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岡田真次


 上映中もサルにこれといって変わったところはない。静かに座り、ときどき乾いた咳をした。場面によっては体を折り曲げて笑ったり、身を乗り出して食い入るように画面を見つめたりした。ラストシーンではハンカチを目頭にあてた。そして字幕が流れ、スクリーンにカーテンがかかり、部屋に明かりがゆっくりと戻った。

 ネプチューン座では映画が終わるごとに休憩時間を設けている。次の上映までに、二十世紀後半のレトロ・ファッションをした売り子が、ポップコーンとアイスクリームを売り歩くことになっている。彼女のことだ。映写機のスイッチを切ると、彼女は大急ぎでスニーカーにジーンズとブラウスを脱いで映写室の隅のソファに放り投げた。オックスフォード地の青いボタンダウン・シャツを着て、すごく短いタータン・チェックのスカートと紺色のハイソックスを履き、黒いローファーをつっかけた。最後に鏡をのぞき、長くやわらかい髪を後ろで束ねた。

 この格好に着替えるたびに、彼女は発案者の祖父の時代感覚を疑うのだった。まったくどういう趣味をしているのかと思い、一度問い詰めてみたことがある。

「昔から売り子の制服はこれに決めているのだ」と祖父は言った。「それに、おまえにとてもよく似合っとるよ。死んだおまえの母さんにそっくりだ」そう言ったあとで祖父はいかにも年寄り臭い嘘の咳をした。もうこの話はおしまいだという合図なのだった。どうせ、理由なんてないのだ。でも、がまんして言うことを聞いてあげます。私はとても若く、祖父はとても老いている、という単純な理由だけですけど。

 彼女は冷蔵庫を開き、アイスクリームといっしょに、クリスマス用の苺とシャンパンをポップコーンの入ったバスケットに忍ばせた。何だかサルがそう注文するような気がした。その時がきたら、びっくりさせてやろうと思ったのだ。

「ポップコーンにアイスクリームはいかがですか?」彼女はあたかもサルのほかに客がいるかのように売り歩く。これもまた祖父のつくった決まりのひとつだ。ひとりしか客がいないことは、誰にだってわかりきっているのだから、すぐに彼の側に行って注文を取ったほうが、わざとらしくなくてよさそうなものだと思うのだが、どうしても祖父にはこだわりがあるのだ。それがひとりの客だったとしても、華やかな劇場の雰囲気を味わってもらうために、我々はいつも同じ態度で接する、そういう精神こそがここのむかしから変わらぬスタイルだ、というのだ。祖父は、制服と同じように、昔からやっている様式を頑として変えようとしない。「ワンパターン」が信念なのだ。彼女が口をはさむ余地などどこにもない。

「ポップコーンにアイスクリームはいかがですか?」