヴァークあたりが面白い
 一枚だが、バーバーに関しては良くない。
○中村仁策指揮神戸中央合唱団(Brain, BOCD-5002)86年(5:56)
 故中村氏がこの曲を日本に持ち帰った功績には感謝し最大限の称賛をしたい。ただしこ
 の演奏は、技術的には今ひとつ。凄い高揚感は評価できる。
○Rutter指揮Cambridge Singers(COLLEGIUM, COLCD124)93年(6:26)
 ひいきの団体だが、ラターにしてはハズれ。ハーモニーが怪しいところもある。
○Pearson指揮St. John's Episcopal Cathedral,Denver(DELOS,DE3125)(6:57)
 現代の聖歌ばかりを集めたCD。悪くないが、ここにあげた他の盤の中では劣る。
○Equilbey指揮Accentus Chamber Choir(naive,V4947)2001年(7:11)
 編曲物ばかり集めたマニアック盤。僕には女声が重たく感じられるが、日本で合唱をや
 る人たちには、こういうのが好まれるかもしれない。
○Brown指揮Cambridge University Chamber Choir(GAMUT,GAMCD535)92年(7:30)
 後述するが、バーバーの合唱曲を集めたCD。極めて英国の合唱団的な正統的演奏で、
 満足させてくれる。
○Walker指揮Cantillation(ABC,465824-2)2001年(7:41)
 オーストラリアの室内合唱団による、「平和への祈り」というタイトルのアルバムの冒
 頭に収録。安定感の高い優れた演奏。
○Higginbottom指揮New College,Oxford(ERATO,0630-14634-2)96年(7:57)
 とにかく売れまくったらしいアルバム「AGNUS DEI~music of inner harmony」の冒頭
 に収録。これは録音のとりかたの勝利だ。雰囲気が非常に良い。ヒーリング好みの方に
 お薦め。
○Broadbent指揮Joyful Company of Singers(ASV,CDDCA939)95年(7:58)
 当盤は国内盤で余り高くなく入手できるのがメリット。演奏も、若干声の苦しさを感じ
 させるが、基本的に優秀。バーバーの合唱曲を他に9曲と、アメリカのシュマンの曲を
 収録。なお国内盤は、対訳が付いているのは嬉しいが、解説は貧弱で残念。
○Christophers指揮The Sixteen(COLLINS, 12872)91年(8:23)
 合唱団が20人いないという不利もあるが、この団体だからうまいはうまいが響きが薄
 い、なのに遅い。アメリカの合唱曲を集めて面白いアルバムだがバーバーはいまいち。
○Warland指揮Dale Warland Singers(AmericanChoralCatalogue,ACC120)(8:34)
 なかなか実力ある団体だから悪くないのだけど、ビブラートの強いソプラノソロがぶち
 こわし。テンポとか雰囲気は良いと思うのだけど。
○Marlow指揮Trinity College,Cambridge(Conifer, 74321 16851 2)93年(9:29)
 遅い。しかしこの遅さと、ノンビブラートの声がもたらす透明感が安らぎを与えてくれ
 る。そのせいか、この演奏は国内盤で「アカペラ100%」という題名のアルバムにも入っ
 た、最もヒーリングなバーバーと言える。6分45秒過ぎ、クライマックスでテノールに
 声がひっくりかえる歌手がいるのがちょっと残念。
○Shaw指揮Robert Shaw Festival Singers(Telarc, CD-80406)94年(10:55)
 お、お、遅い。ロンドンヴォイセズの倍じゃないか。ただこの団体は低音がしっかり支
 えてかっこいい。荘重な雰囲気は最高かも。

 というわけで以上をまとめると、正統派にはBrown盤、ヒーリング好みにはMarlow盤か
Higginbottom盤、低音充実好みにはShaw盤、この4つを推薦。


 バーバーの他の合唱曲が聞きたい向きには、アニュスデイの中で挙げた、
○Brown指揮Cambridge University Chamber Choir(GAMUT,GAMCD535)92年
が良い。こういうCDが珍しいだけでなく、肝心のアニュスデイの演奏が良いのだからこ
れを買わない手はない。アメリカの出版社シャーマーからバーバーの合唱曲全集楽譜が出
ているが、1曲を除いたすべての曲をこのCDで聴ける。割愛された曲はブラスが演奏に
必要だから省略されたのだろうが、いれてほしかった。CDの合計時間が約50分で終わっ
ている。個人的には、アニュスデイ以外は、必聴作とは思わない。「Reincarnations」が
なぜか日本でも割りと演奏されている。通好みの音楽なのかもしれず、この作品の録音は
それなりに多く出ているが、僕自身はそれほど惹かれない。

 また、僕は未聴だが、管弦楽付きの合唱曲に「キルケゴールの祈り」などがあり、Koch
やTELARCから発売されている盤を見かける。オペラ全曲も機会があれば聴いてみたい。


バールドシュ(BARDOS,Lajos、1899-1986、ハンガリー)

 日本の同声合唱団のレパ対象としてはコダーイの後継者の筆頭格で、無伴奏の「ヘンル
ーダの花が咲いたらMagos a rutafa」をはじめ、コンクールの自由曲として流行中。今の
ところ混声でバールドシュを演奏する団体には余りお目にかからないが、以下に挙げる盤
を聴けば、自分たちでも演奏したくなること請け合いである。
○Tillai指揮Pecs Chamber Choir(BNL,112779)
 恐らく90年頃のデジタル録音で、実に貴重な混声の作品集。これを聴けば、混声合唱団
 でもバールドシュを歌いたくなるというものだ。このハンガリーの合唱団は、響きが軽
 過ぎる嫌いがあるが、西欧のスタンダードな合唱団を聴き慣れた人にはむしろ高く評価
 されるだろう。フランスのレーベルで決して入手しやすくないが、一聴の価値あり。
○Bardos/Choral works(HUNGAROTON,HCD31980)71~87年録音
収録曲:Popule meus; Libera me; Ave maris stella; Blessed Virgin;
 Peter Pazmany's Anthem; To the Earth; The Rabbit's Song; Winter is gone;
 Bartok; Kodaly; Folksong Rhapsody No1; From Szeged Way; The Danube s Wide;
 Dana-dana; Ancient Dance Tune(英語訳)
 混声合唱曲主体のアルバムで、収録曲のうち最初の5曲が宗教曲、残りは世俗曲と大別
 できる。
。2001年制作の新発売盤だが、音源としては新しくない。ハンガリー国内の様
 々な合唱団の様々な時期の音源を集めたもの。上記BNL盤との重複曲はLibera me、Ave
 maris stella、Winter is gone、Dana-dana、Ancient Dance Tuneの5曲だけ。「民謡
 狂詩曲第1番」などは、コダーイ「マトラの風景」のようなレパでより気軽なものが欲
 しいと思う人には特に推薦できる楽しい無伴奏混声合唱曲で、コンクールにも間違いな
 く好適。演奏の質や録音の良し悪しでばらつきがあるのが欠点だが、注目盤。
収録時間
 も68分強(ジャケットには72分強と記されているが誤り)とまずまず長い。
○Cieri指揮Coro Polifonico Luigi Colacicchi(STRADIVARIUS,STR33442)97年
 「MISSA TERTIA」を中心にラテン語の混声曲を集めている。音源としてはこれまた実に
 貴重だが、残念ながら合唱団の歌唱の安定度は低い。しかし、朴訥ながらもこの音をの
 せやすいバスの声などは参考になりそうだ。

 最初に述べたように、同声合唱曲は日本でも大流行。録音でも聴いておきたいところ。
○Szabo指揮CANTEMUS(VICTOR,VICG-5392国内盤)95年
 来日時に川口リリアホールで録音。この児童合唱団は、いくらほめてもほめすぎること
 はない。このハンガリーの合唱曲を集めたアルバムにはバールドシュも5曲含まれてい
 るが、合唱団の名前になっている「Cantemus!」や、代表作の「ヘンルーダの花が咲い
 たらなど、なんて鮮烈な歌唱だろうか。これを聴くと、自分たちで演奏しようという気
 が失せてしまいそうだ。

 落ち穂拾い。
○Sjoberg指揮World Chamber Choir(BOHEMIA MUSIC,BM0017-2231)93年
 無伴奏混声による「Cantemus」。世界の合唱曲のアルバムに収録。

 なお、日本の演奏家によるバールドシュとして、長良高校他によるCDがブレーン社か
ら出ている。


バルトーク(BARTOK,Bela、1881-1945、ハンガリー)

 ハンガリーの代表のみならず、20世紀最高の音楽家という専門家もいるくらいの大作
曲家という位置づけである。特に器楽曲の評価が高い。
 しかし、僕にとっては、バルトークは大変難しく感じる。同胞のコダーイがすっと心に
入ってくるのに対して、バルトークは、きっと音楽の完成度はずっと上なのだろうが、意
外と感動しないことが多い。合唱曲のことだけを言っているのでなく、器楽曲も難しい。
といっても、曲や演奏によっては、俗っぽく言えば血がたぎるような音楽や、民謡の素材
の良さを楽しめるのも事実だ。
 と未熟な個人的感想を述べてもしょうがないので、まず合唱曲集のCDを聴こう。
○CHORAL WORKS(HUNGAROTON,HCD31047)
収録曲:4つのハンガリー古謡、セーケイの歌、むかしのこと(以上男声)
    4つのハンガリー民謡(無伴奏混声)
    田舎の情景、管弦楽伴奏の7つの合唱曲(以上オケ付き)
 昔LPのカタログにのっていた「バルトーク大全集」の分売。
 まず混声の4つのハンガリー民謡。これは日本での演奏機会も結構多い。僕は第1、2
 曲が苦手で、いつきいてもここで疲れてしまうのだが、第3、4曲の音楽の力は素晴ら
 しい。このCDの演奏は普通のレヴェル。
 男声の3つは、ハンガリー人民軍合唱団。たしかLPでコダーイなどもドロドロに歌っ
 ていた団体だ。ここでも苔蒸した言葉で言えば土俗的な演奏。「セーケイの歌」は6部
 合唱で技術的にも難しく、日本の団体がとりあげるにもよさそう。
 オケ付き同声合唱曲の「田舎の情景」。タイトル通り生活臭にあふれ、特に第3曲など
 楽しんできける。この演奏は合唱がなかなか良い。
 同じくオケ付き同声合唱の「7つの合唱曲」は、過度に平易な曲想で刺激不足。

 続いて、日本の合唱界でバルトークと言えば最も演奏頻度の高い作品のCD3枚。
○Szabo指揮Gyor Girls' Choir(HUNGAROTON,HCD12448)83年
○Dobszay指揮SCHOLA HUNGARICA(HUNGAROTON,HCD31080)90年頃
○Tillai指揮Pecs University Choir(SOMM,SOMMCD216)99年
 この同声のための「27の合唱曲」は、日本でも人気が高い。この3枚の演奏にはとり
あえず大きな不満はない。確かにいい曲集で、僕が同声合唱団の選曲を考える立場なら
必ず考慮に入れるだろうが、コダーイを優先するだろう。Tillai盤は、余白に混声合唱
曲を2つ、「4つのハンガリー民謡」と「4つのスロヴァキア民謡」を収録しており嬉
しいが、この2つは演奏が悪いのが残念。手許には、東京少年少女合唱隊による抜粋盤
もある(CAMERATA,32CM-187)。
 
 さて、以下数枚、手許にあるバルトーク。
○Boulez指揮NYPO(SONY,SMK45837)71,77年
 バレエ音楽「中国の不思議な役人」。どこが合唱曲じゃと言われそうだが、このバルト
 ークの代表的な管弦楽曲、一応混声合唱入りだから許してください。といってもヴォカ
 リーズだし、出番もごく少ないのだけど。それにしてもこの奇妙な物語に付けた管弦楽
 曲、何とも強烈、これは名作の名に恥じないものだと思う。なお、当盤の合唱団はスコ
 ラ・カントルムで、出来としては悪くない。カップリングは、前述のフンガロトン盤に
 も入っていた「田舎の情景」(こちらの合唱はカメラータ・シンガーズの女声)と、合
 唱は関係ない「4つの管弦楽のための小品op.12」。「田舎」は、合唱団は良くないが
 オケのサウンドはずっと刺激的。
○Boulez指揮CSO(DG,435863-2)91年
 代表的合唱曲とされている「カンタータ・プロファーナ」。僕はこの曲が昔から超苦手
 で、何回聴いてもよくわからない。このブーレーズ盤には期待していたが、やはり苦手
 の解消には至らなかった。合唱はシカゴ響コーラスで大変良く歌っているが。なお競合
 盤には、フリチャイの2種(DGとHUNGAROTON)があるようだし、最近ショウ指揮盤も見
 た。なおブーレーズ盤のカップリングは合唱は関係ないバレエ音楽「かかし王子」。
○Ericson指揮(EMI,CMS5 65344 2)71年
 エリクソンの3枚組にバルトーク2題(混声のハンガリー民謡とスロヴァキア民謡)。
 僕はこのピアノ伴奏付きの「4つのスロヴァキア民謡」がバルトークの合唱曲では一番
 好きかもしれない。第1曲の哀愁漂う雰囲気がたまらないし、短い第3曲もリズミカル
 で良い。演奏はさすがエリクソン、反復鑑賞に足る。
○Ferencsik指揮Budapest PO他(HUNGAROTON,HCD11486)70年
 歌劇「青ひげ公の城」全曲。このオペラは合唱と関係ないと思い込んでいたのだが、演
 奏者名にハンガリー放送合唱団がクレジットされているので買ってみた次第。合唱の出
 番はほんのちょいもちょい、すぐ終わってしまう。しかしこのオペラ、確かに名曲の名
 に恥じないものがある。演奏も良く、音の状態も優れていて、推薦に値する。


バックス(BAX,Arnold、1883-1953、イギリス)

 バックスの音楽は、イギリス近代音楽ファンの間で人気が高いのだが、僕はずっと無視
していて、彼の合唱曲を聴くようになったのはつい最近のことだ。いまだにオケ曲やピア
ノ曲、映画音楽などとの接点は小さい。それにしても僕が聴いた数少ない合唱曲は、なか
なか良い。音が多いことによる響きの分厚さ、多彩さ。幻想的な雰囲気。スケールの大き
さ。ごちゃごちゃした邦人曲が好きな向きには気にいっていただける作曲家かも。
 ある程度バックスを集めたCDが手許に2枚。
○Spicer指揮The Finzi Singers(CHANDOS,CHAN9131)91年
 バックスは4曲。この中でハイライトは「Mater Ora Filium」。10分ほどかかる無伴
 奏合唱曲だが、圧巻はソプラノがハイCを3小節にわたって伸ばし、下の声部がアレル
 ヤ~とポリフォニックに展開する部分。美声自慢のフィンジシンガーズでさえ、ハイC
 には苦労しているが、演奏効果はある。あとの3曲は、「This Worldes Joie」、
 「I Sing of a Maiden」の比較的短い曲2つと、「Five Greek Folk Songs」。この最
 後のギリシャ民謡は初録音。フィンジシンガーズは、時折ソプラノが耳障りだが、よく
 歌っている。カップリングはハウエルズの合唱曲。
○Cleobury指揮King's College,Cambrige(EMI,CDM5 65595 2)85年
 フィンジシンガーズ盤と曲が重なり、「Mater Ora Filium」「This Worldes Joie」
 「I Sing of a Maiden」の3曲を収録。「Mater~」の難所は、こちらも苦しい。やは
 りハイCをあれだけ伸ばすのは無理なんだな。なお当盤はカップリングのV=ウィリア
 ムズのミサ曲が良い。


ビーチ(BEACH,Amy、1867-1944、アメリカ)

 よくもまあ、という位、種々雑多な音楽が再評価されている1990年代だが、中世のヒル
デガルト・フォン・ビンゲンを中心に女性作曲家にも光が当たっている。その流れで特に
注目されている一人がアメリカのエイミー・ビーチ。ピアノ曲を捉えて「アメリカのショ
パン」と渾名されることもあるようだが、確かにピアノ曲は魅力的で、「Dreaming」とい
う小品など捨て難い抒情がある。室内楽曲や歌曲もしばしば演奏・録音されている。
 となると当然、合唱曲も気になるところで、録音を入手してみた。
○Grand Mass/May指揮Michael May Festival Chorus(NEWPORT,NCD60008)
○Service in A major op.63/Strimple指揮Choral Society of Southern California
 (MUSIC & ARTS,CD921)
 前者のミサ曲は規模もそれなりに大きい管弦楽付き合唱曲。後者はオルガン付きの宗教
 的合唱曲。共に、演奏がイライラさせる出来。曲の方も、奇麗は奇麗だが、それ以上の
 訴えに乏しい。将来更に良いアルバムが登場するのを待ちたい。


ベートーヴェン(BEETHOVEN,Ludwig van、1770-1827、ドイツ)

 クラシック音楽を聴き始めた頃、僕は典型的なベートーヴェン少年だった。小学5年生
位にクラシックに目覚めた時から数年間はベートーヴェンを聴きまくった。と言っても、
当時の僕にとってLPなんて物は贅沢品もいいとこで、専らFM放送に頼った。当時、特
に気に入ったのが、「弦楽四重奏曲第14番」「ピアノソナタ第31番」「荘厳ミサ曲」
の3つの曲だった。その体験が現在の自分の音楽観に決定的な影響を与えていることは間
違いないし、現在自分が持っているらしい音楽関係の長所も短所も、子供の頃のベートー
ヴェン体験からきていることと想像する。これら3曲はいずれも晩年の作品で、専門家は
よってたかって高尚な芸術にまつりあげているが、その罪は重いかもしれない。小学生が
感銘を受ける音楽を、ことさら重々しく神棚に飾るのはいかがなものだろうか。こんな若
々しい音楽は無いと思うのだが。そんなわけで現在でも、古楽でも前衛でも邦人合唱曲で
も、僕は無意識のうちにベートーヴェンを基準に判断しているんだろう。9つの交響曲と
32のピアノソナタは、どの楽章も僕にとって大切なものだ。あなたにとって一番好きな
作曲家は?と問われれば、以上の経験から、ベートーヴェンと答えるだろうし、最も好き
な曲を敢えて一つ挙げろと言われれば「弦楽四重奏曲第14番」にするだろう。

 話が逸れるが、あの少年の頃、僕には小さなラジカセしかなかった。音楽を聴くにはラ
ジオしかない。良好な受信が期待できるわけもないラジカセでエアチェックした貧弱な音
のベートーヴェンを、来る日も来る日も聴き続けた。同じテープを何回も。時は流れ、ど
ういうわけかCDソフトを買い漁るようになってしまった今も、あの日々を思いだすこと
がある。苦労して何とか手許に置いた美しい音楽に貪るように耳を傾けたあの初心を、忘
れてはならないと思うのだ。

 さて、彼の合唱曲は実は相当たくさんある。僕が少年だった頃、ベートーヴェンの全作
品を作曲順に並べた書物が出版されて、それを片手に、知らない曲をFM放送のプログラ
ムで発見しては喜んでチェックした。合唱となると、超有名曲以外は殆ど放送されない。
だから、合唱曲はずっと闇の中だった。そんな少年時代からの懸案を一挙解決してくれた
のが、最近発売された、ドイツグラモフォンによるベートーヴェン全集だった。珍しいカ
ンタータはもちろん、ごく小さいカノンに至るまで、CDで聴くことができるようになっ
たのだ。珍曲については、後程、この全集に沿って挙げていくことにする。

 ではまず、日本人に最も馴染みの深いクラシック音楽に成長してしまった「第九」から
CDを聴き比べてみる。第4楽章について、これは芸術的観点からは低いものだ云々とい
うことが言われる。たとえ、作曲技法的にも内容的にも稚拙だったり霊感に乏しいものだ
としても、これほど大衆に近づけたクラシック音楽は他に例が無い。芸術の中で音楽だけ
が持つ力を、これほど備えた曲は無いのではなかろうか。
 当然、既にもう無数の録音がある。大体、交響曲全集すら夥しい数で、価格もついに2
千円を切る輸入盤まで市場に出ている現状だ。これだけ沢山あれば、きっといわゆる「ト
ンデモ盤」もあるだろうし、オタクに走るなら、各種言語による「第九」も集めたい。
 ところで、ベートーヴェンが感動的に演奏されなくなって久しいと言われる。確かに、
CDで買うなら、まずはモノラル時代の記録(代表株がフルトヴェングラー)を集めてい
れば基本は十分で、どうしても新しいデジタル録音が欲しければ、新しいベーレンライタ
ーの楽譜を使ったとしながら自由な演出を加えたジンマン盤(ARTENOVA)、もっと楽譜に忠
実な自然な演奏を好む向きならドラホシュ盤(NAXOS)といった、スーパーバジェットプラ
イスの全集を揃えればそれで済むと思っている。
 それはそれとして、手許の「第九」も結構な数になってしまった。その中で、まず合唱
人が、自分が歌うために参考にするCDという観点で一枚選ぶ。当然、ドイツ語圏の合唱
団から選ぶことになる。なお、演奏の傾向を掴むため、楽章毎の演奏時間を示す。第2楽
章の繰り返しの有無で時間がかなり変わってくる。
○Suitner指揮Staatskapelle Berlin(DENON,COCO6856国内盤)82年
 Rundfunkhor Berlin(chorus master; Knothe)
 Hajossyova(S)、Priew(A)、Buchner(T)、Schenk(B)
 16:10,12:47,16:57,25:03
 初のデジタル録音によるベートーヴェン交響曲全集との宣伝文句で発売されたもの。録
 音が実に良く、演奏の熱気がそのまま伝わってくる音だ。指揮も率直で気持ちいい。全
 体に速めのテンポでストレートに汗を流している感じ。オケは余り上手くなく、アンサ
 ンブルの縦の線のズレなどは頻発するが意外と気にならない。1、2楽章が特に優秀。
 第4楽章だが、まず合唱団が、声の深みはあまりないものの、基本に忠実で優秀なだけ
 でなく、録音のおかげでよくききとれる。解釈も妙なところがない。現代の指揮者のベ
 ートーヴェンがどうせどのCDを買っても没個性であるならば、全国で第九を歌う人た
 たちが参考にするオーソドックス盤ならコレ、と思っている。
○Zinman指揮Tonhalle Orchestra Zurich(ARTE NOVA,74321 65411 2)98年
 Schweizer Kammerchor(chorus master; Fritz Naf),
 Ziesak(S),Remmert(A), Davislim(T), Roth(B),
 13:35,12:11,11:31,21:40
 ベートーヴェン少年だった自分にとっては、どんな演奏であってもそれなりに楽しんで
 聴くわけだが、交響曲全曲(単発なら色々とあるけど)のCDに関しては、心を熱くす
 るのはフルヴェンの録音しかないと思っていた。しかし、僕が初めてベートーヴェンの
 交響曲を聴いた日から20年以上たって、このジンマン+トーンハレの録音が出てきた。
 ただレパが多いだけと思い込んでいた指揮者と、過去の栄光しかないとこれまた思い込
 んでいたオケからこのスーパー演奏、そしてこの激安。この全集は、「現代楽器を使っ
 た、ベーレンライター社の新版による世界初録音」というのがウリになっている。しか
 し、ベーレンライターの印刷が間にあってなかったのかもしれないが、校訂者デル・マ
 ーの楽譜を使った録音はマッケラス盤が先に出ている。実は、版の問題というのは、も
 ちろん新しい版の面白さはあるけれど、版が違ったって演奏がつまらなければ重要なこ
 とでは無い。ここでは、ジンマンの演出がかなり加わっているらしく、そのことでドキ
 ドキワクワクのベートーヴェンになったことが重要なのだ。従来の演奏を聴きなれた耳
 には、「あれ、あれー???」という音もあり、その面白さもある。しかし何より、ま
 ずメトロノームが速いことからくる演奏の抜群の活力、トーンハレのホールの響きを的
 確に捉えた録音、オケ自体の美しいサウンド、そして、ベートーヴェンを演奏する上で
 大切な「一生懸命さ、ひたむきさ」といったものをマイクが拾っている。
 全曲で60分を切っている。素晴らしいのは第1、2楽章だ。第1楽章冒頭から、テーマ
 の歌い方が早速「あれれー?」である。第2楽章は、繰り返しをやってこれは破格の速
 さ(トリオのスピードが聴き物)。第3楽章は、全集を通じて聴いてきて初めて、この
 楽譜通りのメトロノームでは、現代の耳には馴染みにくいものを感じた。肝心の第4楽
 章。まず最初の低弦のレチタティーヴォから「あれー?」の音がある。バリトン独唱、
 期待通り、「ad lib.」指定をやってくれた。柔らかい、いい声だ。当全集の特徴であ
 る演奏の熱気は、最後まで貫かれる。とても良い演奏だった。このスイスの合唱団、メ
 ンバー表を見ると、フランス語圏の名前の人もいるが、ドイツ語圏が主体のようだ。こ
 の演奏で非常に残念だったのは、合唱団の力がいまいちだったこと。特に男声は、ちょ
 っと問題が大きい。もちろん第九のCDではこの程度の合唱団がいくらでもあるので、
 それらの中では上の方だと思うが、やはりこのジンマンの全集、もうベートーヴェンは
 これしかいらない、というレヴェルになってほしかった。
 さて、第九の演奏時間は1時間を切っていると述べたが、当盤の録音タイムは72分を超
 えている。これは、ジンマン自身の発見を加えた、第4楽章の変ロ長調のマーチ以降か
 ら最後まで収録しているから、これもお得だ。その発見とは、二重フーガの後、イ長調
 になって主和音の後に、G.P.が自筆楽譜に書いてある、ということ。確かに、特に不自
 然でもない。なお、この別テイクの方が、本テイクより10秒ほど速い。
○Drahos指揮Nicolaus Esterhazy Sinfonia & Chorus(NAXOS,8.553478)96年
 Papian(S), Donose(A), Fink(T), Otelli(B)
 14:44,13:46,13:05,23:19
 室内オケによる全集で、これは地味ながら注目だ。きわめて正攻法で、ベートーヴェン
 の時代の身の丈に合ったサイズの管弦楽によるサウンドが心地よい。大オーケストラの
 演奏に慣れた耳にも新鮮な楽器バランスがわかる場面が少なくない。「第九」に関して
 は迫力も十分、決してこじんまりしていない。何より合唱がよく聴きとれ、しかも優秀
 であるところが推薦に値する。実体不明だが、ハンガリーの合唱団。

 以下の録音は、指揮者のアルファベット順に並べる。

○Abbado指揮BPO, Swedish Radio Choir & E.E.Chamber Choir(SONY,SK62634)96年
 Eaglen(S), Meier(A), Heppner(T), Terfel(B)
 15:24, 13:50, 14;01, 22:43
 第4楽章は合唱人には最高の聴き物だ。この2つの合唱団が名声に違わぬ歌唱を展開。
 多発する難所を見事にクリアする様に感動を覚える。しかし当演の欠点は、そこまでの
 3つの楽章が薄味なこと、音は立派なのだが。なお、全曲の終止音は、他の録音とは明
 らかに違って聞こえるが、この点を来日時の会見で問われた指揮者は、うまく答えられ
 なかったといういわくつき。コレクターなら持っておきたいアイテム。
○Abbado指揮BPO, Swedish Radio Choir & E.E.Chamber Choir(DG,UCCG-1003/7国内盤)
 2000年ライブ
 Mattila(S), Urmana(A), Mozer(T), Quasthoff(B)
 14:22, 13:03, 12:48, 22:02
 アバド指揮ベルリンフィルのベートーヴェン交響曲全集最新盤。ベーレンライター新版
 楽譜を使用しているため、まずテンポ設定が速くなっている。相変わらず第3楽章まで
 はダメだが、終楽章の合唱団は素晴らしい、よく聞こえる。この楽譜を使用する第九演
 奏に参加する人の参考としては好適。なお、アバドのDGへの録音は細かいトラックを付
 けることが多いが、第4楽章は2つに分かれているだけなのは不満。
○Abendroth指揮Sinfonieorchester Berlin des Staalichen Rundfunkkomittees,
 Choir of the State Opera House(TAHRA,TAH230)50年
 Breim(S),Eustrati(A),Suthaus(T),Paul(B)
 15:20,11:22,18:17,25:17
 大晦日のライブ録音。随所に個性的な表現が見られるが、アーベントロートのファン以
 外に広くすすめられるほどの出来にはなっていない。
○朝比奈隆指揮新日本フィル,TCF合唱団,東京オペラシンガーズ,日本プロ合唱団連合,
 東京アカデミッシェカペレ,麻生合唱団(FONTEC,FOCD9045/7)92年ライブ
 岡坊久美子(S),伊原直子(A),林誠(T),多田羅夫(B)
 17:58,15:34,18:24,26:25
 プロ、アマ合同の合唱団が参加。特に指摘すべき特徴がある演奏とは思えないが、ゆっ
 たりテンポの「第九」好きなら歓迎するだろう。併録の「荘厳ミサ曲」の方が推薦でき
 る演奏であるように思われる。しかしこのCD、いくら参加合唱団数が多いとはいえ、
 合唱団名を探すのに一苦労する作りになっているのは、いかがなものだろうか。
○Batiz指揮Orquesta Sinfonica del Estado de Mexico(LUZAM,14)96年
 Davalos(S),Diaz de Leon(A),Anderson(T),Giron May(B)
 14:30,13:33,15:38,23:02
 爆演指揮者として密かなブームのバティス盤で全集の分売。第1楽章の元気の良さに、
 享楽的に耳を傾ければ良い。第4楽章中間部マーチの部分で4小節だけ、テノールソロ
 にソプラノソロが加わっているように聞こえる場面があるのが“珍”。また全曲の終止
 でリタルダンドを効かせている。
○Bernstein指揮東西の混成管弦楽団(DG,429861-2)89年ライブ
 Chor des Bayerischen Rundfunks,Rundfunkchor Berlin他
 Anderson(S),Walker(A),Konig(T),Rootering(B)
 18:04,10:44,20:14,28:57
 初めてこの演奏の第3楽章をCD屋で聴いた時、粘りまくる、ムードミュージック的な
 肌ざわり。フルヴェンも遅いがこれも遅い。全曲にわたってそうだ。常に個性的だった
 晩年のバーンスタインらしく、やりたい放題。お祭り的ムードが演奏の自由度をますま
 す高める。歌詞も「Freude」を「Freiheit(自由)」に置き換える。貴重な歴史的記録
 ではあるが、冷静に聴くとなるとどうかなあ。なお合唱団は優秀。
○Blomstedt指揮Staatskapelle Dresden,Rundfunkchor Leipzig,
 Chor der Staatsoper Dresden(BRILLIANT CLASSICS,99793)80年
 Diese(S),Schiml(A),Schreier(T),Adam(B)
 16:55,13:48,16:24,25:09
 とにかく合唱が明晰なことが印象的。解釈も正攻法、オケもいかにもドイツ的で、正統
 派じゃなきゃ聴きたくないという人にも安心して推薦できる。この番号の盤は店によっ
 ては1500円未満で買える、史上最安値水準のベートーヴェン交響曲全集5枚組。推薦。
○Bruggen指揮Orch.of the 18th Century,Gulbenkian Choir(PHILIPS,468096-2)92年
 Dawson(S), van Nes(A), Johnson(T), Schulte(B)
 14:26,13:07,13:01,23:52
 古楽器によるベートーヴェンでは評価が高いもの。フィリップスの録音の優秀さが際立
 つ。第4楽章では、何気ない部分に歌があって、手ごたえ十分。コルボとの共同作業が
 有名なリスボンの合唱団も優秀、録音のせいでとても近くに聞こえるのが嬉しい(団員
 の声がひっくりかえるのがわかったりする)。この番号の盤は、2000年に超廉価で再発
 売された全集盤。この価格なら、古楽器ベートーヴェンを聴いたことがない人には全集
 盤として是非推薦したい。
○Celibidache指揮Muncher PO,Ch(EMI,CDC5 56842 2)89年ライブ
 Donath(S),Soffel(A),Jerusalem(T),Lika(B)
 17:32,12:31,18:01,28:57
 演奏時間からわかるように、昨今流行の速すぎるベートーヴェン演奏が我慢ならない人
 は是非これを。ミュンヘンフィル時代のチェリビダッケらしい、例によって一音一音確
 かめながら美しく磨いていく演奏は一聴の価値あり。合唱団の歌い方でも随分とこだわ
 りがあるのが興味深い。特に「Seid umschulungen,Millionen」の部分個性は、他では
 決して味わえない。
○Chung指揮東京PO,東京オペラシンガーズ(IMX Classics & Arts,IMXC-10001/6)2002-4年
 緑川まり(S),阪口直子(A),吉田浩之(T),Dohmen(B)
 16:22,11:10,14:24,23:39
 ライヴ録音によるベートーヴェン交響曲全集(+エグモント、フィデリオ、レオノーレ
 第3番)。元気印の素晴らしい全集だと思うのだが、どういうわけか、第九だけが、全
 く感心しない。かえすがえすも残念だ。
○Fried指揮Berlin State Opera Orch.,Bruno Kittel Ch.(NAXOS,8.110929)29年
 Leonard(S), Sonnenberg(A), Transky(T), Guttmann(B)
 13:56,9:58,13:54,23:21
 録音に残る最古の第九と言及されることがある有名音源。ブルーノ・キッテル合唱団の
 名前もオールドファンには御馴染みらしいが、今日の耳には、例えば日本全国の「第九
 を歌う会」的演奏会の方がうまいんじゃないかというレヴェルの合唱。そしてフリート
 の指揮が、カラヤンみたいな感じで、ヒストリカルを聴く意味にも乏しいと思う。まあ
 でも、古いという一点だけで、コレクターなら持っててもいいか、というところ。
○Furtwangler指揮BPO,Bruno Kittel Chor(ARCHIPEL,ARPCD0002)42年ライブ
 Briem(S),Hongen(A),Anders(T),Watzke(B)
 17:17,11:21,20:06,24:25
 ティンパニの音が作ったかのように轟音。全体に物凄いというイメージの迫力演奏。フ
 ルトヴェングラーのファンなら聴いておかねば。様々な盤で発売されたが、ここで掲げ
 る番号のディスクは2000年に市場に出たもの。しかしまあ何という生々しい音だろう。
○Furtwangler指揮Bayreuther Festpiele O & Chor(EMI,CDH5 66218 2)51年ライブ
 Schwarzkopf(S),Hongen(A),Hopf(T),Edelmann(B)
 17:51,12:00,19:32,24:59
 歴史上名高い「バイロイトの第九」。もうこれくらいの名盤になると文句のつけようが
 なく、まあ何はともあれ一度は聴いてみてくださいとしか言えない。が、褒めてばかり
 いても仕方ないので、少し不満を述べる。とにかく51年録音にしては音が間抜け。アン
 サンブルの乱れは相当なもので、もう少し合わせてくれればそれだけで音楽の緊張感が
 増すのに、という部分がある。第4楽章は、合唱人としては残念ながら合唱があまり聞
 こえない。だから自分が歌う際の参考にはなりにくい。とはいえ、やっぱりこの演奏は
 いつまでも残るだろう。終結部分は録音史上の奇跡なのだから。
 ところで、これほどの名演となれば、同じ演奏の別音源で、特に音質が良いものを探し
 たくなるのは人情というものだ。僕が知った中では、以下がいいと思う。
○同音源(OTAKEN RECORDS,TKC-309)
 これは、本番録音の際のマスターそのものではなく、サブマスターとして残された音源
 のデジタルコピーを使用したということだが、演奏の冒頭に長い拍手が付いている。針
 音ノイズがない。そして十分に細部まで聴きとれ、迫力も十分。合唱も遠いと言えば遠
 いが明瞭に聞こえる。こうして聴くと、合唱団の水準も意外と悪くなかったことがわか
 る。これからは、初めてこの音源を聴くという人は、こういう盤を手にとるとよいかも
 しれないが、音質の明瞭化のため、逆に神秘性が薄れ、そのせいで感動も薄れているよ
 うに感じる人もいるだろう。
 なお、LP初期盤からの復刻で、十分な音質を確保したディスクも2枚あげておく。
○同音源(OTAKEN RECORDS,TKC-301)
○同音源(GRAND SLAM REORDS,GS-2009)
 僕の個人的好みでは、後者のグランドスラム盤の音が良い。
○Furtwangler指揮Bayreuther Festpiele O & Chor(ORFEO,C754 081B)51年ライブ
 Schwarzkopf(S),Hongen(A),Hopf(T),Edelmann(B)
 18:10,11:56,19:23,25:01
 バイエルン放送協会の保存されていた、同じく51年7月29日の音源だが、明らかに違う
 音源とされ、2007年に大きな話題となって一般発売された。しかし僕には、特に重要な
 全曲の終結部が、物足りない。その落差の大きさ、感動の溝は、他で当盤のメリットが
 あるとしても、埋めきれない。
○Furtwangler指揮VPO, Wiener Staatsopernchor(ORFEO,C533 001B)51年ライブ
 Seefried(S), Wagner(A), Dermota(T), Greindl(B)
 18:29,12:29,19:07,26:15(拍手含む)
 上記バイロイト盤から僅か1ヶ月後のザルツブルクでのライブで、2000年に発売された
 が、これまでに海賊盤でも出たことがないらしい。演奏の傾向は似ているが、こちらは
 不思議なくらいテンションが低い。また、ウィーン国立歌劇場を主体とする合唱団が下
 手で困ってしまう。フルトヴェングラーのファンなら必携盤だが、普通の愛好家ならバ
 イロイト盤だけ持っていればよいのではないか。
○Furtwangler指揮Philharmonia O, Festwochenchor(TAHRA,FURT1003)54年ライブ
 Schwarzkopf(S), Cavelti(A), Hafliger(T), Edelmann(B)
 17:51,11:53,19:32,25:00
 これまたこの指揮者のファンの間では有名な「ルツェルンの第九」。バイロイト盤で不
 満だった間抜けな音が、こちらはかなり鮮明。そして解釈の基本はバイロイトと同じ。
 第1、2楽章あたりはこちらの方がフルトヴェングラーの音楽をより楽しむことができ
 る。しかしこのCDにも問題点がある。ルツェルン音楽祭の合唱団がダメなのだ。合唱
 が入ってくるとがっかりする。もちろん、この欠点を補って余りあるほどにフルヴェン
 の指揮は魅力的なのだが。
 なお、この「ルツェルンの第九」にも、より良い音質を目指した新復刻盤が出ている。
○同音源(OTAKEN RECORDS,TKC-307)
○Gardiner指揮Orchestre revolutionnaire et romantique,Monteverdi Choir
 (ARCHIV,439900-2)92年
 Orgonasova(S), von Otter(A),Johnson(T),Cachemaille(B)
 13:05,13:08,12:05,21:25
 ガーディナーは僕にとってはあたりはずれが大きい指揮者だが、この全集はどちらかと
 いえば当たりの方。もちろん古楽器演奏。ベートーヴェン指定のメトロノームを意識し
 た演奏ということで速いのはもちろんだが、意外にせかせかした感じはなく、第3楽章
 などは、現代オケだといつも眠くなる向きにはこういうのをお薦めしたい。ただ全体的
 には一本調子で、同じ古楽系ならアーノンクールの方がニュアンス豊か。合唱はやっぱ
 りうまい。
○Gielen指揮SWF-SO,Rundfunkchor Berlin(EMI,7243 5 60094 2 4)94年
 Orsanic(S),Minutillo(A),Winslade(T),Titus(B)
 14:11,14:05,11:44,22:05
 表記の演奏時間からわかるように、現代オケを使用して、メトロノームどおりの速度を
 志向している。第3楽章がさすがに機械的に過ぎるかもしれない。全体としてはギーレ
 ンらしさが出ているとは思うが、彼の演奏としては特筆すべきものでもないかも。第1
 楽章第2主題で、伝統的な音の方と使っているのが意外。第4楽章の最初の低弦による
 レチタティーヴォで、びっくりする箇所がある。独唱者のうちタイトゥスが、ここでは
 音程が悪いのが気になる。合唱団はさすが優秀。カップリングの序曲「献堂式」の方が
 気合が乗っていて、素晴らしい演奏だ。
○Goodman指揮The Hanover Band(NIMBUS,NI5148)88年
 Oslo Cathedral Choir
 HARRHY(S), BAILEY(A), MURGATROYD(T), GEORGE(B)
 13:59,15:21,12:15,24:11
 これも激安全集で、しかも古楽器。話のネタに古楽器演奏のベートーヴェンも一つと考
 える向きには求め易い。演奏内容は、時代考証派の中でも過激な部類と言えそう。何と
 言っても演奏時間に注目。第1楽章も速いが、第3楽章が12分そこそことは!そして第
 4楽章、やってくれました。最初のバリトン独唱で楽譜にad lib指定の部分、ホントに
 即興してます、控えめではあるが。合唱団はノンビブラートの声で健闘しているが、特
 別素晴らしいというわけでもない。
○Haitink指揮Royal Concertgeouw O,Netherlands Radio Ch(PHILIPS,UCCP-9550)87年
 Popp(S), Watkinson(A), Schreier(T), Holl(Bs)
 16:14,11:12,15:08,25:07
 2006年に公開された映画「敬愛なるベートーヴェン」のハイライト・シーンで「第九」
 が演奏されるのだが、その場面で音源として使われた演奏。映画館で見て音楽の推進力
 にかなり感銘を受けたので入手してみたが、自宅で聴くと、映画館ほどの感動を受けな
 い。例えばヘッドフォンで聴くと、各楽器の音楽の方向性がばらばらでまとまりがない
 のがわかる。合唱団の水準は高いほうなので、合唱人には薦められる。
○Harnoncourt指揮Chamber Orchestra of Europe(TELDEC,2292-46452-2)91年
 Arnold Schoenberg Choir
 Margiono(S),Remmert(A),Schasching(T),Holl(B)
 15:04,13:42,13:34,24:24
 現代楽器を使い、古楽奏法をとりいれた演奏による全集。これは面白い全集だ。随所に
 指揮者の意図がもりこまれて個性的であり、ベートーヴェンを聴き慣れた耳にも新鮮に
 訴える。嫌悪感をもよおすほど個性的であるわけでもない。第九についても、いろいろ
 新しい発見がある。第4楽章もそう。合唱団は特別にうまいわけではないが、ビブラー
 トを抑えた声で好演している。
○Herreweghe指揮Orchestre des Champs Elysees(HM,HMC901867)98年
 La Chapelle Royale, Collegium Vocale
 Diener(S), Lang(A), Wottrich(T), Henschel(B)
 13:30,13:19,12:26,23:02
 オリジナル楽器演奏。この録音直後の来日公演を生で聴いたが、その際はイマイチぴん
 とこなかったのだが、僕には録音の方がずっと楽しめる。やはり合唱の透明さは、聴き
 物である。しかし、21世紀には、このように全曲の終止がアラルガンド気味になるのが
 主流になるんだろうか、どうも納得できないが・・・。
○Jochum指揮London SO,Ch.(chorus master:HICKOX)(EMI,CDM7 64633 2)78年
 Kanawa(S),Hamari(A),Burrows(T),Holl(B)
 16:31,11:06,16:36,23:53
 ヨッフムのEMIへの録音と言えば、ブラームスの交響曲第1番が頭に浮かぶ。これはス
 テレオ録音では気迫いっぱいの素晴らしい演奏だった。「第九」も期待した。しかしこ
 れはだめだ。全体にアンサンブルが目立つ。おまけに第4楽章、合唱が低レヴェル。少
 なくとも合唱人にはとても薦められない。
○Karajan指揮PO,Vienna Singverein(EMI,CMS7 63310 2)55年
 Schwarzkopf(S), Hoffgen(A), Haefliger(T), Edelmann(B)
 15:08, 10:09, 16:06, 24:06
 これもなぜか子供の頃にLPが我が家にあった。やはり子供の頃に初めて聴いた演奏の
 先例は恐ろしいもので、第1楽章など、この速めのテンポが自分に刷り込まれている。
 しかしよくよく聴いてみると、コクのない快速演奏だ。オケも録音も当時としては優秀
 なのだが。さて第4楽章は、悪名高いウィーン楽友協会が出てくるが、ここではマシ。
 4人の独唱者はいい方だと思うが、コーダの前の四重唱部分の最後、オケと音が合わな
 くなる。そういえばクーベリック盤のこの部分は、4人に即興的にやらせたのか?と疑
 うくらいむちゃくちゃなアンサンブルだ。
○Karajan指揮BPO, Vienna Singverein(DG,429036-2)62年
 Janowitz(S), Rossel-Majdan(A), Kmentt(T), Berry(B)
 15:27,10:58,16:25,23:58,
 この頃のカラヤンは良かった、と言われる。確かにここに聴くベルリンフィルはなかな
 か剛直な音が心地よい。率直な音楽作りも評価できる気もする。合唱も例によってウィ
 -ン楽友協会だが、こことしてはマシ。カラヤンの「第九」ではこれが最高かも。
○Karajan指揮BPO(BERLINER PHILHARMONIKER,BPH 06 06)63年ライヴ
 Chor der St.Hedwigs-Kathedrale,RIAS-Kammerchor
 Janowitz(S), Wagner(A), Alva(T), Wiener(B)
 15:06,10:14,15;59,24:07
 ベルリンフィルの演奏会場フィルハーモニーの杮落としの際に演奏されたもの。正規盤
 での発売はこれが初めてという。気合が入っていることは伝わってくる。特に終楽章は
 熱気を孕んだ演奏といえる。最後の追い込みはなかなかのもの。合唱団はまあまあ。
○Karajan指揮BPO, Vienna Singverein(DG,POCG2016/21国内盤)76年
 Tomowa-Sintow(S), Baltsa(A), Schreier(T),van Dam(B)
 15:20,10:03,16:50,24:22
 オケのアンサンブルは磨きぬかれているとは思うし、いろいろと工夫を凝らしているこ
 とも伺える。しかし、第4楽章のウィーン楽友協会、これはひどい。独唱者とオケの健
 闘に比べると、なおさら合唱の不出来は悲しく、とても合唱人には薦められない。
○Karajan指揮BPO,Wiener Singverein(MEMORIES,ME1078/82)76年ライヴ
 Tomowa-Sintow(S), Baltsa(A), Schreier(T),van Dam(B)
 正規ではないライヴ音源。上記のスタジオ録音と同時期。特筆すべきことなし。
○Karajan指揮BPO(UNIVERSAL,UCCG-9396国内盤)79年10月21日普門館ライブ
 Tomowa-Sintow(S),Baldani(A),Schreier(T),van Dam(B),Wiener Singverein
 15:18,10:27,16:15,24:30
 僕もその昔、FM放送での生中継を聴いた、カラヤン来日公演ライブが2003年になって
 CD化。次の83年盤にも通じるが、全曲の終結部の祝祭的な気分だけで、この音源は僕
 にとって存在価値があるものだ。
○Karajan指揮BPO, Vienna Singverein(DG,F00G50322/7国内盤)83年
 Perry(S), Baltsa(A), Cole(T), van Dam(B)
 15:27,10:17,15:51,24:17
 このデジタル全集、素直な勢いがあって、カラヤンの演奏としては、かなりいけるもの
 だと思う。第7番など評価されてよい。ただし、第九もそうだが、アンサンブルをきっ
 ちり合わせることはできなくなっている。さて注目の合唱団は、今回は興味深い処理を
 しており、楽器の背後に合唱が隠れるような音だ。しかもわりと音程を楽器に合わせよ
 うとする努力が感じられる。しかしその結果、合唱の力強さは犠牲になっている。全曲
 の最後の部分、色々と聴いてきた中で、当演奏が一番脳天気だ。曲の性格からして好ま
 しいと思う。総合的には、やっぱり合唱人の参考にはならない。
○Kegel指揮Dresden PO(CAPRICCIO,CA49314)83年
 Radio Chorus Berlin(chorus master:Knothe), Radio Chorus Leipzig(Weigle)
 Hargan(S),Walther(A),Buchner(T),Kovats(B)
 16:35,11;19,16:05,26:22
 激安ボックスで、交響曲全集、合唱幻想曲、三重協奏曲、ブラームスの「ドイツレクィ
 エム」(この音源が重要!)、管弦楽小曲集がセットになった8枚組。安いからといっ
 て、演奏や録音が、少なくともぐちゃぐちゃというわけではない。ケーゲルは固定ファ
 ンもいる指揮者だ。第1楽章以下、極めて実直、律義な演奏が展開される。アンサンブ
 ルをぴったり整え、色気が無い。肝心の第4楽章は、バリトンソロは良いが、他の3人
 は冴えない。合唱は十分優秀で、スウィトナー盤と同じ理由で推薦できる。解釈で個性
 的な部分は、まず、真ん中で6/8拍子で高らかにテーマを歌う部分が、突然踏みしめる
 ようなテンポになること。二重フーガとコーダの間の部分は、普通より相当に遅い。し
 かしコストパフォーマンスの良いボックスだ。
○Klemperer指揮Philharmonia Orch., Chorus(EMI,CZS5 73895 2)57年
 Lovberg(S), Ludwig(A), Kmentt(T), Hotter(B)
 17:03,15:38,15:02,24:27
 この番号の盤も激安全集で、バレンボイムがピアノを弾くベートーヴェンのピアノ協奏
 曲全集と合唱幻想曲が付く9枚組で4千円未満で買えた。交響曲全集としては随所に個
 性的解釈が聴けて楽しいが、第九に関しては特に推薦できるものでもない。バイロイト
 で有名な合唱指揮者ピッツ率いる合唱団は、予想よりはマトモ。
○Konwitschny指揮Gewandhausorchester Leipzig,Rundfunkchor Leipzig
 (EDEL,0002172CCC)60年頃
 Wenglor(S), Zollenkopf(A), Rotzsch(T), Adam(B)
 17:41,12:07,15:53,24:55
 まさにオーソドックスな演奏という趣き。特に面白い演奏でもないが、普通でなきゃ受
 け付けないという人には好適。特筆してよいのは合唱団の明朗な響き、さすがは合唱指
 揮者クノーテの仕事だ。歓喜の爆発を、個々の合唱団員の声の集積として聴く感触。合
 唱団員の参考盤としては推薦できる。この番号の盤は、シューマンとベートーヴェンの
 交響曲全集などで3千円強で買える。
○Kubelik指揮BRSO,chor(DG,459463-2)
 Donath(S), Berganza(A), Ochman(T), Stewart(B)
 16:18, 12:12, 16:23, 24:17
 9曲をそれぞれ違うオケとやったことが話題の全集。人気が高い指揮者だったし専門家
 の評価は高いようだが、彼の灼熱のライブ録音を知っている身には、このスタジオ録音
 は平凡で、つまらない。燃焼度が低いのだ。第4楽章の合唱団は、実力派だから、例に
 よって悪くない。上記番号の盤は第7、8番と組んだ廉価盤2枚組でお買い得。
Kubelik指揮BRSO,chor(ORFEO,C207891B)82年ライブ
 Donath(S), Fassbaender(A), Laubenthal(T), Sotin(B)
 16;49, 11:57, 15:50, 25:42
 上記盤と同じオケ、合唱団によるライブ。同時期の「ミサソレムニス」のライブに僕は
 惚れているが、この「第九」に関してはそれほどでもない。第1~3楽章の出来栄えは
 素晴らしいと思う。確かに評判通り、この指揮者はライブの人だ。
○Leibowitz指揮RPO,The Beecham Choral Society(SCRIBENDUM,SC041)61年
 Borkh(S), Siewert(A), Lewis(T), Weber(B)
 14:34,12:27,12:30,22:17
 ベートーヴェンのメトロノーム指示を初めて採用した演奏というような言われ方をする
 こともある、有名なベートーヴェン交響曲全集5枚組から。全体に金管とティンパニに
 アクセントを効かせる演奏で、第九も同様。合唱団の声が充実しているのも長所。61年
 の割には音の状態も良好。全曲の終止のフィナーレの派手に目立つピッコロにも注目。
 僕が入手した時のように3千円を下回る価格なら「買い」。
○Maag指揮Orchestra di Padova e del Veneto,Athestis Chorus(ARTS,47248-2)94年
 Halgrimson(S),Engert(A),Vandersteene(T),Kunder(B)
 16:33,11:51,17:59,25:30
 管弦楽も合唱も上手いとは言えないが、ライブの雰囲気や、フィナーレの高揚は結構伝
 わってくる。自分が演奏に参加した時の、「第九」だけがもたらしてくれる感動が思い
 出される、そんな演奏だと思う。
○Mackerras指揮Royal Liverpool Phil O,Cho(CFP,5 72805 2)91年
 Rodgers(S), Jones(A),Bronder(T),Terfel(B)
 13:50,13:41,11:55,21:37
 安い全集。5、7、9番以外の6曲については、楽譜校訂のデル・マーの文章が載って
 いるが、5、7、9番は、例えば第九の解説で指揮者が若干デル・マーの意見を入れて
 いることはわかるが、ベーレンライターの新しい楽譜を使用しているかどうかは不明。
 恐らく録音時点では新楽譜の形で結実していなかったのだろう。それにしても、作曲者
 のメトロノーム記号を守るコンセプトのため、とにかく速く、ガーディナーよりも速い
 のは注目に値する。第3楽章はバーンスタインのベルリン・ライブより8分以上短い。
 当盤は特にイギリスでは評判が良く、第九のベスト盤に挙げる批評もいるようだ。ただ
 合唱人にとって大きな欠点は、合唱がそれほどうまくないこと。良く聴きとれるという
 点は評価できるのだが。第4楽章は9つのトラックに分割している。
○Mazur指揮Gewandhausorchester Leipzig,Rundfunkchor Leipzig,Rundfunkchor Berlin,
 Kinderchor des Philharmonischen Chores Dresden(PHILIPS,470471-2)73年
 Tomowa-Sintow(S), Burmeister(A), Schreier(T), Adam(B)
 16:17,14:05,15:02,23:59
 よくみると独唱陣、合唱団が超豪華。全体に極めてオーソドックスながら、決して聴き
 手を退屈させることのない好演。終楽章で変ロ長調に転調する前の歓喜の大合唱での、
 遅めのテンポが耳をひく。この番号の盤は交響曲全集5枚組で売値が2千円を切る店が
 あるほどで、コストパフォーマンスは最高の部類。ベートーヴェン初心者には、こうい
 う全集がいいかもしれない。
○Mengelberg指揮Concertgebouw Orchestra,Amsterdam Toonkunst Choir,
 Royal Oratorio Society(PHILIPS,468630-2)40年ライブ
 Sluys(S),Luger(A),Tulder(T),Ravelli(B)
 14:48,11:48,15:49,25:48
 基本的に快速演奏だが、時折、テンポをぐっと落として、今日では考えられないような
 大胆な解釈をみせる。「第九」においては、何といっても、最後を思いっきりリタルダ
 ンドしてしまうのが奇演。これを良いととるか、笑うしかないとなるか。それにしても
 録音年代の割りに合唱団がまとも。フルトヴェングラーも、せめてこのレヴェルの合唱
 団を振って欲しかった。
○Morike指揮German Opera House O,Ch(音楽出版社,クラシックプレス2001年冬号)21年
 17:16,10:28,15:05,20:57
 雑誌付録CDで、歴史的記録として意義が大きい。第1~3楽章までは別の指揮者、管
 弦楽団による1924年の演奏で、終楽章は上記の演奏家による21年の記録で、これこそ最
 古の「第九」終楽章だということだ。ただし終楽章は、途中から始まるのだが。音が悪
 いとか演奏が下手とか、そういうことはさておいて、この歴史的意義は一度聴いてみて
 くださいとしかいいようがない。申し訳ないが特に笑えるのはバリトンの歌いだしで、
 Aの次にC(Cisではなく、ナチュラル気味でっせ)音を出しちゃったこと。
○Norrington指揮London Classical Players,Schutz Choir of London
 (VIRGIN,VBD5 61943 2)88年
 Kenny(S),Walker(A),Power(T),Salomaa(B)
 14:09,14:17,11:08,22:42
 これも激安交響曲全集で3千円以内で買える。古楽系ベートーヴェンでは最初期のもの
 だが、全集として推薦できる好演。ティンパニとホルンの使い方に驚かされるし、何よ
 り音楽に漲る力が、ベートーヴェンっぽくていい。「第九」では、合唱団がマイクにと
 ても近いのが面白い。合唱団個人の声が聞こえちゃう感じなのだ。ただしここで起用さ
 れているロンドン・シュッツ合唱団は、「とてもうまい」と形容できるレヴェルではな
 いのが残念だが。

○Norrington指揮RSO Stuttgart des SWR,Gachinger Kantorei Stuttgart
 (HANSSLER,CD93.088)2002年ライブ
 Nylund(S),Vermillion(A),Kaufmann(T),Selig(B)
 14:13,13:58,12:07,22:03
 ノリントンの2回目の全集、第一弾として発売されたもの。今度は現代のオーケストラ
 を起用しているが、古楽奏法により、とんでもなく刺激的なサウンドの表現に成功。と
 にかくやりたい放題、元気一杯の「第九」だ。合唱団の声が前面に出てよく聴こえ、か
 つかなり優秀なのも評価できる。ベーレンライター版。
○Pletnev指揮Russian National Orch.,Moscow State Chamber Choir(DG,4776409)2006年
 Denoke(S),Tarasova(A),Wottrich(T),Goerne(B)
 14:25,12:25,11:43;23:54
 プレトニョフがピアニストとして見せる、超絶技巧を背景として細かい技を織り込んだ
 演奏を、オーケストラに持ち込んだ個性的全集の中の一枚。全体にとても楽しいベート
 ーヴェンで、第九に関しても、第1楽章冒頭で弦楽器が六連符を刻まないなど、個性的
 表現が目立つが、肝心の終楽章は、合唱団も独唱者も悪くないが、数多有る第九の中で
 の存在感は、必ずしも高くないように感じられる。全集としてお薦め。
 合唱に丁寧に表情をつけているところは評価できるが、ここぞという場面で合唱団の実
 力の無さが露呈するので、合唱人にはあまり薦めたくない。
○Saccani指揮Budapest PO,Hungarian State Opera House Chorus
 (BPO LIVE,BPOL1021)2000年ライヴ
 Bathori(S),Nemeth(A),Mukk(T),Racz(B)
 16:23,11:43,15:29,25:22
 自主制作ライヴ盤22枚組から。無修正ライヴならではの良さが終楽章に現れている。終
 結部はフルトヴェングラーになりたかったのか、かなりはっきりしたアッチェルをかけ
 る。録音バランス上、声楽陣がやたら大きく聞こえる。先行する3楽章は特段指摘する
 こともないが、終楽章だけでかなり楽しめる。
○Scherchen指揮Lugano Rad & TV O,Ch(山野楽器,YMCD1017国内盤)65年
 Laszlo(S), Devallier(A), Munteananu(T), Arie(B)
 14:24,10:50,12:01,25:12
 超ヘンチクリンな演奏で、オタクの間で評判になった全集。ものすごいハイテンポ、ま
 るだしの激情、指揮者の雄叫び。いやはや、凄い記録だ。曲によっては出来の良いもの
 もあるが、第九に関しては僕はいいと思わない。せかせかし過ぎだ。第3楽章も速過ぎ
 るくらいだが、さっぱり面白くない。合唱団は意外に健闘している。第4楽章になると
 指揮者の雄叫びは特に耳につく。
○Skrowaczewski指揮Saarbrucken RSO,Bayerischen Rundfunks Chor(OEHMS,OC525)2005年
 Dasch(S), Sindram(A), Elsner(T), Zeppenfeld(Bs)
 15:14,13:02,16:54,25:30
 録音時の指揮者の年齢を感じさせない、若々しい演奏。特に終楽章に漲る音楽の力は、
 推薦に値する。バイエルン放送合唱団は期待通りの名唱で、自分で「第九」を歌うとい
 う合唱人にも薦められる演奏。全曲の終止の推進力も聴きもの。
○Stokowski指揮LSO,Ch(LONDON,421636-2)67年
 HARPER(S), WATTS(A), YOUNG(T), MCINTYRE(B)
 15:05,11:02,15:06,26:11
 「GRAMOPHONE GOOD CD GUIDE」の何年か前の版で紹介されたことがある。何と言っても
 ストコフスキー先生である。普通の演奏であるわけはない。しかし、これは意外に平凡
 で普通。それでも、第三楽章の妙にはやいテンポ、左右スピーカーに音を振り分けた録
 音、オーケストレーションの変更など、やぱり変ではある。とにかくオケのアンサンブ
 ルが雑だ。ここまで雑なのも珍しいのではなかろうか。また、音質もキメ細かさからは
 程遠い。肝心の第4楽章、最初のバリトンのテーマを受けて合唱が歌い継ぐ場面、経験
 のある方はご存知のように、テノールの跳躍が妙で、この処理に迷わされるが、当盤で
 はテノールを思い切り目立たせている。なお、この合唱団はテノールのナマっぽい声が
 気になる。終止はさすがストコフスキー、やってくれる。「第九コレクター」には必聴
 盤と言えそうだが、自分で歌う際の参考としては薦められない。
○鈴木雅明指揮Bach Collegium Japan(BIS,BIS-CD-950)98年
 番外に近いものだが、若きワーグナーがピアノソロ用に「第九」を編曲してしまったと
 いう版を使用し、第4楽章にはちゃんと合唱を入れたという趣向盤。しかも合唱団が我
 らが誇るバッハ・コレギウム・ジャパンで、この曲がここまでの透明感を持って晴朗に
 なり響いたという点では史上最高の可能性がある。しかし、当盤の最大の問題点はワー
 グナーによるピアノパートとその演奏にある。僕は楽譜を見たことがないので偉そうな
 ことは言えないが、発売時に「演奏不可能」という歌い文句があったのだが、そのよう
 な部分はピアニストによって避けられているようであり、どちらかというと音が薄くて
 どうしようもない編曲という印象が強い。特に第4楽章は寂しい。そして小川典子氏に
 よるピアノ演奏も、例えばリストによるピアノ独奏版を弾いたカツァリス盤に比べても
 音楽的感興に乏しい。第3楽章のむなしさよ。合唱が素晴しいだけに、評価困難盤。
○Szell指揮Cleveland O,Ch(SONY,SBK46533)61年
 Addison(S),Hobson(A),Lewis(T),Bell(B)
 15:34,11:23,15:20,24:06
 セルといえば緻密なアンサンブル、というわけだが、当盤を今日の耳で聴くと、確かに
 引き締まった音楽作りではあるが、完璧という感じではない。それからマスターテープ
 の保存の加減か、どうもピッチがほんの少し不安定に聞こえてしまうのだが。楽器間の
 バランスなど、細かい工夫がある(全曲の終結部に注目)。終楽章の二重フーガの部分
 で、指揮者の唸りらしき音が拾われている。オケ併設の合唱団は、かのロバート・ショ
 ウが合唱指揮を担当し、まずまずの水準を確保しているが、独唱者は良くない。これを
 含む交響曲全集について、吉田秀和氏が絶賛していた記憶がある。
○高関健指揮大阪センチュリー響、同合唱団(LIVENOTES,WWCC-7430国内盤)2002年ライブ
 佐々木典子(S)、永井和子(A)、福井敬(T)、直野資(B)
 15:04,13:27,14:07,22:44
 早々とベーレンライター新版を取り入れた高関氏によるベートーヴェン交響曲全集の完
 結盤。少人数できびきびやっているのは好感が持てるが、ジンマン盤を聴いてしまうと
 物足りなさが残る。テンポ設定は旧来の演奏に慣れている人も馴染みやすいだろう。合
 唱団は、日本の合唱団のライブとしては健闘しているほうではないか。
○Tennstedt指揮LPO,Ch(BBC,BBCL4131-2)85年ライブ
 Haggander(S),Hodgson(A),Tear(T),Howell(B)
 16:04,10:58,16:51,23:56
 海賊音源しかなかったものの正規音源化発売。残念ながらテンシュテットのライブとし
 ては、物足りない部類ではないかと思う。合唱団もいつもの通り大した水準でもない。
 確かに終楽章での燃焼度は相当に高いのだが、この熱は、12月に日本中のコンサートホ
 ールで体感できるのではないだろうか。
○Toscanini指揮NBCSO, Westminster Choir(NAXOS,8.110824)39年
 Novotna(S), Thorborg(A), Peerce(T), Moscona(B)
 12:25,12:56,13:05,23:17
 廉価盤のナクソスが注力するヒストリカルのシリーズ。これがまた、第4楽章の合唱の
 お粗末さには参る。バリトン導入部は「珍」で、歌詞を歌い直している。コレクターと
 しては見逃せない部分だ。1枚のCDで「合唱幻想曲」まで併録。
○Walter指揮Columbia SO,Westminster Symphonic Ch(SONY, MK42014)59年
 Cundari(S),Rankin(A),da Costa(T),Wilderman(B)
 16:10,11:00,17:45,26:12
 この全集は、偶数番台の演奏が素敵だ。僕が子供の頃、クラシックのLPなど家にほん
 の数枚しか無かったが、なぜかこのコンビの「田園」があって、今でもその曲に関して
 一番だ。しかし奇数番はいまいちで、第九も、特にこれといった個性が無い。色々と楽
 譜に手を入れたりしているのだが。合唱団もごく普通で、推薦レヴェルではない。
○Wand指揮NDR-SO,Hamburgischen Staatsoper Chor,Norddeutschen Rundfunks Chor
 (BMG,74321 68005 2)86年
 Wiens(S),Hardwig(A),Lewis(T),Hermann(B)
 15:27,11:08,15:58,23:35
 今でこそ大巨匠のヴァントだが、この録音当時は名前を知る人も少ない、地味な指揮者
 だった。改めて聴いてみると、今にして思えば・・・という感じの好演。この人の音楽
 作りは若々しい、元気の良さが光る。合唱ファンも安心の合唱レヴェルなのも嬉しい。
 この番号の盤は24BIT/96KHZ SOUND DIMENSIONと記されたリマスター盤で、超廉価で再
 発売されたもの。
○Zander指揮Boston Philharmonic O,Pro Musica(CARLTON,30366 01022)90,91年
 Labelle(S),Fortunato(A),Creswell(T),Arnold(B)
 13:00,12:52,10:34,21:25
 音楽学者ザンダーらしい一枚。90年代初頭の段階で、早くもデル・マーの研究成果を取
 りいれた。演奏時間、特に第3楽章の短さには、多くの人がぶっとぶだろう。現代オケ
 を使った新ベーレンライター版的演奏の先駆者的位置づけになる。合唱団は普通。しか
 し、テンポ感の安定しない演奏だ(奏者達が面食らっているのか?)。全曲にわたって
 38ものトラックを付けているのも、いかにも凝っている。

 それから、これは歌詞が、なかにし礼氏による日本語版だから、特別に扱おう。
○堤俊作指揮東京シティ・フィルハーモニック、栗友会(BMG,TWCL1006)90年ライブ
 秋山恵美子(S),安念千恵子(A),鈴木寛一(T),宮原昭吾(B)
 17:14,14:21,15:24,25:17
 歌詞だけでなく、オケ・パートがマルケヴィッチ改訂版ということで希少価値のある音
 源だが、それよりも演奏が素晴らしい。特に二重フーガと終結部に挟まれた部分のテン
 ポの加速が上手くいっており、他ではなかなか聴けない高揚感がある。またト長調のコ
 ラールの部分も、ソプラノを中心に見事な「合唱声(がっしょうごえ)」で歌ってくれ
 ているのが嬉しい。

 僕はそこまでやっていないが、様々な言語による「第九」のコレクターもおられる。手
許にはロシア語版。
○Gauk指揮USSR RTV Large SO(VENETIA,CDVE04231)
 録音年不明のメロディア音源の復刻CDで、音質はいまいち。アルバムの前半は、「運
 命」の全曲ライヴ、そして「第九」は第4楽章、それも低弦による歓喜の主題以降。合
 唱団がソビエト・アカデミー・ロシア合唱団ということで期待したが、合唱の音量が小
 さく残念。そのかわりといっては何だが、バリトン(イワン・ペトロフ)の歌いだしの
 声量の豊かさ(というより録音の具合だろう)に驚かされる演奏。

 純粋クラシックではない、変わり種の一枚。
○Attanasi指揮Slovak RSO,Slovak Phil.Choir他(Azzura Music,TBP-JAB039)
 Gustafson(S),Kulikova(A),Larin(T),Muraro(B)
 上記の指揮者およびオケ、合唱団(あまり上手くない…)が主役ではなく、彼らの演奏
 の上に、イタリアのドラム奏者、Massimo Aielloが、ジャズ・ドラムを全編にわたりか
 ぶせて多重録音したアルバム。第1、2楽章あたりは、「そうだよね、ドラム付けるな
 ら、そうするよね」と思わせる、なるほど的演奏。第3楽章はドラム・ソロの序奏がつ
 いて、なかなか本編が始まらない。肝心の第4楽章は、ドラムが邪魔な場面もあり、思
 わず失笑してしまう方もいるかもしれない。終結部に入る前の異常に長いドラム・ソロ
 のような不思議な場面もある。でもまあ、こういうのもありでは?「第九」大好き日本
 人なら、こういう録音に、思わずからだを動かしてしまいそうだ。

 さらにまた、特筆しておきたいDVDがある。これは、何と言うか、常識では考えられ
ない遅さだが、マニアを自認する人なら、チェックしておいてよいかもしれない。
◎Cobra指揮Europe Philharmonia Budapest Orch.& Choir(HODIE,804721000390)1999年
 Miklosa(S),Wiedemann(A),Molnar(T),Racz(B)
 26:09,23:12,21:00,40:05
 合計110分に及ぶ演奏。指揮者の顔の表情、及び指揮自体の表情の変化の乏しさ。退屈
 以外の何物でもなさそうなのに、少なくとも僕は第4楽章で摩訶不思議な楽しさを感じ
 てしまった。DVD-AUDIOとセットの2枚組。

 続いて「ミサ・ソレムニス」。前述のとおり、クラシック音楽を聴き始めた頃から惹か
れていた。この曲で特に名場面だと思うのは、地味な間奏、すなわちサンクトゥスとベネ
ディクトゥスの間の数分の冥想的な部分。第九で、中間部の変ロ長調のマーチとニ長調の
テーマの間の、管弦楽だけの力強い間奏が大好きな人は多いだろうと思うが、こちらは対
照的に「静」の間奏。
 「第九」も難しいがこちらも歌うとなると超難曲。腕自慢の指揮者がこぞって録音して
いるが、合唱が上手い演奏というのは余りない。手許の録音をコメントしておく。と言っ
ても、今のところ、クーベリック盤があれば十分、後はファンの聴き比べ用となるが、価
格と合唱団の出来栄えから、ノリントン新盤も良い。それから現代的解釈としては、交響
曲全集同様、超廉価で買えるジンマン盤が欠かせない。
○Kubelik指揮BRSO,Ch(ORFEO,C370942B)77年ライブ
 素晴らしい。やっぱりベートーヴェンはこうでなくっちゃ、燃焼度高し。合唱団もハイ
 レヴェルだし、ドナート、ファスベンダー、シュライアー、シャーリー=カークと揃え
 たソリスト陣も充実、特にシュライアーが作るいくつかの瞬間は見事。2枚組だが、た
 いていは1枚分の価格で買える。
◎Kubelik指揮BRSO,Ch(DREAMLIFE,DLVC1185国内盤)77年
 全く同じ演奏家たちによる、同時期の演奏のDVD映像。演奏の基本は、当然のことな
 がら共通しているが、確証は無いけれど、全くの同音源ではないのではないか。

 以下は指揮者のアルファベット順に並べる。
朝比奈隆指揮新日本フィル,晋友会合唱団(FONTEC,FOCD9045/7)92年ライブ
 朝比奈氏の指揮には、これというものを感じないが、ここで賞賛すべきは合唱団。これ
 がアマチュアなのだから、世界に誇れる。
○Barshai指揮Russia National Orchestra(LASERLIGHT,14136)93年ライブ
 合唱に児童合唱が加わっているのが特徴と言えば特徴だが、合唱は上手とはいえない。
 これで指揮に特色でもあればよいのだが、特筆すべきものは無い。一枚に収まる。
○Bernstein指揮ACO,Netherland Radio Choir(DG,413780-2)79年
 以前はこれもよく聴いたものだが、今聴き直してみると、合唱がクーベリック盤やレヴ
 ァイン盤に比べて聴き劣りがする。充実した演奏であることは間違いないが。
○Gardiner指揮Monteverdi Choir(ARCHIV,429779-2)89年
 全曲でたった71分。分厚い合唱を聴き慣れた人には感銘が薄いかもしれないが、合唱団
 は優秀だし、ピリオド楽器ならではの激しく鋭い表現も随所に聴かれるので、一聴の価
 値はあると思う。グローリアやクレドの後半のハイスピードは聴き物。サンクトゥスの
 Pleni suntの部分を合唱ではなくソリスト4人で歌わせる。
○Gielen指揮Sudwestfunk RSO(POINT,265058-2)87年ライブ
 このレーベルの盤は超廉価で売られていることがあるし、指揮が通好みのギーレンとい
 うことで買ってみたが、価格を考えれば合格。「グローリア」の冒頭のアンサンブルが
 ずれてしまっているが、これは自分で演奏に参加してみるとわかるが、なぜかこうなっ
 てしまう箇所。その意味では当盤は反面教師として参考になる。
○Gielen指揮Luxembourg PO,Europa Chor Akademie(CAPRICCIO,67 171)2005年ライヴ
 ギーレンの再録音もライヴ。冒頭「キリエ」から、不思議な熱気で感動を与えられる演
 奏になっている。ライヴの傷は多く、管弦楽や、バス歌手の不安定さが相当に気になる
 が、それでも全体としては感動的な演奏になっているのだから、ギーレンは大したもの
 だ。CD一枚だが、付録にリハと指揮者へのインタビューを収録した約40分のDVD付き。
○Harnoncourt指揮Chamber Orchestra of Europe(TELDEC,0630-18945-2)92年ライブ
 ザルツブルク音楽祭のライブ。交響曲全集と同じコンビで、現代楽器ながら古楽奏法を
 取り入れている。細部の表現のこだわりが、アーノンクールらしい。手許に置いておく
 なら、これくらい凝った物という手もある。合唱団はかなり優秀な方だが、時折粗くな
 ることがある。キリエが遅すぎて音楽がとまっているように感じる。演奏時間が81分弱
 のため2枚組。この番号は、テルデックの2枚組の廉価盤シリーズULTIMAのもの。安い
 のはいいが解説は貧弱。
○Karajan指揮PO(TESTAMENT,SBT2126)58年
 ソプラノを歌うシュヴァルツコップがこの演奏の思い出を語るインタビューが収録され
 ているが、壮年期のカラヤンの気合いが入った演奏。合唱のウィーン楽友協会は難所で
 はやはり限界があるが、頑張っている。カラヤンのファンがこの曲を聴くなら、音質も
 向上したらしい当盤がいいかも。モーツァルトの交響曲第38番とカップリング。
○Karajan指揮BPO,Vienna Singverein(DG,453016-2)66年
 カラヤンのこの曲の演奏としてはマシ(僕は70年代のEMI盤と80年代のDG盤も聴いたこ
 とがある)だが、少し難しいところになるとアンサンブルがさっぱり合わなくなる。合
 唱はウィーン楽友会合唱団としては健闘している方。
○Klemperer指揮NPO,Ch(EMI,CMS7 69538 2)65年
 クレンペターの、若干遅めだが堂々とした音楽作りが楽しめる。合唱団も意外に健闘し
 ていて、響きの分厚さを生かしている。トータルの鑑賞物としては、世評通り推薦でき
 るものだと思う。サンクトゥスのPleni suntの部分で、最近の時代考証派の演奏家たち
 がやっているように、ソリストだけに歌わせているのは興味深い。2枚組で、カップリ
 ングは後述する「合唱幻想曲」。
○Konwitschny指揮Berlin RSO,Berlin Rundfunks Chor(WEITBLICK,SSS0011-2)56年
 なんだか懐かしい響きがする盤で、よく覚えていないが、僕が合唱を始めて間もない頃
 にラジオで聴いたのかもしれない。56年のモノラル録音で、好演ではあるが、今日でも
 存在価値を主張するほどの個性はないかも。
○Levine指揮VPO(DG,453798-2)91年ライブ
 何といってもスウェーデン放送合唱団、エリック・エリクソン室内合唱団、ライプツィ
 ヒ放送合唱団の混成部隊のアンサンブルが心地よい。指揮はクーベリックやバーンスタ
 インと比較すると気にいらないがまずまず。録音も良い。問題はソリストで超豪華級だ
 が、ドミンゴは曲との相性が悪い。オペラ好きな方はどうぞ。
○Mazur指揮Leipzig Gewandhausorchester,Rundfunkchor Leipzig(EDEL,0002452CCC)72年
 これこそ、中学生の頃の自分がハマっていた演奏だった。「アニュス・デイ」の冒頭、
 ファゴットが上昇する部分に「カタッ」という雑音が入ることを記憶していたのだ。今
 となっては、諸手をあげて賞賛できるというほどのものでもないが、ホルスト・ノイマ
 ン合唱指揮のライプツィヒ放送合唱団に耳を傾ける価値はある。独唱者は、上述の「第
 九」のマズア盤と、バスがポルスターに代わっていることを除けば同じ。
○Norrington指揮SWR SO,SWR VOKALENSEMBLE,NDR-Chor(DG,453798-2)99年

 明記されていないが、ライブのような熱気(若干の縦の線の乱れも含め)ある録音。全
 曲が73分弱に収まり価格もミッドプライスでお買い得。特に突っ走っているという印象
 は与えないが、グローリアの終結部とクレドの最後のフーガは快速(自分好み)。細か
 な部分でも合唱団の表現力に耳が行く歌唱を聴かせる点で、合唱人には推薦盤。
○Schuricht指揮NDR SO,St.Hedwigs-Kathedrale(LIVING STAGE,LS1037)57年ライヴ
 57年9月15日モントルー・ライヴ。音質はまずまずで、音がマイクに近く、合唱も非常
 に明瞭。良い演奏だが、最高といえるほど優れているようには感じられない。クレドで
 聴きなれないゆったりしたテンポをとっている。サンクトゥスの「Pleni sunt」の部分
 をソリストだけでやっているのは先進的。ソプラノがマリア・シュターダー、テノール
 がエルンスト・ヘフリガーなのが注目かも。「英雄」63年ライヴを併録。
○Soustrot指揮Orch. der Beethoven Bonn,Czech Phil.Choir Brono(MDG,337 1128-2)
 これは掘り出し物。スーストロという指揮者の優秀さを示す好例。合唱団を含めてアン
 サンブルが実に美しく、反復鑑賞に値する。アニュスデイの終了後、3分程度の無音部
 分がある。隠れ名盤として合唱人にも強く推薦したい。
○Zinman指揮Zurich Tonhalle O,Schweizer Kammerchor(ARTENOVA,74321 87074 2)2001年
 66分未満しかかからない、きびきびしたテンポ。基本は現代オケながら古楽系解釈や楽
 器選択。楽器間のバランスの工夫。楽譜にない即興の実施。とにかく元気のよいミサソ
 レ。「クレド」のフーガの、前人未到の快速テンポを見よ!全曲で21のトラックがあ
 るのは鑑賞に便利。合唱団も「第九」とは違って大健闘。ヘンレ版。

 続いて、ピアノ独奏、管弦楽、合唱のための「合唱幻想曲」。出来の悪い作品としてつ
とに有名であるが、歌のテーマは第九を先取りしているし、冒頭のピアノ独奏はピアノの
ファンなら一聴の価値ありと、それなりの魅力はあると思う。合唱の出番は多くないが、
一度くらいは自分で歌ってみるのも良さそうだ。録音は多数発売されているが、手許には
ちょっと。
○Abbado指揮BPO(DG,453798-2)91年ライブ
 大晦日のジルヴェスターコンサートのライブ録音。ピアノがキーシンで、合唱団は実力
 随一のリアス室内合唱団。全体に脳天気な音楽作りが、曲の単純な性格にマッチしてい
 て、悪くない。合唱がうまいのも利点。
○Abbado指揮VPO(DG,419793-2)86年
 ポリーニによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集3枚組に併録。合唱はウィーン国立
 歌劇場合唱団。当盤のように、この20程度の曲に6つもトラックがついていると、声楽
 が付く部分を楽に出せて有難い。合唱も含め、整っているという点では良い演奏。
○Gardiner指揮ORR(ARCHIV,POCA-1113)95年
 現代ピアノではなく、ピリオド楽器派としてフォルテピアノを使用、弾くはレヴィン。
 僕はこの録音セッションと前後して開かれたロンドンでの演奏会を生で聴いたが、とに
 かくフォルテピアノが聞こえなかったので、CDではよくわかるようになって嬉しい。
 モンテヴェルディ合唱団はそつなくやっている。実演でもうまかった。なお、本テイク
 とは別に、レヴィンが2種類のカデンツァを演奏している。カップリングはピアノ協奏
 曲第5番「皇帝」で、すごく速い。
○Kegel指揮Dresden PO,Radio Chorus Leipzig(CAPRICCIO,CA49314)85年
 激安ボックス(「第九」の項を参照)に収録。レーゼルのピアノも含め、これぞドイツ
 といった風情の安定感のある演奏。
○Klemperer指揮NPO(EMI,CMS7 69538 2)67年
 定評ある「荘厳ミサ曲」と併録。ピアノはバレンボイム、合唱はオケ併設。ピアノの音
 が揃っていないのでいらいらする。特にすぐれた演奏とは思えない。
○Kofman指揮Kiev Chamber Orchestra & Chorus(ARTS,47353-2)95年
 管弦楽もうまくなく、トンデモ演奏の雰囲気を漂わせているが、極めつけはピアニスト
 (Galina Vracheva)自作のカデンツァ。才能の限界を感じさせ、珍演であるのは確か。
 カップリングはピアノ協奏曲第5番、何とこちらもカデンツァありだ。
○Salonen指揮Swedish RSO & Choir(DG,471769-2)2003年ライブ
 ピアニストにエレーヌ・グリモーを起用。団内ソリストも含め、スウェーデン放送合唱
 団に聴き惚れる演奏。メイン収録曲はペルトの「クレド」。
○Toscanini指揮NBCSO, Westminster Choir(NAXOS,8.110824)39年
 はっきり言って、すごく下手。ピアノはドルフマン。「第九」とのカップリング。
○Zinman指揮Zurich Tonhalle O,Schweizer Kammerchor(ARTENOVA,82876 82585 2)2005年
 ピアノはブロンフマンで、メインの「ピアノ協奏曲第5番」よりも、「合唱幻想曲」の
 出来が良い。きびきび感が気持ちよく、合唱団も健闘。カップリングに「静かな海と楽
 しい航海」の悪くない演奏があるのも嬉しいところ。

 最初に述べたように、1997年発売のドイツグラモフォンのベートーヴェン全集は、これ
まで聴きたくても聴けなかった曲が多数で、演奏家が思いもかけず豪華だったりで、ベー
トーヴェンファンには嬉しい贈り物となった。その第18、19巻に触れておく。
○第18巻Secular Vocal Works2枚組(DG,453794-2)
・悲歌op.118、犠牲の歌op.121b、友情の歌op.122
 ティルソン=トーマス指揮ロンドン響とアンブロジアン合唱団による74年の録音。後期
 に属する作品たちで、これは渋い。渋すぎてよくわからない。演奏の出来は普通。
・Cantata campestre WoO103(1814)
 イタリア語の小重唱曲。73年録音
・Gesang der Monche WoO104(1817)
 無伴奏男声三部合唱のための断片ですぐ終わる。76年録音
・Hochzeitslied WoO105(1819)
・Lobkowitz-Kantate WoO106(1823)
 ともにピアノ伴奏付きの小曲。73年録音
・Chor auf die verbundeten Fursten WoO95(1814)
 2分弱の小曲ながら管弦楽伴奏付きで、アンドリュー・デイヴィス指揮BBC響とBBCシン
 ガーズがきっちりやってくれている。96年録音
・Canons
 作品表にやたらたくさんでてくるカノンを43曲収録。重唱だけでなく、ものによっては
 合唱団(Kammerchor der Berliner Singakademie
○第19巻Large Choral Works5枚組(DG,453798-2)
・皇帝ヨーゼフ2世の死に寄せる葬送カンタータWoO87(1790年)
・皇帝レオポルト2世の即位のためのカンタータWoO88(1790年)
 初期の珍しい2曲のカンタータだが、DG売出し中の指揮者ティーレマン指揮ドイツオペ
 ラ座管・同合唱団による、知られざる作品としては十分の演奏。97年録音。前者の方が
 後者より格段に優れているという評価のようだが、そう覚悟して聴くからか、後者も悪
 くない。演奏の出来も含めて鑑賞レヴェルに達している。
・カンタータ「栄光の瞬間」op.136(1814年)
 作品番号が大きいが最晩年作ではなく、交響曲第7番や「ウェリントンの勝利」と共に
 初演された。ここでの演奏が何とチョン・ミュンフン指揮サンタ・チェチーリア管及び
 同合唱団で、指揮者のドラマティック得意の音楽性のおかげで、驚異の掘り出し物にな
 っている。恐らく内容が軽薄とされて埋もれたのだろうが、力強い合唱パートなど、一
 聴の価値がある。これも96年の新しい録音。
・合唱幻想曲op.80(1808年)
 先述済み。アバド+キーシン盤が選ばれている。
・ミサ曲ハ長調op.86(1807年)
 管弦楽付きミサ曲。この曲も色々な演奏で聴いたが僕は苦手で、眠くなるばかり。ここ
 ではガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団他、オリジナル楽器を使った秀演が選ば
 れていて、演奏の質は高いが、それでもどうも退屈する。89年録音
・カンタータ「静かな海と楽しい航海」op.112(1814/5年)
 この曲はベートーヴェンらしい力感があって、一聴の価値あり。同じくガーディナー。
・ミサソレムニス
 先述済み。なぜかレヴァイン盤が選ばれている。
・オラトリオ「かんらん山上のキリスト」op.85(1803年)
 合唱の出番もかなりあるオラトリオ。これも1時間近くかかる長大な作品だが、密度が
 高いとは言い難い。演奏はクレー指揮ウィーン響、ウィーン楽友協会合唱団で、この巻
 ではこれだけが70年のアナログ録音である。

 そういえば、オペラ「フィデリオ」を忘れていた。ベートーヴェン唯一のオペラだが、
正直言って、この作品には僕は夢中になれない。音楽の出来として、良いものかどうか。
とは言え、もちろん名曲として認知されているし、演奏機会もそこそこある。合唱として
は、名場面に「囚人達の合唱」があるが、どうもこの部分も僕にとっては、特に言及した
いとも思えない。そんなことで、殆どCDの聴く比べもしていない。最近、初版の「レオ
ノーレ」の録音も出てきているが、未聴。
○Bernstein指揮VPO(DG,POCG2715/6国内盤)78年
 豪華キャストで名演の誉れ高い。合唱は勿論ウィーン国立歌劇場合唱団で、声は豊か。
○Halasz指揮Nicolaus Esterhazy Sinfonia(NAXOS,8.660070/1)98年
 ナクソスへのベートーヴェン交響曲全集で爽快な演奏を入れたオケと、合唱(ハンガリ
 ー放送合唱団)の心地よさは出色。僕には、こういうのが合っている。なお、バーンス
 タイン盤では、フィナーレの直前に「レオノーレ序曲第3番」を入れているが、ナクソ
 ス盤には収められていない(そのため全体の収録時間が短い)。英誌GRAMOPHONEの編集
 長が、当盤を大絶賛していた。

 ベートーヴェンについては以上だが、最後に編曲物に触れておく。ベートーヴェン作品
は、意外と合唱に編曲されて歌われないが、手許に「これをやるか!」物がある。
○SWINGLE SINGERS~GETTING ROMANTIC(PHILIPS,586736-2)67年
 バイオリンソナタ第5番のスケルツォと、ピアノソナタ第12番の終楽章。特に後者が聴
 き物で、原曲はよほどのピアノ好きでないと知らないだろうが、ダバダバ炸裂。
○London Voices(DECCA,425216-2)88年
 様々な管弦楽曲をアカペラでやるというコンセプトで制作された一枚に、交響曲第7番
 の永遠のアレグレット、第2楽章が入っている。よくやるねー。
○luminosa/libera(WARNER CLASSICS,0927 40117-2)2001年
 イギリスのボーイを集めたユニット、リベラの2枚目のアルバム「luminosa」に、こち
 らも負けじと交響曲第7番第2楽章の編曲版を収録。ただしこちらはアカペラではなく
 楽器の伴奏を付け、ラテン語の歌詞をあて、原曲に厳密にとらわれない編曲。アルバム
 の中でも印象的なのが、このベートーヴェンだ。制作者でもあるプライズマンの編曲。
 収録曲中では彼のオリジナル曲がとてもきれい、これぞヒーリング!
○Ensemble Planeta(PONYCANYON,PCCL-00537国内盤)2001年
 演奏者の名前がそのままタイトルになったアルバムで、日本でも遂にこのような、ヒー
 リング志向のアカペラアルバムが出てきた。演奏者は女性4人。ごくごくわずかなアン
 サンブルの乱れが気になるといえば気になるが、確かに新感覚のアルバムとして評価で
 きる。編曲者は長生淳氏が2曲、他10曲は書上奈朋子(かきあげ なほこ)氏。長生氏
 の編曲は真面目、書上氏の方は、いかにもこの手のアルバムっぽいもの。収録曲の最後
 に、彼女のオリジナル作品「スカイ・イズ・ザ・カラー」が入っているが、古楽をベー
 スにした現代風(ミニマル風)音楽になっている。ベートーヴェンはピアノソナタ「悲
 愴」第2楽章(ありがちでしょー?)で、克明な編曲がマニア心をくすぐる。他の収録
 曲はバッハ、フォーレ、モーツァルト、カッチーニ、スカルラッティ、ジョルダーニ、
 イギリス民謡。なお、こういった今風編曲物は、多重録音ならエキセントリック・オペ
 ラによる「第九」など、いくつか耳にしたこともある。


ベルリーニ(BELLINI,Vincenzo、1801-1835、イタリア)

 誰しも、世間の評判ほどには好きになれない作曲家というのはいるであろう。ベルリー
ニは僕にとってそういう人で、声楽を追っかける身とすれば彼のオペラに夢中にならない
といけないのだろうが、どうも真剣になれない。ソプラノのための技巧的なカヴァティー
ナは面白いことは面白いが、感銘を受けるという状態になれず、困っている。しかも、オ
ペラ中で合唱の名場面となると、はてどこになるんだろう?となってしまう。
 たくさんあるオペラ合唱曲集CDを眺めていてベルリーニを1曲発見した。「ノルマ」
第2幕の「Guerra!戦いだ!」の部分がそれ。確かに威勢の良さは大したものだが、それ
だけという気がする。参考CDは、2枚組廉価盤「ダブルデッカ」シリーズの一組。
○Great Opera Choruses(DECCA,452913-2)

 なお、何でもCDになってしまう世の中で、ミサ曲などの宗教的合唱曲も録音されてい
るが未聴。


ベネット(BENNETT,Richard Rodney、b1936-、イギリス)

 映画音楽などが有名で、クロスオーヴァー的音楽を書く。彼の作品で僕がことのほか気
に入っているのは、2台のピアノのための「ディヴェルティメント」で、サンバやロック
のリズムを巧みに取り入れている。合唱曲の録音もそこそこあるので挙げておく。

 まず、ベネットの合唱曲だけの作品集から。
○Rutter指揮Cambridge Singers(COLLEGIUM,CSACD901)2004年
収録曲:Sea Change; A Farewell to Arms; A Good-Night; Verses;
 Missa brevis; Five carols; Lullay mine liking;What sweeter music; Puer nobis
 キャロルなど、後で紹介するアルバムに含まれる曲もある。約40年間にわたる合唱曲を
 収録。ブーレーズに師事したこともあるベネットが、本格的音楽として書いた真摯な作
 品が並ぶ。少し驚くのは「ミサブレヴィス」で、プーランクのミサ曲に酷似している。
 これはこれで良い曲だが、余りに近いので複雑な気分になる。アルバム後半のクリスマ
 ス用のキャロルが、素直にきれいでわかりやすい。日本の合唱団からは「Sea Change」
 も注目されるかもしれない。演奏の質も十分に高い。SACDハイブリッド盤。

 続いて、アルバムの一部に収められているもの。

○King's Singers(RCA,09026 68255 2)95年
 CDのタイトル曲にもなっている「Sermons and Devotions」を収録。20分弱かかる。
 ベネットってこんな難しい曲も書くのかと驚かされる。キングズのレパの中でも特に難
 しいものではなかろうか。僕にはよくわからない。
○King's Singers(SIGNUM,SIGCD090)2006年
 上記の「Sermons and Devotions」から「The Seasons of his Mercies」を収録。アル
 バムのタイトルは「Landscape and Time」。
○Layton指揮Polyphony(HYPERION,CDA66925)96年
 今後何度か言及するが、この20世紀のイギリスのキャロル集は、地味なレパながら、僕
 の手許にあるあらゆる合唱CDの中でも特に優れた一枚だと思っている。ベネットから
 は「Susanni」など5曲のキャロルを収録。上記の作品よりは少しとっつきやすい。
○Broadbent指揮Joyful Company of Singers(EMI,CDC5 56961 2)99年
 ポール・マッカートニーの癌で亡くなった妻リンダに捧げるアルバム。現代イギリスの
 作曲家9人に委嘱した合唱曲は、いずれもなかなかの出来栄え。当盤を締めくくるのが
 ベネットの「A Good-Night」。収録曲の中では難しめ。当盤に含まれるBで始まる姓の
 作曲家はもう2人いて、後述するレノックス・バークレーの息子マイケル作曲による
 「Farewell」と、Binghamビンガムの「Water lilies」。前者は美しい。良いアルバム
 だったので、ノヴェッロ社が同時出版した楽譜集も購入した。
○ANONYMOUS 4(HARMONIAMUNDI,HMU907325)2003年
 ごく短い「Balulalow」のみ。ケルトとイギリスのキャロルのアルバム。

 なお、ルネッサンスのマドリガル作家ベネットは綴りが違う(BENNET)。



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