中古ゲームソフトと頒布権
〜ゲームソフトを中古売買することの合法性に関して〜
卒論二稿Edition
※初稿から二稿への変更部分は強調文字としている。(2.3と4に1箇所ずつ)
細かな変更部分には強調をほどこしていないので注意のこと。
2001年7月現在のものであり、最高裁判決・SCE審決などもふまえた最終版は今のところ未定。
目次
1.はじめに
2.判例研究
2.1.判例紹介
2.1.1.東京地裁 H11.5.27
2.1.2.大阪地裁 H11.10.7
2.1.3.東京高裁 H13.3.27
2.1.4.大阪高裁 H13.3.29
2.2.現在までの判例の経過
2.3.各判例に対する考察
3.ゲーム業界の実態
3.1.主要流通の実態
3.2.中古販売の実態
3.3.ユーザーの意見(アンケートより)
3.4.ゲームソフトの複製について
3.5.これからの流通
3.5.1.ゲームのレンタル
3.5.2.オンライン販売
3.5.3.オンライン配信
4.まとめ・私見
5.参考文献
1.はじめに
このほど、 ゲームソフトの中古販売はゲームソフト市場の3割に達しソフトメーカーの利益を圧迫するようになったとして、中古販売の禁止を求める訴訟が2つ行われた。平成11年に下された下級審判決では、大阪と東京の地裁で判断が分かれたが、このほど下された高裁判決においては、双方ともユーザーの側に立った判決が下されている。
この2つの訴訟では、ゲームソフトは著作権法2条3項の「映画の著作物」にあたるのかどうか、あたるとしたら、26条1項の頒布権による保護を受けるのか。さらには頒布権による保護が認められるとした場合、その頒布権は適法に譲渡されたことにより消尽しないのかどうか、という点がそれぞれ問題となっており、この後、最高裁によって審議されることとなる。
「映画の著作物」は頒布権という流通をコントロールする権利を持ち、これは第一譲渡によっても消尽しない。下級審判決ながら昭和59年のパックマン事件などによってゲームの著作物も「映画の著作物」に含めるような判決が下されており、メーカー側はそれを根拠として第一譲渡後の利用、つまり中古販売などにも自らの権利を及ぼそうとしている。これに対し大阪地裁はメーカー側の言い分を認め、東京地裁、東京高裁、大阪高裁は否定する判決を下している。
私はゲームソフトを「映画の著作物」に含めるべきではないと考えている。もちろん消尽しない頒布権も認めるべきではない。ゲームソフトに関しては「ゲームの著作物」とでもいうべきカテゴリをつくって保護すべきではないだろうか。
以下にその事について述べようと思う。まず東京地裁、大阪地裁、東京高裁、大阪高裁の各判例について述べ、次にこれまでの判例の動きを述べた後、今回の判決について法律的な観点から述べる。そしてゲーム業界の実状と将来への展望を資料をもとに紹介した後、私見を述べる。
2.判例研究
※判例を表にした物。ゲームソフトは「映画の著作物に含まれる」「頒布権を有す」「第一譲渡により消尽する」
2.1.判例紹介
まず各判例を時系列に沿って紹介する。
また、2つの事件によって下された4つの判決はいずれも次の3点を争点としている。
@本件各ゲームソフトは、著作権法に言う「映画の著作物」に該当するか。
A本件各ゲームソフトは、「頒布権のある」映画の著作物に該当するか。
B映画の著作物に認められる頒布権は、第一譲渡によって消尽するなどの限界があるか。
この各点について4つの判決はどのように判示しているかを見る。
2.1.1.東京地裁 H11.5.27
この事案では、原告がゲームソフトの販売会社、被告がゲームソフトの製造販売会社である。原告は、被告が適法に販売したゲームソフトをその購入者より買い入れ、中古品として販売していた。
被告は本件各ゲームソフトは映画の著作物に該当し頒布権を有するから無許諾の中古品販売は頒布権侵害であるとして、原告に中古品販売の中止を求め、それに対して、原告が被告を相手方として本件各ゲームソフトの著作権に基づく中古品販売差止請求権の不存在確認を求めたのがこの事案である。
まず、ゲームソフトは「映画の著作物」に該当するか、ということが問題となる。
東京地裁では「映画の著作物」について、明確な著作権法上の定義規定がないことから関連規定を総合的に考察して決するしかないとした。
まず、頒布権が映画の著作物にのみ認められる実質的理由は、
@複製物による映画館上映で一度に多数の観客に鑑賞させるという利用形態、
A上映による多額の入場料という複製物の経済価値の高さ、
B配給制度という流通形態をもつ、という劇場用映画の特殊性
の3つにあるとした。
また、劇場用映画の巨額の製作資金はプリント・フィルムの配給制度を通じて回収されるという社会実態も存在しており、これらからの点から「複製物の流通全般をコントロールし得る地位を保障することが適当であり……著作権者に排他性のある物権的な権利を付与することが相当」であり、また流通の実態より「右のような権利を認めたとしても、商品の流通を不当に阻害することにはならないとの立法政策的な判断」から、「行き先を指定する権利」として「映画の著作物」に対してのみ頒布権が認められたとする。
次に、著作物が著作権法上の「映画の著作物」と言い得るためには、
@当該著作物が一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであって、
A当該著作物ないしその複製物を用いることにより、同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)もの、
であることを要するとされた。
そしてこれに関して、本件ゲームソフトにおいてCD-ROMによって提供されているのは、「一定の内容・順序に従ってあらかじめ配列された連続影像ではなく、一種の素材としての多様な影像の集合であり、プレイヤーの操作により、影像が選択され、表示の順序が決定されて、初めて、画面に表示される具体的な連続影像が定まるのであ」り、「一連の連続した影像全部が著作者により選択・配列され、一定の思想・感情の表現として観客に提示されるのとは、質的に全く異なるものというべき」であり、よって、「映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(著作権法2条3項)に該当することはできない、と東京地裁は判示した。
これらからゲームソフトは著作権法にいう「映画の著作物」に該当せず、そのため頒布権も有しないとされ、また頒布権が消尽するかどうかも考慮の必要がないとされた。
以上の理由により、中古ゲームソフト販売は合法である。
2.1.2.大阪地裁 H11.10.7
この事案は、ゲームソフト製作会社が原告、ゲームソフトの中古販売のフランチャイズチェーンを運営、育成している会社が被告である。
原告らはゲームソフトは映画の著作物に該当し、原告らの許諾を得ずにこれらの中古品を販売する行為は、原告らが有する頒布権を侵害するとして、ゲームソフトの中古品の販売の差し止め及び廃棄を求めたのがこの事案である。
まず、ゲームソフトは「映画の著作物」に含まれるかどうかということだが、大阪地裁は著作権法上の「映画の著作物」には劇場用映画のような本来的な映画以外のものも含まれるとし、映画の著作物として保護を受けるためには著作権法2条3項の次の要件を満たす必要があるとした。
@映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)
A物に固定されていること(存在形式の要件)
B著作物であること(内容の要件)
ゲームソフトは影像・音声の表現方法が様々なので個別具体的な判断が必要であるとした上で、問題とされたゲームソフトはいずれも「全体が連続的な動画画像からなり、CGを駆使するなどして、動画の映像もリアルな連続的な動きを持った物であり、影像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており、一般の劇場用あるいはテレビ放映用のアニメーション映画に準じるような視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているといって差し支えない程度」のものであるとして表現方法の要件を満たしているとした。
また存在形式の要件は、「その存在、帰属などが明らかとなる形で何らかの媒体に固定されているものであれば」充足すると解し、プレイヤーの操作による影像・音声の変化も当該ゲームソフトのプログラムの設定範囲内であるから、そのデータがCD-ROMに記憶されているので固定制も認められるとした。
そしてゲームの具体的内容を検討すると内容の要件も満たしている。
最近、インタラクティブ映画と呼ばれる観客の反応に応じて複数用意された影像が選択されてストーリー展開が変化する劇場用映画も試験的に現れており、ゲームソフトなどのインタラクティブな表現形式をとる著作物について「映画の著作物」から排除すべき合理的な理由もなく、以上の理由によって、本件各ゲームソフトは著作権法上の「映画の著作物」に当たるとされた。
次に頒布権を有するか、ということであるが、著作権法26条1項では映画の著作物の中で頒布権を認めるものとそうでない物との区別をしておらず、「映画の著作物に該当する以上は、著作権者である原告らは本件各ゲームソフトについて頒布権を有することになる」とした。また、映画の著作物のみに頒布権を認めた背景には、製作に多大な費用、時間及び労力を要する反面、一度視聴されてしまえば視聴者に満足感を与え、同一人が繰り返し視聴することが比較的少ないという特性が考慮されているものと考えられるとし、よって同様に多大な製作費を要するゲームソフトに頒布権を認めることには実質的理由があるとする。
また、頒布権の消尽の有無であるが、大阪地裁は、著作権法上頒布権の消尽の規定が無く、頒布権には貸与も含まれるので消尽しないことを前提としていると解され、新設の譲渡権には第一譲渡による消尽が明定されたのに対し頒布権は何も変更されていない、特許権の消尽理論が直ちに著作権にも妥当するわけではない、などの理由から、ゲームソフトに第一譲渡後の消尽を認めることは解釈上十分な根拠がないと判示した。
ただし、同地裁も最後に、消尽しない頒布権を認めると「商品の自由な流通を阻害し、権利者に過大な保護を与えるように見えなくもな」く、「立法論としては異議があり得る」と認めている。
以上の理由により、中古ゲームソフトは「映画の著作物」に該当し、消尽しない頒布権を有しているため、中古ゲームソフト販売は違法である、と判示された。
2.1.3.東京高裁 H13.3.27
原判決を覆し、ゲームソフトは「映画の著作物」である、と認定した。その理由は、下記の3つである。
@本件各ゲームソフトはいずれも、「『眼の残像現象を利用して動きのある画像としてみせる』という、映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法によって、人物・背景などを動画として視覚的に表現し、かつ、この視聴覚的効果に音声・効果音・背景音楽を同期させて視聴覚的効果を生じさせている」こと。
A本件各ゲームソフトの影像は、いずれも、「細部にわたるまで視覚的または視聴覚的効果が創作・演出されている」こと。
BCD-ROMにデータとして再現可能な形で記憶されていること。
これらをみると大阪地裁でも用いられた著作権法2条3項にいう映画の著作物の3要件を満たしており、「映画の著作物」に該当すると考えられる。
次にゲームソフトは消尽しない頒布権を有するかということだが、「映画の著作物」に該当する以上、本件各ゲームソフトの著作権者はこれについて頒布権を有するものというべきである。
しかし、本来頒布権を劇場用映画の配給権と同義であると理解していたという立法趣旨などを考慮すると、頒布権が認められる「複製物」とは、「配給制度による流通の形態がとられている映画の著作物の複製物、および、同法上の立法趣旨から見てこれと同等の保護に値する複製物、すなわち、一つ一つの複製物が多数の者の視聴に供される場合の複製物、したがって、通常は少数の複製物のみが製造されることの予定されている場合の物であり、大量の複製物が製造され、その一つ一つは少数の者によってしか視聴されない場合の物は含まれないと限定して解すべき」として、本件各ゲームソフトは、「法26条1項にいう『複製物』に当たらず、したがって頒布権の対象にならない」と判示した。また、頒布権を有していないとされたため、消尽に関しては述べられていない。
以上によりゲームソフトは「映画の著作物」には含まれるが、「頒布権」は有しないとされ、中古ゲームソフト販売は合法と判示された。
2.1.4.大阪高裁 H13.3.29
まずゲームソフトが「映画の著作物」に含まれるかということだが、これは地裁の判決を受け継ぎ、「映画の著作物」に含まれるとされた。
次にゲームソフトに消尽しない頒布権を認めるか、ということであるが、地裁の判決を受け継ぎ、著作権法では映画の著作物の中で頒布権を認める物とそうでない物との区別をしていないことから、ゲームソフトは頒布権を有すると判示した。
しかし頒布権の消尽に関しては下記の理由により、ゲームソフトの頒布権は第一譲渡によって消尽する、と判示した。
@権利消尽の原則が認められるのは、著作権法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づく物で、著作権法の明文の法律の規定の有無にかかわらない論理的帰結である。
A著作物の権利者および著作物の権利者以外の物の行う頒布等の具体的行為態様の如何により権利消尽の原則の適用の有無が定まり、著作権の各種支分権のうち、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得る頒布などの権利の効力を及ぼすことの有無が決せられる。
よって、26条の頒布権は自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得るから、当然に権利消尽の原則という一般的原則に服する。ただし、具体的行為態様において、自由な商品生産・販売市場を阻害する物でない場合には、例外的に権利消尽の原則の適用を免れることになると解する、とされた。
以上から、劇場用映画に関しては「配給制度に該当する商品取引形態は、流通に置かれる取引の態様からして自由な商品生産・販売市場を阻害する態様とならないといえるから、権利消尽の原則の適用されない例外的取引形態」とされたが、ゲームソフトに関しては「ゲームソフトの複製物は、大量に生産され、直接、大衆に対し大量に販売され、本件各ゲームソフトは、一次卸店を通じて、卸店、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡されたのであるから、、劇場用映画におけるような例外的商品取引形態でなく、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般的原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができないと言うべきである」と判示した。
以上の点から原判決は破棄され、ゲームソフトは「映画の著作物」であり「頒布権」も有するが、その頒布権は第一譲渡によって消尽するものとされた。
よって中古ゲームソフトの販売は合法とされた。
2.2.現在までの判例の経過
ここで、この事件に至るまでの判例の経過を見る。
ゲームソフトが「映画の著作物」に当たるかどうかで争われた事件としては、まずパックマン第一事件(※1)がある。これは無断でゲームのROMをコピーしてゲーム店が使用していたのをどのように押さえるかという事件であり、裁判所はゲーム店の経営者の行為を押さえるために上映権という物を必要とした。当時上映権は映画の著作物にしか認められていなかったため、ゲームソフトを映画の著作物として構成しようとしたのである。
この事件において、著作権法2条3項から「映画の著作物」に該当するための3要件、
@映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)
A物に固定されていること(存在形式の要件)
B著作物であること(内容の要件)
が示され、当該ゲームソフトは映画の著作物に該当するとされた。ただし、この時はまだプログラムが著作権法の保護下になく、ゲームソフトが映画の著作物に含まれるかどうかは判例として疑問視される物であった(※2)。
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※1:東京地判昭和59年9月28日(判例時報1129号120頁)
※2:松下正「中古ゲームソフト判例から見るデジタル著作物の保護に関する考察」知財管理Vol.50 No.5 651頁
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このゲームソフトが「映画の著作物」として保護されるという判例を確定的にしたのがパックマン第二事件(※3)である。この判決で上記判決とほぼ同様の理由によってゲームソフトが「映画の著作物」にあたる、と判断されたことにより、上記の3要件に該当する場合は「映画の著作物」として保護される物とされるようになった。
よって、ゲームソフトはプログラムとしての保護とあわせて二重に保護されることになる。この後も、ときめきメモリアル事件(※4)など、同様の判決が下級審で相次ぎ、下級審ながらこの判例は定着していたといえる。(※5)
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※3:東京地裁平成6年1月31日(判例タイムズ867号280頁)
※4:大阪地裁H9年11月27日(判例タイムズ965号253頁)、大阪高裁平成11年4月27日
※5:辻田芳幸「ビデオゲームの影像が『映画の著作物』に該当しないとされた事例」コピライト1999年7号67頁
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また、頒布権に関する判例として、101匹ワンチャン事件(※6)がある。これはアメリカからビデオテープを輸入してライセンス無しで販売しようとした業者に関する事件である。このビデオテープはアメリカにおいて適法に販売された物であるから、ファーストセールドクトリンの法理により同国内に置いてはその後の頒布、流通に制限はなかったといえるが、東京地裁は、「劇場用映画の複製であるビデオカセットを公衆に販売する行為も26条1項所定の頒布権の対象となることは明白」であり、「アメリカ合衆国における前記許諾を理由に、並行輸入された本件ビデオカセットの頒布が我が国における頒布権を侵害しないとすることはできない」として、ビデオテープに関しても頒布権が存在すると判示した。
この判例により大量に複製し、転々流通することが予定されている複製品に対しても頒布権が認められる(※7)とされていた。
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※6:東京地裁平成6年7月1日(判例時報1531号207頁)
※7:松下・前掲651頁。
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2.3.各判例に対する考察
各判例に関する考察にうつる。
現在に至るまでの判例の流れとしてはゲームソフトは「映画の著作物」に当たり、大量販売を行う複製品に対しても頒布権を認める、という状況であったわけであるから、ゲームソフトに関しても頒布権が認められる方向にあったといえる。
また映画的な表現方法というのも、東京地裁で言うようにストーリー性を求めてはおらず、影像が動きを持って見えるという効果を生じさせさえすればよいとされており、音声や物語性は不要であるとされていた(※8)。
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※8土肥一史「テレビゲームと著作権法」コピライト2000年10号6頁
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この状況から見ると、大阪地裁の判決が一番今までの流れに沿ったものといえる。
さて、ゲームソフトが「映画の著作物」にあたるか、ということであるが、これに関しては東京地裁を除き、三裁判所で同様の理由により「映画の著作物」に当たるとされた。
まず東京地裁判決についてだが、「映画の著作物」には著作者の範囲、著作権の帰属及び保護期間に加え特有な権利として上映権並びに頒布権があるとした上で、頒布権が認められた立法趣旨が劇場用映画の配給制度と映画プリントの経済価値に着目したものとし、そして、著作権法はこのような劇場用映画の特徴を備えた著作物を映画の著作物と想定しているとしている。しかし、東京判決の問題点は、映画の著作物を劇場用映画の特徴を備えた著作物のみとしているところにある。現行著作権法はテレビジョン著作物など映画類似著作物を映画著作物に含めていることは第2条3項からも明らかであり、これに触れていないのは問題であろう(※9)。
では、ゲームソフトは「映画の著作物」に当たるとした三裁判所に関してはどうか。
大阪地裁の判決についてであるが、現行規定において「映画の著作物」は伝統的な「映画」のみならず、「映画類似の視覚的または視聴覚的効果」と「固定」の両要件を満たす物も含んでおり、また、パックマン事件や101匹ワンチャン事件などを考慮に入れると、ゲームソフトの著作物を表現方法だけの類似性を理由として映画類似著作物に当てはめ、頒布権をも認めていることは誤りではないだろう。しかし、映画の著作物を定めた理由や支分権の内容などを考えてみると、ゲームソフトの著作物を表現方法だけの類似性を理由として映画類似著作物とし、頒布権も認めているという判決は解釈上も問題があるというべきである(※10)。
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※9,10:三木茂「テレビゲーム用ソフトは著作権法上の『映画の著作物』に該当せず、同ソフトの著作権者は著作権法第26条1項の頒布権に基づく差止請求権を有しないとされた事例」判例時報1700号224頁
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東京高裁と大阪高裁においては、それぞれゲームソフトが「映画の著作物」であるということに関しては、大阪地裁でも用いられた映画の著作物の3要件をもとに、双方とも映画の著作物であると判断している。その上で、ゲームの自由流通の立場に沿った判決が下されたが、その結論への持って行き方が違う。
東京高裁は頒布権を有しないとしているわけだが、これは頒布権には「実質的根拠が認められる限り、解釈により文言に限定を加えることが許されているのは当然と言うべき」という判断から、26条1項に限定が加えられていると解している。
それに対し大阪高裁では、著作権法をそのまま解釈して頒布権を有していることは認めて、「消尽論」の観点から大量販売される物に関しては頒布権は消尽すると判断した。
歴史的・立法的観点から言えば東京高裁の頒布権の限定解釈のほうが、すっきりしているといえる。しかし「映画の著作物」には頒布権を適用できるものとできないものの2つがあるという解釈の仕方はいささか技巧的すぎると考えられる。条文にない限定を付け加えて実質的に法をねじ曲げているのはどうかと思われる。
また、大阪高裁の消尽論解釈であるが、26条の2によって第一譲渡による消尽に関しては「映画の著作物」を除くと明記されているのに、解釈によって法をねじ曲げるのが果たして認められるのだろうか。少々問題があるといえるだろう。
また、大阪地判では多大な製作費を要するゲームソフトに頒布権を認めることには実質的理由がある、とするが、それだけの理由でゲームソフトにも頒布権を認めるのは妥当ではない。東京高判でも述べられているが、頒布権は単なる投下資本の回収一般を保護の対象としたものではなく、劇場用映画の配給制度などの一定の流通態様を通じての投下資本の回収を保護したものというべきである。一度視聴されてしまえば視聴者に満足感を与え、同一人が繰り返し視聴することが比較的少ないという点も、その他の著作物にも認められる点であり、これも実質的根拠とはなり得ない。
東京地裁を除いた各裁判所は、パックマン判決を引き継いでゲームソフトは影像が動きを持って見えるという効果を生じさせていれば「映画の著作物」にあてはまる、としているが、この条件にすると困ったことも起きる。ワープの発売した「リアルサウンド〜風のリグレット〜」というゲームソフトがあるが、これは影像がなく、音のみで構成されたゲームである。影像がないのであるから動きを持ってみえるはずもなく、「映画の著作物」にはあたらないとされるであろう。
また、アドベンチャーゲームなどにある紙芝居的なゲームはどうか。ときめきメモリアル事件においては映画の著作物とされたが、ビジュアルノベルと呼ばれるジャンルのゲームは動きがほとんど無く、映画の著作物とするのは難しいと思われる。もちろんこれらのゲームにおいて映画的な表現技法などは使われていない。
これらを見ると、同じゲームソフトでも映画の著作物と映画の著作物には含まれない物に分かれることがわかる。また、一部だけアニメーションが含まれているようなゲームソフトに対しては裁判所は映画の著作物に準ずるという考え方をしているようだ。つまり、同じゲームソフトであっても全く別の保護が与えられることになり(※11)、これでは公平さを欠くと言えるし、中古販売などの時にはそれぞれゲームソフトの内容を考慮して行わなければならなくなってしまう。そして映画の著作物とそうでない物との間の線引きは繁雑な作業となるであろう。
大阪地判でも触れられているが、ゲームソフトのような大量に販売される物に対して頒布権を認めると、自由な流通を阻害するおそれがある。現に公正取引委員会は、ソニー・コンピューター・エンターテイメント(以下SCE)が小売店に対して直接又は取引先卸売業者を通じて、
@プレイステーション(以下PS)ソフトの販売価格の拘束。
APSソフトの中古品の取扱いの制限。
BPSハード及びPSソフトの卸売販売の制限。
を行っている等として、SCEに対し独占禁止法第19条の規定に違反するものとして、同法第48条第1項の規定に基づいて勧告を行った。
しかし、SCEはこの勧告に応諾しなかったため、公正取引委員会は平成10年2月6日SCEに対し審判開始決定を行っている(※12)。
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※12:小倉 秀夫「ビデオ・ゲームの中古販売と著作権法」(http://www.ben.li/essay/Second-handed-game.html)。なお2001年7月現在までに18回の審判報告がなされている。審決はまだ発表されていない。
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劇場用映画は「行先指定権」としての頒布権を与えられているが、これは配給制度が既に存在していたからこそ、商品流通を不当に阻害しないのである。複製品を大量に販売するゲームソフトに認めるのは問題があるといえよう(※13)。よって、東京高判と大阪高判でゲームソフトに消尽しない頒布権を認めなかったことは、妥当な判断であったといえる。
101匹ワンチャン事件は先にも述べたとおり、大量に流通させる物に対しても頒布権を認めている。これはビデオテープでありゲームソフトとはまた別の問題となるが、今後DVDソフトなどデジタルで大量に販売される映画の著作物が増えてくる中で、どこまで頒布権を認めるかをきちんと策定する必要があろう。ただし、この事件に関しては並行輸入が問題となったのであり、頒布権よりもむしろ輸入権の問題になるのではないかと思われる(※14)が、ここでは触れないでおく。
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※13:大楽光江「中古ゲームソフトと頒布権」ジュリスト平成11年度重要判例解説281頁
※14:斉藤博「映画のビデオカセットを並行輸入し販売する行為と頒布権の侵害」判例時報1531号210頁
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3.ゲーム業界の実態
次にゲーム業界の実態について述べる。まず現在もっとも主要な流通であるゲーム専門店を通した流通について述べ、その後中古販売の実態やユーザーの意見を資料を用いて説明しする。ゲームソフトの複製可能性に関して述べた後、最後に今後のメインになるであろう流通について述べる。資料に関してはテレビゲームソフトウェア流通協会(以下ARTS)で公開されているものを主に用いている。
3.1.主要流通の実態
ゲームソフトの流通形態についてみてみると、「主な著作物の流通形態の比較」(※資料1)に記されているが、コンシューマーゲーム業界のSCEやSEGAはメーカー直販制をとっており、これにより「価格維持・中古規制・転売禁止」に実効性を持たせている。この価格維持などに関しては、前に述べているように98年1月に公正取引委員会から排除勧告を受けている。しかしSCEは排除勧告を受け入れず、今も審判が継続している。
ゲームソフトは一部の大手ソフトメーカーを除いて、ソフトメーカーよりハードメーカに生産委託され、ハードメーカーから通常の卸店を通さず、直接販売店と販売契約を行って販売されている。卸店、FC本部を介する場合も販売先の許可制を敷いている。この直販体制によって価格の統制と中古規制などの支配を強めている。
ゲームソフトは完全買い取り制であるため、販売店にとって在庫リスクが高い。販売店の収益率は1本あたり25%であり、値引きを行うと16%程度になる(※資料2「新品ソフトの収益配分」)。また、返品制度がないため在庫の可能性が高くなる追加注文などはしにくく、また入荷数も押さえがちになる。
新作発売後しばらくたっても定価の75%という納入条件は変わらないため売値を下げることはできず、中古価格との差が開くため、新品が売れなくなるという循環をまねいている。一部メーカーでは販売から半年から1年後にベスト版として2800円で再発売するようになり、中古にも対抗できるようになるが、これはあくまでも一部のメーカーであり、有名ソフトほど行われていない。
ゲーム市場の特殊な点として、ハードメーカーはハードウェア価格を引き下げ、その分の損失をソフトウェアから得る方法がとられている。そのため、ソフトウェアの販売価格のうち20〜25%はハードメーカーに渡されており(※資料2)、この分ソフトウェアメーカーの収入は小さくなり、また小売店の収入も小さくなっている。
3.2.中古販売の実態
次に中古販売の実態だが、2000年CESAゲーム白書をみると、1999年の国内でのゲームソフト出荷額は3285億円(前年比6.9%減)、中古ソフトの購入比率は年間平均購入本数の29.0%とされている。この結果からゲームソフト市場の実に3割近くを中古ソフト市場が占めていることがわかる。ただし、このデータはあくまでも購入本数であり、中古ソフトの値段は中古ソフトよりもかなり安くなるため、額としては2割程度になるのではないかと思われる。
裁判の際にゲームソフト会社は販売機会損失額2325億円として提出したが、これは、98年の中古ソフト売上本数4048万本に新品ソフト売上単価の5743円を単純に掛けたもので、これは全く妥当とは言えない。中古で値段が安くなっているから買っている、という人間もまた多く、中古が無くなったから新品を買うという人間ばかりではないからだ。ユーザーの心理については次で述べる。
「ARTS加盟店の1店平均の収益の動向」(※資料3)を見ると、中古販売の粗利率は95年から97年で、それぞれ44%、46.5%、54.2%となっている。これによってゲーム専門店はかなりの利益を上げているようにも見えるが、実際には新品販売によってほとんど利益を得られていないのと、中古規制による中古販売占有率の低下により、総合の売り上げとしては低下している。
現状では中古の販売を行わないとゲーム専門店は利益を上げられず、株式会社ブルートのように倒産(※15)しかねない。
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※15:株式会社ブルートは中古売買を行わず99年3月に倒産。不良在庫の増加が原因と見られている。
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3.3.ユーザーの意見(アンケートより)
ここでユーザーの中古ゲームソフトに関する意見をARTSその他の行ったアンケートより見てみる。
テレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS)が第二審に対してかなりの資料を提出しており、また、ホームページにおいてもいくつかの資料を公開している(「テレビゲームソフトの中古販売に関する実態調査」「テレビゲーム市場の実態」)。その中に、「中古売買が無くなったら」というアンケート(※資料4)がある。これをみると、中古の代わりに新品のソフトを買うという回答は11%にしかすぎず、ゲームを買う本数を減らすという回答のほうが多い。また「中古ソフトは必要か」というアンケート(※資料5)に関しては、ARTSのアンケートで必要が97%、「ゲーム批評」98年5月号のアンケートで必要が90%に達している。ARTSのアンケートが中古を扱っている店で行われた点には留意しなければならないだろうが、ゲームユーザーは中古ソフト市場を必要としていると言ってよいと考えられる。
また、なぜ中古を必要としているかだが、それに役立つ資料として「家庭用テレビゲームソフトウェア価格に対する受け取り方」のアンケート(※資料6)と、「中古ソフトの購入理由」のアンケート(※資料7)がある。前者をみると、TVゲームソフトを高すぎると感じているのが27.4%、やや高いと感じているのが53.1%と、80%以上が価格を高いと感じている。そして、後者によれば、中古のほうが安いが62%、中古でしか買えないが23%と価格が安いからという意見が多い。中古市場の存在は新品の価格引き下げに効果があるはずだが、先に述べたように新品は定価維持がなされているため価格が下がらず、結果として発売から一定期間が過ぎると新品が市場から消え、中古のみがでまわるようになっている。
「ゲームソフトを売る理由」というアンケート(※資料8)をみると、新しいゲームを買うため、という理由が30%を占めている。購入ソフトが新品か中古かが特定されてはいないが、CESAゲーム白書によれば新品販売比率は70%あるので、中古ゲーム市場を無くすことは新品市場の縮小をも招きかねないと言えるであろう。
3.4.ゲームソフトの複製について
ゲームソフトの中古販売に関しては、どうしてもゲームソフトの複製に関する疑念がつきまとう。つまり、購入したゲームソフトをすぐに複製して、元ソフトを売っているのではないか、という疑念だ。CD-ROMはCD-Rドライブとライティングソフトを使って簡単に複製が行えること、実際に秋葉原などではゲーム発売の当日のうちから中古ソフトが出回ることがあり、ヤフーオークション(※16)などのオークションサイトにも出品されていることがあることなどから、問題視される。
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※16:http://auction.yahoo.co.jp/ 日本におけるオークションサイトの最大手。ゲームソフトもほぼ常に数万本が出品されている。
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では、本当にゲームソフトの複製は簡単に行うことができるのか。まずSCEのPSのソフトについてみる(※17)。
PSソフトはCDの最内周部分のTOC(Table of Contents)と呼ばれる部分にプロテクト情報が刻まれている。このプロテクト情報を本体で読みとることで、そのソフトが正規品であるかどうかは判断されている。このTOC部分の編集は市販品のCD-Rドライブとライティングソフトでは行うことが不可能であるため、PSで自動的に認識されて起動するCD-ROMを作成することは個人では不可能とされる。
TOC部分が複製できないことから、まずプロテクトチェックを行っている本体側を改造することが考えられ、「MODチップ」と呼ばれる解除装置が誕生する。これを本体にとりつけることで、プロテクトチェックをすり抜けて複製されたゲームソフトを動かせるようにしたわけだ。
これによって複製を行うことができるようになったわけだが、この状況に対して、レッドハンドプロテクトというものが考案された。これは本体にMODチップが入っている場合に、ソフトが強制的に終了するという仕組み。これの誕生によって、複製CD-ROMを使用できる機体では、新しいソフトはプレイできないという状況が生まれる。
しかし、このレッドハンドプロテクトを破るための「RHPパッチ」と呼ばれるプログラムや、MODチップの電源にスイッチをつけて動作をコントロールする方法などが考案されていたちごっこの状況となり、そのためか最近ではレッドハンドプロテクト自体が使われなくなってしまった。
現在ではレッドハンドプロテクトが全てのパターンでつくしているため、そのパターンを研究・網羅した「MODチップ2000」と呼ばれるものを利用すれば、全ての複製品を動かすことができるようになっている。また、プロアクションリプレイ(以下PAR)と呼ばれるPSの背部にあるシリアルポートにさしこむことでプロテクトチェックを回避するハードウェアも生まれている。
以上に述べたように、PSソフトにはプロテクトがかかっているが、プロテクト解除用のハードウェア機器を用いることで複製ゲームソフトでも遊ぶことができる。けれども、MODチップは1999年10月に不正競争防止法により違法品として販売が禁止されており、通常の手段では手に入れることができなくなっている。よって、実際に行われている複製はかなり少ないものと思われ、百万本単位で売られているゲームソフトの極々一部にすぎないと考えられる。
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※17:PS用ソフトのプロテクトに関しては、「CD-Rマニア ゲームラボ編」(三才ブックス)52〜59頁の「Buck-up for CD プレイステーション用ソフトCD-ROMフォーマット」より。
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プレイステーション2(以下PS2)に関しても同様にMODチップなどの開発が行われているが、複雑な機構ゆえに以前のようなバックアップCDをそのまま起動できる、というようなことはなく、そのうえ、モデルチェンジによってMODチップを無効化するような改造が行われており、ほとんど複製は行われていないといえる(※18)。
セガのサターンのソフトのプロテクトはCD外周部に印刷された"SEGA"のロゴと一部の文字列を読むことで行われている。そのためCD-Rでは再現することができず、起動できる複製CDを作成することは不可能だ。
複製CDを動かす方法としては、サターンキーと呼ばれる改造モジュールの取り付けなどがある。しかし、これも不正競争防止法により違法品とされて販売が禁止されているため、通常の手段で手に入れることはできない(※19)。
上記より、ゲームソフトの複製品を作成することは非常に難しいといえる。ハードウェアの改造を伴うため、技術的な知識も必要とされ、実際の複製はかなり数が少ないものと考えられる。PARを利用すればハードウェアを改造する必要はないが、最近のPSではシリアルポートがはずされており、PARは利用できないようになっている。
また、秋葉原やヤフーオークションで発売当日に中古品が売られているという話であるが、これに関しては秋葉原などでは販売を増やすためにショップ独自の特典が配布されることがあるという事情がある。特典目当てでソフトを複数買ってソフトを売り払うということや、特典そのものにプレミアがつくためそれを見越して買い込んでオークションで高く売るということは、ごく普通に行われており、そのことによって発生した中古品である可能性も高い。もちろん複製品を作って元のソフトを売り払ったものもあると思われるが、それはごく一部であろう。
CD-ROMはデジタルデータであるから半永久的に劣化しないなどといわれるがこれは誤りである(※20)。デジタルデータはアナログデータと違い、劣化しないコピーを行うことは可能だ。しかし、メディアであるCD-ROMは傷つきやすく、データの破壊も頻繁に起こる。CD-ROMに関しては寿命は丁寧に扱っても30年から50年程度と考えられており、100年以上も残る紙などとは比べものにならないのが実情だ。
CD-ROMは1カ所に傷ができただけでもそのゲームに対して致命的な被害を与えてゲームができなくなる可能性がある。本のように少々傷がつこうと内容に変わりがないものとは大きく違う。中古ゲームソフトに関しては傷が少ない、ゲームに支障がないものが取り引きされるようにはなっているが、常に動作に関する不安がつきまとっている。
ゲームソフトの複製はバックアップに使われている可能性も大きいといえよう。
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※20:小倉 秀夫「デジタル・コンテンツの特徴〜「半永久的」という幻想〜」(http://www.ben.li/essay/eternal_dream.html)
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3.5.これからの流通
ゲームソフトの流通は少しずつ移り変わっている。特にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)がはじめたゲームソフトレンタルや、インターネットの普及により活発化し始めているオンライン通販やオンラインでの配信は、これからの流通に大きな影響を与えていくと見られる。
ここでこれらの現状と将来について述べる。
3.5.1.ゲームレンタル
ゲームソフトのレンタルは、従来からメーカー側が著作権侵害であるという立場をとっており、厳しく対処されてきた。一時は貸しソフト屋といわれる店が全国で経営されていたが、取り締まりの厳しさから98年頃までにほとんどの店が検挙されるか、経営を辞めている。
そんななか、CCCは2000年9月30日から全国600店舗以上のビデオレンタル店「TSUTAYA」でレンタルを開始した。料金は7泊8日400円で、今のところセガ・エンタープライゼスの家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」対応のゲームソフトに限られている。
著作権者に売上額の一部を還元させる仕組みは不可欠であるという立場から、レンタル回数に応じてソフトメーカーに料金をフィードバックする流通形態を採用し、商品を店舗に対してのリース扱いとし、売上を店舗とメーカーでシェアするようにしている(※21)。
| ※21:松沢 敬介「TSUTAYAがゲームソフトのレンタルを開始」(Mainichi INTERACTIVE ゲームクエスト「中古ゲーム裁判特集」http://www.mainichi.co.jp/life/hobby/game/judge/37.html)
「日本初9月30日より『TSUTAYA』がゲームソフトのレンタルを本格的に開始 」(SEGAニュースリリース2000/08/03 http://www.sega.co.jp/sega/corp/news/nr000803_3.html)
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セガは新規発売後、約4か月過ぎてからレンタル市場にゲームを供給する方針である。発売後4ヶ月もたつとほぼ新品の発売は終わりをつげており、その時期から低料金でレンタルを行うことによって売り上げて低下よりも、ゲームユーザーの裾野を広げる効果があるとみているようだ。
現在のところ他社は追随する様子を見せていないが、中古ゲーム販売訴訟の結果次第では、追随する可能性は十分にある。
アメリカではかなりはやくからゲームソフトのレンタルが行われている。料金は4日間3〜5ドル程度。ソフト会社への使用料無しで行われており、新品発売の1週間ほど前からレンタルが行われている物もある。期間と値段設定から、体験版としての使用という位置づけにあるようだ。
このゲームレンタルの影響はゲームユーザーの裾野を広げることに加えて、中古販売の低下も予想される。購入してすぐクリアして売る、というタイプの人間にとっては、レンタルのほうが遙かに安くゲームを楽しめるからだ。中古市場に持ち込まれるソフトはこの手のものが多く、中古販売に打撃を加えることになる可能性がある。
3.5.2.オンライン販売
Webの発達により、メーカーが直接Webサイトを通じてゲームソフトを販売するような状況も起こっている。たとえばPSではプレイステーション・ドット・コム(http://www.jp.playstation.com/)を通じてハードメーカーがオンライン販売を行っている。定価販売であるが、ポイント制を使って実質1割引で売っている。送料がかかるため、最終的な割引率は5%未満ではあるが、発売日に自分の家に届けてもらえ、かつ確実に買えるというメリットがある。
小売店でも同様の試みが行われている。小売店の場合はショップ独自の特典をつけたりすることが多い。またそれが特典のみを目的とした購入にもつながっているようだ。
ハードウェアメーカーやソフトウェアメーカーによるWeb通販の発展次第によっては、小売店の利益がかなり失われることが予想される。現在メーカーは小売店に対して75%で卸しているが、その値段でWeb販売が行われるようになれば間違いなく小売り販売は激減するようになるだろう。
3.5.3.オンライン配信
最近ではVector(http://www.vector.co.jp/)のプロレジ・シェアレジで販売されているものに代表されるようなオンライン配信型のゲームも誕生している。
これはWebを通じてゲームを自分のパソコンにダウンロードし、試用することができる。ちゃんとプレイしたいと思ったら購入してライセンスキーを発行してもらい、それを用いると機能限定が解ける、という方式が多い。
今のところパソコンゲームにしかこの方式は存在せず、あまりメジャーといえるような状況でもないが、これから先FTTHの普及などでブロードバンド化が進み、PS2やXBOXのようにインターネット対応型のハードウェアが増えると、この方式の使用も増えていくことが予想される。
この方式は中古と新品の違いが全くといってない。また、複製防止コードの使い方によっては中古販売はおろかバックアップをも一切行えないようにすることも可能であろう。この方式に関しては今までとは全く別の形での保護を考える必要があると思われるが、これに関しては本論文では取り上げないこととする。
4.私見
現行著作権法の条文や過去の下級審判例をもとに判断すれば、ゲームソフトを「映画の著作物」に含めることに問題はないと思われる。また、頒布権の適用に関しても条文上は一切限定について述べられておらず、平成11年の著作権法の改正の際で譲渡権を導入したときに一切頒布権に変更が加えられていないことを考慮すれば、大阪地裁の判決のようにそのまま消尽のない頒布権が適用されても論理上おかしいとはいえない。
しかし、「映画の著作物」と「頒布権」の認められた経緯や、ゲーム業界の実態をふまえて考えてみると、ゲームソフトを「映画の著作物」としてみとめてよいとはとうてい思えない。本来の保護対象であった劇場用映画とはほど遠いものまで「映画の著作物」に含まれ、それだけの理由で頒布権を享受できる仕組みも問題であるといえる。立法論の立場になってしまうが、「映画の著作物」の定義を考え直すか、「頒布権」を認める対象を条文上で制限する必要があると考える。
平成7年2月に文化庁が出した「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告」では、「映画の著作物に関する頒布権の付与については、立法当時の状況とは異なってきており、見直す必要があるということには異論がなかった」とされている。見直しの方向としては、下記の2つがでている。
[A]映画以外の「視聴覚著作物」または「マルチメディア著作物」については、頒布権を与えず、他の著作物と同様に貸与権のみとする。
[B]映画や「視聴覚著作物」または「マルチメディア著作物」に限らず、著作物一般について頒布権を設けることとするが、著作権者の許諾を得て複製物の所有権が移転したときはその後の当該複製物の貸与をのぞく再頒布には著作権者の許諾を要しない物とする。
Bに関しては平成11年改正で導入された譲渡権そのものといえる。しかし、上でも述べたように譲渡権創設の際に頒布権については変更が加えられておらず、そのため頒布権には第一譲渡による消尽は認められていない。そのため、著作物の取扱いの均衡を失していると言える。その上Aのように映画の著作物と視聴覚著作物をわけることもしていないため、「映画の著作物」は範囲が不明確で、その範囲不明確な物に対して厚い保護が与えられるという結果になっている。
大阪高裁、東京高裁ともにこのAとBの立場を折衷させたような判断を下しているが、大阪高裁では劇場用映画以外では頒布権を消尽させ、東京高裁では劇場用映画以外の著作物には頒布権を与えないとしている。これは頒布権が強い権利であり、それを広範に認めるわけにはいかないという判断もあってのことであろう。
私はそもそもゲームソフトを「映画の著作物」に含めるべきではないと考えている。東京地裁の考え方に近いが、東京地裁のように「映画の著作物」を劇場用映画に限るべきだという考え方ではない。
東京地裁の判決は「映画の著作物」が頒布権という強力な権利を持つのは配給制度の存在が前提にあったとする。確かに立法経緯を見ればその通りなのだが、現在ではテレビジョン放送なども頒布権によって守られているのもまた確かである。
私は頒布権を「1つの複製品を持って多数の人に視聴させる、複製品の1つ1つが多大な経済的効果をもたらすもの」に対して与えられるものと再定義する、もしくは解釈することを提案したい。映画は劇場で、テレビジョン放送はテレビ放送網を通じて、という違いはあるが、1つの複製品によって多数の人に視聴させている、ということに違いはなく、1つ1つが多大な経済的効果を伴っているのも確かである。
つまり、「映画の著作物」は劇場用映画のフィルムとテレビジョン放送のマスターテープのみとしてはどうかという提案である。そして「頒布権」は「映画の著作物」に対してのみ与えられることとする。そもそも頒布権は1つ1つが多大な利益を生み出す高価なフィルムに対して厚い保護を与えるために作られた権利である。原点に帰って考えれば、この考え方はそれほど見当違いのものではないと考える。
ビデオなどの大量生産品に対するコントロール権は、譲渡権による第一譲渡までにしておかないと流通を著しく害するおそれがある。特に最近ではDVDの普及によって、ビデオをレンタルするのではなく、DVDを購入する人間が増えている。DVDソフトの中古販売は現在普通に行われているが、それらも規制することが可能になってしまう。
また、ゲームソフトに関してであるがこれもまた「映画の著作物」に含めるべきではない。先にも述べたように同じゲームソフトでも「映画の著作物」に含まれる物と含まれない物があるようでは一貫性を欠くし、数百万本と販売される物に頒布権を認めては流通を著しく阻害すると考えられるからである。
「映画の著作物」に含めない以上、頒布権も与えるべきではない。もちろん中古販売に関しても禁止すべきではない。ゲームソフトには譲渡権による保護を与え、最初の譲渡に対してのみコントロールする権利を与えるだけで十分であろう。またこれに関してはDVDソフトなどの大量複製がなされる映像著作物も同様の保護でよいと思われる。
新品が高くなりがちな理由はハードメーカーの徴収している費用にもあると考えられる。SCEなどの収益状態から考えれば20〜25%というこの費用は、かなり低くても十分に利益が上がると考えられ、この部分を引き下げるだけでも新品価格はかなり下がり、中古との競争も十分に可能になる。むしろ、ハードウェアの費用をソフトウェアから徴収するという制度自体が新品価格の高さを生んでいるといえ、ライセンス料を大幅に引き下げたり、ハードウェア価格を引き上げてソフトウェア価格を引き下げるということも考える必要があるだろう。そのような価格に対する努力をせず、中古市場のみを一方的に攻撃するのは問題であろう。
私はゲームソフトに関しては「ゲームの著作物」という新たな類型を創設することを提案したい。とくに特殊な権利を認めるわけではなく、流通に関しては他の著作物と同様に譲渡権を認めれば足りると考える。
中古販売を認めた上で、その中古販売から数パーセントをソフトメーカーに還元する仕組みが現在提案されているが、これも認めないほうがよい。中古販売からソフトメーカーへの還元方法としては、二次使用料の徴収のような形が考えられ、実演家がレコードの二次的利用について使用料を請求できるように中古ソフトの販売数1本あたり数パーセントという適正な料率を定めソフトメーカーに還元できるようにする、と提案されているが、これは結局のところ中古販売を抑制し、ゲーム業界の縮小につながりかねない。これに関してエニックスが「発売後9ヶ月間の中古販売禁止と9ヶ月後の中古販売に対して7%の使用料による中古販売許諾」を契約上求めているが、料率はともかくとして販売禁止期間が9ヶ月もあっては、流行の移り変わりの激しいゲーム業界では中古販売そのものを禁止しているのとほとんどかわらないものである。
料率に関しては低く設定したとしても結局はその徴収、分配などでも費用が発生し、コストはそれなりに高くなるだろう。現状でもそう利益が上がっているとはいえないゲーム専門店にとってその支出は致命的なものとなりかねない。またこの数パーセントの利率によって起こる価格の上昇により、ゲーム市場自体の縮小を招く可能性も存在する。
私としては先に述べたゲームのレンタルなどをもっと活発にしてはどうかと考えている。ゲームソフトは、映画と同じように一度試聴されてしまえば視聴者に満足感を与えて同一人が繰り返し試聴することが比較的少ないという特性がある、ということから頒布権を認めるべき、という意見(大阪地裁)があるが、これはゲームの中でもロールプレイングゲーム(以下RPG)のような類型にあてはまるものである。シミュレーションゲームなどにはこれは当てはまらない。
ゲームのレンタルを活発化すれば、シミュレーションゲームなどはゲームの試用ができるようになり、それで気に入って購入する、という選択肢ができる。RPGに関してはその借りた期間だけでクリアするということもあるだろうが、気に入った人間が購入するという選択肢ができるうえ、高くて手を出せなかった人間が借りるという方法でゲームを楽しむようになれば、利益が激減するということにはならないだろうし、むしろ利益が上がる可能性の方が大きいのではないか。
このようになると中古市場は小さくなっていき、やがて現在の音楽市場などのようになっていくのではないか。そのようになれば、特に頒布権をどうこう言うこともなく、市場がバランス良く利益を上げられるようになるのではないかと考えている。
ゲーム市場の成長率は頭打ちだと言われているが、決して可能性がなくなったとかこれから発展しないとかいうわけではない。むしろ発展可能性はかなりあり、そしてゲームソフトは日本が世界に誇ることのできる文化ともなっている。中古販売を規制することはゲーム市場自体の縮小をまねきかねず、決していい方法とはいえない。
法律の観点からしてもゲームソフトを映画の著作物に含めることはやはり問題があろう。頒布権は大量生産物に対して適用することを予期してはいない。新たな著作物に関しては新たな枠組みを作って保護することを考えるべきであろう。
5.参考文献
斉藤博「著作権法」有斐閣 2000年
及び、文中であげられているもの。
※資料
文化庁「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告−マルチメディアに係る制度上の問題について−」1995年
文化庁「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告」H7.2
ARTS「テレビゲームソフトの中古売買の実態について『CESAへの反論』」会見98.3.19
http://www.arts.or.jp/news/dreport/index.html
ARTS「テレビゲームソフトの中古販売に関する実態調査」1997
http://www.arts.or.jp/news/dreport/enquate.html
テレビゲームソフトウェア流通協会「テレビゲーム市場の実態」2000.1.19
http://www.arts.or.jp/docs/data1.pdf
テレビゲームソフトウェア流通協会「甲第12号証について」2000.1.19
http://www.arts.or.jp/docs/data2.pdf
平成13年 6月10日 初稿完成・HTML化
平成13年 7月20日 二稿完成・HTML化
平成13年11月01日 二稿公開

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