●2次元時空相対性理論では慣性系から別の慣性系に移ると空間座標と時間変数がまざった変換がなされ、これはローレンツ変換(5.18)
で与えられる。そこで空間座標と時間座標を合わせた座標空間を考え、これを時空、あるいはミンコフスキーの世界という。ミンコフスキーの世界とローレンツ変換とに親しむために、まず空間は1次元のx軸だけを考え、時間軸と合わせた2次元時空についてしらべてみることにする。時間変数tのかわりに上の式で導入した長さの次元を持つ変数ctを採用することにして、変数の肩に番号を付けて
x0=ct, x1=x と書くことにする。変数の肩につけた数字0, 1はあくまでも番号であって、0乗、1乗ではないことに注意しよう。この節ではx0とx1の2変数でつくられる2次元のミンコフスキー世界について考察する。ローレンツ変換を新変数を用いて書くと
・・・・・・・・(6.2)
となる。この変換を、形式的に
・・・・・・・・(6.3)
と書きあらわす。ここで
などは変換係数とよばれる。αに添えた数字で上の数字は左辺のx0', x1'の0または1を、下の数字は
のように係数がかかっている変数x0, x1の0または1の意味である。したがってこれらの4つの係数
などを具体的に書けば
となる。ここで
は(6.2)、
で、x0'をx0とx1の関数とみて、x0で微分したものであり、ほかの偏微分係数も同様の意味である。これらの式の右辺の分母の形からも、また速度の合成則からもわかるように、Vの変域は-c<V<cである。このとき
と
の変域は
となり、
と
の変域は
となる。そして、係数の間には
という関数が成り立つ。これらのことから双曲線関数を用いて
と書くことができる。これらの双曲線関数は虚数単位
を用いて、三角関数であらわすことができて
coshξ=cosiξ sinhξ=-i siniξ
と書け、公式
cosh2ξ-sinh2ξ=cos2iξ+sin2iξ=1 が成り立つ。これらの関数式を用いて(6.3)
を書き直すと
i x0'=(cosiξ)i x0+(siniξ)x1 x1'=-(siniξ)i x0+(cosiξ)x1
となることがわかる。この形はユークリッド空間の2次元の座標回転
x'=(cosθ)x+(sinθ)y y'=-(sinθ)x+(cosθ)y
と同じ形である。したがって、虚数i x0, i x0', iξをあたかも実数のようにみなせば、下の図のようにローレンツ変換を空間座標と時間座標の虚数の角度の回転であるとみなすことができる。
![]()
座標回転
ユークリッド空間の2次元座標回転に対する原点からの不変距離の2乗がl 2=x2+y2=x'2+y'2であったのに対して、ミンコフスキーの世界の2次元時空のローレンツ変換に対しては、原点からの世界距離の2乗が
s2=(i x0)2+(x1)2=(i x0')2+(x1')2 すなわち
s2=-(x0)2+(x1)2=-(x0')2+(x1')2・・・・・・・・(6.5) で定義される。
ユークリッド空間では距離は負の値をとることはないが、ミンコフスキーの世界の距離の2乗は正、負、0のいずれの値もとることがある。したがって距離の2乗をs2で定義しても、-s2で定義しても本質的には違いがないので、書物により定義の仕方はまちまちである。本書では空間的距離の2乗が正になるように、距離の2乗を(6.5)のs2で定義する。そして同じくローレンツ変換に対して不変な固有時間τを、(5.27)で定義したようにτ2=-s2/c2=t2-x2/c2={(x0)2-(x1)2}/c2 で定める。固有微少時間は(5.29)から
で与えられる。
![]()
世界線
ある慣性系Sで物体の運動を考えてみよう。この系の2次元座標を上の図のように横軸にx1、縦軸にx0をとり、直交座標で表しておく。座標の原点Oに静止している物体は、時間が経過するにつれてx0が増加するから、上の図でOx0上に直線図形を描く。ミンコフスキーの世界の曲線を前節で世界線と名づけたが、直線x0軸が原点に静止している物体の世界線である。速さはvでx1方向へ等速直線運動をしている物体の描く世界線の方程式はx=vt、あるいは新しい変数で書いてx1=(v/c)x0である。したがって、この世界線はx0軸とのなす角をθとするtanθ=dx1/dx0=v/cとなる。加速度運動をしている物体の描く世界線は一般に曲線になるが、物体の速さは光の速さに達することはできないから、その接線とx0軸とのなす角はつねに45°以下である。光の世界線は(6.5)でs=0と置いて得られるから、x0=±x1となり、x0となす角はつねに45°になる
物体が光速以下で運動しているとき、この物体とともに運動する慣性系へはローレンツ変換で移ることができる。ところがローレンツ変換によって(6.5)のs2は不変である。したがって不等式x0>|x1| をみたす時空点(時間的な世界点)に対してはs2=-(x0)2+(x1)2<0となるから、ローレンツ変換を行っても
(x0')2=(-s2)+(x1')2>0 となる。したがって、x0'は0とはなりえないから、ローレンツ変換(6.2)を行っても、不等式
x0'>0 が保たれる。このようにx0>|x1|となる時間的な世界点は何回ローレンツ変換を行っても、いつも下の図のx0>0なる光錐の中に入っている。このことは、未来は観測者によらずいつでも未来であることを意味する。この光錐を未来錐(future cone)という。x0<|x1|なる点は同様にしてx0<0なる光錐の中に入っている。このことは、過去は観測者によらずいつでも過去であることを意味する。この光錐を過去錐(past cone)という。光錐の内部を時間的領域とよび、これに対して光錐の外部を空間的領域という。
![]()
光錐(光円錐)
変換係数
ローレンツ変換は慣性系の間の変換として(6.2)で定義してきたが、もっと一般的には(6.5)の世界距離の2乗を不変にする変換として定義される。このときのローレンツ変換を(6.3)であらわして、変換係数の満たすべき関係式を求めてみよう。式(6.3)を(6.5)の最右辺に代入するととなる。同じ(6.5)から、これが-(x0)2+(x1)2と等しいわけだから、係数を比べて
・・・・・・(6.8)
という関係が得られる。これらの1行目の式から
を得るから、
と
は絶対値が1未満になることはないこともわかる。
ローレンツ変換の行列表現
ローレンツ変換(6.3)は行列![]()
と縦ベクトル
を使って
・・・・・・(6.12)
と書ける。このような書き方をすると、基本テンソルとよばれる行列
と転置ベクトル
tx=[x0 x1],tx'=[x0' x1'] を使って、世界距離の2乗(6.5)は
s2=txHx=tx'Hx'・・・・・・(6.14) と書ける。転置ベクトルに対するローレンツ変換は、ローレンツ変換の行列Aの転置行列
を用いて
tx'=t(Ax)=txtA・・・・・・(6.15) と書ける。ここで恒等式t(Ax)=txtAを使った。世界距離の2乗(6.14)に(6.12)と(6.15)を代入すると
s2=txHx=txtAHAx となる。この式から行列の間の関係式
tAHA=H・・・・・・(6.16) を得る。この関係式は、添字が表に出てこないので、ローレンツ変換を2次元から4次元に拡張するのに便利な形をしている。
行列Hは2乗するとH2=I となるので(Iは単位行列)、Hの逆行列をH-1と書くと
H-1=H となる。式(6.16)の両辺に左からHをかけると
HtAHA=I を得る。このことから、行列Aの逆行列をA-1=Bと書くと
A-1=B=HtAH・・・・・・(6.17) となることがわかる。この式はs2の不変性から導かれたので、ローレンツ変換の1つの特徴である。またAの逆行列(6.17)を成分でかくと
・・・・・・(6.18)
となる。実際BとAを掛けて(6.8)
を用いれば
を得る。すなわち、BはAの逆行列である。
(6.12)の両辺に行列Bを掛ければわかるように、(6.12)の逆変換は
x=Bx'・・・・・・(6.20) あるいは
・・・・・・(6.20')
あるいは(6.18)により
・・・・・・(6.20")
となる。(物理入門コース 相対性理論 中野薫夫 岩波書店より)
[前ページへ][ホームへ][目次へ][次ページへ]