ブラウン氏、及びフルアタック刑事に捧ぐ
大陸指第一七七六号(昭和19年1月7日)
「南方軍総司令官ハ『ビルマ』防衛ノ為適時当面ノ敵ヲ撃破シテ『イムパール』
附近東北部印度ノ要域ヲ占領確保スルコトヲ得」
朝方の大雨は、いつの間にか小降りになっていた。ついたてを挟んだ向こうからは、しばしば嬌声が聞こえてくる。聞き覚えがある単語に、テーブルを囲んだ面々は時折気を取られた。
後で聞いたところでは、棍棒シナリオだったそうである。そもそも「棍棒シナリオ」なる概念は、全国どこを捜しても、数カ所しか分布していない。知らない人はいないと思うが一応説明しておくと、今を去ること7年ほど前になろうか、スマダというGMが確立したジャンルのことで、「街を歩いていると、君たちは後頭部を棍棒で殴られて意識を失った。気が付くと・・・」で始まるシナリオのことである。
キーパー(「クトゥルフの呼び声」ではGMをこのように呼ぶ)は、シナリオの中身を思いだしながら含み笑いをした。棍棒文化圏・・・か。
さて、あまり世間では知られていないが、セッションが行われた5月3日は憲法記念日であった。どうして5月3日が憲法記念日かと言うと、これもさほど知られていないが、現行憲法が公布されたのが11月3日だからであった。施行期間が6ヶ月あったので、自動的に5月3日が憲法記念日になったのである。
また、それと同じくらい知られていないことがだが、11月3日、すなわち文化の日は、その昔は明治節と言った。明治天皇のお誕生日だったのである。
ちなみに、このシナリオはインパール作戦に題材を求めてはいるが、話の内容はインパール作戦そのものとほとんど関係がないことを予めお断りする。また、登場人物に一部実在の人名を借りているが、その人格は事実的裏付けを欠いた全くの想像によるものである。
「時間を節約するために」と断って、キーパーはルールのおさらいと登場人物の簡単な設定を配った。ある程度PCの設定ができていることは、GMに何らかの準備があることを意味している。「隊長」の役回りがたらい回しにされたが、いつ見ても心温まる美しい光景である。
それから、紹介が遅れたが、テーブルを囲んでいるメンツは、ミマサス、KW、DK、どん、シャリアールの各氏であった。シュラ氏は風邪をひいたとやらで遅刻していた。
イワノフ「何か分からんことがあったら、どうぞ」
KW「人類学って、どうやって使うんだっけ?」
イワノフ「(ぱらぱら)ここを見てくれ。それから、誰か100式機関短銃を使えるようにしておいた方がいい。自動火器の技能を取るべし」
DK「この恩賜の軍刀というのと、ただの軍刀はどう違うんだて?」
イワノフ「それはだな、ちょっと口では説明しにくいんだが、要するに、「恩賜の軍刀の切れ味を見よ!」と叫ぶと、ダメージが1ポイント上がるわけ」
一同(笑)
シャリアール「なんか、すんげー怪しい記者になったな」
イワノフ「いいよいいよ。みんなインチキな連中だから。ところで本職の坊主はどうなった?・・・オカルトと目星は、こんなにいらんぜ。それよりも、チベット語読み書きを取っとかんと・・・」
ミマサス「そういや、そんな設定があったな」
イワノフ「よし、遊び人もできた。化け物が出ても、こいつはオーストラリアに住むコアラと言う生き物だと言って、馬鹿でかくて汚い棍棒でぶん殴る(笑)」
シャリアール「なんでINT下げてPOW上げんのー(笑)」
しばらくして、数値データの設定も完了した。
タコ入道とは彼のためにある言葉である。チベット探検で知られる河口慧海教授の弟子で、チベット仏教史が専門。大正大学を辞職して、東亜研究所からの推薦で(別系統の)ビルマの仏教の調査に派遣された。占領政策のための調査だったが、まったく手をつけないで、昭南島で華僑から買った古い経典の解読に勤しんでいる。
45歳。興亜専門学校(亜細亜大学の前身)の先生で、人類学を専攻しているが、ほとんど関係ないことを教えている。満鉄調査部時代に知り合った大陸浪人にそそのかされ、太平洋協会の調査にかこつけて内地からやってきた。博識ではあるが、いささか血の気が多い山師肌の先生である。
当時でいえば色は黒いが南洋じゃ美人といったところの、踊りが上手なソンナム老人の娘。瀬方隊長に憧れている。
25歳の帝国陸軍歩兵少尉。容貌魁偉な大男だが、人柄は親切で偉ぶるところがなく、部下にも慕われている。メイミョーの第15軍司令部付きだったが、たまたまビルマ語ができる(片言ではあるが)ことから宣撫を任され、そのまま日ノ出村の守備隊長になった。ソンナム老人と懇意で村人の受けも良い。
日ノ出村に住んでいる現地の老人。言葉に堪能で、インド軍捕虜がたくさん出たときには頼まれて臨時の通訳をしたこともある。瀬方隊長と懇意。
大陸浪人。奉天特務機関の下請けをした際に、親しくなった関東軍参謀からビルマで計画されている「ウ号作戦」の存在を聞きつけ、一山当てようと知り合いの岡田先生を引っ張り込んで現地に乗り込んできた。表向きは壮士気取りで「ダライ・ラマと交渉して敵軍の背後をつく」とホラを吹いている。ちなみに張覇とは中国名である。
みんながそう呼んでいるが、日本人らしい。無口で多くを語らないが、部隊では鬼軍曹として怖がられている第一分隊長。第二師団にいた頃は腕力も体力も自慢だったが、蘭印から回った餓島でへろへろになって東京急行の帰り船で内地に帰還、若い瀬方少尉の補佐役に転出してきた、ということぐらいしか彼については分かっていない。
30歳の従軍記者。大東亜共栄圏の「モデル村」というので日ノ出村に取材に来たが、現地が結構気に入って居着いている。彼の目論見は考古学上の発見にあった。アンコール・ワットやボロブドゥールの例に洩れず、ビルマといえば密林、密林といえば古代遺跡という腹づもりである。下の名前を聞かれると激怒するらしい。
帝国陸軍中将、第15軍司令官。英領印度のインパールを攻略して蒋介石を干上がらせようという遠大な作戦を計画した。橋本中佐は彼の参謀である。
爆竜軍曹の部下。
イワノフ「で、ちょっと複雑なんだが、今作ったキャラじゃなくて、君たちはPKOでコヒマにいる。前説を読んでくれ」
どん「なるほど」
DK「それで、部隊の規模は?」
イワノフ「んー、施設部隊がメインだからな。全部で中隊かせいぜい大隊規模、数百人ってとこだろう」
どん「装備は?」
イワノフ「重火器はオッケー。ただ、90式戦車は、ちょっと国内で問題になって、もって来れなかった」
1999年11月、今となってはどちらが先か定かではないが、ここでは人民解放軍が北インドに突如侵攻したということになっている。
中国・インドの境界は、古くは第一次大戦前から問題含みで、戦後もインド、中国、パキスタンの間でもめていたのだった。
今回は、チベット独立を目論む武装勢力の拠点がカシミールにあって、インドがそいつらを支援しているというのが中国側の言い分である(むろんインド側は否定した)。
中・印国境紛争はヒマラヤの東側にも飛び火した。先年、バングラディシュで(温暖化のためか最近ありがたくない名物になっている)大洪水が発生し、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立も絡んでブラマプトラ川流域は政情不安に陥っていたが、東インドのアッサム州でいたましい事件が起こった。インド軍が、イスラム教徒を大量に殺したのである。
インド側の言い分では、いわゆる外患誘致、すなわちイスラム教徒が中国と結託して武装蜂起を謀ったとのことであったが、本当かどうかは分からない。
しかしこれを見て黙っちゃいないのが(喧嘩を買いたがっていた)パキスタンやバングラディシュで、国境地帯はしっちゃかめっちゃかになってしまった。
そして数年が経ち、国連平和維持活動の一環として、自衛隊が現地に送り込まれた。
コヒマは、ナガランドという州の都で、ミャンマーとの国境からほど近い東部インドの街である。民族的には、「ナガ族」という連中が住んでいる。また、宗教的にもヒンズー教が盛んな他の地域と異なってキリスト教徒が多く、それは地雷が埋まっていることを意味していた。
先の大戦中にも、コヒマを守備していたストップフォード少将(第33軍団長)は、第14軍司令官よりナガ族の向背に関して警告を受けているし、戦後には独立運動が発生してアッサム州から分離した経緯もある。
インド東部から東南アジア、中国南部にかけては、民族分布がぐちゃぐちゃで筆者にもさっぱり分からないのであるが、どうやらナガ族はチベット−ビルマ系の人々であるらしい。ナガ族の別の一派は、カチン、ミキール、クキ・チンといったやはりチベット−ビルマ系の諸族、そしてもちろんビルマ人に囲まれてビルマ奥地にも住んでいる。
いささか脱線したが、自衛隊のPKO部隊は、このコヒマに駐屯していた。一緒にいるのがドイツ軍とあって、出発前は国内でも随分と騒がれたものだが、ここのところは国境線は元のところに戻り、散発的なテロぐらいしか発生していない。
いつもの面々は、ヨタ話にも退屈して、街に繰り出した。何だかんだで知り合った連中である。何が楽しいのか、こんなところに遊びに来た金満坊主は、及び儲け話を捜してやってきた一旗組のビジネスマンは、いずれも共通の知り合いである。その彼らを軸として、新PKO等協力法によって動員された人類学専攻の大学院生、取材に来た闇売新聞記者、それから陸上自衛隊普通科の三尉と三曹である。
人垣があった。覗いてみると、バラモン僧が空中に直立したロープによじ登っているところで、彼らは目を疑った。僧は、ロープのてっぺんで座禅を組み、身じろぎもしない。命綱も何らかの支えも、見物人たちは見つけることができなかった。
やがて僧が命じると、ロープはとぐろを巻いて降りてきた。喝采が上がる。今度は、托鉢壺の中に五色の砂を撒いたかと思うと、呪文を唱えた。すると芽が出て葉が出て花が咲く。腕を一振りすると、元の砂に戻った。
「へぇ。これがインド人もびっくりってやつか」
「びっくりするのが好きなんかねぇ」
インド人に対して失礼な三曹と記者の感想の一方で、院生と坊主は、たった今目の当たりにしたできごとについて、単なる人寄せの奇術か真の法力かと意見を戦わせた。
ふと気づくと、ビジネスマンが消えている。彼は他の連中には「遊び人」と見なされていて、単独行動が多いのである。
「しょうがないな」
「行こうぜ」
ビジネスマンのことは諦めて歩きかけると、突然、坊主が立ち止まった。慌ててポケットを探り、手提げ鞄の中身をぶちまける。お金やパスポートが入った財布が、いつのまにかなくなっていた。
それからしばらく、彼らはかけずり回ったが、偶然にも遊び人がスリの少年を捕らえていた。街頭でぶつかった拍子に、見覚えがある財布を見つけたという寸法である。少年は、バラモン僧の妖術の見物人の中にまぎれこんでいたらしい。
「当然これは、謝礼をもらわんとな。D30を振って決めようぜ」
「おい、話がうますぎる。ひょっとして、お前・・・」
先程までうなだれていた少年はどこかに逃げ去っていた。
インドは、軍隊の近代装備といった新しい面と、身分や貧富の差といった古い面を併せ持っている。けれどもそうした彼らも、けんめいに暮らしている。
まだ明るいうちに彼らは帰途についた。花売りの少女に会ったのは、その途中のことである。
「ニポンの兵隊さん、ようおいでやす。お花をいかがどす?」
PKO部隊に金を落とさせようとする現地人は珍しくないが、京都の言葉に驚いた。坊主が取り戻したお金で花を買って、嫌味たっぷりに遊び人にプレゼントする。
しばらく考えていた三尉が、少女に尋ねた。痩せてはいるが、日本でいえば小学校五年生ぐらいだろうか。日焼けした肌に、よく動くつぶらな瞳が可愛らしい。
「日本語は誰に習ったの?」
え?と問い返されて、三尉はゆっくりと繰り返した。どうやら、売り文句以外はちゃんと教わっていないらしい。しばらくやりとりするうちに、少女は孤児で、拾ってもらったおじいさんのために花売りをやっていることが分かった。おじいさんは多少の蓄えがあったが、目が見えなくなったために困っているという。
ぜひ日本のお話を聞かせてください。おじいさんも喜ぶと思いますとかいったことを言われると、三尉は断りきれなくなって、おじいさんに会ってみることにした。
もの好きな連中も、「おい、あんたの隊長ああいう趣味なのか」「いや、先のこと考えてんだろ」「なかなか値がつくかもしれんな」と勝手なことを言いながら後からついていく。
案内されたところは、瓦礫を利用した掘建小屋だった。一行が入るとはみだしそうな狭い片隅に、100歳を越えるかという老人がボロをかぶって横たわっていた。娘の呼びかけにこたえて起き上がったが、てんで見当違いな方を向いている。どうやら、本当に失明しているようだった。
「おお、皇軍が助けに来てくれたか。東はどっちじゃ?」
少女が訳も分からずに手を取って東を指し示すと、老人は突然土下座した。坊主が記者を肘でつついてささやく。
「おい、何をやってんだ?」
「宮城を遥拝してるんですよ、たぶん」
あばら屋と言うにもあまりに貧弱な家に招き入れられて座ると、老人は軍隊言葉でソンナムと名乗り、隊長の名前などを聞き返してきた。三尉という自衛隊の階級が通じず、少尉と言い直すまで老人は納得しなかった。
老人が軍隊口調混じりで、しかしくどくどしく、故郷のマンダレー近くで−仏僧としてあちこち回っていろんな言葉を覚えておりましたので−通訳として現地徴用され、31師に従ってここまで参りましたとか、蜂の巣陣地で散々な目に遭い、佐藤師団長−実に立派なお方でした−が抗命撤退したそうです。自分は流れ弾に当たって気を失ったところをインド軍に助けられましたが、脱走して潜伏しておりますとか、しゃべった。
怪訝な表情だった一同も、戦況はどうなっておりますかとの問いに、ようやく納得した。爺さんはぼけているんだ(あるいはぼけたふりで同情を惹こうとしているかは判断の分かれるところだったが)。
一旦は終戦を説明したものの、老人は「お言葉ですがそんなはずはありません。ついこの前も中共軍が攻めてきたではありませんか」と納得しない。「いつもの病気で、ごめんなさい」といった素振りの少女を見て、三尉は老人を怒らせないように小康状態と言い表した。
まあ、鉄砲を撃ったり道路を作ったりするだけでなく、お年寄りの話し相手でも、国際貢献と言えないこともない。そう自分を納得させていると、老人は哀れっぽくハナをすすりあげながら、少女に命じて古ぼけた小箱を持ってこさせた。
「みせていただけませんか?」
「はぁ?」
「み・せ・て・く・だ・さ・い」
「申し訳ありませんが、耳が遠くなってしまって・・・」
古いオルゴールのようだが、興味をひかれた院生が覗こうとしても老人はしっかりと腕でかかえこんだままである。どうやら本当に古そうなことぐらいしか分からなかった。
「お世話になった隊長殿が、自分の娘のためにラングーンで買ってきてくださったものです。日ノ出村に残した娘はグルカ兵に殺され、自分も長くありません。厚かましく存じますが、なにとぞ隊長殿にお渡し願えませんでしょうか」
一同は、ひそひそと相談し、ともかく一応受け取ることにした。「隊長殿」が代表して返事をする。
「分かりました。では、お預かりいたします。ところで、その隊長さんですが・・・」
爺さんは、心から嬉しそうに顔をくしゃくしゃにした。これで肩の荷が下りましたとのことであった。受け取るために差し出した手を無視して(見えないんだからしょうがないが)、爺さんはオルゴールを巻いて、勝手にしゃべり始めた。流れ出した音楽は、李香蘭の「夜来香」であった。
「日ノ出村」はマンダレーから車を飛ばして半日ほど、シャン高原のはずれの山間の集落で、かつての援蒋ルート(いわゆる「ビルマ・ルート」)に位置していた。現在は、怒江方面で(兵力にして7倍ほどの蒋介石軍と)戦っている第56師団に対する補給路である。
集落は密林に囲まれ、少し裏手の山に入ると焼き畑があった。
村人はビルマ語を話し、信心深く、親切であった。村の各所にナットという万物に宿る精霊を祀る祠があり、ここにも果物などが備えられている。昼下がりの暑気の中、祠から熟れた果物のムッとする香りが漂い、時折密林の中から鳥の声などが聞こえてくる。
守備隊は、第15軍司令部付きの一個歩兵小隊で、小隊長の名前を取って瀬方小隊と呼ばれている。
内地からやってきたばかり(クワイ河マーチでおなじみの泰緬鉄道は、昭和18年の12月25日開通、従って隊長は海路でやってきた)の瀬方少尉が小隊長で、指揮班が4名、爆竜軍曹が指揮する第一分隊を含め、4個小銃分隊は三八式歩兵銃装備であった。このほか分隊ごとに、軽機が1、100式機関短銃が1丁、あとは手榴弾各2、軍刀を装備している。またこれに加えて、迫撃砲分隊(ただし99式小迫撃砲はなくなったまま補給がなく、現在は擲弾筒を持っている)が1個という編成であった。
瀬方小隊は、小さなお寺を借り上げて本部にしていた。
蒋介石軍は、怒江(下流はサルウィン河と呼ばれる)の恵通橋近辺で、わが第56師団(松山祐三中将)とにらみ合い。また要地ミイトキーナ北方のフーコン峡谷近辺では第18師団(田中新一中将)が重慶軍第38師団と小競り合いをしていたが、大規模な攻勢ではない。時おりガソリンや弾薬を輸送する車が通ることがあるが、要するに、ここのところ日ノ出村守備隊は、戦闘とは縁がなかった。
が、その代わりに分隊ごとに2〜3名ほども、マラリアに罹患していた。重症者をマンダレーの病院にトラックで送り出し、軽症者のために「バグノン」というキニーネの注射薬を取り寄せつつあった。
少尉殿は「いつものところ」に出掛けているので、人見記者と牛心(自ら「坊主」と呼ばせていた)は、爆竜軍曹の熱帯苦労話を聞いていた。
部下が高熱でのたうち回っているのは気になったものの、軍曹にとっては、日ノ出村の衛生状況はお世辞抜きで天国のようだった。
餓島はマラリア、デング熱、アメーバ赤痢といった熱帯性疫病の百貨店で、杖なしで立てる者は海兵隊陣地に斬り込んで食糧を強奪し、杖ありで立てる者は木の根をしゃぶったり椰子の実を銃剣でほじくったりしていた。自力で立てない者は死体といっしょに水と汚物の溜まった小屋などに放置された。どうしようもなかったのだ。
自身も幽鬼のようになって帰還した爆竜軍曹の話は十分に暑気払いになった。と、外でトラックが止まる音がした。マンダレーに出した木村兵長と森上等兵のトラックであった。
復命によると、マンダレーは満員で、川向こうのサガインまで回されたという。
爆竜「それにしては時間がかかったな。何をしていたのか、説明してもらおうか?」
木村「ええ、そのとにかく大変だったのです。マンダレーはとろいもので、歌なんか歌っとりました。竪琴弾いとるのもいて、おい森、なんちゅったか?」
森「水島上等兵じゃ。これが巧いんだわ」
云々。明らかに二人は道草を喰っていた。それを誤魔化そうと必死である。
爆竜「それで、何をしていた?」
下っ端二人が顔を見合わせていると、ステッキを持って髭を生やした男が入ってきた。
岡田「おじゃまします。岡田鉄心と申しますが、太平洋協会の調査で参りました。ラングーンで、さてどこへ行ったものかと思って立ち往生していたところを、ご親切な二人に拾っていただいたのです。それから、この男は・・・」
入り口でもじもじしていた大男がひっぱりだされた。日本人離れした体躯で、腰からは馬鹿でかくて汚い棍棒をぶらさげている。本人は愛想良く笑ったつもりだったが、ちょっと怖い。
誰が見ても、「なんだこいつは」と思うのは必定で、岡田先生が先手を打った感じだった。
張覇「俺はチャンパー。船乗りだったが、船が沈んじまって、今じゃ、陸に上がったカッパみたいなもんだ」
爆竜「なんだと?」
岡田「いえ、彼は、その、想像でものを語ることがあるのです。歴とした日本男児ですよ。ちょっと蒙古に長かったものですから、蛮地に染まってしまったと申しますか・・・」
まあいいと言った爆竜軍曹の目は、なぜ蒙古に船乗りがと、なおも胡乱げな色を讃えていた。下っ端兵隊が彼らの宿所を用意するために駆け出していった。
木村「それから軍曹殿、メイミョーで補充兵を拾って来ました。確かに補充までずいぶんかかりましたね」
爆竜「それで、お前達は、ラングーンで、何をやっていた?」
たるんだコンビは、ついに失敗を悟り、降参した。小隊のみんなに買ってきましたと言いながら、自分たちのために買い込んできた食糧や雑誌などを差し出す。爆竜軍曹は、ふふんと鼻を鳴らして、その場は不問にした。別のところで分からせてやればいい。
爆竜「隊長まで伝令!偉い先生と馬鹿でかくて汚い棍棒を持った男が内地より来訪」
中田上等兵は笑い転げながら、「馬鹿でかくて汚い棍棒」を強調して復唱し、飛び出して行った。
その頃、瀬方隊長は日ノ出村はずれのソンナムという老人の家にいた。隊長の下手な唄にあわせて、老人の娘が踊っている。彼女はココといって、歳の頃は17、8であろうか。
それをソンナム老人がニコニコと見ている。
彼は、若い頃に仏僧の修行をしていて、ヒマラヤの方にも足を伸ばしたこともある。あちこちの言語に通じていることから、インド人の捕虜を得た時には隊長の紹介でメイミョーで臨時の通訳をやったこともある。
宣撫工作とは、占領地の住民が御目なことをしないためにする仕事だが、ビルマでは多少、重要な意味があった。すなわち、中国の蒋介石軍が米英から援助物資を受け取る輸送路を封鎖しなくてはならなかったのである。
これらのルートは援蒋ルートと呼ばれていたが、当初は仏領印度支那経由であった。ところが、昭和15年から翌年にかけて日本軍が仏印に進駐したため、これは使用不可能となった。また、タイを経由するルートも外交的に解消されたため、次の補給路としてビルマ経由のルートに白羽の矢が立ったのであった。
この時期のビルマ・ルートは、「ふりだし」のマンダレーからラシオを通り、龍陵から大理、そして昆明で「あがり」となる。昭和12年頃から始まった工事は、それはそれは御目なもので、中国側から苦力50万人、ビルマ側から現地人労働者30万人が参加し、10万人が犠牲になったという。ともかくこの上を2トントラックが1400台ほどいったり来たりしていたのだが、マンダレー攻略によって一応物流をストップすることができたのであった。
日ノ出村は、この重要な道の上にあったので、敵軍が忍び込んで現地住民にろくでもないことを吹き込んでいったりするかもしれない。住民が敵に回ることは、56師の補給路が遮断されることを意味する(どのみち輸送するものがないから関係ないという話も自嘲的にささやかれていたが)。
そこで、住民を味方につけておくための宣撫は、特に重要だったのである。
イラワジ大三角州付近では敵のスパイの暗躍が噂されていたが、日ノ出村の住民、とりわけソンナムという老人は日本軍に対して友好的であった。すなわち、瀬方隊長の宣撫工作は少なくとも彼については成功していることになる。
踊っていたココが奥へ引っ込んだ間に、ソンナムが隊長に小さな声で呟くように言った。
いわく、ラマ教には、黄帽派と赤帽派がありますが、赤帽派が旧派で、ダライ・ラマら主流は黄帽派です。黄帽派の教えによれば、妻帯は禁止されています。
どうしてラマ教の話になるのか合点がいかなかったが、続きを聞いて隊長は分かった。
ココは、チベットの高僧が過ちを犯してできた子で、親しくなったソンナムが引き取ったのだという。
ソンナム「私は、生まれた子供には罪はないと思いました。青海の蒙古語、ココノールの近くでしたから、ココという名前にしました。」
瀬方「偉い坊さんがねぇ・・・」
そこへ、−どう鬼なのかは定かではないが−「伝令の鬼」こと中田上等兵がやってきた。本部に来客があった、内地の偉い先生で、馬鹿でかくて汚い棍棒を持った男がついているという。
瀬方隊長は、ソンナムに挨拶して本部に戻った。
その晩は、ひさしぶりにご馳走になった(木村と森はしゅんとしていた)。
不良二人がラングーンで買ってきた品物にはオルゴールが入っていて、昨年に出て人気を博した満映のスター(ちなみに社長は、関東大震災でお騒がせの甘粕元憲兵大尉である)李香蘭の「夜来香」の旋律が流れると、戦地に無聊を持て余していた兵隊たちは大喜びだった。
また、「バグノン」は無茶苦茶効き、重症(になっていた)の連中もかなり軽快したので隊長らは愁眉を開いた。
その夜遅く。既に時計の針は翌日を指していた。虫の鳴き声に混じって、どこからともなくテケリ・リ、テケリ・リと笛のような音が聞こえてくる。
日ノ出村のはずれで、草むらをがさごそという音が這いずり回っていた。闇に黒い影が立つ。どこぞに稼ぎのタネはないかと棍棒をぶらさげて村の各所を徘徊していた張覇であった。
と、夜闇を引き裂いて、小銃の発射音や身も凍るような恐怖の絶叫が彼の鼓膜を叩いた。小さな集落の東側、張覇がうろついているあたりからちょうど反対側だった。
5連発。三八式歩兵銃の発射音である。
すわこそ、と張覇は駆け出し密林のはずれの現場に到着した。血溜まりの中に兵隊がうつぶせになって倒れている。
たしか、今日ラングーンから一緒に来た補充兵で、加藤といった。
慌てて引き起こし、脈を確かめようとして張覇は目を丸くした。腹部に、丸くて黒い大きな穴がぽっかりと開いている。大砲の弾や鋭利な刃物でも、ちょっとつけられそうにない傷跡だった。手当てしようと腹部を押さえてみて、気がついた。
おぞましいことに、内臓は丸ごと抜き取られていた。
一方、本部の一室では、牛心が一心に経典を読んでいた。昭南島(旧シンガポール)をぶらついていて、華僑の古物商から買い取ったものである。何か特別な処理がされた古い椰子の葉に、チベット文字が書かれている。ちょっと読み進めただけで当初の目的とは違った内容であることは分かったが、ところどころソンナム老人の助けを得てページを繰るうちに、いつしか彼は書物に魅入られていた。
読んでいた内容が内容だけに、耳をつんざく悲鳴が聞こえて彼はぎょっとした。が、しばらくして、泊まらせてもらっている寺に駆け込んでくる足音がした。
土間に出ていくと、隊長が中田一等兵を助け起こしているところだった。坊主とほぼ同時に岡田先生も現れ、やがて軍曹もやってきた。
隊長に叱咤された中田は、「象の顔をした化け物が・・・矢玉が効きません!加藤がやられました。ちゅるちゅると音が・・・」などと、意味をなさないことを口走って、そのままうんともすんとも言わなくなった。部屋の隅でぶるぶる震えている。
瀬方隊長は直ちに総員起床と戦闘準備を命じたが何事も起こらず、爆竜軍曹の助言で1個分隊を残して現場に赴いた。
加藤は既に死んでいた。脇には、手を地に染めた大陸浪人が茫然と立ちすくんでいる。
隊長は死体を見るのは初めてではなかったものの、一瞬の動揺を隠せなかった。彼が見てきたのは弾に当たったり刀で斬られた死体である。内臓を抜かれた死体は彼の想像を超えており、またそれだからこそ想像力を悪い方向へ刺激してやまなかった。
隊長の軍刀を掴んだ手が震えているのを見て取った軍曹が、張覇に尋問を行った。
爆竜「おい、どういうことだ?」
張覇「俺じゃない・・・」
爆竜「しらばっくれるな!お前は最初から目をつけていた」
張覇「棍棒が貫通するか!」
爆竜「なるほど、その手があったか。お前の力ならあるいは・・・な」
村をうろちょろしていて悲鳴を聞いたという張覇の言い訳は、墓穴を掘ったようなものだった。どうしてこの夜更けにうろちょろしているのか?という軍曹の問いに、彼はうまい説明をすることができない。
岡田先生の弁護も効を奏せず、張覇は見張りつきで軟禁された。
1時間ほどたってから、平静に戻った中田や他の連中の証言を集めた一同は、首をひねっていた。
爆竜「それにしても、わざわざはらわたを抜くというのが分からんな。食べ物は豊富なはずだが」
牛心「純粋に腹の足しにするということは考えられんわな」
人見記者は、ふとニューギニアでは死んだ捕虜を食べているという噂を思い出したが、今回の話とは関係がないと思ったので口に出さなかった。
岡田「呪術的な意味があるかもしれませんな。例えば偉い人が内臓の病気だとか」
中田の次に相手を見た兵隊によると、相手は中田よりちょっと小柄で、確かに頭部には象のような鼻がついていたし、ちょっと小さいが耳もあったそうである。ところが、その兵隊は密林の奥へ去っていく後ろ姿しか見ていなかったことが分かり、言われて見れば暗かったから、象のお面をかぶっていたのかもしれないと言った。
笛のような音は、複数の者が聞いていたが、加藤を殺した奴との関係は明らかではなく、また張覇への疑いも解けなかった。
少なくとも、ゴルカ兵(ネパールに住むグルカ族。イギリスの味方)は揃いも揃って草色の服に曲がった刀を持っているから、たぶん違うだろうとということが分かった。
なお、隊長が寺のお坊さん、村長、ソンナムを集めて類似の事件がなかったか尋ねたところ、お坊さんはナットの仕業に違いないと断言し、迷信深い村長も心配な様子を見せた。
その一方でソンナムは、昔ここから山に数キロ入ったところで、背の低い言葉の通じない土人たちに会ったと教えてくれた。こういった連中が人喰いとか首狩りとかをやるという話はビルマのあちこちで伝えられていて、慌てて逃げてきたそうである。
岡田「言葉が通じない土人ですか・・・」
岡田先生は、ソンナムに、そいつらの姿格好や体格などを事細かに尋ねて、おごそかに蘊蓄を垂れた。
岡田「わが協会に寄せられた最新の人類学研究によりますと(髭をしごく)、印度支那には石器時代より、インドネシア族に連なる一派が広く分布しておりました。彼らが南方起源か北方起源かについては学界でも論争が絶えぬところですが、ともかくカンボヂャのアンコール・ワットなどといったものは、彼らの末裔が建てたものですな。(咳払い)それ以後、大きく分けて、印度支那には都合4度ほど、雲南ないし西蔵より民族の侵入がありました。細かく申し上げれば専門的になりますが、今で言う安南族、タイ族、ビルマ族といった手合いですな。もっとも、通行不如意な山の奥地には、当初より住んでおったインドネシアに見られるような原住民の古俗が残っておる。ご老人のお話を聞く限り、どうもそのようですな」
岡田先生のお話は、馥郁たる学問の香気を漂わせていたが、そういう土人がいてもおかしくないだろうということしか分からなかったので、先生には不本意ながら、みんな聞き流して忘れてしまった。
村人の動揺を防ぐのがよいとするソンナムの助言もあって、下手人は象のお面をかぶった敵兵ということに一応なり、朝一番で加藤の遺骸をメイミョーの軍司令部に運んで詳しく死因を調べてもらうことになった。
翌朝早く。
爆竜「木村ぁ、森ぃ!」
下っ端二人は、言いつけられた歩哨が終わったばかりでふらふらになって、ようやく寝付いたところだった。叩き起こされた二人だったが、昨日のこともあって、戦々恐々、軍曹の前に顔を出した。
爆竜「今から、メイミョーに行く。森は運転、木村は荷台で棺桶を押さえておけ。ん?なんだその顔は?」
眠気覚ましと称して森の頭をポンポン叩きながら爆竜軍曹と霊柩車がメイミョーに到着したのは昼過ぎだった。
ちょうどお偉方が車で来た客人を出迎えるところで、見ていると、金髪碧眼ののっぽの男が二人車から降りてきて、片方はナチス式、片方は陸軍式の敬礼でお偉方に挨拶し、司令部に招き入れられた。
で、下士官ごときがお偉方に会えるわけもなく、軍曹は下っ端の横田という中尉に昨夜の変事を報告した。また現場にいた怪しい男を捕らえて厳しく取り調べ中である旨を告げると横田中尉は更に上に行ってしまったので、軍曹は司令部付きの従卒と茶飲み話などをしていた。
外から鶏の鳴き声やそれを追いかける現地人のバタバタといった足音が聞こえて、のんびりしたものである。現地人は歩哨に怒鳴られて何やら謝っている風だったが、ビルマ語が分からない軍曹には意味がわからなかった。
従卒との話題は、このところ何か変わったことはなかったかとか、戦況はどうなっているかといったこと、それからさっき見た金髪連中のことだった。お偉方は牟田口中将と参謀の橋本中佐、来たのはドイツ人で山下中将の紹介らしいそうである。
やがて、噂の橋本中佐がやってきた。橋本中佐は蒋軍の間諜の仕業に違いないと決めつけていて、よく報告してくれた、軍曹は帝国軍人の鑑だと褒めちぎった。
橋本「なにか困ったことがあったらまた来るがいい。ところで、わが軍はインパール方面にて一大攻勢、「ウ号作戦」を準備中でな。去る7日、大本営からも許可が出ている」
爆竜「はあ。」
橋本「そこで補給が大変なのだが、大本営は渋チンで、ロクに輜重部隊を送ってこない。だが、天才の牟田口閣下は考えた」
爆竜「はあ」
橋本「まず大前提として、20日以内にインパールを攻略する。そして補給は徴発した牛や羊を連れていく。これが敵に洩れると非常にまずい。現地人の中にも英印軍に通じた者がうじゃうじゃいるし、見えざる敵を撃てと内地でも言っているし、防諜には引き続き注意してくれ」
先程の鶏の鳴き声が門の外から聞こえたが、軍曹は特に何も考えなかった。彼がもう少し注意深かったら、敵に洩れると非常にまずい秘策、「ジンギスカン作戦」の秘密を知った現地人がほくそ笑みながら出ていくのに気づいたかもしれなかったのだが。
「おい、俺はどうなったんだてー」
ビジネスマンの言葉で気がつくと、盲目の老人は、オルゴールの蓋を大事そうに閉めたところだった。開け放した戸口から西日が差し込んでいる。
「ん?まあ、大陸浪人崩れだってことは言わんどくわ。蒋介石のスパイだってことになれば、それが一番手っ取り早いんだがな」
これは三曹。
「後は、なるようになるんじゃないでしょうか」
記者がケイオスな笑みを浮かべ、ビジネスマンは勘弁してくれぇといった表情だった。
しばらく間があって、彼らは我に返った。ここはコヒマで、今は2003年である。
「長くなって申し訳ありませんが、死ぬまでにどうしてもこれだけは申し上げておかなくてはなりません。続きはまたお越しになった時にでも。年寄りのくだらない話につきあっていただき、お礼の申しようもございません」
不思議な話だった。爺さんの話を聞いていたというよりも、自分が話の中の世界を上から見ていたような感じがする。それどころか、登場人物になりきっていた者もいた。けれども、何の話だったのか、思いだそうとすればするほど、記憶は曖昧になっていった。
その夜、三尉はうなされていた。彼の部下が密林のはずれに倒れている。手当てをしようと助け起こすと、腹部に丸くて黒い大きな穴がぽっかりと開いていた。大砲の弾や鋭利な刃物でも、ちょっとつけられそうにない傷跡だった。かなわずながら腹部を押さえてみて、気がついた。
内臓は、丸ごと抜き取られていた。
「加藤!」
叫んで飛び起きたが、室内には何も変わった様子は見られなかった。
かすかに残った記憶の断片を手掛かりに、彼らは調査を始めた。
幸いにして、ズタズタになった通信網もPKO部隊の尽力で復旧し、インターネットという代物を利用することができる。
腐った検索エンジンが、腐ったものをひっかけてきた。
昭和18年11月の「大東亜会議」を受けて、チャンドラ・ボース率いる自由インド仮政府支援のためと称して、日本軍はイギリス領インドのインパールを攻略しようとした。
作戦を立てたのは第15軍の牟田口廉也中将(彼はあちこちでボロクソに言われている)だったが、作戦は最初から運に見放されていたらしく、1943年6月にラングーンで行われた兵棋研究の帰途、参加師団の参謀長らが乗った飛行機が墜落している。
昭和19年3月、後方へのイギリス軍の空挺降下を憂慮する第5飛行師団長の田副中将の諫止を受けながら発動された同作戦は、当初こそコヒマ−インパール街道を遮断して敵軍の後方に回り込んだものの、ビルマ方面軍の河辺中将と牟田口中将が張り合って「もうやめようぜー」と言い出せなかったこと、補給計画(「ジンギスカン式補給」)の杜撰さ、ビルマの雨期(「雨将軍」と呼ばれた)を甘く見ていたこと、英印軍の堅守などによって早々に挫折し、参加した10万人のうち戦病死者3万、戦病者4万5千を出した。また牟田口中将は、部下の師団長と折り合いが悪く、次々と更迭していたが、作戦中止が決まってから後退中の兵隊を見捨てて後方に遁走したという。
『ビルマの竪琴』は、時期的には1945年以降が中心になっていて、マンダレーとおぼしき都市に駐留していた陸軍の水島上等兵なる人物を主人公にした物語である。ビルマ東部のシャン高原を敗走中に捕虜となった水島上等兵は、三角山陣地に籠もる友軍を説得しようと赴くが負傷し、人喰い土人に食べられそうになりながら脱出し、僧侶に身をやつしながら戦友が収容されているムドンの街に辿り着く。ところが、山野に横たわる骸を弔ってやらねばならぬと発心し、帰還が決まった戦友の呼びかけを断って、ビルマに止まることを決意する、そういう物語である(以上大要)。
コヒマは、ナガランドという州の都で、ミャンマーとの国境からほど近い東部インドの街である。宗教的にもヒンズー教が盛んな他の地域と異なってキリスト教徒が多い。ナガランドには「ナガ族」が住んでおり、戦後に独立運動があってアッサム州から分離した。
ナガ族はチベット−ビルマ系の人々であるらしい。ナガ族の別の一派は、カチン、ミキール、クキ・チンといったやはりチベット−ビルマ系の諸族、そしてもちろんビルマ人に囲まれてビルマ奥地にも住んでいる。
ナガ族には、「兄妹始祖型人類起源神話」が伝わっている。すなわち、ガマガエルが災厄の予言をなし、その兄妹だけがそれを真に受けて言われた通り高地に避難したところ、果たして大洪水が起こって人類は滅亡した。その妹が産んだ瓢箪を、兄が真っ二つに割ると、中からナガの諸部族が現れたとのことである。
さらに胡散臭くなるが、イギリスの軍人でチャーチワードという人が、「ムー大陸」からビルマを経てインドに渡ったとされる「ナアカルの粘土板」(古代ナガ族の文字、すなわちナアカル文字で書かれていた)を読んだところ、今から1万2千年から1万5千年ほど前に太平洋上で栄えていた「ムー帝国」なるものが一夜にして洪水で滅亡したそうである。で、エジプトやナガやマヤなどは、そのムー帝国の植民地の一つで、旧約聖書も石板と原典を同じくするとのお話である(以上大要)。
「ウ号作戦って、何だっけ?」
ビジネスマンが、検索していた院生に唐突に尋ねた。院生は何やら考え込んでいたところだったが、脇の三尉が驚いて尋ね返す。
「インパール作戦のことだろ。それよりも、どうしてお前がそんなこと知ってるんだ?」
「いや、そのちょっと」
「まあいいや。それよりも、オルゴールの隊長さんって誰なんだろう。調べられないか?」
院生は首を振った。さすがに、そこまでは調べ方が分からないらしい。
「今調べてみますけど・・・あれ?」
「検索しています」という表示が出たまま、画面は止まった。
三尉と三曹がキャンプの放送を聞いてきたところでは、通信設備に対してテロがあったらしかった。
「やれやれ。ところで、爺さんに続きを聞きに行くか?」
「まあ、やることもないし」
「俺は街をうろつく」
「またか」
「遊び人が、勝手にしろ」
出発間際、その筋に詳しい記者が、ふと呟いた。
「どのみち御目の御業が働いとるような気が・・・」
さて、誘いを断ったビジネスマンは、儲け話を漁りに出掛けた。大陸浪人がどうなっているかは気になるが、爺さんの昔話に付き合っているよりも大事なことがある。
情報収集の基本は酒場だと思った彼は、裏路地に入り、そして・・・後頭部を棍棒で殴られて意識を失った。気が付くと・・・
遊び人は暫くほかっておいて、老人に会いに行った連中である。少女は出掛けていて留守だった。
「また来ていただけるとは・・・ご迷惑でなければよいのですが」
「どのみち暇ですから気になさることはありませんよ」
「何ですと!」
「いえ、基地司令官が是非伺ってこいとおっしゃったものですから」
「左様でありますか?」
爺さんは疑わしげだったが、すぐに機嫌を直してオルゴールのネジを巻き始めた。「夜来香」の旋律が流れる。
気づくと、周囲には土人の骸が大量に転がっていた。土人たちはほとんど裸で、体中いたるところに傷跡をつけて模様を描き、入れ墨を彫っていた。手首や足首には鉄の輪をはめている。吹き矢、槍、蛮刀、棍棒などといった彼らの武器がそこかしこに散乱していた。
木村「わが方の損害は3人、いずれも軽微な負傷であります。畏れ多くも(直立不動)天皇陛下の軍隊が、かような未開の土人に遅れをとるなどありえぬことではありますが」
森「土人の毒が心配です。衛生兵を呼びましょう」
瀬方「ああ、そうか。それはよかった。衛生兵も呼んでくれ」
瀬方は、乳飲み子を抱いた母親らしき骸に目を止めた。母親は銃剣による刺傷で既に死んでいるが、子供は生きている。
瀬方「それから、この子も手当てしてやってくれ」
木村「なぜ、でありますか」
森「おい・・・」
木村「確かに隊長殿が武士の情けをかけられたいお気持ちは自分にも分かります。ですが、こいつは人喰い土人です。いずれ育てば、人喰い土人となり、皇軍に害をなすのであります」
ここしばらく自分は何を考えていたのだろう。怪訝な表情の木村と森には、改めて指示を出したが、どうもぼんやりしている。
目を閉じると、蜂の巣のような英軍陣地に突撃して撃たれる自分の姿が目に焼き付いて離れなかった。また、木村兵長の言い草は、どういうわけかいちいち気に障った。見回すと、牛心も同じような表情をしている。
岡田「ううむ、ネグリトー族のようだな」
人見「何ですか、先生。そのネグリトー族というのは?」
岡田「ああ、記者さん。よい事を聞いてくれた。わが協会に寄せられた最新の人類学研究によれば、そもそも・・・」
爆竜「要するに、こいつらは人喰い土人で、我々が成敗した。それでいい」
牟田口「何をしておるのかね。土人どもは建物の中に逃げ込んだぞ」
立ちつくしていた隊長の耳に、苛立った声が聞こえた。
瀬方「は、はいっ」
橋本「馬鹿者!貴様、それでも皇軍兵士かっ、何だその腑抜けた返事は!いいか、貴様らも閣下の言葉をよく聞いておけ」
牟田口「明治健軍以来、帝国陸軍の戦いの決着は常に歩兵がつけてきたもので、皇軍歩兵の真髄は銃剣突撃にあるのだよ。だから、いかに科学が進歩しても、最後の決着は歩兵の大和魂と肉弾で決まるのだよ。日露戦役でも、不落を謳われた旅順大要塞を・・・」
火をかけられて炎上する木の葉を葺いた家々が、焚き火の跡がある広場を囲むように建っている。その広場を見下ろす位置には山があって、山肌に抱かれるように、植物が絡みつきところどころは樹木が生えた古い石造りの建物があった。山のてっぺんには、独立したストゥーパが建っている。
橋本「逃げ込んだ土人はおよそ5、60人でありますが、装備は毒を塗った槍や蛮刀と貧弱であります。二個分隊で十分殲滅可能であります」
牟田口閣下は、こちらに数倍する土人が待ち伏せているその建物の中に突入せよと命じているようだった。しかも、兵力逐次投入の方式で。隊長は唖然とした。
瀬方「で、ですが、待ち伏せの可能性が・・・」
牟田口「打ち所が悪かったのかね?敵が何を企もうとも、歩兵操典にあるように、自己の銃剣を信頼した我が伝統の銃剣突撃が勝利を収めるのだよ。確かに、兵力の逐次投入は、やってはいけないことだよ。下手をすると、全滅してしまうからね。しかし・・・」
下っ端が白い布きれを持ってきたのを見て、隊長は嫌な予感がした。白襷。
牟田口「それも場合によるし、今回は全滅はありえないよ」
瀬方「と申しますと?」
橋本「貴様、黙って聞いておれば、閣下を愚弄するかっ!」
牟田口「まあまあ橋本君、陸士も質が落ちたものだね。確かに白人の軍隊では、部隊の人員が60分の1となった時点で、部隊は全滅となるよ。しかし、皇軍は違うよ。いくら玉砕しても、軍旗が残っている限り・・・」
軍刀を抜いた橋本中佐を押しとどめた牟田口中将は、異様に丁寧だった。が、話を聞けば聞くほど、瀬方隊長は気が遠くなり、彼の脳裡は漂白されていった。
土人の襲撃で痛手を被った日ノ出村に、驚いたことに牟田口閣下や橋本参謀らがやってきた。
牟田口閣下自らが、不埒な土人の討伐を陣頭指揮するというのである。たまたまメイミョーに来ていた柳田第15師団長は、日ノ出村まで追いかけてきてこの大変な時期にと必死になってやめさせようとしたものの、「皇軍の将校は常に陣頭指揮だよ」と言い張る牟田口閣下の意志は揺るがなかった。
メイミョーからの坂道を船をひっぱってきた下っ端兵士たちは、その場で倒れ込んでいた。無理もない。この時期、第15軍は、どういうわけか牛や羊などを集めていて、メイミョーにもそういった手合いが居ないではなかった。それなのに、わざわざ歩いてきたのだから。
偵察の結果、200人ほどが住む土人の集落は山から行くのは極めて危険かつ困難であるため、川を遡ることになったのである。
牟田口「時代は文明の機械化科学戦だよ。たしかに歩兵の一歩一歩は大事だが、船があるというのにそれを利用しないのは愚の骨頂だよ」
瀬方「大発、でありますか」
橋本「見て分からんか。これで川を遡って土人を討伐するのだ。さっさと人選を済ませろ」
かくて、土人討伐隊が編成された。ラングーンから陸送された大発の一隻には見物人、爆破班、衛生兵及び擲弾筒装備の分隊が乗り込み、もう一隻に2個小銃分隊が乗り、爆薬を積む。2個小銃分隊が守備に残ることになった。
ソンナムの案内で翌日早朝に日ノ出村を出発すると、夕方には湿地帯についた。片方の大発は何度か転覆したものの、ここまで無事に来ることができたのは奇跡に近かった。
湿地帯の向こうから太鼓の音が聞こえてくる。
見物人と擲弾筒分隊を残して上陸した小銃二個分隊は、斥候を出した。木の葉を葺いた家々が、焚き火の跡がある広場を囲むように建っている。土人たちは、ほぼ総出で広場に集まり、何かの儀式かお祭りの設営をやっていた。
その広場を見下ろす位置には山があって、山肌に抱かれるように、植物が絡みつきところどころは樹木が生えた古い石造りの建物があった。山のてっぺんには、独立したストゥーパが建っていた。
イワノフ「ちなみに、土人の腕に時計の跡はないからね。で、MP16にMPで抵抗してくれ。成功したら、まだの人はチェックよろしく」
DK、ミマサス、シャリアールが成功した。能力値の入れ替えを制限付きで認めたため、プレイヤーも心得たもので、概してPOWが高いのである。
イワノフ「じゃあね、隊長と坊主、それから記者さんは、ビビビッと電波が入ってだね、周りに転がっている骸を見て、なんというか、ひどいことをしてしまったんじゃないかと衝撃を受けた」
シャリアール「別の人から見ると・・・」
DK「なるほど」
キーパーは抵抗に失敗した面々が思ったことを描写して、シナリオを読み上げた。
イワノフ「それはそうとして、極めて乱暴な作戦が決定された。隊長以下2個分隊が陛下万歳を唱えてから突入し、捕虜を救出する。つい2ヶ月ほど前、タラワ島でアメリカ人を震え上がらせた万歳アタックだ。もし15分経って誰も出てこなかったら、部隊は勇戦敢闘の末全滅したものと認め、寺院ごと爆破するというものである」
ミマサス「かっこいぃ〜」
シャリアール「それさぁ、牟田口閣下を先頭にして突撃してみんか?」
どん「皇軍の将校は常に陣頭指揮だって・・・」
イワノフ「言うかね?(笑)」
DKは無言で首を振った。むろん、横である。
KW「それよりも、建物調べれん?さっきから・・・」
ミマサス「そうそう。考古学振っていいか?」
イワノフ「いいけど、まずそれより先にだねぇ・・・」
メイミョーに赴いた「霊柩車隊」が戻った日ノ出村では、その晩も事件が起こった。
瀬方隊長が特別の警戒を命じていたため昨夜の二の舞は避けることができ、中田上等兵が土人の吹き矢の犠牲になったものの、「ぞうさん」についての新たな情報が判明した。
化け物の耳のように見えたのは、肩から生え出た小さな悪魔めいた羽であったらしい。
爆竜「貴様が手引きしたのだろう」
張覇「ちがうって!」
先生は首と髭を捻ったが、どうも思い出せない。確か、インドネシアの土人がこのような化け物を崇めていたような記憶だが、もっと大きかった記憶である。また、フォルムもちょっと違うような気がする。ひょっとすると中央亜細亜だったかもしれない。
不安げな兵隊に尋ねられた先生がうっかりと口をすべらせたため、守備隊の内部では、(公式には否定されていたものの)あれは地元の妖怪変化に違いないとの意見が大勢を占めた。中には動揺のあまり、土人の逆恨みによる復讐だとか、上野動物園で餓死した象さんの祟りだとか吹聴する者も出る始末である。
未だにふざけた敵兵である可能性は完全に排除できないものの、警戒してもなお被害が出たことを重くみた隊長は、軍曹を通じて伝えられた橋本参謀の言葉もあって、メイミョーに急報した。
破局はメイミョーから新たな指示が出る前に訪れた。
数日後、昆明方面から来た米軍のP−40トマホーク1機が日ノ出村に機銃掃射を加え、その隙に土人数十人が奇襲をしかけてきたのである。
建物の陰から軽機で応戦していた守備隊は不意をつかれた。隊長は慌てて応戦を命じたが、既にあたりは「ロンバー」「フンババー」といった土人の吶喊と、逃げまどう村の人々の悲鳴で満ちており、本部まで踏み込まれるていたらくであった。
腹かっさばいて陛下にお詫び・・・と口走った隊長を止め、軍曹は被害状況をまとめた。
まず、守備隊の兵が機銃掃射で2名戦死し、3名が土人に殺され、1名が土人にさらわれた。それから本部の寺にいた村人のお坊さんと小僧、畑に出ていた村人が若干名行方不明になっている。
彼にとっての最大の問題は、大陸浪人を監視していた兵が、例の手口ではらわたを抜かれ、大陸浪人が居なくなっていることだった。
爆竜「これでもはや疑う余地はありません。大陸浪人が、土人と内通していたのであります」
岡田「いや、私は・・・」
爆竜「民間人は黙れ。隊長殿、直ちに追撃隊を編成すべきです」
ソンナムが、娘がさらわれたのでなんとかしちくりと言ってきた。また軍曹も、帝国陸軍の特長は特別の指示なき場合の各部隊長の独断専行であるなどといって即時の追撃を進言した。それは隊長の心境を慮ったものであったが、隊長は自分で追いかけていきたくなるのをぐっと呑み込んでメイミョーからの指示を待つことに決めた。
メイミョーからの指示待ちだった一日、さしあたり当面の問題とは何ら関係なく、坊主が読んでいたチベット語経典の解読を終了した。
読み進むうちに、そのあまりの冒涜的な内容−彼の信仰とはまったく相容れないものであった−に幾度も抛擲しようとしたものの、どういうわけか遂に果たせなかったのであった。
由来としては、チベットのなんちゃら師なる人物が紀元前後と推定される年代に中央アジア某所で見せてもらって結縄文字にして覚えてきたものをチベット語ができてから記したそうであった。
古代宗教史を研究する上で、彼は旧約聖書から胡散臭い伝承まで、一通り目を通したことがあった。しかし、この経典に書かれていたのは、それらに記された断片的で荒唐無稽な記述をつなぎ合わせる禁断の知識だった。そこには、各所に残された洪水伝説を裏付けるいくつかの記述、そこから遡って洪水が起こった原因、また太古の地球を支配していたとされる忌まわしき神々の信仰などが記してあったのである。
書に曰く、
「黄色い顔をした人間の最高の長である偉大な王、輝く顔は、黒い顔の邪悪な意図を知って悲しんだ。輝く顔は仲間の長全員のもとへ、男を乗せた空飛ぶ乗り物をつかわし、「よき掟に従う者よ、そなえよ、立ち上がれ、そして大地が水に襲われる前に逃げ出せ」と伝えさせた。嵐の国の首長たちは接近しつつあった。彼らの戦車は、陸地に近づきつつあった。」
「黒い顔の首領たちは、魔力を秘めたアグネヤストラの準備をした。彼らはアシコタルにも通じていた。いいか、もてる魔力を使うのだ。いくつもの星が、眠りについている黒い顔の国に現れた。水が沸き立ち、峡谷を覆い尽くした。黄色い顔の人間と目のよい人は、高地に住んでいたので、洪水を免れることができた」
また、翻訳の際の欠落を手当てすべく、と称して、末尾には門の創造の呪文が記してあった。読んで分からなければ、これで直接調べに行けというつもりであろう。
坊主は賢明にも、その挙は思いとどまった。
結局、彼らは1週間待たされることになった。もっとも、1月中旬は、北方のフーコン峡谷では米式装備の重慶軍(2−3個師団)が18師を攻撃してカマイン方面に南下しつつあり、また雲南省方面では重慶軍(10個師団以上)が怒江を渡河して56師を圧迫しており、インド洋に面するアキャブ方面では英印軍(2個師団)が55師に対して反撃を開始といった具合に、あちこちで火がついていて、メイミョーとしても「ぞうさん」なんぞには構っていられなかったのである。
結局構ってるじゃないかといった突っ込みは、なしよ。
イワノフ「ちょっとごちゃごちゃした説明になってごめんね。で、大陸浪人さんだけど・・・」
キーパーは、「君が気がつくと・・・」とおきまりの台詞を始めた。
張覇が気づいたのは、密林の獣道を運ばれているときであった。丸焼きになる豚のように、土人の槍に手足を縛られた状態でぶら下がっている。前後には土人が7名ほど、ちんぷんかんぷんの歌を歌いながら行進していた。
イワノフ「彼らのうち数人は松明を持っているんだが、行列の先頭には、何やら「ぞうさん」みたいなのがいて。そいつは夜目がきくらしい(笑)」
シュラ「ふりほどけん?」
STRを使った抵抗ロールによって、縄は緩んだ。しかし、隙を見誤ってふりほどいた張覇は、極めて敵対的な土人の槍と相対することになった(他の連中は怪力に驚いたのか「ウムボコウムボコ」と喚いて逃げ去った)。
イワノフ「ところで、君の装甲だが。その1、平服。その2、厚手の服または普通の皮ジャケットなんか。その3、ドイツ陸軍の冬期防寒コート。ちなみに第三は、もの凄く暑い」
シャリアール「君、ここは当然裸だと言わな!」
張覇「いや、防寒コートを(笑)」
イワノフ「ちなみに、軍人さん二人は0ポインツな。他の面々は選ぶこと」
キーパー心尽くしの2ポインツ外皮をもらい、さっきまでぶら下がっていた槍を(棍棒がわりに)振り回して張覇は孤軍奮闘する。これがまた、よく受け(掛詞)るんだ。
イワノフ「背後に気配を感じたよ」
シャリアール「振り向こうぜ!」
シュラ「いやだー」
イワノフ「「ぞうさん」は爪で攻撃するけど、追加ダメージが入って、もの凄く痛いかもしれない。これは親切で言っているのだが、受けるかね?ところで、RQでは、背面の受けはどうだっけ?」
シャリアール「マイナスたくさん%(笑)」
しかたなく正面で受けた張覇は、いやおうなしに「ぞうさん」を間近で見ることになった。だがSANロールは成功。怖くない、怖くない。お鼻が長いのね。
プレイヤーは一人を除いてみんな悔しがる。やっぱり、象のお面をかぶった敵兵だったのか?。
張覇は、予想以上の奮戦を見せていたが、何度か槍でつつかれて大けがをした。さらに、一旦は逃げ出した土人も戻りつつある。大ピンチ。
シュラ「逃げ出せん?」
イワノフ「ぞうさんか、戻ってきた土人×1をやっつければ、退路が開けるチャンスがある」
「ぞうさん」の大合唱を無視して、張覇は土人を殴り倒し、真っ暗な密林を闇雲に駆け出した。
イワノフ「おおまけにまけて、カモフラージュか登はんに成功したら逃げ切れたことにしよう。どこに出るかは分からんがね」
否応なしに突入を命じられた一同は、建物の外周を調べてみることにした。密林の中からボロボロになった大陸浪人が現れたのは、その時であった。
爆竜「こいつが内通者です!」
張覇には反論する気力も残されていなかった。丸焼きは御免、内臓を抜かれるのはもっと御免とばかりに逃げ出したものの、一瞬で道に迷ってしまった。何とか土人はまいたものの(どういうわけか追跡はなかったらしい)、数日間密林を彷徨ったあげくに、ようやく味方に合流できたと思ったのだが・・・。
軍曹の激しい言葉にも関わらず、牟田口閣下は冷静だった。
牟田口「ほう、日本語が分かるのか?もしかしたら君は、日本男児かね?」
わけもわからず、しかし助かりそうだと思って頷く張覇。
牟田口「日本男児であるならば、いずれ陛下のために死し、靖国に祀られるのは本望であろう?」
張覇「いえ・・・死ぬのはちょっと・・・」
牟田口閣下を含め、やりとりを耳にしていた全員が、アァーン?と言った。橋本中佐は軍刀を抜き放つ。
橋本「やはり敵の間諜だなっ。そこに直れっ、成敗!」
もう一度チャンスをもらって、張覇は名誉ある先鋒を志願した。
牟田口「ならば話は早い。この者を先頭に建物に突入すればよいのだ。軍曹、刀を持たせてやれ」
張覇は棍棒一筋で、刀をもらっても嬉しくないが、ここで文句を言ってもしょうがない。
突入の人的準備が整ったところで、ようやく建物の外観の調査が再開されることになった。
建物は、白っぽい石(おそらく大理石の類と観察されたが、すぐそばの山から切り出したものとは思われなかった)で建てられていた。正面に扉があり、さしわたし10m強のやや高くなった翼があり、庇を石柱が支えている。翼の壁面には、怪しげな怪物や人間の浮き彫りが施してあった。
人見記者が「ぞうさん」を捜したが、不思議なことに「ぞうさん」らしき浮き彫りは見られなかった。
少なくとも、一見したところ、この建物が神殿ないしは何らかの宗教的な意味をもつ建物であることは異論がなかった。
その上で、前提となる知識として、アンコール・ワットやボロブドゥールといった遺跡の存在がある。カンボジアの森の中にある前者は12世紀の建立で、もともとはヒンズー教の寺院だった。インドネシアのやはり森の中にある後者はは8−9世紀に、最初から仏教寺院として作られた。
いずれも、インドネシア系の連中が作ったものであるが(厳密には、アンコール・ワットはモン・クメール族というインドネシア系の一派によって作られた)、それぞれヒンズー文化の影響を受けているとされる。
岡田先生が考えるところでは、原始的な山岳信仰を表現するものであることは確かであり、また、この建物がインドネシア系の連中(すなわちこの村の土人たるネグリトー族)によって建てられたものであるとしても、モン・クメール語族の時代以降になると地方によって文化が多様化するので、少なくともそれ以前の時代の文化によるものであろうとのことだった。
また、ヒンズー文化の影響は直接には見られなかったゆえ、それが伝わる前のことか、あるいは文化的に独立した連中によって建てられたと考えられる。
その一方で坊主はシュメールの匂いがすると言った。「匂いなどという非学術的な言葉は・・・」と先生に突っ込まれた彼は、外壁の浮き彫りの意匠を指摘した。
示されて彼らが注目したのは、2体の互いによく似た化け物の浮き彫りだった。彫られている場所からして、こいつらがこの建物において崇拝されることが予想されていたものらしい。
化け物は、不定形の小山のようで、触手がいくつもあり、それでいて人間のようにも見える。形だけたとえてしまえば、肉団子からゲソが生えている図であるが、魂のない肉団子と違って、内に潜む邪悪な意志のようなものが感じられた。
坊主の解説では、片方が男であり、片方が女だそうである。そう言われて見れば、そのように見えないこともなかった。両者の間には、7枝の樹、あるいは蝋燭の意匠があった。
牛心「これらは、豊穣あるいは子孫繁栄を意味するものだ。おそらくは、それ以上の意味、すなわち、よく似たものの間の神話的な婚姻があったことを象徴したものだろう。七枝の樹の意匠は北海道でも大正年間に見つかったことがあるから、先生がおっしゃる通り必ずしもシュメールのものとは言えないが・・・。先生はそう思いませんか?」
坊主は、シュメールの影響は論証できなかったが、何かが頭の中でひっかかっていた。理屈ではともかく、先生なら同意してくれてもよさそうなものだが・・・。
ともあれ、いかなる文化が背後にあったにせよ、紀元前のものであるとの合意が先生、坊主、記者の間で形成された。許可があれば(拒否されるとは思えなかったが)、是非とも入って見てみたいということも。
論争の当事者たちは熱心に語り合っていたが、張覇は必死になって何か助かる術はないものかとあちこち覗き込み・・・山肌と建物の接合部に狭い空洞を発見した。建物よりも山が先に風化してしまったせいで、このようになったのであろう。
だとすると・・・大きなショックを与えれば、建物ごと山が崩れてしまう。張覇はこの点を大声で触れ回り、暗に作戦の中止を訴えたが、脇にいた爆竜軍曹にすごまれて黙った。
さて、瀬方隊長である。一通り調査が終わった頃、耳元で聞こえた声が彼の回想を断ち切った。ここまで日本軍を導いてきたソンナムである。
このような時に・・・と彼は改めてためらったが、隊長は続きを促した。ココのことだとは予想がついたが、どのみち突入を回避することはできない以上、できるだけのことはしてやりたい。
ソンナム「父親の高僧は細い鎖がついた宝石がはめ込まれた黄金の鍵を私に預けました。私の罪は悔やんでも悔やみきれないが、確かにこの子には罪はない。いずれ身元を知りたいと思った場合には、これを見せればいい。私は破滅するだろうが、この子のためになるならばそれも構わないと、そう言いました。ですから、どういう由緒のものかは知りませんが、ココはその鍵を肌身離さずつけていた筈です」
隊長は、記憶をたぐった。たしかに、彼女は首から細い銀の鎖をさげていた。
ソンナム「鍵は既にカッサマックスされているかもしれませんが、それを取り返してきて下さい。あの子の身元を示すものは他にありません。いずれ必要になる時が来るでしょう」
隊長は「カッサマックス」という言葉に違和感を感じたが、頼もしく頷いた。
ソンナム「鍵には、大きな紅い宝石が埋め込まれています」
ソンナムの言葉の最後の部分は、必要以上に大きかった。張覇の眼がキラリと光る。
かくして舞台は整った。
正面の扉には奥からかんぬきがかかっているようだったので、手榴弾で吹っ飛ばすことにした。爆竜軍曹は爆破班が持ってきた爆雷で開けようとしたのだが、捕虜救出を優先する隊長の判断に従った(というか、捕虜がどーでもよければ、建物ごと吹っ飛ばしてしまえばよいのだ)。
建物に入る先頭は元大陸浪人張覇。土人の槍を拾ったので、文字通り一番槍である。その後方は瀬方隊長以下、爆竜軍曹の小銃第一分隊と吉田伍長の小銃第二分隊(以上で16名ほど)が固め、兵隊たちに守られるように物好きな人見記者、岡田先生、タコ坊主の牛心が加わった。
建物の外では爆破班が爆破準備を開始していた。「あと15分で爆破します」などと報告する声が不吉に反響した。
今爆破した扉の奥には、また手前(すなわち建物の外向きに)に開く扉があった。土人は陰も形も見あたらない。
しかし扉は、誘うように薄く開いていた。松明を灯した岡田先生が覗いてみたが、石畳らしいこととある程度の広がりを持つ空間であること以外、暗くて扉の向こう側の様子はほとんど分からない。壁や柱に施されている装飾には、外壁と変わった様子はなかった。
爆竜「おい、先に進まんか!」
張覇「へいへい」
学生会館は賑やかだった。衝立の向こう−棍棒シナリオ−は、案に相違して穏やかな展開らしい。棍棒シナリオもメンツによっては、髪の毛を逆立て目を血走らせなくてもなんとかなってしまうものである。彼らは椅子の脚を使っているだろうか?
その一方で、はす向かいのテーブルではパラノイアをやっている。古き良き時代、大曽根の駄菓子屋の店先にどっちでもよさそうに置かれていたムーンクレスタは、5機=1クレジットだったが、どんくさいイワノフは、いつも同じ敵にやられていた。それと同様に、パラノイアもよいゲームであるらしい。
キーパーが回想に入っている間、プレイヤーたちは紙の上に配置を書いていた。何かあるということである。
イワノフ「床は苔むした石畳だ。周りの景色は今は余裕がないから後で説明するけど、その方が親切だろうし。で、君たちがくぐった戸口の上には、内側に張り出しがあって・・・」
ミマサス「吹き矢か?(笑)」
イワノフ「あいや。槍を持った土人が「バンジーッ!」と叫んで、先頭で入った張覇の後頭部めがけて飛び降りる。奇襲されたか、「聞き耳」で」
シュラ「よっしゃ、成功!」
イワノフ「じゃあ、石をかいて作ったらしい槍の穂先には、青いどろりとしたものが塗られていた。受けていいよ」
シャリアール「毒か。確かCONは低かったよな?(笑)」
張覇が体を捻って土人の槍を払った瞬間、左右の両脇のカーテンの陰から蛮刀を持った小柄な土人が各2名、突入してきた。瀬方隊長の三八式が火を噴いたが、土人の勢いを殺すには至らない。人見記者が入り口の扉の陰からモーゼル拳銃を撃ったが、外れて壁に当たった。
一声吠えた爆竜軍曹が、100式機関短銃で土人を薙ぎ払い、一人は倒れ、一人は重傷のショックで気絶。しかし、同時に蛮人が飛びかかって、爆竜軍曹は負傷した。
イワノフ「毒の効力値は、たったの6。ルールサマリー通りにCONで抵抗して、失敗したら追加ダメージ6点」
どん「軍人、裸なんだよなあ(笑)」
シャリアール「CONが8だから、60%」
どん「成功!」
張覇は受けに失敗したが、厚い外皮に守られて無事だった。
イワノフ「一人は・・・ボーゥズ!(笑)回避するかね、それとも受けるかね?」
ミマサス「勘弁してくれや。回避するっす」
イワノフ「ありゃ失敗。こいつら攻撃低いんだわ」
乱闘に持ち込まれた一行だったが、近接戦闘の寵児、100式機関短銃が猛威をふるい、奥に逃れた1人を除いて土人は全滅した。死んだ土人のうち1名は、爆竜軍曹によって挽肉になっていたが、まだ息がある者は後ろで身動きが取れなかった兵隊たちが銃剣で滅多突きして禍根を断った。
味方の被害は、瀬方隊長が軽傷、爆竜軍曹と張覇が負傷のため気を失ったものの、命に別状はないようである。
二人の手当てを兵隊達にまかせた瀬方隊長らは、灯りを掲げて部屋の中央に向かった。
イワノフ「ふんふん。ある程度進むと分かるんだが、6メートルぐらいだった幅が、一気に広がって15メートルは超えている。中央には・・・」
KW「うわぁ」
ちょっと反応が早すぎるきらいがあったが、みんなが「ああ始まったか」といった表情を見せた。キーパーのネチネチした記述を簡単にまとめる。
広間の中央には、黒いなめらかな石でできた祭壇があった。表で見た浮き彫りと同じものが彫られていて、近づくとぼぅっと鬼火のようなものが七枝の樹に灯った。また周囲の壁を照らすと、意味ありげに磨き上げられた人骨のボーンホワイトが闇の中に浮き上がった。人骨は不自然な格好でいくつもぶら下がっていて、おそらく喰われた犠牲者のなれの果てであろう、真新しいものもあった。
イワノフ「口で言ってしまうとたいしたことはないんだが、SANロールお願い」
KW&ミマサス「成功!」
シャリアール「失敗したぜ〜」
イワノフ「ちなみに、ついてきた4人の兵隊の1人は、腑抜けのように立ちすくんでいる。7ポイント削ってあげよう。アイデアロールよろしく(笑)」
人見記者は、突然膝を抱えてその場にうずくまった。頭を膝小僧の間に押し込んで、口の中でブツブツ呟いている。
KW「おぉ、卵寝か!」
説明しよう。卵寝とは、大分の怪人が編み出したどこででも寝ることができる方法の一つなのである。移動中は転がるので注意しよう。
逃げちゃだめだと呟きながらしっかり現実逃避している記者さんにクトゥルフ知識5%をプレゼントして、キーパーはさらに追い打ちをかけた。訳の分からぬ言葉で問いかけがあったというのである。
KW「意味は?」
イワノフ「うーん、人類学か言語学で」
KW「失敗した〜。この肝心な時に・・・」
イワノフ「インドネシア系と思われる」
岡田先生が記憶をひっかきまわしているうちに、両脇から人間大の影が重々しい足音を響かせて近づいてきた。石像である。片方は蛇頭、片方は牡牛頭であった。オカルトに成功した牛心は、キリスト教異端にこのような歪んだ天使信仰があったことに思い至った。だが、それがここにある意味、また石像があらわす神性の名前は思い出せなかった。
「ここは我々が引き受けます。隊長殿は奥へ!」
石像の相手を部下に任せて、瀬方隊長らは奥へ進んだ。再び幅が6メートルほどになっていて、広間の突き当たりは石壁である。
逃げた土人は、どこに行ったのだろう?壁を調べた岡田先生が、細い筋を見つけた。隠し扉である。銃声や爆発音を背中に聞きながら、彼らは隠された潜り戸を通過し・・・。
潜り戸の奥は、幅の狭い通路になっていた。奥にはカーテンがかかっており、その左右には扉があった。向かって右の扉は手前に不自然に膨らんでおり、おそらく扉の向こう側は崩落しているのだろう。左の扉から中国人と思しき人物が顔を出し、三人を罵ってから扉の陰に隠れた。
中国人(?)を追うように二三歩踏み出すと、中国人の腕が伸びて、紐を引っ張った。三人の背後で、鉄格子の落とし戸がガシャンと音をたて、正面のカーテンが上がりつつあった。
一方、広間ではまだ石像との戦いが続いていた。三八式歩兵銃が通じず、部下の一人が殴り倒されたことに逆上した吉田軍曹は、手榴弾を抱えて右の石像に体当たりし、自爆でこれを仕留めた。天井から石塊が落ちて大きな音をたてる。
爆竜「待て、早まるな!」
手当てによって息を吹き返した軍曹と大陸浪人が、残った石像を引き受けた。機関短銃を弾切れまで叩き込んだ軍曹は、やはりほとんど効いていないことを知り、張覇に突っ込ませた。
爆竜「お前の出番だ」
張覇「チョクアー!」
芸のないことに槍でぶんなぐった張覇の攻撃は、案外に効いていた。が、所詮装甲が違いすぎる。数撃受けとめたところで張覇の持っていた土人の槍は折れてしまったが、軍曹が後退を命じた。
爆竜「目標前方の石像、撃ち方始め!」
三八式歩兵銃の一斉射撃である。大半は弾かれたが、服部二等兵の一発が石像の首を吹き飛ばし、動きを止めた。
爆竜「服部、よくやった」
服部「爆破予定時刻まで、あと11分です」
爆竜「隊長殿に続け!」
いよいよ佳境に入ってきた。
イワノフ「閉じこめられてしまった3人の前で幕が上がって真打ち登場だ。いわゆる「ぞうさん」なんだが、絵を見てもらった方が早い」
ミマサス「できれば見たくないんすけど・・・だめ?」
イワノフ「気がついたら鼻が体に巻き付いていた、というのでよければ(笑)」
キーパーが見せた絵には、象の鼻をもった人型の怪物が描かれていた。ナマズのような弾力がある肌は黒光りして、その下の筋肉のようなものを浮き出させていた。背中から小さな羽が生えていて、それが肩の上に広がっている。
イワノフ「海坊主のような顔の二つの眼が黄色く光った。SANロールを」
DK「いっかーん」
イワノフ「7点持って行かれた。アイデアロールは?成功?じゃ、君はこいつの鼻先の大きさと加藤のおなかに開いていた穴の大きさが一致することに思い当たった。このような人外の化け物を生かしておいては必ずや国体に仇なすであろうと君は逆上する。そんなあなたにクトゥルフ知識を5%プレゼント」
DK「三八式で撃つ!00っ」
シャリアール「それは・・・」
イワノフ「ジャムった。なんつっても明治38年式だからね。これだから司馬遼太郎がブーたれてたんだ」
岡田「拳銃を同じく撃って当たり。ダメージは・・・(泣)」
岡田先生は、その後もダメージロールでピンを振り続けた。怪物は4ポインツ外皮を持っており、弾はわずかに緑色の血を流させたものの、弾力ある皮膚にめりこみ、ぽろっと落ちた。
ミマサス「あんたらの番」
イワノフ「シュグ坊は小銃と格闘している少尉をほかっておいて・・・先生を襲ったぞ。はずれ」
ミマサス「いっけーい!馬鹿でかくて汚い棍棒が命中」
イワノフ「受け失敗。あんたそんなにSTR高かったの?」
ミマサス「追加ダメージつけて11点」
イワノフ「あなどれんな(笑)」
岡田先生はまたしてもダメージでピン。小銃を諦めた瀬方少尉は恩賜の軍刀の切れ味を見よっと叫んで斬りかかったが、これも外れ。怪物は、あなどれんと判断した坊主に襲いかかった。
ミマサス「回避するわ・・・失敗」
イワノフ「じゃあ、お母さん譲りの長いお鼻が君の体に巻き付いて、先っぽが肩口に吸い付く。ちゅうと吸われてSTRを2点減らすこと」
ミマサス「STRかよ〜。これで棍棒使えんくなった」
瀬方少尉は恩賜の軍刀を当て、岡田先生も拳銃で貫通させた(ダメージはピン2)が、怪物も坊主から吸ったSTRをHPに変換したため、傷はみるみる治癒してしまった。
ミマサス「鼻にかみつく!」
イワノフ「壮絶な吸い合いだな。頭突きで判定すること」
ミマサス「いや、相手は吸って回復できるけど、こっちはしなびとるぜ。ちなみに攻撃は外れ」
イワノフ「それはよいことに気づいた。君は、自分の腕を見て愕然とする。まるで老人のように干からびて、骨と皮ばかりになっている。SANロールを(笑)」
怪物は、最後に6ポインツのSTRを吸って、坊主を解放した。
ミマサス「残り3ポインツ。ミューと言って、這って撤退」
イワノフ「吸ってももったいないと思ったもんで」
ミマサス「情けをかけたんじゃなかったんだな」
次の犠牲者は、撃ち尽くした拳銃に弾を込めていた岡田先生だった。
イワノフ「4点な」
KW「まずい。残り5点」
一方、石像を倒した軍曹らは、鉄格子の前まで来ていた。棍棒代わりの槍をなくした張覇は、吹っ飛んだ石像の腕を抱えている。奥では怪物と隊長が戦っているが、手出しができない。
稲垣「SANロールを」
どん「20%行った」
シャリアール「それは・・・(笑)」
爆竜軍曹も逆上して、持っていた軍刀で鉄格子をやたらめったら斬りつけたが、すぐに折れてしまった。
どん「サブマシンガンが弾切れでよかったな(笑)」
シュラ「他の兵隊は?力技で開けれんの?」
イワノフ「一人切れて、取り押さえられた。開けるには、STRで抵抗ロールか、ある程度ダメージを与えて破壊するかだが、前者は爆竜軍曹が暴れているので危険きわまりない。」
シュラ「手榴弾で吹っ飛ばすとか」
DK「あの、破片が背中に刺さるんすけど」
代わりの刀をもらった爆竜軍曹の斬撃で、ついに鉄格子は壊れた。石に矢の立つためしあり、断鉄の一撃である。
爆竜「おりゃー、死ねやぁ!」
張覇「石像チョップ!リティカった」
石像チョップで怪物はミンチーになった。肉片が飛び散り・・・。しばらくして落ち着いた人見記者が戻ってきた時には、片付けられていたので、大事には至らなかった。
ついに建物最奥部に達した一行は、足踏みを続けていた。中国人が消えた扉を開いたところ、部屋の中には、酋長と祭司みたいなの、それから蒋介石軍の制服を着た中国人がいた。そいつが自動小銃を撃ったので、慌てて隠れたのである。
祭司みたいなのは、呪文を唱えて床の中に吸い込まれていった。瀬方隊長が捜していた鍵は、部屋の奥に飾られている三つ又槍を持った有尾人の像の手にかかっていた。
中国人「どうした、無敵の皇軍(ここではみいくさと読む)とやらいつもの勢いはどうなった?」
瀬方「おのれぇ〜」
隊長の突撃を止めたのは、冷静な服部二等兵だった。手榴弾を投げ込んで隙を作るのはどうでしょうかと提案したのである。軍曹は、いっそのこと爆雷をと提案したが、捕虜が見えないところにいる可能性があるため、却下された。
服部二等兵の提案はそのまま採用され、張覇が投げ込んだのがいいところで爆発し、隊長らは突入した。
中国人は、手榴弾の衝撃で昏倒していた。酋長もわめきながら蛮刀をふりかざして突っ込んできたが、鉄砲にはかなわなかった。
服部「あと8分です」
戸口から死角となるところに捕虜が捕らえられていた。人数は多少減っていたが、手榴弾のすすで顔が汚れている以外は元気そうで何よりである。ところが扉は正体不明の金属でできており、開けることができなかった。
瀬方「中国人を介抱して聞いてみろ」
服部「あと6分しかありません!」
瀬方「伝令!牟田口閣下に連絡。敵の掃討は完了。爆破を中止されたし」
中国人「もうすぐウィンゲート旅団の爆撃機が来る。どのみち無駄だ」
爆竜「捕虜を解放しろ!」
日本語が分かるらしい中国人は、首を振った。「あの鍵でしか開かないが、鍵の取り方はわからん」
爆竜「この役立たずが!」
中国人は檻に投げつけられてまたしても気を失ったが、だからといってどうにもならない。
軍曹を除く面々は、槍を持った有尾人の像と格闘していた。鎖も像も、切断する試みは失敗している。彼らの努力を嘲笑うかのように、像には漢字で「全力攻撃」と刻んであった。
瀬方「どっかで見たんだよなぁ。するっと抜けた覚えなんだが・・・」
切羽詰まった事情を察した捕虜たちは口々に逃げて下さいと言ったが、彼らは粘り強く鎖をこねくり回した。
服部「メイミョーから通信。敵機を発見したそうです。こちらに向かっています!」
追い詰められた隊長の脳裡に、ふっと声が聞こえた。「手はそんなに広がってないよ」と。
瀬方隊長らは、無事に捕虜を救出して日ノ出村に帰った。建物はイギリス軍の爆撃を受け、完全に地面に陥没してしまった。どうやら地下に空洞があったらしく、人見記者は悔しがった。
中国人の捕虜を尋問した結果、次の事情が判明した。
まず中国人は、扇動工作のためやってきた土人の集落で、チベットに通じるおそろしく長い地下道の存在を聞きつけ、酋長に取り入って利用を打診していたが、よい返事がもらえぬ間に日本軍が来たので、どうせ敵に利用されるならばと爆撃を要請したそうであった。
次に、土人たちは「チョー=チョー人」という邪悪な連中で、シャン高原のほかにもマレーシアやインドネシアに住んでいるという。「ぞうさん」は、彼らが崇拝兼暗殺用に買っているシュグランという妖怪で、なんでも人間の体内に寄生させて育てるそうであった。
第三に、土人の集落は出張所に過ぎず、さらに奥地に行くと、遺棄された古代の都「アラオゾール」なるものがあって、その近くでもっと邪悪な「チョー=チョー人」が住んでいるそうであった。話によると、彼らは「ツァール」「ロイガー」と呼ぶ兄妹にして夫婦の神様(と説明されて、浮き彫りの正体が判明した)を信仰していて、しばしば生け贄を捧げているそうであった。
第四に、イギリスのとある結社がこの件に関心を示していて、中国の魔術結社「三合会」を通じて近々調査に来る予定だったとのことだった。
もっとも、牟田口閣下はこれらの情報を意味無しと判断してメイミョーに戻ってしまったので、土人討伐の件はこれにて立ち消えになった。
爺さんはオルゴールを閉じた。いつの間にか胸元から引っぱり出した鍵を示して、「これがその鍵であります。こちらは娘の形見にいたしますから、オルゴールはどうぞお持ちください」と言った。
言われるままに隊長はオルゴールを受け取り、話を聞いている間に帰ったらしい少女の案内で、日本軍無名戦士の墓を見舞った。苔むした墓の隣りには、手作りらしい石の墓標がたっていて、そこには瀬方少尉の名も刻んであった。
隊長の耳には、別れ際の爺さんの言葉が反響していた。
「この子は目が見えなくなる前に自分が引き取ったのですが、死んだ娘と勇敢な隊長殿のことを思い出します」
DK「なんか、よくわからん(笑)」
イワノフ「そうでしょう、そうでしょうとも。俺もわからん」
シナリオはここでひとまず終わりである。だが、プレイヤー連は、一様に狐につままれたような顔をしていたように、キーパーには思われた(最後に参考文献のリストを挙げるので、暇があったら読んでみてください。◎印は特におすすめ)。
ミマサス「結局のところ、オルゴールが「門」だったと」
イワノフ「まぁそう。ただ、普通の門だったら自我はそのまんまだろ。これでも区切りはついてるんだが、タネあかしみたいなことは軽く流そう」
墓参りを終えてキャンプに引き揚げた隊長らは狐につままれたような顔をしていた。
オルゴールは手元に残った。あとは、記録を調べて瀬方隊長の遺族に返すなり、このまま握り込んでしまえばいい。爺さんの話も、不思議だったで片付けてしまうことができる。
だが、そうは問屋がおろさなかったとみえて、すぐ近くにキャンプを設営しているドイツ人が2人、面会を求めてきた。
イワノフ「ドイツ人たちは、「ジジイは曲者だ。おれたちもやられた!」と喚く。まあ英語あたりで通じたことにしよう」
DK「どういうこと?」
彼らを乗せた車は東プロイセンの陰鬱な森に入っていった。狼のねぐら、総統が最近お気に入りの場所である。
「DAK(ドイツ・アフリカ軍団)が降伏したそうですね」
後部座席に座った男の片方が、隣りに座るSS中佐になまりのあるドイツ語で話しかけた。ギュンター・ハルメル軍曹。オーストリアのチロル地方の出身で父親がイタリア人だったが、今はドイツ陸軍の山岳兵である。
母方のいとこが北アフリカで名誉の戦死を遂げたのが効いたのか、奇跡的に休暇が取れた彼は、陽光降り注ぐアドリア海を思い浮かべて心をときめかせていた。いや、考えてみれば、避暑地も悪くないな・・・。それが、どこをどう間違ったか、彼は北に来てしまった。
SS中佐は、しばらくしてから「ドイツ軍は、よくやったよ」と愛想なく答えた。眼鏡を取ってつまらなそうに窓の外を見ている。フリードリッヒ・フォン・シャフハウゼン博士。かつてはベルリン大学で考古学の教鞭を取っていたこともある。現在は、アーネンエルベ(祖先継承者協会)の下部組織、スウェン・ヘディン協会に所属している。
ハルメル「中佐殿、我々の用向きをご存知ですか?」
シャフハウゼン「君の、の間違いだろう。私は自分の仕事は心得ている」
ハルメル「は・・・わ、私はどうなるんでしょうか?」
シャフハウゼン「プリンツ・アルブレヒト通りでなくてよかったと思うんだな。人種理論によれば、あんたは存在自体が罪だからな」
ハルメル軍曹は「そういうことですか」と答えたが、内心は疑問が渦巻いていた。ゲシュタポじゃなくて良かったと言われてもたいして慰めにはならない。
建物に案内されると、しばらくして豪勢な一室に案内された。出迎えたのは・・・ハインリヒ・ヒムラーであった。着席を勧めると、彼は神経質そうに室内を歩きながら話を始めた。
ヒムラー「我が軍が絶大な威力を持つ兵器を開発中だということは聞いたことがあるか」
シャフハウゼン「いいえ。聞いておりません」
ハルメル「はぁ。凄い爆弾だとか太陽砲だとか竜巻発生装置だとか空飛ぶ円盤だとかの噂は耳にタコができるほど聞かされましたよ。フォン・ブラウン博士はロケットを・・・」
ヒムラー「もういい。実は先日のことだが・・・」
ヒ総統は若い頃に地政学者にして将軍でもあるカール・ハウスホーファ博士の紹介でヴリル協会と接触を持ったこともあり、従前からオカルトの筋に関心があった。どちらかといえば総統は節操なしにいろんな胡散臭い筋をつまみ食いしていたのだが、その一つがチベットであった。
シャフハウゼン博士が加入する前のことだったが、スウェン・ヘディン協会はチベットに遠征して「知恵の大師」を捜したこともある。また、総統は身辺にチベット人の衛兵を集めたりもしていた。
その衛兵にくっついてきたチベット人のジジイが、どこをどうほっつき歩いたか、新兵器を開発中のスタッフのところにやってきて、穏やかならぬ言葉を吐いたのである。
「そんなことをやっていたのでは、アメリカ人に先を越されるに決まっている」
当然のことながら真面目な研究員氏は、そもそもどうやって警備をすり抜けたのかジジイを問いつめたが、ジジイはへらへら笑っているだけだった。激高した研究員はジジイを突き出したが、それはジジイの目論んでいたことだったらしい。
ジジイは霊妙な話術でどえらい話を吹き込み、次第に尾鰭がついて総統の耳に入ったときにはヨタ話は次のようなものになっていた。曰く、
ジジイはさらに、「アガルタの力」には現在ドイツが開発中の兵器も含まれており、それは無敵と伝えられる「ロンギヌスの槍」に他ならぬとホラを吹いた。
ヒ総統はすっかりこれに参ってしまった。
そもそも総統は、師匠筋にあたるハウスホーファーにも絶大な影響を与えたオッセンドウスキーなるロシア人が地下王国について書いた本を読んでいたし、ジジイがほのめかした「アガルタの力」は、新兵器の効果に関する予測と符合しているやに思われたし、またジジイの物語は先次のチベット探検や南米探検などによって得た資料と不思議な暗合を示していたからであった。
とどめは小道具だった。ジジイは土で作った笛を取り出し、「この笛が、総統を世界の王に導くでしょう」と言って行方をくらました。
貴重な探検資料のいくつかが紛失していることに保管責任者が気づいたのは、その暫く後であった。
シャフハウゼン「気宇壮大な話ですな。総統がおっしゃったのでなければにわかには信じがたいところですが」
ヒムラーは「ともかく総統はその気になった」と言った。苦々しげな表情で。人種政策関係でヒ総統にこの手の話を絶え間なく吹き込んでいたのは彼自身であったから。
ヒムラー「君たちは、その地底王国とやらに行き、アガルタの力を入手する」
ハルメル「ちょ、ちょっと待って下さい!」
ヒムラー「ん?」
ハルメル「いえ、その、光栄であります。ですが、なぜ私ごときに・・・」
ヒムラー「最も優秀な山岳兵は、スコルツェニーが欲しがっている。優秀な山岳兵は、どこでも不足している。そして技術劣等な山岳兵でも、他にやらせておく仕事がある」
イタリア系ドイツ人は黙ったが、シャフハウゼン博士が当然の疑問を差し挟んだ。
シャフハウゼン「どうやって行くのですか?ロシアにはチェキストどもがうようよしていて・・・」
ヒムラー「Uボートがある・・・と言いたいところだが、先日インド人を乗せて出てしまった。だが、ドイツの潜水艦だけが潜水艦なのではない」
シャフハウゼンはその意味するところを悟って暗然とした。イタリアの潜水艦に運命を委ねるだと!ハルメルもまた頭を抱えていたが、それは彼の脳裡からアドリア海が遠ざかっていったからであった。
・・・道中さまざまなことがあったが、8月末彼らはシンガポールに到着した。が、上陸許可が出なかった。迷惑なことに、イタリアでムソリーニが失脚したためである。
9月9日、イタリアの降伏に伴って潜水艦が接収されたが、なんとか自由の身になることができたのは、10月に入ってからだった。それも東京経由で説得してもらって、ようやく可能となったのである。
シャフハウゼンと面識がある頼みの綱の山下奉文中将もどっかに行って捕まらない。唯一の希望は、ある人物から聞いた第15軍司令官である。
その人物は、蘆溝橋事件当時に現場の連隊長であり、常々「蘆溝橋で第一発を撃って戦争を起こしたのはわしだから、わしが、この大東亜戦争のかたをつけねばならんと思うておる」と頼もしく語っているそうであった。また彼は、シンガポール攻略時には、北九州で編成され帝国陸軍屈指の精強師団との呼び声も高い第18師団長として山下司令官のもと大活躍し、その後苦戦中のビルマ戦線に増援として現れ、疾風の突撃でマンダレー一番乗りを果たした男である。現在は、第15軍司令官に昇格し、メイミョーにいるとのことであった。
その男こそ、誰あろう、牟田口廉也中将閣下である。
そして現状に至る。
「200万の神様がいるって、それじゃ日本はどうして負けたんだろうな」
「冗談じゃない。ジジイは、鍵と資料を使って、アガルタに行こうとしている。彼は、手に入れた力を使って「世界の王」になるつもりだ」
「もしかして、本気にしてるのか?」
「おいおい、言っちゃあ悪いが、どのみち惚けた爺さんの話の世界なんだろ?」
日本人は口々に茶化した。仮に爺さんも爺さんの話もマジで、爺さんが「世界の王」になろうとしていたのだとしても、それがうまく行っていれば今頃はPKOどころの騒ぎではなかったはずである。今時世界征服の野望など持っている奴は(いるかもしれないが)うまく行くはずないし、同じようにこれだけ手の込んだことをやるのなら、より合理的な方法がありそうなものだった。
要するに、隊長らはまるで信じていなかった。だが、ドイツ人の片割れは真剣だった。
「俺達は貴重な資料をぶんどられて、代わりに笛を押しつけられた。その笛がここにある。あんたらは、何を掴まされたんだ?」
掴まされたもの・・・と言われて、隊長はオルゴールを持ってきた。
「これだが。別に意味あることとは思えないな」
「いいからちょっと見せてくれ」
隊長は躊躇した。爺さんのヨタ話はともかくとして、ドイツ人が気味悪くなってきたのである。もう一方は完全に下っ端だが、さっきからしゃべっている方はどうも察しがよすぎる。もしかしてこいつらは悪党なのではないか、と彼は疑い始めていた(とすれば、理屈としては爺さんの話は一片の真実を含んでいたとなるのだが)。
隊長の内心のためらいを見透かしたように、ドイツ人は言った。
「常識が通じる話じゃないってことは分かるだろう?少なくとも、ジジイはただ者じゃない。それに普通の話だったら、俺達があんたらのことを知ってる訳がない。いままで当然のこととして話してたが、考えてみればおれたちで話が通じること自体おかしいとは思わないか?」
オルゴールを一時棚上げして、ドイツ人は、日本人側の物語を教えてくれと迫った。話さえ聞けば、細かな点で自分たちを信じてもらえる証拠を見せられるかもしれないと言う。
隊長が話を終えると、ドイツ人は深そうなため息をついた。
「あんたらも爺さんに騙されていたということだ」
「どこで?」
「やはり鍵だ。」
ソンナムは、鍵はココの父親である高僧から預かったと言っていた。身元を証明するといった事情であれば、また高そうな宝石がはまっていたことも考えると、そうそう同じ鍵があるとは思えない。
そうであるところ、土人(ドイツ人は、チョー=チョー人と表現した)のいた神殿には、その鍵でしか開かない扉があった。これは何を意味するのか?
第一の推論は、ソンナムが住んでいる近くに土人も住んでいたとの事情は、偶然ではなかったというものである。たまたま神殿に行ってその鍵でしか開かない扉があったとしたら確かに不自然だが、誰かが何かを意図してそうし向けたのだとしたら、理解できないこともない(誰が何を目論んでいたかという疑問は残るが)。
第二の推論は、鍵の出所に関してソンナムが嘘を言っていたというものである。ソンナムが土人と初めて出会った前後に拾った鍵だとしたら、あるいは鍵に例えば宗教的な意味があって、ある程度同じ物が製造されて配られたことがあったとしたら、たまたま行った神殿の扉がその鍵で開いたことも説明がつく(鍵の出所はどこかといった疑問は残るが)。
第三の推論は、ソンナムもココも初めから鍵を持っていなかったが、鍵の在処(すなわち神殿)は知っていて、土人の襲撃という機会を利用して手に入れようとした、というものである(何のためにという疑問は残るが)。
日本人たちは(悪く言えば)次第に丸め込まれていった。ここまで聞いてから改めてオルゴールを見せてくれと頼まれると、断りにくい。
オルゴールを開くと、「夜来香」の旋律が流れ出した。
「なるほど。シンガポールに到着したときに聞いた曲だ。なら、これは聞いたことがあるか?」
ドイツ人は先程取り出した笛を吹いた。「テケリ・リ、テケリ・リ」と聞こえる。それは「ぞうさん」が現れた日に密林の中から聞こえてきた音と酷似していた。
| ◎ | 荒俣宏『帝都物語』11巻(角川文庫) |
| 加藤正善「万骨はイラワジに枯れたり」(『丸』466号) | |
| 清野謙次『太平洋に於ける民族文化の交流』(創元社) | |
| ◎ | 児島襄『太平洋戦争(下)』(中公新書) |
| サラ・リトヴィノフ編/風間賢二訳『世界オカルト事典』(講談社) | |
| 竹山道雄『ビルマの竪琴』(新潮文庫) | |
| 帝国書院編集部編『新詳高等社会科地図四訂版』(帝国書院) | |
| ◎ | 南山宏ら『世界超古代文明の謎』(日本文芸社) |
| 林三郎『太平洋戦争陸戦概史』(岩波文庫) | |
| 毎日新聞社編『昭和史全記録』(毎日新聞社) | |
| ◎ | 棟田博『壮烈!ビルマ・インパール』(学研) |
| 山本弘『CTHULHU HANDBOOK』(HOBBY JAPAN) |