セックス、ドラッグ、堕落...もしあなたがこういったものをロッカーには欠かせない要素だと考えているとしたら、アワ・レディ・ピースのフロントマンのレイン・メイダは、色情症の女たちの手にかかれば役立たずと烙印を押されそうなタイプだと映るだろう。
「僕は間違いなく内向的な人間だよ。多くの時間、特にツアーに出てる時は、ひとりでいるのが好きだしね。12月にステレオフォニックスの前座でイギリスに来た時、最初のライブはグラスゴーだったんだ。ツアーバスが会場(SECC)の外に止まった時、他のヤツはみんな寝ててさ。で、他に何もすることがないから、静かな部屋を見つけて、そこに腰を降ろしてアコースティック・ギターを3時間弾いてたんだ。これまでのところ、生きてきた中でその時が最高に幸せだったね」
おわかりだろうか? ここで話題にしているのは、放蕩にふけることが身に染み付いているような人間ではなく、思慮深く、情熱的で、繊細な人物なのだ。本当は、ツアーなどという混乱極まりないものにさらされるべきではないタイプだろう。だが、メイダはツアーの苦しさにも上手く対処しているようだ。というか、そうしなければならないのである。カナダのバンド、アワ・レディ・ピースは、いま時間の多くをフリーウェイやハイウェイの上で過ごしているのだから。
メイダとそのバンドメンバーたち ― ギタリストのマイク・ターナー、ベーシストのダンカン・カウツ、ドラマーのジェレミー・タガート、そしてツアー・キーボーディストのジェイミー・エドワーズ ― は、ここへきて急にひっぱりだことなっている。『Happiness...Is Not A Fish That You Can Catch(幸せ...それは捕まえることができる魚とは違う)』という奇抜なタイトルがつけられた彼らのサード・アルバム(1994年のデビュー・アルバム『Naveed』と1997年の『Clumsy』に続くリリースとなる)によって、アワ・レディ・ピースは北アメリカでトップクラスの人気を獲得することが期待されている。そしてようやく、イギリスやヨーロッパでも本格的に注目を集め始めているのだ。
アワ・レディ・ピースをどのように説明したらよいだろう? ライブやU2、パール・ジャムを思い浮かべてもらえれば、アワ・レディ・ピースのイメージをほとんどつかめるだろう。
「僕は初期のU2を聴いて育ったんだ」メイダは言う。「6か月くらいは、ストーンズやスプリングスティーンの大ファンだったこともあるんだよ。でもU2の音楽っていうのは、首筋の毛が逆立つような感じだったんだよね。そういう感じこそ、シンガー・ソングライターとして、僕が何かを書くたびに伝えたいと思ってるものなんだ。僕はずっと、パフォーマ−になりたいと思ってた。そうすれば、自分の考えを伝えられるからね。ステージに立てば、説教したりせずに自分が書いた歌詞をみんなに向かって叫べるだろ。ステージは素晴らしい所だよ。僕は自分が他の誰とも違っているとか、観客の中の人たちよりももっと難しい問題を抱えているとか言うつもりはないんだ。それに、みんなにどう生きるべきかなんてことを言おうとしてる訳でもない。むしろ、全く逆だよ。僕はみんなに自分で考えてもらいたいんだ」
「僕は独立した一人の人間だ。どうすべきだとかこう考えるべきだなんて言われたくないし、他の人だってそんな風に言われるべきじゃない。自分がどうあるべきか、あるいはどうあっちゃいけないかってことについて、他人のくだらない考えを受け入れるようなまねはしないよ。だから、僕はほとんどテレビを見ないんだ。テレビというのは、見る人自身の考えや個性を弱めてしまうからね。僕はいつもそんな風に考えてたな。子どもの頃だって、自分が色々なものに挑みたいんだってことがわかってたし。僕は高校を退学になったんだけど、それっていうのも僕がバンドにいて髪を切るのを突っぱねたからなんだ。ばかばかしいったらないよ。髪の長さで、どうして人が教育を受けるのを止めさせたいなんて思うんだ? 高校にとどまって、ああいったくだらない規則をひとつ残らず受け入れるのは、僕には重要なことだとは思えなかったんだ」

メイダはトロントで、音楽といえばエルヴィス、エルヴィス...そしてまたエルヴィスという家庭で育った。
「本当にクリエイティブな環境の中で育ってきたとは言えないな」彼はそう認める。「親父がかけるレコードはただひとつ、エルヴィス・プレスリーのだけだったからね。僕が13歳の時に両親が離婚して、僕は遠くの学校へやられたんだ。13歳から19歳までの間、僕はひとりで生きてきたと言ってもいいんじゃないかな。自分以外には、頼れる人間なんて誰もいなかった。今では僕には養子の弟がいるんだけど、その6年の間は実際一人っ子だったんだ」
高校で髪の毛をめぐって起きた問題にもかかわらず、メイダは大学へ行くことができた。
「僕はいつだって、人が良い教育を受けることには賛成してきたんだ。学べば学ぶほど、色々なことがわかるようになるからね。僕は犯罪学を勉強したんだ。たぶんそのせいで、人生の暗い側面に引き付けられるようになったんだろうな。そういう側面は、今までずっと僕の歌詞に引き継がれている。四六時中誰かと寝たり酔っぱらったりしているような内容の曲を書くより、僕が人間の心の暗い面を取り上げるのは、それが理由かもしれないね」
メイダは自分のことを、成功したロックバンドにいるただのヴォーカリスト/作詞家とは考えていない ―「僕はアワ・レディ・ピースを、何か別のものへの踏み台として使ってる訳じゃないよ。そんなの、他のメンバーにも、このバンドが僕にとって意味するようになったものに対しても、失礼だからね」そう彼は懸命に話しているが ― しかし、自分が持っている文章を書く能力を、ソングライティングという形式以外でも磨きたいと切望していることは事実だ。
「小さい時からずっと、物を書くのは大好きだったんだ。今はちょうどツアー日記を付け始めたところでね。書いているのは、とりわけ現在のアメリカにおける銃問題についてなんだけど、これって本当に恐ろしいことだよね。これはカナダ人として、僕にもすごく関係のある問題なんだ。まだカナダでは深刻になっていないけど、銃問題という暗雲は今にもカナダ中に立ち込めて、社会の枠組みを壊そうとしているからね。これって、本か何かになるよね。音楽とは何の関係もないことだけど、僕は物を書く人間として自分の考えを述べてるんだ。他の人にも、その問題について僕がどう感じているかわかってもらいたい。銃が広まればカナダは衰退してしまうと、僕は本当に信じてるんだ」
「アメリカでは、ステージに上がるたびに、観客の中に今にも銃を引き抜いてこっちを撃とうとしてるヤツがいるんじゃないかって恐怖を感じるんだ。フロリダやその他のいくつかの州では、武器を隠し持つことが法律で認められてる。全くぎょっとするような話だろ? 僕自身はまだ銃を向けられたことはないんだけど、ひとりでタクシーに乗ったら、運転手が助手席に銃を3丁置いてたことはあるよ。そんなの見たらビビるよ。アメリカ人は決まって、武器を持つのは自分たちの権利だって言うけど、毎日どれだけの人が殺されているかを知ったら、ジェームス・ヘットフィールドのような人たちは年間5万人の命を救うために狩りをやめる覚悟をしなくちゃいけないんじゃないかな。そうする価値はあると思うよ」
「これは簡単に取り組めるような議論ではないよね。全米ライフル協会の色々な人間が意見を言うのを僕は見たことがあるんだ。彼らは話を憲法に戻すけれど、銃を持つことが憲法で保障された権利だなんて僕には言えないな。どうしてそう主張するのかってことはわかるけど、今は新しいミレニアムで、世の中だって変わってるんだ。だから、そういったことはもはや正当とは言えないってこともあるんだよ。この時代、誰かが家に攻め入ってくるんじゃないかって、どのアメリカ人も心配する必要があるかい? 南北戦争の時代は、とっくの昔に終わってるんだ」
「銃文化の問題の全ては、結局そこにどれだけ銃があるかってことに尽きるんだよ。アメリカでは毎日3万5千丁の銃が作られてる。驚くほどの数の、新しくて強力な武器が社会に流れていってるって訳さ。アメリカ人は、自分たちがブルース・ウィリスになるという幻想を実行してるんだ。そしてカナダには、そういった銃のいくつかが国境を越えて簡単に入ってきやすい。アワ・レディ・ピースは最初トロントのみすぼらしいバーでライブを始めたんだけど、その頃僕の友だちの何人かが銃を持ち歩くようになってね。ショックだったよ。だってカナダでは、銃の取り締まり法は本来とても厳しいものなんだから。でも昔、カナダではタバコの値段がすごく高かった時があってさ、それで国境の向こうのアメリカからタバコを密輸してたんだ。銃に関しても、それと同じことが起こっていると言えるね」

文明化されたはずの社会が現在直面している大きな暗い影のひとつに関するメイダの考えは、成功したロックバンドがたいてい経験する現実とはかけ離れている。では彼はツアーという、興奮剤を打ったみたいに浮かれて、頭がイカれてしまうような世界にはどのように対処しているのだろうか?
「みんなと一緒にひとつのバスに乗って移動するのは、確かにイライラするよ。僕には物を考えられる場所が必要なんだ。でも僕たちはこのバンドにいることができてラッキーだね。4人がひとつになると、びっくりするくらい上手くバランスがとれるんだから。例えば、性格的に言うと、ジェレミーは僕とは全く正反対なんだ。彼はまるでキース・ムーンみたいなんだよ。楽しいことをするのが大好きで、いつも笑ってる。実際の話、彼がいるから僕はおかしくならずにいられるんだよね。ジェレミーは悪ふざけするヤツでさ。一番最近のは、リモコンで操作するとおならの音が出る機械だな。あいつはそれを持ってエレベーターに乗るのが大好きなんだ。機械をスーツ姿の人の後ろに置いて、自分はエレベーターの反対側に立つだろ。するとまるでそのスーツの人がおならをしているように見えるんだ。悪臭弾もあいつのお気に入りだよ。ジェレミーって時々あんまり賢いとは言えなくてさ、窓も何もないような狭い所でそれを爆発させちゃうんだ。でも彼は、何か害のあるようなことは絶対にしないんだよ」
「マイクは、コンピューターとインターネットのエキスパートだね。コンピューターの知識がすごくあって、僕らのウェブサイト(www.ourladypeace.com)がきちんと毎日更新されるようにたくさんの時間を費やしてる。僕自身はっていうと、今まで本当にインターネットに熱心になったことはないんだ。それに反対だからって訳じゃなくて、今のところ自分に必要だとは思わないからっていうのが主な理由だね。インターネットを見ても知識は広がらないだろ。ただ同じものがたくさん繰り返されてるだけでさ。そういうのを見ても、よりクリエイティブな人間にはなれないよ。クリエイティブになるってことに、僕は興味があるんだ」
「ダンカンは、このバンドではスイスのような存在だね ― 気転のきくヤツなんだ。どのバンドにも、そういったタイプの人間が必要なんだよ。で、何か議論が起きると、ダンカンは上手く収まるように手助けしてくれるんだ」
けれども、ツアーでの悪習についてはどうだろう? まさか、ここで話題になっているのは、純粋で、ナイーブで、無垢な人間って訳じゃないだろう? メイダだって、機材ケースの中には人に知られたくないようなヤバいものも入ってるはずじゃないのか?
「そう、ツアーの時の悪い習慣で重大なのがひとつあってね...」
よしよし、ついにお望みの答えを聞けるって訳だ...
「つい食べ過ぎてしまうんだ。これまでアメリカの主な都市で数えきれないほどライブをしてきてるから、どこのスシ屋がおいしいかって知ってるんだよ ― 僕はスシに目がなくてね。それが僕の悪い習慣だな。酒はどうかって? それはないなあ。毎晩酔っぱらってたりしたら、しまいにはすごく退屈で、いつも疲れてる怠惰な人間になってしまうのがオチさ」
やれやれ。どうやらレイン・メイダは自分で言う通りの人間のようだ。つまり、女と寝たりどんちゃん騒ぎをするといった混乱にまっさかさまに身を投じるより、クリエイティブなプロセスにのめり込んでいる人間なのである。そしてこのことがかなり悲惨だとか退屈なように思えても、メイダの口から言い訳を期待してはいけない。
「みんなにはアワ・レディ・ピースを好きになるか嫌いになるか、どっちかにしてほしいんだ。どっちつかずっていうのはすごく退屈だよ」
さあ、決心を固める時だ。もしあなたが思慮深くて心を動かす音楽に敬意を払っているなら、アワ・レディ・ピースにはたくさん賞賛すべき点があるのがわかるだろう。そうでない場合は、アワ・レディ・ピースなど間違っても捕まえたくない魚だろう。でももしかしたら、ほんとにもしかしたらの話だが、あなたは何かを見落とすことになるかもしれない...

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