「突撃」ワンシーン
突撃 1957・米
突撃

製作:ジェームズ・B・ハリス
監督:スタンリー・キューブリック
原作:ハンフリー・コッブ
脚本:スタンリー・キューブリック
    カルダー・ウィリンガム
    ジム・トンプスン
撮影:ジョージ・クラウス
音楽:ジェラルド・フリード

出演:カーク・ダグラス
    ラルフ・ミーカー
    アドルフ・マンジュー
    ジョージ・マクレディ
    ウェイン・モリス
    リチャード・アンダースン
    ジョセフ・ターケル
    ティモシー・キャレー
    ピーター・キャペル
    スザンヌ・クリスチャン


塹壕で兵士たちに命令するダックス大佐(カーク・ダグラス)

砲弾の中を突撃する

ブルラール将軍とダックス大佐

銃殺隊

突撃

突撃
物語

1914年8月3日、ドイツとフランスが開戦した。5週間で独軍はパリまで30キロに迫った。
やがて戦線は膠着し、要塞化した塹壕戦となった。Z字壕は英仏海峡からスイス国境まで続いた。
2年後の1916年にも前線はほとんど変わらず無数の死者を出しながら前進は数百メートルにすぎなかった。

そんなある日、フランス軍の師団司令部に軍団長のブルラール将軍(アドルフ・マンジュー)が師団長のミロー将軍(ジョージ・マクレディ)を訪ねてきた。難攻不落の“アリ塚”を48時間以内に占領せよとの参謀本部の命令を伝えに来たのだ。
「現状では・・・」 ミロー将軍は渋ったが、ブルラール将軍に昇進をほのめかされ、攻撃を決意する。

ミロー将軍はダックス大佐(カーク・ダグラス)を呼びつけ指令を出した。ダックスも無茶な命令と思った。「死傷者の予測は?」 
「概算だが、5%は味方の援護射撃で・・・中間地帯で10%、敵の鉄条網で更に20%・・・65%で最終攻撃にかかる。アリ塚攻めで更に25%は減る。だが、占領できる」 ミロー将軍は答えた。
「では半数が死にます」 ダックスは言った。 「無理にとは言わん、他の連隊にやってもらおう」 「他の隊にやられるくらいなら我が連隊が奪います」 ダックスは決意せざるを得なかった。

その夜、3人で夜間の偵察に出たロジェ中尉(ウェイン・モリス)は臆病風を吹かせて手榴弾を投げ、前方にいた味方のルジュン二等兵を殺してしまった。それをパリス伍長(ラルフ・ミーカー)に知られてしまう。
先に逃げ帰っていたロジェをパリスはなじった。「ルジュンを殺して逃げたな」 「将校に向かって何を言う」 「将校があんなことするかね、忘れてた、やれるのは酒びたりの腑抜け野郎だけだ!」 偵察に出る前にロジェが酒を飲んでいるのをパリスは知っているのだ。

翌朝、塹壕の中を歩くダックス大佐。塹壕の両側に自分の連隊兵が連なっている。
時刻が来た。ダックスを先頭に兵隊たちが塹壕を飛び出した。砲弾の雨が降り始めた。大地を揺るがし土くれが飛び散る。たちまち死体、死体、死体と化す連隊兵。ろくに前に進めなかった。
ダックスが気づいたとき、兵隊たちが付いて来ていない。途中の塹壕に潜んでいるのだ。

その様子を後方から双眼鏡で見ていたミロー将軍が業を煮やして叫んだ。「75ミリ砲を自陣に向けて撃て!」 
電話で命令を受けた砲兵隊長は耳を疑った。「将軍の署名入りの命令書がないとできません」 「攻撃部隊が突撃しない、塹壕へ撃ち込め!」 「将軍の署名入りの命令書・・・」 「命令が聞けないのか!お前は銃殺刑だ!明日、出頭せよ!」 結局、ミロー将軍の思惑は実行されなかった。

「臆病だからではなく、塹壕を出られなかったのです」 ミロー将軍に呼ばれたダックスは弁明した。
「突撃命令に従うのが義務だ!」 ミロー将軍は怒りを隠せない。「臆病な腰抜けどもだ!」 各中隊から1名を選出し軍法会議にかけると言い出した。罪状は“敵前逃亡”である。隊の気力を引き締めるいわゆる見せしめであった。
その日の午後3時に軍法会議を開始するという。
ダックスは弁護人を努めさせて欲しいと願い出る。

各中隊から3人が選ばれた。
パリス伍長、兵卒フェロル(ティモシー・キャレー)、兵卒アルノー(ジョセフ・ターケル)の3人だった。彼らは一様にうな垂れていた。パリスはロジェ中尉のルジュン殺害の秘密を知っているから選ばれたのだ。フェロルは人付き合いが悪く、社会的に有害だと言われたのが理由だった。何とアルノーはくじ引きで選ばれたという。
「敵前逃亡などしていない!」 3人は訴えた。

軍法会議判事(ピーター・キャペル)は事務的に裁判を進めた。ダックスは民間では弁護士だったが、この裁判の判決は最初から決まっているのだ。弁明の機会も充分に与えられず、証人も認められない。
最後にダックスは力説した。「昨日の攻撃は、フランスの恥ではない。兵士の不名誉でもない。だが、この軍事法廷こそ汚点であり、恥だ。正義を笑いものにした茶番だ。この兵士たちを有罪とする者は犯罪者であり、その罪は死ぬまでつきまとう・・・被告に慈悲を・・・」

判決は予想通り有罪、銃殺刑。執行は明朝7時と決まった。
「最後の晩餐」が3人の牢獄に運ばれた。デュプレ神父も3人の韜晦に現れた。
アルノーは酒を飲み酔っている。「殊勝げな顔をして苦しめに来たのか!」 アルノーが神父に殴りかかった。パリスがアルノーに鉄拳を突き出すとアルノーが吹っ飛び倒れた。意識不明になったアルノーの頭蓋が骨折していた。

「ミロー将軍が攻撃中の自陣に砲撃を命令したことはご存知ですか?」 ダックスが晩餐会後のダンスパーティから抜け出したブルラール将軍に言った。ダックスはルソー砲兵大尉から先刻報告を受けたのだ。ブルラール将軍は立ち止まった。聞き捨てならない報告の筈だった。
「アリ塚攻撃に失敗し、自陣砲撃も阻止された。その同じ日に軍事法廷で3人を銃殺刑に決めた。それを止めさせるのは参謀本部だけです!」 ダックスは訴えた。

翌朝。3人は広場に出された。アルノーは担架に縛られたままだ。両側に兵が立ち並ぶ中を歩いていく。ミロー将軍、ブルラール将軍の姿もある。ダックスも3人を見つめている。何かを期待している顔だ。
「俺は一生懸命戦った、何故死ななきゃならない」 フェロルは歩きながら泣いている。隣のデュプレ神父は、「敵に勇気を見せたのなら味方にも・・・」 と諭す。「主は天国で待っているよ」 「神よキリストよ力をお貸しください!」
3人は柱に縛られた。アルノーは意識朦朧で担架のままだ。パリスは目隠しを拒否した。覚悟はできているようだ。
数十人の銃殺隊が並び号令が発せられた。銃殺刑は瞬時に終わった。

ミロー、ブルラールの二人の将軍が会食している。
「きれいに死んでくれた」 「大抵一人は暴れたりして後味が悪くなるが」 そこへダックスがやって来た。ブルラール将軍が思い出したようにミロー将軍に言った。
「君は攻撃中、壕を砲撃しろと命じたそうだな」 ミローの顔色が変わった。「誰がそれを!」 「ダックス大佐に聞いた」 「・・・不忠者とは思っていたが、そこまで腐っていたとは!」
「砲兵隊員の供述書があります」 ダックスは言った。
ブルラール将軍の口から査問会にかけられると知ったミロー将軍は憤慨して椅子を立った。

「ミロー将軍の仕事をやらんか」 ミローが立ち去った後、ブルラール将軍がダックスに言った。ダックスは即座に断った。
「昇進を逃がすとは・・・愚かな策を弄した成果なのに・・・」
「昇進をエサにするんですか!」 「大佐!謝らんと逮捕するぞ!」
ダックスは開き直った。「あなたは堕落しきったサド老人だ!何が謝れだ、地獄に落ちろ!」
「・・・・・ダックス大佐、君には失望した・・・理想家すぎる、今は戦争だ、戦わぬ者を処刑するのは当然」
ダックスはブルラール将軍を軽蔑の眼差しで見下した。「・・・分かりませんか・・・哀れな・・・」

ダックスが兵舎に戻ろうとすると酒場からざわめきが聞こえてきた。酒場では部屋を埋め尽くした兵隊たちが今しも始まる捕虜のドイツ女のショーを見ているのだった。指笛を鳴らし歓声を上げる。
♪『愛した長い年月〜愛に終わりはない〜でも愛する娘が死の床にあるという〜』 ドイツ女(スザンヌ・クリスチャン)が頼りなく歌い始める。♪『聞いた男は全てを捨て娘のもとへ走った〜でも母親は言った〜娘は死んだ、遅かったと〜』♪ やがて歌声に聞き入っていた兵士たちは一人二人と共に歌い始めた。涙が頬を伝う。酒場全体の合唱になっていった。
ダックスは外で聞いていた。伝令の兵士がやって来る。「前線に復帰せよと伝えます」 ダックスはそれを制した。「もう少し待ってやれ」
映画館主から

スタンリー・キューブリック監督が、第一次世界大戦中にフランスで起きた実話を元に映画化した反戦映画の秀作。

無理な作戦の責任を取らされ無実の兵士3人が銃殺される事件です。
軍隊の形を重視し昇進ばかり気にする老獪な将軍たちと、力なき兵卒の間に立ち、奔放する大佐の怒りと挫折感をカーク・ダグラスはリアルに気合を込めて演じています。ラスト近く、カーク・ダグラスの大佐がアドルフ・マンジューの老獪な将軍を大声で罵倒する場面など、我々の溜飲を大いに下げてくれました。

運悪く被告にされた3人の兵隊。彼らは皆と同じような行動をとっていたにすぎないのですが、“臆病な”兵士たちへの“みせしめ”として処刑されるのです。傲慢で理不尽な軍隊の非情な論理。
ダックス大佐の上司である将軍に対する告発も裁判の結果に何の好転ももたらさなかったのでした。

観客は銃殺刑が免じられるのは今か今かと期待するのですが、結局銃殺刑は執行されてしまいます。映画はそういう風に進行し、我々は裏切られる。これこそキューブリックの狙い通りの逆説的どんでん返しでありましょう。
そこにキューブリックの透徹した主張が明確に表現されています。

ラスト近くの酒場の場面。捕虜のドイツ女が歌う田舎の歌。同輩が銃殺されたばかりだというのに女を囃し立て指笛を吹く男たち。しかし、女の歌を聴いているうちに一人、二人と歌を口ずさみいつか涙を流しながらの合唱になっていくというシチュエーションは、後年の傑作、「博士の異常な愛情」(’63年)での限りなくブラックなラストシーンに繋がっていくと思われます。

長い塹壕の中での移動撮影は前進する場合も後退する場合も素晴らしい緊張感を孕んでいます。この撮影法を最大に発揮したのは「シャイニング」(’80年)のクライマックスの雪の迷路でした。

「突撃」についてキューブリックは次のように語っています。
「・・・もうひとつ私の試みたことは、かって一度も目にしたことのない偉大な戦争映画への挑戦だった。実際、反戦映画といわれるものは全て、戦争は醜く、汚辱に満ち、恐ろしいものとして描いている、といったことに終始し、戦争の全側面についての真実は描いているとはいえない。完全に真実でないものは、映画においてそれほど良くないということである。
偉大な戦争映画などは、おそらく永遠に存在しえないだろう。もし存在するとしたら戦争以外のなにものでもないはずだ。・・・(中略)・・・
なるほど、ダックス大佐は人間性というものを、その最も見苦しい形において発見するが、また一方で彼は人間たちの中に明るい陽射しをも見る。
ラストシーンで、ドイツの娘が兵隊たちの前で歌うところは人間というものは最も醜いこともできるが、最も美しいこともできるということを示している」

本作はフランス軍の醜聞を扱っているため、フランスでは長らく公開されず、製作から17年後の1974年に初めて一般公開されました。


参考文献:「月刊イメージフォーラム/ キューブリック」 ダゲレオ出版
      :「ザ・スタンリー・キューブリック」 キネマ旬報社

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