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交換関係ここまで描いてきた角運動量のイメージを補うために、 数学の助けを借りることにしよう。まずは角運動量の演算子の交換関係を調べることから始める。 大抵の教科書では真っ先にやることではあるが、 私の場合、今回の話でどうしても必要になるから仕方なく導いておくのである。 交換関係を求める事は以前に「不確定性原理」のところでもやったが、忘れているかもしれないので、一つだけ丁寧に計算例を示しておこう。
今回はわざわざ
とシンプルに表せる。
また、
という関係も得られる。
交換子の値が 0 であったなら、
同時に 2 つの演算子の固有関数となる関数が存在するということだが、
この場合は ちなみに
という関係を導く事も出来るが、
これは量子数 しかし、交換関係はこんなことを説明するためだけにあるのではない。 本当の使い道はこの後にある。
行列への変換微分演算子と行列が論理的には等価だという話は第 2 部で出てきた。 そこで、角運動量の演算子を行列で表したらどうなるだろうかと考えてみよう。なぜそんなことを考えるかというと、 あの複雑な原子の波動関数に対して極座標で微分計算をするという 面倒な手続きから解放されたいからである。 もっとすっきりと論理構造を見渡せるようになるのではないかという期待がある。
簡単な例を挙げて説明しよう。
と言っても
というベクトルをイメージすればいい。 本当はこれらをユニタリ変換したどんなベクトルの組でもいいのだが、 簡単なところから考える方がいいだろう。
この有限次元のベクトルは何を意味しているのだろうか。
波動関数というのは無限次元の複素ベクトルであるという話だった。
これはその無限に軸がある空間内から、主量子数
つまり「無限次元の存在」の断面図を見ているようなもので、
今はその断面は 3 次元であり、
このとき、演算子
こうしておけば、
という関係が満たされているわけだ。
ちなみに
という形になる。
昇降演算子では や を表す行列はどんな形で表せばいいのだろう。
ヒントは先ほどの交換関係である。
あの関係を満たすような行列を作ってやればいいのだ。
とは言うものの当てずっぽうでやるのはなかなか難しいし、
もし偶然答えが見つかったとしてもそれが唯一のものなのか、
ちゃんと正当性のあるものなのかということが気になって仕方ないだろう。
数学はこういうところで威力を発揮する。 まず、
という具合に 2 つの新しい演算子を定義してやる。 定義を見ただけではこれが何の役に立つのかさっぱり想像も付かないが、 これらはちゃんとした意味を持っており、 その意味を見出せればこれらの演算子を行列で表すことが簡単にできるのである。 そして、この定義式を逆に解いてやると、
となっているので、そこから目的の行列が簡単に作れるというわけである。 その戦略で行ってみよう。
新しく定義した演算子と
という式が成り立っている。 まずはこの 1 番目の式だけを使う。 これを交換子を使わないで書けば、
ということだが、これを使えば次のような式変形が可能である。
この結果の式の
この後で具体的な行列を作る必要があるので、面倒だが定数
と計算できる。 ノルムというのは本当はこれの平方根を取ったもののことを言うのだが、とりあえずこのままでいい。 次に左辺だが、
である。 これらの結果を合わせると、
が言える。
を採用しよう。 それで結局、
という関係が成り立っていることになる。
という関係式を得る事が出来る。
昇降演算子の行列演算子 の行列表現は
と計算すればいいことは以前に学んだ。 つまり、
という計算をすればよい。 結果を示せば、
となり、ほとんどの成分は 0 となっている。 わざわざ計算しなくても 「状態が一つ上がる」のだからこういう形になることは想像がつくだろう。 下降演算子は、
となる。
具体的には
であり、
であることが分かる。
角運動量の行列長い道のりだったが、以上の結果からようやく望んでいたものが得られる。 の場合の角運動量の演算子の行列形式は次のようになる。
重ね合わせ状態この結果から何が言えるか、という点が重要だ。
例えば
となる。
このことから、
と分解して書けるが、
これは
同じように
となっていると考えられ、実験結果もそれを支持している。 「複数の異なる状態が同時に重なって存在しているような状態」というのは 非常に奇妙に思えるかも知れないが、 別の方向から眺めれば「ある一つの値が確定した状態」になっていたりするわけだ。 人間はある確定値を得たときこそが「定まった状態」だと認識しているので、 複数の状態を別々に分けて考えてしまう。 しかしそれは人間の勝手な解釈だ。 重なった状態というのも「確定した状態」の一つであることに変わりない。 不思議なのは、測定するたびに、 測定しようとした物理量をどれかの値を確定するように、 状態の方が変化してくれるという部分だ。 一体、測定の瞬間、何が起きているというのだろう。
工事中この後で、さらに議論を一般化して、 角運動量の大きさが √l(l+1) となることの意味などを説明しようと思ったが、 計算に手こずっていて、まだ時間が掛かりそうだ。 この先の議論にはまったく影響しない話であり、 あまり待たせても悪いのでとりあえずここまでで発表することにする。
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