「アラビアのロレンス」予告編
アラビアのロレンス
      1962・英
アラビアのロレンス

製作:サム・スピーゲル
監督:デビッド・リーン
原作:T・E・ロレンス
脚本:ロバート・ボトル
撮影:フレディ・A・ヤング
音楽:モーリス・ジャール

出演:ピーター・オトゥール
    オマー・シャリフ
    アレック・ギネス
    アンソニー・クィン
    ジャック・ホーキンス
    クロード・レインズ
    ホセ・ファーラー
    アンソニー・クェイル
    アーサー・ケネディ


砂漠の井戸

族長アリ(オマー・シャリフ)

ロレンス(ピーター・オトゥール)と族長アウダ(アンソニー・クィン)

フェイサル王子(アレック・ギネス)

アレンビー将軍(ジャック・ホーキンス)

ドライデン局長(クロード・レインズ)

将校ブライトン(アンソニー・クェイル)

トルコ軍司令官ベイ(ホセ・ファーラー)

従軍記者ジャクソン(アーサー・ケネディ)

列車の屋根に乗るロレンス

アラビアのロレンス

トマス・エドワード・ロレンス

アラブ服のロレンス

オートバイのロレンス
物語

「フェイサル王子を探すのだ」 英国陸軍情報部アラブ局のドライデン局長(クロード・レインズ)が言った。「大事なのはアラブを将来どう導くかだ」 
カイロの英陸軍司令部に勤務するロレンス(ピーター・オトゥール)はアレンビー将軍(ジャック・ホーキンス)からアラビアの情勢を把握するよう指示を受けていた。当時、英国の敵ドイツはアラビアに勢力を持つトルコと同盟を結んでいた。ロレンスはアラビア情勢に明るく、トルコの圧制に苦しむアラビア人に同情もしていた。
「ベドウィン族は砂漠を1日に100キロ移動する」 ドライデンは続ける。「砂漠を楽しむことができるのはベドウィン族と神々だけだ。それ以外の者には灼熱の地獄だ」
第一次世界大戦が始まって2年目の1916年のことである。

ロレンスは案内人と共にフェイサル王子を訪ねる砂漠の旅に出た。果てしなく広がる砂漠。やがてマスツラの井戸に着いた。水を飲み休んでいると、遠く地平線の彼方から黒い点が近づいてくる。陽炎の上に霞んでいる点がやがて形になってきた。案内人が銃を取ったその時、一発の銃声がし、案内人が倒れた。
駱駝に乗った男はハリス族の族長アリ(オマー・シャリフ)と名乗った。案内人の頭は撃ち抜かれていた。
「何故殺した」 ロレンスは言った。「私の井戸だ」と、アリ。 「私も飲んだぞ」 「あんたはいい、ハジミ族がこの水を飲むのは禁止されている」 
「アラブは部族同士で戦う限りいつまでも無力で愚かな民族にすぎないぞ」 ロレンスが言い、フェイサル王子のところへ案内するというアリを断りコンパスを頼りに行くと言い張った。
「1日かかる、迷えば死ぬぞ」 アリが言った。

途中の岩場でロレンスを待っていたのは英陸軍将校ブライトン(アンソニー・クェイル)だった。共にフェイサル王子のテントへ着いた。迎えたのはアラビア反乱軍の指導者フェイサル王子(アレック・ギネス)であった。アリも着いていた。
「アカバを陸から攻め落とす」 ロレンスが一晩中考えた結論だ。「正気か?」 アリが驚く。「それにはネフド砂漠を横断せねばならん、コンパスでは渡れん。神が創った最悪の土地だ」 「渡ってみせる」 ロレンスは言う。「50名貸せ、砂漠を渡ればハウェイタット族がいる」 「盗賊だぞ、金でしか動かん」 「だが勇敢だ」 「大砲があるぞ」 「海に向けられている、内陸に向けた大砲はない」 「正気じゃない」 アリは信じられなかった。

ロレンスはアリとその部下50人を引き連れて出発した。砂漠が続く。まさに死の行軍だった。喉が渇き水場までの我慢だった。途中、着いてこない人間がいた。ガシムだった。倒れてしまったのか。ロレンスが戻って探してくるというのをアリが止めた。「もう、死んでる、戻れば死ぬぞ、それが運命だ」 「・・・運命などない!」 ロレンスは振り切って戻る。
やがて一行が水場で休んでいると、ロレンスの使用人の若者が遠くからやって来る駱駝を見た。後ろにガシムを乗せたロレンスだった。皆が歓声で迎える。
ロレンスは笑顔で水を差し出すアリに言った。「運命などない・・・」 ロレンスはそう言うと泥の眠りに落ちた。

ロレンスが目覚めたとき用意されていたのはアラブの族長用の服だ。ロレンスはそれを着て得意げにポーズを取った。岩場でそれを見ていたのはベドウィンの中でも蛮族として知られる族長アウダ・アブ・タイ(アンソニー・クィン)だった。
「アカバの金庫に大金がある」 その夜、アウダのテントでロレンスがアウダに話を持ちかけた。アウダは乗ってきた。
ロレンスとアリが小高い丘からアカバの灯を眺めていると、銃声が聞こえる。急ぎ戻ると、アリの部下とアウダの部下に諍いがありアウダの部下が死んだという。アウダは怒り狂っていた。
「私が処刑すればよいか」 ロレンスがアウダに言った。うなずくアウダ。
ロレンスが銃を抜き、抑えられている男を見ると、昨日助けたガシムではないか。何という皮肉であろう。ロレンスの気持ちが揺れたが大儀の前だ。ロレンスの銃声が夜空に響き渡った。

翌朝、アリの部隊とアウダの部隊がアカバに向かって猛進撃した。砂塵を散らす馬と駱駝。陸上からの攻撃を想定していないアカバは陥落した。アカバの町を駆け抜けるロレンスの一団。
アウダは金庫を漁ったが札しかない。彼にとっては金貨しか金ではない。札束を宙にばら撒いて怒るアウダ。
ロレンスは証文を書いた。『イギリス国王はアウダ・アブ・タイに対して、500ギニーの金貨の支払いを約束する。代理人T・E・ロレンス』

ロレンスは使用人の若者2人を連れてカイロへ報告に行くことにした。「シナイを渡ってか?」 アウダは信じられない。「モーゼは渡った」 ロレンスは答えた。

シナイの砂漠をひたすら進むロレンスと二人の若者。
一人の若者が砂に足を獲られた。みるみる体が砂に吸い込まれる。あり地獄のような砂の底なし沼だ。ロレンスは衣類を脱ぎロープ状にして若者に投げた。が、掴んだ若者は砂の中に姿を消した。
ロレンスは疲弊していた。もう一人の若者も言葉もなくただ駱駝に身を任せていた。
二人はやがて運河に出た。

「君を少佐に昇格しよう。任務に戻り更に活躍せよ」 アレンビー将軍はカイロに戻り報告したロレンスに告げた。
「私は二人も殺しました、アラブをです・・・一人は砂に飲まれ、一人は処刑・・・問題なのは私です・・・私は・・・楽しみました・・・」 ロレンスは自虐的に言うのだった。「君は疲れている」 「アラビアはアラブの国土です。彼らの疑惑はトルコの後釜にイギリスが座ることです」 ロレンスは言った。「小銃は2000では不足です、5000ください」 「よし」 「金は紙幣でなく、金貨で」 「よし」 「機関銃指導員を」「資金を25000と追加を」「装甲車も2台」「野砲もください」 ロレンスは矢継ぎ早に要求を出す。
「君を信用して何でも支給しよう」 アレンビー将軍は要求を呑んだ。

「野砲を与えるのですか・・・疑問ですぞ、一度与えたら取り戻せない、アラブに独立を与えるのと同じことです」 ドライデン局長はアレンビー将軍に苦言を呈した。「では取り消せばよかろう、ロレンスはもう引っ込みがつかないのだ」 アレンビー将軍は答える。

豊富な資金と武器をもとにロレンスはアリとアウダの軍団を率いた。トルコ軍の1500キロにも及ぶ軍用列車の爆破を繰り返した。アウダの部隊は列車から金品を略奪する。「オレンス!オレンス!」 ロレンスは一躍英雄として崇められる。列車の屋根の上に乗りポーズを取るロレンス。

アメリカ人の従軍記者ジャクソン(アーサー・ケネディ)はそんな戦闘ぶりをカメラに撮り記事を書いた。「アラブはこの戦争で何を得たがっている?」とロレンスに質問した。「自由を望んでる、私が与えてみせる」とロレンス。「・・・はかない夢だ・・・あんたは砂漠の何に魅せられている?」 「清潔さだ」

ある列車爆破の準備中、若者が信管を誤って爆発させた。腹をやられている。列車がやって来る音が聞こえる。敵に渡せば拷問が待っている。ロレンスは拳銃で虫の息の若者の頭を撃った。これでロレンスを慕って戦いに参加した若者を二人も失ったのだ。ロレンスは完全に失意に陥った。

ロレンスはアリと共にデアラの町に赴いた。「イギリス軍のエルサレム占領の先を越すと将軍に約束した」 ロレンスはアリに言った。
トルコの兵隊がやって来る。ロレンスはアラブ服に身を包んでいるが、トルコ兵に見咎められ連行された。
トルコ軍司令官ベイ(ホセ・ファーラー)はロレンスを舐めるように観察した。「興味ある顔だ」 いきなりロレンスの上着を剥ぎ取った。「肌が白いな」 ベイの唇が滑っている。ロレンスは我慢の限界を超え、ベイの腹を殴りつけた。ベイの部下がすかさずロレンスを叩きのめした。
「鞭打ちだ」 ベイは去り、自室のドアを半開きにしてロレンスが鞭打ちにされるのを見ていた。
やがて鞭をさんざん打たれたロレンスが外に放り出された。アリはそこに待っていた。

それからのロレンスは飯を食わず眠りもしない日が続いた。
「人間だ、体を鍛えろ」 アリは心配して言った。「私はここを去る」 ロレンスが力なく言う。「何故?」 「私はもう終わりだ」 「我が軍もか」 「私は軍の一員でもアラブでもない」 「あなたは言った・・・何にでもなれると」 「すまない、思い上がりだった・・・私の肌を見ろ、白い・・・人間の欲望には限界がある、その限界を決めるのは肉体だ・・・私は、もう少しで話すところだった、私が何者で君たちがどこにいるかを・・・私は普通の人間だった」

「平凡な勤務につきたい」 カイロに戻ったロレンスはアレンビー将軍に転職願いを出した。「個人的な理由です」 「個人的?君は第一線の将校だぞ、気が変になったか」 「いいえ、普通です。だから転職願いを・・・」 「来月16日のダマスカス総攻撃で君の活躍を期待している」 アレンビー将軍は言った。「それにアラブの友達はどうなるのだ」 「そんなものはいません、もう、真っ平です」
ロレンスはそこで『サイクス・ピコ条約』のことを聞かされる。イギリスのサイクスとフランスのピコが戦後について取り決めたもので、トルコをアラブも含めて両国で分割するというものだった。ロレンスは衝撃を受けた。

ロレンスは再び砂漠へ戻り、アリとアウダの軍団を引き連れダマスカスへ向かった。途中で敗走中のトルコ1個師団と遭遇した。
「皆殺しだ!捕虜はいらん!」 ロレンスは先頭をきってなだれ込んだ。手当たりしだいに殺しまくるロレンスの目に狂気がはらんでいる。
アリはそんなロレンスを見た。「もう沢山だ、やめさせろ」 
従軍記者ジャクソンもつぶやいた。「ひどい」 あたりには死体の山。「何てことを・・・汚れた英雄だ・・・」 ジャクソンは写真を撮った。

「ロレンスにやられましたな」 英国陸軍情報部アラブ局のドライデン局長がアレンビー将軍に言った。イギリス軍がダマスカスに着いた時には既にロレンスの軍隊が着いており、町にはアラブの旗がひらめいていた。電話局、郵便局、発電所、病院、消防署が全て占拠されていた。
市役所に司令部が設置され、『アラブ国民会議』と自称している。
しかしアラブ人たちは自己の種族の利益ばかりを主張し合い、ロレンスの思惑は空回りするばかりだった。

「くだらねえ、何が国民会議だ」 アウダは言った。「流血のことか」 と、ロレンス。「砂漠はどんな血でもすぐに乾かしちまう」 「砂漠などもう2度と見たくない」 「来るさ、他に行き場がない」
ロレンスはアリに聞いた。「あんたは?」 「ここに残って政治を勉強する、あんたに会って思いついた」 「卑しい職業だ」 ロレンスははき捨てるように言った。
やがてアラブ人たちは略奪品を持ちてんでにダマスカスを去って行った。

「我が友ロレンス。戦士の仕事はもうなくなった。取り引きは老人の仕事だ」 イギリスとの政治交渉のためにやって来たフェイサル王子はロレンスに労いの言葉をかけたが、ロレンスの気持ちは空しさを募らせるだけであった。
アラブ軍団の先頭に立つロレンス アラブ軍団の先頭に立つロレンス
映画館主から

英国を代表する監督デビッド・リーンの超大作。
第一次世界大戦が始まって間もなくアラブはドイツ側に付いたトルコの圧制に苦しんでいた。トルコがスエズ運河を奪えばイギリスは植民地であるインドへの道を絶たれてしまう。イギリスはただちにアラブの情勢を探る必要に迫られた。その任務を命じられたのが陸軍中尉のトマス・エドワード・ロレンスでした。

T・E・ロレンスは1935年、愛用のオートバイを走らせて事故を起こし死亡(享年47歳)するのですが、映画はそのシーンから始まります。

原作はロレンスの自伝的な著作「知恵の七柱」です。前作「戦場にかける橋」でもコンビを組んだ製作者サム・スピーゲルと監督デビッド・リーンは、この『砂漠の反乱』を圧倒的なスケールで描き上げました。

イギリスの作家コリン・ウィルソンの処女作にして名著「アウトサイダー」の中でもロレンスの「知恵の七柱」が出てきます。
この著作は、作家ドストエフスキー、サルトル、カミュ、バーナード・ショー、ヘミングウェイ、ゲーテ、トーマス・マン、ヘルマン・ヘッセ、画家のゴッホや思想家のニーチェなどの、いわゆる常人からかけ離れた人格・才能・思想の持ち主であるアウトサイダーたちを論評したものですが、私の青春の血を大いに沸かせてくれたものでした。

ロレンスの複雑怪奇な人格。内気でありながら目立ちたがり屋、インテリ考古学者でありながら勇猛な軍人たらんとする、人命尊重を唱えながら虐殺を命ずることもあるなど、相反する性格を併せ持つ奇人であったロレンス。
そんなロレンス役に白羽の矢が立てられたのが当時まだ無名だった舞台俳優のピーター・オトゥールでした。トルコ兵に鞭打たれながら歓びに震えているようなロレンスの表情。自分が助けたアラブ人を射殺せざるを得ないロレンスの心の襞。実際のロレンスもさもありなんと思えるほどぴったりの人選でした。容貌も実際のロレンスと酷似しています。ただ、身長はピーター・オトゥールが188cmと長身なのに対しロレンスは166cmと小男だったそうですが。

脇を固める俳優がまた凄い。「戦場にかける橋」のアレック・ギネス、「ベン・ハー」のジャック・ホーキンス、「道」のアンソニー・クィン、「カサブランカ」のクロード・レインズ、「赤い風車」のホセ・ファーラー、「ナバロンの要塞」のアンソニー・クェイルと主役級の顔ぶれです。
中でも異彩を放ったのがアラブの族長アリを演じたオマー・シャリフでした。砂漠の地平線の彼方から陽炎に揺れながらやって来る長ロングショットで華々しく登場したオマー・シャリフはエジプト出身の俳優で、リーンの次なる大作「ドクトル・ジバゴ」(’65年・米)で主役に抜擢されるのです。

雄大な砂漠のバックに流れるテーマ音楽はモーリス・ジャール。彼は本作以後も「ドクトル・ジバゴ」(’65年)、「ライアンの娘」(’70年)、「インドへの道」(’84年)とリーン作品の音楽を手がけることになります。

アカデミー賞は、作品、監督、撮影、美術、サウンド、編集、作曲と7部門に輝きました。

参考文献:封切時パンフレット
      :「週刊20世紀シネマ館 NO.10」 講談社

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