2005年2月9日
朝日新聞東京本社
国際部長 殿
広報部長 殿
日本サハラウイ協会・香川
主宰 高林 敏之
765-0004
香川県善通寺市善通寺町1774-107
西サハラ問題研究室 気付
2005年2月1日付モロッコ民主化問題記事に関する公開質問ならびに要請状
さる2月1日付御紙朝刊国際面に掲載された記事『モロッコ:民主化へ「過去」清算』(ラバト発、貫洞欣寛記者)について、ご指摘ならびに緊急の要請を申し上げます。
当該記事はモロッコ王国による人権侵害の最たるものとして、国連や「アムネスティ・インターナショナル」「フリーダム・ハウス」等多数の人権団体によって厳しく批判されてきた、旧スペイン領西サハラに対する軍事占領ならびに人権侵害の問題について一切言及しておりません。あまつさえ、当該記事に付されている地図は西サハラを完全にモロッコの一部分として扱い、地名の表記さえなされておりません。これは、「モロッコ民主化」の美名のもとに西サハラ不法占領問題を覆い隠し、モロッコの西サハラ支配を正当化する、モロッコ政府の戦略に加担するものと、申し上げざるを得ないものです。
上記の地図を、単にラバト、カサブランカ等の位置関係を示すための便宜的な資料であると見なすことは、以下の理由から不可能です;
@ 拡大地図の中で近隣諸国の他の国際境界線はすべて表記されており、アルジェリア、スペインについては国名も表記されています。したがって、この地図が単に都市の位置関係を表示するためだけのものでないことは明らかです。
A 拡大地図の中で、モロッコの国名がモロッコ−西サハラ間の国際境界線よりも西サハラ領内に入った位置に表記されています。これは西サハラ領域をモロッコの領土として示すものに他なりません。
B アフリカ地図の中では、モロッコと西サハラがひとつの領域として彩色されています。これもまた、西サハラ領域をモロッコの領土として描くものです。
脱植民地化後の国際法および国際法学において、1960年国連総会決議「植民地独立付与宣言」、自由権規約ならびに社会権規約の各第1条、1970年国連総会決議「国際連合憲章に従った諸国間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」などの法実践を通じ、自決権が、武力行使によって不法に強要された「実効支配」に優先するという考え方が定着していることは、御社、とりわけ国際報道に関わる記者の方々にとって周知のことであると推察します。
事実、国連は西サハラをいわゆる「非自治地域リスト」に掲載し、現在も非植民地化委員会による審議対象としておりますし、安全保障理事会では西サハラの将来を住民自身に選択させるための住民投票実施を骨子とした和平プロセスが1991年以来進められ、PKOも派遣されております。すなわち国連において西サハラはモロッコとは別個の、帰属未定の紛争地域として扱われているわけです。日本政府も、この原則に従った表記を行っております。
さらに、アフリカ連合(AU)はその前身であるアフリカ統一機構(OAU)当時の1982年以来、西サハラ亡命政府サハラ・アラブ民主共和国(RASD)を加盟国として処遇しておりますし、昨年承認したばかりの南アフリカ共和国を含め、世界でおよそ60カ国がRASDを国家承認しております。これは台湾をはるかに上回る数です。
以上の観点から、“The Asahi Shimbun”と御社の発行責任が明記された当該地図は、明らかに国際法および国際社会の西サハラ理解に背反した地図であると言わなければなりません。しかも、当該記事では国際人権団体によって繰り返し指弾されている、西サハラ占領地における人権侵害には、まったく言及がありません。モロッコの人権問題・政治的迫害の問題を分析するならば、西サハラに言及することは理の当然であり、逆に「モロッコ国内の問題のみ扱ったもので西サハラは対象外」というならば、掲載された地図は明らかに矛盾をきたしています。
モロッコにおける人権問題をめぐる動向を記事として取り上げることは有意義であり、民主化に逆行する動きにも一定の言及があるなど、当該記事には一定の客観性があると考えられます。しかし、西サハラという1領域の民衆およそ20万人がアルジェリア領内の難民キャンプで暮らし、領域のほぼ全土が「壁」に包囲される中にモロッコ人入植者が送り込まれ、強制同化が進められる、これほど民主主義に逆行する問題を取り上げずして、モロッコの「民主化」と「人権状況改善」を語ることは、結果的に西サハラ問題を包み隠したモロッコのイメージ改善戦略に貢献する以外の何物でもありません。
これは例えるならば、「大正デモクラシーの意義を語る時に、朝鮮植民地支配の問題を語る必要はない」と宣言しているのと同じであります。御社の歴史に対する姿勢はそのようなものであると、考えて宜しいのでしょうか?
一昨年の第3回アフリカ開発会議にあたって、御紙は日本政府によるRASD不招請の問題を取り上げた私どものキャンペーンを記事にしてくださいました。その姿勢と矛盾する記事が今回、かくも大きな扱いで掲載されたことは、誠に残念です。
以上の点を踏まえ、私どもは下記の要請を行います。責任ある立場の方からの責任ある回答を期待します。なお、本状は『西サハラ支援』ウェブサイト(http://www5e.biglobe.ne.jp/~dorogame/w-sahara/)上に公開するほか、欧州の西サハラ支援組織連合体ARSOなど欧米の支援団体にも告知します。むろん、御社の回答も(回答なき場合は、その旨)公開・告知いたしますので、予めご了承下さい。
@ 上記指摘に関する御社の見解、ならびに西サハラ問題に関する御社の国際法認識について明らかにされたい。
A この書状を受け取り次第、直ちに上記地図に関する訂正告知を紙上にて行われたい。
B 本日より1ヶ月以内に、西サハラ問題に関する、今回記事と同程度の分量の特集記事を掲載されたい。(西サハラ問題に関しては、現在国際共同行動による西サハラ資源不法収奪反対のキャンペーンが組まれているほか、私どもも「日本・アフリカ連合友好議員連盟」に対する公開アンケートを実施しておりますので、上記『西サハラ支援』ウェブサイトをご参照ください。)
以上
2005年2月16日
朝日新聞社広報部
〒104-8011 東京都中央区築地5-3-2
03-5540-7615
Fax03-5540-7618
拝啓
厳冬の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
平素は朝日新聞をご愛読いただき、厚く御礼申し上げます。
さて、弊社国際部長ならびに広報部長あての2月9日付質問状を受け取りました。
貴重なご指摘をありがとうございました。
2月1日付朝刊国際面の「モロッコ/民主化へ『弾圧』清算」の記事につけた地図については、16日付朝刊国際面で訂正しました。
西サハラは、その帰属をめぐり国連の調停が続いております。現在にいたっても、モロッコ領となったとの認識はもっていません。
西サハラの地名が落ちたのは地図をつくった際の不注意によるものです。
ご指摘を真摯に受け止め、再発防止に努める所存です。
西サハラ問題はかねて関心を持っているテーマです。機会があれば、取り上げていく考えです。ただし、「1カ月以内」というご要望には、応じかねます。
以上、よろしくご理解いただければ幸いです。
敬具
追伸 弊社の国際問題を担当している部署の名称は国際部ではなく外報部です。
朝日新聞社広報部 御中
(Fax.03-5540-7618)
日本サハラウイ協会・香川
主 宰 高 林 敏 之
765-0004
香川県善通寺市善通寺町1774-107
西サハラ問題研究室 気付
2月16日付貴社ご回答について
拝復
2月1日付貴紙朝刊国際面掲載「モロッコ/民主化へ『弾圧』清算」記事に関しての当方2月9日付公開質問・要請状に対する、2月16日付貴社ご回答を拝受しました。また同日付朝刊国際面の訂正記事も確認いたしました。
速やかなご回答に御礼申し上げるとともに、私どもの指摘を熟慮され、適切な地図訂正等の対応をお取りいただいたことに、まずは敬意を表したく存じます。是非ともお約束の通り、「再発防止」に努めていただきたく、宜しくお願い申し上げます。
しかしながら、当方要請事項の第3項目「本日(2月9日)より1ヶ月以内に、西サハラ問題に関する、今回記事と同程度の分量の特集記事を掲載されたい」について、「「1ヶ月以内」というご要望には、応じかねます」と回答された理由が判然としません。
前回質問・要請状にて指摘しました通り、上記記事は単に地図が問題なのではなく、モロッコの西サハラ占領という大規模な人権侵害ならびに民主主義の蹂躙を、モロッコの「民主化」「人権改善」の美名のもとに隠蔽せんとする、モロッコのイメージ改善戦略に(記者本人の執筆意図にかかわりなく)大いに貢献する性質を有している点で、すでに問題であると言わざるを得ないものです。
かかる性質の記事を極めてインパクトの強い特集記事として掲載された以上、読者の意識に記事内容が定着する前に、速やかに西サハラ問題について同程度の記事を掲載することは、紙面の公平性という観点からみて理の当然だと考えます。記事の影響力を考慮した時、貴紙の編成上の事情を配慮しても、1ヶ月はむしろ充分な猶予だと思われますが、いかがでしょうか。
「機会があれば」取り上げるという姿勢(これは「機会がなければ」取り上げないという含意をも有します)は、貴社が事の重大性を充分理解せず、かつ自らの言論がもつ影響力に対する責任の自覚が乏しいことの証左であると、申し上げざるを得ません。
重ねて、本年3月8日までに西サハラ問題に関する特集記事を掲載されるよう要請するとともに、「1ヶ月以内」の掲載が無理であるというならば、その理由、ならびにいつ掲載可能なのか、明確なご回答をお示しください。なお、貴紙の取材態勢上の限界が理由であるならば、当方はいつでも情報提供に応じる用意がある旨、付言いたします。
なお、本書簡ならびにご回答状況も、前回同様『西サハラ支援』ウェブサイト等に公開いたしますので、予めご了承ください。 敬具