|
奇妙なおばあさんの不思議な味のスープを飲んだのは、ぼくがまだ、サンタクロースの魔法を信じていたころのことだ。
十二月になると、父さんとぼくは、決まって森に出かけた。クリスマス・リースのための材料を探すためだ。わが家にとってリースは特別な意味をもっていた。サンタクロースにプレゼントをお願いするとき、それはなくてはならないものだ、と両親はぼくに教えた。十字架のない家には、何か目印がいるんだよと。
そして毎年、ぼくはつるを丸く巻きながら、願いの品を口の中で何回も唱えた。まるでえらい魔法使いが呪文を唱えるように。でもその年、ぼくは願いを唱えることができなかった。
その冬ぼくは、はじめてひとりで森にでかけた。「しめった薪に火をつけることも、霧の深い森の歩き方もおまえに教えた。父さんが教えることはもう何もない。おまえは一人前になったよ」父さんは僕の肩に手を置き、アメリカ・インディアンの酋長のような口ぶりで言った。ぼくの背は父さんの肩を少し越えていた。
森は、雪の匂いがする風が吹いていた。父さんと来る森はいつも親しげなのに、ひとりの森はよそよそしく、どこかで魔法使いの老婆に見張られているようで、とても心細かった。
のんびりしていると、すぐに冷気が体の芯にはいりこんでくる。急いで焚き火をおこし、太い木に赤い炎があがりはじめると鍋を乗せた。昼食のスープを火にかけておくのだ。野菜と調味料を入れておけば、材料を集め終えるころ、ちょうど食べ頃に出来上がっているはずだ。冷えた体に、スープと焚き火は何よりも贅沢な御馳走だ。
木の実やモミの葉は訳なく集めることができたが、つるは沢の斜面や高い場所にあって簡単には採ることができなかった。落ち葉を踏みしめて、夢中でつるを探し歩いた。気づくとあたりは霧が出はじめていた。もう少しで見つかりそうだったが、あきらめて、焚き火に帰ることにした。引き際を読み違えて森で遭難した人たちの話を思い出して、帰り道を急いだ。
まず、霧の中に焚き火が浮かび上がり、次に誰かの姿が見えた。父さんだと思った。気持ちを強く持とうとがんばっていたので、すごくほっとした。
「火にあたらせてもらったよ」ぼくを出迎えたのは、しわがれ声のおばあさんだった。「ついでにスープもすこし飲ませてもらった。あんまり体が冷えたもんでね」
どうぞご遠慮なく、とぼくは言ったが、父さんじゃなくてがっかりしていた。おばあさんは、スープをついでくれ、目を細めてぼくを見つめた。
いつものスープではないことはすぐにわかった。おばあさんが手を加えて、味を整えたのだ。微かに薬草が香り、春の花のような不思議な味がした。かなり薄味なのだが、緑の森の生気が勢いよくさっと体のすみずみまで広がっていくようだった。飲み込んだあとから、まろやかでしっかりとした味がやってきた。
「霧のあと雪になるよ。スープを飲んで暖まったら家にお帰り」おばあさんはそう言うと背中のずだ袋から、よく巻きこんだつるを取り出した。「これを持ってお行き。探しているものくらい、何も言わなくてもわかるんだよ」
そのつるは、家で飾りつけられ、クリスマスの日を待った。とんでもない物が届きそうで、どきどきした。何しろ、おばあさんの巻いたつるのリースなのだ。そして、プレゼントがその下に届けられ
た。
箱の中身は、野球帽だった。ぼくは少し拍子抜けしたような気分だったが、反面どこかでほっとしていた。そしてぼくは、森へは必ずその帽子を被って行くことになった。そこに宿った不思議な力が、いつもぼくを守ってくれているような気がしたからだ。 |