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電気自動車に税の投入は適切か−かながわEV普及推進への疑問
               2008年7月22日  伊達美徳(外部評価モニター)

1.このレポートの要旨

 電気自動車(以下「EV]という)の開発と普及のための「かながわ電気自動車普及推進協議会」(以下「協議会」という)の動きは、これまでに環境に悪影響を及ぼしてきたことも多い自動車について、産業界が政府の環境政策と連携する取り組みは良い評価と見られる。
 しかし、EV産業クラスターに環境政策として公共セクターが税投入してまで関わろうとする取り組みならば、自動車に起因する公害とエネルギー問題への対応としてのEVに限るのではなく、自動車が惹起した地域生活圏のスプロールや自然破壊等の社会的費用となっている都市問題の解決方策から検討し、脱工業化する21世紀の人口減少社会における地域社会形成を展望した上で、EVの導入の可否を含めて検討を進めるべきである。

2.EVの普及に向けての協議会の動きの概要
 神奈川県は、県内にEV関連産業や大学が集積しているので、環境保全政策のひとつとしてEV普及推進に取り組むとして、2006年9月に「神奈川県電気自動車(EV)普及構想」(市販後5年以内に県内3,000台普及)を全国の自治体に先駆けて発表した。その延長上に、同年11月に産学公からなる協議会を設置し、EV開発普及の活動をしている。
 協議会は、神奈川県内の自動車メーカー・電池メーカー、電力供給者、ユーザー企業、大学研究者に加えて、公共セクターの国・県・市が参加している。
 その目的は、「産学公の連携により、地球温暖化の防止、石油依存度の低減、都市環境の改善をはかるため、2014年度までに県内に3,000台の電気自動車を普及させること」(協議会発行パンフレット)として、EV開発技術、充電インフラ整備、普及インセンティブ策について2006年から協議をはじめている。
 EVは炭酸ガスの排出量がガソリン車の1/4(発電排出も考慮)、騒音も低減、省エネルギーとなり、家庭の電気でも充電できるので便利で、しかも電気代はガソリンよりも安いという。店舗や病院内、住宅内に乗り入れるライフスタイルも提案している。
 現段階ではEV技術開発は市場に対応できる商品として完成しておらず高価格であるため、初期需要創出のインセンティブとして公共セクターにEV率先購入や税の減免や補助金支給等による助成制度の整備を求めるとして、環境政策を進める国県市はそれに積極的に応えようとしている。(本件は、同協議会事務局の杉江氏からレクチャーをいただいた)

3.地域社会における位置づけ
 協議会メンバーは、EV開発企業等(自動車2、電池2、電力1、大学工学系研究室3)、車両ユーザー企業(損害保険、中小企業団体、レンタカー協会、NTT東)、公共セクター(環境省、県、県市長会、川崎市、横浜市)の3種に大別できる。
 これを見ると、神奈川県におけるEV関連企業による産業クラスター(M.E.ポーターによる)が形成され、国際競争力のある地域経済振興のひとつのモデルといえる。技術と市場開発に目が向きやすいこの産業クラスターに、地域社会への新たな視点があるとすれば、公共セクターの環境行政当局を加えて地域環境政策との連携である。
 成熟期に入った日本を含む先進国では自動車販売台数は停滞漸減傾向にある一方で、自動車産業は勃興するアジア諸地域で今後の大市場を期待している国際状況にある。激しい国際競争の市場展開とともに成熟した国内市場にむけて環境対応という付加価値のある新技術車で買い替え市場を狙う産業界と、地域有力企業の存続による地域再生と環境政策の展開を意図する自治体が、地域社会での産業政策と環境政策の連携として浮上している。

4.取り組みの評価
(1)取り組みの意義

 エネルギー資源の枯渇や価格高騰、排ガスによる大気汚染と温暖化問題、そして自動車がもたらした20世紀の都市構造の諸問題が明確になってきて、自動車交通に頼る生活圏の見直しも、人口減少と超高齢化する21世紀日本の地域再生の大きな課題である。
 そのようなときに、この協議会に国や自治体がいずれも産業政策部門ではなく環境政策部門として加わっていることに、その地域社会における今日的な意義を見ることができる。
 地域連携の視点からの意義は、県内の多様な産学公の団体が連携して21世紀の環境対策へと動くことで、地域の産業と生活に活力を再生することを高く評価して期待しよう。
 20世紀後半からの急激な人口増加による都市の拡大の必要性と工業化の先端を行く自動車産業の進展とがマッチして、自動車の急激な普及によって都市圏はスプロール的に拡大したが、今は人口減少時代となって都市縮退の時代に入った。
 都市再生の視点からの意義は、これらを踏まえて「都市環境の改善をはかるため」(協議会パンフ)の方策をEV関連企業側からの視点のみでなく、地域の生活者の視点からの提起も期待する。
(2)取り組みの成果と課題
 EVの開発に関しては産業クラスターとして動きはひとつの成果であるが、EVの普及による大気汚染や都市環境の改善も、その成果を見るにはまだ数十年が必要であろう。
 むしろ問題点と課題のほうが多い。大気汚染、エネルギー消費、人身事故、都市拡散による自然破壊と地域活力停滞等の都市問題は、多くを自動車に起因する社会的費用となっている。
 EVそのものは排ガスセロとしても、発電量増による排ガスと原電核廃棄物増、買換えによる古車処分、EV製造、現インフラ廃棄、新インフラ投資等による環境負荷増を見込んでも、なおEVは本当に有効なのか。
 環境問題起因者にその解決策として公共セクターが税投入できるか。
 ポスト工業化と人口減少時代に大量の自動車が必要か。
 これらのわたしの疑問に対して協議会やその他の関連資料では、納得ある回答を見出せない。

5.地域再生に向けた取り組み改善策
 産業クラスターとして、縮小する自動車市場をEV新技術によって回復を図ろうとする供給者側の事情が見える中で、行政からの税投入のインセンティブを環境政策として求めるならば、EVと環境政策が本当にマッチングするのか。
 産業側の論理だけでない都市問題までの広い視点で、その蓋然性を県民市民の理解できる説得性をもって示すべきである。
 産業クラスターに行政の環境政策が関わる動きならば、民と公の境界にある「新しい公」のあり方として、「新アジェンダ21かながわ」ビジョンに則り、消費者あるいは生活者たるユーザー、環境問題専門家、環境・まちづくりNPO等も参加し、脱工業化する21世紀の人口減少社会におけるモビリティを構想し、自動車の普及がもたらした地域社会の基本的問題を検討することから「都市環境の改善」に取り組むべきである。(完)

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