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時間変化を含む摂動論今回は、ポテンシャルが時間的に変化する場合についても 摂動論を使って解いてみよう。 これは単なる練習問題ではなくて、 変動する電場の中に原子を置いたときに 何が起こるかを知るためのヒントになる。変動する電場と言えば、電磁波はまさにそのような現象であるから、 これは電磁波が原子に当たった時に起きる事を表しているとも言えるだろう。 まずはポテンシャルの形を具体的に決めないままで、 論理の流れをざっと見てみることにしよう。 やり方の基本思想は今までと変わらない。 まず次のような方程式については厳密な解が得られているものとする。
いきなり「時間に依存するシュレーディンガー方程式」が登場して
身構えてしまうかも知れないが、別に大したことはない。
ちょっと観察してみよう。
この式で使われているポテンシャル
のように位相が変化する振動部分を付ければいいのだった。 これは上の方程式の解になっている。 今回はこの方程式を少し変化させたら、この解がどう変化するかを知ろうというのである。 新しく求めたい解は、すでに求まっている解が完全系であることから、
という形で展開できるに違いない。
この係数
前に摂動論を使った時とは説明の始め方が少し違っていると気付いたかも知れない。
前はまず 時間変化を考慮に入れた方が難しくなるイメージがあるのに、 教科書のこの部分の説明がやたら少ないのは単にそういう事情である。 不親切で手抜きがされているのではないかという心配は要らない。 さあ、計算を進めよう。 今後の計算が分かりやすいように
と置くと、一番最初の方程式は、
とシンプルに書けるわけだが、これに
摂動論はわずかな変化に対してだけ使えるのだから この (2) 式に (1) 式を代入。
左辺では時間微分を実行。
右辺は展開。
左辺第 2 項を整理。
右辺第 1 項の
これを見ると左辺第 2 項と右辺第 1 項は全く同じであり、相殺して随分すっきりする。
ここに左から
この左辺にある指数関数を右側にまとめてしまおう。
右辺の積分記号は大げさなのでブラケット記法を使わせてもらうことにしよう。
これでかなり分かりやすくなった。
ここでようやく
のように展開できるものだと考える。
(先にこれをやっていたら上の計算は面倒なことになっただろう。)
これは
(4) 式を (3) 式に代入して、
という多数のシンプルな関係式が出来上がる。
時間に依存しない摂動論の時とは雰囲気が随分違って見えるが、
やっていることの意味は前と何ら変わらないことが分かるだろう。
最初の式が解ければその結果を代入して次の式が解ける、といった具合に解が求まる。
係数をどう解釈できるか次に気になるのは、上で導いた関係を使って具体的に各係数 がどう定まるかという点である。
まず (5) 式の一番最初の式は が時間的に変化しないということであり、
これは摂動を加えるずっと前から、そして加えた後までもずっと変化しないでいる成分を表しているということである。
例えば摂動を加える前に電子が
という状態からスタートしよう。 これを代入すれば (5) 式の 2 番目の関係式は
となるから、これを時間で積分することによって、
と計算する事ができる。
積分範囲が
「おおよそ」と書いたのは、これはまだ 1 次の項までしか計算していないからで、
もっと詳しく計算したければ、 さあ、この結果はとても面白い。 外部からエネルギーを揺さぶってやると、 次に観測した時には電子は初めとは異なるエネルギーを持った状態に遷移している可能性があると言うのだ。 どういう揺さぶり方をした時に どのような遷移が起こり易くなると言えるのか、大変興味がある。
何が起きているのかエネルギー から への 秒後の遷移確率を 1 次の項まで計算したものは
と表せるのだった。
まず、
残された
この式の積分はフーリエ変換の式に非常によく似ているのに気付いているだろうか。
ここでは
これで積分計算はフーリエ変換の式そのものになった。 フーリエ変換というのは、複雑な形をした波があるとき、 その中にどんな周波数成分がどれほど含まれるかを求める時に使われる。 波というのはどんな形をしていても、 基本的な一定振幅、一定周波数の波の組み合わせに分解して表現できるのである。
上の計算が意味するものは、
の関係を満たす変動があった時だけ遷移が起こるというのである。 そしてその波の振幅が大きいほど遷移確率は上がることになる。 これを聞いて光の粒子性の話を思い出すかも知れないが、少し落ち着こう。 上の考察は大まかには正しいものの、 少しばかり論理の飛躍があるので、このまま信じて欲しくない部分がある。
それは、摂動を加えているのは
これをフーリエ変換したらどうなるだろうか。
これは、 計算は省略して結果だけシッフの教科書からもらってこよう。
間違っているかも知れないが、
私なりにアレンジしたものなのでシッフの責任ではない。
ここで使われている
であって、二つの準位のエネルギー差に相当する角振動数である。 この結果を図で表すと次のようになる。
横軸を つまりごく短い時間間隔での測定ではエネルギーの揺らぎが大きくなり、 多少の誤差が許容されるのである。 不確定性原理がこんなところに顔を出している!
それ以外にも
光電効果は粒子説?光電効果のことを思い出してもらいたい。 すでに上の話から、 これが光電効果に非常に関係がありそうだと気付いた人もいるだろう。 光電効果とは光を当てると金属表面から電子が飛び出す現象だ。ある周波数以下の光は、いくら強度を増しても、 金属表面の電子を叩き出すことは出来ない。 光の強度を増せば、それはエネルギーを増加させたことを 意味するはずなのだが、なぜか一向に効果はない。 しかし周波数がある程度以上あったならば、 その強度に比例した数の電子が叩き出されることになる。 これは全く理解しがたい現象であったが、 「光は周波数に比例したエネルギーを持つ粒であって、 光の強度とはその粒の数の多さを意味する」と理解する事で 説明が出来たのだった。 しかし今回の結果を適用すれば、 その現象が説明できてしまいそうなのである。 光を波だと考えて計算したにも関わらず、だ。 それでもまだ説明し切れていないところもある。 今回の説明では電子を遷移させることのできる電磁波の周波数は ある特定の範囲だけに制限されているとの結論を得た。 しかし光電効果ではある周波数以上の電磁波ならば周波数に関係なく 電子を叩き出せるという結果が出ている。 この差はなんだろうか。 次のように考えれば説明が付くだろう。 ここまでは電子のエネルギー準位が離散的であると仮定して話を進めてきた。 しかしある程度以上エネルギーが高いところでは電子は原子核の束縛から解き放たれて、 連続的なエネルギー準位が許されるようになっている。 つまり、ある程度以上の周波数の電磁波であれば、 この連続的な準位のどこへでも遷移を起こさせることができるのであり、 特定の周波数だけに限定されなくなるのである。 電子を叩き出すとは、原子核の束縛から放つということであり、 まさにこのような遷移が起きているのである。 周波数の条件さえ満たせば、 後はその周波数成分の振幅に比例して遷移確率が上がる。 つまりそれだけ多くの電子が叩き出されるということだ。 どうだろう。 光電効果が説明できてしまった。 この現象において光をエネルギーの粒だなどと考える必然性はどこにもなさそうだ。
粒子は在るのか初心者向けの解説では「光は粒子でもあり波でもある」と説明されるのが普通なわけだが、 ここまでの話を読む限り「世の中みんな波だらけ」というのが本当の状況のようであって、 粒子説に有利な話なんてほとんど出て来やしなかった。 粒子説の強い根拠としてよく引き合いに出される光電効果さえ、今や波動説の味方になってしまった。光を粒子だと考えないとどうしても説明できないような現象は 初心者向けの範囲ではそれほど多くないように思う。 波と粒子の二重性なんて奇妙な考え方を ことさら強調する必要はないのではないだろうか。 しかし私は光の粒子性を否定しようと言うのではない。 例えばガンマ線の正体は大き過ぎるエネルギーを持った電磁波であるが、 これは一つの粒子のように突っ込んできて、時に電子を跳ね飛ばす。 ここまでなら、まだ波として説明できそうだ。 しかし十分なエネルギーを持っている場合、 これは素粒子の生成を伴う反応を引き起こして姿を消す。 やはりこれは一つのかたまりであるようだ。 また、電子は量子力学では波のように扱われるが、 明らかに一定の質量と電荷を持った粒である。 粒子性と波動性の違いは確かに現れており、無視できない。 その電子が低いエネルギー状態へと落ちる時、 それにともなって、光のひとかたまりをある一つの方向へ放出する。 他の電子はそのひとかたまりを受け取って、高いエネルギー準位へと跳ね上がる。 しかし今はまだそこまで説明できる段階にはない。 電子が低い準位に遷移した時に 余ったエネルギーがなぜ光として放出されるのだろう。 それはどういう仕組みによるのだろう。 電子にエネルギーを与えた光はどこへ消えてしまうのだろう。 いや待てよ、本当に消えたりするのだろうか。 しかし消えてくれないとエネルギー保存に合わないではないか。 ここまでの話の範囲ではそんなことがまだ何一つ説明できていないのである。 そこまで言うためには、量子場の理論が必要になる。
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