マンションのペット問題を解決しました
谷塚コリーナ管理組合法人は、2003年6月の総会で「ペット禁止」から許可制度によるペット飼育を認めました。
発端は、禁止にもかかわらず隠れてペット飼育が増え居住者からのクレームがあり、役員会で取り上げられたのがきっかけです。
禁止しても隠れ飼育者は無くならない、それは禁止自体に無理があるからではないか、実際居住者達はどう思っているのか・・・。
どうもペット問題は根本から調べ直し検討しなければならないと気づきました。
紆余曲折はありましたが当マンションではペット飼育ができるようになりました。実際は、「ペット飼育は禁止」を維持し、例外として「介護犬等の同居は認める」と「動物飼育特別許可規則(適正飼育のできる人のみ特別に許可を与える制度)」を細則として作りました。
そして「ペット飼育者の会」を立ち上げ、具体的な飼育ルールを会則として作っていただき、自主運営をしてもらっています。
その後1年を経過しましたが大きなトラブルもなく、動物嫌いの人も動物好きの人も同じマンションで共生しています。
思い返せばペット禁止だったからこそ、解禁後もマナーやルールが保たれているのです。最初からペット可で飼育ルールが無いマンションの方がむしろ解決が難しいのではないかと感じています。
ここにいたるまでの調査内容や検討事項・失敗談などを公開して、今ペット問題を抱えている管理組合の皆様に参考していただければと思います。
ペット問題といっても各マンションで事情が異なり対応策もいろいろです。決定的な解決方法があるわけでなく、自分のマンション状況にあったベストな解決方法をいろいろ模索することになります。
今、あなたがマンションの理事長としてペット問題にとり組まざるを得なくなったとすると、次のいずれかに該当しませんか?
(1)
ペット禁止にもかかわらずペットを飼育する人があり、居住者から取り締まり強化の対策を求められている。
(2)
ペットは可だが、ペット飼育者のマナーが悪く居住者からクレームが出ており、なかなか解決に至らない。
(3)
ペット禁止だがペット飼育を認めてほしいとの要望が出ている一方、反対する人もあり間に挟まって困っている。
(4)
ペットで迷惑を受けていると管理組合から言ってほしいと居住者から頼まれているが、自分だって言いにくいものだ。
(5)
最初の違反者達に対し一世代限りの条件で認めたが、後から入居した人が飼育を始め、注意すると不公平だとクレームを言われた。
(6)
ペット以外で規約違反者を注意したら、ペット違反者もいるのだから自分の違反行為に文句言われる筋合いは無いと開き直られた。
(7)
ペット可だったのに今度の理事長が動物嫌いのため、規約を改正してペット禁止にしようとしている、どうしたらよいのか?
(8)
ペット飼育で迷惑を受けているが、ペット飼育は可だし、顔見知りでもあるのでなかなかクレームは言えず我慢している。
(9)
自分は動物嫌いなので、動物を見るだけで恐怖感を持つ。何とかペット飼育を規制してもらいたい。
(10)子供が隠れ飼育者のペットをみて、自分の家ではなぜ飼えないかと質問されて説明に窮した。
(11)ペット禁止の中で隠れて飼っているため、ペット解禁を管理組合に言い出せない。
(12)不動産屋からペット飼育OKと言われて入居したのに、いまさら規約で禁止になっていますと言われても困る。
ペット問題では個人の権利の制限や受忍限度の個人差という特有な問題があります。慎重に取り扱わないと居住者間の感情的対立を招き裁判沙汰に発展してしまいます。しかし、問題点をきちんと整理し、正確な情報収集と公平で論理的な判断を心がければ、自分のマンションに最適な解決方法を必ず見つけ出せます。もう少し詳しく言うと、法律や規約の知識・動物に対する正しい知識・公正で透明性のある役員会運営と情報公開・マンション役員としての経験が解決のポイントなのです。
なお、理事長が日常業務を兼務しながらペット問題を解決するには荷が重過ぎます。できればペット問題に関心のある役員を指名して専任として、その人に協力しながら対応を進めたほうが良いと思います。(なかなか引き受けていただける方は少ないのですが、問題提議された方にお願いする方法もあります)
私はペット飼育をしていませんがこの問題にかかわって以来、ペット問題は根本的な取り組みをしないと解決できない状況に来ている事、もはやペット禁止で解決できる時代ではない事、マンションとは動物好きも嫌いな人もお互いを尊重しつつ共同生活すべき空間なのだという事、ペット問題に限らず居住者間のトラブル解決はそのマンションにどの程度コミュニティが育成されているかで決まる事などを実感しました。
それでは、当マンションでのペット問題の取り組み方や検討事項、問題点などを具体的にご紹介いたします。内容を大きく分けると、「ペット問題の基礎知識」と「当マンションでの例」、最後に「いろいろなケースでの対応方法」についてです。
(1)集合住宅でペット飼育が禁止されてきた理由 (2)ペット飼育を禁止する法的根拠 (3)ペット問題に関する裁判と判例 (4)ペット飼育による迷惑行為の実態 (5)動物飼育に関する正しい知識 (6)動物好きな人・嫌いな人それぞれの言い分 (7)規約違反を問題にする人 (8) ペットに関する標準管理規約 (9) 最近の集合住宅におけるペット飼育の状況 (11) ペット飼育問題を解決したマンションの例 (12)参考にした書籍・インターネット情報など
(1)当マンションはペット禁止である (2)分譲当初のペット飼育違反者と一世代限りの条件付許可 (3)その後もクレーム発生 (4)管理組合は動けない (5)実態調査をどうするか (6)役に立ったセミナ受講 (7)一世代許可者へ協力依頼 (8)違反飼育者の苦悩 (9)理想だが実現できなかった協議機関 (10)無記名投書者について思うこと (11)ペット飼育を考える会が発足 (12)反省点が多かったスタート (13)ペット禁止維持と特別許可制度を提案 (14)まず謝罪から (15)ペット飼育者の会と会則 (16)アンケート実施 (17)いろいろな意見がある (18)もめた総会 (19)一年後の現状 (20)反省点とこれからの課題 (21)エピソード
(1)集合住宅でペット飼育が禁止されてきた理由
●はじめは禁止でなかった
日本の最初の集合住宅は昭和30年代に出てきたのですが、まだ高額所得者向けの都心型高級マンションでした。当時の一般庶民の住まい方は一戸建てかアパートで、犬は庭につなぎ番犬として猫は家の内外を自由に出入りするような飼いかた方が一般的でした。昭和40年代の高度成長時代になると集合住宅が庶民に普及するようになりました。当時の住宅公団も大量に集合住宅を供給し始めました。当初の公団規則ではペット禁止になっていません。
●ペット禁止になる
そして、集合住宅に住んでからも今までどおりのやり方で犬猫を飼い始めたわけです。部屋の中で犬が吠えれば隣室に響き、ベランダで飼えば臭気や毛が周囲に漂います。猫は勝手に他人の家に入り込み、集合住宅内に糞尿を残します。集合住宅でペット飼育がトラブルになるのは時間の問題でした。
クレームを受けた管理組合や公団では、規則でペット禁止されていないため飼育者に注意しても強制力はなく、解決しにくい問題でした。現在なら動物を適正飼育できない飼い主の責任なのですが、当時はペットを躾けるために獣医師・訓練士を利用する環境が身近でなかったこともあります。ペット問題どころか、集合住宅で他人に迷惑をかけずに住むという習慣自体がまだまだ日本にはなじみが薄かったのではないでしょうか。
●日本の常識になった
ペット問題の本来の解決とは、飼い主に適正飼育させる方法をとるべきでした。特に集合住宅での飼育方法が日本では認識されていなかったのです。結局、規則で「ペット飼育を禁止」してその後30年間もペット禁止が集合住宅の常識となってしまいました。当時の状況では仕方なかったのですが「臭いものに蓋をしてしまう」方法では根本的解決になりません。
(2)ペット飼育を禁止する法的根拠
● ペット飼育を禁止した法律はない
動物に関する法律や基準・施行規則などがたくさんあります。しかし、一般的なペットの飼育を禁止した法律はありません。
動物に関係した法律としては「動物愛護および管理に関する法律」・「動物の保護及び管理に関する法律」・「狂犬病予防法」・「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」・「鳥獣の保護および狩猟の適正化に関する法律」・「天然記念物保護法」などです。
また、都道府県や地方公共団体にも動物に関する条例・施行細則があります。たとえば、埼玉県では「埼玉県犬取締条例」・「埼玉県動物の保護及び管理に関する条例」・「埼玉県狂犬病予防法施行細則」など、草加市では「草加市飼い犬ふん害等防止条例」です。
意外とペット飼育者でも自分の住む市町村にペットに関連する規則があることを知らないものです。ペット飼育を認めるマンションなら、管理組合としてこのような法律や条例・規則があることを認識しておく必要があります。あなたがお住まいの地域の条例などをインターネットで検索してみてください。
●法律と規約や細則の違い
ところでペット問題から離れますが、法律・規約・細則の区別をきちんとしておきましょう。
(1)
法律
法律は絶対守らなければなりませんし、マンションの管理規約と異なり自分たちの都合で勝手に作れません。マンションにかかわる法律では、「民法」と「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法) 」などがあります。民法は我々が生活していくうえで必要な権利・契約・相続などいろいろな事項について定めた法律です。ところが民法だとマンションのような特殊事情にそぐわない場合(民法255条で定められた共有部分の処理など)が出てくるため、マンションに対応するために区分所有法という特別法ができました。
(2)規約
これらの法律は基本的事項について定めているため、この法律に違反しない限り各マンションの事情に合わせて規約を定めることができます。この規約で定めた内容は区分所有法において認められた事項(第30条)ですから、裁判の時には効力を発揮します。逆に言えば、規約以外で定めても裁判で争点になると弱い場合があります。規約の制定・変更・廃止は、集会にて区分所有者の3/4以上かつ議決権の3/4以上つまり各75%以上の賛成が必要で、それゆえ規約の定めは重視されるのです。また、規約はマンションの最高自治規範(=根本原則)としての位置づけでもあります。
(2)
細則
規約はマンションの最高自治規範ですが、それでも細かいところまでは決められません。また、状況の変化により内容を変更する可能性がある場合に3/4以上の賛成を得ることは大変です。そこで細則として定めることになります。細則は集会で区分所有者の1/2と議決権の1/2を超える決議ですみます。重要事項は規約で、それ以外は細則として定めるのが一般的です。細則の例として駐車場使用細則や集会室使用細則などがあります。
● ペット飼育と区分所有法
それでは区分所有法とペット飼育はどうかかわるのでしょうか? ペット飼育において、他の居住者に実害を与えていると認められる場合は、第6条:共同の利益に反する行為に該当することになります。
それでは、迷惑をかけずに飼育している場合はどうか? 区分所有法では、専有部分内の飼育であれば区分所有者の自由です。
次に、規約でペット飼育を禁止している場合はどうなのか? 第30条:建物又は敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、区分所有方で定めることのほか、規約で定めることができる とありますから規約違反となります。
●ペット禁止規約の問題点
今までの裁判では、ペット禁止の規約は有効であり、居住者は受忍すべきものとされています。
しかし規約でペット飼育を一律禁止すること自体に多くの問題を含んでいるのは事実です。他の居住者に具体的な実害を与えていない状況では、民法の所有権で認められている「所有者の権利」・区分所有法で認められている「専有部分は自由」・憲法が保障した「個人の自由」に抵触することになるのです。にもかかわらずその権利を制約するのですから慎重な取り扱いが必要になります。
●ペット禁止規約の将来
最近はペット可の分譲マンションが増え、適正飼育が普及しマンションのペット飼育が認知されつつあります。分譲業者はペット可のマンションのほうが人気ある(=価値が高い)と言っています。このままでは将来、ペット禁止の規約をもつマンションで禁止する正当な理由が無いと「禁止規約は法律に違反し無効」と提訴されるかもしれません。そして社会環境の変化により今までと異なる判決が出る可能性があります。
マンションとはいろいろな人が居住空間を共用しながら生活する場所です。動物が好きな人も嫌いな人も安心して一緒に暮らせる環境を作ることこそ管理組合の仕事です。マンションのペット飼育についてはもう一度原点に立ち戻って検討すべき時期が来ているようです。