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中越山村の夏 伊達美徳
●棚田で草取り
中越の山村・法末の棚田は今、稲が盛んに葉を伸ばしつつある。5月末に田植え、6月始めに法面の草取り、7月半ばに田の草取りをした。
弱い除草剤を入れたのだが、3段の棚田のうちの上の田の南3分の1くらいの範囲には、稲の葉の下に水草が緑のじゅうたんのように生えている。
久しぶりにまた四つんばいの草取りだ。朝6時から、地下足袋を履き、長ズボン、長袖、ベトコンハット、そして防虫網をかぶって完全武装して、ずぶりと泥田に入る。
茶色の泥水がひんやりと気持ちがよい。
腰をまげたままで腕を伸ばして草取りすると、腰に負担がかかって腰痛となる。そこで手足4本全部使って、四つんばいになってしまうのだ。そしてまず右手を上げて、残り3本手脚に体重を均等にば
らまき、右手のとどく範囲の水草取りをする。抜いては丸めて泥の中に深く押し込むか、畦に投げる。次は左手で同じことをやる。 
左右が終われば次に進むのだが、これが容易ではない。
泥の中に脚が吸い込まれていて、引きあげようとしてもなかなかに抵抗が強いのである。
ヘンに力を加えるとぐらりと体勢を崩して、悪くするとしりもちをつく。そうなると、立ちあがるために手を着き、足を延ばすと、もう全身泥まみれにな
ってしまう。
そうならないように、慎重に片足を引き抜いて一歩進める。次に残りの脚を引き抜いて進め、また四つんばいの繰り返しである。
時々腰を伸ばして突っ立って、辺りを眺めていると、ウグイスとホトトギスが鳴く。
そうやって暫く立ったままでいると、足元まわりに泥がきっちりと回り込んで安定するらしく、次の一歩の引き抜きが更に容易でなくなるのであった。
それにしても毎年思うのだが、農薬の効き目はあらたかなものである。稲だけに利かないで他の水草を根絶やしにする農薬、その中で育った稲という水草から採れた米を、わたしたちはこんなに沢山に長い間に食っていても、本当に大丈夫なんだろうか。
虫除け完全武装していても、小さなブヨがどこかからはいって腕やら顔やらを咬むらしく痒くなる。泥だらけの手で不自由なしぐさで掻いていると、だんだんとシャツが泥だらけ、防虫網は泥で前が見えなくなる。そのうちにバサッとベトコンハットごと防虫網も泥田に落ちて、眼鏡も一緒に泥の中に、、、もう降参である。
●家が消える、自然に還る
法末集落から2kmほど東に下ると、若栃集落がある。ここまで小千谷駅前からバス便があるので、わたしはちょくちょくこのバス利用する。若栃と法末の間は歩くのである。
この若栃と法末は、昔の歩いている時代は、尾根道を伝ってよく行き来があった。その道を嫁入街道というように、相互に婚姻関係があったのだ。
自動車の時代になって、舗装道路ができて嫁入街道も廃れていたが、最近になって地元に人たちがまた切り開いて復活した。6月にはその道を歩いて法末から若栃まで下った。
杉木立があったりして、昔に道らしい雰囲気のところもあった。
若栃集落には、一軒だけ茅葺民家がある。堂々たるプロポーションのよい形なのだが、茅の屋根はかなり疲れてきていて、いつまでこれがあるだろうかと、通るたびに気になる。
その若栃と法末の間に芹窪集落がある。棚田と養鯉池のある小さい集落である。あちこちに、もとは家があったらしい空き地があって、集落が消えていく過程が目に見える。
なかに大きな廃屋となった民家があり、通るたびにそれがだんだんと崩壊していく様子が気になっていた。というよりも、実は興味を持って人工物が自然に還る様を見ていたという
のが正直なところである。
2009年7月10日、その廃屋が消えていた。すっかりきれいに取り払われて、跡地には草が生え、一部は畑になっていた。
ここでも人間の営為は、何世代も何十年にもわたって行なわれていただろうに、家屋がなくなるとそこになにがあったかさえも分からなくなる。
たまたまそこに廃屋があったことを知っていたわたしでさえ、あまりに自然なる風景になっていて、場所を間違えたかと思ったくらいだ。
茅葺屋根を葺く作業を去年やったが、これは将に自然の材料をたくみに使いこなして作る人工物である。
考えようによってはこれが自然に還るのは、自然の側からは当たり前のことである。
しかし、それを作った人間にとっては当たり前でないと思われていたのだが、人間が減少する時代ならば、人間にとっても当たりまえのこと
になりつつある。(090714)
参照→中越・法末四季物語
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