| エンゼル・ハート 1987・米 | |
![]() 製作:アラン・マーシャル アンドリュー・マイナ 監督:アラン・パーカー 脚本:アラン・パーカー 原作:ウィリアム・ヒョーツバーグ 撮影:マイケル・セラシン 音楽:トレバージョーンズ 出演:ミッキー・ローク ロバート・デニーロ リサ・ボネット シャーロット・ランプリング マイケル・ヒギンズ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 わたしはニューヨークのスラム街の一角に店を構える私立探偵のハリー・エンゼル(ミッキー・ローク)だ。 1955年のある日、電話が掛かってきた。ワインサップという弁護士からだった。ワインサップによると依頼人はルイス・サイファーという人間だ。 わたしは指定された場所へ出向いた。ハーレムにあるその建物では一階でいかがわしい宗教団体の集会が行われていた。 「・・・霊魂の再来をなさしめたまえ、・・・神の王国は今日、諸君のものになる!諸君の心を開き財布を開け!私はキャデラックが欲しいのだ、君たちが献金してくれたらロールスロイスになる!」 教祖が熱弁をふるい、信者たちは洗脳されたように呼応して叫ぶ。 わたしは吹き抜けの二階からその様子を眺めた。ワインサップ弁護士に伴なわれ廊下を歩く。半開きのドアがあり、中では女が壁を拭いていた。その壁は飛び散った血で汚れている。 「おの女の旦那が頭を撃ち抜いたんだ」 ワインサップが言った。 依頼人のルイス・サイファー(ロバート・デニーロ)は顎鬚を蓄えた男で、椅子に腰掛けステッキをもてあそんでいた。わたしは型どおりの挨拶を済ませる。 「ジョニーという名に覚えは?」 ルイス・サイファーが切り出した。「名前はリーブリングだ」 「いいえ別に・・・」 わたしは答えた。 「戦前は歌手で有名だった・・・彼が歌手を始めるとき援助してやったのだ」 「’43年に北アフリカへ派遣され、軍の慰問に従事したが、敵の攻撃で頭と顔に重傷を負い・・・」 ワインサップが引き継いだ。「記憶喪失だ・・・つまり戦争神経病・・・君も戦争経験が?」 「ほんの短期間だけ」 わたしは答えた。 「ジョニーは死体同然で帰国したのだ」 とルイス・サイファー。「友人が彼を個人経営の病院へ移送した後、かなり過激な精神療法も行われた」 とワインサップ。 「ジョニーは植物人間で契約を全うしていない、私としてはジョニーの生死を確かめておきたいのだ」 要するにわたしはジョニーの消息を確認すればよい。 「前に会った気がする」 別れ際にルイス・サイファーがわたしの顔を見つめて言った。わたしには記憶がなかった。 わたしは郊外にある【ハーベスト記念病院】へ車を乗りつけた。 「ジョニー・リーブリングという患者はいますか?」 わたしが単刀直入に質問すると、「リーブリングという患者は転院しています」 フェロモンを体中から匂わせて応対した看護婦は言った。「’43年の12月です」 カルテを見ると、サインがあった。[ファウラー] とある。「非常勤の医師です、お年なので・・・」 フェロモンが言った。 わたしは電話帳を繰り[ドクター・ファウラー]の住所を探り当てると裏口の鍵を壊して家の中へ入った。留守らしい。洗面所に注射器、薬、冷蔵庫にモルヒネの瓶が詰まっていた。 そのうちに老人が帰ってきた。わたしに気付いたファウラー(マイケル・ヒギンズ)が目を剥いた。「私立探偵なんです」 「家宅侵入というのは重大な犯罪だぞ」 「警察を呼びなさいよ、冷蔵庫のヤクを発見されてもいいのかな?」 わたしがジョニーの消息を聞くと、「ジョニーは昔診た覚えはある、オルバニーの病院に転送した」 「オルバニーに当たったがいなかった、転送は嘘だな」 ファウラーはヤク切れなのか苦しそうな表情で語った。 12年前、ケリーという男がジョニーを引き取っていった。その時、25000ドルをファウラーに渡し、まだ入院中だと装えと言ったという。 「少し休むといい」 わたしはファウラーが苦しそうなのでベッドに寝かせドアの鍵をかけた。 町へ出てレストランで軽い食事を済ませ、再びファウラーの家に行くと、ファウラーはベッドにいたが、右目を撃ち抜かれていた。ベッドは血だらけだった。ファウラーの右手にピストルが握られている。 わたしはうろたえタバコに火を付けた。やばい!ピストル、冷蔵庫、ドアノブ、階段の手すり、わたしは触れたところの指紋を拭き取り家を出た。 わたしはルイス・サイファーとレストランで落ち合った。 「ナメクジを知ってるか?」 ルイス・サイファーが言った。「通り道に必ず跡を残す・・・」 ゆで卵を手のひらで押してころがす。殻の割れる不気味な音。「ある宗教では卵は魂のシンボルなのだ」 「無理ですね、ファウラー医師が頭を撃ち抜かれて死んでしまいました。手掛かりを失いました」 わたしはこの依頼から降りたいのだ。「探偵料は人探しの場合、1日125ドルですが、今や殺人容疑者になってしまった。降りますよ」 「すぐ、弁護士から5000ドル送らせよう、でも断るんなら他人を雇うよ」 わたしは5000ドルと聞いて躊躇した。「5000ドル・・・そんなに探したいのですか」 「言うまでもない」 わたしは礼拝堂で二人の男に襲われた。応戦して町の雑踏に逃れた。先日、アジ演説をしていた教祖を乗せたパレードにぶつかる。彼らを蹴散らして逃げる。男たちは追って来なかった。 ハーレムの老人ホームで、かってジョニーの親友だった男がニューオーリンズでギター弾きをしているとの情報を得た。イバンジェリンという黒人女とも親しかったとも。 大人たちがトロンボーンを吹き、子供たちがステップを踏む町、ニューオーリンズ。わたしはまず、ジプシーの占い師マダム・ゾーラの店を訪れた。ゾーラ(シャーロット・ランプリング)はやせぎすの倦怠的な女だった。 「わたしの誕生日は1918年の2月14日、バレンタインデーです」 わたしがジョニーの誕生日を告げると、「・・・昔、同じ誕生日の男を知ってたわ」 ゾーラは言った。「ジョニーと?・・・君とジョニーとの仲は?」 「・・・貴方誰?」 「すまん、嘘をついた、私立探偵なんだ、誕生日もバレンタインデーじゃない、ジョニーのことを知りたい」 「・・・ジョニーはもう死んだのよ、12年前に・・・さあ、もう帰ってちょうだい」 ゾーラは冷たく突き放した。 「コンカラーの根はあるかい?」 わたしがニューオーリンズの薬草店で訊ねる。「ハーレムでイバンジェリン・プラウドフットが売っていたんだが」 「死んだよ」 店の者が答えた。 イバンジェリンの墓でイバンジェリンの娘と会った。名前はエピファニー(リサ・ボネット)、17歳だという。愛くるしい目をした魅力的な娘だ。赤ん坊を抱いている。 「ママの友達でジョニーという男を探してる」 わたしはエピファニーに聞いた。「知らないわ」 そっけない。鶏が数羽飛び回る。わたしは鶏が苦手なのだ。 バーでギターを弾き歌うトゥーツに会った。「ジョニーという男とニューヨークで共演してたでしょ?」 わたしが聞くと。「ああ」と答えた。 夜、ブードゥー教の儀式を見た。エピファニーが半裸になり、鶏の血を浴びながら踊っている。「母親もエピファニーもブードゥー教の巫女だ」 トゥーツが言った。わたしは気分が悪くなった。 明くる朝、わたしの安モーテルへ刑事がやって来た。 「お前の筆跡か、死んだギター弾きがこのメモを握っていた」 それはわたしの泊まっているモーテルの住所を書いたわたしがトゥーツに渡したメモだった。 「ギター弾きは窒息死していた、自分の性器を咽喉の奥に押し込められてな」 刑事は言った。 わたしはゾーラの店を訪ねた。何と居間でゾーラが血だらけで横たわっていた。わたしは凍りついた。鏡台の前の小箱の中に人間の手首のミイラが入っていた。そして更におぞましいものが・・・血の滴る人間の心臓が!ゾーラの胸は抉られていた。吐き気が襲う。 ルイス・サイファーがニューオーリンズの教会へ来ていた。わたしは訴えた。 「おどろおどろしい呪いと三つの死体、殺されたんですよ、この事件には宗教が絡んでいて気味が悪い」 ルイス・サイファーは落ち着き払って答えた。「宗教は人間の愛よりも憎しみを募らせるのだ」 「そういえばジョニーの身辺に愛はないようです」 わたしは言った。「ジョニーは昔の知人を殺しまわっている、しかも容疑は僕にかかる。どいうことですか」 ルイス・サイファーは言う。「ジョニーは私に借りを負っているのだ、その片をつけたい。つまり、“目には目”ということだ」 エピファニーが雨に濡れてモーテルの前で待っていた。わたしは中へ入れた。 「ジョニーは父よ」 エピファニーが言った。「ママが言っていたわ、ジョニーという男は限りなく悪魔に近いと・・・」 モーテルは雨漏りがひどかった。あちこちに洗面器や花瓶を置いて雨漏りを防がなければならなかった。 「踊らない?」 エピファニーがラジオの音楽を流して言った。わたしたちは自然に踊りだす。エピファニーがキスしてきた。そのままベッドへもつれこみセックスした。激しい腰の動き。雨漏りが酷い。わたしの頭に様々な場面が去来した。殺された人間達の顔。ルイス・サイファー。エレベーター。ブードゥー教の祭り。雨漏りの雨が血に変る。わたしたちに降りかかる血。 はっと気が付くとわたしはエピファニーの首を締めていた。エピファニーが咳き込んでいた。わたしは何ていうことをしたのか。洗面所の鏡を殴りつけた。亀裂の入った鏡に自分の顔を映してみた。 馬場でゾーラの父親と会った。もう既に2回もこの男の部下二人に襲われていた。ここで決着をつけてやる。 「ジョニーを探してる」 わたしが言うと、「あの男はもう死んだ・・・」 と言う。 「お嬢さんを殺した犯人かもしれない」 「誰に雇われた、金を出す」 「断ります、12年前、あなた方父娘が病院からジョニーをさらった、ヤク中の医師に口止め料25000ドルも払ってね」 小屋でゾーラの父親の勧めるままに酒を飲む。 「ケリーと名乗って医師に25000ドル払った」 男は話し始めた。「ジョニーは夢遊病者のように外を見つめていた・・・タイムズ・スクエアに・・・’43年の暮れの雑踏に彼を置いてきぼりにして終わりだよ」 「25000も払って置いてきぼり?」 「娘のためにやった・・・ジョニーと娘は何かの魔術に夢中だった」 だが、真相はこの父親こそが悪魔の崇拝者だったのだ。「彼は呪文で悪魔を呼び出す」 それでゾーラにジョニーを紹介した。 「自分の魂を魔王に売り渡した?そんな話を信じろと?」 わたしは憤った。 「魔王は素晴らしい力をお持ちなのだ、でもジョニーは裏切った。スターになって魔王から逃げようとした」 「たわごとはよせ!」 「彼は古文書で儀式を見つけた、同い年のいけにえが必要だった!魂を盗むためだ」 そして、ジョニーはタイムズ・スクエアで若い兵隊を見つけ、ホテルで裸にして縛り付け胸に星型の烙印を押した。更に短剣で兵隊を切り裂き心臓を食ったという。 わたしは嘔吐をもようし便器に吐いた。 「彼はその兵隊に乗り移りたい気だったが、その前に召集されてね・・・帰ってきたときは負傷して記憶喪失だった」 「その兵隊は誰だ!」 わたしは叫んだ。「彼はその兵隊の認識票を娘に預けた・・・タイムズ・スクエアこそが彼の記憶の最後の場所だ」 「その兵隊は誰なんだ!」 わたしは再び叫ぶ。「ジョニーはその兵隊の身分を頂き魂も盗んだが、昔の面影はある・・・」 わたしは鏡を見つめて男の話を聞いていたが、狂おしい嵐が押し寄せ叫んでいた。「うわー!」 ふと気付くと男はぐつぐつ煮えたぎった大鍋に頭を突っ込んでいた。 わたしは半狂乱でゾーラの店の封鎖を取り払い店内に入った。何故かそこに鍵があるような気がした。部屋中を引っ掻き回し、ある箱を開けた。その中にペンダントが入っていた。鎖に結ばれたペンダントに“ハリー・エンゼル”とわたしの名前が刻印されていた。それはジョニーがゾーラに渡した兵隊の認識票だった!! 「自分が誰か分かったぞ!」 わたしは絶叫した。気付くとそばにルイス・サイファーが座っていた。 「どうだ、小賢しさがいかに虚しいか分かったろう」 ルイス・サイファーが嘲笑っている。 「ルイス・サイファー・・・魔王(ルシファー)、名前まで安っぽい冗談だ、みんなあんたが殺し、僕のせいに見せかけた!」 わたしが言うと、「君だよ・・・君があの兵隊を切り裂いた時、運命は決まった。この12年間、君は他人の記憶で仮に生きてきた、お前の魂は私のものだ」 ルイス・サイファーの目が金色の光を放っていた。 「分かってる・・・」 もはやわたしに抵抗する気力はなかった。 「そうともジョニー、良く見ろ、鏡に映る自分の姿から逃げることはできないのだ」 ルイス・サイファーがレコードをかけた。それはかっての歌手、ジョニー・リーブリングが唄った歌だ。わたしは舜展の刹那、殺しの記憶を蘇えらせていた。ファウラー医師、ギター弾きのトゥーツ、占い師のゾーラと父親・・・皆わたしが殺した。エピファニーは?!不安がわたしを襲った。無事か! 雨の中、わたしはモーテルに戻った。ベッドでエピファニーが血を流して死んでいる。刑事が取り調べていた。 「何故戻った?」 刑事が言った。「僕の部屋だ・・・僕の娘だ・・・」 わたしは絶望して答えた。「電気で焼かれるぞ」 「・・・分かってる」 相棒の刑事が赤ん坊を抱いて奥から現れた。「わたしの孫・・・」 「地獄でな・・・」 わたしは告げた。赤ん坊の目が金色に光った。 |
| 映画館主から 「ミッドナイト・エクスプレス」(’78年、主演:ブラッド・デイビス)や「ミシシッピー・バーニング」(’88年、主演:ジーン・ハックマン)などの社会派監督として知られるアラン・パーカーの異色オカルト作品。 随所に見られる滴る血のイメージ、回転する換気扇、螺旋階段、エレベーターのシャッターなどが、光と影の陰鬱な映像で主人公の裏側の心象風景を垣間見せていきます。人探しを依頼された私立探偵が行く先々で殺人現場に出くわし、謎が謎を呼んでいきます。ラストでは予想外の結末が待っているのです。 凝りすぎるほどと思われる凝った映像、思わせぶりなリアルな映像。その割にラストのどんでん返しが少しあっけないような気がしました。 しかし、やはりそうなのかという予感は映画の途中で何となく感じ取れました。 アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」や、高木彬光の「能面殺人事件」を読んだ時に受けた衝撃に似た衝撃をこの映画にも感じました。一見これはアンフェアなのではないのかという感想です。つまり、探している当の本人がその人間であったというオチなのですが、つぶさに本作をよく見ると、ちゃんと計算されていて文句をいわせないように作られています。ただ難を言えば、そこに我々の理解の及ばない悪魔の存在を介在させているところでしょうか。 主人公の探偵にミッキー・ローク。どこか薄汚れた、よれよれの感じが彼には似合います。暗い影を引きずった負け犬の雰囲気がキャスティングにピッタリでした。 謎の依頼人ルイス・サイファーを演ずるのは、ロバート・デニーロ。役作りに凝ることでは定評のあるデニーロの不気味さは格別です。 そして、出番は少ないものの本作に退廃的な彩りを添えるのが、「愛の嵐」(’73年)のシャーロット・ランプリング。陰のある眼差しが印象に残ります。 ’87年「スクリーン」誌 読者投票第4位作品です。 参考文献:「世界の映画 ベストセレクション」 近代映画社 |
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