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共変微分の意味前回は共変微分というものを導入したが、 「その動機は、 異なる座標系であっても定ベクトルであるかどうかを 判定するためである」という態度を取った。 しかしこれは自然な説明をする上での工夫であって、本当の意味はもっと面白い。 その図形的意味を探ってみよう。 説明の都合上、「共変ベクトルの共変微分」の方から出発する。まず普通の偏微分の定義というのは、
というものである。
では共変微分についてはどうか。 その定義の中には普通の微分を含んでいることであるし、 同じような解釈に納まることを期待したい。 よって次のような式を用意する。
このような式を立てたのは、
私がすでに共変微分の意味を知っているからであって、
それを伝えたいという意図が満ち満ちている。
ここで この謎のベクトルの意味を知るために、上の二つの式を組み合わせてみよう。 まず (2) 式の左辺を共変微分の定義に書き戻す。
この左辺の第 1 項に (1) 式を代入する。
両辺に
これを整理すれば、次の簡単な式が得られる。
見たまま説明すれば、どうやら
どうせこの後すぐに分かる事だから今ここで答を言ってしまおう。
ところで、直線座標を使っていればこのようなずれは起きない。 直線座標の場合、平行移動した先でも座標目盛りの方向や間隔は変化しないからである。 直線座標での接続係数を計算してやると 0 になるのはそういう意味だったわけだ。
とにかくこれで共変微分の意味ははっきりした。
位置が こんな風にして、 ただ平行移動しただけなのにベクトルの値が変化してしまうなんて話が出てくると いかにも空間が曲がっているような印象を受けるかも知れないが、 曲がっているのは座標の目盛りだけである。 これは座標変換の一般論であり、 我々はまだユークリッド幾何学の範囲を出ていない。 これは準備の段階に過ぎない。
基底ベクトル共変微分の意味は話したが、 に を足すことが
なぜベクトルの平行移動を意味することになるのかという点がまだ説明されていない。
この説明のために「基底ベクトル」について軽く確認しておこう。
基底ベクトルというのは線形代数にも出てきたが、 座標軸の方向を向いた単位ベクトルだというイメージのものである。 線形代数で扱うのは、行列を使った変換、すなわち 1 次変換に限られていた。 しかし今はもっと広い座標変換を扱おうとしているのである。
例えば 3 次元の極座標
その向きを数式で表すには、偏微分を使えばいい。
で表せばいいだろう。
つまり、
と書けばいい。
この計算結果をそのまま基底ベクトルの成分として採用すれば、 ベクトルの大きさは一定ではないことになる。 場所によって方向だけでなく大きさまで変わってしまうのだ。 こうなると「基底ベクトルが単位ベクトルであるべし」という考えは 非常に邪魔になってくる。 あまり役に立つ制限でもないので思い切って捨ててしまおう。
この話を極座標以外にも適用できるように一般化しておこう。
デカルト座標系
と書けるということだ。 これを使ってさらに面白い話が出来る。
あるベクトル
と計算すれば良いのだった。 これは、
と書くことも出来るではないか!
ということである。 前に第 2 部で、共変ベクトルは基底ベクトルとの内積で 簡単に求める事が出来るという話をしたことがあるだろう。 まさにこれだ。 あの時はあまり使い道がないようだと書いたが、そうでもないようだ。 直線座標系以外への変換をする場合でもちゃんと成り立っているのである。 基底ベクトルが大きくなれば、 共変ベクトルの各成分の値も大きくなる。 「共変ベクトル」の名前の由来はこのことなのだった。 一方、反変ベクトルの各成分が知りたければ、 こうして求められた共変ベクトルを、 計量を使って変換してやる必要があるので少々手間が掛かる作業だ。 しかしそれによって
という表現が可能になるので手間を掛ける価値があろう。
なぜ平行移動かお待たせした。 では上で説明した基底ベクトルの考えを使って、 の意味を説明しよう。
基底ベクトル
と書けるだろう。 この右辺を変形して行くと面白いことになる。
どこかで見たような形になってきた。
ややこしい事をしている印象を受けるかも知れないが、
クリストッフェル記号と同じ形を作りたいという目的を持っていれば
何とかたどり着ける式変形である。
ここに出てくる基底の成分の右上の添え字は全て同じ記号
である。
この式とベクトル
その結果を見る前に、念のためちょっと注意を挟んでおこう。
このベクトル よって結果は次のようになる。
何と、この式の右辺は、先ほどの
ということが言えるわけだ。
つまり、 これでようやく共変微分の意味を全てはっきりと説明し終えた! ・・・ことになるだろうか? いや、まだだ。 「反変ベクトルの共変微分」についてはどう考えたらいいのだろう。 ここまでは基底ベクトルと共変ベクトルの相性の良さを利用することで、 何とか分かり易く説明できたのだった。 しかし反変ベクトルについては同じようには行かない。 もう少し議論を続けることにしよう。
ベクトルの長さ第 1 部で、反変ベクトルと共変ベクトルの縮約を計算したものはスカラーになるという話をした。 スカラーというのは座標変換によって値を変えない量であった。 あるベクトルについて、反変ベクトルで表したもの と、
共変ベクトルで表したもの を用意して、
それらの縮約を取れば、値が変化しない量が出来上がる。
この量の意味は何だろうか。
デカルト座標では共変と反変の区別がなかったので、 これは自分自身との内積を計算したことに相当する。 そしてその平方根を取ったものはベクトルの長さの定義であった。 この縮約の計算ルールに従えば、 デカルト座標での内積と同じ値が他の座標系でも得られる事になる。 よってこの不変量をベクトルの長さの自乗であると考えることにしよう。
実は反変と共変の両方を用意する必要はなくて、 計量を使えば一方を他方に変換できるのだったから、
と表現する事も可能である。 ところで、この関係式はベクトルを平行移動した場合にもちゃんと成り立っているだろうか。 基底ベクトルが変化していることによっておかしな値に変換されはしないかと心配しているのである。 共変ベクトルを平行移動する方法についてはすでに上で導いたので、それを使って確かめてみよう。
無限小の平行移動を考えているので、
これを展開していこう。
変形が近似式ばかりで進むのは、
お上品な式変形だけではこれ以上は無理だ。
強攻策に出よう。
添え字に
これで 2 項目と 3 項目は実は同じ内容だとはっきりする。
さらに上の式の第 2 項の中で使っている
意外なまとまり方をした。 実はこの第 2 項は 0 になるのである。 以降はカッコの中だけ取り出してやってみよう。
ここで第 1 項と第 3 項が打ち消しあう。
第 1 項の
さあ、残るは 2 つの項だけだが、 第 2 項で微分されている計量テンソルは添え字が上に付いていて、 このままでは第 1 項と比較できない。 そこで、かなり裏技的な変形ではあるのだが、第 2 項目の計量の添え字を下側に合わせてやる。
かなり丁寧に解説したので長くなってしまったが、ようやく結論が出た。 つまりこういうことだ。
これにより、ベクトルを無限小だけ平行移動したものに対しても縮約のルールを適用することで、 移動前と変わることのないベクトルの長さが正しく得られることが分かる。 その場その場での接続係数を使いながらじわじわと平行移動を続ける限りは、 ベクトルの長さは変化しないままで済むということだ。 今は自分自身との内積を計算して、平行移動によって長さが不変である事を確認したが、 異なる二つのベクトルの内積についても同様の計算で値が変化しないことを確かめる事が出来る。 つまり、平行移動によって二つのベクトルの成す角も変化を受けないということが言える。
反変ベクトルの場合ところで平行移動した点でのベクトルの長さは反変ベクトルを使って次の式の左辺のように 表しても、先ほど求めたものと同じ値になるはずである。
これは成り立っていてもらわないと困る。 これが言えるということは、
のような反変と共変の間の変換が普通どおりに出来ると言っているのと同じことであるからだ。 ところで、 この式の右辺は上でやったのと同じように近似式で展開できるのではないだろうか。
ここからは先ほどやったのと同じようなテクニックを駆使して計算を続ける。 詳しい解説は省略するが、意外な結論へと向かう道筋を楽しんでもらいたい。
ベクトル
さりげなく導かれたが、この式は次回で使う重要な式であるので 少し記憶にとどめておいて欲しい。 この式の並びを変えて、
と表してやると、この右辺は前回の最後で頑張って式変形をして導いた 「反変ベクトルの共変微分」の定義と同じものになっているではないか。 今回のような考え方からたどっても同じものを導くことができるということだ。 これで反変であろうと共変であろうと、共変微分には同じ平行移動の考えが 適用できることが分かるだろう。
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