| 天井桟敷の人々 1945・仏 |
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![]() 製作:フレッド・オラン 監督:マルセル・カルネ 脚本:ジャック・プレベール 撮影:ロジェ・ユベール 音楽:ジョゼフ・コスマ 出演:アルレッティ ジャン・ルイ・バロー マリア・カザレス ピエール・ルノワール ピエール・ブラッスール マルセル・エラン マルセル・ペレス ルイ・サルー ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 ●第一部 犯罪大通り 19世紀初頭のパリ、タンブル通り。見世物小屋の前で大道芸人が曲芸を行う。芝居小屋が立ち並ぶ大通りを人々が行き交う。 馬車が走る。小屋の前で女が踊る。通りは娯楽を求める人々でごった返していた。 「一糸まとわぬ全裸の美女だ、入った、入った。お代は見てのお帰りだよ!」 男の呼び込みの声が好奇心を誘う。 その小屋の中で回転する樽の中に入りギャランス(アルレッティ)は男たちに裸身を披露している。 芝居小屋のひとつヒュナンビュール座に職を求めてやって来たのはシェークスピア劇を得意とするルメートル(ピエール・ブラッスール)だった。玄関先で守衛と問答になる。 「後で驚くな、こんなでかい字で俺の名前が看板になる」 ルメートルは言い、ふと通りを見るとギャランスが歩いてくる。ルメートルはギャランスを追い駆け追い越すと何食わぬ顔で振り返り、「君は笑った、僕を見て笑った。人生は素晴らしい、君は美しい!」 ギャランスは請合わない。ルメートルは美人を見ると近づき、立て板に水のくどき文句を並べ立てる癖があった。 「幻想と異国情緒!見せ場たっぷりの大無言劇!さあ、いらっしゃい!」 ヒュナンビュール座の前で宣伝に声を枯らす父親の横で白い化粧をした男が樽に座っている。その前に詰掛けた人々を黙って見ている。その目がわずかに動く。 「時計が無い!」 一人の紳士が騒ぎ出したのはその時だ。隣のギャランスの腕を捕まえて、「この女が盗んだのだ」 紳士が叫ぶ。ギャランスは抵抗する。 警官が駆けつける。「誰か目撃した者は?」周囲に向かって尋ねた。 「僕が見た」 白い男だった。 白い男、ヒュナンビュール座のパントマイム役者のバチスト(ジャン・ルイ・バロー)が目撃した様子を無言劇で演ずる。 『・・・ここに美しい夫人がいる。その横に腹の出た紳士。さらにその横に口髭をはやした紳士。・・・髭紳士は器用に腹紳士のポケットから懐中時計を抜き取り姿を消した・・・その後、時計の無くなったのに気づいた腹紳士が夫人に疑いを抱いたのだ・・・』 バチストが鮮やかに再現して見せたので腹紳士はギャランスに詫びた。一件落着し、ギャランスはバチストに微笑みバラの花を投げ投げキッスを送った。バチストはこの瞬間からギャランスの虜となったのである。 「この爺の占いだ。好きな男と結ばれるよ」 古着屋のジェリコ(ピエール・ルノワー)は何でも屋だ。占いもすれば盗品も売りさばく。 「ほんと?」 手相をジェリコに見てもらった座長の娘ナタリー(マリア・カザレス)は喜ぶ。ナタリーはバチストに恋心を抱いているのだった。 ルメートルが座長(マルセル・ペレス)のところへ売り込みに来る。座長は無言劇の良さを強調するが、ルメートルの本領はシェークスピアであり無言劇ではない。 「見ろ!」 座長が舞台の袖から観客席を見せる。ヒュナンビュール座の無言劇を見に集まった人々が群れをなし一番上の天井桟敷まで埋め尽くしていた。 しかし舞台では役者と役者が乱闘を起こし大騒ぎになる。「幕だ!幕を降ろせ!」 座長が舞台に役者の騒ぎを調停にいくと、一人の役者が業を煮やして仲間の役者を引き連れて出て行ってしまった。 途中で幕を降ろされた観客が怒り出す。「金を返せ!金を返せ!」 観客席からは大合唱が聞こえてくる。 ルメートルがライオン役を買って出る。バチストがピエロ役になり、その場を収める。 その夜、バチストとルメートルは酒場で一杯飲み親交を深めた。宿無しのルメートルはバチストの宿の一室を借りることになる。 バチストは夜の街を散策しているうちにルンペンの絹糸(ガストン・モド)と知り合う。絹糸は偽盲人で酒場“赤いのど”へ来ると目が開く。宝石の鑑定までするのだ。ジェリコが現れ、「バチスト、こんな場所に来るんじゃない。ナタリーが悲しむぞ」と説教を垂れる。 無頼詩人のラスネール(マルセル・エラン)が麗人ギャランスを伴って店に入ってきた。ラスネールは街頭であの腹紳士から時計を掠め取った男だ。バチストは思いがけないギャランスの出現に驚き、じっとギャランスを見つめる。 「お前みたいな奴であの男にのされた奴は多いぞ。命が惜しかったら早く帰って寝たほうがいいぞ」 絹糸がバチストに注意した。 バチストはギャランスの席に行きダンスに誘う。ギャランスの顔が輝き応じた。それを苦々しく眺めるラスネール。やがてラスネールの子分がバチストの前に立ちはだかりバチストをドアの外に放り出した。 だがバチストは店に入ってきて子分を一撃で殴り倒してしまった。そしてギャランスを連れて店を出る。 「だらしがないぞ」 ラスネールが子分をなじる。「どうしやす?」と子分。「ほっとけ、何か言う奴には俺は女に熱はあげねえと言え」 「案外、強いのね」 歩きながらギャランスが言う。「貴方は僕が夢の中で待っていた人だ。僕は今夜を忘れない。その瞳の光を・・・」 「光?どこにもあるよ。メニルモンタンも輝いてるわ」 遠くにメニルモンタンの街の灯が見えた。 「僕の命は貴方だ・・・名前は?」 「ギャランス」 「・・・ギャランス。愛しています。貴方も僕を愛してる?」 「子供みたいね、そんな愛し方は夢の中よ」 「夢も現実も同じだ。だから生きてゆくのだ」 「・・・好きよ」 二人は唇を重ねた。「恋なんて簡単よ」 ギャランスが言う。 突如。雷が鳴り雨が降り始めた。ギャランスも宿無しでバチストの宿の一室を借りることになる。 夜中にギャランスの歌声を聞いたルメートルは隣室のギャランスに気づき、久しぶりの再会を喜んだ。言葉巧みにギャランスに取り入るルメートル。 ギャランスとルメートルはバチストのヒュナンビュール座で競演することになる。バチスト自作自演の無言劇『月に恋する男』が演目だ。 美女ギャランスが女神のように立っている。白い衣装を纏ったバチストは美女に思いのたけを伝えようと必死だ。思いが伝わらない男は悲観してロープで首を吊ろうとすったもんだの悪戦苦闘。観客が笑い転げる。 桟敷の上等な席で舞台のギャランスを見初めたのは評判を耳にしてやって来たモントレー伯爵(ルイ・サルー)だ。「こんな美しい女は初めて見た」 伯爵の目が野望が光る。 洗濯女に扮したナタリーはバチストを見てはっとする。バチストは舞台の袖に引いたギャランスとルメートルの睦まじそうな様子を悲しそうに見つめているのだ。 「バチスト!」 突然ナタリーが声を発した。舞台が騒然とする。無言劇では声はご法度なのだ。 モントレー伯爵が楽屋のギャランスに大きな花篭を届ける。それはギャランスへの愛の告白なのだがギャランスは軽く受け流してしまう。モントレー伯爵は何かあれば力になると、名刺を置いて立ち去った。 そこへ入れ違いに入ってきたのはバチストとナタリーだった。 「僕は片思いの男だ!」 バチストが荒れている。ナタリーはあっけにとられるギャランスに向かい決然と言い放った。「バチストへの愛は私が全部持っているの。バチストと私は添い遂げる運命なのよ!」 ギャランスの宿で事件が持ち上がった。無頼詩人のラスネールとその子分が男を襲い金を強奪したのだ。帰宅したギャランスを警察が手引きした共犯として連行しようとした。ギャランスには身に覚えが無い。 「私が誰かご存知ないようね」 ギャランスが言った。「私が無実の罪で苦しんでいると、この方に伝えて」 ギャランスが警察に差し出したのはモントレー伯爵の名刺だった。 ●第二部 白い男 数年後。ヒュナンビュール座を去ったルメートルは別の芝居小屋で演じていた。 演目は『アドレの宿』。ルメートルは芝居の筋を勝手に変えてやりたい放題だった、しかもその方が観客の喝采を浴び、作者3人は怒り心頭だった。 ルメートルと3人の作者との争いは決闘に発展する。 楽屋に帰ったルメートルを待ち構えていたのは無頼詩人のラスネールだった。評判を聞いたラスネールがルメートルに金の無心にきたのだ。「生死の問題なのだ」 ラスネールが言うとルメートルは一週間前に当たった宝くじの金の半分を気前良く差し出した。 物陰から子分も出てきた。 「この馬鹿が君のファンでね、君を殺すのを嫌がっていたんだ」 と、ラスネール。「生死とは僕のことか!」 ルメートルがおどけてみせる。ルメートルがシャンパンを取り出しラスネールたちに振舞った。翌朝の決闘の立会人を依頼する。 栗林での決闘はルメートルが泥酔していて勝負にならず、ルメートルが右手を負傷した程度で済んだ。 ヒュナンビュール座のバチストの人気は高まるばかりで、天井桟敷まで満席の観客で埋まっていた。そんな中、毎晩お忍びで特別席でバチストを見に来る女がいる。今やモントレー夫人となったギャランスだった。 ギャランスは英国で暮らしていたがパリへ戻っていたのだ。 ルメートルがヒュナンビュール座へ来てギャランスに再会する。 バチストの演技を見る目が潤んでいる。「彼を愛しているね」 「・・・旅立った日から想わない日はないわ・・・」 ギャランスが答えるとルメートルは激しい嫉妬心に襲われる。「こんな気持ちに襲われたのは初めてだ」 同時にバチストの芸に対する嫉妬もあった。シェイクスピア劇の達人であるルメートルでさえバチストの無言劇の演技には適わない。 「・・・これでオセロが演じられる・・・君たちのおかげだ、バチストのお礼を言わんとな。何か伝言はないか?」 「パリを発つ前にもしちょっとでもお会いできたら嬉しいと伝えて・・・」 ルメートルは楽屋でバチストと再会を喜ぶ。バチストは座長の娘ナタリーと結婚しており小さな息子もいた。 「ジェリコでござい」 古着屋のジェリコが楽屋に入ってきた。ジェリコを嫌うバチストはルメートルと共にその場を離れる。 「お節介じゃがいい話を聞かせよう」 ジェリコはナタリーに近づく。「ギャランスが来てるんじゃ。7号ボックスでバチストを待っている」 ナタリーの顔が青ざめる。 バチストの息子も名前はバチストだ。息子のバチストがナタリーの伝言を7号ボックスのギャランスに伝える。「ママとパパとぼくは幸せに暮らしていると伝えにきたの・・・」 「パパがそう言えって?」 「ママが。でもママもパパもぼくも同じだよ」 ルメートルはバチストに耳打ちした。「毎晩君を見に来る女に気づかなかったか?その女はギャランスだ」 「・・・」 「パリに来てるがまた旅発つそうだ」 ナタリーと踊る場面が来た。舞台に出て行ったバチストはナタリーと向かい合うが動けない。とっさに舞台の袖に引っ込むバチスト。「バチスト!バチスト!」 観客が異変を感じて騒ぎ始める。 バチストがボックス席に駆け込んだ時、ギャランスの姿は消えていた。 ギャランスの邸宅に無頼詩人のラスネールが待っていた。相変わらず警察に追われる身だった。 「俺は文学のほうで売り出したかった。モントレー伯は芸術に理解があるそうだ。是非お会いしたい」 「利用する気?」 「何も要求せんよ。ただ、俺の女神の肩に冷たい手を置いた男を知りたい」 「今も私は自由よ」 ギャランスは突き放す。「それが俺にはつらいのだ」ギャランスの腕を掴む。「昔と変わらぬ君を見るのが・・・俺にはどんなに耐え難いか。君が金に汚され欺かれ身も心も堕落しきっていたら俺は心乱されることもなく社交界などもあえて憎まなかったろう」 ラスネールが帰るとき、階段の途中で帰宅したモントレー伯と出会う。「お会いしたい方と会えて光栄です」 モントレー伯が見たこともない男だ。「貴方は何者かな?」 ラスネールの自尊心が傷つけられた。「初対面の俺に『何者か』とは聞き捨てがたい」 モントレー伯がでは決闘かと匂わすと、 「愚劣な!決闘などせん!絶対に、ただし、武器は選んである。グサリといけばお終いだ」 「さっきの男は誰?」 モントレー伯がギャランスに聞いた。「昔の知り合いが挨拶に寄ってくれましたのよ」 「職業は?」 「著述です。昔は泥棒もしてました。人殺しも少々・・・」 「なるべくあんな男とは会わせないで欲しい。役者ならまだしも、泥棒や人殺しとは」 「・・・貴方は決闘で若者を殺したわ。私が微笑んだだけで。思い出し笑いをしていただけだったのに・・・」 「ギャランス!私を愛していただきたい」 「貴方が望むならパリ中に貴方を愛してる、夢中だと叫びますわ。・・・でも貴方だけには昔私はある人を愛し、今も愛してる、と言います」 ヒュナンビュール座は休演していた。主役のバチストが宿のベッドに臥せたままもの思いに沈んでいるからだ。宿の女将も心配して声をかける。 「ルメートルの『オセロ』が初日ですよ。気晴らしにどう?」 「オセロは良い。無言劇になる。愛する女を殺し、自分も死ぬ。哀れな男・・・」 バチストは自らに重ねる。 『オセロ』の初演日。バチストはルメートルの演技を見る。無頼詩人ラスネールも観劇していた。そして特別席にはモントレー伯爵とギャランスの姿も。 芝居が終わり、観客が出てきたところでバチストはギャランスの姿を見つけた。モントレー伯はルメートルに話があるとパーティ会場へ。バチストはギャランスをバルコニーへ誘い出す。 「君を永遠に失ったかと・・・」 バチストは言う。「いつも想っていたわ、夢にまで見た」 ギャランスが言い、唇を合わせた。その光景をラスネールが見てほくそ笑んだ。 パーティ会場ではモントレー伯がルメートルと口論していた。モントレーはギャランスの恋人がルメートルだと勘違いしていたのだ。シェイクスピアをけなし決闘を申し込む。「貴方様のような方に天国に送っていただけるとは光栄です」 ルメートルは役者らしく大仰に頭を下げる。 そこへ割って入ったラスネール。「不貞な妻を持った男の道化芝居だ!」 カーテンを引くとバルコニーで抱き合うバチストとギャランスの姿が丸見えになる。驚くモントレー伯。 「何をした!」 ルメートルがラスネールに声を荒げる。「君には関係ない」 「女が誰かのものでない以上、嫉妬は自由だ」 ラスネールは不適な笑みを浮かべ会場を去る。 その夜、バチストは宿でギャランスと結ばれる。 「貴方の言ったとおりだ。恋なんて簡単だ・・・」 翌朝。大通りは謝肉祭でごった返していた。ラスネールは子分とトルコ式浴場へ行く。そこで休んでいたモントレー伯爵を刺し殺した。 子分を逃がし、自分は落ち着き払って呼び鈴を鳴らすのだった。 ナタリーが息子を伴いバチストの宿へ来た。部屋のドアを開け、バチストがギャランスといるのを見て愕然とする。ギャランスが部屋を出て行く。「ギャランス!」 バチストが叫ぶ。 声も出せないバチストにナタリーが言う。「答えて!いつもあの女を想っていたの?バチスト!私はどうなるの?」 だがバチストは答えず部屋を飛び出していく。 「ギャランス!」 大声で叫びながらギャランスの後を追う。だが大通りは人であふれ返りギャランスの姿は見えない。紙ふぶきが舞い、踊り狂う雑踏の中、バチストの声は馬車の人となったギャランスには届かなかった。 |
| 映画館主から フランス映画界の金字塔として今なお燦然と輝く名作。 第二次世界大戦中、ドイツナチス占領下のフランスで製作された本作は製作に3年3ヶ月、製作費16億円と当時としては破格の規模でありました。 ナチス・ドイツの占領下のフランスでカルネは非占領地だった南仏ニースに400mに及ぶ【犯罪大通り】を再現、豪華絢爛たる青春群像を描きあげたのでした。 戦時中でありながら総力を結集して大恋愛絵巻を製作できるところにフランスという国の底力を見た思いがします。 パントマイム役者バチスト、シェークスピア俳優ルメートル、無頼詩人ラスネールは実在の人物だそうです。 バチストを演ずるジャン・ルイ・バローは純真な中に人間心理の複雑な襞を織り込ませ深みのある圧倒的な存在感を示しました。 物語の冒頭、ギャランスの無実を証明するために見せるパントマイムはコミカルで笑いを誘い、このために我々はドラマに急激に引き込まれたといっても過言ではありません。 また、劇中で回転する背景の絵に合わせてその場で歩く仕草はマイケル・ジャクソンのムーンウォーク顔負けです。 無頼漢ラスネールを演じたマルセル・エランは悪の香りをぷんぷん匂わせながらも品性があり、ローレンス・オリビエを彷彿させます。 紅二点の妖艶な美女ギャランスを演ずるアルレッティは当時47歳で女優としてのピークは過ぎていたものの彼女の存在がなければ「天井桟敷の人々」は史上不滅の名作足り得なかったといわれています。 一方の座長の娘ナタリー役のマリア・カザレスは本作がデビュー作。悲劇を演じたら右に出る者なしといわれ、その後も「パルムの僧院」、「オルフェ」などで活躍しました。 マルセル・カルネにはエミール・ゾラ原作の「嘆きのテレーズ」(’53年、シモーヌ・シニョレ主演)があり、これも見逃せない名作です。 参考文献:「キネマ旬報 1988年10月下旬号」 キネマ旬報社 |
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