「隠し砦の三悪人」ワンシーン
隠し砦の三悪人 1958・東宝


製作:藤本真澄
    黒澤 明
監督:脚本:
    黒澤 明
脚本:菊島隆三
    小国英雄
    橋本 忍
撮影:山崎一雄
美術:村木与四郎
音楽:佐藤 勝

出演:三船敏郎
    千秋 実
    藤原釜足
    藤田 進
    志村 喬
    上原美佐
    上田吉二郎



太平と又七は常にいがみ合う


疾走する馬上の剣戟


六郎太と兵衛の決闘


敵兵に囲まれ逃げ惑う


腹から笑う三人

物語

二人の百姓、太平(千秋実)と又七(藤原釜足)は戦乱の後の荒野をとぼとぼ歩いていた。お互いに些細なことで罵り合い、口喧嘩どころかつかみ合いになったりする。
喧嘩別れした二人はそれぞれ山名の兵に捕らえられ、落ちた秋月城の地下の財宝堀りをさせられたが、ある時、反乱が起きた。もの凄い人数の人夫の群れが秋月城の階段をなだれ落ちた。迎え撃つ兵の鉄砲。
気がついたとき、死体の山の中、太平と又七はとり残され、生きており、お互いの無事を喜んだ。

逃げた二人は山の中で偶然不思議な物を発見する。焚き木の中に金の延べ棒が入っていた!! そして秋月の紋所の刻印が・・・秋月家の財宝か? 二人は血眼になって焚き木をかき集めた。又、一本!欲に目がくらんだ二人はまたぞろ喧嘩を始めるのだった。

その様子を遠くの岩場から見ていた男がいた。二人は慌てて逃げ出した。夜、野宿している二人の所へその男がやって来た。男の名は真壁六郎太(三船敏郎)。六郎太は金二百貫を隠してあると言う。
早川領(秋月家の同朋)へ行くにはどうしたらいいか質問した。すると、この百姓達が妙案を出したのだ。まず、秋月領から敵方の山名領へ入り、そこから早川領へ入る、その方が警備は甘いだろうと言うのだ。突然、六郎太が笑い出した。「よし、これで腹が決まった!」 

次の日、六郎太が二人を金の隠し場所へ連れて行った。何と、湧き泉の中に薪に仕込んだ金が沈んでいた。それも、二百貫!!
口が不自由な女(実は秋月の雪姫(上原美佐)・・・二人の百姓は知らされていない)と、六郎太、二頭の馬、太平と又七、それぞれ金を隠した薪を背負い出発した。ここは、落城した秋月家の隠し砦だったのである。

太平と又七は秋月の姫とその第一の家来・真壁六郎太とは知らないから、金を馬ごと盗もうと隙を狙っている。六郎太が居なくなった時、馬に水を飲ませるからと馬を連れて逃げようとした。姫は無言で付いて来る。二人は身振り手振りで追い払う。しかし、川向こうには敵の軍勢がいて見つかりそうになった。

戻った六郎太は怒り、二人に張り手をくれた。「しかし、兄貴、川は越えられねえぜ」  六郎太は事も無げに言った。「ならば関所を通る」 二人はヒェーとなる。

関所へ一行が来た。六郎太は奇策を使った。通させまいとする役人達を押しのけ関所奉行の前に行くと、「変なもの拾ったんだ」 彼は大胆にも薪を一本持ち、中から金を取り出して奉行に手渡したのだ。太平と又七はヒェーとなる。
奉行は金を手に取り、仰天する。秋月の紋所がある!六郎太が拾った場所を教えると、「それは俺のものだ。返せ!」と、奉行から取り返そうとした。「ならぬ、ならぬ」「ならば、褒美をくれ」「ならぬ、早く行け!」「褒美だ」「立ち去れ!」 ・・・・一行は無事に関所を通り抜けた。

山名の町に入る。雪姫はそこで、奴隷の如くこき使われている一人の娘を見た。六郎太に金で買わせた。馬は売り払い、金は荷馬車に積んだ。

町で助けた娘も荷車を押していた。街道の途中、追っ手が三頭の馬でやって来た。「女一人と、男三人の者達を見かけなかったか?」 「・・・・」
追っ手は通り過ぎていった。「馬鹿だね、薪を調べねえのか」と、太平と又七。 すると、三頭の馬が戻ってくるではないか。
侍が降り立ち、荷車の薪に手を触れた。その時、六郎太の刀が侍を貫いた。それを見た二頭は逃げ出した。すかさず追う六郎太。

街道を疾風の如く駈ける二頭の馬。それを追う六郎太の馬。ようやく追いつき、二人を斬って倒した六郎太の馬が行き着いた先は、何と敵陣である。兵に囲まれた六郎太。その時、「いよー!六郎太!」と声があった。山名の名将、田所兵衛(藤田進)だ。
六郎太とは敵ながらお互いを認め合った歴戦の中であった。「やるか六郎太」 
槍での一騎打ちが始まる。互角の腕前の長い戦いの末、六郎太は相手の槍をへし折った。観念する兵衛を「また会おう」と言い残し、馬を繰る六郎太。

山道を行く一行。そのうちに太鼓を叩きながら集団が登ってきた。今夜は火祭りだった。それぞれ薪を持っている。姫の一行はその中に紛れ込んだ。兵達もいたが、こんなに薪だらけでは探しようが無い。
夜、火祭りの火蓋が切られた。群集の中で踊りに興ずる雪姫とその一行。
やがて兵が荷車の薪に疑念を持ち出したので、六郎太は荷車ごと火の中へ放り込み燃やしてしまった。

祭りの喧騒が収まり、焼け跡の中から金を掘り出す。馬は無く、全員で背負うしかない。欲の皮が張った太平と又七は執念深く堀り続けていたが、そのうちに兵が大勢山を登って来た。
銃撃にさらされ一行は逃げ惑う。太平と又七は金は諦め、命からがら山を逃げ下りた。

雪姫、六郎太、娘の三人は捕らえられ後ろ手に縛られていた。
その時、「首検分につかまつった」と入って来た男。田所兵衛である。六郎太は兵衛の顔を見て驚く。「どうした、その顔は・・・」 兵衛の顔に無残な傷跡が浮き出ていた。あの一騎打ちの後、山名の主君に罵られ、斬られたのだった。雪姫は、家臣にそのような振る舞いをする主を誹謗した。
「人の世を生かすも殺すも己の器量しだいじゃ。家来も家来なら主も主じゃ」
その時、、娘が叫ぶ。「姫は私じゃ、姫は私じゃ!」 「もう良い、志しはありがたいが、姫はいさぎよう死にたい」雪姫が言う。
六郎太は姫に不覚を詫びた。雪姫は言う。「・・・姫は楽しかった!・・・この数日の楽しさは城の中では味わえぬ・・・装わぬ人の世を・・・人の美しさを・・・人の醜さを・・・この眼でしかと見た・・・六郎太、礼を言うぞ・・・これで、姫は悔いなく死ねる・・」
雪姫が謡い始めた。「人の命は、火と燃やせ・・・虫の命は、火に捨てよ・・・思い思えば闇の夜や・・・浮世は夢よ、ただ狂え・・・」 田所兵衛はその場に立ち尽くしていた。

後ろ手に縛られた三人は馬に乗せられ、刑場に向かう。先程から田所兵衛が浮かぬ顔で何か考え事をしていた。別れの名残に雪姫は秋月の山々を振り返った。六郎太も見た。そして、兵衛も見て、先程雪姫が謡った歌を口ずさんだ。「人の命は、火と燃やせ〜・・・」 
そして次の瞬間、兵衛は意外な行動に出た。金を積んだ馬を解き放ったのだ。四頭の馬は次々と陣の外へ走り出した。兵達はあっけに取られた。兵衛は姫と六郎太の縄を切った。「何をする!!」兵達が異変に気付いた時は遅かった。兵衛は兵達に向き直り、「裏切り、御免!」と言うと、馬に飛び乗った。
雪姫が馬で走り去る。六郎太は娘に手を差し伸べ、馬に引き上げると姫に続いた。続いて兵衛が・・・・・・・・山を駈ける三頭の馬。
やがて、彼等は遥か下方に金を積んだ馬が走っているのを認めて、腹から笑い出した。

太平と又七はほうほうの体で歩く。そこへ、四頭の馬が来て止まる。
二人は、馬の背の金に気付いて驚く。続いて、やって来た早川方の騎馬武士。あやしい風情の二人を捕らえた。

太平と又七が白洲にひれ伏していた。「顔を上げよ」 雪姫が声を掛けた。
何と、中央に座っているのは、あの口の利けない女だ。六郎太が鎧に身を固め立っていた。対面に兵衛が座っていた。
「この度の働き、ご苦労であった。礼を取らす。仲良く分けるのじゃ。喧嘩はならんぞ」 雪姫は言った。

太平と又七が歩いてくる。「これは、お前が持っててくれよ」「いや、お前が・・・」と、褒美にもらった一本の金を譲り合う二人だった。
映画館主から

黒澤明監督が初のシネマスコープ作品に挑み、画面狭しと暴れまくった娯楽時代劇の快作。
難関を如何に突破するか、黒澤は他の3人の脚本家に難題を出し、ドラマが練られたといいます。黒澤の他の作品同様、複数の脚本家のアイデアは抜群で、話の運び、台詞に唸らせるものがあります。

特に、関所を突破する奇策。これ以外に無いほどのアイデアです。
黒澤は、過去に「虎の尾を踏む男達」で、勧進帳を映画化していますが、再度試みたいと常々思っていたそうです。「隠し砦の三悪人」は、全体に勧進帳の話にそっくりです。雪姫が義経、弁慶が三船の六郎太です。「虎の・・・」で、富樫を演じた藤田進の田所兵衛も富樫的な役回りになっています。

三船が逃げる馬の武士を追いかけ、刀で斬る場面は凄まじい迫力。

また、ラストの「裏切り、御免!」の場面。姫が走り、三船が娘を馬の上へ引き上げ走り去る場面では、映画館が拍手に沸きました。これほど気分がスカッとする場面はそうそうあるものではありません。

凸凹コンビの百姓を演じた、千秋実と藤原釜足。この二人が、「スターウォーズ」シリーズの凸凹ロボットコンビの原型であるとは良く知られた話です。どちらかというと、むしろ、この二人が主役であるといっても過言ではない位、人間的に愛すべきキャラクターとして描かれていました。

雪姫を演じた上原美佐は演技こそ、未熟ながら、その抜群のプロポーションもあって、強烈な印象を残しました。この後、数本の映画に出演したあとはでスクリーンから遠ざかってしまったのが残念です。

   参考文献:ドナルド・リチー著「黒澤明の映画」 キネマ旬報社
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