山 1955・米
「山」のスペンサー・トレーシー

製作:監督:
    エドワード・ドミトリク
原作:アンリ・トロワイヤ
脚本:ロバート・マクドゥーガル
撮影:フランツ・プラナー
音楽:ダニエル・アムフィサートロフ

出演:スペンサー・トレーシー
    ロバート・ワグナー
    クレア・トレバー
    E・G・マーシャル
    アンナ・カシュフィ

ロバート・ワグナー(右)

山
物語

インドからの旅客機がアルプス山頂付近に墜落した。3700メートル級の山頂だ。
捜索隊が結成される。「生存者はいない模様である」偵察機から情報がもたらされた。冬にさしかかる11月は、標高2400メートル以上は雪に覆われている。

親の代からの名ガイドとして知られるザカリー(スペンサー・トレイシー)は、この山の初登頂者であり、単独で登頂した経験もあるが、3度も死ぬほどの体験をし、山から足を洗い、今は羊飼いの生活だ。
捜索隊のサーボスに捜索の先導を頼まれるがザカリーは断った。
「俺は2度と登らん、俺は山に好かれていない」 ザカリーは頑として断った。

やがて、捜索隊を悲劇が襲った。サーボスが死んだのだ。サーボスは落下し、別の人間を巻き添えにすることを恐れてザイルを自ら切ったのだった。
捜索隊は春まで捜索を断念した。

クリス(ロバート・ワグナー)はザカリーと親子ほど年の離れた弟だ。母親が死ぬ時に、クリスの面倒をみてくれ、と言い残したのがザカリーの耳に焼き付いている。
そのクリスが飛行機の遭難を知り、「2人で登ろう」と言い出したときは驚いた。
「何故だ、あるのは死体だけだぞ」と、ザカリーは言った。
「乗客の金や宝石、カメラを盗むんだ。無駄にすることはない」クリスは答えた。
「死者の金に目がくらむとは・・・罰当たりめ!」ザカリーは弟のクリスが情けない。「もう、10年以上登ってない俺に案内させて神の前で罪を働く気か!」

しかし、クリスは一人準備を始めた。ザカリーの気持ちは揺れた。未熟なクリスを一人で行かせるわけにはいかない。
やがて二人は山をめざし登り始める。ザカリーはもう年だが昔の勘を取り戻していた。
垂直に切り立った岩にピトンを撃ち込みザイルを通してよじ登る。クリスは後から続いて登っていく。
垂直どころかオーバーハングした岩山が最後の難関だ。上からクリスをザイルで引き上げるザカリー。クリスが足を滑らせ落下した。ザイルがザカリーの手を滑り、摩擦で血が噴出した。
やっとの思いでクリスを引き上げた時、二人は疲労の極にあった。
それからしばらく行った所に墜落した飛行機の残骸が散らばっていた。

クリスはさっそく死体の荷物を漁り始める。
「馬鹿な真似はやめろ」ザカリーはクリスを諌めた。そうこうするうちに、機体の中からクリスが血相を変えて飛び出して来た。
「何かが動いてる!」 ザカリーが機体の中に行くと、機体の隅に女(アンナ・カシュフィ)がいた。まだ生きている。鼻にダイヤの飾りを付けたヒンズー教徒だった。何か話すが言葉が通じない。ザカリーは飲み物を作り飲ませる。

翌朝、ザカリーは女を救出する為のソリを準備した。クリスは叫ぶ。
「俺たちがここに来たことがばれるじゃないか。どうせ死ぬ、置いて行こう」
「無事に降りられるさ」ザカリーは耳を貸さなかった。
突然、クリスが女に飛びつき首を締めた。
ザカリーはクリスに掴みかかり女から引き離す。何度も殴った。弟を殴るなんて今までなかったことだ。

ザカリーは女を乗せたソリを引いて出発した。
「待ってくれ」クリスが後を追う。
下山も難関の連続だ。ザカリーはソリを気遣いながら注意深く降りていく。
雪橋がかろうじてクレバスを繋いでいる。ザカリーは雪橋を選び渡った。ソリを引き終えた時、雪橋が崩れ落ちた。
追いついたクリスが叫んだ。「どこを渡ればいいんだ」「分からん」目の前の雪橋を渡ろうとしたクリス。「そこは渡るな!」ザカリーの制止を無視したクリスは雪橋が崩れ、クレバスの谷へ落下していった。

ザカリーは女を抱いて山を降りた。病院へ送り届けた後、ザカリーは質問攻めにあった。
「何故山へ登った?」「クリスはどうした?」
「クリスは死んだ。俺が事故機を漁るために登ったんだ」ザカリーは答える。
「誰も信じないわ」ザカリーに結婚を迫っている村の女、マリー(クレア・トレバー)は言った。
「本当だ、事故機には金が積んであった。俺の狙いはそれだった。弟は反対して俺を止めた。あいつは悪くない、俺が無理に連れていったんだ」

捜索隊の一人(E・G・マーシャル)は、ザカリーの言葉を筆記していたが、ザカリーが去るとメモを破り捨てる。「あいつは嘘を言う男じゃなかったんだが・・・」

ザカリーがマリーと馬車で行く。ザカリーが振り返ると、山は何事もなかったかのように厳しく聳えているのだった。
映画館主から

物語は割合単純です。アルプス山頂に墜落した旅客機を巡り、過去の事故により登山ガイドを止めている男(スペンサー・トレーシー)と、どうしようもない弟(ロバート・ワグナー)の葛藤のドラマです。

スペンサー・トレーシーは、いつものように渋い演技です。二枚目俳優のロバート・ワグナーは我儘な弟役で、因果応報かクレバスに落ちて死んでしまいます。
そしてスペンサー・トレーシーに結婚を迫っている村の女に、懐かしや、「ライムライト」のバレリーナ、クレア・トレバーが扮しています。

監督のエドワード・ドミトリクは、一時レッドパージでハリウッドを追われましたが、再復帰し、「折れた槍」(’54年)、「ケイン号の叛乱」(’54年)、「愛情の花咲く樹」(’57年)、「若き獅子たち」(’58年)、「ワーロック」(’59年)と矢継ぎ早に後世に残る作品を発表しています。

本作は、それらの作品の中に埋もれてあまり目立ちませんが、私は中学生の頃、テレビ放映で見て雪山を登るスリル万点の決死の場面に手に汗握った記憶があります。
撮影はモンブラン周辺で行われたそうですが、この絶壁を必死に登っていくスペンサー・トレーシーは一見に値します。

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