「孤独」とジェンダー(月刊少年育成06年2月号)
田中俊英
最近行なった某講座において、思春期青年期独特の「孤独」感について、ジェ
ンダーと絡めてコンパクトにまとめることができたので、今回はそれを書く。
なお、本来ジェンダーやセクシャリティの問題は、男性/女性というふうに2
項対立して考えてはいけない、非常にグラデーションの幅広い問題なのだが(同
性愛・「性同一障碍」等)、ここでは議論をわかりやすくするため、通常の「男
/女」ジェンダー概念を使用する。
「対世界孤独」――男の子ジェンダー
ひきこもりや不登校の青少年との訪問活動や面談を通して、以前から僕は、
「男の子ジェンダー」と「女の子ジェンダー」の孤独感には微妙な違いがあると
感じていた。その違いを、「対世界孤独」と「世界内孤独」と表現してみる。前
者が男の子ジェンダーに対応し、後者が女の子ジェンダーに対応する。
まずは、男の子ジェンダーのあり方である、「対世界孤独」から。男の子ジェ
ンダーは、世界とか社会を「対自分」というふうにとらえる。自分の前には、圧
倒的に巨大な「世界」というものが存在している。その世界に自分は入っていけ
ない。入っていけても、すぐにはじき飛ばされる。はじき飛ばされ体験が続く
と、その世界に入ろうという気さえなくなってくる。その状態が長くなると、結
果として世界の側から「ひきこもり」と名付けられる。
その心理メカニズムの典型例が「ルサンチマン」だ。ニーチェ考案のこの概念
は、「世界で流通する通常の価値観を“悪”というふうに転倒させ、自らが抱える
価値観を“善”と断定する」ということなのだが、具体例で言うと、「結婚」「就
職」等の世間一般で言う普通のことを「くだらない」として、その価値を転倒さ
せる。逆に自らのひきこもり状態を「世界の常識と対峙する素晴らしい行為」と
して賞賛する。しかし、この転倒メカニズムはそれほど完璧に行われるわけでも
なく、普通の価値観に対して何らかの「妬み」のようなものは残っている。ルサ
ンチマン=怨恨とはよく名付け、訳したものだ。
この例をとってみても、男の子ジェンダーは、世界に対して圧倒的に孤独感を
抱いている。一人ぼっちは一人ぼっちなのだけど、それは、「世界と対立してい
る」という意味での一人ぼっちだ。
世界内孤独――女の子ジェンダー
対して、女の子ジェンダーは、僕が具体的出会いの中で観察する限り、「世
界」には比較的容易に入っていける。しかし、その世界の中で孤独感を抱いてい
る。話し相手はいる。いるけれども、その相手にすごく気をつかっていたり、ま
た、何気ないすれ違いが徐々に拡大していき、誤解が重なり、時として絶交した
りする。人によっては、こうしたトラブルを繰り返す。
この孤独感のキーワードは「嫌われたくない」だと僕は思っている。コミュニ
ケーションの中で自分は嫌われたくない、だからいつも気をつかっている。でも
なぜかすれ違いがある。どんなに努力しても、コミュニケーションのずれはあ
り、常に孤独感は残る。
その孤独感からくる具体的行為の一例が「リストカット」だろう。本誌(04年
11月号〜05年1月号)で土井隆義氏も取り上げていた南条あやが遺した『卒業式
まで死にません』(新潮文庫)を読むと、そもそものリストカットの動機は、友
達の同情をひくことだったとしている(18頁)。つまり、まわりに「嫌われたく
ない」からこそ、リストカットという激しい行為に向かい、友達の同情を誘おう
とした(ちなみに、南条はその後もリストカットを続けるが、それはやがて「依
存」的になる。このように、リストカットは、「嫌われたくない」→「依存」と
いう2段階を踏むと僕はこの頃考えているが、詳細はいずれ別稿で)。
こうした孤独感について、土井氏は、90年代以降の若者は「本当の」自分を内
面に求めるが、そこにあるのは幻の「原石」でしかない。それが幻であると若者
たちは薄々気づいているし、そうした「素の自分」でコミュニケートすると失敗
してしまう。だから、人間関係を演技と位置づけ、つくりものとしてとらえる、
と鋭い分析をしている。世界の中で若者たちは常に孤独なのだ。僕には、この心
理メカニズムは、女の子ジェンダーにより当てはまるように思える。
南条あやがよく聞いていたcoccoは、手首から流れる血を「赤い涙」と表現す
る(「荊」)。涙は「本当の自分」が表現されるとき出現する物だと彼女たちが
考えているとしたら、鏡でしか見ることのできない涙よりも、自分の腕に浮かび
上がるのを実際に観察することのできる血のほうに「本当の自分」を確かめるこ
とができるのかもしれない。世界の中の孤独を埋め合わせするために、「本当の
自分」を確かめる。こう考えるのは穿ちすぎか。僕にはこの文脈が自然につなが
るのだが。
図式的過ぎるという批判を予想しながらも、僕が仕事をしていくために便利な
ので、以上の分類をあえてした。