森絵都のファイル
1999年、僕は森絵都という作家を好きになってしまった。
おもしろい、おもしろいとほぼすべての彼女の本を読んでしまった。森絵都、すごい。とってもいい。まだまだ知られていない作家なのだろうな。書店でもなかなか置いていなかったりする。時間が経てば間違いなくブレイクする作家だろう。
一応、森絵都の作品をまとめてみました。
<森絵都作品リスト>
●『リズム』 講談社 1991/06 1100円
デビュー作、講談社児童文学新人賞、椋鳩十児童文学賞を受賞
●『ゴールド・フィッシュ』 講談社 1991/11 1100円
リズムの続編
●『いちばんめの願いごと』 大和書房 1993/03 1165円
エッセイ
●『宇宙のみなしご』 講談社 1994/11 1300円
野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞
●『アーモンド入りチョコレートのワルツ』 講談社 1996/10 1300円
3つの短編からなる。路傍の石文学賞を受賞
●『つきのふね』 講談社 1998/06 1400円
野間児童文芸賞を受賞
●『カラフル』 理論社 1998/07 1500円
1998年「本の雑誌」第2位
●『DIVE!! 1 − 前宙返り3回半抱え型』 講談社 2000/04 950円
2000年最新作! 森絵都初のスポコン小説
●『ショート・トリップ』 理論社 2000/06 1300円
旅をみぐる超短編集。ちょっとこれまでとは違った雰囲気。
●『DIVE!! 2 − スワンダイブ』 講談社 2000/12 950円
絶好調の続編!!
●『DIVE!! 3 − SSスペシャル’99』 講談社 2001/07 950円
なんと、主人公が!!
●『DIVE!! 4 − コンクリート・ドラゴン』 講談社 2002/08 950円
シリーズ最終回
●『永遠の出口』 集英社 2003/03 1400円
初の大人向けの作品
※ちょっとお子様向けの本
●『流れ星におねがい』(和歌山静子/絵) 童心社 1995/11 1300円
小学生向けの本
●『流れ星におねがい』(武田美穂/絵) 童心社フォア文庫 2002/11 560円
リニューアル版、読みやすいです
●『にんきもののひけつ』(武田美穂/絵) 童心社 1998/10 900円
にんきものの本1、ひらがなとカタカナ
●『にんきもののねがい』(武田美穂/絵) 童心社 1998/10 900円
にんきものの本2
●『にんきものをめざせ!』(武田美穂/絵) 童心社 2001/04 900円
にんきものの本3
●『にんきものはつこい』(武田美穂/絵) 童心社 2001/04 900円
にんきものの本4
●『あいうえおちゃん』(荒井良二/画) 理論社 2001/05 1000円
あいうえおの本(笑)
※その他
●『ともだちでいようね 1どっちがきれい?』原由子 構成/森絵都 小学館
●『ともだちでいようね 2ニャーゴのすきなうち』原由子 構成/森絵都 小学館
●『ともだちでいようね 3みんなでたべれば』原由子 構成/森絵都 小学館
●『永い夜』ミッシェル・レミュー=作 森絵都=訳 講談社 1999/05 1800円
●『おやゆびひめ』アンデルセン 森絵都=訳 白水社 2001/11 1250円
(注) この『ともだちでいようね』の原由子というのは、あのサザン・オールスターズのハラ坊のことです。どうやら、この本は「ひらけ!ポンキッキ」で放送されていたアニメを絵本にしたものなのでした……。
○その他の森絵都情報
・『朝日新聞』 1999.6.26 朝刊ブックサーフィン・セレクト5
読書に関してのエッセイ「読書で揺らぐ日常」
◎ ちょっとだけ、それぞれの本について
賞というのはまあどうでもいいと言ってしまえばどうでもいいと思うのだけど、いろいろと受賞しているみたいです。どの作品も、その作品なりのよさがあって楽しめます。そして、深く考えさせられます。
『流れ星におねがい』と『にんきもののひけつ』『にんきもののねがい』(にんきものの本)は小学生を対象に書かれた作品。本の装丁からして、まったくの子供向けです。けれど、胸にキュッときます。
この「にんきものの本」は1998年10月30日発行となっているので、たぶんもっとも新しい作品といえるのでは。『にんきもののひけつ』というのは、バレンタインのチョコレートと女の子からいっぱいもらっているこまつくんの謎に迫るというもの。必ずクラスにこうしたモテル奴っているんだよねー。主人公のけいたくんがもらったチョコレートはギリの1個だけ。うーん、よくわかる。そして、このにんきもののこまつくんにも人知れず大きな大きな悩みがあったというのが『にんきもののねがい』なのでした。
『リズム』とその続編の『ゴールド・フィッシュ』は、中学生の女の子が主人公で、バンドを夢見るいとこにあこがれながら、自分の行き方と考えるというややコバルト小説みたいな雰囲気。でも、森絵都独特のスパイスみたいなものがあってナイスです。
そして、メインと言えるのが、『宇宙のみなしご』『つきのふね』『カラフル』の3部作(と僕は呼んでいる)。どれもそれぞれ甲乙つけがたい良さがある。話題の『カラフル』だけがやや異色でSF的な要素が入っています。ちなみに、僕の森絵都の特にお勧めというのはこの3作品に『流れ星におねがい』を入れた4作品です。
しかし、確かに子供の頃にこれを読んだなら、どう感じていたのだろうか。
単に子供がテーマの子供の感性を扱ったと割り切れる内容ではない。
今読んで、十分に感じることがあって、考えさせられる。
ところで、多くの作品が、「手紙」を重要なところで使っているように思える。いろいろと伏線がはってあったりもするんだけど、すごく自然にスッと読めるところがいい。
○ 『カラフル』
カラフル……。この言葉から、何をイメージするのでしょうか。この「カラフル」という物語を読み終えると、このイメージが一新します。こんなふうな色だったのか。決して表面だけではない、ずっと奥のほうにある色を感じます。けれど、頭の中でそれがどんな色なのかイメージしようとしても、難しいのです。この物語を読むことでしか感じることのできないようなもの。最初の頁から、最後の頁までのぜんぶで、このカラフルという色の感じを表現しているように思えました。
○ 『つきのふね』
どうしようもなく、自分が壊れてしまって、落ち込んでしまったときには、この話を読んでみてください。必ず力になると思います。
○ 『宇宙のみなしご』
子供の頃、屋根に登ったことはあるだろうか?
この本は中学生の主人公達が屋根に登る話です。それは遊びであるんだけど、勇気のいることであり、チャレンジみたいなものでもある。僕の少年の頃、何度か登ったことはあった。夜中はないけど、たかだか一階の家の屋根だったけど、あの場所で寝転がるのは一口では言えない気持ちのよさというものがあったような気もします。あっ、よくよく考えてみると大人になってからもけっこう屋根に登っていたか。ただ、大人になってからというのは冬の屋根の雪降ろしでした(笑)。これって北国の人にしかわからないのだけど、けっこう大変なんだよね。
この森絵都の物語って、そんなにイイ子ばかりがでてこないところがいいのではないかと思っています。学校で仲間はずれにしたりとか、喧嘩をしたりとか、そうした一つ一つがけっこう身にこたえたりします。何かが大きく変わることではない、そうした厳しさみたいなものも教えてくれているような気もします。その上で、勇気を出して自分らしく、やっていきましょう。こんな感じが読者を元気にさせてくれるようです。
「いまのわたしには屋根がある」
この物語の中で出てくる言葉なのだけど、これって名言だなと感じています。たぶん、学校なり会社なり、どこかに自分の隠れ場所というのかな、そこに行けば嫌なことを忘れて落ち着けるみたいな場所が誰しも(でもないか)持っているのでは。例えば、保健室とか屋上とか。僕はむかしいた会社では倉庫にいって昼寝をしたり、組合室にいってお茶を飲んで休んだりしていた。
いまの自分にはどこの場所があるのだろうか? ちょっと考えてしまった。
街を見渡しでも登れそうな屋根ってなかなかないような気がする。もしも、見つかってしまったならぜんぜん言い訳にならないだろうし。そう言えば、屋根に登らないどころか、このところ空を見上げて星をみたりということもしてないような気がする。なんかとっても不健康な気持ちになってきた。
○ 『流れ星におねがい』
はっきり言って、絵本である。本のサイズも大きい、文字も大きい、絵もいっぱい入っている。主人公の桃子(男の子には桃太郎って呼ばれたりする)は小学4年生である。
思えば小学校のこの頃というのは、「おおきななやみ」というものをみんな持っていたのではないだろうか。それは大人に言わせれば実に些細なことかもしれない。両親にはいいたくないし、友達にもなかなか言えない。校舎のどこかに自分だけの場所みたいなものを持っていて、そこでじっとして時間を過ごしたり、そんなことでなんとか気持ちをまぎらしていたように思う。
この『流れ星におねがい』の中では、その場所は用務員の仙さんが中庭につくった花だんだったりする。そこで、仙さんはちゃんと生徒に正面から向き合って話を聞いてくれる。仙さんの話すことは決まっている。「たいしたことじゃあないよ」と。答えはわかっていても、このひとことがききたいのである。
いわゆる、ニンゲイカンケイのごたごた。そうしたことがこの本には詰まっている。決して子供だけの世界ではない。大人の、もっとも核心をついた話になっているというのは言いすぎだろか。別にみんながいい人ではない。つっぱって、正面からは自分を出さないことも多い。人に言えないことを抱えていて、自分の世界を持っていて、まわりとうまくいかないこともある。けれど、ちゃんと結果がでてうまく行くこともある。
ハッピーエンドの物語はいいな、そんなふうに気持ち良く言うことができる本である。流れ星におねがい、して、そのまま願いが叶うというわけではない。そこまでの階段をちゃんと登っていく姿がいい。
この本は実はけっこう泣けます。別に泣かなくてもいいんだけど(笑)。和歌山静子さんの絵もすごくいいです。
書店で買うときには、「姪っ子へのプレゼントなんです」と言わないと恥ずかしいかもしれないけれど。ぜひぜひ、読んで欲しい一冊なのでした。
○ 『DIVE!! 1 − 前宙返り3回半抱え型』
おもしろい! しかし我々読者は第2作の登場までどのような日々を過ごせばいいのだろうか(笑)。むかしテレビで「巨人の星」を見ていたことを思い出してしまった。
そうだ。僕はこの本を読んでいて、森絵都はむかし「エースをねらえ」にはまっていたのではないかと思ったのだがどうだろうか。なんだか「エースをねらえ」の中学生の男の子の飛び込み版って感じがするんだよね(笑)。それにしても主人公の知季(ともき)はすごくいい!!
早く続きを書いてくれよ! という気持ちはもちろんある。しかし、森絵都にはとことんこだわって、じっくり書いて欲しい!! 遅れてしまったらそれはそれでいいではないか。この作品と供に、作者である森絵都がもっともっと大きな作家になっていくような気がする。大きく羽ばたいて欲しい。
(2000.6.23)
○ 『永い夜』 (翻訳)
僕はこの本をえらく気にいってしまった。「森絵都が翻訳をしている本がある」という話を風の噂に聞いた。それから、図書館に予約して約一ヶ月、やっと僕の手元に来て読んだ。
読んだと言っても、「むさぶるように」とか「時間を忘れて」とかという言葉は似合わない。夏の暑い夜。まわりの人たちとなんだかうまくいかなかったり、翌日の仕事を考えたくない眠れない夜などに、パラパラとこの本を眺めていたい本だ。
本というより、絵本というべきか。絵本というより、パラパラ絵本って読んだ方がいいかな。1頁に文章が1行か2行、もうひとつの頁に絵がある。やさしい絵がいっぱいある。こわくなるような絵もあるけれど。なんだか言葉にできないような魅力的がある。
森絵都の本はプレゼントにいいな、と思っているのだけど、この本も大切な人にあげたりしたらいいんじゃないだろうか。
(2000.7.15)
○ 『にんきものの本』
森絵都の本を久々に読む。
『にんきものをめざせ! にんきものの本3』と『にんきもののはつこい にんきものの本4』の2冊だ。他の作家の本を読むのと違って、森絵都の本、特にこうした子供向けの本はあっという間に読み終わってしまう。とても不思議な時間だったりする。何度読んでも楽しめるのだけど。
シリーズの1、2の男性篇から女性篇へとなる。でも、けいたくんもキンキンも登場しているのが嬉しい。恋愛の三角関係の話といっていいのだろうか(笑)。でもうまく書いているよな。僕はこの2冊を読んで宮本輝の『青が散る』を思い出してしまった。身近にいて安心できる人と、ちょっと遠くでドキドキするような人と。ついつい、きさらぎさんの方に目が向いてしまうのだけど(笑)。
武田美穂さんの絵もすごくいい。
改めて、森絵都という作家を振り返って関心してしまうのだけど、こうした小さな子供向けの本でも、現代という社会がさりげなく書かれている。みんな仲良しではないし、嫌われたりしていることもある。父親が浮気をして家を出て行ったという状況があり、男に対しての複雑な感情を持っていたりする。
ときどき、ほんとうに子供向けに書いた本なのかな、とドキリとさせられる。でも、よくよく考えると、納得させられてしまう。森絵都の世界では、社会がありのままに描かれている。いいことも悪いと言われているようなことも。そして、誰かの存在を否定することはない。きちんと前向きにやって行こうよ、と励ましてももらっているような気持ちになる。
(2001.6.15)
○ 『永遠の出口』
(集英社) NEW!
中田英寿がセリエAに行ったとき。イチローがメジャーリーグに行ったとき。森絵都の『永遠の出口』の出版は、こうしたことと同じように僕にとって誇りに思えることだった。児童文学から一般の文芸というジャンルに行ったからといって、森絵都という作家が変わるわけではない。けれど、その存在を知る人は確実に多くなる。
書店では平積みになり、けっこう目立っていた。紀伊国屋書店ではコメントをつけて、その面白さを強調していた。『カラフル』や『DIVE!!』でも目立つことはあった。でも、何かが違うような気がした。
最初にこの本のタイトルを知ったとき、少しばかり不安な気持ちがあった。正直なところ、「永遠」なんて言葉は安易に使われるものではない。このタイトルを見て、あまったるい話なのだろうな、と思う人もいるかもしれない。僕の中には不安もあったが、それはほんの一瞬で、次にはこの不安を森絵都はどう打ち破ってくれるのだろうかという楽しみへと変わった。
読み終えて数日が経つにつれて、永遠という言葉は僕の中でより深いものとなっている。子供から大人まで、楽しさと深さを同時に感じさせてくれる作品となっているのではないか。長い時間をかけて書かれた連作なのに、何でこんなにも繋がっているの、という驚きもあった。物語という世界は、本のページだけにあるのではなく、自分の身近に存在しているのだと思える。そして、確かに元気になって前へ進めるような気がする。
(2003.4.5)
◎ なぜ今、森絵都なのだろうか
僕のこの2、3年の読書量というのはとても少なくなってしまっている。どうしてだろう。通勤時間が短くなったり、その他いろいろと理由はあるのだろうけど、なんだか読書というものに喜びのようなものを感じられなくなっているここ数年だった。そんな時、この森絵都という作家に出会った。別に道ですれ違ったり実際に顔をあわせたことはないのだけど、僕にとってもとてもいい出会いだった。
でも、これは僕だけでなく今の時代が森絵都という作家を必要としているのではないかと思うのだ。少し大げさな表現になっているかもしれない。森絵都のような作家、と言ったほうが正確かもしれないのかな。でも僕はまだ彼女しか知らないもので。
森絵都の世界は、難しい言葉で語られているわけではない。だから、どんな人でも読める。疲れてしまって活字を見る気力のない状態でも彼女の言葉は暖かい。それでいて、しっかりと受け止めてくれる。登場人物のほとんどは小学生や中学生だけど、その中には自分の姿と今の社会の姿が見え隠れしているようだ。だから、何気ない動作のひとつひとつ、ほんのちょっとした言葉のひとつひとつが、ずっと胸の中に残ってくる。それは重く残るのではなく、すっと、気持ちの中に心地よい余韻を残してくれる。
ときどき、現在の自分と10代の頃の自分というものが一緒に本を読んでいるような感じになる。現在の自分は10代の自分に励まし、10代の自分もまた現在の自分に励ましてくれる。
僕は10代の頃、あまり本を読まなかった。18歳くらいになってようやく本というものを読むようになった。それはそれでとても財産になっている。けれどもっと早く、例えばこの森絵都の世界に触れていたならば、とも思う。別にこの作家を崇めたてるわけではない。ちょっとした「本の世界」の入り口を、見つけることができたと思うのだ。そして、まわりを見る景色がずいぶんと変わっていたのではないだろうか、と。
2000年、10代の犯罪というものが世間を騒がせている。彼らは本を読んでいるのだろうか? もし森絵都のような本を読んでいれば、あのような犯罪は起こさないだろう。誰もが悩みを抱えていて、答えというものはそう簡単に見つかるものではない。けれど、ぼんやりとした明かりのようなものは見えてくるのではないだろうか。
(2000.6.23)
DOLPHIN
HOTEL
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