今日、お客さんの出足はゆるやか。
私もなんだか、ぽぉっとしてるので助かる。
……アキラくんと付き合い始めた。
信じられないけど、お互い、ずっと片思いをしていたのだった。
『私が彼女!』
みんなに大声で言いたい気持ちもあるけれど、
できるだけ隠しておきたい。
もちろんアキラくんのためが第一だけど、秘めた恋っていうのもいいなと。うふふ。
デレデレしないようにしなくちゃ、バレちゃうから。
「こんにちわっ!」
「あ、あかりちゃん、こんにちわ。今日は?」
「塔矢くんに久しぶりに指導碁お願いしてて〜」
ドキ!
「そ、そう。もうすぐ来ると思うけど」
心を落ち着かせる間もなく、早速、アキラくんに会うのかぁ。うう。
その時自動ドアが開いて、『彼』が入ってきた。
「こんにちわ、……市河さん」
「(ドキドキドキ)こんにちわ!ア、アキラくん」
笑顔に、いつもとは少し違う成分が含まれている気がして。
落ち着こうとすればするほど、顔が火照ってきてしまう。
正面から見据えられない。
俯く市河と、周りの存在を無視して彼女を見つめるアキラ。
あかりは不自然さを感じた。思い当たる事は。
(も、もしかして…!)
「こんにちわ、塔矢くん」
(!)
ビックリしてあかりの方を振り向く。
「あ、こ、こんにちわ」
(あ〜あ、初めて私の存在に気付いたみたい。よ〜し……)
「塔矢くん、しばらく合わない間にまた背、伸びたね!
なんか、そうしてるとすごくお似合いだな〜」
(これは、ちょっとした賭け。でも、嘘はついてないもん。
カウンター越しに向き合う二人は、とても素敵!)
「そうかな?ありがとう」
はにかみながら応えた声は、市河の大音量でかき消されて、届かなかった。
「そ、そんなことない!」
大きすぎる声のせいで、お客さんの視線も集めてしまった。
(なんとか、なんとかしなきゃ!否定しないと!どうしよう、みんな見てる。
もちろんアキラくんも!)
「ア、アキラくんは……む、息子みたいなものなの!!」
……静寂につつまれて、のち、室内が笑いに包まれた。
「ははは、それは言いすぎだろう」
「息子はないよな〜」
「目の中に入れても、痛くないんだろ〜」
あかりは周りと同様に笑いながらも、違和感を拭えなかった。
(なんか、隠してる?でも、この分だとじきにわかるかもっ♪)
市河の動揺はすさまじいものであったから。
* * *
今日。もともと藤崎さんと約束していたけど、それがなくても碁会所には来ていたと思う。
市河さんに逢うのが楽しみでしょうがなかった。
……たとえ、息子呼ばわりされたとしても。
好きな人に言われる言葉としては、かなりショックなものであった。
自分にすらわかるほどの、彼女の動揺ぶり。
(やっぱり、隠し通せそうにないな……)