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岡田真次
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「クリスマスまで一週間だね」サンドウィッチを噛りながら、僕は彼女に言った。「今年もイヴは一緒に過ごせそうだよ。実は急ぎの仕事が入って、その日帰れるかどうかわからなかったんだ。でも仕事は片づいた。嘘みたいにすっきりとね」 彼女は紅茶をひと口飲み、話しはじめた。「あなたは魔法というものを信じるかしら?港が見下ろせる公園にいた、年とった外国人の男。ずっと昔、私たちがつきあいはじめた頃のことよ。指輪を買ってくれないかと言った。覚えているかしら?」 「願いを叶えたくはないかねって、人の心を見透かすような目をして、その人は言ったわ。あなたは、そいつはペテン師だよって、私の手を取って急いでその場を立ち去った。そのあと私は、どうしても気になったから、あなたに何か嘘の用事を作って引き返したのよ」 彼女がずっと前からはめている、ごく普通の銀の指輪。だけど、いつからつけているのかどうしても思い出せない。 「それからわたしは意地になって、あなたから謝ってくるまで、絶対に連絡してやるものかって思った。とうとう一週間経った。十年前のクリスマス・イヴ。部屋の壁に貼っていたあなたからの暑中見舞いの絵はがき、波が静かにうち寄せる砂浜に背中を向けて立っている少女の絵を見ていると、涙が止まらなくなった。空の端にぽつんといる星のように、さびしかった。あんな心にもないこと、言わなければよかったのにと後悔した。できることならあなたにすっかり忘れてほしいと思ったわ」 「で、僕はそのことをほんとうに覚えていないんだけど、そのことと指輪の魔法と何か関係があるのだろうか?」これは彼女の作ったルールで進むゲームなんだ、と僕は便宜的に考えることにした。ただし今のところ、僕にはそれが何のゲームなのかも見当がつかない状態であり、そもそも彼女がゲームの主催者であるとしたら、彼女自身がルールブックである可能性が極めて高い。ここはしばらくの間静観し、彼女の本心がどこにあるのか探りをいれるのが賢明な策だという結論に達した。 「まさかとは思うんだけど、もしかして、僕が何も覚えていないのは、その記憶を消してくれと指輪の精にお願いしたから?」 「そうじゃないわ。そんな簡単なことを指輪の精に願うなんて、もったいないことをするもんですか」彼女は目を細め首を横に振る。想像上のスコアボードの彼女の名前の横にポイントが入った。 やれやれ。ひとつ目の謎は解決した。 「どうりで、思い出せないわけだね」このゲームには、やはりぼくの側に勝ち目はどこにないようだ。気づいていないのは僕だけで、最初からこの勝負はついていたのだ。
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