“ABU544”
スピニングリールとの蜜月
一時期、トラウトフィッシングに熱中したことがある。ほんの数グラムの小さなミノーを使うのだから、そのときのタックルは当然スピニングである。
あれは17、8年前だった。5月のあるダム湖で急斜面の駆け上がりを攻めていたら、一匹の大きなブラウントラウトが小魚を追い散らしながら、右に左にと身を翻してやってきた。ひれをぴんと広げ、ひらり、ひらりと、まるで空中戦を戦う戦闘機のようだった。日焼けしているのか、全身真っ黒。口の中だけが白くて、そ の口に吸い込まれまいと、小魚が水面をぴんぴん跳ねた。
私は慌ててラパラのオリジナル7pを投げた。胸を高鳴らせながらリトリーブすると、ブラウントラウトの白い口がラパラに襲いかかり、ロッドにカツンという手応えを伝えてきた。しかしそれっきりである。魚は二度とは現れなかった。
その後私は東京へ転勤となり、私のトラウトフィッシングは終わった。そして短かったスピニングリールとの蜜月も終わった。使ったリールはミッチェルの408、308S(308のアウトスプールタイプ)、そしてABUカーディナルC3だった。結局これらのタックルではサツキマスしか釣れずじまいだった。
トラウトへの憧憬とカーディナル44
あの体験は私の心の中でずっと尾を引いている。そしていつかまた、ネイティブのブラウンかレインボーをやりたいと思っている。そのためのリールだけは用意した。A BUカーディナル44である。当時のABU日本代理店だったオリムピックがこのリールを復刻したとき、思い切って買っておいた。
しかしこのリールを買ったのは完全に失敗だった。湖や川で使う前に、性能と使い心地が知りたくて、海で使ってみた。その結果、多発するライントラブルに見舞われた。スプールへのラインの巻き形状が悪いのだろう。おまけにカップの内径に問題があるのか、いつも同じ場所がスプール底部と接触する。さらにはベイルに歪みがあって、キャスト後のリトリーブ開始時にしっかりと戻らない。がっかりした私は、所詮はコレクター向けのリールなのだと、がらくた入れに放り込んで放置し続けた。
※上記の不具合はどうやら復刻版カーディナル33と44に全般的に見られるものであり、それへの対処法を詳細に公開しているサイトがある。そのなかでもこのサイトが非常にわかりやすく、ノウハウも豊富で、もっとも信頼できる。
アンバサダーとカーディナルの運命の違い
同じABUでも、アンバサダーとカーディナルは背負った運命が違う。
アンバサダーはベイトキャスティングリールのほぼ完成された姿で生まれてきた。いまでも基本性能でアンバサダーを超えるベイトキャスティングリールは存在しないと、私は断言する。それに反論があるなら、30年間使い込んでから口にするがよい。
しかし、カーディナルは違う。スピニングリールの進歩の途上で生まれ、当時としては一流だったとしても、もはや最新の国産モデルの性能には遠く及ばない。アンバサダーに負けないぐらい頑丈に作ってあるから、30年でも40年でも使えるだろうが、ライントラブルの多発という基本性能の低さはどうしようもない。
結局、ダイワのABSがスピニングリールをライントラブルから解放した。同社は私の中ではとても企業イメージの悪い会社だが、ABSだけは認める。実は1個持っている。オフショアでのシイラのキャスティングゲームで使って、そのライントラブルのなさに舌を巻いた。最初はダイワだけは絶対に買うものかと意地を張って、フィンノールのエイハブを使ったが、どうしようもないライントラブルに悩まされ、結局ダイワのABSに買い替えたのだ。それ以来、ただの一度もライントラブルはなかった。(ただしベイル返し機構が2年で壊れた。あのガッチンというショックが自らを破壊した)。
もう一つのABUスピニング
ところで、ABUにはもうひとつ、スピニングリールのラインがあった。500シリーズと呼ばれているモデルである。あるいはクローズドフェイススピニングリールとも 呼ばれる。ベイルがなく、インナーカップのピンがラインをピックアップして巻き取る。アウターカップから顔を出しているプッシュボタンを押せば、ピンが引っ込んでラインはフリーになり、キャストできる。
このリールはスピニングリールでありながら、ベイルがないためにキャストの手返しがすこぶるよく、ライントラブルも少ないらしい。スピニングリールのより進化した形と言っていいだろう。その反面、キャスティングの飛距離が出ない、釣力が弱いという弱点もあると聞く。(左の写真は、英国の販売サイトから無断で拝借したABU506ミント中古品の写真。http://www.fishingmagic.com/)。
500シリーズは、私の知る限り、カーディナルのようには復刻されなかった。ABUらしいリールなのに残念だ。もし復刻されたなら、いつの日かトラウトに再チャレンジするためのリールは、間違いなくこいつになっていただろう。
中古で買うことも考えた。インターネットオークションで、安いものでは1万円程度からある。中古屋で現物を確認して買っても、その何倍はしないだろう。それを断念したのは主に経済的理由からである。
“ABU544”への挑戦
前置きが長くなった。ここで、結論である。
手持ちのカーディナル44を、500シリーズのようにクローズドフェイス化できないか。さいわいアンバサダーの改造に取り組む過程で、金属細工の技術を身につけることができた。いまでは思うままのパーツを作る自信がある。アウターカップ(アルミ製の水筒をぶった切ればできそう)、インナーカップ(ステンレス製のプリンの型がそっくり)、ピックアップピンの機構(オメガのクロノグラフのムーブメントのカムが参考になる)・・・。できるんじゃないか?
そうすればカーディナル44はライントラブルの多発から解放される。名付けて“ABU544”である。どのみち私がトラウトフィッシングに再チャレンジできるのは、何年も先のことである。じっくりと時間を掛けて、“ABU544”に取り組むことにしよう。
<2008年6月22日>
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