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岡田真次
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彼女はじっとぼくの様子を見ていた。 「あまり深く考えるのはやめなさい。誰もがはじめから自然の時の流れに含まれているの。いくらその流れにさからったところで、行き着く先は決まっているんだから」 彼女は話しを途中でやめて、木立の中をうかがった。「夜が明けると、その力を失くしてしまうことを忘れないで」 言い残すと、彼女は炎に照らされた広場から、闇の中に消えた。細かい雪が風に舞い、焚き火の炎を弱くさせた。 「ちょっと待って」 ぼくが彼女の後を追おうと足を踏み出したとたん、ツルのようなものが体に絡みついてきた。 「こら、どこに行くんだ」ぼくは、男の長いムチでからめ取られ、あっという間に引き寄せられてしまった。背後の闇の中から、男が現れた。 「よく、オイラの縄が解けたな」男はまったく不思議なことがあるものだとでもいうように、縄の様子を丹念に調べていた。 ぼくはそのときはじめて、体がすっかり冷え込んでしまっていることに気づいた。焚き火のそばに近寄ると、炎は暖かくぼくを包んだ。手の中には、氷のように冷たい石の感触があった。男に見つからないように、そっとフィールドコートのポケットに落とした。 男はぼくの横に腰掛けると、ずだ袋からお椀を取り出し、スープを注ぎ、差し出した。 スープは微かに薬草が香り、春の花のような不思議な味がした。たしかに母さんのスープの匂いとそっくりなのだが、味は全く違った。かなり薄味で、ぴりっとしたスパイスの味もない。飲み込むと、緑の森の生気が勢いよくさっと体のすみずみまで広がっていくようだった。あとから、まろやかでしっかりとした味がやってきた。 男はこほこほと乾いた咳をした。「そりゃ、よかったな」男はむずかしい顔をして言うと、わざとがさつに袋をかき回した。あまり誉められたことがないんだろうと思った。男は自分のお椀にたっぷりとスープを注ぎ、ずるずる音を立ててすすった。 「うめえ」男はうんうんと頷いた。「誰かといっしょにめしを食うのはひさしぶりだ」 「ひとりで暮らしているの?」ぼくは訊ねた。 「何だと」男はぼくをじっと見つめた。きっと質問されることにも馴れていないのだ。 ぼくは男のことが、それほど悪いやつではないように思えてきた。 「そうさね、ひとりは気楽なもんだと考えるようにしてるね。オレみたいに誰にも会わない日がずっと続くとね、淋しさや、哀しさっていうもんは、じっとひとりで耐えることができるようになれるもんだ。ただね、それといっしょに喜びってものもなくなっちまうんだ。こうして久しぶりに誰かとめしを食うと、昔のことを思い出しちまう。オメエにはわかるまいが、なんだか哀しい気持ちになっちまった。しかし、喜びってやつはやっかいなもんだな。そいつは、ひとりっきりじゃだめなんだ。笑うときには、誰かといっしょじゃないとな」男は夜空を見上げた。木立の枝の間から、またたく星が見えた。 男は何かに耳をすませるように、じっと闇を見つめた。 |
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