「終身犯」予告編
終身犯 1961・米
終身犯

製作:スチュアート・ミラー
    ガイ・トロスバー
監督:ジョン・フランケンハイマー
原作:トーマス・E・ガディス
脚本:ガイ・トロスバー
撮影:バーネット・ガフィ
    ロバート・クラスター
音楽:エルマー・バーンスタイン

出演:バート・ランカスター
    カール・マルデン
    セルマ・リッター
    ベティ・フィールド
    ネビル・ブランド
    ホイット・ビッセル
    テリー・サバラス
    エドモンド・オブライエン


カール・マルデン(右)

バート・ランカスター

ベティ・フィールド(左)

小鳥の研究に明け暮れるストラウド

終身犯

終身犯
物語

サンフランシスコ湾からも望めるアルカトラズ島。その昔アル・カポネも収監されていたという凶悪犯の刑務所だ。
そこで17年過ごした男ロバート・ストラウド(バート・ランカスター)は人生の大半を刑務所で、うち43年を独房で過ごしたのだった。


1912年。ワシントン州マクニールを凶悪犯を乗せた護送列車が出発し、カンザス州のレビンワース刑務所へ向かっていた。
列車の中はストーブの熱気と蒸し暑さで耐え切れないほどだ。護送護送される囚人の一人ストラウドが窓ガラスを手で割った。新鮮な空気が入り込んできた。とたんに刑務官がストラウドに駆け寄り銃口を向けた。「蒸し暑かったんだ」 ストラウドは平然と言った。

ロバート・ストラウドは付き合っていた女を巡る争いで男を殺した。1909年、アラスカで殺人容疑で有罪判決。次いで母の写真の件で喧嘩沙汰を起こした。
「30日間、懲罰房で孤独に耐えてみろ」 レビンワース刑務所の所長シューメイカー(カール・マルデン)はストラウドに言った。
ストラウドが去るとクレーマー看守が進言した。「30日じゃ足りませんよ。奴は極悪人です、死ぬまで入れておくべきだ」 「さじを投げるな。奴は私が責任を持って立ち直らせてみせる」 シューメイカーは理想の高い男だった。

30日の懲罰房から開放されたある日、ストラウドが労役から戻ると母親の差し入れの果物と手紙が置いてある。「母が来たのか?何故知らせない」鉄格子越しにクレーマー看守を呼ぶと、面会日でないから帰したとのことだ。「はるばるアラスカからやって来たんだぞ!」 ストラウドはクレーマーの胸倉を掴んだ。クレーマーは冷たく言い放った。「看守に乱暴したと報告しておく」
食堂で囚人たちが整然と食事をしているとき、ストラウドは見回りのクレーマーのところへ行く。「報告されたら母に会えなくなる、頼む」 懇願するように言うとクレーマーは突き放した。「規則は曲げられん」 ストラウドは瞬間、血が沸き立った。「お前には心が無い、獣だ!」 クレーマーが警棒を振り上げた。ストラウドはクレーマーの胸に隠し持ったナイフを突き立てていた。クレーマー看守は死んだ。

正当防衛を主張したが認められず裁判に掛けられた。1918年、最終判決。「絞首刑に処する」 裁判長が宣言した途端、ストラウドの母エリザベス(セルマ・リッター)は立ち上がった。「何てひどい判決なの!これが正義?」
「あいつらにお前を殺させるもんか。ワシントンに行って来る。闘いはこれからよ」 エリザベスはストラウドを抱きしめる。
刑務所の中庭に絞首台が作られる。ストラウドは窓からそれを見ながら観念していた。『俺の一生もここまでだな』

だが母親は諦めなかった。助命嘆願書を持ちワシントンの役所を訪ねまわる。一議員の紹介で大統領夫人に会って訴えた。
絞首台が取り壊された。大統領が恩赦を出したのだ。死刑が終身刑に変わった。
シューメイカー所長が苦々しく言った。「今後、他の囚人との交流は禁止。運動も一人だ。食事も死ぬまで一人。面会も家族だけ。労役もない。月日を数えるだけの余生だ」

規則正しい独房生活が始まる。扉の下から食事を受け取り、一人で食べる。週一回のシャワー。中庭を散歩。月一回の散髪。読書。歩く。週一回洗濯。この繰り返しだ。
考えることは苦痛になる。何を思い描いてもこの生活は変わらないのだ。
ランサム看守(ネビル・ブランド)はストラウドに声をかけた。「なにか読むか?」 「・・・余計なお世話だ」 ストラウドは無表情に言った。

ある嵐の夜のことだ。雨の中を中庭で散歩していたストラウドが木の枝の巣が落ちているのを見た。巣に雀の雛が動いている。房に持ち帰り、餌を与える。パンにゴキブリを潰したものを混ぜる。マッチ棒の先で与えると雛は口を大きく開けパクついた。「元気なチビだ」 ストラウドの心が和んだ。ゴキブリ、バッタなどの昆虫を捕まえる。雛に餌を与えるのがストラウドの日課になった。
やがて産毛が生えて歩き回るようになる。ランティと名前も付けた。ランサム看守もその様子を見ていた。

半年後。シューメイカー所長が別の刑務所へ移動になるため、新所長を連れてきた。
ストラウドは新所長に鳥に仕込んだ芸を見せた。荷車引き、箱の扉を開けて中に入る。簡単な芸だったが新所長は感心したようだ。
「うまく仕込んだな、見事だった」 「飼っても?」 ストラウドはすかさず言った。「・・・許可するが、図に乗るな」 ストラウドは餌の購入も許可された。「気に入られたらしいな」 シューメイカーは言った。「俺の楽しみだ」 ストラウドにシューメイカーが言う。「だが、規則違反なんだ」
新所長は小鳥の飼育を正式に許可し、独房棟にカナリアの歌声が満ち溢れた。囚人に飽きられた小鳥はストラウドの元へ集まる。これが彼の運命を変えたのだった。

ストラウドはランサム看守の飲んでいるコーラの瓶、続けてランサムの腰かけている木箱を要求した。ランサムは怒った。
「お前と会って12年。毎日そのしかめっ面を見てきたが、一度も挨拶が無い。俺は情けを掛けてきたつもりだ。雀の件も見逃してやった。だがお前は俺に礼を言ったか?自分を何様と思ってる。一介の看守にも感情がある。人間として接したらどうだ」 ストラウドは何も反論しなかった。しばらくしてストラウドはランサムに声をかけた。「あんたは正しい。目が覚めたよ・・・悪かった・・・あんたはいい人だ・・・言いたい・・・すまなかった・・・詫びたのは20年ぶりだ」
その後、房にランサムの木箱が入れられた。

ストラウドは瓶を半分に割り、小鳥の水飲み用に変えた。木箱は剃刀とガラスの破片で128本の薄板にした後、鳥かごを作った。ストラウドは手先が器用だった。
隣の房の囚人ゴメス(テリー・サバラス)のカナリアの様子が変だった。ストラウドが借り受けて様子を探る。ゴメスのカナリアは雌だった。ストラウドのカナリアと“つがい”になる。
「雛が生まれる」 覗き込んでいるランサム看守に言った。「何だと?」 「繁殖する」 ストラウドの顔が輝いている。「・・・まあ、いい。篭の鳥とは・・・お前と似たもの同士だな」 ランサムは言う。
やがて感動的な瞬間が訪れた。卵の殻を破って雛が誕生する瞬間だ。

ストラウドの独房は様々な鳥篭で一杯になっていく。賑やかに囀る小鳥達。
社会から隔離され、人間らしい営みを剥奪された彼は小鳥の世界にのめり込んだ。小鳥は決して彼を裏切らない。カナリアに愛情を注ぎ、交尾や雛の誕生を繰り返し観察した。
そんなある日、旧友が戻ってきた。以前外に放ってやった雀のランティだ。一回り大きく成長していた。人恋しくて育ての親の元に戻ってきたのだろうか。
そのランティをはじめ小鳥たちの様子がおかしい。鳴かなくなり次々と死んでいく。ランティも死んだ。

エリス博士(ホイット・ビッセル)が招聘された。敗血症という伝染病が原因だという。「バチルス菌とパスツレラ菌だな。治療薬はない」 博士が言った。
ストラウドは病原菌を退治するため、鳥篭、床、独房の隅々まで消毒した。鳥に関する本を読み漁り、鳥を襲うウィルスに酸化剤を用いることを学んだ。
母親に手紙で薬剤と器具の調達を依頼した。それを待つ間もマッチの燐から硫黄を取り、飲料水に混ぜた。だが相変わらず小鳥は死ぬ。やがて薬剤と器具が届いた。
小鳥は死んでいったが発見があった。死ぬ直前、小鳥の熱が下がるのだ。薬剤を使い果たし、最後の1本、クエン性炭酸塩と塩素酸カリウムを混合、それを投与した後は祈るのみだった。
果たしてカナリアの鳴き声が復活したのだ!成功だった。

数年後、彼の薬は世界中の愛鳥家に知れ渡った。この謎の鳥類学者も注目され始める。
ある日、ストラウドが投稿したカナリア雑誌の論文懸賞で2等賞になり、ステラ・ジョンソン(ベティ・フィールド)という未亡人がやって来た。
「賞品のカナリアをお持ちしました。セントアンドレスバーグ種です」 ストラウドは驚く。「わざわざそのために来てくれたんですか?」 ステラには思惑があった。「繁殖させた小鳥を売るおつもりは?」
ストラウドは話に乗った。こうして『ストラウド小鳥商会』が設立された。

だが、それも長くは続かなかった。連邦刑務局設立が議会で可決され、ストラウドに圧力が掛かった。すなわち、『州刑務所内でのペットの飼育を禁ずる』『収監者の商業活動を一切禁ずる』 というものだ。
「15年間の模範的行動を考慮してください」 ストラウドの訴えに対して返ってきた答えは空しいものだった。「60日以内に処分せよ」
ストラウドは母親を呼び相談した。「マスコミを使うんだ。政府が小鳥を没収する話を広めるのだ。新聞、雑誌、ラジオにどんどん投稿し、愛鳥家クラブを巻き込み世論を起こす」 「さすがは息子、名案だわ」 「政府に一泡吹かせたい」 
ストラウドはステラを呼び結婚を申し込む。ステラは受け入れた。
『鳥類専門家の囚人が結婚』 カンザス・シティ・スター新聞のトップを飾った記事の報はワシントンにも届き、政府は密かに交渉団を送り込んだ。

交渉団の代表はシューメイカーだった。
「鳥の飼育と販売は許可する」 シューメイカーが言う。「公式の見解だ。代わりに利益は福祉基金に寄付しろ。その内、毎月10ドルが君の報酬となる」 ストラウドはそれで納得せざるを得なかった。
二人の女性と囚人が政府を動かしたのだ。だが、エリザベスとステラの間は既に対立していたのだ、当初から二人の結婚にエリザベスは快く思っていなかった。
「息子は刑務所に入っているほうが一番いいんです」 恩赦の動きに取材陣に応えるエリザベスの発言は世間を驚かせた。
「酷い母親だな」 ランサム看守が言った。「虎の母親は怒ると子を殺す」 ストラウドはポツリと言った。その夜、ストラウドは研究用のアルコールをしこたま飲んだ。
そんなストラウドにランサムがプレゼントをした。顕微鏡だった。

顕微鏡という希望の光を得たストラウドは科学の研究の道を邁進し始めた。研究対象は小鳥だ。好奇心とやる気だけを武器に彼は医科大の履修課程をこつこつと習得していった。
細胞学や形態学、生化学も。長年、夢見ていた計画に着手する時がきた。小鳥の病気に関する研究だ。難病の治療法も分かってきた。出血性敗血症にバードジフテリア、アスペルギルス症バードコレラ、マレック病の治療法も発見し、それで多くのニワトリが救われた。
自分の名を冠した鳥の病気の概要書を執筆。これが高く評価され、この年老いた囚人は鳥類の世界的権威となった。本の完成には7年かかった。
エリス博士は評価して言う。「彼の学力は小学校3年程度だがIQが高い。、組織構造学、細胞学、解剖学も、大学の教官でさえ習得は難しいのに囚人の身でたいしたものだ。3000時間顕微鏡を覗き、5000以上もの細胞をスケッチした。解剖学と病理学では世界一の権威かと思う」

ストラウドがアルカトラズ刑務所に移送されることになった。そこへは小鳥も研究用具も持っていけない。別れを惜しみながらランサム看守は涙ぐんでいる。「ひとつ伝言を頼む。妻へだ」 ストラウドはランサムに言った。「俺を追うなと、絶対に・・・」

アルカトラズの隔離房へ入ったストラウドは思いがけない人物に会った。食事を運んできた男はゴメスだった。「お前はついてるな。俺が食事当番なのさ」 ゴメスはストラウドに多めに配った。
シューメイカーがアルカトラズの所長になっていた。ストラウドは今や刑務所の歴史の執筆に余念が無かった。1790年以降の刑務所の歴史。囚人の処遇、賄賂、汚職、愚行、残虐行為などだ。
シューメイカーは原稿を見て怒った。

ステラが面会に来た。面会室はガラスで仕切られており、手を触れることもできない。お互いが電話機で話すのだ。「君はまだ若い。離婚してくれ」 ストラウドが切り出した。ステラはストラウドの気持ちを察した。「・・・わかったわ」 間を隔てるガラスにお互いの手をかざして二人は別れた。

アルカトラズの過酷さは国内隋一で、だらだらと時間が流れる中、囚人は毎日退屈な労役を強いられた。
そんな中、事件が起きた。二人の囚人が抑圧した不満を一気に爆発させたのだ。1946年の5月のある日、二人の囚人が史上最も大規模な暴動を引き起こした。
機会組立工場の工具を盗み、射撃練習室にに侵入、銃と弾薬を手に入れD棟へ。ストラウドの棟だ。看守を銃で脅し鍵を奪うと各房を開放して回った。囚人たちは躍り出たが、運動場へ出られるだけだ。塀を越えるには至らなかった。囚人たちは運命を悟った。駆けつけた州警察と銃撃戦になる。
ストラウドは房にいた。きっかけを起こした二人の囚人は銃撃で死んだ。奪った銃はライフル一丁とピストル一丁だけだった。ストラウドはそれを窓から外に向けて放り出した。
外からシューメイカーが見ていた。「武器はそれだけか?」 「無い。俺が言ってる」 ストラウドが叫ぶ。シューメイカーが武装解除を命令した。「囚人の言葉を信じるので?」 警官が言うのにシューメイカーは言った。「35年、私にたてついてきた男だが潔い奴だ。嘘はつかん」

1959年。年老いたストラウドはアルカトラズ刑務所を離れることになった。釈放ではなく、他の刑務所に移されるのだ。鳥を飼うことは許されなかった。アルカトラズ島からやって来たストラウドをトーマス・E・ガディス(エドモンド・オブライエン)が出迎えた。彼は後にこの映画の原作者となる人物だった。
「釈放でないのが残念です」 ガディスが言うと、「新しい刑務所にも楽しみはあるさ」 ストラウドは静かに答えた。「ドアに鍵のない部屋をもらえる。いつでも出入り自由だ。敷地は1.6平方キロ。長い距離を歩けるのが待ち遠しくてね」
ガディスは思わず全てを達観したような老囚人に抱きつく。「有難う、感謝している。鳥のように羽ばたくよ・・・」 ストラウドはそう言って警官と立ち去った。
映画館主から

ジョン・フランケンハイマー監督が実話を元に映画化した人間ドラマの傑作。
殺人犯として刑務所に送られたロバート・ストラウドが主人公です。

彼は刑務所の中庭で見つけた雀の雛を育てることで、粗暴な性格もなくなり、次第に人格者になっていきます。限られた空間で丹念に研究を続け、小鳥学の権威にまでなった男の物語。映画はそんな彼の移り変わりを丁寧に描いていきます。

主人公を演ずるのはバート・ランカスター。新鋭監督のフランケンハイマーの第二作目、「明日なき十代」(’61年)でコンビを組んで以来、「終身犯」、「五月の七日間」(’64年)、「大列車作戦」(’64年)、「さすらいの大空」(’69年)と立て続けにコンビを組んでいます。そのどれもが傑作となりました。

規則に厳格な所長を演ずるのは善人・悪人の両方を演じ分ける個性派のカール・マルデン。本作では頑固なまでに楯突くストラウドに対して理想に燃えて囚人を矯正しようとする所長の執念振りを見事に演じています。
他に母親役のセルマ・リッターや、獄中結婚する妻役のベティ・フィールドなどが好演。また、ストラウドと長年付き合うことになる看守役のネビル・ブランドは人間味溢れる演技で好感がもてました。

脱獄不可能と言われたアルカトラズ刑務所からの脱獄を描いたサスペンス作品「アルカトラズからの脱出」(’79年、監督:ドン・シーゲル、主演:クリント・イーストウッド)も見ごたえのある作品でした。このアルカトラズ刑務所は1963年に閉鎖されています。

ジョン・フランケンハイマー監督は“男くささ”を前面に打ち出す社会派監督で、「大列車作戦」(’64年)は私の一押し作品です。また、政治ミステリー「影なき狙撃者」(’62年、主演:フランク・シナトラ、ローレンス・ハーベイ)も見逃せません。

参考文献:「世界の映画作家」 キネマ旬報社
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