●時空ベクトルユークリッド空間におけるベクトルは、ニュートン力学でも数学でも、すでになじんでいる概念である。ベクトルの表し方はいろいろあるが、2次元や3次元の空間のベクトルは紙面に矢印で図示することもできる。また、ベクトルは太文字で表したり、成分で表したりする。たとえば3次元の位置ベクトルを成分を用いてr=(x, y, x)と書き、この成分のおのおのを時間で微分した速度ベクトルをv=(dx/dt, dy/dt, dz/dt)と書く。
ミンコフスキー世界は4次元であるから、そのまま紙面上に図示することはできない。しかし、1つの物体の空間座標がx1=x, x2=y, x3=zであり、そのときの時刻がtであるとき、x0=ct, x1, x2, x3を座標とするミンコフスキーの世界のベクトル(xμ)=(x0, x1, x2, x3) をこの物体の4元位置ベクトルという。そして、この各成分を固有時間τで微分した量
は4元速度ベクトルである。
空間ベクトルの変換
座標変換によるベクトル成分の変換規則を求めよう。まず準備として空間ベクトルについて考えると、3次元空間のベクトルについての座標変換はx'=a11x+a12y+a13z y'=a21x+a22y+a23z
z'=a31x+a32y+a33z
で与えられた。これを、さらに簡単化して2次元で考えると、直交座標系の回転による位置ベクトルの変換は
・・・・・・(6.22)
であった。回転角θを一定に止めておけば、(x, y)や(x', y')の時間微分である速度や加速度の変換も全く同じ形で与えられる。なお、この逆の変換は、すぐわかるように
・・・・・・(6.23)
で与えられる。
位置ベクトルなどとはちがったベクトルとして、勾配を表す量の変換を考えよう。ここでφは位置(x, y)の関数であり、このベクトルはスカラーφから導かれるベクトルg=gradφである。座標を回転し、φを新しい座標(x', y')の関数とみれば
ここで(6.23)を用いれば
を得る。したがってgの変換は
gx'=a11gx+a12gy gy'=a21gx+a22gy
である。これを(6.22)と比べると、ベクトル(gx, gy)も位置ベクトル(x, y)と同じ変換をすることがわかる。
時空ベクトルの変換
ミンコフスキー世界を簡単化した2次元時空における(x0, x1)の変換x'=Axは(6.3)で与えたように・・・・・・(6.26)
と書け、その逆変換は(6.20")で与えたように
・・・・・・(6.27)
である。
ミンコフスキーの世界における4次元速度を簡略化して2次元時空で考えると、(6.26)を固有時間τで微分して、速度に対する変換式
を得る。これは座標変換(6.26)と同じ形の変換である。ミンコフスキーの世界における加速度(d2x0/dτ, d2x1/dτ)も、もちろん同じ形の変換をする。このように座標変換(6.26)と同じ形の変換をする量を反変ベクトル(contravariant vector)という。反変という言葉の意味は後に説明する。
任意の反変ベクトルをa=(a0, a1)とすれば、その変換規則は・・・・・・(6.29)
となる。
つぎに関数φ(x0, x1)から導かれるベクトルについて変換を調べよう。
ここで(6.27)を用いれば
を得る。したがってg変換は
・・・・・・(6.31)
となる。ここで(6.4)より
=
である。この式からわかるように、ベクトルg=(gμ)の変換(g0, g1)→(g0', g1')は、x=(xμ)の変換(x0, x1)→(x0', x1')すなわち(6.26)とは異なり、むしろその逆変換(x0', x1')→(x0, x1)すなわち(6.27)と同じである。gの逆変換を調べると
ここで
したがって
・・・・・・(6.32)
となる。これを(6.26)と比べれば変換(g0', g1')→(g0, g1)は変換(x0, x1)→(x0', x1')と同じ形であることがわかる。このベクトルgのように座標変換と逆の形の変換をする量を共変ベクトル(covariant vector)という。この言葉の意味は、このすぐあとで説明する。
2次元時空における時間軸の方向の単位ベクトルをe0と書き、空間のx軸の方向の単位ベクトルをe1と書く。これらは基本単位ベクトルともよばれる。この基本単位ベクトルを慣性系Sの時空とし、これから別の慣性系S'に移り、S'の時空の基本単位ベクトルをそれぞれe0'、e1'としよう。これらの単位ベクトルを用いれば、1つの反変ベクトルaをと書ける。ここで、右辺のa0'とa1'に(6.29) を代入してa0とa1の係数を比較することにより
・・・・・・(6.34)
を得る。この変換は(6.32)と同じ形の変換である。
基本単位ベクトルの変換(6.34)と同じ形の変換をする量を共変ベクトルいう。これが共変という名のもとである。上に述べたベクトルgは共変ベクトルであった。すでに述べたように、位置座標や速度はこれと逆の変換をするので、反変ベクトルとよばれるのである。
ふつうユークリッド空間において直交座標の変換をおこなった際には、位置座標(x, y)も(gx, gy)も同じ変換をした。これに対してミンコフスキーの時空では(x0, x1)と(g0, g1)はちがう変換規則をもったわけである。この相違は(6.22)の逆(6.23)とちがって、(6.26)の逆の(6.27)ではと
のところにマイナス符号が付いていることに由来しているということもできる。じつはふつうのユークリッド空間でも、一般に曲線座標を用いるときには、共変ベクトルと反変ベクトルの区別をする必要がある。しかしここではこれ以上この問題には立ち入らないことにする。
【例題】
ベクトルの大きさ(aμ)の大きさ||a||を||a||2=-(a0)2+(a1)2+(a2)2+(a3)2・・・・・・(6.35) で定義する。これはローレンツ変換に対して不変である。すなわち
||a||2=||a'||2 である。これを2次元時空について確かめよ。
【解】
(6.29)より
これは(6.8)
による。(以上)
時間軸の方向の基本単位ベクトルe0の成分は(1, 0, 0, 0)であり、空間軸の方向の基本単位ベクトル、たとえばx軸の方向の基本単位ベクトルe1の成分は(0, 1, 0, 0)である。したがって
||e0||2=-1, ||e1||2=||e2||2=||e3||2=1 である。ローレンツ変換をしたときには座標軸の成分は変化するが、単位ベクトルの大きさ||e0||, ||e1||, ||e2||, ||e3||は不変である。
2次元時空において、つぎつぎとローレンツ変換を重ねると、大きさが一定のベクトルが1つの慣性系の直交座標系(x0, x1)で描く軌跡は(6.35)からわかるように||a||2=-(a0)2+(a1)2=一定 となるから、光錐を漸近線とする双曲線となる。上式右辺の一定値は、e0では-1、e1では1で双曲線は図6-4のようになる。
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図6-4 反変ベクトルの変換
ミンコフスキーの世界のベクトル
反変ベクトルは(aμ)=(a0, a1, a2, a3)のように上に添字をつけてその成分を表し、共変ベクトルは(bμ)=(b0, b1, b2, b3)のように添字を下につけてその成分を表す。じつはこの規則はこの章で、すでにひそかに使用してきたものである。2次元時空については反変ベクトルaの変換規則は((6.29)参照)・・・・・・(6.37)
で与えられ、共変ベクトルはbの変換規則は((6.32)参照)
で与えられる。この逆変換は(6.31)で示したように
となる。そこで
b0=-b0, b1=b1, b0'=-b0', b1'=b1' と書くと
となる。この式と(6.37)を比べると、全く同じ形をしていることがわかる。すなわち(b0, b1)=(-b0, b1)は反変ベクトルである。この逆に(a0, a1)≡(-a0, a1)は共変ベクトルになる。この関係を4次元で書くと、(a0, a1, a2, a3)を反変ベクトルとするとき
(aμ)=(a0, a1, a2, a3)≡(-a0, a1, a2, a3) は共変ベクトルになる。ミンコフスキーの世界では、反変ベクトルと共変ベクトルの違いは、その第0成分の符号の違いに過ぎない。このことを使うとベクトルの大きさの定義は
||aμ||2=||aμ||2=a0a0+a1a1+a2a2+a3a3 と書ける。(物理入門コース 相対性理論 中野薫夫 岩波書店より)
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