あなたなしでも

今まで、ずっと心の支えになってくれてた、ヒカル。
初めて会ってから、15年位経つかな?
好きになってからずっと、ヒカルから遠く離れたことはなかった。
二人の関係?月並みだけど、恋人未満てヤツ。
告白もしていないし、言われるはずもない。
(ヒカルの性格だもの!)
でも、最近では、空気が変わってきたのを感じる。
変わらない態度の中、
大切に思ってくれているのが見え隠れする。
嬉しい。
けれど。
私、このままなのかな。ヒカル中毒で、自立できない女。
遠くない未来、彼のプロポーズを受けて、シアワセに結婚していく。
…じゃあ、私って何?
夢を追い続けるあの人と、なんと違うことか。
彼にふさわしい人間になりたい。

ただの花嫁修業ではなく、やりたいことを探している時に、決めたのだ。

大阪へ。
あのひと無しで、やってみようって。
お飾りなんて御免だわ。
ふさわしい人間に、なってみせる。


     *     *     *


あかりは大切なヤツで、ほかのオンナとは違う。
いつからその事に気付いただろうか。あいつはずっとそばにいて、
これからもそれは続くだろう。続くに決まってる。
そう思っていた。その言葉を聞くまでは。
帰り道、ごく自然に切り出された。

「……え?」

「だから……、関西に進学することにしたの」

「……なんでだよ?」

「……自立、したくて」

「なんだよ、それ。自立って?」


「ヒカルから、離れたいの」


凍りついた、彼。

中学の時も一時期、こんな瞳をしてたっけ……。

誤解、された?

「ち、違うよ!!ヒカルと一生会わないとかじゃなくって、その」

(なによ、好きともなんとも言わない癖に!!)

「じゃあ、何?」

「いっつも、ヒカルに寄り掛かってたから、私」

「へ?そんなことあったっけ?」

あなたは知らないだろうけど。
会えないときも、すぐそばにヒカルの存在を感じられた。
隣に住んでるんだもん。
なんて、こんな事言ったら、告白そのものじゃない!
どうしよう。

「相談もなしでか……、いいよ、好きにしろよ」

ちょうど、家の前に着いていた。

「ごめんね……、じゃあ」

ヒカルの顔を見たら泣きそうで、そのまま逃げ込んだ。
結局、涙は出て来て、止められなかった。

何日も悩んで、迷って。結局ぶっつけ本番。
その結果が、これ。
最悪だ、私。

彼から離れるのも、涙を流すのも、勝手なのだ。
そう、思った。


     *     *     *


気まずい別れから、2週間経っていた。
ほんの少し調子の悪そうな記事を見て、責任を感じていた。

うぬぼれが、過ぎるわね。

携帯が鳴った。
彼からだった。

『…もしもし』
「ヒカル……?、」
『明日、暇?』
「え!?」
『都合、悪いか』
「ううん、だいじょぶ……」
『じゃ、駅に1時な』

いつも通り。必要最低限のことを伝えて、電話は切れた。

何?どういうこと?
ヒカルから誘われるなんて…。

なによりも、会えるのが嬉しかった。

ただそれだけ。


     *     *     *



「ねぇ、どこいくの?」

「いいからついてこいよ」

彼は、普段と変わらぬ声で、態度で、答えただけだった。

(?)

着いたのは、携帯電話ショップ。
店内はまあまあ混んでいる。

「…おととい、水に落としたんだよ!決めんのめんどくせーから、
あかりと同じのでいいや。どれだっけ?」

「これ、だけど…」

ひとつ前の機種を指差した。

「サンキュー」

(ちょっと、そんなことのために、呼び出したわけ?もう!)

会えて嬉しかったし、ヒカルの性格はわかってるけど…。
少しでも、会いたいって思ってくれたのかな?
そんな風には全然見えないけど。
いつもと変わらない日常、この時間が貴重に思えた。

(ヒカルといると、楽しいな)

もうすぐ、遠く離れることになる。


     *    *     *


こんな時は、彼を知る友人にグチるに限る。


「…でね、携帯機種変して、お茶して終わり。ヒドいと思わない?
ま、楽しかったんだけど〜」

『……』

「久美子、聞いてる?」

『良かったじゃない』

「え?なんで?」

『あかりと同じ機種なら、テレビ電話できるし!』


(あ……)


『前に言ってたよね、
ヒカルに頼んだけど、機種変してくれなかった!、
って』

「…うん、言った……」

あの時は、まだ使える!って、断られたっけ。

『もしかして、自分で携帯壊したかも、な〜んて、進藤くんじゃ有り得ないか〜』


「久美子、私、ちょっと行って来る!じゃあね!」


『え、あかり?もしもし?』
電話は切られていた。


     *     *     *


ヒカル。
今まで、私のために自分を変えるなんて、一回も無かった。
故障が偶然でも、それでも。

テレビ電話なんて、彼には必要ない。

電話とメールだけで足りる。そういう人なのだ。
どんな物でもいいなら、あの機種を選ぶ必要も無かった。
あかりを連れて行く必要もなかった。

言葉がなくても、それ以上のものをもらってた。

会いたいから、誘った。

顔が見たいから、テレビ電話を買った。


(メッセージ、受け取ったよ、ヒカル。ありがとう)

彼の家を見上げ、携帯を手にした。


     *     *     *


RRR…

『もしもし、』

「ヒカル?私、あかり」

『番号見りゃわかるぜ、…んで?』

「今へーき?」

『おう』

「あのね、大阪から、……電話、してもいい?テレビ電話」

『え?』

「おんなじ機種にしたからできるの!これ、前にも言った…」

『…じゃ、してこいよ……』

「……」

『……ガンバれよ、あかり』

「うん」

『……』

「ガンバれって、ヒカルに言われるの、2回目だ……」

『何回も言ってんだろ!』

「え〜っ、ホント?」

『昔、運動会でさぁ、おまえ、ドンクサいんだもんな〜』

「それは、ちがう〜!」

『違うって、何が?』

「そ、それは〜、……内緒」

それは、私の心の中だけの事。

3年前と今の、“ガンバれ”は特別だから。


     *     *     *


ケータイを壊したのは、和谷さんだった。

『電話買う時、ついでに呼び出せ』だって。

そうでもしなきゃ、行動起さないから、だそう。

ヒカルの性格、わかってるなぁ。

でも、

『テレビ電話にしろなんて言ってねーけどな』

って言われた時のあなたの顔。


たぶん、ずっと覚えてるわ。



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