知って安心、ドイツのマナー

このコーナーは執筆途中です。書き終わった文章にも、後からの追加・訂正があるかもしれません。

目次

0.はじめに
1.あるアンケート

挨拶と会話のマナー
2.挨拶と握手
3.挨拶についての補足
4.人を紹介する/自己紹介する
5.Sieとdu
6.スモールトーク

仕種と姿勢のマナー
7.仕種とその印象
8.着席時の姿勢

食事のマナー
9.食事編のはじめに
10.ナプキン
11.Guten Appetitは礼儀に反する
12.爪楊枝
13.ナイフとフォーク
14.飲み物
15.食べ物

続きは現在執筆中。



0.はじめに

欧米には握手の習慣があるけれども、二人が対面した時に最初に手を差し出すのはどっちだろう。ドイツ人の家に行った時や、ドイツ人を自宅に招いた時、私は自分から握手の手を差し出すべきか。それが私の最初の疑問でした。

実際にはこちらがまごまごしていれば向こうから話しかけてくれるし、大抵は向こうから手を差し出してくるので、そんなに困った事態にはなりませんでした。それでも、気になる事は起きました。

ホームステイでお世話になる家の息子さんが最初の挨拶の時に両手を腰に当てて、なんか偉ぶっているように見え、つきあいにくく感じました。帰国して何年も経ってからふと思ったのですが、あの時私は自分から握手の手を差し出すべきで、それをしなかったのかもしれません。だから息子さんは手をずっと腰に当てていたのかもしれません。

またある時は、日本の伝統文化に興味をもつ人の個人的な集まりで、その場の何人もの人に挨拶をしました。その時は握手はしたと思うのですが、その後一人の子供が座ろうとしません。立ったままです。不思議に思ううちにハッと気づいたのは、目上の私が座るのを待っているんじゃないかという事でした。果たして、私が座るとその子供も座りました。

私は、今後こういう事があったらもっとスマートに行動できるようになっていたいと思います。

とはいえ、ドイツでいつもマナーをわきまえたドイツ人に会うわけではありません。相手が若者の場合、残念ながら私はマナーの悪い若者のほうを多く見てきました。

列車のドアが開いてお年寄りが降りようとしているのに、それを待たずに平気で乗り込もうとする子供たち。

路上で遊ぶのに夢中になって私にぶつかってきたのに、詫びの一言も言えない若者。

これらは若者のせいというよりは、躾をしない親と社会のせいだと思われます。

では私たちはどうするべきかと考えれば、私たちまでが悪いマナーの真似をする必要はないので、良いマナーに出会った時に良いマナーで対応できるようにしておきたいものです。

ドイツでは昔から「クニッゲ」というマナーブックが知られています。それを現代の事情に即して書き直した2007年版がありますので、ここではその2007年版から必要な事だけを抜き出してメモします。以下、「クニッゲ」と書いた場合はこの2007年版を指します。


追記:
この原稿をかなり書き進んだ後で読み返したところ、「クニッゲ」の内容と私自身の発言が区別しにくいことに気づきました。そこで「1.あるアンケート」以外の部分について、「クニッゲ」の内容をイタリックで表示して区別することにします。なお、イタリックの部分は必ずしも逐語訳とは限らず、意訳だったり、時には要約のこともあります。



1.あるアンケート

「クニッゲ」は本題に入る前にEmnid研究所のアンケートを紹介しています。それによると、良いふるまいとして「他人の話に割って入り中断させてはいけない」事が重要と答えた人は97.8%もいたそうです。「段差のある場所でベビーカーを持ち上げて移動を手伝う」「年輩の人の荷物を持ってあげる」「年輩の人に席を譲る」の各項目にも同様に非常に高い率で重要と答えています。以下、「時間を守る」が97.2%、テーブルマナーの大切さが95.4%、「時と場所にふさわしい服装」が85.2%、「喫煙の前に隣の人に許しを乞う」が80.1%。

これらは日本のマナー感覚と同じか非常に近いもので、マナーの基本に関しては日本的な常識で接しても悪くないと思われます。ではドイツ人はみな、このアンケートのように良いふるまいで生活しているのでしょうか。私はドイツでそういう人も見ました。また、決して悪人ではないけれども自己中心的に生きているマナーの悪い人も見ました。アンケートで良いマナーに賛成した人が、実生活でそれを実践しているとは限りませんし。



2.挨拶と握手

2人の人物が出会った時、「こんにちは、〜さん」の挨拶をどちらから言い出すか。すでに友達になった間柄なら適当で良いでしょうが、何かのパーティーで出会った初対面の人だと気になります。老若男女、どんな人に出会うかわかりませんし。「クニッゲ」ではまず次の3原則が挙げられています。
  1. 身分の低い者が身分の高い者に挨拶する
  2. 年少者が年長者に挨拶する
  3. 男性が女性に挨拶する
さて、挨拶の時によく握手しますね。握手の手はどちらの人から差し出すものなのでしょう。「クニッゲ」には次のように書いてあります。
  1. 身分の高い者が身分の低い者に手を差し出す
  2. 女性が男性に手を差し出す
  3. 年長者が年少者に手を差し出す
ここまでをまとめると、基本が見えてきます。挨拶と握手は、ほぼ逆の関係になっていますね。挨拶をする人よりも挨拶される人のほうが、ある意味で上のようです。ちょっと極端な表現を許してもらえるなら、AさんがBさんに「ご挨拶申し上げます」とご機嫌伺いをすると、BさんはAさんに「はいこんにちは。私と握手する事を許しましょう」と手を差し出す。私にはそういう図式が見えてくるのですが、いかがですか。

1番目から3番目までの項目にわざわざ序数で番号が付いているので、これは優先順位を意味するのでしょうか? 挨拶と握手とでは2番目と3番目の項目が入れ替わっていますね。挨拶では2番目に年少者/年長者、3番目に男性/女性ですが、握手では2番目に女性/男性、3番目に年長者/年少者です。これは厳密に読み取っていいのでしょうか? この点について明確には書かれていません。

「クニッゲ」には様々なわかりにくいケースについても書いてあります。でもそういうケースは私たちには関係なさそうです。読んでいて興味深いですけど。
  • 官職は、年齢・性別・教養に優先する。例:名誉博士の称号をもち州議会議員でもある学者が、学歴のない首相に挨拶する。この場合州議会議員/首相という官職が比較される。
  • 会社の中では、役職序列が他に優先する。例:学歴のある部長が学歴のない社主に挨拶する。女性秘書が男性の社主に挨拶する。
  • 博士号などのアカデミックな肩書きは、貴族の称号に優先する。アカデミックな肩書きは学業と博士号取得の努力によって初めて得られるものだから。
「クニッゲ」は、原則が守られないケースにも触れています。職場での多忙な日常では上の原則は必ずしも守られず、先に相手に気づいた方が簡潔に挨拶するのが一般的になりました。これによって自分と相手の間に複雑な上下関係がある場合にも考えを巡らせずに済みます。上司から先に、部下に握手の手を差し出す事もあります。廊下で人と出会ったら、一日で最初の時だけちゃんと挨拶し、次にすれ違う時は微笑むだけで構いません。

握手には個性があります。相手の手を握り潰すかのような強さで握る人もいれば、まるで握っていないかのようにやんわりと握る人もいます。この点について「クニッゲ」は中庸を勧めています。強すぎず、弱すぎず、そしてまた長すぎず。握手している時間は数秒で十分です。短いおざなりな握手もいけません。さて、ここから先の数行は私個人の経験であって「クニッゲ」の内容ではありません。お間違えなく。私の少ない経験では、ドイツ人男性は力をこめてしっかりと握る事が多く、ドイツ人女性はそれに比べてソフトに握る事が多かったです。



3.挨拶についての補足

挨拶として、男性が女性の手の甲にキスHandkussをする事があります。これは原則としては時代遅れとみなされていますが、オペラハウスでの舞踏会などではよく見られます。このキスは形だけのものです。唇は手の甲に触れませんし、音もさせません。

2人がお互いに左右の頬にキスをする挨拶Akkoladeがあります。以前には南国やフランスでの長期休暇でだけ見られたものですが、今ではドイツでよく見られるようになりました。このキスは形だけのものです。本当に頬にキスをすると、女性の化粧が落ちてしまったり、相手に化粧が付きかねません。このキスは私生活専用で、職場での挨拶には適しません。

私の手持ちの映像の中から、Akkoladeに関連するものを探しました。下の3つのビデオクリップは、サイトの容量の都合でそのうち削除するかもしれません。
akkolade.wmv 約402KB キスは真似だけです。
ford.wmv 約996KB ホントにキスすると、子供が嫌がります。
japaner.wmv 約971KB 日本人のものすごい勘違い。

人々がすでに席についていて、そこへ新たに1人の人が来て挨拶するとします。この時、すでに座っている人はどうするでしょう。昔は、次の原則がありました。
  • 男性は立ち上がって相手に握手の手を差し出す。
  • 女性と高齢で身体の弱い人は座ったままで相手に握手の手を差し出す。
とはいえ、今日では女性は、とりわけ職場では男性と同様に立ち上がります。男性と同等である事の表現です。


挨拶のために立ち上がるさい、男性でも女性でも気を付ける事があります。ブレザーまたはジャケットのボタンを少なくとも1つはかけた状態にします。



4.人を紹介する/自己紹介する

Aさん、Bさん、Cさんが集まったとします。AさんはBさんともCさんとも知り合いですが、BさんとCさんはお互いにまだ面識がありません。この場合、AさんがBさんにCさんを紹介し、CさんにBさんを紹介する事になります。でも先にどちらを紹介すべきでしょう。「クニッゲ」は次の原則を挙げています。
  • 身分の高い者に身分の低い者を紹介する。
  • 年長者に年少者を紹介する。
  • 外国人に同郷人を紹介する。
  • 女性に男性を紹介する。
  • すでに居合わせている者に、新たに到着した者を紹介する。
この原則は、ドイツ人を日本へ招いた時、つまり自分がホストファミリーになった時にも参考になります。ドイツ人に自分の家族を引き合わせる時に。

Fräuleinを付けて成人女性を呼ぶのは、もはや時代に合いません。Frauで呼びましょう。女性は普通、Fräuleinを付けて呼ばれる事で未婚女性ですといちいち示されるのを嫌がります。Fräuleinを付けるのは、女性がそうしてくださいと言った時だけにしましょう。

次に自己紹介の場合ですが、「クニッゲ」は次の表現を薦めません
  • Guten Tag, ich bin der Achim aus Augsburg.
  • Mein Name ist Berg; Achim Berg.(先に姓を言ってから、わざわざ言い直す)
「クニッゲ」は、気取らず簡潔に自分の名と姓だけ(会社を代表して来ているなら、それに加えて会社名)を言うことを薦めます。



5.Sieとdu

初めに断っておきますが、「クニッゲ」はこの項目で社会人のマナーについて解説しています。ドイツの大学生同士が初対面でもduで呼び合うといった事情は書かれていません。

さて社会人は初対面の時はSieで呼び合い、後に必要に応じて一方の人が他方の人にduを使う事を申し出ます。この申し出には次の原則があります。
  • 身分の高い者が身分の低い者に申し出る。
  • 年長者が年少者に申し出る。
  • 申し出に性別は関係ない。
同じ位の年齢で身分に違いのない者同士ならば、どちらから申し出ても構いません。


「クニッゲ」は個別の気になるケースについても書いています:

多くの男性がいまだに女性にduを申し出てはいけないと考えています。その一方で、女性から男性にduを申し出て良いのでしょうかという質問も絶えません。昔は女性が男性にduを申し出るとスキャンダルになったのですが、それは過去の事です。今日ではduの申し出に性別を考慮する必要はありません。女性から男性にduを申し出て構いません。とはいえ社内では会社の役職序列がありますから、自分が相手と同等かそれ以上の役職をもっている時だけ自分からduを申し出て良いという事に注意してください。

相手からduで呼び合う申し出を受けた時、これを拒む事は許されるのでしょうか。もし必要があれば、相手を傷つけないように言葉を選んで拒むのは構いません。たとえば次のように。
Vielen Dank für das freundliche Angebot, aber ich finde, wir sollten besser beim ‚Sie‘ bleiben.
ただし、duを申し出た相手に自分がそっけない態度をとっているかもしれない事をよく考えましょう。また、同僚がみなduで呼び合っている中でそれを拒むと、慣習に従わず思い上がっているような印象を与えます。気をつけましょう。


さて次はトラブルシューティングです。慌しく喋るうちに、時としてSieで呼ぶべき相手を思わずduで呼んでしまう事があります。呼ばれた相手はそれに気づき、短い沈黙が訪れたとします。この場合、どうしたら良いでしょう。まず、(1)相手が気を悪くしたか、(2)そうでないかを見て取りましょう。(1)相手が気を悪くした場合は2つの対応策があります。そのひとつは、何食わぬ顔でSieで話し続け、同じ失敗を二度と繰り返さないよう十二分に気をつけるというものです。もうひとつは、短くPardon.と詫びてから淡々とSieで話し続けるというものです。(2)いっぽう相手のまなざしが親しげだったり、それどころか面白がっているようなら、あなたはいくらかうろたえたように振舞って見せ、「もちろんSieと言うつもりだったんだ」と詫びてみましょう。相手はたいてい、これからはduで呼び合おうと申し出てくれます。



6.スモールトーク

スモールトーク(ちょっとした世間話)は「良いふるまい」に重要な役割を果たします。スモールトークのコツをいくつか紹介しましょう。

天気はまさにスモールトークの話題です。Wieder so ein heißer Tag.(今日も暑いですね)というように。日常的な話題を選べば、相手は会話に参加しやすくなります。また、相手の言う事をよく聞いて相手の目をちゃんと見ていれば、会話を続けたいという気持ちを相手に伝える事になります。この方法は仕事で、とりわけ会議や研修で使う事をお勧めします。そのさい、できる限り注意すべき事があります。これから行われる講演の事を講演者と話すのは避けましょう。それをすると相手はたいてい当惑します。講演者の多くは講演前に緊張しているものです。話す相手をよく観察すれば、相手がどんな方向に話をもって行きたいかがわかります。話題を相手に合わせてあげましょう。

話題の一般化には気をつけましょう。たとえば「ドライバーというのは・・・」「環境保護運動家というのは・・・」「テニスプレイヤーというのは・・・」「サッカーファンというのは・・・」「切手コレクターというのは・・・」。このような話し方をすると、自分では気づかないうちに相手の気に障る事を言ってしまいます。

話のテンポは可能な範囲で相手と合わせるようにしましょう。たとえば極端な早口で喋る人は、ゆっくり話す人との会話ではゆっくりめに喋ってあげましょう。極端な早口は、しばしば言葉尻の発音を呑み込んでしまったり発音が不明瞭になったりします。その結果相手は言葉を聞き違えます。逆に極端にゆっくり話す人は、相手をいらいらさせます。ビジネスでも相手にネガティブな印象を与えます。もしも話す両者がテンポを合わせれば、テンポの相違はあまり気にならなくなります。

「クニッゲ」は、スモールトークで注意すべき点として他にも次の項目を挙げています(上の文で既出の項目は省きました)。
  • 親しげに話しましょう。攻撃的に話してはいけません。
  • 話題についての情報や知識を提供しましょう。
  • 差し障りのない話題(天気など)を選びましょう。
  • 相手が避けたい話題や、秘密にしておきたい事へと話をもって行ってはいけません。
  • 自分の事ばかり話してはいけません。
  • 相手から何かを聞き出してやろうとしてはいけません。
  • 相手がどうやら不快に思っているらしい話題に固執してはいけません。
  • 相手が話したくない秘密を聞き出そうとしてはいけません。
  • 内密の情報や不確かな噂を広めてはいけません。

「クニッゲ」は、スモールトークにふさわしい話題として次のものを挙げています。
  • 天気
  • 趣味
  • 休暇
  • スポーツ
  • 文化的な催し
  • 音楽
  • 芸術
  • 文学



7.仕種とその印象

他人を指差してはいけません。群衆の中にいる特定の人物を人に教えるさいには、なるほど指差すのがいちばん簡単ですが、それでも言葉で説明したり、その人の所まで連れて行ってあげるべきです。言葉で説明するならば、肘を曲げて手のひらを上方へ伸ばした形で目的の人物を指し示す事ができます。連れて行ってあげるならば、目的の人にGuten Tag Herr X, dieser Herr möchte Sie gerne sprechen.などと言って引き合わせます。

その他のタブーを列挙します。人前で中指を立ててはいけません。これは相手を侮辱します。ズボンのポケットに両手を入れたままではいけません。両手を背中に隠してはいけません。これは不信感を生みます。腕組みをしてはいけません。これは拒絶のポーズです。相手の前で拳を固めて見せてはいけません。これは強迫的です。両手で三角屋根の形を作ってはいけません。これは思い上がっているように見えます。両手のひらをまるで石鹸で洗っているようにこすり合わせてはいけません。これは他人の不幸を喜ぶポーズです。両手をいつも顎に持って行ってはいけません。これは自己満足を思わせます。指を口元や口の中へ持って行ってはいけません。これは自信がなくうろたえているように見えます。両手を頚の後ろで組んではいけません。これは偉ぶって見えます。上唇を引き上げてはいけません。これは軽蔑しているように見えます。

「クニッゲ」は手の動きについても考察しています。

相手に手のひらが見えるようにして手を差し出して近づくと、オープンな、何も隠し事がないという印象があり、信頼につながります。また寛大さと自信が感じられます。差し出された手を握るか拒むかは相手に委ねられます。手を差し出した側は、あまり早く手を引っこめてはいけません。その行為は攻撃的ですし、本当は握手したくないのだと相手に思われますから。少なくても2秒は手を差し出したままにして、相手に考える時間を与えましょう。・・・「クニッゲ」にはそう書かれていますが、相手が握手に応じない可能性をずいぶん考慮していますね。まあとにかく先へ行きましょう。

これにたいして手の甲にキスをさせる時のように相手に向かって手の甲を突き出すのは、何か隠し事があるのではという印象を与えます。また、手を上から下へと動かす仕種は、人によっては緊張と威圧的な印象を与える事があります。

講演では、講演者の仕種が彼/彼女の状態をよくあらわします。ずっと興奮したままであちこち歩き回ったり、慌しく神経質に両手を振り回したり、ボールペンでカチカチ音をさせたり、髪の毛に手を入れて頭を掻きむしったり、鼻や耳をこすったりするのは、堂々としていません。このような頼りない仕種は、その人が無能ではないかというかすかな疑いを生じさせます。口頭発表のさいに慌しく身振り手振りをするのは、避ける事ができます。発表の原稿に時々「姿勢を保て」と書いて蛍光ペンで強調しましょう。こうすれば心を落ち着けて堂々としていられます。



8.着席時の姿勢

協議中であろうと会食中であろうと、正しい姿勢でいればあらゆる状況で堂々としていられます。正しい着座姿勢の昔と今を見てみましょう。昔は、客が(とりわけ女性が)背筋をまっすぐに伸ばして椅子に座り、背もたれに触れていないのは特に美徳とみなされました。これは「高位の娘の姿勢」とも呼ばれ、中産階級の娘はこれを行う事で自分を労働者階級の娘から見た目で区別しようとしました。とはいえこの姿勢は、ずっと背中を丸めていなければならないのと比べて健康に良いとは言えません。これは身体を悪くする一要因だったのです。時は移り現在の正しい着座姿勢とは、椅子の座面の全面を使って座り(座面の縁に座らず)、そのさい手の幅くらいテーブルから離れて座り、背中は背もたれにゆったりと持たせかけて構わない、というものです。そう、背もたれに背中をつけて構いません。背もたれというのはそのためにあるのですから。

椅子の肘掛は肘を支えるためのものですが、使わない事もあります。ナイフとフォークを持って食事をする時は、肘を肘掛で支えません。腕は体に付け、手首から先の部分は食卓の上にあるのが普通ですから、肘は体に付いている事になります。ナイフを使う時に肘を左右に動かして切る人がいます。これはしばしば、隣の人に規則的に肘鉄砲を食わせる事になります。肘を体に付けている事が特に大事なのは、飛行機のエコノミークラスです。3連の座席の真ん中に座り、もしも両脇の人が肘を体に付けていないと、この人は両側から軽い肘鉄砲を食らい、特に辛い事になります。

姿勢については男性よりも女性のほうが多くの事を気にしなければいけません。今度はその話をしましょう。1950年代にはまだ多くの女性はズボンをはかず、スカートやワンピースだけを身につけました。ズボンをはいた女性は革命的であり女らしくないとみなされました。小さい男の子は泥んこになって遊びましたが、ひだ飾りのついたかわいい服を着た女の子は汚れないように気をつけなければいけませんでした。(これは今日の事情にもしばしば当てはまります。)とはいえ、着席のさいにしてはいけない事という制限は実際には衣服にも起因します。ズボンをはいた女性には男性とほとんど同じ姿勢のきまりが当てはまりますが、スカートやワンピースを身につけた女性はいくつかの事を余分に注意しなければいけません。ズボンをはいていれば男性と同じ程度に足を広げて立って構いませんが、スカートをはいていれば、とりわけ着席時に膝を閉じているように注意しなければいけません。とくに短いスカートをはいている時はそうしないと下着が見えてしまいます。これは無作法なだけでなく気まずいものです。ですからスカートやワンピースを身につけた女性はつねに気をつけて、膝を90度に曲げて閉じ、両足を揃えて座るか、または足を組むべきでしょう。

この件で「クニッゲ」に書かれているのはここまでです。日本では、足を組むのは体の歪みの原因になるとも言われています。「クニッゲ」は姿勢がもたらす体の障害に言及している(上の日本語文ではその大部分を省略)にもかかわらず、足を組む事は特に悪いと思っていないようです。



9.食事編のはじめに

「クニッゲ」は、ナプキンの使い方やナイフとフォークの使い方などを解説する前に、食事編の前置きを少し書いています。まずはその中から一部を紹介しましょう。その後半からは、食事のさいの悪いマナーとして自明の事とみなされるものが読み取れます。

食事の際には、その人の本性が現れます。その際、一般に行われている規則を知っているかどうかは、あまり重要ではありません。グラスを倒したりソースの染みを付けたりという不運は誰にでも起きうるものです。そういう不快な状況も、その人が堂々と振舞っていれば、そう悪くはなりません。とはいえ、基礎的な作法は常に守るべきでしょう。ビュッフェ形式の会食でハイエナのように料理に殺到し、我先にと自分の取り皿に取り分け、料理を山のように皿に盛り、食べながらげっぷをし、食べ物を口に入れたまま喋り、食べ物のかすをテーブルに吐き、それと同時に会場の人々をその場に不適切な話題で苦しめるような人は、二度と招待されなくても不思議ではありません。

さてそれでは編集・執筆者の立場から少し補足しましょう。あまりにも自明の事だからなのか、上の文に書かれていないものがあります。食べる時に音を立ててはいけないという事です。そばやそうめんを食べる時に音を立てるのも、私の知り合いのドイツ人女性は抵抗があり「とても真似できない」と言います。もっとも、すでに日本の流儀に慣れてしまったドイツ人は別です。

食べる際に椅子の肘掛に肘を載せない、ナイフで切る時に肘を横に張らないという事は、すでに着席時の姿勢の所で出てきました。



10.ナプキン

ナプキンはどこのレストランにもあります。たいてい折り畳んで皿の上か右横に、立てるか寝かせるかしてあります。

17世紀にはナイフを使わずに食べ物を手に持って食べ、汚れた指をテーブルクロスで拭きました。当時はティッシュペーパーがなく、多くの人がテーブルクロスで鼻もかみました。ナプキンはこの時点ですでに快適さを提供します。高価なテーブルクロスを汚さずに済むだけでなく、客の服も汚さずに済みます。この事情は今日でも同じです。
(訳注:読み方によっては今日ではナプキンで鼻をかむように読み取れてしまいますが、「クニッゲ」の著者にその意図はないようです。上の文にある鼻をかむなどの記述は、昔の事情として読んでください。)

とはいえ今日ではナプキンは首の周りに結ぶのでなく、主人が食事を始めた後で客はナプキンを膝の上に載せます。

グラスを手にとって飲む前に唇をナプキンで拭けば、グラスの縁に不快な汚れが付くのを防ぐ事ができます。グラスの汚れは見た目が食欲を減退させるだけでなく、飲み物の味わいも損ねます。女性は口紅を使っているので、メーキャップを駄目にしないように軽く拭くだけにしましょう。

ナプキンはまた、客が食事を終えたのか、それともちょっと席を外しただけなのかを示します。ちょっと席を外すだけの時は、ナプキンを折り目とは反対に1回折り畳み、汚れていない面を表にして椅子の上へ置きます。同様に折り畳んだナプキンを皿の左横に置けば、満腹でもう食べないという合図になります。この満腹の合図は紙ナプキンにも当てはまります。紙ナプキンも皿の上やナイフとフォークの下には置かず、皿の左横に置きます。

ナプキンを床に落としてしまっても、心配は要りません。そのような不運は誰にでもありうる事です。ウェイターに新しいナプキンを持ってきてもらえば良いのです。プライベートな招待ならば、ナプキンを拾い上げてそのまま使います。主人が気づいて、何も言わなくても新しいナプキンを持ってきてくれるでしょう。



11.Guten Appetitは礼儀に反する

食事の前に食べる人に向かって言う言葉Guten Appetit!は有名ですね。これはIch wünsche Ihnen einen guten Appetit.の意味で、「あなたに充分な食欲が湧きますように」「おいしく食べてくださいね」と言っているわけです。ところが「クニッゲ」は、このあまりにも普通に使われている言い回しを突然否定し始めます。「クニッゲ」は何を意図しているのでしょうか。まずはその部分を紹介します。

大抵の人は、お互いにguten Appetitと言い合うのを良い事だと思っています。でも実は、それは礼儀に反するのです。少なくても大抵の場合には。例外的にguten Appetitと言い合って良いのは社員食堂での食事です。お昼に社員食堂で出会った社員たちはお互いにguten Appetitと言い合います。それをしない人は、思い上がっていると即座にみなされます。たとえ当人にその意図がなくても。いっぽう、仕事上の会食やプライベートで食事に招かれた場合は事情が違います。仕事上の会食や祝宴では、お互いにguten Appetitと言い合うのはずっと前から無作法とみなされてきました。この場合には主人がナイフとフォークを握る事が、皆が食べ始める合図になります。この事情は昔も今も同じです。

これに続けて「クニッゲ」は、なぜguten Appetitと言うのが礼儀に反するのかを説明しています。

お互いにguten Appetitと言い合う事は、その昔、暴飲暴食の時代には、宗教上の理由から皮肉とみなされていました。仮に主人が自分で料理してguten Appetitと言って食事を始めたなら、それは自分で自分の料理を褒めていると取られるかもしれません。コックは自分の腕前に自信があり、自分の作った料理は特別に美味で、それをちょっとでも食べれば空腹が満たされると思っている。人々はそんな風に思うかもしれません。逆の考え方をすれば、客が他の人にguten Appetit(充分な食欲を)と言うならば、それは料理がまずくて、本当にものすごくお腹が空いていないととても食べられない、という事になるかもしれません。

上の文の中に「宗教上の理由から」と書かれていますが、これはキリスト教の「7つの罪源」の6番目にある「暴食」を意味していると思われます。暴飲暴食の時代に相手の食欲を望むのは「地獄に堕ちますよ」と暗に言っているようなもの、という事でしょう。ところで、もしも「クニッゲ」の言う通りにするならば、私たちはドイツで滅多にguten Appetitと言えない事になります。でも私は、仕事上の会食を除いてguten Appetitと言って良いのではないかと思っています。プライベートで食事に招かれた時、私は相手の奥さんからGuten Appetit!と言われました。レストランではウェイターからほとんど毎回言われましたし。第一、上の文の中で「クニッゲ」自体が認めています。大抵の人はguten Appetitと言い合うのを良い事だと思っている、という現状を。



12.爪楊枝

食後に爪楊枝を使いたい時は、その行為がその場に居合わせた客にとって極端に不快だということをよく考えましょう。爪楊枝を使う事はタブーではありません。とくに爪楊枝がテーブルに用意されている場合は。しかしながら、使う時には絶対に口元を手で隠しましょう。右利きの人ならば左手で口元を隠し、右手で爪楊枝を使います。左利きの人は左右が逆になります。いずれにせよ、爪楊枝を使う行為は速やかに目立たずに行う事です。テーブルの上に爪楊枝がなければ、目立たないようにウェイターに頼んで持って来てもらうことができます。その場合には爪楊枝を化粧室で使うのが当を得ています。とくに仕事上の会食では、誰かが長々と無遠慮に爪楊枝で歯をせせっていると、それはしばしば長く商談相手の記憶に残ります。



13.ナイフとフォーク

たいていは皿の右横に2本のナイフ、左横に2本のフォークがあります。時には皿の右または向こう側にスプーンがあります。皿のずっと向こう側にはティースプーンか、小さなナイフとフォークがあります。ずっと左側には小皿と小さなナイフ(バターナイフ)があります。右側の遠めの場所にはたいていいくつかのグラスがあります。左側にはコース料理が進行するうちにたいていサラダの皿が置かれます。

ここにはひとつのおおまかな規則があります。(皿の左右にある)ナイフとフォークはコース料理の進行につれて外側から内側へと使ってゆく、という規則です。食べること自体にも基本的な決まりがあります。フォークを口へ運ぶのであり、口をフォークに近づけて食べてはいけない、という決まりです。

左側の遠めの場所に置かれた小皿の横に小さなナイフがありますが、これはもっぱらパンにバターなどを塗るために使います。ここにはすでに最初の大きな落とし穴が待ち伏せています! でもそれについては別項で詳しく記しましょう。

ナイフとフォークの置き方で、食事を終えたのか、それともまだ食べたいのかをウェイターに伝えます。ナイフとフォークの先を皿の上で交差させて置くと、まだ食べるという合図です。刃を内側へ向けたナイフとフォークを並行に皿の上の右手前の部分に置くと、食事を終えたという合図です。皿を時計に見立ててナイフとフォークを6時35分の位置に置くと、美味しかったという合図です。

ところで、ナイフの刃を内側へ向けるのには理由があります。ナイフを持つ時に指を切ってしまう危険を回避することができます。飲み物をひと口飲むなど、食事中にナイフとフォークを一時的に置きたい時は、そのまま皿の上へ置きます。つまりフォークは左に、ナイフは右に、でもテーブルに触れない形で皿の上へ置きます。昔は、ナイフとフォークの先を皿の縁に載せるのが普通でした。でもそれはナイフとフォークに付いたソースが握りを伝ってテーブルクロスに流れ落ち、不快な染みを残す恐れがありました。それに食事を続けた時に、握りに流れたソースで指を汚したものでした。

ナイフとフォークについて「クニッゲ」に書かれているのはここまでです。試しにネット上に日本語で書かれているテーブルマナーの情報と比べてみると、日本語サイトのマナーに書かれていて「クニッゲ」には書かれていない事、逆に「クニッゲ」に書かれていて日本語サイトに書かれていない事があって興味深いです。ところで、これらのテーブルマナーはフランス料理のコースについてのものですね。大衆的な郷土料理レストランでもマナーの基本は同じでしょうが、店の格が下がればそれだけマナーも気楽になります。私はドイツで大衆的な店にばかり入っており、ドイツでフランス料理のコースを食べることはまずないので、この先の情報は一部省略させてもらおうと思います。



14.飲み物

「飲み物メニューとワインメニューについて」「食前酒と食後酒について」は、上記の理由により割愛します。

ワインには、きわめてたくさんの種類があります。注文した料理にどのワインがいちばん合うかと、よく悩むものです。おおまかな規則として、白ワインは淡色ソースのかかった料理、魚、淡色の肉にもっとも良く合うと言えます。赤ワインはたいてい暗色や赤いソースのかかった料理、暗色の肉、チーズ、味の濃い料理に合います。ロゼワインは上記の両方の料理で飲まれますが、傾向としては、どちらかと言えばあっさりめの料理、魚、パスタに合います。とはいえ個人の好みが最終的な決定をしますし、「例外のない規則はない」はここにも当てはまります。ひとつだけ例外を挙げておきましょう。美食家はロックフォール(訳注:代表的なブルーチーズ)と一緒に、とりわけ好んで甘口の白ワイン、ソーテルヌを飲みます。

主人が客全員のためにワインをビンで注文した場合は、彼が最初にそのワインを試します。それで問題がなければ、たいていはそれをうなずくことでウェイターに伝えます。このうなずきは、ワインの質に問題がない事だけを伝えています。つまりコルクの味がしたりせずに、適切な温度で出されており、ウェイターはこれを客たちに注いで良いという事です。ワインの味を評価するうなずきではありません。

ワインの種類に合ったグラスがあります。赤ワイン用のグラスは、どちらかといえば胴の膨らんだ、開口部が広いグラスです。これは、芳醇なブーケ(香り)が広がるようにと、赤ワインには「呼吸」をさせたいからです。赤ワインにはタンニンが含まれますが、温かさによってその中の揮発性の香り成分が発散し、赤ワインはまろやかになります。グラスの開口部が広くワインが空気に接する面が広ければ、それだけ酸素に触れやすくなります。(訳注:赤ワインのタンニンが酸素と結合して酸化すると質が変化し、ワインの味がまろやかになると考えられている。)なお、赤ワインのアロマ(香り)が完全に広がる温度は室温です。

白ワイン用のグラスは、たいていいくぶん細長く、開口部が狭くなっているのが特徴です。これによってブーケ(香り)が発散してしまわないようにし、またスパークリングワインの場合は炭酸ガスを逃がさないようにします。なお、白ワインは冷やして出さなければいけません。

シャンパンのようなスパークリングワイン用にはフルート型と呼ばれる非常に細長いグラスがあり、これは細かい泡が立ち、炭酸のフレッシュさを味わうのに適しています。ソーサー型と呼ばれる開口部の広い平たいグラスもありますが、これはすぐに気が抜けてしまうので適しません。スパークリングワインの適温は小さな泡が長時間ゆっくりと立ち昇る温度で、4.5℃から7℃です。もしも室温のスパークリングワインを抜栓すると、ビンから泡が吹き出す恐れがあります。これは中身が減るだけでなく、ビンに残ったワインもすぐに気が抜けます。ワインを1日以上冷蔵庫に置いてはいけません。コルクが冷えて抜けなくなるかもしれません。それに、コルクが乾燥して縮み始めます。(訳注:その結果空気が入ってワインの酸化が進むと言われている。)

シャンパングラスと白ワイン用グラスは脚の部分だけを持ちましょう。これは、充分に冷えた飲み物を手の温もりで温め、味を悪くしないためです。この事はとりわけシャンパンなどのスパークリングワインに当てはまります。これが温まると気の抜けた味になるだけでなく、気泡が立ち昇らなくなって見た目の楽しみも失われます。

さて今度は、アルコールを含まない飲料、ソフトドリンクについてです。まずは水について書かれています。水については、「クニッゲ」は自明のこととして書いていないけれども日本人にとっては確認しておきたい基本事項が2つあります。それは、レストランで「お冷」は出て来ず、水もジュースと同様に買うものだということと、普通は炭酸入りだということです。グラスについての記述は、相変わらず格の高いコース料理を意識しているようです。では「クニッゲ」を見てみましょう:

食卓の上にあるソフトドリンクでもっともよく見かけるものは、水です。水のグラスは常に右にずらして置かれ、ワイングラスよりも先にすぐ手に取れるようにしてあります。これは、水はまず何よりも喉の渇きを癒すためのものだからです。それにたいしてワインはむしろ味わうためのものです。料理に合ったワインは、料理の味を高めます。

次に「クニッゲ」は、ドイツでポピュラーな飲料であるアップルジュースの炭酸水割りについて書いています。なんでわざわざジュースを炭酸水で割るかというと、低カロリーになるからです。また、甘さを控えめにする意味もあります。さらに「クニッゲ」はリモナーデにも触れています。これもポピュラーな飲料です。日本語ではレモネードと訳されることが多いですが、実際にはオレンジ味とレモン味に大別され、それぞれ各社の商品がありますから、味はそれぞれ多少の違いがあります。以上のことを基礎知識として「クニッゲ」を見てみましょう:

もちろんその他にもたくさんの種類のソフトドリンクがあります。アップルジュースの炭酸水割りは、ほとんどすべての料理に合うでしょう。それはこの飲料がアイソトニック飲料で、比較的個性のない味だからです。これにたいして、非常に甘かったり、苦味があったり、酸味があったりするリモナーデを繊細な味の料理を食べながら飲むと、料理本来の味がわからなくなってしまうでしょう。もっとも、飲み物の好みは十人十色ですが。

「クニッゲ」はアップルジュースの炭酸水割りを「アイソトニック飲料」と形容していますが、この表現の正確さには疑問が残りますね。

乾杯について「クニッゲ」は次のように書いています。ドイツ語圏では、乾杯は今でも非常に好まれる慣習です。一般にまず主人が先にグラスを掲げ、客に向かって乾杯の言葉を言います。そのさいzum Wohle(訳注:最後の-eは古い語尾で、現代ではzum Wohlのほうがより一般的かもしれない)と言うか、Prositと言うか、簡単にProstと言うかは主人に任されます。グラスを突き合わせる時は、良い響きが出るように脚を持ちます。

日本語の乾杯は字義通りには「杯を乾す」なので全部飲み干すことを意味し、人によっては実際に飲み干すこともありますが、ドイツでの乾杯の言葉にはその意味が含まれず、飲み始めの言葉(そのさいしばしば個人または集団の健康等を祈念する)にすぎません。これについてはより確かな情報にするために、知り合いのドイツ人に聞いてみました。彼も同意見で、Prostやzum Wohlに飲み干す意味はなく、飲み干す意味をもつドイツ語の乾杯の言葉はないと思う、と言っています。乾杯の言葉と共に飲み干す例外がひとつあり、それはシュナップス・グラスの場合だそうです。シュナップスはアルコール度数の高い蒸留酒で、シュナップス・グラスはそれをストレートで飲むための小さなグラスです。これの場合はたいてい飲み干す、と彼は言います。

さて、飲み物編の最後にコーヒーなどの話です。エスプレッソなど、カップに注いで出される物を飲む時には、カップを持つ手の小指を立ててはいけません。また、コーヒー、エスプレッソ、トルココーヒーなどが出されるのは、すべての皿やグラスが片付けられた後です。例外として、食後酒が出されていた場合は、食後酒のグラスはコーヒー類が出された後も残されます。もしもコーヒー類が出された後もテーブルにシャンパングラスが残っていたら、そのグラスには手を付けません。



15.食べ物

昔は残さず食べるのが礼儀でしたが、現代では無理をして全部食べる必要はありません。宗教上の理由から特定の食物を食べることが許されない人もいます。また、菜食主義者は自分の信念から肉を口にしたくありません。食べたくても健康上の理由から食べてはいけない人もいます。そしてもちろん、単にその食物が嫌いだということもあります。

個人的な招待では、接待する側が食べ物を残す人の事情を理解してあげましょう。仕事上の会食で同じコース料理が全員に出された場合は、料理をこっそり残すための様々な可能性があります。たとえば食べたい物だけを食べて他は皿に残します。この方法は食べ物が容易に選り分けられる場合にお勧めです。たとえばサラダの皿の上にあるたまねぎリング、卵、じゃがいも、トマトなど。他の人からは、ただ分量が多すぎて残したかのように見えます。

上の記述については補足しなければなりません。「クニッゲ」には「接待する側が食べ物を残す人の事情を理解してあげましょう」と書いてありますが、これは「ドイツでは接待する側が理解してくれます」という意味ではありません。私の体験では、出された大量の食事を残して、日本人は普通これ位の量しか食べないんだといくら説明してもわかってもらえず、いつまでも相手が残念そうな顔をしていたことがあります。それが気の毒だったので私が無理をして頑張って平らげて辛い思いをしたら、相手は全部食べてくれたと能天気に喜んでいました。

給仕が持ってきた付け合せの大皿から客が自分の手元に取り、次の客へ大皿を手渡しで送る場合があります。その時は自分にとって不要な大皿をさっさと先へ送ってしまい、食べたい付け合せだけを手元に取ります。給仕があなたの好まない付け合せを出そうとしたら、ためらわずに辞退します。

Anstandshappen、つまり大皿から各自で料理を取るさいに、最後の1人分が儀礼上誰も手をつけずに残るのが普通だった時代はドイツにもありました(訳注:遠慮という考え方のある日本人には馴染み深い現象でしょう。日本では地方によっては「最後の1個は遠慮の塊」などという表現があるほどです)。でも今ではその必要はありません。美味しいと思えばもちろんすべて食べてしまって構いません。食べたくないと思えば皿に残します。

ところで、自分で後から皿に足した物は全部食べるべきでしょう。節度なく沢山皿に盛っておきながら食べずに残すのは、悪い印象を与えます。

前菜とスープを注文するのは1度だけです。メインコース(メインディッシュと付け合せ皿)を省こうとして前菜を2度注文するのは無作法です。だから前菜を食べて良いのは1度だけです。そうしないと、メインコースのように見えます。メインコースではまず肉/魚とソースが来て、それから野菜と他の付け合せ(ヌードル、じゃがいもなど)が続きます。

上記の点については補足したいと思います。高級なコース料理の場合は別として、大衆的な郷土料理レストランでは必ずしも前菜、スープ、メインディッシュ、デザートをすべて注文する必要はありません。それに、そんなに注文すると日本人にとって量が多すぎます。あまりお腹が空いていない時にはパン付きのスープだけで済ませることもできるでしょう。ただ、(私の想像ですが)スープだけを飲みたい時にもミネラルウォーターなどの飲み物を別に注文しないと変ではないかと思います。なぜなら、レストランでは飲み物を注文するのが当然で、スープは欧米人にとって「食べ物」だから。ところで、スープだけで済ませられるのなら前菜だけという選択肢もあるかなと思っている方、私の経験では、料理1皿の量が多いドイツでも前菜は量が少ないです。

さて、次に「クニッゲ」はパンについて書いています。

籠(一般にナプキンが掛けてある)からパンを1枚取って自分のパン皿に置き、そのパンから一口分を千切り、専用の小さなナイフでバターなどを塗り、口へ運びます。齧ってはいけません。あらかじめ一口大にしたパンをそのまま口の中へ入れます。パンにバターを塗るのはパン皿の上方で行い、パン屑が皿の外へ落ちないようにします。専用の小さなナイフはバターなどを塗るためだけに用い、切るためには使いません。
ひとつ例外があります。プンパーニッケルは千切ると多くの屑が落ちてしまうので、1枚全部にバターなどを塗り、齧って構いません。


「クニッゲ」はここでも高級なコース料理を想定しているようです。上の文章を読んだ日本人は、宿の朝食のブレートヒェンまで一口大に千切りかねません。高級レストラン以外も含めてドイツ人のパンの食べ方を解説するならば、私は他にも色々書かなければなりません。少し長文になりますが、おつきあいください。

朝食のブレートヒェンは、家庭では細かい流儀が各家庭ごとに違うようですが、宿では次のようになります。まず食卓上に必ずナイフ(バターナイフではなく、大きいナイフ)がありますから、これでブレートヒェンをハンバーガーのパンのような形に2つに切り分けます。その方法は、ブレートヒェンの横にナイフを深々と突き刺し、ノコギリのように前後に動かしながらパンを回して切ります。ナイフの突き刺し方が浅いとブレートヒェンの中心部が切れずに残り、2つに分ける時に片方の中心部が出っぱり、もう片方が窪んでしまいます。ドイツ人はそうならずにうまく2つに切ります。次に、切り分けたブレートヒェンの片方に先ほどのナイフでバターを塗ります。もしドイツ人流にしたいなら、ダイエットしていてもたっぷり塗ることです。塗るのにもコツがあり、バターをブロック状に切ってしまうと塗りにくいです。薄く板状に切るのがコツです。最後に好みのジャムを塗るか、ハム、チーズ、またはソーセージのスライスを載せます。好んで蜂蜜を塗るドイツ人もいます。これで完成。後は、齧ってください。片方を食べ終わったら、もう片方のブレートヒェンも同様にして食べます。

上の「クニッゲ」の文ではパンを1個でなく1枚と数えているので、ブレートヒェンやバゲットのイメージではありませんね。一体どんなパンを想定しているのでしょう。ライ麦小麦混合パンのスライス(黒っぽい色で、白パンほどソフトでなく、酸味がある、あれ)でしょうか。そうだとすれば、大衆食堂や家庭ではクニッゲの記述と違う食べ方があります。ライ麦小麦混合パンにバターを塗り、ハムまたはソーセージのスライスを載せて食べる時は、ナイフとフォークで切り分けて食べます。

「クニッゲ」は次に、じゃがいもの食べ方に触れています。そう言われて「ドイツ料理で有名な食材だからかな?」と思うのは普通の日本人。「ついにじゃがいもの食べ方が出たか」と思うのはドイツ通の人です。というのは、ドイツでは昔からじゃがいもをナイフで切ってはいけないと言われているからです。

昔は、じゃがいもをナイフで切ってはいけない、フォークで切り分けなければいけないと言われていました。今日ではナイフで切ることも許容されていますが、それでも多くの人が今でもじゃがいもをフォークで切り分けています。フォークで切るとじゃがいもの切り口がでこぼこになり、ソースがからみやすくなるので、美食家に好まれます。昔からのしきたりに従っていれば間違いがありません。しかしまたナイフで切ることも許されます。

じゃがいもをフォークで押し潰してマッシュポテトにするのはいけません。他の客がそれを見たり、潰している時の音(訳注:フォークが皿にぶつかる音か?)を聞いたりすると嫌な思いをします。潰そうとしたじゃがいもが滑ってテーブルクロスの上に落ちたり、他の客の所へ転がって行ったら最悪です。じゃがいものピューレ(訳注:ドイツ料理の付け合せで、加熱して潰したじゃがいもにバターを混ぜ、牛乳か生クリームで延ばしたもの)が食べたければ、料理を注文する時に聞いてみましょう。

次は食卓の塩についてです。作法をわきまえた人、とりわけ美食家は、塩の扱い方ひとつで他の人と区別されます。料理を食べてみもしないで即座に食卓の塩を取り、振りかける人は、料理人を侮辱することになります。その行為は、この料理が食べてみるまでもなく塩でもかけなければ食べられないと言っているようなものです。それにまた、もしも料理がすでに塩味の効き過ぎた物だったら、食べてみずに塩を加えると、自分で料理を食べられなくしてしまう危険があります。美食家は様々な香辛料と味わいを大事にします。多すぎる塩は、それらの繊細な味わいを駄目にしてしまいます。

料理を食べてみて、それでも塩が欲しいと思ったら、その時には塩を振りかけて構いません。レストランで行われる仕事上の会食の場合は、塩を振りかけるのは比較的問題がないとみなされています。レストランの食事では、必ずしも細かく気を配る必要はありません。お客様は王様です。そのお客様が塩を望むなら、望みが叶えられることは「店の良き作法」のひとつなのです。いっぽうプライベートな招待で食卓に塩が置いてない場合は、塩を欲しがったら接待する側の人を困らせはしまいかと、よく考えてみるべきでしょう。どうしても塩が欲しい時、如才ない人は次のようにします。まず出された料理を褒めます。それから、あとほんのちょっぴりeine kleine Prise塩が欲しいのですがと打ち明けます。