第二次大戦中には、空母に再び人名に由来した艦名がつけられるようになりました。小型の空母CVL49は、巡洋艦の船体を改装して建造されたものですが、ライト兄弟にちなんで「ライト Wright」と命名されました。ミッドウェイ級の大型空母CVB42は、1945年4月にローズヴェルト大統領が死去してすぐに、「フランクリン・D・ローズヴェルトFranklin D. Roosevelt」と名づけられました。これは当時の海軍長官ジェイムズ・フォレスタルがハリー・S・トルーマン大統領に進言したものですが、のちにフォレスタル自身の名前も、最初の「スーパーキャリアー」、「フォレスタル Forrestal(CVA59)」に与えられています。「フランクリン・D・ローズヴェルト」は、アメリカの政治家の名前がつけられたはじめての空母です。対戦中のエセックス級の正規空母「フランクリン Franklin」と「ハンコック Hancock」は、かつて海軍で戦功をあげた艦にちなんで命名されたもので、一般に思われているように政治家本人にちなんで命名されたのではありません。また、新しい方の「ラングレー Langley(CVL27)」は、大戦初期に撃沈された、我が海軍初めての空母を記念して名づけられたものです。
水陸両用戦は、長い間海軍作戦の中ではごく小さい役割しかないものとされてきましたが、第二次大戦では非常に重要な役割を担うものとなりました。そして、ヨーロッパと太平洋での大規模な上陸作戦のために、全く新しい艦艇の一族が開発されたのです。それらの上陸用艦艇の中には、「ことば」の艦名を与えられずに、ハルナンバーのみで識別されるものが多数を占めます(「LST806」や「LCI(G)580」など)。
侵攻物資輸送艦と侵攻兵員輸送艦は、それぞれ物資と部隊を上陸海岸に揚げるための上陸用舟艇を運ぶ艦ですが、これらの多くにはアメリカ国内の郡の名前がつけられています(アラマンス Alamance(AKA75))、「ヒンズデイル Hinsdale(APA120)」)。初期のAPAの中には、従来型の兵員輸送艦から改装されて、もとの名前をそのまま使っているものもあります(「レナード・ウッド Leonard Wood」、「プレジデント・ヘイズ President Hayes」)。AKAには星や星座の名前をつけたものも多数あります(「アカーナー Achernar」、「シーフュース Cepheus(ケフェウス)」)。
ドック式揚陸艦、すなわち、大きなウェル・デッキを設けて上陸用舟艇を運ぶ航洋艦ですが、これには史跡の名前がつけられています(「ガンストン・ホール Gunston Hall」、「ラッシュモア Rushmore」)。現代でもLSDは艦隊の一員であり、以前からの命名基準をそのまま使っています(「フォート・マクヘンリー Fort McHenry」、「パール・ハーバー Pearl Harbor」)。
戦争が終わると、残っていた戦車揚陸艦(LST)にはアメリカ国内の郡の名前がつけられました。例えば、それまで名なしの「LST819」だった艦は「ハンプシャー・カウンティ Hampshire County(LST819)」になっています。
第二次大戦後の技術の進歩に伴い、艦隊は、南北戦争後に体験したのを上回るほどの進化を遂げることになりました。古い艦種は艦籍簿を去り、新しい艦種が出現しました。原子力と誘導ミサイルは、その変化を一段とおし進めました。最初の原子力ミサイル巡洋艦「ロング・ビーチ Long Beach」は、伝統的な都市名をつけられた最後の巡洋艦です。その次の巡洋艦は、これも原子力ミサイル艦ですが、州の名前を与えられて「カリフォルニア California」級と「ヴァージニア Virginia」級になりました。第二次大戦以来戦艦は建造されていないので、これらの新しい艦は、言うなれば最も強力な水上艦として戦艦の後継者であると考えられたのでしょう。
原子力艦載弾道弾潜水艦は、ポラリス戦略抑止ミサイルを搭載するために建造され、1960年代前半に就役をはじめました。これらはまさに前例のない艦種でした。そこでこの艦種には特別の命名規準を与えるのが適当であると考えられました。わが初めての弾道ミサイル原潜は「ジョージ・ワシントン George Washington」と名づけられ、その他の「自由を守る41隻」の残りは、「著名なアメリカ人、あるいは自由の発展に貢献した人物の名前」にちなんで命名されています。これらの艦の中には、のちに戦略兵器削減条約(SALT)の合意に従って通常型の攻撃原潜に改装されたものもあり、それらは戦略ミサイルの搭載能力を失いましたが、艦名はもとのまま、「パトリック・ヘンリー Patrick Henry」や「イーサン・アレン Ethan Allen」といった名前を保っています。最新型の「オハイオ Ohio」級トライデントミサイル原潜は州の名前をつけられていますが、この命名基準は、ポラリス原潜の命名の際に一度候補として考えられていたものです。なお、そのうちの1隻、「ヘンリー・M・ジャクソン Henry M. Jackson」の艦名は、アメリカの国防計画を立案するのに大きな力となった議員を記念したものです。
1970年代に入っても、「リチャード・B・ラッセル Richard B. Russel」や「L・メンデル・リヴァーズ L. Mendel Rivers」のような議員の名前をつけた少数の例外を除き、攻撃型潜水艦は海の生物の名前をつけられていました。しかし、より新しい「ロサンジェルス Los Angeles」級の艦はアメリカ国内の都市名をつけられています。例外は「ハイマン・G・リッコーヴァー Hyman G. Rickover」で、これは「原子力海軍の父」と呼ばれたリッコーヴァー提督を記念して命名されたものです。新しい「シーウルフ Seawolf」級はこの類別に従わず、「シーウルフ」は「深みに住まうもの」を代表し、「コネティカット Conneticut」には州名がつき、3番艦はまだ命名されていません。
第二次大戦後の空母の名前は、「レインジャー」、「サラトガ」、「コーラル・シー Coral Sea」といった伝統的な命名法と、個人名から取った艦名が入り混じっています。個人名がついた艦のはじめは前述のように「フランクリン・D・ローズヴェルト」で、次いで「フォレスタル」、「ジョン・F・ケネディJohn F. Kennedy」と続きました。現在建造されている「ニミッツ Nimitz」級は、全て「シオドア・ローズヴェルトTheodore Roosevelt」「ジョージ・ワシントン」「ロナルド・レーガンRonald Reagan」といった個人名がつけられています。
アメリカ史上の戦場の名前は、一番新しいミサイル巡洋艦の名前として記念されています。そのはじめは「タイコンデロガ Ticonderoga」で、それに続くこのクラスの20隻は、独立戦争から第二次大戦、朝鮮戦争、ヴェトナムでの戦いをたたえて命名されています。同級の一隻、「トーマス・S・ゲイツThomas S. Gates」の艦名は、海軍長官と国務長官を歴任した政治家の名前です。
艦名につける接頭辞
艦名につける接頭辞「USS」は、「United States Ship(合衆国軍艦)」を意味し、公文書において海軍の現役艦艇を識別するのに用いられます。この接頭辞は、艦が就役するとともにつけられます。就役前・退役後には名前のみで呼ばれ、接頭辞はつきません。
海軍海輸総隊(Military Sealift Command)の、民間人が乗り組んだ船は現役艦艇とはみなされません。そういった船の扱いは「現役in commission」ではなく「在役in service」と呼ばれます。しかし、こういった船も海軍の行動についている艦船には違いなく、「USNS(United States Naval Ship、合衆国海軍艦船)」という接頭辞をつけて呼ばれます。その他の海軍の「在役」の艦船は、単にその船名か、名前のない場合はハルナンバーで呼ばれ、接頭辞はつきません。
20世紀初頭まで、海軍の艦艇につける接頭辞には、公式の報告や文書の上でさえ決まった形式がありませんでした。艦艇は、いわばでたらめに、ある時は艦種で(合衆国フリゲイト○○号)、ある時は帆装で(合衆国バーク○○号)、またある時は任務によって(合衆国旗艦○○号)呼び分けられていました。また、例えば「フリゲイト○○号」とか単に「軍艦○○号(Ship ___)」と呼ばれることもありました。「アメリカ合衆国軍艦」略して "U.S.S."という呼称法は、1790年代になって現れます。これはよく用いられましたが、19世紀後半に至るまでの間は、必ずしもというわけではありませんでした。
1907年にシオドア・ローズヴェルト大統領は大統領令を発し、これによって現在も用いられている慣例が確立することとなりました。この大統領令を以下に掲げます。
「艦艇の呼称は統一されるべきであるということに鑑み、今後合衆国海軍の軍艦及びその他の艦艇の公式呼称においては、 "United States Ship"あるいはその略称の "U.S.S."を前につけることとし、他の単語あるいは文字は用いてはならないものとする」
―――大統領令第549号、1907年1月8日
今日の海軍例則では、海軍の艦艇の類別及び扱いについて、以下のように定義しています。
1・艦船の管理のための種別の名称、及び各艦船艇……の扱いに対する呼称……については、海軍作戦本部長が責任を持つものとする。
2・現役の艦艇は"United States Ship"あるいは "U.S.S."と呼ばれるものとする。
3・海軍海輸総隊あるいは他の総隊に属する、「活動状態で、在役の(active status, in service)」と識別される、民間人乗り組みの船艇については、 "United States Naval Ship" あるいは "USNS" と呼ばれるものとする。
4・「活動状態で、在役の(active status, in service)」と識別される船艇のうち、第3項にあげたものを除く残りは、固有名があるならその名前と、船種記号、ハルナンバーで呼ばれる(例、「ハイ・ポイント High Point PCH-1」あるいは「YOGN-8」)。
―――合衆国海軍例則、1990年第0406項
諸外国の海軍の中にも、自国海軍の艦艇特有の接頭辞を持つものがあります。いちばん有名なのは、おそらくイギリス海軍で長く用いられている「HMS (His/Her Majesty's Ship、「国王/女王陛下の軍艦」) 」でしょう。古い時代には、「His Britannic Majesty's Ship (ブリテン国王陛下の軍艦)」の略として「HBMS」の形も見られます。大英帝国・英連邦諸国の海軍では、これにそれぞれの国籍を示す文字を加えて、カナダの「HMCS」、ニュージーランドの「HMNZS」、オーストラリアの「HMAS」のように用いています。サウジアラビア王国海軍も同じく「HMS」を使っています。
アルゼンチン海軍では「ARA (Armada de la Republic Argentina、「アルヘンティナ共和国艦隊」)」、フィリピン海軍では「BRP (Barka ng Republica ng Pilipinas)」を使います。帝政ドイツの海軍は「SMS (Seine Majestitäts Schiff、「皇帝陛下の軍艦」)を使いました。第二次大戦当時のドイツ海軍は接頭辞を使わなかったようですが、現代のドイツ連邦海軍は「FGS (Federal German Ship、「ドイツ連邦軍艦」)を使っています。インドとイスラエルは、どちらも「INS」を使っていますが、それぞれ「Indian Naval Ship(インド海軍軍艦)」と「Islaeri Navy Ship(イスラエル海軍軍艦)」の意味です。一方で、レバノンとチュニジアでは国籍を示す接頭辞は使っていません。