呉 炳宇
日本東洋医学雑誌第44巻
要旨
我々は鍼灸と気功で変形性脊椎症200の治療を行い、良好な成績を得ているので紹介する。
結果:200例中 臨床的治癒144例(72%)
有効53例中(26%)無効4例(2%) 有効率98%
27例は2コ−スで 110例は4コ−スで 7例は6コ−スで治癒した。
12回で1コ−スとした。
考察:患者は鍼灸治療中に気功を行い、腰を軸として、脊椎の運動をすることにより、気血循環を改善し、骨と筋に栄養を与える。
常に動いている枢(とぼそ)は虫が食わないのと同じである。鍼灸の得気と気功の気感も同じ医療効果がある。
気功状態の身体は、気血の流れが良く、鬱血を解消し、病変の脊椎は新陳代謝が順調となり、臨床症状は緩和し治癒すると考えられる。
緒言
変形性脊椎症)とは、脊椎の変性により脊椎返縁に反応性の骨棘や骨堤を形成した状態であり、日本で最もよく見られる病気の一つである。
脊椎組織の退行性変化で、椎骨や椎間関節の変性、椎間板の狭小化と、脊柱管、神経根管、椎間孔の狭窄(脊柱管狭窄症)等である。
加齢と共に漸時増加し、ある意味においては人類老化の一生理的微候であるが、本研究では腰痛等の症状により日常生活に支障を来たした
症例を対象とした。
中医学では、本病は゛痺症゛の範疇に属し、督脈の受損、気血の淤滞によると考えられている。
我々は、鍼灸と気功で、本病患者200の症例の治療を行い、良好な成績を得ているので報告する。
対象
1984年5月から1996年9月までに東京と福岡で治療した変形性脊椎症200例(男性132例、女性68例)、
(最小年齢43歳、最高年齢98歳。平均年齢57.8歳)
中医学では腰痛の病因を寒湿型、腎虚型、労損型の三病型に分類)している。
これに基づいて、変形性脊椎症をこの三病型に分類した。
(寒湿型98例男66例女32例、腎虚型47例男23例女24例、労損型55例男33例女12例)
全ての症例はX線検査で変形性脊椎症と確診されている。
病型分類
寒湿型:腰部が冷えて痛く、静臥にて増強する。
雨の日は特に痛い。脈は沈、遅、湲。陰極復陽(陰が尽きると陽が来る)、重寒変熱(寒が重なると熱が生まれる)の臨床症状もある。
または、腰が熱くて痛く、熱い日、雨の日だけではなく、寒い日も痛いことがある。
真寒假熱(真は寒湿型で表は熱湿型である)。
(熱湿型は200の症例の中にないので、省略)
腎虚型:腰が軟らかく痛く、力が無く、房事にて痛みが増し、静臥にて痛みが軽減するが、症状が反復する。
陽虚者は舌は淡、顔は白く、脈は沈、細。手足は冷たい。
陰虚者は心がいらいらし、不眠。口と喉が渇き、顔面は赤く、手と足の裏が熱くて、舌は赤く、脈は弦、細、数。
労損型:腰は刺すように痛く、痛みの部位は変わらない。過労で痛みが増す。舌質は紫暗、あるいは鬱血斑がある。脈は渋、一部の患者に
は外傷歴がある。
治療方法
1)鍼灸療法
足の太陽、少陽、少陰、督脈の経穴を主とし、鍼灸を併用し、特に吸角を加えた。
鍼は中国鍼(華侘牌,毫鍼直径0.32mm長さ20mm.40mm、と直径0.38長さ100mm)を使用している。
灸:薬艾条使用(主用成分:艾葉、桂枝、高良姜、降香、陳皮、丹皮、雄黄等)適度の直接灸(薬艾条は皮膚には直接触れない)
補瀉手法:呼吸補瀉(息を吐く時に針を刺す補法と、息を吸う時に刺す瀉法)提挿補瀉法(得気後、速く刺入し、ゆっくり抜く補法と、ゆっくり
刺入し、速く抜く瀉法)、迎随補瀉法(経絡の流れにそって斜めに刺す補法と、経絡の流れに逆らって斜めに刺す瀉法)開閉補瀉(抜針後、すぐ
消毒綿を穴に押す補法と、抜針後、押さない瀉法)を使用している。本症は虚症が多いので、補法を主として使用している。
補瀉原理:虚則補之、実則瀉之、不虚不実以経取之、寒則温之、陥下則灸之(虚に対しては補い、実に対しては瀉する。
虚でも実でもないものに対しては、経絡に沿って穴を取る。
寒に対しては温め、陥下に対しては灸をする)
鍼灸穴位:夾脊の圧痛点、腎兪(BL23)、陽陵泉(GB34)、腰陽間(GV3)、志室(BL52)、足三里(ST36)、
三陰交(SP6)、照海(KI6)、命門(GV4)、毎回3〜5穴を使用した。
病型別治療方法
寒湿型:鍼灸手法は補法を用いる。
鍼治療の後に灸をして、寒を散らし、吸角を用いて湿を取る。
真寒假熱の場合は、先に瀉し後に補う。
腎虚型:陽虚者には鍼灸補法を用いる。
鍼治療後に灸で腎を補い、過欲を避けさせる。
陰虚者には鍼補法で腎を補い、過欲を避けさせる。
労損型:委中(BL40)にうっ血があれば毫鍼を浅く刺して微量の血液を出し、疲労を避けさせる。鍼灸手法は先に瀉し後に補う。
コース:1日1回、12回で1コースとした。
鍼灸治療一周後腰背部の疼痛がなければ毎週1回の鍼灸治療に改め、3ヶ月間疼痛が無ければ鍼灸治療を終了した。
2)気功治療
医師は毎日二時間以上の太極拳と武当座式晃海功をすること、患者に鍼刺治療中、太極気功操と武当座式晃海功を実践させる。
1.太極気功操
医師はリラックスして、氣を丹田に沈め、息を整えて、心を集中する。患者を迎臥位にし、全身をリラックスさせ、入静後、医師は氣を指先に送
り、足三里(ST36)に帯氣(注参照)の中国鍼を置く。
患者が得気を感じたら、太極気功操を指導する。患者の手のひらを上に向け、息を吸いながら徐々に両手を上に挙げ、宇宙のエネルギーが
全身の毛孔から体内に入るようなイメージをさせる。息を吸い終わったら、両手のひら返し、徐々に息を吐きながらゆっくり降ろし、病気を足三
里(ST36)と湧泉(KI1)から遠くへ送り出すように想わせる。息を吐き終わったら、上述の動作をくり返させる。
患者が気功状態に入ったら(即ち、両手あるいは全身の氣を感じれば)、男は左手を下に、女は右手を下にし、両手の労宮(PC8)を重ねて臍
に置かせる。
目を閉じて命門(GV4)から脊椎に熱くなるイメージを抱かせる。 30秒後に抜鍼す。
注:帯氣の帯は持つ、氣は気功の氣である。
帯氣は気功の氣を持つ意味である。
気功練功者は気功状態(体内循環の最佳状態)に入ると氣感(氣の感覚)を感じる。気功入門後、帯氣は自然に身に付くものである。
明代名医李時珍曰く、゛内景隧道、唯返観者能照察之゛)
内視(心の目で見る)能力を持っている者は内臓、経絡が見え、コントロールもできる。経絡の氣の流れは判り、気功医師の氣を全身、指、鍼、患
者の穴、患所に送ることができる。
2.武当座式晃海功
抜鍼後に、患者を正座させ、上体をまっすぐに保ち全身をリラックスさせる。
両手は軽く膝の上に置き、掌は玉を持つように相対させる。
まず、腰を右へ120回廻した後、左へ120回廻させる。
廻す時には、命門(GV4)と病変脊椎を想わせる。
患者ができるようになるまで指導する。
その後、自宅でも毎日、起床時と毎食前、就寝前に各々10分間ずつ、1日5回武当座式晃海功をするようにする。
治療評価判定基準
1.臨床的治癒:臨床症状が消失し、手足の運動が自在のもの。
2.有効:臨床症状が軽減し、運動機能が好転したもの。
3.無効:臨床症状に変化のないもの。
治療効果
1.臨床的治癒: 144例(72%)
有 効: 52例(26%)
無 効: 4例(2%)
2.病型と療効の関係
寒湿型(98例):治癒87例(89%)、有効10例(10%)、無効1例(1%)。
腎虚型(47例):治癒35例(74%)、有効11例(23%)、無効1例(3%)
労損型(55例):治癒22例(40%)、有効31例(56%)、無効2例(4%)
3.療効とコースの関係
2コース治療31例中、治癒27例(87%)有効3例(10%)無効1例(3%)
4コース治療143例中、治癒110例(77%)有効32例(22%)無効1例(1%)
6コース治療26例中、治癒7例(27%)有効17例(65%)無効2例(7%)
典型症例
84歳男性 住職
長年にわたる腰背部痛があり、半年前より悪化し、受診前3ヶ月間は寝たきり状態であった。
某国立大学付属病院整形外科で゛変形性脊椎症(腰部脊柱管狭窄症)`と診断されている。
第一、二腰椎の圧迫骨折と第三、四、五腰椎の重度変形があり、腰部CT検査では、第五腰椎〜第一仙椎の前方から圧迫が著明に見られ、
腰椎の手術が必要と診断された。
しかし、患者が高齢であること、過去に6回の大手術を受けていたために、危険度が高いと判断され、当院の鍼灸治療を受ける為に転院した。
受診時、患者は腰背部痛が激しく、毎日鎮痛剤の服用を必要とし、寝返りができず、褥瘡ができていた。
鍼灸と気功の治療4コースにより、臨床的治癒となり、二年後には住職に復帰した。
勲章受章のため、一人で、東京に出かけるほどに元気になり、現在も毎日、武当座式晃海功を実行している。
考察
変形性脊椎症は中年に多発し、老年になると悪化する。
長期間の不正姿勢や過労働、あるいは長期間の運動不足で、骨格の老化現象が出現し、脊椎は退行性変化をおこし、骨格の変形を醸し出す
と考えている。
「黄帝内経」の述べる所によると、鍼を刺すことによって、゛その血脈を通し゛、゛その血氣の流れを良くし、人体のバランスを正常化する゛こと
ができる(霊枢、九鍼十二原:欲以微鍼通其経脈、調其血氣、営其逆順出入之会)。
本文の鍼刺では夾背の圧痛点を主穴としている。
この穴は督脈に近く、全身の陽氣を調節し、痺症を取り除く。
腎兪(BL33)、委中(BL40)、命門(GV4)などの経穴への鍼刺を合わせて使用することにより、脊椎増殖による神経と血管の刺激素因
と水腫を除くことができる。
吸角を加えることによって、風寒を取り除くことができ、体の自然治癒力を高める。
本文の症例では、置鍼したまま、気功をおこなう。
医師は常に気功状態で患者を待ち、患者入静後に帯氣の刺鍼し、鍼の得氣を感じてから、気功を行うことにより、気功と鍼灸の効果は増大す
ると考えられる。
太極気功操は手足の三陽、三陰と督、任両脈の疎通を能し、昇清降濁の目的に到達する。
武当座式晃海功は、腰を軸として、脊椎の運動をすることにより、氣血循環を改善し、骨と筋肉に栄養を与える。
常に動いている戸枢は虫が食わないのと同じである。
(華侘:動揺則谷気消、血脈流通、病不得生。譬猶戸枢、終不朽也)
鍼灸の得氣と気功の氣感は真氣の運行による反応である。
気功は人体の内因を調節し、鍼灸の基礎のもとにこれを用いることにより、体の自己回復能力を発揮すると考えられる。気功状態の体は氣血
の流れが良く、うっ血を解消し、病変の脊椎は、新陳代謝が順調となり、臨床症状は緩和あるいは消失すると考えられる。 体の新しい状況の
下に、新しい平衡状態に到達し、良好な臨床成績を得るものと考えられる。
「黄帝内経」゛凡刺之真。必先治神゛は、良好な治療者ー患者関係の上に成り立つ治療が東洋医学臨床の真髄であることを示唆する古典の重
要なキーワードである。
治療者と患者がともに気功状態に入ることにより良好な関係ができやすく、治療効果が上昇すると考える。
まとめ
本臨床治療研究効果により、鍼灸気功療法は変形性脊椎症の治療法として有効であると考えられる。なぜ臨床症状がよくなるか、まだ多くの
不明点が残されているが、今後臨床研究したいと思っている。
牽引用語:鍼灸、気功、変形性脊椎症
本研究は錦州医学院付属病院助教授馬華医師共同研究に基づいて実施されたものであり、第三回世界鍼灸大会共(京都)、第四回国際鍼灸
および東方医学会議(米国)で講演した。
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