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ようこそ、「ドルフィンホテル」へ


○ ようこそ その1 ドルフィンホテル

 ごめんなさい。どこかに泊まろうとホテルを探していた皆さん、ここは実はホテルではありません。ごめんなさい。村上春樹の『羊をめぐる冒険』を読んでいる途中のこの「ドルフィンホテル」を見つけてしまった皆さん。ここは村上春樹をめぐるウェブではありません。そんなには関係はありません。
 ごめんなさい。いるかが好きでこの「ドルフィンホテル」にたどり着いてしまった皆さん。あんまりいるかとは関係ないです。

 本について。そう、本を読んで話をする。それがこのウェブのテーマ。

 例えば、仕事を終えてぐったりとベッドに横たわった夜。眠りにつくまでの少しの時間。もちろんガールフレンドと電話で語り合うのも楽しい時間になるのだろうけど。ちょっと本を読んでゆっくりくつろいでしまったり、そんな時間を持つのもけっこう楽しいのではないだろうか。本の話と、そして、ゆっくり話をしたりするそんなホテルだ。

 本の話。例えば藤沢周平の話などはどうだろか。もちろん、短編集『驟り雨』を読んだとしても、
「読んだ?」
「うん……。よかったよ」
 短い語り合いにしかならないだろうけれど。

 しかし、このホテルは山の中にひっそりと隠れて存在している。ローカル線を降りてからバスに乗って、その後も歩く必要がある。場所はよくわからなくて、時々迷ったりもする。けっこうオンボロな建物だ。雨の日にはいくつかの箇所で雨漏りがし、ベッドはギシギシと音がしたりしている。。

 けれど、ここはとても静かところだ。鳥のさえずりをBGMにして本を読むとイメージが広がってくる。夜は星がきれいだ。館内には、おいしい料理を出すレストラン、それから図書館もある。この図書館の本は、宿泊者が寄贈してくれたものだったりしている。少しずつ、けっこうな量になった。

 ラウンジには、ノートブックが置かれている。古くなって、ところどころセロハンテープで補強されている。多くの人のいろいろな本についての感想などが書かれてある。これは誰でも読むことができる。

 ここは、支配人がのんびりと、気ままに、つくっているホテルです。
 あまりいいサービスはできませんが、どうぞよろしくおねがいします。

(1998.11.1)



○ ようこそ その2 露天風呂

 この「ドルフィンホテル」は山の中にある小さなホテルなのだけど、ちゃんと“露天風呂”がある。ホテルに温泉というと、熱海とか伊豆なんかをイメージしてしまうかもしれないけど、ちょっと雰囲気が違う。「ドルフィンホテル」とはそんな都合のいいホテルなのであった(あまり深く追求しないよーに)。
 ここは、仕事とか複雑な人間カンケイとか、そんなものは忘れてしまってゆっくりするところだ。何かをつくりあげるとか、そういうことではない。

 露天風呂をイメージしてほしい。
 ある人は酒を飲んで酔っ払っている。裸になるのが恥ずかしく、タオルでしっかりと自分のモノをひたすらに隠す野郎もいる。隣の女湯を覗こうと必死になっている人もいたりする。。端の方には失恋して黙り込んでいる人もいるかもしれない。おフロ読書を楽しんでいる人も。
 みんな、ちょっとのぼせた状態だ。
 ボソボソと、話し声が聞こえる。
 本の話だ。いや、そうでない話も聞こえてくるけれど。
 おもしろそうな本の話になると、みんな聞き入ってしまう。ときたま、ポチャポチャなんて音が聞こえてくるけど。
 話は、盛り上がったり、盛り下がったり、いろいろだ。酒を飲んで酔っ払っている人は何度も同じ話題を口にしている。
 つれづれに、つれづれに、時間は流れていく。

 ずっと後になって、この時のことを思い出す。
 誰が何を話したか、とか細かなことはもうすでに忘れてしまっている。
 けれど何冊かの本のタイトルだけは印象に残っている。

 で、風呂からあがってから飲むビールの旨いこと旨いこと。おまけに料理も美味しかったりするわけだ。
 めでたし、めでたし。

(1997.12.24)



○ ようこそ その3 本について

 本について、誰かと話をしたかった。
 そんなことを思ったことはないだろうか。別に議論をするとか、そういったことではない。読んでおもしろかったと感じた本について。涙してしまった本、手に汗して読んでしまった本、中にはアタマにきてしまった本もあるかもしれないけれど。ジャンル別に整理されたものでなく、世間の評判でもなく、読んでいる本の量も問題なのではなく。
 僕はずっとひとりで本を読んできた。あたり前のことではあるけれど。会社の昼休みで本を読んでいると、他の人からあまりよい感じには見えなかったみたいだ。先日、村上春樹の『ノルウェイの森』を軽く読み返した。主人公のワタナベがひとりで本を読んでいる場面が何度もでてくる。それだけで、この本に対して特別な気持ちを持ってしまった。

 本の話をしようといっても、実はそんなに中味のある話はできないのだと思う。けれど、同じ本を読んだ人と同じ場所にいるだけで、なんだか気持ちが安らいでしまうのは僕だけだろうか。

 どこかの雑誌にあるような、ありふれた本の紹介をしようとは思わない。あらすじを書こうとも思わないし、評論しようとも思っていない。面白かった、好きだな、と感じた気持ちをそのまま書ければそれで十分なのではないだろうか。
 なにも、本屋さんで山積みになっている本がおもしろいわけでもない。
 このドルフィンホテルでは、大雑把に「本について」としか決めていない。自分の本の好みはどんどん変わっていくかもしれない。まだ、読んだことのない本がどこかできっと待ってくれているだろう。

(2000.7.12)



○ ようこそ その4 読書の秋

 ようこそ、ドルフィンホテルへ。
 このホテルの説明をするのはなかなか難しい。本について……。しかしこれはとっても漠然としている。ひと言でホテルといっても、「シティホテル」「ビジネスホテル」「リゾートホテル」「温泉旅館」「民宿」「ペンション」「モーテル」「カプセルホテル」「ラブホテル」などなどなどなど、様々である。本についても幅は広い。
 しかし、ドルフィンホテルは何らかのジャンルに区分けされたくはない。「純文学」「ミステリー」「推理小説」「時代小説」「恋愛小説」「青春小説」「児童小説」「エッセイ」など、いろいろなジャンルというものがあるが、おもしろい本というものは、いくつもの要素が絡み合っている。本を読むということ自体も、絡み合っている。歩いたり、人と話をしたり、ご飯を食べたり、酒を飲んだり。いろいろなことに繋がっているから、本を読むのは楽しく、まだ見ぬ人と本について語り合うのも実に楽しい。

 読書の秋である。食べ物はとっても美味しいのだが、なかなか読書の量は増えていかない。しかし、あせることはないだろう。一冊好きな本があれば、それだけで僕は「本が好きだ」と言ってしまうのであった。本を読もう。

(2000.9.25)



DOLPHIN HOTEL