異世界

あ〜あ、憂欝。
原因はわかってるの。うちの碁会所でも定期購読してる、級位者向け囲碁雑誌。
アキラくんの記事で……。
あ〜あ、見たくないけど、そのページをつい、見てしまう。
(美男美女……か)
今年プロに合格した、奈瀬明日美さんとの対談。もちろん対局付きだ。
進藤くんの友達らしいし、悪い子の訳がない。
嫉妬、かな?
アキラくんは取材を受けただけ、私は『彼女』でもなんでもないのに!
若いから?
今まで、アキラくんが同世代の女の子と…って無かったし。(あかりちゃんは例外!)
美しいから?
プロ棋士じゃなくてもモデルとか、他にいくらでも華やかな仕事で、やっていけそうなほど。
飾り気のない話しぶりに、好感さえ覚える。
(いけない!もう時間だわ…、この記事見て
溜息ついてたら、何言われるかわかんない)

    *   *   *

雑誌を閉じたけど、一歩遅かったみたい。
「こんにちわ」
「こんにちわ…」
「いっちゃん、それ今月号?」
「え、ええ、まあ……」
「アキラ先生、気になるんだろ?」
「え、そんなことないですよ……」

「またまたぁ!中島さん、やめときなよ」
横から助け舟が出される。
(ほっ。広瀬さーん、ありがと)
心の中で感謝する。

「いっちゃんはね、わかってるんだよ。アキラ先生たちとは、住む世界が違うって」
(うん、その通りなんだから)

何?この静けさ。私の顔を凝視する二人。

「い、いっちゃん…、悪い事言っちゃったなぁ」
(……?)

あ、私、泣いている。

ここで、涙なんて見せたことないのに。
いかつい客が来た時だって。
“彼”に別れを告げられた時は……泣き止んでからここに戻ったっけ。
「あ、ごめんなさい。なんかアキラくんが遠い存在に思えちゃって。
泣くこと無いのにね〜!」
……重い空気。
「アキラくんには言わないでよ、二人とも!
大切な若先生に心配かけさせないわよね?」
茶化して言うしかないではないか。
「あ、ま、まあ、ね。平瀬さん、奥で打とうや……」
二人を、定位置より奥に行かせてしまった。
(中島さん、ありがとう)
そう、そうなのだ。
一番気付きたくなかった。
知らないフリをしていた。
アキラくんの態度が、変わらないのをいいことに。
事実として判るのと、感情として受けとめるのは、違うのだ。
涙なんて、久しぶりに流したな。
あの二人にしか、見られていないのは幸いだった。
口外されることはないだろう。

なによりも、アキラくんがここにいなくて……
ほんと、良かった。

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