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岡田真次
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「きっと、この中にバナナを潜ませているに違いない」赤い目をして、ニヤリと顔の横で笑うと、バスケットの中に手をつっこんだ。 そこで言葉が途切れた。皮肉に満ちた笑いは、流れ星よりも早く消えた。サルは一瞬泣き出しそうな表情をして、頭をたれた。それから恥ずかしそうに当惑した微笑をうかべ、バスケットから苺をひとつ取り出し口にいれた。そして少年のようににっこりとした。 「ごめんよ、オレすっかり酔っちまった。だども、オレの表情の種類もなかなかのもんだろう? ジュリアには負けるけどさ」 「そうね、私も話に夢中になってしまって、あなたの表情がいくつあるのか数えるのを忘れてしまったわ」 「この苺はいい味だな。でも、もうシャンパンを飲むのはやめておくよ。オレには苺とシャンパンは似あわない」 「ほんとうは、シャンパンにはバナナもあうのよ」 「それなら、次に来るとき、ぜひ試してみたいよ」上目づかいにサルは言った。 その日からネプチューン座は、ひっそりと佇むことはできなくなった。サルや彼の知りあいが連日押し掛けたからだ。しばらくすると、みんなでいっしょに古い映画を楽しみ、休憩時間にバナナでシャンパンをやるのがサルたちの間でちょっとした流行になった。もっともその中には、映画を見るというよりも、カップルでいちゃついたり、いびきをかいていい気分で眠ってしまったりするものもいた。 しかしいっぽうで、「サルたちのような教養のない連中に、そこを占拠されること自体気にいらないのだ」と言うものもいた。彼らはネプチューン座に足を踏み入れることはほとんどないにも関わらず、それでもぶつぶつ文句を言った。彼らには、なぜこれほどまでにサルたちを嫌悪し、排除したいのかわからなかった。いちばん軽蔑するものの前でこそ自分自身の醜さをさらけ出してしまう、という人間の弱さにも気づいていなかった。 彼女を永い眠りから醒ましたのは、森に迷い込んだ新世紀生まれの王子だった。だが、目覚めとともに彼女は、その古風な謹み深さも同時に失ってしまった。もう昔の彼女はどこにもいない。 |
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