僕たちのドーナツトーク113(『月刊少年育成』大阪少年補導協会発行05年8月号)
広義のニート、狭義のニート
田中俊英(NPO法人淡路プラッツ代表/ドーナツトーク社)

 最近、ニート問題をテーマにした会議や講座に出席することが増えたのだが、
そうした場でちょっとした「混乱」めいたものがあることに気づいた。それはつ
まりは、ニートをめぐる定義の問題で、「Not(〜でもなく、〜でもない)」を
冠にいだいたこの言葉がもつ曖昧さが生み出す、いわば宿命的なものでもある。
 ニートとは誰か、と問われると、公式には「15〜34才の未婚の若者で、雇用に
も教育にも職業訓練にも属していない人たち」ということになる。これをここで
は「広義のニート」と呼ぶことにしよう。Notを冠した曖昧な概念ながら、一応
しっかりした定義でもあるような印象を受ける。だからこれを頭に入れて人々は
会議や講座や講演会に出席する。しかし、会議や講座で「ニート」という言葉が
繰り返されるうち、ある種の混乱が生まれてくる。公式な定義は理解できる。け
れども、ニートについて考えたり話し合ったりしていくうちに、ニートとは誰か
がわからなくなってくるのだ。
 定義上ニートは、たとえば、数年も家から出ずに過ごす「ひきこもり」の青年
も含む。こうした青年の中には家族とのコミュニケーションさえ断絶した人もい
る。生活は昼夜逆転し、夜普通に寝ている親からすると、親が寝るのを待って生
活し始める子どもの顔を長い間見たことがないという方もいる。こうした徹底的
なひきこもりの状態は、「純粋ひきこもり」と名付けられている。
 ここで必要な支援とはどういうものか。それは、まずは親と子がゆっくりとコ
ミュニケーションを回復していくことだと専門家は答えるだろう。同時に、親が
精神科を訪れ(この場合、親だけ受信でもオッケーの病院を探す必要がある)、
ひきこもりによって生じる対人恐怖や強迫症状について相談することも肝心だ。
そして、なにはともあれ、本人が第3者の支援機関と出会えるよう親がねばり強
く動くことが重要なので、支援機関としては、親との信頼関係を築くことを中心
に据えるだろう。
 ニート概念はまた、フリースペースや医療デイケアに来られるようになったも
のの、なかなか対人関係が築けない人たちも含む。この場合、スタッフたちとの
関係づくりを土台にしながら、作業や遊びを通じた体験の蓄積により、より「社
会」を目指した動き(ジョブカフェに行ったり単発バイトを探す等)を目指すこ
とだろう。
 ニート概念は、一部専門家から見ると、いわゆる「広汎性発達障害」とか「自
閉症スペクトラム」とか「アスペルガー症候群」といった診断名をつけられた人
々を指してもいる。それら診断名の検討や「障害」の哲学的考察云々はここでは
紙幅の都合上カッコに入れておくことにし、そうした「生きづらさ」を抱えてい
る人たちに対しては、また別種のアプローチが必要になってくる。その「生きづ
らさ」を理解し、専門的なアドバイスによる環境やルールづくりを優先したほう
が、本人も家族もより楽になれることは事実だからだ。
 ニート概念はまた、友達や恋人はおり遊びには行くものの仕事やバイトはしな
い、という人も含む。この層になってくるとたまにバイトしたりするので(故
に、僕の知り合いはこの層の人たちを「離転職リピーター」と名付けたりしてい
る)、ニート概念の端っこのほうをさまよっている。しかし、瞬間で切り取ると
ニート概念に含まれることは間違いない。
 このように、Notを冠にいだくニートは、広範囲な若者を包摂してしまう。だ
から、会議や講座等で集まった人たちからすると、ニートのある一部を想定しな
がら話をしたり聞いているのに、いつのまにか別のニートがそこに混入されてき
て話が拡散してしまう。だからまた元に戻そうとしても、さっきとは別のニート
がまた混入してきて議論がずれていく。あれ、あれ? と思っているうちに時間
がたっていく……、こんな現場を僕は最近いくつか見てきた。
 こうした混乱を避けるため、現在、もうひとつのニート定義が誰からともなく
現れてきている気がする。それは、公式なニート定義とは別のもので、ある段階
を特化して示すものだ。その段階とは、「フリーターではないけれども、家族以
外の対人関係を持っており、外出に抵抗ない若者たち」とでも言えばいいだろう
か。この中には上の「離転職リピーター」も含まれるだろう。
 支援機関の側から振り分けると、医療機関への定期的診療でもなくフリース
ペースの初期対応でもない。なかにはひきこもりやメンタルヘルス系の当事者グ
ループに参加している人もいるだろうが、ジョブカフェにもあまり抵抗なく行け
る、そうした人たちを指す。
 こうした若者層が、もうひとつのニートとしてこれから浸透していく気配を僕
は感じている。いや、この層を特化したほうが、医療・福祉問題でも臨床心理問
題でもない、本来の「就労問題としてのニート」を語りやすくするのだ。
 この層を、公式のニート定義つまり広義のニートとは別に、「狭義のニート」
として僕は考える。広義のニートと狭義のニートを会議の前に区別して話し始め
ると、その会議や講座は、区別しないよりも少しは円滑に進むのではないか。

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