●スカラー、ベクトル、テンソルこの節では、相対論を数学的に整備し、その意味がより深く理解できる形式にまとめあげることにしよう。
まず座標としてはtやx, y, zの代わりにx0=ct, x1=x, x2=y, x3=zと定義されたxi(i=0,1,2,3)をもちいる。座標の番号は右上の肩に書くと約束する。なぜ通常書くように右下に書くのではなく右肩に書くのかは、まもなくわかる。
ミンコフスキー空間での世界長さの2乗はs2=-(ct)2+x2+y2+z2 で定義されているが、この座標表示では
・・・・・・・・・(2.1)
と表される。ただし、ここでηijは
・・・・・・・・・(2.2)
と定義される量である。ηの添字は右下に書くと約束する。ηijを「ミンコフスキー空間の計量テンソル」という。なぜこのような約束をしたり、ηijにこのような名前がついているかは、まもなくわかる。和の記号Σをたびたび書くのは面倒なので、数式の中の項で同じ添字があったときは、とくに断らない限りその添字について0から3までの和をとるものと約束する。この約束はアインシュタインが最初に用いたことから「アインシュタインの省略」とよばれる。この約束に従うならば、(2.1) は簡潔に
s2=ηijxixj と書くことができる。世界長さの2乗がx系でもx'系でも不変である条件は
ηijx'ix'j=ηklxkxl・・・・・・・・・(2.3) と書くことができる。これを満たす座標変換
x'i=Likxk・・・・・・・・・(2.4) がローレンツ変換である。(2.4)式を(2.3)式に代入することにより、Likに対する条件
ηijLikLjl=ηkl・・・・・・・・・(2.5) が求められる。Lijの要素は、x'系がx系に対してx1方向に速度vで運動している場合、
のように座標系の関係を指定するれば、具体的に表現することができる。ローレンツ変換は、座標の相対速度の成分に対応する3自由度連続群である。単位元となるのはLij が単位行列であるもの、つまり恒等変換である。またx'系からx系への逆変換は逆行列に対応し、それはまたローレンツ変換である。
相対論的な物理学を作り上げるためには、1つの慣性系で定義されている物理量が別の慣性系でどのように表現できるかをはっきりさせておけねばならない。多くの物理量は世界点、つまり時刻と場所の関数である。このような物理量を「場の量」という、この場の量は、ローレンツ変換に対する変換性から、スカラー、反変ベクトル、共変ベクトル、そしてテンソルに分類できる。スカラー
ローレンツ変換(2.4)は1次変換であるのでと書くことができる。この場合Lijは
である。
1つの座標系、例えばx系の座標点の上に定義された物理量φ(x0,x1,x2,x3)があったとする。以後、簡単化のために時刻、場所の関数であることを示すのにx0,x1,x2,x3と書き並べるのは面倒であるので、簡単にφ(x)と記することにする。ローレンツ変換によりx'系に移ったとき、x'系でのその物理量φ'(x')の値が元のx系でのφ(x)と等しい場合、この物理量をスカラー(scalar)という。φ'(x')=φ(x) スカラー量の最も簡単な例は世界長さの2乗s2
s2(x)=ηijxixj である。ローレンツ変換の定義から、この値はs'2(x')=ηijx'ix'jに等しい。つまり、(2.3)より
s2(x)=s'2(x') であるので、s2(x)はスカラーである。平たくいえば、スカラーとは、物理的時空の各点で定義されている量で、どんな座標系でその点を表現しようとも、それとは無関係に物理的に同じ点なら値は同じである。
反変ベクトル
x系で場の量として定義される4つの量の組(U0(x),U1(x),U2(x),U3(x))があったとする。これを4元ベクトルとみなしUi(x)と書く。それがx'系へのように変換される性質をもつとき、このベクトルを反変ベクトル(contravariant vector)という。反変ベクトルであることを示すために、軸の番号を示す添字は右肩に書くように約束する。この変換行列はローレンツ変換Lijそのものである。言い換えれば、反変ベクトルとは、座標ベクトルxiと同じ変換(2.4)によって、つまりローレンツ変換によって変換されるベクトルのことである。座標ベクトルxiの添字を右肩に書くのは、これが反変ベクトルであることを示したいからである。
共変ベクトル
スカラーφ(x)の勾配ベクトルの変換を考えよう。x'系でのこのベクトルV'j(x')は
のように変形することができる。このように、スカラーの勾配ベクトルVi(x)のように、ローレンツ変換の逆変換
で変換されるベクトルを共変ベクトル(covariant vector)という。
は行列で書けばLijの逆行列である。また逆変換であるから、Lijの表式のなかの速度vを-vに置き換えたものである。
反変テンソル、共変テンソル、混合テンソル
2つの反変テンソルAi(x), Bj(x)の成分の積がそのi,j成分となっているようなテンソルを考えよう。2つの添字をもつTij(x)のような量は、2階のテンソル(tensor of the 2nd rank)とよばれる。このTij(x)は反変ベクトルの積であることから、座標変換によって次のように変換されることがすぐわかる。
このような変換をするテンソルを2階の反変テンソル(contravariant tensor of the 2nd rank)という。
同様に、2つの共変ベクトルAi(x), Bj(x)の積Tij(x)=Ai(x)・Bj(x) は、共変ベクトルの積であることから、座標変換によって次のように変換されることがすぐわかる。
このような変換をするテンソルを2階の共変テンソル(covariant tensor of the 2nd rank)という。
同様に、1つの反変ベクトルAi(x)と1つの共変ベクトルBj(x)の積Tij(x)=Ai(x)・Bj(x) は、反変ベクトルと共変ベクトルの積であることから、座標変換によって次のように変換されることがすぐわかる。
このような変換をするテンソルを2階の混合テンソル(mixed tensor of the 2nd rank)という。
これらを拡張し、より任意の高階の反変テンソル、共変テンソルそして混合テンソルを定義することができる。
テンソルの例をいくらか示そう。世界長さの2乗(2.1)で表わすとき、もちいたηijは、どの座標系でも(2.2)と同様に定義されている。x'系でのものをη'ijと書くと、(2.5)式はη'ij=LkiLljηkl のことである。つまりこれはηijが共変テンソルであることを示している。
一方ηikηkj=δij により添字がともに右肩に乗ったηikを定義するならば、この量は反変テンソルである。ここでδijはクロネッカーのデルタであり、
δ00=δ11=δ22=δ33=1, δij=0(i≠j) と定義されている量である。具体的にηikを求めると
であり、値としてはηijとまったく同じである。
ηikやηijを用いることにより、容易に共変ベクトルを反変ベクトルに変えたり、またその逆が可能である。Ai=ηikAk, Bk=ηklBl・・・・・・・・・(2.23) もちろん物理的にAiが表わす量とAkが表わす量は同じものであるが、物理法則を記述する上で、反変ベクトルとして表現したり、また逆に共変ベクトルとしての表現が必要となってくるので、(2.23)のような変換が必要となってくるのである。定義から明らかなように、共変と反変の違いは0成分の符号が反対であるだけで(A0=-A0), 1,2,3成分はまったく同じもの(A1=A1,A2=A2,A3=A3)である。
読者の皆さんは、簡単なことをずいぶん形式ばって、わざと難しそうに議論しているように感じられるかも知れない。確かに特殊相対論だけを理解するだけなら、このような形式ばった展開は必要ないが、ここでこのようなことをしているのは一般相対論の準備としての形式を展開しているので、概念を理解しながら学んでほしい。
テンソル演算での約束を示しておこう。
高階の混合テンソルAijk...pqr...において反変および共変成分の任意の1対を同じ添字とし、その添字について0,1,2,3と和をとり、2階分低い階のテンソルを作ることを縮約(contraction)という。例えば式で書けばはその一例である。テンソルAijk...pqr...の共変成分の(下添字)の2番目のqをiに置き換え縮約したものである。当然、1階反変1階共変のテンソルを縮約すれば、スカラーになる。
反変ベクトルAi(x)と共変ベクトルBi(x)よりスカラー量C(x)=Ai(x)Bi(x) を作ったとき、この積をスカラー積という。
ベクトル長さ(A)2とは(A)2=AiAi=ηijAiAj=ηijAiAj である。(岩波基礎物理シリーズ 相対性理論 佐藤勝彦より)
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