病気の知識(耳鼻咽喉科疾患)

耳鼻咽喉科の外来でよく診られる病気について簡単に解説してみました。文章の中に出てくる
解剖学用語については、このページの最後に簡単な解剖図を作ってみましたので参考に
なさって下さい。

1)浸出性中耳炎の知識     2)副鼻腔炎の知識     3)アレルギー性鼻炎の知識  

4)アデノイド増殖症の知識          5)難聴の知識(伝音難聴と感音難聴)

6)鼻出血(鼻血)の知識        7)めまい=眩暈症(げんうんしょう)の知識

8)花粉症の知識     9)カゼ=急性上気道炎の知識    10)声帯疾患の知識

11)頭頚部癌(耳鼻咽喉科の悪性腫瘍)の知識

参考)耳、上気道、副鼻腔、喉頭の構造

1)浸出性中耳炎の知識      下図a)参照

 浸出性(しんしゅつせい)中耳炎はお子さんに多く、鼓膜の内側に液体が貯まるので聞こえが
悪くなる病気です。急性中耳炎とは異なり、強い痛みや発熱などが無いため気づかれにくい
のですが、この病気が両耳に起こり、程度がひどい場合には、呼んでも返事をしないとか、
テレビのボリュームを大きくするなどの目立った症状が出てきます。滲出性中耳炎は鼻の具合が
悪いときや、いびきをかくお子さんによく見られるアデノイド(鼻の奥と喉の境にある扁桃腺と似た
腫れもの)が大きい場合によくおこります。

  病気のメカニズム  鼓膜の内側は、鼻の奥と、耳管と呼ばれる管でつながっています。この
管をとおって空気が入っていくことにより、丁度よい空気圧に調節されているのですが、鼻が悪
かったり、アデノイドが腫れていたりすると、この耳管の中も腫れたり粘液が貯まったりして空気
が入って行かなくなります。そうなると鼓膜の内側の粘膜に異常を来し、さらさらのものから粘り
気のあるものまで様々な液体が分泌されて貯まるようになるのです。鼓膜の色は一般に濁って
見えますが、鼓膜の動きを調べるティンパノメトリーという検査をしないとはっきりしない場合も
あります。

 治療   まず鼻やアデノイドの状態をよくすること。これだけで液体が抜けて滲出性中耳炎
が治ることもありますが、鼻から耳に空気を通す通気という治療を繰り返し行うことが必要にな
ることが多く、それでも直らない場合には鼓膜にメスで小さな傷をつけて、液体を吸い出す方法
や、鼓膜にチューブを入れておく方法を行います。長引いたり、体質的にこの病気を繰り返す
お子さんも多いのですが、小学3年生くらいになると体の成長に伴って治りやすくなります。ただ
し放っておくと、ひどく聞こえの悪い状態のままになってしまうこともありますので、面倒がらずに
治療を続ける必要があります。

2)副鼻腔炎(蓄膿症)の知識     下図c)参照

 副鼻腔炎(ふくびくうえん)は、鼻の周りの骨の中にある副鼻腔という空洞の中に炎症が起きて、
膿や粘液の貯まる病気です。膿が蓄えられることから一般に蓄膿症(ちくのうしょう)と呼ばれて
います。粘り気のある鼻汁が出たり、鼻がつまったり、鼻汁が喉にまわって痰が絡んだような咳が
出ることもあります。また頭痛や集中力の低下なども起こりがちです。多くの場合、最初はウイル
スによるふつうの鼻風邪がきっかけとなり、二次的に細菌の感染を起こして炎症が副鼻腔まで広
がっていって病気ができあがります。

  病気のメカニズム  副鼻腔は鼻の中と小さな穴でつながっている顔面骨の中の空洞であり、
粘膜といわれる薄い膜が内側の壁を覆っていて、正常な状態では空気で満たされています。副鼻
腔炎になると、この粘膜が1 cm以上にも腫れて膿や粘液を多量に分泌します。副鼻腔には空気
に代わってこれらが貯まり、小さな穴を通して鼻の中に流れ出てきます。鼻の中を診察すると、
上の方にある副鼻腔に続く穴の周囲が腫れて見えることが多いため、副鼻腔炎を疑う根拠になり
ますが、レントゲン写真を撮ることによって、より確実になります。

  治療  基本は鼻の中の腫れをとって鼻汁を除去することにより、副鼻腔に続く穴の周囲を
きれいにして副鼻腔内の膿などを出やすくし、また空気が中に入りやすくすることです。耳鼻科医
の行う鼻に入れるスプレーや、鼻汁の吸引、ネブライザーはこれらの目的で行うものです。副鼻
腔炎の治療では手術がよく知られていますが治療法の進歩により現在では大がかりな手術が
必要な患者さんは非常に少なくなってきています。最も有効な治療法はマクロライド系抗生物質
の少量長期投与療法です。抗生物質は細菌を殺す薬ですので、通常は一種類につき一週間
前後に限って使用するものですが、この場合は細菌を殺す目的ではなく、副鼻腔の粘膜を正常
に戻す目的なので特別な使い方をします。通常用いる量の半分以下の量を続ける方法であり、
この量では細菌を殺す能力はありませんが副鼻腔の粘膜を正常に戻して副鼻腔炎を治していく
には十分なのです。またこの量では数ヶ月間連続服用しても副作用の心配がほとんどなく、副鼻
腔炎に対する有効性が極めて高いことが学会で数多く発表されております。鼻の症状がよくなっ
ただけでは副鼻腔炎が治っているわけではなく、治療を止めてしまうとまた同じ様な症状を繰り
返し、少しずつ治りにくい状態になってしまうことが多いので、レントゲン写真で異常がなくなるま
で続けて治療を行うことが大切です。

3)アレルギー性鼻炎の知識

 代表的な症状は、続けてでるくしゃみ、透明で流れ出やすい鼻水、さまざまな程度の鼻づまり
ですが、全部が揃っているとは限りません。一年中症状の起こり得る通年性のものと、ある季節
のみに限って症状のでる季節性のもの(花粉症など)があります。他に、アレルギー性鼻炎と
ほとんど同じ症状であるにもかかわらずアレルギーの原因が見つからず、温度差によって鼻の
粘膜が過敏に反応して症状がでてしまう血管運動性鼻炎もあります。

  病気のメカニズム  抗原といわれる様々な物質が鼻の中に吸入されて鼻の粘膜において
アレルギー反応が起こることにより症状が出現します。アレルギー反応の結果生じた化学物質
が鼻の粘膜に来ている知覚神経の末端を刺激してくしゃみを起こし、またこの神経が分泌線に
働いて鼻水を分泌させ、粘膜中の血管にも働いてむくみを引き起こすことにより鼻の中が腫れて
鼻づまりが生じます。このアレルギー反応は誰にでも起こるものではなく、血液の中に、抗原と
出会うと反応する抗体という物質を持っている人にだけ起こるのです。抗原となりうる物質は人
により様々ですが、通年性ではハウスダストいわれる家の埃やダニであることが比較的多く、
季節性のものでは色々な種類の植物の花粉であることが多いようです。

  治療  いわゆる体質的な疾患ですので、永久に治療を要しない状態に治すのは難しいもの
です。体質改善のために抗原を薄めたものを少しずつ注射する方法もありますが、長期間を
費やしても効果が不十分なことも多いようです。一方で抗アレルギー剤という内服薬は種々の
特徴を持つものがでてきており、多くの患者さんに合う薬が選べるようになってきております。
重症の場合でも抗アレルギー剤と、強力な抗アレルギー作用を持つステロイドという薬の
スプレー(鼻の中だけで効果を発揮するものがでています)を併用するとかなり改善します。
また血液検査で原因が何であるかだけでなく、程度がどのくらいかを見ることにより、どの
季節にどのくらいの期間治療すればよいかを調べた上で薬を使用すると効果的です。通年性
の場合は抗アレルギー剤の持つアレルギー予防作用を引き出すために2〜3ヶ月間続けること
が必要です。抗アレルギー剤は長期間内服するように作られているので、ほとんどの場合続
けることは問題ありませんが、肝臓などが弱い人の場合は血液検査でチェックを行います。
また薬による治療では鼻づまりがどうしても取れない場合がありますが、この場合はレーザー
による鼻粘膜照射が効果的です。鼻水やくしゃみについてはレーザーでは効果が不十分なこと
もあり、花粉症によく見られる目のかゆみには全く無効ですが、鼻づまりについては非常に高い
効果が得られます。レーザー照射がもっとも適している患者さんは通年性で鼻づまりが主症状
の方です。花粉症の方で内服薬やスプレーの効果が不十分の方にも効果が期待できますが、
花粉症の季節の前にレーザーで鼻の粘膜に刺激を与えてしまうのはお薦めできません。この
場合は鼻の調子のよい暖かい時期にレーザー照射を3〜4回行っておきます。

4)アデノイド増殖症の知識     下図b)参照

 鼻の穴から10cm(成人)位奥には後鼻孔と言われる鼻の後ろの穴があり、ここから奥は
下方向にノドが広がって気管や食道につながっています。この鼻とノドの境の部位は鼻咽腔と
いわれ、鼻の裏側であり、ノドの天井にあたるため通常の診察方法では見えない部分です。
アデノイドはこの鼻咽腔の上の壁から後ろの壁にかけて存在する扁桃腺と似た組織の腫れ物です。
とはいっても大人に成るまでにはアデノイドはほとんど縮んでしまって認められなくなり、多くの場合、
問題になるのは子供のうちだけです。4〜5歳の子供は最もアデノイドが大きい時期であり、
通常でも鼻の後ろの穴の上半分ぐらいをふさぐ大きさになっているものです。

  病気のメカニズム  
アデノイド増殖症とは、アデノイドが通常の大きさを越えているために、
問題となる症状が出現する状態をいいます。アデノイドが大きいと、鼻の後ろの穴をふさいでしまう
ために慢性的な鼻づまりが起こります。鼻は正常であるにもかかわらず鼻づまりや口呼吸、いびき
が目立つお子さんの大半はアデノイド増殖症と思われます。ひどい場合は睡眠時無呼吸が見られ、
脳や全身の正常な発育に悪影響を及ぼすことがあります。また鼻咽腔の両側には左右の耳に
つながる耳管と言われる管の入口があります。アデノイドが大きいとこの耳管に空気が入りにくく
なり、1)で述べた浸出性中耳炎も起こりやすくなるため、聞こえの悪さからアデノイド増殖症が
見つかることもあります。これに加えてアデノイドに細菌の感染による炎症(赤く腫れ、熱を持ったり
分泌物が出る状態)が起きた場合は、アデノイドは大きく腫れあがり、通常はアデノイドが問題に
ならない大きさのお子さんでも鼻づまりやいびきが目立つようになります。また高熱が続き、
アデノイドからでる分泌物のために痰の絡む咳が続くことも多いのですが、通常の診察方法では
腫れている状態が見えないので診断がつきにくいものです。

  治療  症状からアデノイド増殖症やアデノイドの細菌感染が疑われた場合はできる限り、
鼻から入れる耳鼻咽喉科用ファイバースコープ(内視鏡)によって大きさや炎症の程度を
確認します。スプレーによる簡単な麻酔ができますし、ファイバースコープもきわめて細いもの
ですから、多くの場合お子さんでもほとんど苦痛はありません(恐怖感はあるようですが)。
アデノイドによる症状と考えられた場合は、抗生剤、炎症止め、粘膜修復剤などを使用する
ことにより、アデノイドの腫れをできるだけ小さくすることを試みます。また鼻の中をきれいにする
処置を行うことによりある程度の効果が期待できます。炎症が全くないアデノイド増殖症の場合は、
これらの薬の効き目が認められないこともあり、最終的には全身麻酔をかけての簡単な
手術的治療が必要になることがあります。この場合は大学病院などに依頼することになりますが、
手術を受けたお子さんのほとんどがすやすやと安眠できるようになり、ご両親に喜ばれております。

5)難聴の知識(伝音難聴と感音難聴)    下図a)参照

 耳は解剖学的に、鼓膜より外の耳の穴(外耳道)や外に出ている部分を外耳と言い、鼓膜の
内側の空気が入っている部屋のような部分を中耳、中耳の奥の骨の部分を内耳と言います。
長さ3cm位の外耳道の突き当たりには直径約1cmの鼓膜が張っており、 鼓膜の内側には
鼓膜の振動を奥に伝えるための耳小骨と言われる3つの連なった骨があります。内耳には
聴神経と言われる聞こえの神経が脳から繋がって来ています。音は空気の振動として外耳道から
入っていき、鼓膜を振動させ、耳小骨がこの振動を内耳に伝えます。内耳ではこの振動が
リンパ液を介して聴神経を刺激し、脳に伝わって音が入ってきたことを感じるのです。難聴を
起こす疾患は限りなく多いのですが、音の伝わりが障害される伝音難聴と音を感じる能力が
障害される感音難聴、加えてこれらが組み合わさった混合難聴とに分けられます。

  伝音難聴のメカニズム  日常よく見られる難聴は、伝音難聴が多いようです。耳垢が
貯まり、とれない状態が続いているうちに、耳に水が入ったりすると、コルクの栓の様になって
音が鼓膜に届かなくなり聞こえなくなってしまいます。耳掻きで耳掃除をしていて鼓膜に穴を開けて
しまうと鼓膜が振動しなくなり、聞こえにくくなります。また風邪を引いて鼻の具合が悪いときには、
鼻と耳をつないでいる耳管という空気の通る管の中も腫れてしまいます。すると中耳の中に
空気が入らなくなり、空気圧が低いために鼓膜がへこんで振動しにくくなります。この状態を
耳管狭窄症と言い、よく見られる軽い伝音難聴です。鼓膜の内側の空気圧が極端に低くなると
中耳の中に液体が貯まってくることがあります。これが痛みがほとんどなく聞こえだけが悪くなる
浸出性中耳炎【1)参照】で、小児にはよく見られるものです。液体の量と性質によって様々な
程度の難聴が起こります。やはり鼻の具合が悪いときに起きる病気に、有名な急性中耳炎が
あります。鼻の奥の細菌が中耳に入って起こるもので典型的なものは強い耳の痛みと難聴、
発熱、時にみみだれが見られます。他に外傷による骨折や出血でも鼓膜や耳小骨に異常が
起こり、高度の難聴が起こります。また、外耳や中耳の腫瘍が伝音難聴の原因になっていることも
あります。

  感音難聴のメカニズム  この種の難聴は鼓膜には異常がないのが普通です。形に現れない
機能的な病気なので、各種の聴覚検査が必要となります。数えきれないほど多くの原因による
感音難聴がありますが、多くは内耳や聴神経に血流障害などの問題が生じて病気が起こる
ようです。有名なものには突発難聴があります。精神的、肉体的ストレスのかかっているときに
一般には片方の聞こえが突然悪くなり、耳鳴りや耳閉感(耳のふさがった感じ)、音の響く感じを
伴うことが多いものです。軽いものから重傷のものまで程度は様々ですが、比較的治りにくい
場合が多く、特に治療開始が遅れた場合は難聴だけでなく、耳鳴りも一生治らなくなって
しまいますので、これらの症状があった場合はできるだけ早く検査をすることが必要となります。
また低い音を感じる聴神経のみが具合が悪くなる急性低音障害型感音難聴は、比較的多く
見られる病気です。自覚的な症状は耳の塞がった感じのみのこともあり、受診が遅れてしまいがち
ですが、この病気は早く治療すればかなり治りやすいものです。めまいを伴って感音難聴が
出現する病気も沢山あります。内耳から脳までのほとんどの部分において、聴神経とめまいの
神経(前庭神経)は同じ場所を通っているので、ここに起こる様々な病気により感音難聴と
めまいが同時に出現するのです。内耳性のめまいで有名なメニエル病や、脳腫瘍の一つである
聴神経腫瘍は代表的なものであり、脳梗塞や頭部外傷、その他の脳腫瘍、脳血管の
循環障害でも障害部位によってはこれらの症状が起こります。また先天的に内耳の発達が
よくないなどで感音難聴がある場合や、遺伝により少しずつ進行する感音難聴もあります。
その他ある種の薬物や騒音の影響で感音難聴が起きる場合があり、注意が必要です。
最後に高齢者に見られるいわゆる「年のせい」の難聴も、年齢的に聴神経の機能が
落ちてくるために起こる感音難聴ですが、この場合は両方の聞こえが同じように少しずつ
悪くなるものであり、しっかりとした検査により診断されないと思わぬ病気を見逃してしまうことも
あります。

  治療  まずはどのような難聴なのかを診断しなければ始まりません。伝音難聴の場合は、
形に現れている異常を治すことにより、聴力が戻ることが多いものです。耳管狭窄症や急性の
中耳炎では薬物治療と鼻をきれいにする治療(鼻処置)が中心となり、慢性の中耳炎で薬に
反応しないものや、外傷、腫瘍などは手術的治療が必要になることもあります。感音難聴のうち
特に急激に起こる突発難聴や急性低音障害型感音難聴ではステロイドホルモンという薬が
最も有効であり、この薬ぬきではこれらの病気の治療は考えられないほどのものです。
長期間使うと副作用が問題になりますが、医師の指示通りに短期間服用する分には非常に
価値のある薬なのです。これらの治療を行うには診断が確実でなければ意味がありませんし、
また手遅れになるものもありますので、聞こえが悪くなった場合はできるだけ早く検査を受ける
ことが大切です。

6)鼻出血(鼻血)の知識     

 鼻出血は突然起こるもので、対処に困ることの多い病気です。特に子供の場合は、繰り返し出血
することが多いため不安になってしまいがちですが、5分以内に止まるのであればほとんどの場合
血液の病気の心配はありません。しかし繰り返しているうちに貧血になることもあり、また
日常生活に支障もありますので程度に応じた治療をするべきでしょう。また止血方法が
間違っていないのに10分以上出血が続く場合大人の鼻出血は、血液疾患を始め他の病気が
隠れている可能性がありますので十分な検査が必要となります。

  病気のメカニズム  鼻の奥行きは大人で10cm位あり、左右の鼻の間には
鼻中隔(びちゅうかく)といわれるしきり板があります。この前端に近い部位、すなわち鼻の穴の
入口から1〜2pの所は細い血管が集中しており、鼻出血がもっともおこりやすい部位です。
鼻をかむことが多い場合や、鼻をいじる、擦るなどで鼻出血が起こるのは、この鼻中隔前端に
機械的刺激が加わり、傷がつくことに拠るのです。傷はさらに刺激が加わらなければ、やがて
「かさぶた」ができて自然に治っていきますが、治りかけは「かさぶた」などのために違和感が生じ、
再びいじってしまうことが多いものです。従ってアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻風邪などに
よって、鼻が出る、つまる、むずむずするなどの症状がある場合に鼻出血が多く見られます。
そして鼻をかんだりいじったりしているうちは繰り返し出やすいということになります。以上は
最もよく見られる鼻出血の原因であり、子供の場合は90パーセント以上がこれに当てはまります。
しかし大人の場合は、この他に別の重大な鼻の病気や、全身疾患が隠れている可能性が多くなり
ます。また出血部位も鼻中隔前端だけでなく、鼻の奥や副鼻腔から出る割合が少し高くなります。
この場合は鼻をいじることがなくても出血し、主として喉の方に血液が出ることもあります。特に
高齢者では血管がもろくなっており、血圧が高い場合も多いので、反復して出血するだけでなく
命にかかわる大出血になることもあります。この他に顔面の打撲でも鼻や副鼻腔などの血管が
切れて鼻出血が起こり、また女性の場合は生理に関係して鼻出血が見られる場合もあります。

  治療  鼻出血の原因になる部位は何といっても鼻中隔前端が多いわけですから、鼻出血が
始まったらまずは人差し指と親指で小鼻の部分をつまむと効果的です。l鼻を心臓より高い位置に
保った方が血の勢いは弱くなるわけですから、横にならず座ったまま、また血液を飲んで気持が
悪くならないために下を向いて5分位鼻をつまんだままにしていると多くの場合止血します。同時
に鼻の上の方(目と目の間)を冷やすのも有効とされています。ティッシュペーパーなどを鼻に
詰める場合は、入れたり出したりすると傷を刺激しますので15分以上入れたままにした方が
よいようです。ただし取り出すときに血の固まりが剥がれて、再び出血が始まることがあります。
繰り返し出血する場合は、耳鼻咽喉科の外来で薬液を塗布するなどの止血処置を受け、
もとになるアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻の病気があればこれを治療する必要が
あります。鼻中隔前端以外からの出血の場合や、出血時間の長い鼻出血の場合は、血液疾患や
高血圧などの全身疾患、あるいは腫瘍などの重大な鼻の病気の可能性もありますので、
耳鼻咽喉科では止血処置とともにこれらの病気についての検査を行います。また出血による
貧血が疑われる場合は貧血の検査も行い、必要に応じて治療を行うことになります。

7)めまい=眩暈症(げんうんしょう)の知識    下図a)参照

 めまいとは自分の体や周囲が動いていないのにもかかわらず、動いている感覚になってしまう
状態で、吐き気をともなうこともあり、非常に強い不安を伴う病気です。脳に大きな問題が
起きたのではないかと思い、脳外科を受診なさる方も多いようです。ふらふらする、ふわふわする、
ぐるぐる回るなどめまいの感じ方は色々ですが、めまいの原因も多種多様であり、原因を
つきとめた上で治療薬を選ばないと十分な効果が得られないことが多いものです。

  病気のメカニズム  めまいのない正常な状態では、めまいに関連する体のいろいろな
部分は、機能的に左右のバランスがとれている状態にあります。このバランスが崩れると
めまいを感じるようになるのです。めまいを起こす原因となる代表的な部位としては、
まず耳の奥の骨の中にある内耳という場所が重要です。内耳は聞こえの神経とめまいの神経が
脳から降りてきているところです。従って内耳に血液の循環障害(流れが悪くなる)などのトラブルが
起きると、めまいと同時に難聴や耳鳴り、耳の塞がった感じなどを伴うことが多いものです。しかし、
めまいの神経のみが障害され、耳の症状を伴わない内耳性のめまいもあります。内耳が原因とな
るめまいの代表的疾患として昔から有名なものにメニエル病があります。あまりにも有名で
あるために、めまいを扱わない医療施設では、患者さんが「めまいがする」と訴えただけで
「メニエル病かもしれない」といわれていることが多いようです。メニエル病は耳鳴りや難聴が
めまいと一緒に発作的に出現し、数日以内に消失しますが、これが繰り返し起こるというものです。
メニエル病を始めとする内耳のみの障害によるめまいの場合は、どんなに症状が強くて
動けなくても吐いていても、直接命にかかわることはありません。これに対して脳のめまいに
関与する部位、例えば小脳や脳幹といわれる脳の後下方の部位に障害があってめまいが
起きる場合は、障害の原因によっては命取りになることもあります。多くの場合は血液の
循環障害によって、これらの部位の機能障害が生じてめまいを起こしているので、小脳や脳幹の
循環障害を改善する薬を選ぶことにより、めまいが治ります。循環障害の原因も色々あり、
首の骨(頸椎)の変形により血管が圧迫されていたり、動脈硬化により血管内が狭くなって
いたりしていることが多いようです。しかし、血液が完全に途絶えてしまう脳梗塞や、脳の出血が
これらの部位に起きた場合、また脳腫瘍がこれらの部位を圧迫している場合は、脳外科などでの
しかるべき処置が必要となります。ただし、これらによる危険なタイプのめまいの場合は、小脳や
脳幹の神経による特徴的な症状(しびれや麻痺、ろれつがまわらないなど)が加わったり、
殴られたようなひどい頭痛を伴うことが多いものです。このほか耳鼻咽喉科の外来でよく見られる
のは、首の筋肉の緊張が異常に高まることによるめまいです。よろけずに体が正常に
動いている時には、動作に応じた全身の筋肉緊張のバランスが無意識のうちにとれているもの
ですが、これが崩れてしまってめまいが起こるものです。肩こりが強い人に多く見られ、筋肉の
緊張をほぐす薬が効果的です。他にも自律神経失調によって起こるめまいもあり、貧血や
血圧異常、ホルモンの異常、神経疾患、精神疾患、薬の副作用、塗料などの有機溶剤によっても
めまいが起こります。また眼疾患や鼻疾患によってもめまい様の症状が見られることが
あるようです。

  治療  めまいは同じ症状に見えても、原因が同じとは限りません。めまいの程度に
かかわらず、しびれや麻痺、ろれつがまわらない、動けないほどの頭痛などを伴う場合は、
脳梗塞や脳出血などの可能性がありますので、まず脳外科を受診した方がよいでしょう。
その様な症状を伴っていなくて、めまいや吐き気が強いために動けない場合は、症状を緩和する
ために数日間の点滴が必要になる場合が多いので、まず入院施設のある病院を受診した方が
よいでしょう。それ以外の場合は疲れがたまっていたらまずゆっくり休みましょう。めまいの多くは、
原因にかかわらず肉体的または精神的な疲れがたまってしまった場合に起こることが多いもの
です。耳の症状が伴った場合は聴力が落ちてしまうことがありますのでなるべく早く耳鼻咽喉科を
受診して検査を受けた方がよいでしょう。耳鼻咽喉科では内耳によるめまいを診察するだけでなく、
めまいの原因が何であるかを検査します。特に繰り返し起こるめまいの場合は十分な検査を
受けて、原因を追及した上で投薬を受けると効果的です。治療薬は検査結果に従って、内耳の
循環改善剤、脳の循環改善剤、めまいに関する神経に働くビタミン剤、代謝賦活剤、
筋緊張緩和剤、自律神経安定剤、精神安定剤、ステロイドホルモン、血圧を上げる薬などを
使い分けることになります。また原因によっては内科や脳外科などに治療依頼をすることも
あります。
 

8)花粉症の知識

 日本人の5人に一人が罹っていると言われるスギ花粉症は、とても苦しい思いをするにも
かかわらず仕事や学校を休むわけにもいかない、実に困った病気です。前述の
アレルギー性鼻炎の一つ
であり、花粉が原因であるために花粉が飛んでいる間だけ症状が
出るものです。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみは代表的な症状ですが、この他に
喉の痛みや違和感、耳のかゆみ、発熱、頭痛、頭重感、だるさ、皮膚の発疹など、様々な症状が
見られます。市販薬を買って何とか凌いでいる方も多いようですが、花粉が多く飛ぶ年は症状も
きつくなるため、医師の診察により症状や体質を考慮して処方された薬剤を使用した方が
効果的です。また実際多くの患者さんがこれらの薬剤により快適に過ごすことができております。
スギの花粉症が最も有名ですが、春にはスギの他にハンノキ、ヒノキの他、カモガヤ、
オオアワガエリなどのイネ科の植物も花粉症の原因となります。秋にはブタクサやヨモギなどの
雑草類による花粉症も有名です。

  病気のメカニズム  何年もの間花粉を体の中に吸い込んでいると、体質によっては、
体の中にその花粉が入って来た場合にアレルギーの症状を起こしてしまう抗体という物質が
少しずつ出来てしまいます。この場合の花粉を抗原と呼びます。抗体が沢山出来てしまった人は、
毎年花粉が飛ぶ季節になると、抗原である花粉を吸い込むことによって抗原と抗体がくっついて
アレルギー反応を起こし、鼻や目、喉あるいは全身に様々な症状が出るのです。従って乳児や
幼児は長期間スギの花粉を吸ってはいないために花粉症にかかることは多くありません。
主として10代から30代に発症することが多いものです。そして高齢者では粘膜の反応性が
低下するために症状が起こりにくくなります。ただし、花粉症の発症にはアレルギー体質であること
の他にさまざまな環境要因が加わっていると言われ、都会の方が圧倒的に患者さんが
多いのです。また、最近では幼児や高齢者の花粉症も増えてきており、環境や食生活の
変化によるものと考えられております。鼻のなかで起こるアレルギー反応についての説明は
このページのアレルギー性鼻炎の知識の項をご参照下さい。

  治療  まずは確実な診断をつけることから始まります。典型的なスギの花粉症は、毎年2月
から4月にだけ上記の症状が見られるので比較的判りやすいのですが、他の鼻の病気でも
くしゃみや鼻水、鼻づまりが続くことがありますので注意が必要です。またスギの花粉症かと思って
いても、他の春の花粉症も加わっていたり、ほこり、ダニ、化学物質に対するアレルギーを持って
いる人や温度差に敏感な体質の人が、何らかの要因で症状が急に出ている場合もあります。
血液を2mlほど採ることにより、花粉症と思われる症状の原因(花粉の種類またはアレルギーの
原因になっている物質)が確実になり、またその患者さんの体の中に原因に反応する抗体の量
どのくらいあるかが6段階で出てきます。これにより1年のうちいつ、どの程度の症状が起こる
可能性があるかがおおよそ判ります。また鼻水のなかの好酸球と言われる細胞の量を顕微鏡で
調べることにより、その時点での鼻の中のアレルギー反応が強いか否かが判ります。これらを
検査して治療を行うといつ頃までどの程度の投薬を行うのが効率的かが見えてきます。
効果的な薬剤は、内服薬では各種の抗アレルギー剤です。最近眠気のないものや、鼻づまりに
効果の強いもの、一日一回服用で済むものなど、いろいろな特徴を備えたものが出てきており、
患者さんの症状と体質に応じて選択するとかなりの効果が得られます。また効果をより確実に
するために、鼻の中に噴霧する点鼻薬を併用することも多くあります。これもいろいろな種類が
ありますが、最も効果的と思われるのは、鼻の中だけで強力な抗アレルギー作用を示す
ステロイドホルモンの一種です。体に吸収されるとステロイドホルモンではなくなるため、比較的
安心して治療を継続できます。しかしこれらの薬剤を使用していても、花粉が非常に多く飛ぶ日
には症状を抑えきれないこともあり得ます。そのような時には、内服のステロイドホルモンと
抗ヒスタミン剤(アレルギー症状を一時的に抑える薬剤)との合剤を頓服として、症状の強いときに
限って使用します。連日長期間にわたって内服するのでなければ、眠気以外の副作用は
考えなくてよいでしょう。花粉症の治療は花粉の飛び始める少し前から開始するとそのシーズンの
症状が軽くなる傾向がありますので、花粉症と分かっている方は早めの治療をお勧めします。

 

9)カゼ(感冒)=急性上気道炎の知識     下図b)参照

 まず上気道という言葉についてご説明します。上気道は以下にご説明する部分をひとまとめ
にした言い方で、鼻の入口から肺の奥深くに続いている空気の通り道の上の方と言う
ニュアンスです。

鼻腔:前鼻孔(鼻の穴)から、10cm位後ろにある後鼻孔(鼻の後ろの穴)までのいわゆる
    鼻の中。
鼻咽腔:後鼻孔の後方にある、鼻とノドの境の部分です。
咽頭:扁桃腺とその周りを指し、一般にノドと言われる部分で、空気の通り道であると同時に
    食べ物の通り道でもあります。
喉頭:ノドの下の方に位置し、声を出すための声帯という部分を含み、気管の入口にあたります。
気管:喉頭から下方に続く管状の構造で肺の中に入ると二股に分かれ、この部分から先は
    気管支といいます。気管支から先は下気道と言われます。

 カゼという言葉は、あまり明確な定義を持って使われていないようですが、急性上気道炎と
同義語と考えられ、主に多くの種類のウイルスが原因で鼻、鼻咽腔、咽頭、喉頭、気管などの
上気道の粘膜に軽度の炎症が起こりますが、ウイルスの活動性が弱まることにより7〜10日で
自然に治癒に至るものを指しています。ただし、上気道の特定の場所に限って強い炎症が
認められる場合は上気道炎とは言わず、急性鼻炎、急性喉頭炎などとそれぞれの部位の
名前の付いた病名が付けられます。カゼの症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻症状、
咽頭痛、嚥下痛などの咽頭症状、声のかすれ、咳、痰などの喉頭・気管の症状
に加え、
倦怠感、発熱、頭痛、筋肉痛、下痢などの全身症状が主なものです。なお、風邪と似た
症状の病気は数多くあり、カゼから引き続き起こる病気が耳鼻咽喉科領域にはこれもまた
沢山あります。また同じくウイルスによる病気ですが、インフルエンザは上気道の症状よりも
全身症状が重症であり、カゼとは異なった対応が必要であるため区別して考える必要が
あります。

10)声帯疾患の知識     下図d)参照

 声帯はノドの奥の下のほうにある声を出すための振動板と考えることができ、喉頭という気管の
上方にある構造に含まれます。位置的には首のノドボトケの奥に、後方が開いたV字を水平に
置いた形の振動板
として存在します。鼻や口から吸った空気は咽頭(いわゆるノド)から喉頭に入り、
喉頭の中にあるV字型の声帯を通り、気管から気管支、そして肺に入っていきます。一方食べ物は
咽頭から、喉頭の後方にある食道の入口に進み、気管の後ろに存在する食道を通過して胃へと
入っていきます。食べ物や飲み物が誤って喉頭の方に入ってしまうと強い反射がおき、むせて
咳き込みます。息を吐く場合は肺から送り出された空気が気管支、気管を通り、声帯を通って
咽頭から口に出て行きます。この際に声帯のV字型を閉じることによって二本の振動板を平行に
並べた形にするとその隙間を息が通過するときに声帯が振動し、音が出ます。この音は声帯より
上の咽頭、口腔、鼻腔、副鼻腔などに響き、声になります。

  病気のメカニズム  声帯が腫れたり赤くなったり出来物ができたりすると、声帯の隙間を息が
通過する場合の声帯の振動がうまくいかなくなります。それによって声が枯れたり、出なくなったり
するわけです。このような声帯の変化をきたす疾患は数多くありますが、代表的なものを挙げると
声帯ポリープ、声帯結節、声帯ポリープ様変性(ポリポイド)、声帯炎、声帯腫瘍(喉頭癌を含む)などが
あります。声帯腫瘍以外は声を使いすぎることで声帯に無理がかかっておきることが多いものです。
声帯ポリープは多くはV字型を形成する2本の振動板の片方に球状の出来物ができ、声帯結節は
両方の振動板のやや前の方の相対する部位に先端の比較的尖った出来物ができるものをいいます。
声帯ポリープ様変性は多くは両側の声帯が紡錘形に腫れ、ブヨブヨに見えるものであり、重症例では
呼吸困難がおきることもあります。喫煙が大いに影響するようです。声帯炎は風邪をひいた後に
起きることが多く、声帯が赤くなったり腫れたりするもので声枯れに咳を伴うことも多いものです。
声帯腫瘍は良性のものもありますが、注意を要するのは悪性の腫瘍である声帯癌(喉頭癌)です
初期には声帯に不規則な形の腫れや色の変化が見られます。中年以降の喫煙者の声枯れについては、
耳鼻咽喉科の医師は声帯癌を見逃さないように常に注意を払っています。

  治療  腫瘍や珍しい声帯の病気以外の声帯疾患の治療で大事なのは声帯の安静、すなわち
声をなるべく使わないようにする
ことです。特に声帯結節は声を使いすぎると大きくなり、使わないで
いると小さくなって声枯れも治ってくる傾向が明らかです。喫煙を控え、赤みや腫れを退かせる消炎剤他の
薬を服用したりネブライザーと言われる霧状の薬液を吸入する治療が多く行われます。声帯の形の変化が
目立つものについては手術以外は効果がない場合もあります。声帯の腫瘍が疑われる場合は、詳しい
検査を行った上でもっとも適当な治療を選択しなければなりません。いずれにしても声枯れは早めの
診断、治療が重要
です。

11)頭頚部癌(耳鼻咽喉科の悪性腫瘍)の知識  下図a) b) c) d) 参照 

耳鼻咽喉科で扱う悪性腫瘍は総称して頭頚部癌と言います。鼻や副鼻腔、咽頭や喉頭、舌を含む
口腔、耳下腺・顎下腺・舌下腺などの唾液腺、甲状腺それに外耳・中耳など耳にできる悪性腫瘍が
主なものです。正確には悪性腫瘍は、上皮といわれる表面の細胞から出来る癌腫とそれ以外の
細胞から出来る肉腫に分かれますが、ここではひとまとめに「癌」と表現させていただきます。

  病気のメカニズム  首の付け根から上の頭頚部は脳・眼・歯を除いて耳鼻咽喉科の
受け持ち範囲であり、ここには聴覚・嗅覚・味覚・平衡覚などの感覚器に加え、顔面の筋肉を
動かすための顔面神経や顔面の知覚を受け持つ三叉神経を始めとする重要な神経が
集中しています
。また脳や眼に近い位置であることからも頭頚部癌はさまざまな機能障害を伴いながら
生命にかかわっていく病気と言えます。発生した癌細胞は細胞分裂をどんどん繰り返すことにより
癌細胞の塊が大きくなり、広がっていきます。頭頚部癌が耳、鼻、のど、口腔などに発生すると
しこりや色の変化が起こり、部位によって様々な症状や違和感を生じます。これが進行して行くと
癌が正常な部分を破壊して広がっていくため上に述べたように感覚器や神経の機能障害を起こす
ようになります。以下に頭頚部各部位の癌の特徴を挙げてみます。

  1)鼻腔・副鼻腔癌  
鼻腔や上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形洞などの副鼻腔から発生するもので、
これらの空洞の中に腫瘍が育ってくることにより片方の治りにくい鼻づまりや血液混じりの鼻水などが
みられるようになります。他に片方の頬の痛み・違和感や腫れ、涙が溢れる、悪臭、歯痛、嗅覚障害
などもよくみられます。骨を破壊して広がっていくと眼をはじめ様々な神経を介する機能障害が現れます。
特に副鼻腔癌は骨に囲まれた空洞であるため初期症状に乏しく、副鼻腔炎として治療されていることも
多いものです。40歳以上で片方の副鼻腔炎が治りにくい場合も精査を必要とする場合があります。

  2)咽頭癌  咽頭癌は上咽頭(鼻咽腔)に発生するものと、中・下咽頭に発生するものではかなり
症状が異なります。上咽頭癌について述べますと、上咽頭には耳につながる耳菅開口部があるため、
耳の詰まった感じや難聴、耳鳴りなどが唯一の症状として現れることが多いものです。また鼻の
後ろに当たる部位であるため、後鼻孔(鼻の後ろの穴)が狭くなって鼻づまりが起きたりいびきが
目立ってくることもあります。食物の通り道ではないため、いわゆる「のど」の症状はほとんどなく、
脳に近い部位であることから眼を動かす神経に障害が出てから発見される場合も珍しくありません。
また首のリンパ節の腫れ以外に検査上異常がなくて、しばらく経過してから上咽頭に腫瘍が見える
ようになる場合もあります。他の癌よりも若年者に多いことも特徴です。 中・下咽頭癌では
咽頭異常感、嚥下痛、嚥下困難が主な症状ですが、下咽頭癌では近くに存在する喉頭に進展して
声枯れが出て初めて発見されることもあります。

  3)喉頭癌  喉頭は発声に関する構造であり、また肺に続く気管の入り口に相当する部位であること
から呼吸にも大いに関係します。したがって喉頭癌の症状は声枯れ、咳、喉頭部異常感、呼吸困難、
血痰
などがあります。声帯より上の喉頭蓋に癌が発生すると異物感、飲み込むときの痛みがみられますが、
声帯に癌が出来た場合はほとんど声枯れが最初の症状です。声帯の下方に癌が発生した場合は初期は
無症状であり、進行してから声枯れなどの症状が出ます。喉頭癌の発症には他の癌以上に喫煙が大きく
影響する
と考えられています。

  4)口腔癌  口の中のあらゆる場所に癌の出来る可能性がありますが、良性のできものも数多く
見られます。患者さん自身が鏡で見ることが出来るので、心配されて受診なさることが多いのですが
頻度的には良性のものが圧倒的に多い傾向があります。口腔癌の代表的なものは舌癌です。主として
舌の横の部分(側縁)にしこりや白いものが出来たり、歯があたって痛い、食物がしみるなどの
症状があるときは早めに調べるべきです。歯列の不正や義歯などによる舌への慢性刺激も舌癌の誘因
になるようです。舌に限らず頬の内側などの表面にも白い部分が見つかった場合は、白斑症と言って
精査をしたり経過を観察しなければならない場合があります。

  5)唾液腺癌  唾液腺は大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)と小唾液腺(唇の内側など口の中の
粘膜に多数存在する小さな唾液腺)に分けられます。耳下腺は両耳の下にある唾液を作る一塊の
腺組織で、「おたふく風邪」の時に腫れる所です。顎下腺は顎の下の両側に存在し、舌下腺は舌の下の
部分の粘膜に覆われて両側に存在します。耳下腺癌がほとんどで、顎下腺には少なく、舌下腺には稀です。
耳下腺にはしばしば良性腫瘍がみられ、大きく腫れることもありますが、悪性の腫瘍は固着して
動きが悪く、周囲との境界が明瞭でない傾向
があります。唾液腺に癌が出来ても他の唾液腺が
働いていますので唾液が出なくなるようなことはまずありません。耳下腺の中を顔の筋肉を動かす
顔面神経が通っていますので、癌がある程度進行すると顔面神経麻痺による顔の非対称がみられ、
また痛みも出てきます。 

  6)甲状腺癌  甲状腺は、ノド仏の数cm下に気管の周囲を取り巻く形で存在する臓器で、代謝を
高める働きをする甲状腺ホルモンを分泌しています。癌が発生しても初期にはほとんど症状がなく
ホルモンの異常も認められません。腫れ物を甲状腺に触れる場合もありますがノドの違和感の検査で偶然
見つかる場合も多いものです。癌が進行すると甲状腺の近くを通っている声帯を動かす神経(反回神経)を
障害し、声が枯れたり飲み込みにくくなったりすることがあります。90%近くが発育の遅い癌ですが、
中には急速に進行するものもあります。

  7)聴器癌  頻度の低いものですが、耳介の癌や外耳道癌は時々みられます。紫外線暴露や
慢性の炎症、湿疹、慢性の機械的、科学的刺激が誘因になっていると言われています。耳介癌は、
痛みを伴う表面が凸凹の出血しやすい腫れ物
としてみられることが多く、外耳道癌は初期からの
痛みが特徴的であり、耳漏、出血、耳の詰まった感じ
などの症状は慢性外耳道炎や慢性中耳炎との
区別がつきにくいものです。進行すると顎の関節が近いため開口障害を起こしたり顔面神経を損傷して
顔面の非対称を起こすこともあります。中耳癌はさらに稀なもので50〜80%に慢性中耳炎を合併して
います。「耳だれ」や難聴、耳痛など慢性中耳炎の症状とまったく変わりが無いことがほとんどであり、
治りが悪く、進行していく傾向が強い場合に中耳癌を疑うことになります。進行しますと、耳の骨(側頭骨)
には三半規管や聴神経、顔面神経が存在し、脳にも接しているため難聴、顔面神経麻痺
(片方の顔面筋が動かなくなる)、各種の脳神経麻痺、髄膜炎症状など
が現れてきます。

  治療  まず何よりも早期発見が重要です。早く発見することにより治療の効果が出やすいものであり、
手術をするにしても切除範囲が狭くて済み、完全治癒の可能性が高くなります。気になる症状があれば
早めに耳鼻咽喉科を受診し、気になっている症状の原因が何かを調べましょう。さいわい頭頚部癌は
他の内臓の癌と違って、多くの例で内視鏡を含む耳鼻咽喉科の検査器具によりその場で疑いが
あるかどうかを調べることが出来ます
。もちろんごく初期のものでは何度か検査を繰り返さないと
判断できない場合もありますし、癌以外の病気に隠れてある程度時間が経たないと癌の所見が得られない
場合もありますので、医師より通院を勧められている場合は自覚症状がなくなっても通院・経過観察を
怠らないようにして下さい。頭頚部癌の治療は上に述べた1)〜7)の各種の癌によって、手術、
抗癌剤などの化学療法、放射線療法、これらの組み合わせなど有効な治療法が異なります。また最先端の
医療機器と技術を用いて、癌の存在範囲、癌を構成する細胞の性質、転移の有無などを正確に
把握し、さらに患者さんの体力・基礎疾患・体質などを考慮して最善の治療法を
考えなければ
なりません。したがって耳鼻咽喉科のクリニックで検査を受けた患者さんに頭頚部癌の疑いがある場合は、
疑われる癌の部位によって精査・治療をするための適当な病院を選び、早急に紹介状をお書きする
ことになります
。紹介を受けた病院の医師は紹介状の内容から必要な検査を選び、多くの場合
病理組織検査(癌の細胞の一部を採ってその癌の性質を調べる)を行って癌を確定をした上で治療方法を
選択することになります。

参考) 耳,上気道,副鼻腔の構造

a)耳の構造 下図の赤い線の部位で切り込んだ断面図(鼓膜、耳小骨、内耳は全体像)

      

 

b)上気道の構造 下図の赤い線のところで切り込んで、中から右半分を見た模式図

c) 副鼻腔の構造 顔面骨の中における副鼻腔の位置関係

d)  声帯の構造 下咽頭から下方を見た内視鏡所見     図b)参照