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岡田真次


 ぼくはフィールドコートの上に雨ガッパを着て、長靴を履いた。父さんと母さんはいつものとおり仕事に出かけ、家にはぼくひとりだった。ドアに鍵をかけると、濡れたアスファルトの道路を走る車の音と冷たい雨粒が、ぼくを出迎えた。濃密な霧雨が景色をにじませた。

 置き忘れた場所はだいたい見当がついていた。ミズナラの木の突き出た枝のところだ。昨日、クリスマス飾りの材料を集めたあと、ひと休みした場所だ。

 住宅地を抜け、ゴルフ場と深い谷の間のゆるやかな坂道を登っていくと、森の入り口を示す大きなエノキの木の下にたどり着いた。そこからは、細く曲がりくねった山道になる。ミズナラの木は、谷川沿いのヒノキ林にはさまれた小道を、しばらく歩いたところにある。いつもの歩きなれた道だ。まず迷うことはない。ヒヨドリが鋭い鳴き声をあげ、枝から飛び立った。雨ガッパの柔らかいひさしから冷たい滴が顔にかかり、何度も前が見えなくなった。

 雨の音を聞きながら薄暗い小道を歩いていると、世界中のどこもかしこも雨に包まれているように思えた。南の島ではさんご礁の青い海に日差しが照つけ、砂漠ではからからに乾いた草が丸くなってころがっているはずなのに、そんな場所がこの世に存在することが不思議に思えた。気分を変えるために、アマゾンの熱帯雨林で降る、海水浴のシャワーのように心地よい雨を何とか想像しようとしたが、うまくいかなかった。あいかわらず、ぼくの世界では、凍りそうに冷たい雨が降り続いていた。

 突然足元がぐらつき、バランスを失った。あわてて一歩前に踏み出したとき、そこに地面はなかった。草の生い茂る斜面を、滑るように転げ落ちた。止まろうと足をふんばったが、流れる雨水は草の葉をプールのすべり台のようにしていた。

 谷川に転げ落ちる寸前のところで、やっと止まったときには、何が起こったのか、しばらくの間理解できなかった。