「血槍富士」ワンシーン
血槍富士 1955・東映京都
血槍富士

監督:内田吐夢
原作:井上金太郎
脚本:三村伸太郎
    八尋不ニ
    民門敏雄
撮影:吉田貞次

出演:片岡千恵蔵
    月形龍之介
    喜多川千鶴
    田代百合子
    加東大介
    島田照夫


片岡千恵蔵大暴れ
物語

富士の見える東海道を槍持ちの権八(片岡千恵蔵)が、仲間の源太(加東大介)とともに主人の小三郎(島田照夫)に従い歩いて行く。
足に豆ができた権八に小三郎が薬を与え先に行くと、権八のところへ一人旅の小僧(植木基晴)が寄ってきた。
「おじさん、何してんの」 「豆ができたんだよ」 「その豆食えるのか」 「お前、腹減ってやんな」 そして、小僧の目当ては権八の槍と解る。
「おじさん、槍、持たせてよ」 「いけねー、いけねー、おもちゃじゃねえんだ」
それでも、権八は小僧に少しだけ槍を持たせてやる。「俺も、槍持ちになりてえなー」 

宿場では様々な旅人と相部屋になった。街道に大泥棒が出没しているらしい噂が聞こえてきた。風の六右衛門という背中一面に風神の刺青が彫ってある男らしい。
源太が盗み酒をしているのを権八が咎めた。「ご主人はこのお勤めの間、ずっと酒を断っているのだぞ」
実は主人の小三郎は日頃は良い人物なのだが、一旦酒が入ると酒癖が悪くなるのだった。

その夜、煩い権八の目を盗んで小三郎が源太を連れて町の酒場へ出かけた。源太は生来の酒好きだから主人の勧めるままに飲みだした。
その頃、権八は小僧を連れ町の祭りに出ていた。広場では、旅芸人の女(喜多川千鶴)が娘(植木千恵)に芸をさせている。

「酒を持って来い、酒を!」 小三郎、かなり酔っている。源太もへべれけだ。
小三郎、とうとう近くの町人を相手に喧嘩を売り始めた。逃げる町人を追い外へ出て暴れる小三郎。
そこへ祭りから帰ってきた権八、主人を取り押さえる。

翌日の東海道。木の上に登っていた小僧は川辺にあやしい男がいるのを見て叫ぶ。「あ、泥棒だ」 小僧、その途端、木から落ちる。
富士山に雲がかかり急に雨が降り出した。

その日の宿で小僧が昼間見た男の顔を見て、「あ、泥棒だ」と叫んだ。皆が集まり男を捕まえようとすると、「うるせいや」もろ肌脱いだ背中に風神の刺青が彫ってある。風の六右衛門(進藤英太郎)だった。皆が怯えたところへ戸口から槍が伸びてきた。風の六右衛門、ぎょっとする。権八が外から帰ってきたのだ。風の六右衛門はそのままお縄になった。

相部屋には生活に困り、娘を女郎屋に売りに来た父と娘がいた。娘(田代百合子)は泣いて父と別れを告げる。女郎屋の主、九兵の持ってきた三十両を拝んでいる父。
一方、自分の娘をかたに借りた三十両を長年歯を食いしばって貯め、女郎屋へ持参した藤三郎(月形龍之介)は、店の女将に2年前自分の娘が病死したと聞き、意気消沈して宿へ帰ってきた。
そこで同宿の父娘の事情を知り、再び女郎屋へ取って返した。

九兵が娘を連れている。藤三郎、自分の娘を取り返すために貯めた三十両を地べたに叩きつけると娘を連れて宿に戻る。
礼を言う父娘に、「死んだ娘が生きて帰ってきたような気がする。働いて作った金がやっと生きたぜ」 藤三郎は晴れ晴れと言うのだった。

小三郎、その様子をじっと見ていた。「いい人たちだなあ」
権八は河原で小僧と旅芸人の娘が遊んでいるのを微笑ましく眺めていた。
小三郎、飲み屋へ源太を誘う。「いけません」「拙者、今日は飲みたいのだ」
源太は断りきれず付き合った。

「どうも、侍というものはさっぱりせんな、筋の通らぬことが多いぞ。そこへいくとさっきの人たちが羨ましい」 と、小三郎。
そこへ侍の集団がやって来た。酔っているらしく、隣の席で女たちに絡み始める。小三郎が立ち上がる。
侍の一人、それを見て「下郎が主人と同席して酒を飲むとは、下郎が下郎なら、主人も主人だ。グァハハハ」
小三郎、「下郎とて同じ人間ではないか。主人と同席して何が悪い。無礼を申すな」 「何!」
5人の侍、刀を抜き、「出ろ」と中庭に飛び出た。あたりは騒然となった。止めようとした源太、斬られる。
小三郎、中庭に出たが多勢に無勢、たちまち5人に斬り捨てられてしまう。

報せを受けて駆けつけた権八、主人と源太が倒れているのを見て、形相が変わった。「ああぁ」 侍たち「下郎の分際で生意気な」 
権八、槍を振り回す。修羅と化した権八は一人、また一人、槍で突き刺していった。酒樽を突き、酒が噴出す。侍たちは、権八の剣幕に負けた。酒の海の中、遂に権八は5人を殺し、主人に取りすがって号泣するのだった。

役人の発表。「権八は主人の仇を討ったのであるから、役所の方も松平家へ助命を願い出た。しかるに、返事は、当藩においては下郎に斬られるような不束者は一人もいない、とのこと。従って、斬られた侍は斬られ損、権八へは御咎めなしだ」

権八が主人と源太の遺品を胸に宿を出た。小僧、「おいらも一緒に連れてっておくれよ」 「いけねえ、いけねえ」 権八、追い払う。
「おいら、お侍になるんだ、槍持ちになるんだ」 「馬鹿野郎、槍持ちになんかなるんじゃねえ、帰れったら帰れ」 権八、さっさと行ってしまう。「おじさんのバカヤロー」 小僧の叫ぶ声だけがいつまでも聞こえていた。
映画館主から

内田吐夢監督が13年ぶりに作った戦後第一作作品。
企画協力に伊藤大輔、小津安二郎、溝口健二というそうそうたるメンバーが並び、内田吐夢は彼らの友情に支えられてカムバックを飾ったのです。

酒乱の気がある殿様がつまらぬ諍いから殺され、その仇を討つはめになる槍持ちを描いた作品です。同時に武士社会に対する痛烈な批判も浮き彫りにしています。
ラスト、片岡千恵蔵が主人の死を知った時の顔のアップから俯瞰になり、槍を振り回して侍に突き進んでいく場面は圧巻。それまで穏やかな千恵蔵が鬼の形相に変わり、修羅場となります。

内田吐夢の演出は骨太です。片岡千恵蔵は内田吐夢のお気に入りで、「大菩薩峠」3部作、「花の吉原百人斬り」でも主役に起用しており、「浪花の恋の物語」、「宮本武蔵」5部作(中村錦之助主演)でも重要な役どころで使っています。

本作は、加東大介、進藤英太郎、月形龍之介、喜多川千鶴などの芸達者のほか、片岡千恵蔵の実子、植木基晴、植木千恵が子役で出演しているのが興味深いところです。

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