●素粒子今度は、究極のミクロの世界、そして、物理学の最先端でもある素粒子物理学の世界を紹介しよう。
素粒子とは「物質を細分化していって、最後にたどりつく究極の粒子」のことである。かつては原子を「アトム」つまり究極の物質と考えていた。だが原子は原子核と電子で構成され、されに原子核は陽子と中性子に分けられる。では、これらが究極の物質だろうか? 陽子や中性子を、もっと細かく分けることはできないのだろうか?
主な素粒子を、下の表にまとめた。素粒子は質量やスピン(あとで説明)、あるいは寿命(生成から消滅までの時間)などによって分類される。何を素粒子と呼び、どのように分類するかは、時代によって変遷してきたが、現在はゲージ粒子、レプトン粒子、クォークの3つの種類に分類される。
ゲージ粒子には光子(フォトン)、ウィークボソン(W粒子とZ粒子)、およびグルーオンがある。これらは、レプトンやクォークの間に働く力を媒介する。
レプトンには、電子とその兄弟(ミュー粒子とタウ粒子)、および3つのニュートリノが属する。
ただし、クォークは1個単独では自然界には存在できない。2個ないし3個が結合した複合粒子であるハドロンとして存在するのだ。
ハドロンは、メゾンとバリオンという2つのグループの総称である。バリオンの代表は陽子や中性子、メゾンの代表は湯川秀樹(1907-1981)が存在を予言した中間子である。[基礎粒子]
記号 粒子名 質量(MeV) 電荷 スピン 寿命(秒) ゲージ粒子 Υ 光子(フォトン)
0 0 1 安定 W± Z0
ウィークボソン
80,330 91,187
±1 0
1 1
1.4×10-18 1.6×10-18
g グルーオン
0 0 1 (自然界には単独では存在しない)
レプトン e- 電子
0.511 -1 1/2 安定 μ- ミュー粒子
105.7 -1 1/2 2.2×10-6 τ- タウ粒子
1,777 -1 1/2 2.9×10-13 νe 電子ニュートリノ
? 0 1/2 安定 νμ ミューニュートリノ
? 0 1/2 安定 ντ タウニュートリノ
? 0 1/2 安定 クォーク アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類。
別表 [ハドロン(複合粒子)…クォークの複合体]
記号 粒子名 質量(MeV) 電荷 スピン 寿命(秒) メゾン π+ π0
π-
パイ中間子
139.6 135.0
139.6
+1 0
-1
0 0
0
2.6×10-8 0.8×10-16
2.6×10-8
バリオン P 陽子
938.3 +1 1/2 安定 n 中性子
939.6 0 1/2 887 Λ ラムダ粒子
1,115.7 0 1/2 2.6×10-10 Σ+ Σ0
Σ-
シグマ粒子
1,189 1,193
1,197
+1 0
-1
1/2 1/2
1/2
0.8×10-10 7.4×10-20
1.5×10-10
Ξ0 Ξ-
グザイ粒子
1,315 1,321
0 -1
1/2 1/2
2.9×10-10 1.6×10-10
※1MeV=1.782677×10-37グラム
パイ中間子
原子の中で、電子はマイナスの電荷、原子核はプラスの電荷を持っていた。プラスの電荷とマイナスの電荷は、クーロン力によって、電気的に引き合っている。
では、原子核内の陽子と中性子(これらを合わせて核子:かくし)は、どんな力によって、結合しているのだろうか? 陽子は、プラスの電荷を持つ。一方、中性子は電気的に中性、つまりプラスマイナスはない。したがって、陽子同士はプラスとプラスで反発するし、陽子と中性子は電気的には結びつく要因がないように思える。じつは、核子は「核力(かくりょく)」によって結びついている。この核力は、陽子と中性子がパイ(π)中間子をキャッチボールするような形で伝わるのだ。
湯川秀樹(1907-1981)は、核力が原子核内という非常に狭い範囲でしか働かないことから、不確定性原理をもとに計算を行った。その結果、電子の約200倍の質量を持つ未知の粒子、中間子の存在を導き出し、1935年に論文を発表した。
翌年、アメリカのアンダーソン(陽電子を発見した人)が、宇宙線の中に電子の約200倍の質量を持った粒子を発見した。これこそ湯川秀樹の予言した中間子だとされたが、これは別の中間子であるミュー(μ)中間子だった。パイ中間子は、1947年、イギリスのパウエルが発見した。
パイ中間子には、プラス、マイナス、プラスマイナスなしの三つの種類がある。中性子がプラスのパイ中間子を受け取ると、陽子に変わる。一方、陽子がマイナスのパイ中間子を受け取ると、中性子に変わるという関係がある。ニュートリノ
1930年に「ニュートリノという粒子があるだろう」と予言したのは「パウリの原理(後で説明)」を提唱したヴォルフガング・パウリ(1990-1958)であった。
パウリが、ニュートリノ(日本語では中性微子)という粒子を仮定したのは、ベータ崩壊を説明するために必要だったからだ。ベータ崩壊とは、簡単にいうと原子核内の中性子が陽子に変わり、そのときに電子(ベータ線)を放出する現象である。以下に、ベータ崩壊について説明する。
ウランやラジウムなどの放射性物質が出す放射線には「アルファ線」「ベータ線」「ガンマ線」などの種類がある。
アルファ線は、陽子が2個と中性子が2個のアルファ粒子(これはヘリウムの原子核でもある)からできている。通常、原子核内の陽子と中性子は核力という力で結びついているが、トンネル効果によって、アルファ粒子が飛び出して来ることがある。
ベータ線は、電子からできている。原子核内の陽子は、このベータ線(電子)と「ニュートリノ」(正確にはニュートリノの反物質)という粒子を出して中性子に変化してしまう。
原子核はアルファ線やベータ線を出すと、他の種類の原子核に変化してしまう。この現象を「崩壊」という。アルファ線を出すものは、アルファ崩壊、ベータ線を出すものはベータ崩壊と呼ばれる。放射性物質は、崩壊を繰り返して、原子核内の陽子や中性子の数が減っていき、最後は鉛になって安定する。
一方、ガンマ線は振動数のきわめて大きい(波長が非常に短い)電磁波である。ガンマ線をだしたときは、原子核は他の原子核に変化したりせず、エネルギーが減少するだけである。
これらの3つの放射線は、物質の透過力などが異なる。もっとも透過力が強いのはガンマ線であり、人体への影響力も大きい。
さて、このベータ崩壊の前後のエネルギーを測ると「エネルギーの保存則」が成立しなくなるなど、いくつかの謎があった。
パウリは、これを説明するために「ベータ崩壊の際には、エネルギーを持った未知の粒子が飛び出している」と考えた。これが「ニュートリノ」である。始めはパウリの予言でしかなかったニュートリノも、のちに実験で検出されて、実在の素粒子であることが確認された。ベータ崩壊
ニュートリノは、宇宙や太陽から、地球へ大量に降り注いでいるが、質量ゼロ(もしくは非常に軽い)であり、また物質透過性が強く、地球などは簡単に通り抜けてしまう。
このニュートリノを捕まえようと、岐阜県神岡鉱山の地下1000メートルに建設されたのが、巨大なプール「スーパーカミオカンデ」である。直径39メートル、深さ42メートルの円形水槽に5万トンの純水が入っている。宇宙からやってきた無数のニュートリノのうち、ほとんどが水槽を通過するが、まれに水の電子や陽子と衝突して電子や陽電子放出するので、それを観測するのだ。クォーク
1950年代に、加速器という装置が開発された。円形加速器は、ドーナツ型のリングの中に電子や陽子などを閉じこめて、電磁石の力でエネルギーを与え、光速近くまで加速させる装置だ。
この加速器の中で、電子や陽電子などを衝突させると、さまざまな素粒子を作り出すことができる。それまで素粒子は、地球に降り注ぐ宇宙線を観測して探していたが、これを人工的に作ることができるようになったのだ。
これにより、数十種類の素粒子(ハドロン)が発見された。しかし、こんなに多く発見されると、これらを全部基本の粒子、素粒子と呼んでいいのか怪しくなる。元素が、それぞれまったく別の物質ではなく、陽子と中性子、電子の組み合わせの違いであったように、ハドロンも、もっと究極の素粒子の組み合わせでできているのではないかと考えられた。
アメリカの物理学者ゲルマンとツヴァイクは、1964年に別々に究極の素粒子「クォーク」のモデルを発表し、アップ(u)、ダウン(d)、ストレンジ(s)の3つの種類を考えた。現在、クォークは、この3つの他にも、チャーム(c)、ボトム(b)、トップ(t)が加わって、合計6種類が確認されている。
ちなみに、クォークとは20世紀を代表するイギリスの小説家ジェイムズ・ジョイスの最後の長編小説『フィネガンズ・ウェイク』からとった名前だ。作品中、カモメが「クォーク」と3度だけ鳴くシーンがあるが、それと3種類のクォークをかけたのだ。(図解雑学 量子論 ナツメ社より)[クォークの種類]
記号 粒子名 質量(MeV) 電荷 スピン 寿命 d ダウンクォーク
2〜8MeV
-1/3 1/2 自然界には存在しない。2個ないし3個結合してハドロンとして存在する。
u アップクォーク
5〜15MeV
+2/3 1/2 s ストレンジクォーク
100〜300MeV
-1/3 1/2 c チャームクォーク
1000〜1600MeV
+2/3 1/2 b ボトムクォーク
4100〜4500MeV
-1/3 1/2 t トップクォーク
約18万MeV
+2/3 1/2 ※それぞれ反粒子(反物質)を持つ。