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ほろ苦い温泉名物幽霊屋敷街 伊達美徳
9月の末、薄暮の福島駅に降り立てば、号外、号外の声に、おお、ついにブッシュはやったかと、眉ひそめつつ受け取れば、福島民報の赤色大文字見出しが踊る。読めばなんと、やったのは長島茂雄で野球監督辞任とか。あまりの平和ぼけに腰が抜けた。
その日は、福島市郊外の飯坂温泉の宿屋に泊まった。この町のまんなかの温泉発祥地あたりにある、土蔵づくり3階建て木造旅館である。昔のままに営業していて、建物は二百年前に建てたという、登録文化財である。
おかみさんの話では、団体向けの大きなホテル型旅館は川添いに建ちならんでいるが、最近はこのような街なかの伝統的な宿屋が、グループ旅行の女性たちや家族旅行客に人気だという。
次の朝早く、街歩きにでかけた。昔からの公衆温泉場は、街の人たちの朝湯のお客たちがいる。聞けば、湯がとても熱くて都会の客は入れないというので、しかたなく敬遠した。
旧家や木造三階建て温泉宿をみながら、くだんの川沿いに行けば、ホテル旅館の高層建物群が20軒か30軒か、深い渓流の両側に軒と壁を接して、まるで堤防のようにたちならんでいる。
しかし様子がおかしい。各階の障子がボロボロのビルがある。どのビルの旅館にも人の気配がない、どれも営業の様子がない。荒れたビルのファサードには草が生えている様子もあるし、コンクリートで固めた自然のない水辺、汚れた水流。
おお、これだけそろうと迫力ある。立派な温泉名物幽霊屋敷街というテーマパークである。聞けば、数年前あるホテルが火事で閉鎖して以来、ドミノゲームのように連鎖廃業だそうである。
同じような風景を思い出した。かの有名な温泉地熱海の一等地、お宮の松のある海岸通りにそって並ぶ、一連の閉店したホテル群である。あそこも大変なもので、熱海の新名物風景と揶揄しているが、次第に集合住宅(マンション)に建て替えられつつある。これは熱海にとっていいことか悪いことか。
大衆レジャー時代を築いた大型ホテル旅館は今、どこの温泉地でも苦戦している。それは、利を一人占めしようと、大型化で情緒ある風景を壊し、客の囲い込みで街を滅ぼした結果である。
築200年の旅館の朝飯は美味しかったが、街の風景はほろ苦かった。(011010)
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